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特開2024-30123ステンレスロール、ガラス製造装置およびガラス製造方法
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  • 特開-ステンレスロール、ガラス製造装置およびガラス製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030123
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ステンレスロール、ガラス製造装置およびガラス製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240229BHJP
   C03B 35/16 20060101ALI20240229BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C03B35/16
C22C38/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132696
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中澤 奈美
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 章文
(72)【発明者】
【氏名】谷井 史朗
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015GA00
(57)【要約】
【課題】高温で使用するステンレスロールの表面荒れを抑制する、技術を提供する。
【解決手段】ステンレスロールは、ステンレス鋼からなる。前記ステンレス鋼は、質量%で、Nb:0.005%超~0.40%未満を含有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなるステンレスロールであって、
前記ステンレス鋼は、質量%で、Nb:0.005%超~0.40%未満を含有する、ステンレスロール。
【請求項2】
前記ステンレス鋼は、質量%で、Fe:40%超~80%未満、Cr:15%超~30%未満、Ni:5%超~25%未満、C:0.1%超~1.0%未満、Si:0%超~5%未満、Mn:0%超~2%未満を含有する、請求項1に記載のステンレスロール。
【請求項3】
前記ステンレス鋼は、質量%で、Fe:40%超~80%未満、Cr:15%超~30%未満、Ni:5%超~25%未満、C:0.1%超~1.0%未満、Si:0%超~1.5%未満、Mn:0%超~1%未満を含有する、請求項1に記載のステンレスロール。
【請求項4】
ガラスを搬送するのに用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載のステンレスロール。
【請求項5】
前記ガラスの温度が500℃~900℃である、請求項4に記載のステンレスロール。
【請求項6】
前記ガラスが無アルカリガラスである、請求項5に記載のステンレスロール。
【請求項7】
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形する成形装置と、前記ガラスリボンを徐冷する徐冷装置と、を備える、ガラス製造装置であって、
前記徐冷装置は、熱処理炉と、前記熱処理炉の内部で前記ガラスリボンを搬送する搬送ロールと、を有し、
前記搬送ロールは、請求項1~3のいずれか1項に記載のステンレスロールである、ガラス製造装置。
【請求項8】
前記ステンレスロールは、500℃~900℃で前記ガラスリボンを搬送するのに用いられる、請求項7に記載のガラス製造装置。
【請求項9】
前記ガラスリボンが無アルカリガラスである、請求項7に記載のガラス製造装置。
【請求項10】
溶融ガラスを帯板状のガラスリボンに成形することと、前記ガラスリボンを搬送ロールで搬送しながら徐冷することと、を有する、ガラス製造方法であって、
前記搬送ロールは、請求項1~3のいずれか1項に記載のステンレスロールである、ガラス製造方法。
【請求項11】
前記ステンレスロールは、500℃~900℃で前記ガラスリボンを搬送するのに用いられる、請求項10に記載のガラス製造方法。
【請求項12】
前記ガラスリボンが無アルカリガラスである、請求項10に記載のガラス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステンレスロール、ガラス製造装置およびガラス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製造装置は、帯状のガラスリボンを搬送する複数の金属ロールと、ガラスリボンの下面に亜硫酸(SO)ガスを吹き付けるノズルと、を備える(例えば特許文献1参照)。亜硫酸ガスは、ガラスの構成成分と反応することで、硫酸ナトリウムなどの硫酸塩の緩衝膜をガラスリボンの下面に形成する。
【0003】
特許文献2には、コイラードラム(鋼板巻き取り用ロール)の材料として、質量%で、C:0.2%~0.4%、Si:2%以下、Mn:4%以下、Cr:22%~26%、Ni:13%~25%、Nb:0.8~2%、N:0.1~0.25%を含有する耐熱鋳鋼が開示されている。Nbは、Cと結合してNbCを析出してクリープ強度を高め、また固溶Cの低減効果として、時効後の延性を高める。延性改善効果が十分に得られるように、Nb含有量は0.8質量%以上に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/051767号
【特許文献2】特許第3486713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステンレス鋼からなるステンレスロールが知られている。ステンレス鋼は、一般的に、Cr含有量が10.5質量%以上であって且つC含有量が1.2質量%以下である鋼のことである。ステンレス鋼の表面は、不動態皮膜で覆われる。不動態皮膜は、Cr酸化膜であり、ステンレス鋼の内部の腐食を防止する。
【0006】
ステンレス鋼において、鋭敏化と呼ばれる現象が生じることがある。鋭敏化は、結晶粒の粒界においてCrとCが結合してCr炭化物が析出し、その近傍でCrが欠乏してCr欠乏層が生じる現象である。Cr欠乏層の近くでは、Cr酸化膜が形成され難く、耐食性が低くなる。その結果、赤さびが生じ、表面粗さが大きくなる。鋭敏化は、圧延材よりも鋳造材で顕著である。鋳造材は、圧延材よりもC含有量が大きいからである。ステンレスロールは、一般的に鋳造材である。
【0007】
本開示の一態様は、ステンレス鋼からなるステンレスロールの表面荒れを抑制する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るステンレスロールは、ステンレス鋼からなる。前記ステンレス鋼は、質量%で、Nb:0.005%超~0.40%未満を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、Nb含有量が0.005質量%を超えることで、NbがCrの代わりにCと十分に結合する。これにより、鋭敏化を抑制でき、赤さびの発生を抑制でき、ステンレスロールの表面荒れを抑制できる。また、Nb含有量が0.40質量%未満であることで、Nb酸化物の粒子がステンレスロールの表面に析出するのを抑制でき、ステンレスロールの表面荒れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係るガラス製造装置を示す断面図である。
図2図2は、ステンレス鋼の鋭敏化の一例を示す断面図である。
図3図3は、例1~例6に係るステンレス鋼板のNb含有量と加熱処理後の算術平均粗さRaの関係を示す図である。
図4図4は例1に係るステンレス鋼板を加熱処理した後の反射電子線像であって、(A)は表面の反射電子線像であり、(B)は切断面の反射電子線像である。
図5図5は例4に係るステンレス鋼板を加熱処理した後の反射電子線像であって、(A)は表面の反射電子線像であり、(B)は切断面の反射電子線像である。
図6図6は例6に係るステンレス鋼板を加熱処理した後の反射電子線像であって、(A)は表面の反射電子線像であり、(B)は切断面の反射電子線像であり、(C)は(B)の白線で囲んだ領域を拡大した反射電子線像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
図1を参照して、一実施形態に係るガラス製造装置1について説明する。図1において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに垂直な方向であって、X軸方向及びY軸方向は水平方向、Z軸方向は鉛直方向である。X軸方向がガラスリボンGの搬送方向であり、Y軸方向がガラスリボンGの幅方向である。
【0013】
ガラス製造装置1は、例えば、ガラスリボンGの搬送方向上流側から下流側に向けて、成形装置2と、中継装置3と、徐冷装置5と、を備える。成形装置2は、溶融ガラスを帯板状のガラスリボンGに成形する。中継装置3は、ガラスリボンGを成形装置2から徐冷装置5に送る。徐冷装置5は、ガラスリボンGを徐冷する。ガラス製造装置1は、徐冷したガラスリボンGを切断することで、ガラス板を製造する。
【0014】
ガラスリボンG及びガラス板は、例えば無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス又はソーダライムガラスなどである。無アルカリガラスとは、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスを意味する。ここで、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、アルカリ金属酸化物の含有量の合量が0.1質量%以下を意味する。
【0015】
無アルカリガラスは、酸化物基準の質量%表示で、SiO:50%~66%、Al:10.5%~24%、B:0%~12%、MgO:0%~8%、CaO:0%~14.5%、SrO:0%~24%、BaO:0%~13.5%、MgO+CaO+SrO+BaO:9%~29.5%、ZrO:0%~5%を含有する。
【0016】
ガラス板の用途は、特に限定されないが、例えばディスプレイ(例えば液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等)のガラス基板である。ガラス板の用途がディスプレイのガラス基板である場合、ガラス板は無アルカリガラスである。なお、ガラス板の用途がカバーガラスである場合、ガラス板は化学強化用ガラスである。化学強化用ガラスは、無アルカリガラスとは異なり、アルカリ金属酸化物を含有する。
【0017】
ガラス板の厚みは、ガラス板の用途に応じて選択される。ガラス板の用途がディスプレイのカバーガラスである場合、ガラス板の厚みは例えば0.1mm~2.0mmである。ガラス板の用途がディスプレイのガラス基板である場合、ガラス板の厚みは例えば0.1mm~0.7mmである。ガラス板の用途が自動車のウィンドシールドである場合、ガラス板の厚みは例えば0.2mm~3.0mmである。
【0018】
次に、図1を再度参照して、一実施形態に係る成形装置2、中継装置3、及び徐冷装置5についてこの順番で説明する。成形装置2は、例えばフロート法でガラスリボンGを成形する。なお、成形方法は、フュージョン法などであってもよい。以下、フロート法の成形装置2について説明する。
【0019】
成形装置2は、浴槽21を備える。浴槽21は、溶融金属Mを収容する。溶融金属Mとしては、例えば溶融スズが用いられる。溶融スズの他に、溶融スズ合金なども使用可能であり、溶融金属Mは溶融ガラスよりも高い密度を有するものであればよい。溶融ガラスは、溶融金属Mの上に連続的に供給され、溶融金属Mの平滑な液面を利用して、帯板状のガラスリボンGに成形される。
【0020】
成形装置2は、浴槽21の上方に天井22を備える。成形装置2の内部は、溶融金属Mの酸化を防止するため、還元性ガスで満たされ、大気圧よりも高い気圧に維持される。還元性ガスは、例えば窒素ガスと水素ガスとの混合ガスであり、窒素ガスを85体積%~98.5体積%、水素ガスを1.5体積%~15体積%含んでいる。還元性ガスは、天井22のレンガ同士の目地及び天井22の孔から供給される。
【0021】
成形装置2は、ガラスリボンGを加熱するヒータ23を備える。ヒータ23は、例えば天井22から吊り下げられ、下方を通過するガラスリボンGを加熱する。ヒータ23は、例えば電気ヒータであって、通電加熱される。ヒータ23は、ガラスリボンGの搬送方向と幅方向に行列状に複数配列される。複数のヒータ23の出力を制御することにより、ガラスリボンGの温度分布を制御でき、ガラスリボンGの板厚分布を制御できる。
【0022】
中継装置3は、ドロスボックス31と、リフトアウトロール32を備える。ドロスボックス31は、ドロスを回収する。ドロスは、ガラスリボンGと共にドロスボックス31の内部に持ち込まれた溶融金属Mが酸化した酸化物である。リフトアウトロール32は、ドロスボックス31の内部に設けられ、ガラスリボンGを溶融金属Mから引き上げる。リフトアウトロール32は、ガラスリボンGの搬送方向(X軸方向)に間隔をおいて複数配置される。リフトアウトロール32の数は、特に限定されない。リフトアウトロール32は、円柱形状である。リフトアウトロール32は、中実でも中空でもよい。リフトアウトロール32は、モータ等の駆動装置(不図示)によって回転駆動され、その駆動力によってガラスリボンGを斜め上方に向けて搬送する。リフトアウトロール32の軸方向は、ガラスリボンGの幅方向(Y軸方向)と同一方向である。
【0023】
中継装置3は、ガラスリボンGの温度を調整すべく、天井にヒータ37を備えてもよい。ヒータ37は、ガラスリボンGの上方のみならず、下方にも設けられてもよい。中継装置3において、ガラスリボンGの温度は、ガラスリボンGのガラス転移点Tgを基準として、(Tg-50)℃~(Tg+30)℃であることが好ましい。
【0024】
徐冷装置5は、徐冷炉51と、レヤーロール52と、を備える。レヤーロール52は、帯状のガラスリボンGを、ガラスリボンGの長手方向(X軸方向)に搬送する。徐冷炉51は、熱処理炉の一例である。また、レヤーロール52は、搬送ロールの一例である。レヤーロール52は、ガラスリボンGの搬送方向に間隔をおいて複数設けられる。レヤーロール52の数は、特に限定されない。レヤーロール52は、円柱形状である。レヤーロール52は、中実でも中空でもよい。レヤーロール52は、モータ等の駆動装置(不図示)によって回転駆動され、その駆動力によってガラスリボンGを水平方向(X軸方向)に搬送する。レヤーロール52の軸方向は、ガラスリボンGの幅方向(Y軸方向)と同一方向である。
【0025】
徐冷装置5は、ガラスリボンGをレヤーロール52によって搬送しながらガラスの歪点以下の温度に徐冷する。徐冷装置5は、ガラスリボンGの温度を調整するため、内部に不図示のヒータを備える。
【0026】
徐冷装置5は、ガラスリボンGの下面に緩衝剤を吹き付ける供給パイプ53を備える。緩衝剤は、ガラスリボンGの下面と反応し、ガラスリボンGの下面に緩衝膜を形成する。緩衝膜は、ガラスリボンGとレヤーロール52との衝突を緩和し、ガラスリボンGの下面に傷が発生するのを抑制する。
【0027】
緩衝剤としては、例えば酸化硫黄ガスが用いられる。酸化硫黄ガスは、ガラスリボンGの下面と反応し、ガラスリボンGの下面に緩衝膜を形成する。緩衝膜は、硫酸塩の結晶などを含む。
【0028】
供給パイプ53は、酸化硫黄ガスと共に希釈ガスを吹き付けてもよい。希釈ガスは、酸化硫黄ガスを希釈し、気流の速度を維持しながら、酸化硫黄ガスの使用量を低減する。希釈ガスとしては、例えば空気などが用いられる。
【0029】
供給パイプ53には、不図示のバンドヒータが巻き付けられてもよい。バンドヒータは、供給パイプ53を加熱することで、緩衝剤を加熱し、緩衝剤とガラスリボンGの反応を促進する。
【0030】
供給パイプ53は、例えば、ガラスリボンGの搬送方向の上流側から下流側に向けて1番目と2番目のレヤーロール52、52の間に配置される。徐冷装置5の比較的上流側で緩衝膜を形成でき、ガラスリボンGの下面に傷が発生するのを抑制できる。
【0031】
なお、供給パイプ53は、図示しないが、1番目(最上流)のレヤーロール52によりも上流側に配置されてもよい。また、供給パイプ53は、図示しないが、2番目のレヤーロール52よりも搬送方向下流側に配置されてもよい。
【0032】
ところで、レヤーロール52として、ステンレスロールが用いられることがある。ステンレスロールは、ステンレス鋼からなる。ステンレス鋼は、一般的に、Cr含有量が10.5質量%以上であって且つC含有量が1.2質量%以下である鋼のことである。ステンレス鋼の表面は、不動態皮膜で覆われる。不動態皮膜は、Cr酸化膜であり、ステンレス鋼の内部の腐食を防止する。
【0033】
図2に示すように、ステンレス鋼において、鋭敏化と呼ばれる現象が生じることがある。鋭敏化は、結晶粒の粒界においてCrとCが結合してCr炭化物101が析出し、その近傍でCrが欠乏してCr欠乏層102が生じる現象である。Cr欠乏層102の近くでは、Cr酸化膜103が形成され難く、耐食性が低くなる。その結果、赤さびが生じ、表面粗さが大きくなる。
【0034】
そこで、本実施形態では、ステンレスロールを構成するステンレス鋼として、質量%で、Nb:0.005%超~0.40%未満を含有するステンレス鋼を使用する。Nb含有量が0.005質量%を超えていれば、NbがCrの代わりにCと十分に結合する。これにより、鋭敏化を抑制でき、赤さびの発生を抑制でき、ステンレスロールの表面荒れを抑制できる。また、Nb含有量が0.40質量%未満であれば、Nb酸化物の粒子がステンレスロールの表面に析出するのを抑制でき、ステンレスロールの表面荒れを抑制できる。
【0035】
ステンレスロールを構成するステンレス鋼のNb含有量は、上記の通り0.005%超~0.40%未満であればよいが、好ましくは0.005%超~0.30%未満であり、より好ましくは0.005%超~0.20%未満であり、さらに好ましくは0.005%超~0.10%未満であり、特に好ましくは0.005%超~0.05%未満である。上記のNb含有量は、好ましくは0.01%~0.36%である。
【0036】
ステンレスロールの表面粗さは、算術平均粗さRaで代表する。算術平均粗さRaは、好ましくは0.01μm~0.6μmである。算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠して測定する。算術平均粗さRaは、より好ましくは0.01μm~0.4μmであり、さらに好ましくは0.01μm~0.3μmであり、特に好ましくは0.01μm~0.2μmである。
【0037】
ステンレスロールを構成するステンレス鋼は、特に限定されないが、好ましくは、質量%で、Fe:40%超~80%未満、Cr:15%超~30%未満、Ni:5%超~25%未満、C:0.1%超~1.0%未満、Si:0%超~5%未満、Mn:0%超~2%未満、Nb:0.005%超~0.40%未満を含有する。具体的な鋼種として、ASTM(American Society for Testing and Materials) A351に記載のHK40が挙げられる。なお、ASTM規格において、HK40のNb含有量は規定されていない。
【0038】
ステンレスロールを構成するステンレス鋼は、より好ましくは、質量%で、Fe:40%超~80%未満、Cr:15%超~30%未満、Ni:5%超~25%未満、C:0.1%超~1.0%未満、Si:0%超~1.5%未満、Mn:0%超~1%未満、Nb:0.005%超~0.40%未満を含有する。
【0039】
Si含有量が1.5質量%未満であれば、Si酸化物の粒子がステンレスロールの表面に析出するのを抑制でき、ステンレスロールの表面荒れをより抑制できる。また、Mn含有量が1%未満であれば、Mn酸化物の粒子がステンレスロールの表面に析出するのを抑制でき、ステンレスロールの表面荒れをより抑制できる。
【0040】
ステンレスロールは、好ましくは500℃~900℃でガラスを搬送するのに用いられる。搬送対象のガラスは、例えばガラスリボンGである。500℃~900℃において、ガラスは、柔らかく、傷付きやすい。また、鋭敏化が生じうる温度は、実質的に500℃~900℃である。温度が低過ぎると鋭敏化は非常に遅く、温度が高過ぎるとCrの拡散速度が速く、Cr欠乏層102が生じ難い。本実施形態によれば、上記の通り、ステンレスロールを構成するステンレス鋼のNb含有量を所望の範囲に収めることで、ステンレスロールの表面荒れを抑制できる。それゆえ、ステンレスロールによってガラスが傷付くのを抑制できる。表面が滑らかであるほど、傷が付きにくい。
【0041】
ステンレスロールの表面荒れを抑制する効果は、ガラスが無アルカリガラスである場合に顕著である。無アルカリガラスは、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しない。そのため、無アルカリガラスは、ソーダライムガラスに比べて、酸化硫黄ガスを用いて十分な膜厚の緩衝膜を形成し難く、ステンレスロールの表面荒れの影響を受けやすいからである。
【0042】
なお、ステンレスロールは、本実施形態ではレヤーロール52として用いられるが、リフトアウトロール32として用いられてもよい。また、ステンレスロールは、帯状のガラスリボンGの搬送だけではなく、ガラス板またはガラス瓶を搬送してもよい。また、ステンレスロールは、ガラス以外の物体の搬送に用いられてもよい。ステンレスロールは、セラミックを溶射で被膜するロールの母材としても使用可能である。
【実施例0043】
以下、実験データについて説明する。例1及び例6が比較例であり、例2~例5が実施例である。例1~例6では、表1に示す化学組成のステンレス鋼板を準備した。各ステンレス鋼板の化学組成(C含有量とS含有量を除く)は、蛍光X線分析法で測定した。各ステンレス鋼板のC含有量とS含有量は、燃焼-赤外線吸収法で測定した。
【0044】
各ステンレス鋼板を大気雰囲気において750℃で10時間加熱した後、各ステンレス鋼板の表面の算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaは、接触式表面粗さ計(東京精密SURFCOM TOUCH 50)を用いて測定した。なお、加熱処理前に、各ステンレス鋼板の表面は、同じ条件で鏡面研磨した。従って、加熱処理前に、各ステンレス鋼板の表面は、同じ表面粗さRa(具体的には0.1μm~0.2μm)を有していた。
【0045】
各ステンレス鋼板の化学組成と、加熱処理後の算術平均粗さRaと、を表1に示す。
【0046】
【表1】
例1~例6に係るステンレス鋼板のNb含有量と、加熱処理後の算術平均粗さRaの関係を図3に示す。図3から、Nb含有量が0.005質量%超および0.40質量%未満において、加熱処理後の算術平均粗さRaが臨界的に変化しており、Nb含有量が0.005質量%超~0.40質量%未満であれば、加熱処理後の算術平均粗さRaが小さいことが分かる。
【0047】
例1に係るステンレス鋼板を加熱処理した後の反射電子線像(反射電子組成像)を図4に、例4に係るステンレス鋼板を加熱処理した後の反射電子線像を図5に、例6に係るステンレス鋼板を加熱処理した後の反射電子線像を図6に示す。これらの反射電子線像は、走査電子顕微鏡(HITACHI SU1510)で撮像した。
【0048】
例1では、Nb含有量が少なく、図4(A)に示すように加熱処理後の表面に大量のFe酸化物が認められた。一方、例4と例6では、Nb含有量が多く、図5(A)及び図6(A)に示すように加熱処理後の表面におけるFe酸化物が少なかった。
【0049】
図4(A)と図5(A)と図6(A)から、Nb含有量が0.005質量%を超えることで、NbがCrの代わりにCと十分に結合し、鋭敏化を抑制でき、赤さび(Fe酸化物)の発生を抑制できることがわかる。
【0050】
但し、Nb含有量が0.40質量%を超えてしまうと、図6(C)に示すようにNb酸化物の粒子が鋼板の表面に析出し、表面が荒れることが分かる。
【0051】
以上、本開示に係るステンレスロール、ガラス製造装置、及びガラス製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0052】
1 ガラス製造装置
52 レヤーロール(ステンレスロール)
G ガラスリボン
図1
図2
図3
図4
図5
図6