(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029808
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】低温液化ガス用ノズル
(51)【国際特許分類】
B05B 1/14 20060101AFI20240229BHJP
B05C 11/10 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
B05B1/14 Z
B05C11/10
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132198
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】土生 慎二
(72)【発明者】
【氏名】竹口 東士夫
【テーマコード(参考)】
4F033
4F042
【Fターム(参考)】
4F033AA05
4F033AA06
4F033AA12
4F033BA01
4F033BA03
4F033DA05
4F033EA01
4F033LA13
4F033NA01
4F042BA06
4F042BA09
4F042BA11
4F042BA19
4F042CA01
4F042CA08
4F042CA09
4F042CB03
4F042CB08
4F042CB10
4F042CB19
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】内周側の噴霧量が多くなることなく、被冷却物への到達距離も考慮して均等な冷却が可能な低温液化ガス用ノズルを提供する。
【解決手段】本発明に係る低温液化ガス用ノズル1は、低温液化ガスを噴霧するものであって、前記低温液化ガスが通るノズル内室3と、ノズル内室3の底面に形成された複数の噴射孔5とを備え、噴射孔5は、前記底面上に配置された入口孔5aと、入口孔5aに連通してノズル内室3の外面に設けられた出口孔5bと、入口孔5aと出口孔5bを結ぶ流路5cを備えてなり、入口孔5aは、中心が共通する一つ又は複数の同心円上に配置され、同一の同心円上に配置された入口孔5aの高さが同じであり、かつ同心円が複数ある場合には、内周側の同心円上に配置された入口孔5aの高さが外周側の同心円上に配置された入口孔5aの高さ以上であることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガスを噴霧する低温液化ガス用ノズルであって、
前記低温液化ガスが通るノズル内室と、該ノズル内室の底面に形成された複数の噴射孔とを備え、
前記噴射孔は、前記底面上に配置された入口孔と、該入口孔に連通して前記ノズル内室の外面に設けられた出口孔と、前記入口孔と前記出口孔を結ぶ流路を備えてなり、
前記入口孔は、中心が共通する一つ又は複数の同心円上に配置され、同一の同心円上に配置された前記入口孔の高さが同じであり、かつ同心円が複数ある場合には、内周側の同心円上に配置された入口孔の高さが外周側の同心円上に配置された入口孔の高さ以上であることを特徴とする低温液化ガス用ノズル。
【請求項2】
同心円が複数ある場合において、外周側の同心円上の入口孔の孔径が内周側の同心円上の入口孔の孔径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の低温液化ガス用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素等の低温液化ガスを噴霧するための低温液化ガス用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
主に食品加工用途として液化窒素(以下、「LN」と表記する場合あり)を対象物に直接噴霧し、対象物表面を選択的に瞬間凍結または冷却することが行われている。
対象物の大きさや形状は様々であるため、LNの持つ冷熱(潜熱)を有効活用するため、LNをミスト状態で噴霧するためのノズルは、対象物に応じて噴霧量や噴霧範囲を適切に制御できることが求められる。
【0003】
液体噴霧ノズルとしては、例えば特許文献1において、消防設備(スプリンクラー)、農業(薬品散布)、化学技術装置(燃料散布)、その他の霧状微細分散流体の生成が必要な技術分野に使用可能なものとして開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されたノズルは、流体を供給するための円筒部と圧力を高めるための円錐部とで構成されている。そして、円錐部の先端側には円筒形の絞り孔と円錐形の孔が設けられ、円錐形の孔の表面はネジ切りが施されている。また、円錐部の側面には少なくとも2列の円筒形の絞り孔が設けられ、絞り孔の軸線は側面に対して直角方向であり、各列に少なくとも3つの孔を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水のように室温で液体状態を維持できる流体の場合、流体が高低差のある全ての孔に液体状態で流れるため、特許文献1に記載されているように円錐部を有するノズルを用いたとしても、円錐に近い状態で均一に噴霧される。
【0007】
しかし、液化窒素のように沸点が低く、ノズル内で気液二相流となる流体の場合、特許文献1に記載されているようなノズルを用いると、密度の大きな液体は低い位置にある孔へ、密度の小さな気体は高い位置にある孔へ積極的に流れてゆく。
そのため、特許文献1のノズルを用いた場合には、円錐部における内周側の孔からは液体が、外周側の孔からは気体が主に噴霧され、その結果、噴霧量は内周側が多く、外周側が少ない、といった偏りのある噴霧状態になる。
【0008】
対象物表面を瞬間凍結する場合、内周側よりも外周側の方が冷却対象物までの距離が長くなることが多い。そのため、被冷却物を均等に冷却するためには、少なくとも外周側の孔からのLNの噴霧量が内周側よりも少なくならないようにすることが求められる。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、内周側の噴霧量が多くなることなく、被冷却物への到達距離も考慮して均等な冷却が可能な低温液化ガス用ノズルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る低温液化ガス用ノズルは、低温液化ガスを噴霧するものであって、
前記低温液化ガスが通るノズル内室と、該ノズル内室の底面に形成された複数の噴射孔とを備え、
前記噴射孔は、前記底面上に配置された入口孔と、該入口孔に連通して前記ノズル内室の外面に設けられた出口孔と、前記入口孔と前記出口孔を結ぶ流路を備えてなり、
前記入口孔は、中心が共通する一つ又は複数の同心円上に配置され、同一の同心円上に配置された前記入口孔の高さが同じであり、かつ同心円が複数ある場合には、内周側の同心円上に配置された入口孔の高さが外周側の同心円上に配置された入口孔の高さ以上であることを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、同心円が複数ある場合において、外周側の同心円上の入口孔の孔径が内周側の同心円上の入口孔の孔径よりも大きいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、同心円上の噴射孔の入口孔の高さが同じであることから、均等な噴射が可能である。また、複数の同心円がある場合には、内周側の同心円に配置された入口孔の高さが外周側の同心円上に配置された入口孔の高さ以上であるため、外周側の同心円上にある噴射孔からの噴射量を確保でき、外周側からの噴射量を確保して適切な噴射を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス用ノズルの説明図である((a)縦断面図、(b)底面図)。
【
図2】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス用ノズルの他の態様の説明図である((a)縦断面図、(b)底面図)。
【
図3】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス用ノズルの他の態様の説明図である((a)縦断面図、(b)底面図)。
【
図4】本発明の実施の形態に係る低温液化ガス用ノズルの他の態様の底面図である。
【
図5】実施例の噴霧実験で用いた噴霧装置の説明図である。
【
図6】実施例で用いた従来例のノズルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係る低温液化ガス用ノズル1(以下、単に「ノズル」という)は、
図1に示すように、低温液化ガスが通るノズル内室3と、ノズル内室3の底面に形成された複数の噴射孔5とを備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0015】
<ノズル内室>
ノズル内室3は、十分な流路面積を確保できれば、形状(円筒、角筒、くびれの有無など)は特に限定されないが、量産性や経済性を鑑みると円筒状が好ましい。
【0016】
<噴射孔>
噴射孔5は、底面上に配置された入口孔5aと、入口孔5aに連通してノズル内室3の外面に設けられた出口孔5bと、入口孔5aと出口孔5bを結ぶ流路5cによって構成されている。
また、入口孔5aは、中心が共通する一つ又は複数の同心円上に配置され、同一の同心円上に配置された入口孔5aの高さが同じに設定されている。
なお、入口孔5aが同心円上に配置される結果として、
図1(b)に示すように、出口孔5bも同心円上に配置される。
【0017】
同心円の数は、一つに限定されず、複数でもよい。同心円の数が2つの場合を
図2に示す。
図2に示す例では、ノズル内室3の底面が平面になっており、底面に形成した入口孔5aの高さが内周側と外周側で同一高さになっている。
【0018】
もっとも、
図3(a)に示すように、ノズル内室3の底面を中央側の高さが高くなった凸形状にし、内周側の入口孔5aの高さよりも外周側の入口孔5aの高さが低くなるようにしてもよい。
外周側の入口孔5aの高さを低くすることで、密度の大きい液を外周側の入口孔5aに誘導して多くの液を外周側から噴霧することができる。
【0019】
図3(a)に示されるように、外周側の方が、噴射角度θが大きくなり、冷却対象物までの距離が長くなる。そのため、冷却対象物に到達するまでに気化しやすいことから、より多くの液を噴射できるようにするのが好ましい。このような観点からも、外周側の噴射孔5からの噴霧量を多くするのが好ましい。
【0020】
同心円が複数ある場合において、外周側の同心円上の噴射孔5からより多くの液を噴霧するための他の態様として、外周側の同心円上の噴射孔5の孔径を内周側の同心円上の噴射孔5の孔径よりも大きくしてもよい。
【0021】
外周側の噴射孔5の孔径を大きくすると、内周側の噴射孔5より流路5cにおける圧力損失が低下し、液化窒素が流れ易くなる。そして、液化窒素が流れ易くなる(流量が増える)と侵入熱による気化の影響が小さくなるため、十分な噴霧量を確保できるようになる。
例えば、外周側孔と内周側の噴射孔5の孔径の比が1.25~2.0(外周側の噴射孔径÷内周側の噴射孔径)であることが望ましい。
もっとも、外周側の噴射孔5の孔径が大きすぎると内周側の噴射孔5からの噴霧量が不十分となり、噴霧状態(被冷却対象物の凍結状態)が不均一になるので、好ましくない。
【0022】
なお、同心円の数を3つにした態様を、
図4に示す。
図4に示すように、同心円に配置される噴射孔5の数は、必ずしも外周側が多くなるとは限られず、同心円上に何個の噴射孔5を配置するかは被冷却物との関係で適宜設定すればよい。
【0023】
噴射孔5の全数は、適宜設定すればよいが、11~44個が好ましい。数が少なすぎると十分な冷却効果がえられず、多すぎると過冷却による不具合(割れなど)やコストアップの要因となるおそれがある。
【0024】
噴射孔5の噴射角度θ(
図1(a)参照)は、0~45°が好ましい。好ましい噴射角度の上限を45°としたのは、噴射角度が大きくなるほど、低温液化ガスが出口孔5bから被冷却物に到達するまでの時間が長くなり、被冷却物に接触する前に気化し、十分な冷却効果が得られないおそれがあるためである。
【0025】
噴射孔5の内径は、φ0.5~1.0mmが好ましい。実運用に鑑みると、低温液化ガスの使用量低減や被冷却物の凍結ムラ抑制(ムラのない噴霧)が要求されるため、内径を小さくすることで孔1個当たりの噴霧量を少なくし、他方、孔数を増やすことで十分な噴霧量を確保しつつ、孔同士の間隔を狭めることでムラのない噴霧が可能となる。
【0026】
流路長さは、3.5mm以上が好ましい。流路長さが短すぎると、整流するための十分な助走区間を確保できず、出口孔5bから吐出される低温液化ガスの直進性が損なわれるおそれがある。
【0027】
ノズル1の材質は、低温脆性を起こさないオーステナイト系ステンレス(SUS304,316など)、アルミニウム、アルミニウム合金、真鍮といった材質を用いることができる。
【0028】
なお、低温液化ガス用ノズル1に供給される低温液化ガスの供給圧力は、0.1~0.3MPaGが好ましい。供給圧力が小さいほど、ノズル1からの吐出速度が遅くなり、飛距離が短くなることで噴霧範囲が狭くなるおそれがある。一方で、供給圧力が高いほど、吐出速度が速くなり、噴霧範囲は広くなるが、被冷却物によっては不具合(損傷、変形など)が発生するおそれがある。
【実施例0029】
本発明のノズル1の効果を確認するための噴霧実験を行ったので、以下、説明する。
実験に用いた噴霧装置7を
図5に示す。
噴霧装置7は、液化窒素を気液分離して貯留する保冷された気液分離器9と、先端にノズル1が取り付けられて、気液分離器9の底部から液化窒素をノズル1に供給する吐出管11と、液化窒素を気液分離器9に供給する供給管13と、気液分離器9から窒素ガスを排出するガス排出管15とを備えている。
供給管13には液面制御用電磁弁17が設けられ、液面制御用電磁弁17は気液分離器9内の温度を検出する温度センサ19の検出値に基づいて温度調節計21によって制御される。
また、ガス排出管15には圧力制御用電磁弁23が設けられ、圧力制御用電磁弁23は気液分離器9内の圧力を検出する圧力センサ25の検出値に基づいて圧力調節計27によって制御される。
【0030】
上記のような噴霧装置7においては、気液分離器9内の液面と圧力が制御され、液化窒素をノズル1に安定的に供給することができる。本実施例では噴霧圧力を0.2MPaGとした。
【0031】
使用したノズルはノズル内室3の構造が異なるAタイプ、Bタイプ、Cタイプの3タイプのノズルを用意した。
Aタイプ(従来例)は、特許文献1に開示されたものに類似するノズル29であり、
図6に示すように、ノズル内室3の底面が凹面のもので、内周側の入口孔5aの高さが外周側よりも低くなったものである。
Bタイプ(発明例)は、
図2に示すように、ノズル内室3の底面が平面のもので、内周側と外周側の入口孔5aの高さが同じものである。
Cタイプ(発明例)は、
図3に示すように、ノズル内室3の底面が凸面のもので、内周側の入口高さが外周側よりも高くなったものである。
【0032】
いずれのタイプのものも、孔の段数は3段であり、各段の噴射角、流路長さ、孔数、孔内径は、下記の表1に示す通りである。
【0033】
【0034】
実験内容は、A・B・Cタイプのノズルを用いて液化窒素を噴霧し、外周側の噴霧量が確保できているかどうかを目視確認した。
結果は、以下の通りであった。
Aタイプでは、内周側の孔から積極的に噴霧され、外周側の噴霧量を確保できなかった。
Bタイプでは、全ての孔から比較的均一に噴霧され、外周側の噴霧量も確保できた。
Cタイプでは、外周側にある孔から積極的に噴霧され、外周側の噴霧量を確保できた。
以上のように、従来例に相当するAタイプでは、外周側の噴霧量が確保できなかったが、発明例に相当するB・Cタイプでは、外周側の噴霧量が確保できた。
【0035】
表1に示されるように、内周側よりも外周側の孔の方が噴射角度が大きくなり、被冷却物までの到達距離が長くなる傾向があるため、被冷却物を均等に冷却するという観点からは内周側よりも外周側の孔から積極的に液化窒素を噴霧するのが好ましい。そのため、Cタイプがより好ましいと言える。