(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030022
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】顕微鏡画像補正方法及び顕微鏡画像補正プログラム
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20240229BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G02B21/00
G01N21/64 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132546
(22)【出願日】2022-08-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「時空間を一括取得する超高速超解像光センサー 超高速超解像光センサーの顕微イメージングへの応用研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚志
(72)【発明者】
【氏名】根本 知己
(72)【発明者】
【氏名】大友 康平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰伽
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043EA01
2G043FA01
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043JA02
2G043LA03
2G043NA01
2H052AA07
2H052AA09
2H052AC04
2H052AC15
2H052AC34
2H052AF14
2H052AF21
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】顕微鏡で得られた原画像を補正して、より高いSN比を有する補正画像を算出することができる顕微鏡画像補正方法を提供する。
【解決手段】顕微鏡画像補正方法は、試料の原画像から試料の累乗根画像を算出するステップと、試料の累乗根画像から試料の累乗根画像の空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の空間周波数スペクトルに高周波除去フィルタを掛けて、試料の累乗根画像の補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の補正空間周波数スペクトルから試料の補正累乗根画像を算出するステップと、試料の補正累乗根画像から試料の補正画像を算出するステップとを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の原画像から前記試料の累乗根画像を算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像から前記試料の前記累乗根画像の空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記空間周波数スペクトルに高周波除去フィルタを掛けて、前記試料の前記累乗根画像の補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記補正空間周波数スペクトルから前記試料の補正累乗根画像を算出するステップと、
前記試料の前記補正累乗根画像から前記試料の補正画像を算出するステップとを備える、顕微鏡画像補正方法。
【請求項2】
試料の原画像から前記試料の累乗根画像を算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像から前記試料の前記累乗根画像の第1空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記第1空間周波数スペクトルに高周波除去フィルタを掛けて、前記試料の前記累乗根画像の第1補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記第1補正空間周波数スペクトルを、前記試料の前記原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根をフーリエ変換することによって算出される前記光学系の光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、前記試料の前記累乗根画像の第2補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記第2補正空間周波数スペクトルから前記試料の補正累乗根画像を算出するステップと、
前記試料の前記補正累乗根画像を累乗することによって前記試料の暫定補正画像を算出するステップと、
前記試料の前記暫定補正画像から前記試料の前記暫定補正画像の第2空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記暫定補正画像の前記第2空間周波数スペクトルを前記光学系の補正光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、前記試料の前記原画像の第3補正空間周波数スペクトルを算出するステップとを備え、前記補正光学伝達関数は、第1補正点像分布関数をフーリエ変換することによって算出され、前記第1補正点像分布関数は、第2補正点像分布関数を累乗することによって算出され、前記第2補正点像分布関数は、前記試料の前記原画像を得る前記光学系の前記点像分布関数の累乗根のフーリエ変換と前記高周波除去フィルタとの積を、前記光学伝達関数でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出され、
前記試料の前記原画像の前記第3補正空間周波数スペクトルから前記試料の補正画像を算出するステップとを備える、顕微鏡画像補正方法。
【請求項3】
試料の原画像から前記試料の累乗根画像を算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像から前記試料の前記累乗根画像の第1空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記第1空間周波数スペクトルを、前記試料の前記原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根をフーリエ変換することによって算出される前記光学系の光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、前記試料の前記累乗根画像の第1補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記累乗根画像の前記第1補正空間周波数スペクトルから前記試料の補正累乗根画像を算出するステップと、
前記試料の前記補正累乗根画像を累乗することによって前記試料の暫定補正画像を算出するステップと、
前記試料の前記暫定補正画像から前記試料の前記暫定補正画像の第2空間周波数スペクトルを算出するステップと、
前記試料の前記暫定補正画像の前記第2空間周波数スペクトルを前記光学系の補正光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、前記試料の前記原画像の第2補正空間周波数スペクトルを算出するステップとを備え、前記補正光学伝達関数は、第1補正点像分布関数をフーリエ変換することによって算出され、前記第1補正点像分布関数は、第2補正点像分布関数を累乗することによって算出され、前記第2補正点像分布関数は、前記試料の前記原画像を得る前記光学系の前記点像分布関数の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタとの積を、前記光学伝達関数でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出され、
前記試料の前記原画像の前記第2補正空間周波数スペクトルから前記試料の補正画像を算出するステップとを備える、顕微鏡画像補正方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の前記顕微鏡画像補正方法の各ステップをプロセッサに実行させる、顕微鏡画像補正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顕微鏡画像補正方法及び顕微鏡画像補正プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特表2018-533769号公報(特許文献1)は、二光子励起顕微鏡法(TPM)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、顕微鏡で得られた原画像を補正して、より高いSN比を有する補正画像を算出することができる顕微鏡画像補正方法及び顕微鏡画像補正プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一の局面の顕微鏡画像補正方法は、試料の原画像から試料の累乗根画像を算出するステップと、試料の累乗根画像から試料の累乗根画像の空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の空間周波数スペクトルに高周波除去フィルタを掛けて、試料の累乗根画像の補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の補正空間周波数スペクトルから試料の補正累乗根画像を算出するステップと、試料の補正累乗根画像から試料の補正画像を算出するステップとを備える。
【0006】
本開示の第二の局面の顕微鏡画像補正方法は、試料の原画像から試料の累乗根画像を算出するステップと、試料の累乗根画像から試料の累乗根画像の第1空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の第1空間周波数スペクトルに高周波除去フィルタを掛けて、試料の累乗根画像の第1補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の第1補正空間周波数スペクトルを、試料の原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根をフーリエ変換することによって算出される光学系の光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、試料の累乗根画像の第2補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の第2補正空間周波数スペクトルから試料の補正累乗根画像を算出するステップと、試料の補正累乗根画像を累乗することによって、試料の暫定補正画像を算出するステップと、試料の暫定補正画像から試料の暫定補正画像の第2空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の暫定補正画像の第2空間周波数スペクトルを光学系の補正光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、試料の原画像の第3補正空間周波数スペクトルを算出するステップを備える。光学系の補正光学伝達関数は、第1補正点像分布関数をフーリエ変換することによって算出される。第1補正点像分布関数は、第2補正点像分布関数を累乗することによって算出される。第2補正点像分布関数は、試料の原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタとの積を、光学系の光学伝達関数でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出される。本開示の第二の局面の顕微鏡画像補正方法は、試料の原画像の第3補正空間周波数スペクトルから試料の補正画像を算出するステップを備える。
【0007】
本開示の第三の局面の顕微鏡画像補正方法は、試料の原画像から試料の累乗根画像を算出するステップと、試料の累乗根画像から試料の累乗根画像の第1空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の第1空間周波数スペクトルを、試料の原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根をフーリエ変換することによって算出される光学系の光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、試料の累乗根画像の第1補正空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の累乗根画像の第1補正空間周波数スペクトルから試料の補正累乗根画像を算出するステップと、試料の補正累乗根画像を累乗することによって、試料の暫定補正画像を算出するステップと、試料の暫定補正画像から試料の暫定補正画像の第2空間周波数スペクトルを算出するステップと、試料の暫定補正画像の第2空間周波数スペクトルを光学系の補正光学伝達関数でデコンボリューションすることによって、試料の原画像の第2補正空間周波数スペクトルを算出するステップとを備える。補正光学伝達関数は、第1補正点像分布関数をフーリエ変換することによって算出される。第1補正点像分布関数は、第2補正点像分布関数を累乗することによって算出される。第2補正点像分布関数は、試料の原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタとの積を、光学系の光学伝達関数でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出される。本開示の第三の局面の顕微鏡画像補正方法は、試料の原画像の第2補正空間周波数スペクトルから試料の補正画像を算出するステップを備える。
【0008】
本開示の顕微鏡画像補正プログラムは、本開示の第一局面から第三局面のいずれかの顕微鏡画像補正方法の各ステップをプロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の顕微鏡画像補正方法及び本開示の顕微鏡画像補正プログラムによれば、顕微鏡で得られた原画像を補正して、より高いSN比を有する補正画像を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1から実施の形態3の顕微鏡システムを示す概略図である。
【
図2】実施の形態1から実施の形態3の顕微鏡システムに含まれるコンピュータの機能的構成を説明するブロック図である。
【
図3】実施の形態1の画像処理部の機能的構成を説明するブロック図である。
【
図4】実施の形態1の顕微鏡で得られた原画像の補正方法のフローチャートを示す図である。
【
図5】実施の形態1及び実施の形態2のデノイズ処理のフローチャートを示す図である。
【
図6】実施の形態1の補正画像を算出するステップのフローチャートを示す図である。
【
図7】二光子励起顕微鏡もしくは三光子励起顕微鏡のような多光子励起顕微鏡、共焦点顕微鏡または超解像顕微鏡の原画像及びその累乗根画像、光検出器が単一素子でありピンホールを持たない一光子励起走査型顕微鏡の一光子励起画像、並びに、それらのフーリエ変換(空間周波数スペクトル)の関係を示す図である。
【
図8】実施の形態2の画像処理部の機能的構成を説明するブロック図である。
【
図9】実施の形態2の顕微鏡で得られた原画像の補正方法のフローチャートを示す図である。
【
図10】実施の形態2の第2デコンボリューション処理ステップのフローチャートを示す図である。
【
図11】実施の形態3の画像処理部の機能的構成を説明するブロック図である。
【
図12】実施の形態3の顕微鏡で得られた原画像の補正方法のフローチャートを示す図である。
【
図13】実施の形態3の第1デコンボリューション処理ステップのフローチャートを示す図である。
【
図14】実施の形態3の第2デコンボリューション処理ステップのフローチャートを示す図である。
【
図19】実施例1-1から実施例3-2の画像のSN比の改善率を表すグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態を説明する。なお、同一の構成には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0012】
(実施の形態1)
【0013】
図1から
図3を参照して、実施の形態1の顕微鏡システム1を説明する。
図1に示されるように、顕微鏡システム1は、顕微鏡2と、コンピュータ3と、表示装置4とを備える。顕微鏡2は、試料12の原画像を得ることができる顕微鏡である。本実施の形態では、顕微鏡2は、二光子励起顕微鏡である。
【0014】
<顕微鏡の構成>
【0015】
図1に示されるように、顕微鏡2は、照明光学系5と、試料ステージ13と、観察光学系15とを含む。
【0016】
照明光学系5は、例えば、光源6と、走査ミラー8と、レンズ9a,9b,9c,9dと、ダイクロイックミラー10と、対物レンズ11とを含む。
【0017】
光源6は、光7を出力する。光源6は、例えば、チタンサファイアレーザのようなフェムト秒超短パルスレーザである。光7は、例えば、フェムト秒パルスレーザビームである。光7は、レンズ9aを通って、レンズ9bに入射する。レンズ9a,9bによって、光7は拡げられる。光7は、レンズ9bでコリメートされて、走査ミラー8に入射する。走査ミラー8は、光7を反射するとともに、光7を走査する。走査ミラー8は、例えば、ガルバノミラーである。光7は、レンズ9cを通って、レンズ9dに入射する。光7は、レンズ9dでコリメートされて、ダイクロイックミラー10に入射する。ダイクロイックミラー10は、光7を試料12に向けて反射する。光7は、対物レンズ11で集光されて、試料12の一部分を照射する。光7の集光点は、走査ミラー8によって、試料12において、試料12における光7の入射方向に垂直な面内に走査される。
【0018】
試料12は、試料ステージ13によって支持されている。試料12は、特に限定されないが、例えば、生細胞、分子、タンパク質またはDNAである。試料12は、例えば、蛍光色素分子のような蛍光物質によって標識されている。光7が試料12に照射されると、光7は試料12を標識する蛍光物質に吸収される。蛍光物質は、光7を二光子吸収して励起され、光14を放射する。光14は、例えば、蛍光光のようなインコヒーレント光である。こうして、試料12から光14が放射される。
【0019】
観察光学系15は、例えば、対物レンズ11と、ダイクロイックミラー10と、光検出器16とを含む。試料12から放射された光14は、対物レンズ11によってコリメートされて、ダイクロイックミラー10に入射する。光14は、ダイクロイックミラー10を通って、光検出器16に入射する。光検出器16は、試料12の各部分から放射される光14の強度を検出する。光検出器16は、例えば、光電子増倍管(PMT)である。
【0020】
図1を参照して、コンピュータ3は、顕微鏡2に通信可能に接続されている。コンピュータ3は、顕微鏡2の制御、試料12の原画像を構築するための画像構築処理、及び、試料12の原画像を補正するための画像処理などを行う。コンピュータ3は、例えば、パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ、クラウドサーバまたはスマートデバイス(スマートフォンまたはタブレット端末など)である。表示装置4は、コンピュータ3に通信可能に接続されている。表示装置4は、例えば、液晶表示装置または有機EL表示装置である。表示装置4は、例えば、顕微鏡2の動作状態、試料12の原画像、及び、試料12の補正画像などを表示する。
【0021】
<コンピュータ3の構成>
【0022】
図1を参照して、コンピュータ3は、プロセッサ20と、記憶装置22とを含む。記憶装置22は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、または、ハードディスクである。記憶装置22は、プロセッサ20により実行されるコンピュータプログラム、試料12の原画像、及び、試料12の補正画像などを格納する。コンピュータプログラムは、例えば、試料12の原画像を取得するための画像取得プログラムと、試料12の原画像を補正して試料12の補正画像を算出するための画像補正プログラムとを含む。画像取得プログラム及び画像補正プログラムは、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体に格納されてもよい。
【0023】
プロセッサ20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または、FPGA(field-programmable gate array)などによって構成されている。プロセッサ20は、記憶装置22に格納されているコンピュータプログラムを実行する。プロセッサ20がコンピュータプログラムを実行することにより、コンピュータ3は、
図2及び
図3に示される機能を実現する。
図2及び
図3を参照して、コンピュータ3の機能構成を説明する。
【0024】
図2に示されるように、コンピュータ3は、原画像取得部25と、画像処理部30とを含む。原画像取得部25は、プロセッサ20が画像取得プログラムを実行することによって、実現される。画像処理部30は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像を補正して、試料12の補正画像を算出する。画像処理部30は、プロセッサ20が画像補正プログラムを実行することによって、実現される。
【0025】
図3に示されるように、画像処理部30は、累乗根画像算出部31と、デノイズ処理部32と、補正画像算出部35とを含む。累乗根画像算出部31は、試料12の原画像から累乗根画像を算出するステップ(ステップS1、
図4を参照)を行う。デノイズ処理部32は、デノイズ処理ステップ(ステップS2、
図4及び
図5を参照)を行う。補正画像算出部35は、試料12の補正画像を算出するステップ(ステップS3、
図4及び
図6を参照)を行う。
【0026】
<試料12の原画像を取得する方法>
【0027】
試料12の原画像を取得する方法は、原画像取得部25によって実行される。具体的には、原画像取得部25は、光源6を制御して、光源6に光7を出射させる。光7は、レンズ9aを通って、レンズ9bに入射する。レンズ9a,9bによって、光7は拡げられる。光7は、レンズ9bでコリメートされて、走査ミラー8に入射する。光7は、走査ミラー8で反射される。光7は、レンズ9c,9dを通って、ダイクロイックミラー10で反射される。光7は、対物レンズ11で集光されて、試料12の一部分を照射する。原画像取得部25は、走査ミラー8を制御して、試料12において、光7の集光点を、試料12における光7の入射方向に垂直な面内に走査する。光検出器16は、試料12の各部分から放射される光14の強度を検出する。原画像取得部25は、試料12の各部分から放射されて光検出器16で検出された光14の強度から、試料12の原画像として、試料12の二次元原画像を構築する。例えば、顕微鏡2が二光子励起顕微鏡である場合、試料12の原画像は、二光子励起画像I2である。また、顕微鏡2が三光子励起顕微鏡である場合、試料12の原画像は、三光子励起画像I3である。
【0028】
原画像取得部25は、さらに対物レンズ11を制御して、試料12において、光7の集光点を、試料12における光7の入射方向に移動させてもよい。原画像取得部25は、試料12の二次元原画像を積層して、試料12の原画像として、試料12の三次元原画像を構築してもよい。
【0029】
<顕微鏡2で得られた試料12の原画像の補正方法>
【0030】
図4から
図7を参照して、顕微鏡2で得られた試料12の原画像から、試料12の補正画像を算出する方法を説明する。試料12の補正画像を算出する方法は、画像処理部30によって実行される。以下では、主に、顕微鏡2が二光子励起顕微鏡であり、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合について説明する。
【0031】
試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I
2)を得るために試料12に照射される光7の波長と同一波長を有する光を用いて試料12が一光子励起されることによって得られる試料12の画像を、一光子励起画像I
1(
図7を参照)とする。原画像の累乗根によって与えられかつ一光子励起画像I
1と解像度が等価である画像を、累乗根画像I
1’(
図7を参照)と定義する。試料の原画像I
mがm光子励起画像である時、累乗根はm乗根を意味し、累乗はm乗を意味し、かつ、累乗根画像I
1’は原画像I
mを(1/m)乗した画像を意味する(なお、mは自然数)。
【0032】
図4に示されるように、試料12の原画像から累乗根画像I
1’を算出する(ステップS1)。試料12の原画像の累乗根をとることによって、累乗根画像I
1’が算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、累乗根画像I
1’は、式(1)によって算出される。すなわち、二光子励起画像I
2の各画素の光強度の平方根を算出することによって、累乗根画像I
1’の各画素の光強度が算出される。
【数1】
【0033】
例えば、試料12の原画像が試料12の三光子励起画像I
3である場合、累乗根画像I
1’は、式(2)によって算出される。すなわち、三光子励起画像I
3の各画素の光強度の三乗根を算出することによって、累乗根画像I
1’の各画素の光強度が算出される。
【数2】
【0034】
図4及び
図5に示されるように、デノイズ処理ステップを行う(ステップS2)。
【0035】
具体的には、式(3)に示されるように、累乗根画像I
1’をフーリエ変換して、累乗根画像I
1’の空間周波数スペクトルF
1’を算出する(ステップS2-1)。本明細書において、FTは、フーリエ変換を表す。
【数3】
【0036】
式(4)に示されるように、累乗根画像I
1’の空間周波数スペクトルF
1’に高周波除去フィルタG(k
x、k
y、k
z)(以下、「高周波除去フィルタG」ということがある。)を掛けることによって、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1a’を算出する(ステップS2-2)。そのため、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1a’では、高周波ノイズが除去される。
【数4】
【0037】
高周波除去フィルタGは、例えば、水平方向の波数k
rと垂直方向(z方向)の波数k
zの二軸において、式(5)によって与えられる。垂直方向は、試料12における光7の入射方向を意味する。水平方向は、試料12における光7の入射方向に垂直な方向を意味する。
【数5】
【0038】
k
rは、式(6)によって与えられる。x方向は、試料12における光7の入射方向に垂直な方向のうちの一方向を意味する。y方向は、試料12における光7の入射方向に垂直な方向のうち、x方向に垂直な方向を意味する。k
xはx方向の波数を意味し、k
yはy方向の波数を意味する。
【数6】
【0039】
【0040】
式(5)における角度αは、対物レンズ11を通過して試料12に入射する光の最大入射角である(
図1を参照)。角度αは、対物レンズ11の開口数NAと、対物レンズ11から試料12までの媒質の屈折率nとによって規定される。具体的には、角度αは、式(8)によって与えられる。
【数8】
【0041】
図4及び
図6に示されるように、試料12の補正画像を算出する(ステップS3)。
【0042】
具体的には、式(9)に示されるように、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1a’を逆フーリエ変換して、累乗根補正画像I
1a’を算出する(ステップS3-1)。本明細書において、FT
-1は、逆フーリエ変換を表す。
【数9】
【0043】
累乗根補正画像I
1a’から試料12の補正画像I
2fを算出する(ステップS3-2)。具体的には、累乗根補正画像I
1a’を累乗することによって、試料12の補正画像I
2fが算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、式(10)に示されるように、累乗根補正画像I
1a’を二乗することによって、試料12の補正画像I
2fを算出する。累乗根補正画像I
1a’の各画素の光強度の二乗を算出することによって、試料12の補正画像I
2fの各画素の光強度が算出される。高周波除去フィルタGによって、試料12の補正画像I
2fでは、高周波ノイズが除去される。そのため、補正画像I
2fのSN比(コントラスト比)は向上する。
【数10】
【0044】
試料12の原画像が試料12の三光子励起画像I
3である場合、式(11)に示されるように、累乗根補正画像I
1a’を三乗することによって、試料12の補正画像I
3fを算出する。累乗根補正画像I
1a’の各画素の光強度の三乗を算出することによって、試料12の補正画像I
3fの各画素の光強度が算出される。高周波除去フィルタGによって、試料12の補正画像I
3fでは、高周波ノイズが除去される。そのため、補正画像I
3fのSN比(コントラスト比)は向上する。
【数11】
【0045】
本実施の形態の効果を説明する。
【0046】
本実施の形態の顕微鏡画像補正方法は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I2)から試料12の累乗根画像I1’を算出するステップ(ステップS1)と、試料12の累乗根画像I1’から試料12の累乗根画像I1’の空間周波数スペクトルF1’を算出するステップ(ステップS2-1)と、試料12の累乗根画像I1’の空間周波数スペクトルF1’に高周波除去フィルタGを掛けて、試料12の累乗根画像I1’の補正空間周波数スペクトルF1a’を算出するステップ(ステップS2-2)と、試料12の累乗根画像I1’の補正空間周波数スペクトルF1a’から試料12の累乗根補正画像I1a’を算出するステップ(ステップS3-1)と、試料12の累乗根補正画像I1a’から試料12の補正画像I2fを算出するステップ(ステップS3-2)とを備える。
【0047】
本実施の形態の顕微鏡画像補正プログラムは、本実施の形態の顕微鏡画像補正方法の各ステップをプロセッサ20に実行させる。
【0048】
図7に示されるように、照明光学系5を用いて試料12を一光子励起すると、試料12のうち光7が通る部分の全体において一光子励起が生じる(
図7の画像I
1の実空間の点像を参照)。そのため、試料12の全体から光が放射される。光検出器が単一素子でありかつピンホールを持たない一光子励起走査型顕微鏡では、試料12の全体から放射される光を合算して検出する。これに対し、二光子励起顕微鏡もしくは三光子励起顕微鏡のような多光子励起顕微鏡、共焦点顕微鏡または超解像顕微鏡(Image Scanning Microscopy(ISM))などによって検出される光14は、試料12のうち対物レンズ11の焦点付近の部分のみに限られている(
図7の原画像I
mの実空間の点像を参照)。その理由は、これらの顕微鏡の点像分布関数が、ピンホールを持たない単純な一光子励起走査型顕微鏡の点像分布関数を累乗(m乗)した関係にあるため、照明光の強度が強い部分では光検出器16によって検出される光の量がさらに増加するのに対し、照明光の強度が弱い部分では光検出器16によって検出される光の量がさらに減少するためである。
【0049】
その結果、原画像I
mの解像度は、画像I
1の解像度よりも大きくなる。言い換えると、空間周波数領域では、原画像I
mの遮断周波数は、画像I
1の遮断周波数よりも大きくなる(
図7の原画像I
mの空間周波数及び画像I
1の空間周波数を参照)。これらの画像の遮断周波数は、照明光学系5によって与えられる。原画像I
mの累乗根により得られる累乗根画像I
1’の解像度は、画像I
1の解像度と同等である(
図7の実空間の点像の欄を参照)。したがって、画像I
1と同様に、累乗根画像I
1’の遮断周波数は、原画像I
mの遮断周波数よりも小さくなり、画像I
1の遮断周波数と同等になる(
図7の空間周波数の欄を参照)。
【0050】
累乗根画像I1’における試料12からの信号成分は、試料12の原画像Imにおける試料12からの信号成分よりも、より小さな空間周波数領域に分布している。これに対し、累乗根画像I1’におけるノイズ成分は、試料12の原画像Imにおけるノイズ成分と同様に、全空間周波数領域にわたってランダムに分布している。そのため、累乗根画像I1’の空間周波数スペクトルF1’に高周波除去フィルタGを掛けるというデノイズ処理ステップ(S2)を行うことによって、より広い空間周波数領域に分布するノイズを除去することができる。こうして、より高いSN比(コントラスト比)を有する補正画像を算出することができる。
【0051】
(実施の形態2)
【0052】
図1、
図2及び
図8を参照して、実施の形態2の顕微鏡システム1を説明する。実施の形態2の顕微鏡システム1は、実施の形態1の顕微鏡システム1と同様に構成されているが、コンピュータ3の機能構成が異なっている。
【0053】
図8に示されるように、本実施の形態の画像処理部30は、実施の形態1の画像処理部30と同様に構成されているが、第1デコンボリューション処理部33と、第2デコンボリューション処理部34とをさらに含む点で、実施の形態1の画像処理部30と異なっている。
【0054】
累乗根画像算出部31は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I
2)から累乗根画像I
1’を算出するステップ(ステップS1、
図9を参照)を行う。デノイズ処理部32は、デノイズ処理ステップ(ステップS2、
図9を参照)を行う。第1デコンボリューション処理部33は、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3、
図9を参照)を行う。第2デコンボリューション処理部34は、第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS4、
図9及び
図10を参照)を行う。補正画像算出部35は、試料12の補正画像を算出するステップ(ステップS5、
図9を参照)を行う。
【0055】
図5、
図9及び
図10を参照して、実施の形態2の試料12の原画像の補正方法を説明する。試料12の補正画像を算出する方法は、画像処理部30によって実行される。以下では、主に、顕微鏡2が二光子励起顕微鏡であり、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合について説明する。実施の形態2の試料12の原画像の補正方法は、実施の形態1の試料12の原画像の補正方法と同様であるが、主に、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)と、第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS4)とをさらに備えている点において、実施の形態1の試料12の原画像の補正方法と異なっている。
【0056】
試料12に照射される光7は、振幅E及び位相θを有する電界Eexp(iθ)として表現される。光7の強度|E2|として光7が試料12に吸収されて、試料12が光7によって励起される。試料12による光7の強度の吸収において、光7の電界の位相θの情報が失われ、光7の電界の振幅Eが二乗される。そのため、試料12の原画像の空間周波数スペクトルでは、照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分が減少して、試料12の原画像のSN比(コントラスト比)が低下する。試料12の原画像が試料12の一光子励起画像I1である場合、照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分の減少は一回発生するが、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I2である場合、照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分の減少は二回発生する。そこで、試料12の二光子励起画像I2において、照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分を回復させるために、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)と、第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS4)とを行う。
【0057】
具体的には、
図5及び
図9を参照して、本実施の形態のステップS1及びステップS2は、実施の形態1のステップS1及びステップS2と同じである。
【0058】
図9に示されるように、デノイズ処理(ステップS2)の後に、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)を行う。
【0059】
具体的には、式(12)に示されるように、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1a’を、光学系(照明光学系5)の光学伝達関数OTF
1でデコンボリューションして、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1b’を算出する。そのため、照明光学系5の遮断周波数未満の周波数を有するノイズが低減される。第1デコンボリューション処理は、例えば、OTF
1をウィナーフィルタとして用いるデコンボリューション処理を含む。式(12)におけるw
1は、ウィナー定数を表す。
【数12】
【0060】
光学伝達関数OTF
1は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I
2)を得る光学系(照明光学系5)の点像分布関数PSF
2の累乗根をフーリエ変換することによって算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、OTF
1は、式(13)によって与えられる。
【数13】
【0061】
本実施の形態の目的は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像のSN比(コントラスト比)を向上させることである。そのため、第1デコンボリューション処理は、光学伝達関数OTF1で行われてもよいし、光学伝達関数OTF1の絶対値である変調伝達関数MTF1で行われてもよい。
【0062】
図10に示されるように、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)の後に、第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS4)を行う。
【0063】
具体的には、式(14)に示されるように、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1b’を逆フーリエ変換して、累乗根補正画像I
1b’を算出する(ステップS4-1)。
【数14】
【0064】
累乗根補正画像I
1b’を累乗することによって、試料12の暫定補正画像I
2bを算出する(ステップS4-2)。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、式(15)に示されるように、累乗根補正画像I
1b’を二乗することによって、試料12の暫定補正画像I
2bを算出する。具体的には、累乗根補正画像I
1b’の各画素の光強度の二乗を算出することによって、試料12の暫定補正画像I
2bの各画素の光強度が算出される。試料12の暫定補正画像I
2bでは、デノイズ処理(ステップS2)によって照明光学系5の遮断周波数以上の周波数を有する高周波ノイズが除去されているとともに、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)によって照明光学系5の遮断周波数未満の周波数を有するノイズが低減されている。
【数15】
【0065】
式(16)に示されるように、試料12の暫定補正画像I
2bをフーリエ変換して、試料12の暫定補正画像I
2bの空間周波数スペクトルF
2bを算出する(ステップS4-3)。
【数16】
【0066】
式(17)に示されるように、試料12の暫定補正画像I
2bの空間周波数スペクトルF
2bを光学系(照明光学系5)の補正光学伝達関数OTF
2bでデコンボリューションすることによって、試料12の原画像の補正空間周波数スペクトルF
2cを算出する(ステップS4-4)。第2デコンボリューション処理は、例えば、OTF
2bをウィナーフィルタとして用いるデコンボリューション処理を含む。式(17)におけるw
2は、ウィナー定数を表す。
【数17】
【0067】
本実施の形態の目的は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像のSN比(コントラスト比)を向上させることである。そのため、第2デコンボリューション処理は、補正光学伝達関数OTF2bで行われてもよいし、補正光学伝達関数OTF2bの絶対値である補正変調伝達関数MTF2bで行われてもよい。
【0068】
補正光学伝達関数OTF
2bは、補正点像分布関数PSF
2bをフーリエ変換することによって算出される。具体的には、補正光学伝達関数OTF
2bは、式(18)によって与えられる。
【数18】
【0069】
補正点像分布関数PSF
2bは、補正点像分布関数PSF
1bを累乗することによって算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、PSF
2bは、式(19)によって与えられる。
【数19】
【0070】
補正点像分布関数PSF
1bは、試料12の原画像を得る光学系(照明光学系5)の点像分布関数PSF
2の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタGとの積を、光学伝達関数OTF
1でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、PSF
1bは、式(20)によって与えられる。
【数20】
【0071】
本実施の形態の目的は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像のSN比(コントラスト比)を向上させることである。そのため、補正点像分布関数PSF1bを算出するために、点像分布関数PSF2の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタGとの積は、光学伝達関数OTF1でデコンボリューションされてもよいし、光学伝達関数OTF1の絶対値である変調伝達関数MTF1でデコンボリューションされてもよい。
【0072】
図9を参照して、式(21)に示されるように、試料12の原画像の補正空間周波数スペクトルF
2cを逆フーリエ変換して、試料12の補正画像I
2fを算出する(ステップS5)。
【数21】
【0073】
本実施の形態の効果は、実施の形態1の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0074】
本実施の形態の顕微鏡画像補正方法は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I2)から試料12の累乗根画像I1’を算出するステップ(ステップS1)と、試料12の累乗根画像I1’から試料12の累乗根画像I1’の第1空間周波数スペクトル(空間周波数スペクトルF1’)を算出するステップ(ステップS2-1)と、試料12の累乗根画像I1’の第1空間周波数スペクトルに高周波除去フィルタGを掛けて、試料12の累乗根画像I1’の第1補正空間周波数スペクトル(補正空間周波数スペクトルF1a’)を算出するステップ(ステップS2-2)と、試料12の累乗根画像I1’の第1補正空間周波数スペクトルを、試料12の原画像を得る光学系(照明光学系5)の点像分布関数の累乗根をフーリエ変換することによって算出される光学系の光学伝達関数(光学伝達関数OTF1)でデコンボリューションすることによって、試料12の累乗根画像I1’の第2補正空間周波数スペクトル(補正空間周波数スペクトルF1b’)を算出するステップ(ステップS3)と、試料12の累乗根画像I1’の第2補正空間周波数スペクトルから試料12の累乗根補正画像I1b’を算出するステップ(ステップS4-1)と、試料12の累乗根補正画像I1b’を累乗することによって試料12の暫定補正画像I2bを算出するステップ(ステップS4-2)と、試料12の暫定補正画像I2bから試料12の暫定補正画像I2bの第2空間周波数スペクトル(空間周波数スペクトルF2b)を算出するステップ(ステップS4-3)と、試料12の暫定補正画像I2bの第2空間周波数スペクトルを光学系の補正光学伝達関数(補正光学伝達関数OTF2b)でデコンボリューションすることによって、試料12の原画像の第3補正空間周波数スペクトル(補正空間周波数スペクトルF2c)を算出するステップ(ステップS4-4)とを備える。補正光学伝達関数は、第1補正点像分布関数(補正点像分布関数PSF2b)をフーリエ変換することによって算出される。第1補正点像分布関数は、第2補正点像分布関数(補正点像分布関数PSF1b)を累乗することによって算出される。第2補正点像分布関数は、試料12の原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタGとの積を、光学系の光学伝達関数(光学伝達関数OTF1)でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出される。本実施の形態の顕微鏡画像補正方法は、試料12の原画像の第3補正空間周波数スペクトルから試料12の補正画像I2fを算出するステップ(ステップS5)とを備える。
【0075】
本実施の形態の顕微鏡画像補正プログラムは、本実施の形態の顕微鏡画像補正方法の各ステップをプロセッサ20に実行させる。
【0076】
照明光学系5の光7が試料12により吸収される際に光7の電界の振幅Eが二乗されることに起因して、試料12の原画像の空間周波数スペクトルのうち照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分が減少する。そのため、試料12の原画像のSN比(コントラスト比)が低下する。本実施の形態では、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)及び第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS4)を行っているため、照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分を回復させることができる。試料12の補正画像I2fのSN比(コントラスト比)が向上する。
【0077】
(実施の形態3)
【0078】
図1、
図2及び
図11を参照して、実施の形態3の顕微鏡システム1を説明する。実施の形態3の顕微鏡システム1は、実施の形態2の顕微鏡システム1と同様に構成されているが、コンピュータ3の機能構成が異なっている。
【0079】
図11に示されるように、本実施の形態の画像処理部30は、実施の形態2の画像処理部30と同様に構成されているが、デノイズ処理部32が省略されている点で、実施の形態2の画像処理部30と異なっている。
【0080】
累乗根画像算出部31は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I
2)から累乗根画像I
1’を算出するステップ(ステップS1、
図12を参照)を行う。第1デコンボリューション処理部33は、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS2、
図12及び
図13を参照)を行う。第2デコンボリューション処理部34は、第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS3、
図12及び
図14を参照)を行う。補正画像算出部35は、試料12の補正画像を算出するステップ(ステップS4、
図12を参照)を行う。
【0081】
図12から
図14を参照して、実施の形態3の試料12の原画像の補正方法を説明する。試料12の補正画像を算出する方法は、画像処理部30によって実行される。以下では、主に、顕微鏡2が二光子励起顕微鏡であり、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合について説明する。実施の形態3の試料12の原画像の補正方法は、実施の形態2の試料12の原画像の補正方法と同様であるが、主に、実施の形態2のデノイズ処理ステップ(S3)を備えていない点において、実施の形態2の試料12の原画像の補正方法と異なっている。
【0082】
具体的には、
図12を参照して、本実施の形態のステップS1は、実施の形態2のステップS1と同じである。
【0083】
図12に示されるように、累乗根画像I
1’を算出するステップ(ステップS1)の後に、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS2)を行う。
【0084】
具体的には、
図13を参照して、実施の形態1の式(3)に示されるように、累乗根画像I
1’をフーリエ変換して、累乗根画像I
1’の空間周波数スペクトルF
1を算出する(ステップS2-1)。本実施の形態のステップS2-1は、実施の形態1のステップS2-1と同じである。
【0085】
式(22)に示されるように、累乗根画像I
1’の空間周波数スペクトルF
1を、光学系(照明光学系5)の光学伝達関数OTF
1でデコンボリューションして、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1d’を算出する(ステップS2-2)。実施の形態2において既に記載したとおり、光学伝達関数OTF
1は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I
2)を得る光学系(照明光学系5)の点像分布関数PSF
2の累乗根をフーリエ変換することによって算出される。第1デコンボリューション処理は、例えば、OTF
1をウィナーフィルタとして用いるデコンボリューション処理を含む。式(22)におけるw
1は、ウィナー定数を表す。
【数22】
【0086】
本実施の形態の目的は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像のSN比(コントラスト比)を向上させることである。そのため、第1デコンボリューション処理は、光学伝達関数OTF1で行われてもよいし、光学伝達関数OTF1の絶対値である変調伝達関数MTF1で行われてもよい。
【0087】
図12に示されるように、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS2)の後に、第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)を行う。
【0088】
具体的には、
図14を参照して、式(23)に示されるように、累乗根画像I
1’の補正空間周波数スペクトルF
1d’を逆フーリエ変換して、累乗根補正画像I
1d’を算出する(ステップS3-1)。
【数23】
【0089】
式(24)に示されるように、累乗根補正画像I
1d’を累乗することによって、試料12の暫定補正画像I
2dを算出する(ステップS3-2)。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、累乗根補正画像I
1d’を二乗して、試料12の暫定補正画像I
2dを算出する。具体的には、累乗根補正画像I
1d’の各画素の光強度の二乗を算出することによって、試料12の暫定補正画像I
2dの各画素の光強度が算出される。試料12の暫定補正画像I
2dでは、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS2)によって照明光学系5の遮断周波数未満の周波数を有するノイズが低減されている。
【数24】
【0090】
式(25)に示されるように、試料12の暫定補正画像I
2dをフーリエ変換して、試料12の暫定補正画像I
2dの空間周波数スペクトルF
2dを算出する(ステップS3-3)。
【数25】
【0091】
式(26)に示されるように、試料12の暫定補正画像I
2dの空間周波数スペクトルF
2dを光学系の補正光学伝達関数OTF
2bでデコンボリューションすることによって、試料12の原画像の補正空間周波数スペクトルF
2eを算出する(ステップS3-4)。第2デコンボリューション処理は、例えば、OTF
2bをウィナーフィルタとして用いるデコンボリューション処理を含む。式(26)におけるw
2は、ウィナー定数を表す。
【数26】
【0092】
本実施の形態の目的は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像のSN比(コントラスト比)を向上させることである。そのため、第2デコンボリューション処理は、補正光学伝達関数OTF2bで行われてもよいし、補正光学伝達関数OTF2bの絶対値である補正変調伝達関数MTF2bで行われてもよい。
【0093】
補正光学伝達関数OTF
2bは、補正点像分布関数PSF
2bをフーリエ変換することによって算出される。具体的には、補正光学伝達関数OTF
2bは、式(27)によって与えられる。式(27)におけるPSF
2bは、試料12を二光子励起する照明光学系5の点像分布関数に第1デコンボリューション処理を行った補正点像分布関数を表す。
【数27】
【0094】
補正点像分布関数PSF
2bは、補正点像分布関数PSF
1bを累乗することによって算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、PSF
2bは、式(28)によって与えられる。
【数28】
【0095】
補正点像分布関数PSF
1bは、試料12の原画像を得る光学系の点像分布関数PSF
2の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタGとの積を、光学伝達関数(光学伝達関数OTF
1)でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出される。例えば、試料12の原画像が試料12の二光子励起画像I
2である場合、PSF
1bは、式(29)によって与えられる。
【数29】
【0096】
本実施の形態の目的は、顕微鏡2で得られた試料12の原画像のSN比(コントラスト比)を向上させることである。そのため、補正点像分布関数PSF1bを算出するために、点像分布関数PSF2の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタGとの積は、光学伝達関数OTF1でデコンボリューションされてもよいし、光学伝達関数OTF1の絶対値である変調伝達関数MTF1でデコンボリューションされてもよい。
【0097】
図12を参照して、式(30)に示されるように、試料12の原画像の補正空間周波数スペクトルF
2eを逆フーリエ変換して、試料12の補正画像I
2fを算出する(ステップS4)。
【数30】
【0098】
本実施の形態の効果は、実施の形態2の効果と同様の以下の効果を奏する。
【0099】
本実施の形態の顕微鏡画像補正方法は、試料12の原画像(例えば、二光子励起画像I2)から試料12の累乗根画像I1’を算出するステップ(ステップS1)と、試料12の累乗根画像I1’から試料12の累乗根画像I1’の第1空間周波数スペクトル(空間周波数スペクトルF1’)を算出するステップ(ステップS2-1)と、試料12の累乗根画像I1’の第1空間周波数スペクトルを、試料12の原画像を得る光学系(照明光学系5)の点像分布関数の累乗根をフーリエ変換することによって算出される光学系の光学伝達関数(光学伝達関数OTF1)でデコンボリューションすることによって、試料12の累乗根画像I1’の第1補正空間周波数スペクトル(補正空間周波数スペクトルF1d’)を算出するステップ(ステップS2-2)と、試料12の累乗根画像I1’の第1補正空間周波数スペクトルから試料12の累乗根補正画像I1d’を算出するステップ(ステップS3-1)と、試料12の累乗根補正画像I1d’を累乗することによって試料12の暫定補正画像I2dを算出するステップ(ステップS3-2)と、試料12の暫定補正画像I2dから試料12の暫定補正画像I2dの第2空間周波数スペクトル(空間周波数スペクトルF2d)を算出するステップ(ステップS3-3)と、試料12の暫定補正画像I2dの第2空間周波数スペクトルを光学系の補正光学伝達関数(補正光学伝達関数OTF2b)でデコンボリューションすることによって、試料12の原画像の第2補正空間周波数スペクトル(補正空間周波数スペクトルF2e)を算出するステップ(ステップS3-4)とを備える。補正光学伝達関数は、第1補正点像分布関数(補正点像分布関数PSF2b)をフーリエ変換することによって算出される。第1補正点像分布関数は、第2補正点像分布関数(補正点像分布関数PSF1b)を累乗することによって算出される。第2補正点像分布関数は、試料12の原画像を得る光学系の点像分布関数の累乗根のフーリエ変換と高周波除去フィルタGとの積を、光学系の光学伝達関数(光学伝達関数OTF1)でデコンボリューションし、さらに逆フーリエ変換することによって算出される。本実施の形態の顕微鏡画像補正方法は、試料12の原画像の第2補正空間周波数スペクトルから試料12の補正画像I2fを算出するステップ(ステップS4)とを備える。
【0100】
本実施の形態の顕微鏡画像補正プログラムは、本実施の形態の顕微鏡画像補正方法の各ステップをプロセッサ20に実行させる。
【0101】
照明光学系5の光7が試料12により吸収される際に光7の電界の振幅Eが二乗されることに起因して、試料12の原画像の空間周波数スペクトルのうち照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分が減少する。そのため、試料12の原画像のSN比(コントラスト比)が低下する。本実施の形態では、第1デコンボリューション処理ステップ(ステップS2)及び第2デコンボリューション処理ステップ(ステップS3)を行っているため、照明光学系5の遮断周波数に近い空間周波数成分の振幅成分を回復させることができる。試料12の補正画像I2fのSN比(コントラスト比)が向上する。
【0102】
(実施例)
【0103】
図15から
図19を参照して、実施例1-1から実施例3-2を示しながら、実施の形態1から実施の形態3の作用及び効果を説明する。
【0104】
試料12の原画像として、SN比(コントラスト比)が10の第1原画像(
図15を参照)と、SN比が200の第2原画像とを準備した。第1原画像及び第2原画像は、コンピュータ上で作成された点像に、コンピュータ上で作成されたガウシアン分布のノイズを追加することによって、作成されている。
【0105】
実施例1-1(
図16を参照)は、実施の形態1の一つの実施例であり、第1原画像を実施の形態1のようにデノイズ処理(
図4を参照)して算出された補正画像である。実施例1-2は、実施の形態1の別の実施例であり、第2原画像を実施の形態1のようにデノイズ処理(
図4を参照)して算出された補正画像である。
【0106】
実施例2-1(
図17を参照)は、実施の形態2の一つの実施例であり、第1原画像を実施の形態2のようにデノイズ処理、第1デコンボリューション処理及び第2デコンボリューション処理(
図9を参照)して算出された補正画像である。実施例2-2は、実施の形態2の別の実施例であり、第2原画像を実施の形態2のようにデノイズ処理、第1デコンボリューション処理及び第2デコンボリューション処理(
図9を参照)して算出された補正画像である。
【0107】
実施例3-1(
図18を参照)は、実施の形態3の一つの実施例であり、第1原画像を実施の形態3のように第1デコンボリューション処理及び第2デコンボリューション処理(
図12を参照)して算出された補正画像である。実施例3-2は、実施の形態3の別の実施例であり、第2原画像を実施の形態3のように第1デコンボリューション処理及び第2デコンボリューション処理(
図12を参照)して算出された補正画像である。
【0108】
図19に、実施例1-1から実施例3-2の画像のSN比の改善率を示す。実施例1-1の画像のSN比の改善率は、実施例1-1の補正画像のSN比を第1原画像のSN比(すなわち10)で除算することによって算出される。実施例1-2の画像のSN比の改善率は、実施例1-2の補正画像のSN比を第2原画像のSN比(すなわち200)で除算することによって算出される。実施例2-1の画像のSN比の改善率は、実施例2-1の補正画像のSN比を第1原画像のSN比で除算することによって算出される。実施例2-2の画像のSN比の改善率は、実施例2-2の補正画像のSN比を第2原画像のSN比で除算することによって算出される。実施例3-1の画像のSN比の改善率は、実施例3-1の補正画像のSN比を第1原画像のSN比で除算することによって算出される。実施例3-2の画像のSN比の改善率は、実施例3-2の補正画像のSN比を第2原画像のSN比で除算することによって算出される。
【0109】
実施例1-1及び実施例1-2のSN比の改善率に示されるように、原画像に対して実施の形態1のデノイズ処理(
図4を参照)を行うことによって、補正画像のSN比が向上する。実施例3-1及び実施例3-2のSN比の改善率に示されるように、原画像に対して実施の形態3の第1デコンボリューション処理及び第2デコンボリューション処理(
図12を参照)を行うことによって、補正画像のSN比が大幅に向上する。実施例2-1及び実施例2-2のSN比の改善率に示されるように、原画像に対して実施の形態2のデノイズ処理、第1デコンボリューション処理及び第2デコンボリューション処理(
図9を参照)を行うことによって、補正画像のSN比がさらに向上する。
【0110】
今回開示された実施の形態1から実施の形態3及びそれらの変形例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。例えば、顕微鏡2は、二光子励起顕微鏡以外の多光子励起顕微鏡、共焦点顕微鏡または超解像顕微鏡などであってもよい。試料12の原画像は、二光子励起顕微鏡以外の多光子励起顕微鏡、共焦点顕微鏡または超解像顕微鏡などによって得られてもよい。本開示の範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0111】
1 顕微鏡システム、2 顕微鏡、3 コンピュータ、4 表示装置、5 照明光学系、6 光源、7 光、8 走査ミラー、9a,9b,9c,9d レンズ、10 ダイクロイックミラー、11 対物レンズ、12 試料、13 試料ステージ、14 光、15 観察光学系、16 光検出器、20 プロセッサ、22 記憶装置、25 原画像取得部、30 画像処理部、31 累乗根画像算出部、32 デノイズ処理部、33 第1デコンボリューション処理部、34 第2デコンボリューション処理部、35 補正画像算出部。