(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030078
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】生物膜中のレジオネラ属菌の可視化方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6841 20180101AFI20240229BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
C12Q1/6841 Z ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132637
(22)【出願日】2022-08-23
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 若子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR56
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】自家蛍光のある生物膜中のレジオネラ属菌を可視化する方法を提供する。
【解決手段】自家蛍光をもつ生物又は、生物膜中のレジオネラ属菌類を可視化する方法であって、in situ HCR法を適用する、レジオネラ属菌の可視化方法。前記可視化方法は、サンプルの濃縮、洗浄を行う工程、サンプルの固定を行う工程、イニシエーターDNAプローブのハイブリダイゼーションを行う工程、イニシエーターDNAプローブの洗浄を行う工程、伸長プローブの反応を行う工程、及び伸長プローブの洗浄を行う工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自家蛍光をもつ生物又は、生物膜中のレジオネラ属菌類を可視化する方法であって、in situ HCR法を適用する、レジオネラ属菌の可視化方法。
【請求項2】
前記可視化方法は、
サンプルの濃縮、洗浄を行う工程、
前記サンプルの固定を行う工程、
イニシエーターDNAプローブのハイブリダイゼーションを行う工程、
前記イニシエーターDNAプローブの洗浄を行う工程、
伸長プローブの反応を行う工程、及び
前記伸長プローブの洗浄を行う工程
を有する請求項1のレジオネラ属菌の可視化方法。
【請求項3】
前記伸長プローブの洗浄液が界面活性剤を含む、請求項2のレジオネラ属菌の可視化方法。
【請求項4】
前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである、請求項3のレジオネラ属菌の可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系、環境水系、入浴水系、排水系、土壌、生体などの生物膜中に存在するレジオネラ属菌を可視化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ属菌は生物膜中に存在し、細菌捕食性細胞中で増殖するといわれている。具体的にはアメーバやテトラヒメナ、人体ではマクロファージのなかでレジオネラ属菌が増殖した報告がある。
【0003】
それらの細胞中のレジオネラ属菌を観察するために、レジオネラ属菌のみを可視化する方法としてFluorescence in situ hybridization法(以下FISH法)が用いられている。この方法は、検出対象とする菌に特異的に反応するDNAプローブを用い、このプローブに蛍光色素を結合させ、検出対象とする菌のみを蛍光色素で染色する方法である。
【0004】
特許文献1には、DNAプローブを用いてレジオネラ属菌を検出する方法として、in situ hybridizationに言及している。しかし、特許文献1は飲料水、表層水中のレジオネラ属菌やL.pneumophila種の細菌を対象にしており、生物膜中のレジオネラ属菌を対象としていない。
【0005】
特許文献2~4には、蛍光染色により目的細胞を観察するにあたって、夾雑する蛍光を異なる色に変異させる、蛍光染色した微生物を含む試料に、微生物の輪郭を染色する液を用いる方法が記載されている。特許文献2,4では、親油性スリチル色素を希釈した溶液を用いる。特許文献3では、親油性カルボシアニン色素または親油性ナイルレッドを希釈した溶液を用いる。なお、本発明では、これらの物質は使用しない。
【0006】
特許文献5には、DANプローブの蛍光を増幅させる方法として、in situ hybridization chain reaction法(in situ HCR法)が記載されている。しかし、特許文献5には、in situ HCR法をレジオネラ属菌に適用することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005-515756号公報
【特許文献2】特開2011-45329号公報
【特許文献3】特開2011-147404号公報
【特許文献4】特開2011-172509号公報
【特許文献5】特表2019-518434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レジオネラ属菌はレジオネラ症肺炎やポンティアック熱の原因菌であり、ミスト中に含まれたレジオネラ属菌が吸引されたり、水中のレジオネラが誤飲されたりして人体に侵入し、感染、発症に至る。ミストの発生源は冷却塔、シャワー水、加湿器、修景用水などが報告されている。
【0009】
世界的にみて冷却水系は主要な感染源であり、冷却水系でのレジオネラの生態を明らかにすることは合理的なレジオネラ属菌防除を実施するために必須と考える。しかし、FISH法によるレジオネラ属菌の実冷却水系での観察報告は、学術論文でも特許出願でも見出されていない。
【0010】
この理由は、従来技術であるFISHでは、自家蛍光を持つ生物内、生物膜内のレジオネラを蛍光観察することができないためと考えられる。冷却水系の生物膜は、藻、細菌、土砂、スケールなどからなり、このうち、藻、スケールには自家蛍光があり、FISH法ではDNAプローブの蛍光を検出することができない。
【0011】
本発明は、自家蛍光のある生物膜中のレジオネラ属菌を可視化する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレジオネラ属菌の可視化方法は、自家蛍光をもつ生物又は、生物膜中のレジオネラ属菌類を可視化する方法であって、in situ HCR法を適用する、レジオネラ属菌の可視化方法である。
【0013】
本発明の一態様では、前記可視化方法は、サンプルの濃縮、洗浄を行う工程、サンプルの固定を行う工程、イニシエーターDNAプローブのハイブリダイゼーションを行う工程、イニシエーターDNAプローブの洗浄を行う工程、伸長プローブの反応を行う工程、及び伸長プローブの洗浄を行う工程を有する。
【0014】
本発明の一態様では、前記伸長プローブの洗浄液が界面活性剤を含む。
【0015】
本発明の一態様では、前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである。
【発明の効果】
【0016】
DNAプローブの蛍光増幅法としてin situ HCRを適用することにより、レジオネラ属菌の蛍光強度が、生物膜の自家蛍光と同等かそれ以上になる。その結果、FISH法では自家蛍光のある生物膜内のレジオネラを可視化することができなかったが、本発明により、自家蛍光のある生物膜内のレジオネラを可視化することができる。
【0017】
本発明の一態様において、伸長プローブの洗浄液に界面活性剤を添加すると、伸長プローブの自家蛍光生物膜に対する非特異的蛍光が抑制される。これにより、特異的DNAプローブが反応した生物の蛍光のみを検出できる。これにより、生物膜中のレジオネラ属菌をより明瞭に可視化することができる。
【0018】
本発明方法によると、レジオネラ属菌の生態を解明することができ、藻と細菌からなる生物膜中でレジオネラがフィラメント化して共存しているという、新たな知見が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の生物膜中のレジオネラ属菌の可視化方法が対象とする生物膜としては、冷却水系、環境水系、入浴水系、排水系、土壌、生体などの生物膜が例示される。
【0021】
本発明の一態様では、これらから採取したサンプル(生物膜又は生物膜懸濁液)について、以下の第1~第8工程により、レジオネラ属菌の可視化処理を行う。
第1工程:サンプルの濃縮、洗浄
第2工程:サンプルの固定
第3工程:脱水
第4工程:イニシエーターDNAプローブのハイブリダイゼーション
第5工程:洗浄
第6工程:伸長プローブの反応
第7工程:洗浄
第8工程:蛍光観察
【0022】
第1工程では、採取したサンプル(生物膜、生物膜懸濁液)を遠心分離し、上清を分離(廃棄)した後、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSということがある。)を混合し、再度遠心分離し、必要に応じこれを繰り返すことにより生物膜の濃縮及び洗浄を行う。
【0023】
1回の遠心分離は4900-5000Gで5-10min程度行うのが好ましい。PBSの混合量は、被洗浄物の体積量の100-1000倍程度が好ましい。
【0024】
第2工程のサンプル固定工程では、第1工程からのサンプル液にPBSを添加し、次いで、所定の終濃度(例えば4%)となるようにパラホルムアルデヒド溶液を添加し、所定時間(例えば0.5-18時間)保存した後、遠心分離する。次いで、上清を分離した後、再度PBSを添加し、遠心分離する。この上清の分離、PBS添加及び遠心分離を2~3回程度繰り返す。その後、沈殿物1体積当りPBSを10-100体積、エタノールをPBSと等量体積添加して混合する。この液を、FISH用スライドガラスのwellに、1well当たり5-10μL程度滴下する。その後、60℃で10-30min程度乾燥することにより、サンプルの固定を行う。
【0025】
第3工程の脱水工程では、第2工程からのスライドガラスをエタノール水溶液に浸漬した後、風乾燥する。エタノール水溶液への浸漬を行うには、エタノール濃度の異なる複数のエタノール水を用意し、エタノール濃度の低いエタノール水から順次にエタノール濃度の高いエタノール水に浸漬することが好ましい。
【0026】
風乾後、密閉容器内に収容し、46-60℃にて保管する。なお、この密閉容器内にはハイブリダイゼーションバッファーまたはWashing Bufferを適量存在させておき、モイストチャンバーとする。
【0027】
第4工程(イニシエーターDNAプローブのハイブリダイゼーション)では、イニシエーターDNAプローブをハイブリダイゼーションバッファーで、最終濃度0.4-0.5μMとなるように希釈し、この希釈液をスライドガラスに滴下し、46-60℃の湿潤環境の暗所に2-18hr静置する。
【0028】
第5工程(洗浄)は、48-60℃に加温した洗浄液に30-60分浸漬することにより行うことが好ましい。
【0029】
この洗浄液は、緩衝液であることが好ましく、NaCl0.02-0.9M及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.01wt%を含むpH約7.5の溶液がより好ましい。洗浄後は、よく水を切ってから風乾することが好ましい。
【0030】
第6工程(伸長プローブの反応)では、後述の実施例に記載の、蛍光色素を結合させたH1H2プローブを別々に増幅緩衝液で希釈し、それぞれインキュベートした後、等モル量にて混合し、各ウェルに添加し、モイストチャンバー内にて35℃で1-18hr反応させる。
【0031】
蛍光色素としては、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 488など各種のものを用いることができる。
【0032】
第7工程(洗浄工程)では、スライドガラスを、洗浄液に4℃、10min浸漬した後、超純水に浸漬し、次いでエタノールに浸漬した後、風乾する。
【0033】
この洗浄液は界面活性剤を含むことが好ましい。伸長プローブの洗浄液に界面活性剤を添加すると、伸長プローブの自家蛍光生物膜に対する非特異的蛍光が抑制される。これにより、特異的DNAプローブが反応した生物の蛍光のみを検出できる。これにより、生物膜中のレジオネラ属菌をより明瞭に可視化することができる。界面活性剤としてはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などを用いることができる。洗浄液は、界面活性剤を含む緩衝液であることがより好ましく、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.01wt%を含むリン酸緩衝液(PBS)が特に好ましい。
【0034】
第8工程(蛍光観察)では、上記のようにして準備したスライドグラスを蛍光顕微鏡に装着し、観察する。蛍光顕微鏡としては落射型蛍光顕微鏡が好適である。
【実施例0035】
[実験例-1,比較実験例1-1,比較実験例1-2]
<実験目的>
in situ HCRを適用したレジオネラ属菌単独の蛍光増幅と、FISHを適用したレジオネラ属菌単独の蛍光増幅と、冷却塔採取生物膜の自家蛍光レベルとの比較を行う。
【0036】
[実験例1](In situ HCR法によるレジオネラ属菌の可視化と輝度)
<実験条件>
以下の第1~第7工程により、In situ HCRによるレジオネラ属菌可視化を行った。
【0037】
《生物膜中のレジオネラを可視化するためのin situ HCRプロトコール》
第1工程(サンプルの濃縮、洗浄)の手順は以下の通りである。
・生物膜、生物膜を含む懸濁液をエッペンドルフチューブに入れる
・1回目 遠心分離 4900G、5min、室温
・上清の除去
・PBS(Phosphate-buffered saline)1mL添加
・2回目 遠心分離 4900G、5min、室温
・上清の除去
・PBS 1mL添加
・3回目 遠心分離 4900G、5min、室温
・上清の除去
【0038】
第2工程(サンプルの固定)は次の手順で行った。
・第1工程からのサンプルにPBSを200μL添加する。
・12%パラホルムアルデヒド 100μLを添加し、4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液とした後、室温にて30min静置
・遠心分離 4900G、5min、室温
・上清の除去
・PBS 1mL添加
・遠心分離 4900G、5min、室温
・上清の除去
・PBS 1mL添加
・遠心分離 4900G、5min、室温
・上清の除去
・PBS 50μL添加
・99.5%エタノール50μL添加
・FISH用スライドガラスを用意し、キムタオルの上に載せる
・1well当たり10μL程度のサンプルをwellに滴下する。
・60℃、10~15分間乾燥
【0039】
第3工程(脱水工程)の手順は以下の通りである。
・第2工程で乾燥させたスライドグラスを50%エタノールに3min,室温で浸漬する。
・次いで、80%エタノールに1min,室温で浸漬する。
・次いで96%エタノールに1min,室温で浸漬する。
・風乾 (1min)する。
・蓋のある密閉容器にWashing Bufferを5mL程度加え(モイストチャンバー)に収納し、蓋をしっかり閉めて46℃に設定されたインキュベーターで温めておく。Washing Bufferの組成は以下の通りである。
5 M NaCl 700μL(0.7mL)
1M Tris-HCl(pH7.5)1mL
超純水 48.3mL
10% SDS 50μL
【0040】
第4工程(イニシエーターDNAプローブのハイブリダイゼーション)は以下の手順で行った。
・イニシエーターDNAプローブをハイブリダイゼーションバッファーに最終濃度0.5μMになるよう希釈する。
イニシエーターDNAプローブとして、Initiator H配列 CCGAATACAAAGCATCAACGACTAGAAAAAAが菌を検出するプローブの5’末端に結合されているDNAプローブを用いた。また、ハイブリダイゼーションバッファーの組成(1mL当り)は次の通りである。
【0041】
デキストラン硫酸 100mg
超純水 350μL
5M NaCl 180μL
1M Tris-HCl(pH7.5)20μL
ホルムアミド(FA)終温度35% 350μL
ブロッキング試薬(10% Blocking Reagent in PBS pH 7.0
Blocking Reagent: Roche REF
No.11096176001
For nucleic acid hybridization
and detection) 100μL
10% SDS 1μL
スライドガラスにプローブを約8μL滴下する。
【0042】
・46℃ 湿潤環境で16時間 暗所・静置
【0043】
第5工程(洗浄)は以下の手順で行った。
【0044】
・Washing Bufferを48℃に設定したウォーターバスで保温する。Washing Bufferの組成は以下の通りである。
【0045】
5 M NaCl 700μL(0.7mL)
1M Tris-HCl(pH7.5)1mL
超純水 48.3mL
10% SDS 50μL
・十分浸る量の48℃ washing bufferを一回通す
・48℃ washing bufferに30min遮光下で浸漬する
・よく水を切って、風乾(3min)し、遮光状態とする。
【0046】
第6工程(伸長プローブ(H1H2プローブ)の反応)は、次の手順で行った。
【0047】
・H1H2プローブを別々に5μMになるように増幅緩衝液(Amplification Buffer)に希釈する。
H1プローブ配列は5’TCTAGTCGTTGATGCTTTGTATTCGGCGACAGATAACCGAATACAAAGCATC3’(3’側に蛍光色素として Alexa Fluor 488を結合させる)であり;H2プローブ配列は、5’CCGAATACAAAGCATCAACGACTAGAGATGCTTTGTATTCGGTTATCTGTCG3’(5’側に蛍光色素としてAlexa Fluor 488を結合させる)である。また、Amplification bufferの組成(1mL当り)は以下の通りである。
【0048】
デキストリン硫酸 100mg
超純水 620μL
5M NaCl 180μL
500mM Na2HPO4 100μL
ブロッキング試薬(10% Blocking Reagent in PBS pH 7.0
Blocking Reagent: Roche REF
No.11096176001
For nucleic acid hybridization
and detection) 100μL
10% SDS 1μL
・H1,H2プローブを95℃90秒、25℃30分インキュベートする
・H1,H2プローブを等量混合する(終濃度:2.5μM)
・各ウェルに約10μL滴下する
・モイストチャンパー内にて35℃で1h反応させる。
【0049】
用いたDNAプローブ、細菌の一覧とその組み合わせを表1に示す。
【0050】
レジオネラ属菌にはLegionella pneumophila ATCC33153を用いた。
【0051】
マイナスコントロール用の微生物にはPseudomonas aeruginosaATCC15692を用いた。
【0052】
レジオネラ属を検出するための特異的プローブはLEG705プローブ Wermer Manz, et.al. In situ identification of Leigonellaceae using 16s rRNA-targeted oligonucleotide probes and confocal laser scanning microscopy Microbiology (1995), 141. 29-39を用いた。
【0053】
マイナスコントロール用のプローブはanti EUB338プローブを用いた。
【0054】
また、伸長プローブ(Amplification probe H1H2)の非特異的反応の有無を明らかにするためにDNAプローブを添加せず伸長プローブのみを反応させる系を実施した。
【0055】
伸長プローブH1の3’側、H2プローブの5’側に、それぞれAlexa Fluor 488蛍光色素(励起光495nm、蛍光519nm)を共有結合させた。
それぞれのプローブの塩基配列を表2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
第7工程(洗浄)は以下の手順で行った。
・スライドグラスの液がのっている面を下にし、スライドグラスを指ではじいて液を落とす。
・50mLの0.01%SDSを含む1×PBS(伸長プローブ洗浄液)に浸し、4℃で10分間洗浄した後、スライドグラスを洗浄液から取り出して、スライドグラスの表面の液が切れるまで静置する。
・超純水に30秒浸漬する。
・96%エタノールに30秒間浸漬する。
・風乾し、4℃で保存する。
【0059】
第8工程(蛍光観察)は、落射蛍光顕微鏡BX52(オリンパス)で実施した。ダイクロイックミラーはU-MWIB3を用い、対物レンズは倍率60倍を用いて観察した。
【0060】
撮影はアプリケーションcellsenceを用いて行い、輝度の定量は同アプリケーション中のプロファイリング機能で定量した。
【0061】
[比較実験例1-1]
<実験目的>
FISH法によるレジオネラ属菌の可視化と輝度測定を行った。
【0062】
<実験条件>
用いた細菌は実験例1と同じである。
【0063】
DNAプローブには、実験例1と同じLEG705とantiEUB338(それぞれ5’末端にAlexa Fluor 488を結合)を用いた。
【0064】
FISH法によるハイブリダイゼーションのプロトコールは、以下のように、第1工程-第3工程は実験例-1と同一とし、以下の第4工程及び第5工程と第6工程(実験例-1の第8工程に相当)とを行った。
【0065】
《FISHによるレジオネラ可視化のプロトコール》
第1~第3工程は、実験例1の第1~第3工程と同一。
【0066】
第4工程(DNAプローブのハイブリダイゼーション)の手順は、以下の通りである。
・DNAプローブをハイブリダイゼーションバッファーに最終濃度500ng/100μLになるよう希釈する。DNAプローブとしては、Alexa Fluor 488蛍光色素が5’末端に結合されているDNAプローブを用いた。ハイブリダイゼーションバッファーの組成(最終濃度)は、以下の通りである。
【0067】
0.9M NaCl
0.01% SDS
20mM Tris-HCl pH7.6
・スライドガラスにプローブを約8μL滴下
・60℃ 密閉容器にハイブリダイゼーションバッファーを1mL添加し、台の上にスライドグラスを置いて、湿潤環境で16時間暗所に静置
【0068】
第5工程(洗浄)の手順は、以下の通りである。
・洗浄用緩衝液を60℃に設定したウォーターバスで保温する。洗浄用緩衝液の組成(最終濃度)は、以下の通りである。
【0069】
20mM Tris-HCl pH7.2
180mM NaCl
0.01% SDS
・60℃の洗浄用緩衝液(十分浸る量)に一回通す
・60℃の洗浄用緩衝液に15min浸す(遮光下)。
・500mLビーカーに超純水を入れて、スライドグラス全体を浸す。
・よく水を切って、そのあと風乾(3min)する(遮光下)。
【0070】
第6工程(蛍光観察)は、実験例1の第8工程と同一条件で実施した。
【0071】
[比較実験例1-2](冷却塔採取生物膜の自家蛍光の観察)
<実験条件>
冷却塔D2CT2から採取した生物膜を用いた。レジオネラ属菌検出用のプローブを添加せずに比較実験例1-1と同じ工程を行ったのち、蛍光観察を実施した。
【0072】
<実験例1、比較実験例1-1、比較実験例1-2の結果・考察>
図1~3に蛍光画像を示す。
図1は、実験例1(L.pneumophilaの蛍光像 in situ HCR)である。
図2は、比較実験例1-1(L.pneumophilaの蛍光像 FISH)、
図3は、比較実験例1-2(冷却塔から採取した藻と細菌の生物膜(D2CT2-2)の自家蛍光像である。
【0073】
蛍光画像の輝度の測定結果を表3に示す。表3の通り、L.pneumophilaの蛍光はin situ HCRを適用した実験例1では、FISH法を採用した比較実験例1-1の約2倍になった。
【0074】
比較実験例1-2で測定した、冷却塔から採取した生物膜の自家蛍光は、比較実験例1-1でFISH法により蛍光染色されたL.pneumophilaの蛍光よりも強かった。
【0075】
in situ HCRを適用した実験例1のL.pneumophilaの輝度は生物膜の自家蛍光と同等以上であった。
【0076】
【0077】
[実験例2,比較実験例2-1,2-2]
<実験目的>
冷却塔生物膜に対する伸長プローブの非特異的蛍光と、界面活性剤添加による非特異的蛍光の抑制効果を確認する。
【0078】
[実験例2]
<実験条件>
比較実験例1-2と同じ冷却塔D2CT2から採取した生物膜について非特異的蛍光を測定した。実験条件は、プロトコールにおいてイニシエーターDNAプローブを添加しなかったことを除いて、実験例1と同一とした。
【0079】
[比較実施例2-1](伸長プローブ(H1H2プローブ)洗浄液に界面活性剤が添加されていない場合)
<実験条件>
実験条件は、伸長プローブ洗浄液にSDSを添加しなかったことを除いて、実験例2と同一とした。
【0080】
[比較実験例2-2](冷却塔生物膜に対する伸長プローブの非特異的蛍光抑制における界面活性剤Tween20の効果)
<実験条件>
実験条件は、伸長プローブ洗浄液に、界面活性剤として、SDSに替えてTween20を0.01wt%添加したこと以外は実験例2と同一とした。
【0081】
<実験例2、比較実験例2-1、比較実験例2-2の結果・考察>
撮影画像を
図4(実験例2)、
図5(比較実験例2-1)、
図6(比較実験例2-2)に示す。
【0082】
実験例2では、
図4の通り、H1H2プローブ由来の蛍光が生じなかったが、
図5の通り、比較実験例2-1ではH1H2プローブ由来の蛍光があばた状に生じた。
【0083】
また、
図4(b),5(b),6(b)に数字1~5、6~10で示した地点の輝度を表4~6に示す。表4~6の通り、H1H2の非特異的反応から生ずる緑色蛍光の輝度は200以上であった。SDSを添加したことによりあばた状の強い緑色蛍光は消失し、輝度は100程度で、半減されたことが判る。
【0084】
SDSとTween20とについて非特異的反応抑制の効果を比較すると、Tween20は、同濃度のSDSと比較して、緑色の蛍光を示す藻が多く、また、細胞間にも緑色蛍光の沈着が認められた。その輝度を測定すると、SDS添加による洗浄より露光時間が短いにもかかわらず、約2倍の値を示した。このことから、界面活性剤としては、SDSの方が非特異的反応抑制効果に優れていると考えられる。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
[実施例1~3、比較例1~3]
<実験目的>
レジオネラと共培養した生物膜に対するレジオネラ属特異的DNAプローブの反応について、In situ HCR法(実施例)の場合とFISH法(比較例)の場合で比較する。
【0089】
[実施例1](L. pneumophilaとD2CT2-2生物膜を共培養した生物膜に対するin situ HCR適用例)
<実験条件>
共培養に用いた培地は藻に用いるMA培地(MA:Media for freshwater, terrestrial, hot spring and salt water algae)を用いた。組成を下記に示す。(Ichimura, T. 1979 2. Isolation and culture methods of algae. 2.5.B.
Freshwater algae [2. Sorui no bunri to baiyoho. 2.5.B. Tansui sorui]. In
Methods in Phycological Studies [Sorui Kenkyuho], Eds. by Nishizawa, K. and
Chihara, M., Kyoritsu Shuppan, Tokyo, p. 294-305 (in Japanese without English
title).)
<MA培地組成>
Ca(NO3)2・4H2O 5mg
KNO3 10mg
NaNO3 5mg
Na2SO4 4mg
MgCl2・6H2O 5mg
β-Na2glycerophosphate・5H2O 10mg
Na2EDTA・2H2O 0.5mg
FeCl3・6H2O 0.05mg
MnCl2・4H2O 0.5mg
ZnCl2 0.05mg
CoCl2・6H2O 0.5mg
Na2MoO4・2H2O 0.08mg
H3BO3 2mg
Bicine 50mg
蒸留水 100mL
pH 8.6
【0090】
上記のMA培地50mLを100mL容三角フラスコに入れ、121℃、20分オートクレーブ滅菌した。
【0091】
冷却塔から採取した、藻と細菌からなる生物膜D2CT2を、A660nm吸光度1.0に合わせて、滅菌済みMA培地に1/50容量添加し、懸濁させた。
【0092】
レジオネラ属菌にはL.pneumophila ATCC33151 を用い、BCYEα寒天培地を用いて30℃で培養し、A660nm吸光度0.1の懸濁液を作成し、MA培地の1/100容量を添加した。
【0093】
これを北向きの窓辺で約一ヶ月室温静置した。室温は25-28℃であった。
【0094】
この生物膜を1mL採取し、in situ HCRに供した。in situ HCRの実験方法は実験例1と同様に行った。
【0095】
[比較例1](実施例1と同条件で共培養した生物膜に対するFISH法によるレジオネラ属菌のDNAプローブの反応)
<実験条件>
共培養は実施例1と同様に行なった。サンプルをFISH法に供した。FISH法は比較実験例1-1と同様に実施した。
【0096】
<実施例1、比較例1の結果・考察>
実施例1の撮影画像を
図7~9に示す。比較例1の撮影画像を
図10、11に示す。また、DNAプローブ反応生物の輝度と周辺の生物膜の輝度の測定結果を表7に示す。
【0097】
図7の通り、実施例(In situ HCR法を適用)の生物膜中にレジオネラ属特異的DNAプローブが反応したとみられる蛍光が観察された。これは大きさと、形からレジオネラ属菌と考えられる。
【0098】
レジオネラ属特異的DNAプローブが反応した微生物のなかには、
図8,9の通り、フィラメント状のものも観察された。
【0099】
このように、in situ HCRの適用により自家蛍光を示す藻の生物膜中のレジオネラ属菌を可視化することが可能になった。
【0100】
その結果、藻と細菌の生物膜内でレジオネラ属菌がフィラメント化していると考えられた。これは従来アメーバなどの細菌捕食性細胞内で報告されているレジオネラ属菌の形態が桿菌あるのに対して新しい知見である。
【0101】
一方、比較例1(FISH法を適用)の生物膜では、
図10の通り、生物膜周辺にレジオネラ属特異的DNAプローブが反応した細菌と考えられる蛍光が観察されても、生物膜内の細菌類を判別することはできなかった。なお、
図10,11において、〇すなわち円形(楕円形)の線分で囲まれた部分が、レジオネラ属検出用プローブ由来の緑色蛍光輝度測定部分である。
【0102】
また、
図11の通り、生物膜周辺であってもレジオネラ属特異的DNAプローブが反応した微生物の蛍光が弱く、フィラメント化した形態は判然としなかった。
DNAプローブ反応生物の輝度と周辺の生物膜の輝度の測定結果を表7に示す。
【0103】
【0104】
表7の通り、In situ HCR法を適用した実施例1の場合、レジオネラ属菌検出用プローブが反応した部分の輝度は生物膜部分の0.8-1.6倍の範囲であった。これは、生物膜と同等かそれ以上の輝度であることを示す。
【0105】
一方FISH法を適用した比較例1の場合、レジオネラ検出用プローブが反応したと思われる輝度は0.4-0.5倍で、生物膜の輝度の半分程度であった。
【0106】
このような理由で、FISH法では不可能な観察が、in situ HCR法を適用することにより可能になったと考えられる。