(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029922
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】生分解性樹脂用可塑剤組成物、生分解性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
C08K 5/103 20060101AFI20240229BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20240229BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C08K5/103
C08L101/16
C08K5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132391
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 知代
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AB021
4J002CF031
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF181
4J002EH097
4J002EH126
4J002FD026
4J002FD027
4J002GC00
4J200AA04
4J200AA05
4J200BA05
4J200BA10
4J200BA11
4J200BA12
4J200BA14
4J200DA24
4J200EA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生分解性樹脂に対する十分な相溶性を維持しつつ、不揮発性および耐加水分解性を改善した生分解性樹脂用可塑剤組成物を提供する。
【解決手段】特定の一般式で表される安息香酸ジエステル化合物と、特定の一般式で表されるクエン酸エステル化合物とを含有する生分解性樹脂用可塑剤組成物。前記安息香酸ジエステル化合物は、ジオールと安息香酸誘導体を反応させることで得られる化合物であり、前記クエン酸エステル化合物は、アセチルクエン酸トリエチルおよび/又はクエン酸トリエチルであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される安息香酸ジエステル化合物と、下記一般式(2)で表されるクエン酸エステル化合物とを含有する生分解性樹脂用可塑剤組成物。
【化1】
(前記一般式(1)および(2)中において、
R
11およびR
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
Lは、炭素原子数1~12のアルキレン基又は炭素原子数2~12のエーテル結合を有するアルキレン基であり、
n1およびn2は、それぞれ独立に、0~5の範囲の整数であり、
R
21、R
22およびR
23は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
R
24は、水素原子又はアセチル基である。)
【請求項2】
前記安息香酸ジエステル化合物および前記クエン酸エステル化合物の質量比が、安息香酸ジエステル化合物:クエン酸エステル化合物=80:20~40:60を満たす請求項1に記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物。
【請求項3】
前記Lが、エチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、ネオペンチルグリコール残基、ジエチレングリコール残基又はジプロピレングリコール残基である請求項1又は2に記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物。
【請求項4】
前記クエン酸エステル化合物が、アセチルクエン酸トリエチルおよび/又はクエン酸トリエチルである請求項1又は2に記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物と生分解性樹脂とを含有する生分解性樹脂組成物であって、前記生分解性樹脂100質量部に対して、前記生分解性樹脂用可塑剤組成物を1~100質量部の範囲で含有する生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
前記生分解性樹脂が、セルロースエステル樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシバリレート、ポリブチレンサクシネートアジペートおよびポリエチレンテレフタレートサクシネートからなる群から選択される1種以上である請求項5に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の生分解性樹脂組成物の成形品。
【請求項8】
眼鏡フレームである請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂用可塑剤組成物、生分解性樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂(PVC)等の汎用プラスチックは幅広い用途で用いられており、このような汎用プラスチックは一般に可塑剤が添加されて柔軟にしてから用いられる。しかしながら、汎用プラスチックは分解されにくいため、近年の「持続可能性」重視の観点から、汎用プラスチックから生分解性樹脂に切り替える動きがでている。
【0003】
生分解性樹脂は汎用プラスチックに比べて一般に高極性であるため、従来の汎用プラスチック用可塑剤とは異なる、生分解性樹脂に適した可塑剤が求められている。生分解性樹脂のなかでもセルロース樹脂はバイオ由来のサステナブル素材としてその活用が注目されており、当該セルロース樹脂の可塑剤としては、アセチルクエン酸トリエチルおよびクエン酸トリエチルがよく知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生分解性樹脂の可塑剤として知られるアセチルクエン酸トリエチルおよびクエン酸トリエチルは、生分解性樹脂に対する相溶性を有するものの、揮発性が高いため、得られる成形品は寸法安定性に乏しく、また吸湿により加水分解しやすい特性があるため、得られる成形品の耐久性が低下してしまう問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、生分解性樹脂に対する十分な相溶性を維持しつつ、不揮発性および耐加水分解性を改善した生分解性樹脂用可塑剤組成物を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、寸法安定性および耐久性に優れる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、クエン酸エステル化合物に安息香酸ジエステル化合物をさらに用いることで可塑剤の揮発に伴う寸法変化を抑制できること、および、可塑剤の耐加水分解性を改善して得られる成形品の耐久性が損なわれないことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の生分解性樹脂用可塑剤組成物等に関するものである。
1.下記一般式(1)で表される安息香酸ジエステル化合物と、下記一般式(2)で表されるクエン酸エステル化合物とを含有する生分解性樹脂用可塑剤組成物。
【0009】
【化1】
(前記一般式(1)および(2)中において、
R
11およびR
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
Lは、炭素原子数1~12のアルキレン基又は炭素原子数2~12のエーテル結合を有するアルキレン基であり、
n1およびn2は、それぞれ独立に、0~5の範囲の整数であり、
R
21、R
22およびR
23は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
R
24は、水素原子又はアセチル基である。)
2.前記安息香酸ジエステル化合物および前記クエン酸エステル化合物の質量比が、安息香酸ジエステル化合物:クエン酸エステル化合物=80:20~40:60を満たす1に記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物。
3.前記Lが、エチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、ネオペンチルグリコール残基、ジエチレングリコール残基又はジプロピレングリコール残基である1又は2に記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物。
4.前記クエン酸エステル化合物が、アセチルクエン酸トリエチルおよび/又はクエン酸トリエチルである1~3のいずれかに記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物。
5.1~4のいずれかに記載の生分解性樹脂用可塑剤組成物と生分解性樹脂とを含有する生分解性樹脂組成物であって、前記生分解性樹脂100質量部に対して、前記生分解性樹脂用可塑剤組成物を1~100質量部の範囲で含有する生分解性樹脂組成物。
6.前記生分解性樹脂が、セルロースエステル樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシバリレート、ポリブチレンサクシネートアジペートおよびポリエチレンテレフタレートサクシネートからなる群から選択される1種以上である5に記載の生分解性樹脂組成物。
7.5又は6に記載の生分解性樹脂組成物の成形品。
8.眼鏡フレームである7に記載の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により不揮発性および耐加水分解性を改善した生分解性樹脂用可塑剤組成物が提供できる。
また、本発明により寸法安定性および耐久性に優れる成形品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
また、以下に記載するアルコールおよびカルボン酸は、いずれも石油由来でもよく、バイオマス由来でもよい。
【0012】
[生分解性樹脂用可塑剤組成物]
本発明の生分解性樹脂用可塑剤組成物(以下、単に「本発明の可塑剤組成物」という場合がある)は、下記一般式(1)で表される安息香酸ジエステル化合物と、下記一般式(2)で表されるクエン酸エステル化合物とを含有する。
以下、本発明の可塑剤組成物の各成分について説明する。
【0013】
【化2】
(前記一般式(1)および(2)中において、
R
11およびR
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
Lは、炭素原子数1~12のアルキレン基又は炭素原子数2~12のエーテル結合を有するアルキレン基であり、
n1およびn2は、それぞれ独立に、0~5の範囲の整数であり、
R
21、R
22およびR
23は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
R
24は、水素原子又はアセチル基である。)
【0014】
(安息香酸ジエステル化合物)
前記一般式(1)で表される安息香酸ジエステル化合物は、ジオールと安息香酸誘導体を反応させることで得られる化合物である。
安息香酸ジエステルとクエン酸エステルを併用することで、揮発しやすくかつ吸湿しやすいクエン酸エステルの欠点を補完し、生分解性樹脂に対する相溶性を損なうことなく、不揮発性および耐加水分解性の両立が可能となる。
【0015】
Lの炭素原子数1~12のアルキレン基の具体例としては、エチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)残基、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロ-ルペンタン)残基、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)残基、3-メチル-1,5-ペンタンジオール残基、1,6-ヘキサンジオール残基、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール残基、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール残基、2-メチル-1,8-オクタンジオール残基、1,9-ノナンジオール残基、1,10-デカンジオール残基、1,12-ドデカンジオール残基等が挙げられる。
尚、本発明において「アルコール残基」および「グリコール残基」とは、アルコールおよびグリコールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
【0016】
Lの炭素原子数1~12のアルキレン基は、脂環構造を含んでもよく、当該脂環構造を含む炭素原子数1~12のアルキレン基としては、例えば1,3-シクロペンタンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジオール残基、1,3-シクロヘキサンジオール残基、1,4-シクロヘキサンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジメタノール残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基等が挙げられる。
【0017】
Lの炭素原子数1~12のアルキレン基は、好ましくは炭素原子数1~10のアルキレン基であり、より好ましくは炭素原子数1~6のアルキレン基である。
【0018】
Lの炭素原子数1~12のエーテル結合を有するアルキレン基は、前記アルキレン基の中の1つ以上の-CH2-が-O-に置換された基である。
【0019】
Lの炭素原子数1~12のエーテル結合を有するアルキレン基は、好ましくは炭素原子数1~10のエーテル結合を有するアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素原子数1~8のエーテル結合を有するアルキレン基である。
【0020】
Lの炭素原子数1~12のエーテル結合を有するアルキレン基の具体例としては、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、トリプロピレングリコール残基等が挙げられる。
【0021】
Lは、好ましくはエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、ネオペンチルグリコール残基、ジエチレングリコール残基又はジプロピレングリコール残基であり、より好ましくはエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基又は1,2-プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基である。
【0022】
本発明の可塑剤組成物中の前記一般式(1)で表される安息香酸ジエステル化合物は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(クエン酸エステル化合物)
前記一般式(2)で表されるクエン酸エステル化合物は、好ましくはアセチルクエン酸トリエチル、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルおよびクエン酸トリブチルから選択される1種以上であり、より好ましくはアセチルクエン酸トリエチルおよび/又はクエン酸トリエチルである。
【0024】
本発明の可塑剤組成物中の前記一般式(2)で表されるクエン酸エステル化合物は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の可塑剤組成物中の前記安息香酸ジエステル化合物および前記クエン酸エステル化合物の質量比は、例えば安息香酸ジエステル化合物:クエン酸エステル化合物=80:20~20:80の範囲であり、好ましくは安息香酸ジエステル化合物:クエン酸エステル化合物=80:20~40:60の範囲であり、さらに好ましくは安息香酸ジエステル化合物:クエン酸エステル化合物=75:25~45:55の範囲である。
【0026】
本発明の可塑剤組成物は前記安息香酸ジエステル化合物および前記クエン酸エステル化合物を含有すればよく、本発明の効果を損なわない範囲で他の可塑剤成分を含んでもよい。
本発明の可塑剤組成物は、前記安息香酸ジエステル化合物および前記クエン酸エステル化合物の合計量が本発明の可塑剤組成物の90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、98質量%以上100質量%以下の順に好ましい。本発明の可塑剤組成物は、より好ましくは前記安息香酸ジエステル化合物および前記クエン酸エステル化合物のみからなる。
【0027】
[生分解性樹脂組成物]
本発明の生分解性樹脂組成物は、本発明の可塑剤組成物および生分解性樹脂を含有する。
本発明の生分解性樹脂組成物が含有する生分解性樹脂としては、セルロースエステル樹脂、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリエチレンテレフタレート-サクシネート(PETS)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、ポリエチレンアジペート-テレフタレート(PEAT)、ポリブチレンサクシネート-テレフタレート(PBST)、ポリエチレンサクシネート-テレフタレート(PEST)、ポリブチレンサクシネート-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート-カーボネート(PEC)、ポリブチレンサクシネート-アジペート-テレフタレート(PBSAT)、ポリエチレンサクシネート-アジペート-テレフタレート(PESAT)、ポリテトラメチレンアジペート-テレフタレート(PTMAT)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシバリレート(PHBV)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン-ブチレンサクシネート(PCLBS)等が挙げられる。
使用する生分解性樹脂は目的とする用途に応じて決定すればよく、上記生分解性樹脂を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
生分解性樹脂は、好ましくはセルロースエステル樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸、ポリブチレンサクシネートアジペートおよびポリエチレンテレフタレートサクシネートからなる群から選択される1種以上であり、より好ましくはセルロースエステル樹脂である。
【0029】
セルロースエステル樹脂には、例えば、セルロースアセテート(CA)、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート等が挙げられる。これらの中でも、透明性、加工性、機械的特性(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性等)が良好なことから、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のアセチル化されたセルロースが好ましく、セルロースジアセテートが最も好ましい。
セルロースエステル樹脂は、1種単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0030】
セルロースエステル樹脂が、アセチル化されたセルロースの場合には、その重合度が100~400の範囲であることが好ましく、100~200の範囲であることがより好ましくい。また、セルロースエステル樹脂が、アセチル化されたセルロースの場合には、アセチル基の置換度の上限は3.0以下であることが好ましく、置換度2.7以下であることがより好ましく、置換度2.6以下の範囲であることがさらに好ましい。置換度の下限は1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。
前記セルロースアセテートの重合度と置換度が上記範囲であれば、優れた機械的物性を有するフィルムを得ることができる。本発明では、所謂セルロースジアセテートを使用することがより好ましい。
【0031】
尚、「平均重合度」とは、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105~120頁、1962年)に準拠して測定できる。具体的には、絶乾したセルロースエステル0.2gを精秤し、メチレンクロライド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶媒100mlに溶解し、この溶液をオストワルド粘度計にて恒温水槽温度25℃で落下秒数を測定して、平均重合度を以下の〔式1〕により算出する。
平均重合度=[η]/Km・・・〔式1〕
[η]=(lnηrel)/C
ηrel=T/T0
Km=6×10-4
T:測定サンプルの落下時間(秒)
T0:溶剤の落下時間(秒)
C:サンプルの濃度(g/l)
【0032】
セルロースエステル樹脂は、市販品を用いてもよく、当該市販品としては、例えば、株式会社ダイセル製「L-20」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度145)、「L-30」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度160)、「L-50」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度180)、「L-70」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度190)等のセルロースジアセテート、株式会社ダイセル製「LT-35」(平均アセチル置換度2.87、平均重合度270)、「LT-105」(平均アセチル置換度2.87、平均重合度350)等のセルローストリアセテート、イーストマンケミカル製「CAP482-20」、「CAP141-20」等のセルロースアセテートプロピオネート、「CAB381-20」、「CAB171-15」等のセルロースアセテートブチレート、および「CA398-30」等のセルロースアセテート等が挙げられる。
【0033】
本発明の生分解性樹脂組成物における本発明の可塑剤組成物の含有量は、生分解性樹脂との相溶性等の観点から、生分解性樹脂100質量部に対して好ましくは1~100質量部の範囲であり、より好ましくは5~60質量部の範囲であり、より好ましくは10~50質量部の範囲であり、さらに好ましくは20~45質量部である。
【0034】
本発明の生分解性樹脂組成物における生分解性樹脂および本発明の可塑剤組成物の合計含有量は、例えば組成物中の固形分の80質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上である。生分解性樹脂および本発明の生分解性樹脂用可塑剤の合計含有量の上限は特に限定されず、例えば100質量%以下、95質量%以下又は90質量%以下である。
【0035】
本発明の生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂と本発明の可塑剤組成物を含有すればよく、非生分解性樹脂、本発明の可塑剤組成物以外の可塑剤(その他可塑剤)、その他の添加剤等を含有してもよい。
【0036】
前記非生分解性樹脂としては、特に限定されず、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリサルファイド、ポリ塩化ビニル、変成ポリサルファイド、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0037】
前記その他可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)等のフタル酸エステル;テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)等のテレフタル酸エステル;イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等のイソフタル酸エステル;ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル(TOPM)等のピロメリット酸エステル;アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)等の脂肪族二塩基酸エステル;リン酸トリ-2-エチルヘキシル(TOP)、リン酸トリクレジル(TCP)等のリン酸エステル;ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアルキルエステル;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとのポリエステル化によって合成された分子量800~4,000のポリエステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化エステル;ヘキサヒドロフタル酸ジイソノニルエステル等の脂環式二塩基酸;ジカプリン酸1.4-ブタンジオール等の脂肪酸グリコールエステル;トリアセチン、ジアセチン等のグリセリンエステル;パラフィンワックスやn-パラフィンを塩素化した塩素化パラフィン;塩素化ステアリン酸エステル等の塩素化脂肪酸エステル;オレイン酸ブチル等の高級脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
本発明の生分解性樹脂組成物に前記その他の可塑剤を用いる場合、当該その他の可塑剤の含有量としては、本発明の可塑剤組成物100質量部に対して例えば10~300質量部の範囲であり、好ましくは20~200質量部の範囲である。
【0039】
前記その他添加剤としては、例えば、難燃剤、安定剤、安定化助剤、着色剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤(老化防止剤)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、架橋助剤等を例示することができる。
【0040】
[生分解性樹脂組成物の製造方法]
本発明の生分解性樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。
例えば、生分解性樹脂、本発明の生分解性樹脂用可塑剤、上記その他添加剤を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて溶融混練する方法により得ることができる。
【0041】
[生分解性樹脂組成物の成形品]
本発明の生分解性樹脂組成物は、汎用プラスチックに適用される各種成形方法により成形することができる。
上記成形方法としては例えば、圧縮成形(圧縮成形、積層成形、スタンパブル成形)、射出成形、押出成形や共押出成形(インフレ法やTダイ法によるフィルム成形、ラミネート成形、パイプ成形、電線/ケーブル成形、異形材の成形)、熱プレス成形、中空成形(各種ブロー成形)、カレンダー成形、固体成形(一軸延伸成形、二軸延伸成形、ロール圧延成形、延伸配向不織布成形、熱成形(真空成形、圧空成形)、塑性加工、粉末成形(回転成形)、各種不織布成形(乾式法、接着法、絡合法、スパンボンド法等)等が挙げられる。
射出成形、押出成形、圧縮成形又は熱プレス成形が好適に適用される。具体的な形状としては、シート、フィルム、容器への適用が好ましい。
【0042】
上記で得られた成形品に二次加工を施してもよい。当該二次加工としては、エンボス加工、塗装、接着、印刷、メタライジング(めっき等)、機械加工、表面処理(帯電防止処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、フォトクロミズム処理、物理蒸着、化学蒸着、コーティング等)等が挙げられる。
【0043】
本発明の生分解性樹脂組成物から得られる成形品は、生分解性樹脂で構成され分解可能であるため、環境負荷が小さい成形品である。
【0044】
本発明の生分解性樹脂組成物から得られる成形品は、液状物や粉粒物、固形物を包装するための包装用資材、農業用資材、建築資材等の幅広い用途に好適に用いられる。
具体的用途としては、射出成形品(例えば、生鮮食品のトレー、ファーストフードの容器、コーヒーカプセルの容器、カトラリー、野外レジャー製品等)、押出成形品(例えば、フィルム、シート、釣り糸、漁網、植生ネット、2次加工用シート、保水シート等)、中空成形品(ボトル等)等が挙げられる。
【0045】
用途は上記に限定されず、メンディングテープ、メガネフレーム、アグレット、農業用のフィルム、コーティング資材、肥料用コーティング材、育苗ポット、ラミネートフィルム、板、延伸シート、モノフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポスト袋、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、ロープ、結束材、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材フィルム、マルチフィラメント、合成紙、医療用として手術糸、縫合糸、人工骨、人工皮膚、マイクロカプセル、創傷被覆材等にも使用可能である。
【実施例0046】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0047】
本願実施例において、酸価および水酸基価の値は、下記方法により評価した値である。
[酸価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
[水酸基価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0048】
本願実施例において、ポリエステルの数平均分子量は、GPC測定に基づきポリスチレン換算した値であり、測定条件は下記の通りである。
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ-L」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料7.5mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC-8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0049】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-300」
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
東ソー株式会社製「F-288」
【0050】
(合成例1:ジエステル(D1)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、安息香酸978gと、プロピレングリコール(以下「PG」と略す。)159gと、ジエチレングリコール289gと、触媒であるテトライソプロピルチタネート(以下「TiPT」と略す)0.42gとを仕込んだ後、220℃まで昇温し11時間反応させた。反応後、200℃で未反応のグリコールを減圧留去した。未反応アルコールの流出がなくなった後、減圧を解除および降温して、反応生成物を濾過して取り出し、透明黄色液状のジエステル(D1)を得た。
【0051】
得られたジエステル(D1)の数平均分子量は310であり、酸価は0.1であり、水酸基価は4であった。
【0052】
(合成例2:ジエステル(D2)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、安息香酸1035gと、PG387gと、TiPT0.43gとを仕込んだ後、220℃まで昇温し11時間反応させた。反応後、200℃で未反応のグリコールを減圧留去した。未反応アルコールの流出がなくなった後、減圧を解除および降温して、反応生成物を濾過して取り出し、透明黄色液状のジエステル(D2)を得た。
【0053】
得られたジエステル化合物(D2)の数平均分子量は280であり、酸価は0.1であり、水酸基価は5であった。
【0054】
(実施例1-5および比較例1-5:セルロース樹脂成型品の製造と評価)
酢酸セルロース樹脂(株式会社ダイセル製「L-50」)100質量部に、表1に示す可塑剤を40質量部、安定剤としてIRGANOX-1076を0.1質量部を配合し、70℃以上の温度で攪拌混合した。得られた組成物を小型溶融混練装置(ラボプラストミル)を使用して混練し、ホットプレス機を用いて厚さ3mmおよび60mm四方のプレス板を作製した。得られたプレス板について以下の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0055】
尚、表1に示す可塑剤成分について、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)およびクエン酸トリエチル(TEC)についてはいずれも市販品である(ATECは東京化成工業株式会社製、TECは関東化学株式会社製)。
【0056】
(1)透明性
プレス板の表面を目視で確認し、以下の基準でプレス板の透明性を評価した。
プレス板表面に濁りおよび異物が確認できない :○
プレス板表面に濁りおよび/又は異物が確認できる:×
【0057】
(2)湿熱試験後の相溶性
プレス板を60℃、相対湿度90%の環境下(湿熱環境下)に120時間晒し、湿熱試験後のプレス板の状態を目視で確認し、以下の基準で可塑剤の相溶性を評価した。
プレス板表面に異物のブリードアウトが確認できない:○
プレス板表面に異物のブリードアウトが確認できる :×
【0058】
(3)揮発性(湿熱試験後減量)
上記(2)湿熱試験後の相溶性と同じ条件でプレス板について湿熱試験を実施し、湿熱試験24時間後のプレス板と120時間後のプレス板とで重量を比較し、(24時間後のプレス板の質量-120時間後のプレス板の質量)/湿熱試験24時間後のプレス板の計算をして、湿熱試験後のプレス板の減量を評価した。この値が低いほど、プレス板中の可塑剤の不揮発性に優れ、得られる成形品が寸法安定性に優れる。
【0059】
(4)酢酸発生量
プレス板の製造に用いた組成物1.000gを、25mlのサンプル瓶に入れ、85℃×湿度90%の条件下に168時間存在させたときに発生する酢酸量を検知管(北川式ガス検知管 酢酸用)で調べた。酢酸発生量が少ないほど、組成物中の可塑剤が加水分解しにくく、得られる成形品の耐久性低下を抑制することができる。
【0060】
(5)組成物のメルトフローレイト(MFR)
プレス板の製造に用いた組成物について、組成物のMFRをJISK-7210:1999に準拠して、温度:220℃、荷重:10Kgで測定した。
【0061】
【0062】
表中の「DAIFATTY-101」は市販の生分解性樹脂用可塑剤(大八化学株式会社製)であり、本発明のジエステルではない二塩基酸エステルである。
また、表のMFRの欄について、「-」は評価を実施していないことを意味する。
【0063】
表1の結果から、安息香酸ジエステルを併用することでATECおよびTECの揮発性および耐加水分解性が大きく改善していることが読みとれる。また、安息香酸ジエステル自体は、生分解性樹脂に対する相溶性に乏しいため、可塑剤として使用することはできないことも読み取れる。