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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030174
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】化合物および金属抽出剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/64 20060101AFI20240229BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C07C323/64 CSP
C09K3/00 108B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132781
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敦
(72)【発明者】
【氏名】山田 学
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 一寿
(72)【発明者】
【氏名】松葉 由莉
(72)【発明者】
【氏名】牧口 孝祐
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB82
4H006TA04
4H006TB72
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属抽出能に優れた化合物、およびこの化合物を含む金属抽出剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。

(式(1)中、Arは、アリーレン基であり、Rは、式(2)で表される1価の基であり、Rは、式(3)で表される1価の基である。


式(2)および式(3)中、RおよびRは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、mおよびnは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
(前記式(1)中、Arは、アリーレン基であり、Rは、下記式(2)で表される1価の基であり、Rは、下記式(3)で表される1価の基である。
【化2】
前記式(2)中、Rは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、mは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。
【化3】
前記式(3)中、Rは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、nは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が下記式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化4】
(前記式(4)中、R~R10のうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り4つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、前記残り4つのうちの隣接する2つがベンゼン環または複素環を形成してもよい。)
【請求項3】
前記式(4)で表される化合物は、Rが前記式(2)で表される1価の基であり、Rが前記式(3)で表される1価の基であり、R~R、RおよびR~R10が水素原子であり、mおよびnが2である化合物を除く、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が下記式(4)~(7)のいずれかで表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(前記式(4)中、R~R10のうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り4つは、水素原子である。前記式(5)中、R~Rのうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R11は、CH、NH、O、SまたはPHであり、R12~R13は、それぞれ独立して、CHまたはNである。前記式(6)中、R~Rのうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R14およびR16は、それぞれ独立して、CHまたはNであり、R15は、NH、OまたはSである。前記式(7)中、R~Rのうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R17~R20は、それぞれ独立して、CHまたはNである。)
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物が下記式(1-1)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化9】
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物が下記式(1-2)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化10】
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物が下記式(1-3)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化11】
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物を含む金属抽出剤。
【請求項9】
前記金属抽出剤は、Pd、Au、Pt、Ru、Ag、Cu、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を抽出する抽出剤である、請求項8に記載の金属抽出剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化合物および金属抽出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムや白金などの金属は、自動車排ガス触媒に使用されている。近年では、排ガス規制の強化が世界的に広がり、こうした有用な金属の需要が高まっていることから、金属資源の安定確保は難しくなっている。このような金属は、高価であり、資源として貴重であることから、使用後に回収してリユースすることが行われている。
【0003】
白金族金属の分離工程における精製には、電解析出法、イオン交換法、沈殿法、溶媒抽出法などが提案されているが、経済性や操作性に優れている理由から、溶媒抽出法が広く採用されている。そして、溶媒抽出法に使用される様々な金属抽出剤が開発されている。例えば、パラジウムおよび白金の金属抽出剤としてジアルキルスルフィドやトリブチルホスフェイトが用いられており(例えば、特許文献1~2)、前者ではアンモニア水溶液による逆抽出、後者では水による逆抽出が行われる。
【0004】
しかしながら、上記の方法では、ジアルキルスルフィドと酸性水溶液とが長時間接触するため、ジアルキルスルフィドのスルフィド部位が酸化され、パラジウムの抽出能力が低下してしまい、再利用性に乏しい。さらには、ジアルキルスルフィドはパラジウムの抽出速度が遅い。また、トリブチルホスフェイトを使用する場合、白金に対する選択性が低いという問題がある。こうした状況から、金属抽出剤に有用な化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-130744号公報
【特許文献2】特開2005-146326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、金属抽出能に優れた化合物、およびこの化合物を含む金属抽出剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【化1】
(前記式(1)中、Arは、アリーレン基であり、Rは、下記式(2)で表される1価の基であり、Rは、下記式(3)で表される1価の基である。
【化2】
前記式(2)中、Rは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、mは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。
【化3】
前記式(3)中、Rは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、nは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。)
[2] 前記式(1)で表される化合物が下記式(4)で表される化合物である、上記[1]に記載の化合物。
【化4】
(前記式(4)中、R~R10のうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り4つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、前記残り4つのうちの隣接する2つがベンゼン環または複素環を形成してもよい。)
[3] 前記式(4)で表される化合物は、Rが前記式(2)で表される1価の基であり、Rが前記式(3)で表される1価の基であり、R~R、RおよびR~R10が水素原子であり、mおよびnが2である化合物を除く、上記[2]に記載の化合物。
[4] 前記式(1)で表される化合物が下記式(4)~(7)のいずれかで表される化合物である、上記[1]に記載の化合物。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(前記式(4)中、R~R10のうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り4つは、水素原子である。前記式(5)中、R~Rのうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R11は、CH、NH、O、SまたはPHであり、R12~R13は、それぞれ独立して、CHまたはNである。前記式(6)中、R~Rのうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R14およびR16は、それぞれ独立して、CHまたはNであり、R15は、NH、OまたはSである。前記式(7)中、R~Rのうち、2つは、前記式(2)で表される1価の基および前記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R17~R20は、それぞれ独立して、CHまたはNである。)
[5] 前記式(1)で表される化合物が下記式(1-1)で表される化合物である、上記[1]に記載の化合物。
【化9】
[6] 前記式(1)で表される化合物が下記式(1-2)で表される化合物である、上記[1]に記載の化合物。
【化10】
[7] 前記式(1)で表される化合物が下記式(1-3)で表される化合物である、上記[1]に記載の化合物。
【化11】
[8] 上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の化合物を含む金属抽出剤。
[9] 前記金属抽出剤は、Pd、Au、Pt、Ru、Ag、Cu、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属を抽出する抽出剤である、上記[8]に記載の金属抽出剤。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、金属抽出能に優れた化合物、およびこの化合物を含む金属抽出剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、化合物を新たに合成し、この化合物が金属抽出能に優れていることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0011】
実施形態の化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0012】
【化12】
【0013】
上記式(1)中、Arは、アリーレン基であり、Rは、下記式(2)で表される1価の基であり、Rは、下記式(3)で表される1価の基である。
【0014】
【化13】
【0015】
上記式(2)中、Rは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、mは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。
【0016】
【化14】
【0017】
上記式(3)中、Rは、水素原子または分岐していてもよいアルキル基であり、nは1以上の整数であり、*は、Arとの結合位置を表す。
【0018】
上記式(1)において、アリーレン基であるArは、1つ以上の芳香環を有する。Arが複数の芳香環を有する場合、上記式(2)で表される1価の基と上記式(3)で表される1価の基とは、同じ芳香環に結合されてもよいし、異なる芳香環に結合されてもよい。
【0019】
式(1)で表される化合物がArに結合する上記式(2)の基および上記式(3)の基を有すると、化合物は優れた金属抽出能を有する。
【0020】
また、式(1)で表される化合物が下記式(4)で表される化合物であると、化合物の金属抽出能がさらに向上する。
【0021】
【化15】
【0022】
上記式(4)中、R~R10のうち、2つは、上記式(2)で表される1価の基および上記式(3)で表される1価の基であり、残り4つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、当該残り4つのうちの隣接する2つがベンゼン環または複素環を形成してもよい。隣接する2つとは、例えば、RとR10である。
【0023】
なかでも、金属抽出能を向上する観点から、式(4)で表される化合物は、Rが上記式(2)で表される1価の基であり、Rが上記式(3)で表される1価の基であり、R~R、RおよびR~R10が水素原子であり、mおよびnが2である化合物を除く、すなわち式(4)で表される化合物は、上記化合物以外であることが好ましい。
【0024】
また、上記式(1)で表される化合物が下記式(4)~下記式(7)のいずれかで表される化合物であると、化合物の金属抽出能がさらに向上する。
【0025】
【化16】
【0026】
【化17】
【0027】
【化18】
【0028】
【化19】
【0029】
上記式(4)中、R~R10のうち、2つは、上記式(2)で表される1価の基および上記式(3)で表される1価の基であり、残り4つは、水素原子である。また、上記式(5)中、R~Rのうち、2つは、上記式(2)で表される1価の基および上記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R11は、CH、NH、O、SまたはPHであり、R12~R13は、それぞれ独立して、CHまたはNである。また、上記式(6)中、R~Rのうち、2つは、上記式(2)で表される1価の基および上記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R14およびR16は、それぞれ独立して、CHまたはNであり、R15は、NH、OまたはSである。また、上記式(7)中、R~Rのうち、2つは、上記式(2)で表される1価の基および上記式(3)で表される1価の基であり、残り2つは、それぞれ独立して、OR、NR、R、ハロゲン原子、COOH、SOH、COR、NOもしくはCHCORまたはこれらの塩であり、Rは、水素原子または分岐していてもよい炭化水素基であり、R17~R20は、それぞれ独立して、CHまたはNである。
【0030】
また、上記で説明した式において、化合物の金属抽出能を向上する観点から、式(2)のmは、1以上9以下の奇数であることが好ましく、1であることがより好ましい。また、同様の観点から、式(2)のRは、直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0031】
また、上記で説明した式において、化合物の金属抽出能を向上する観点から、式(3)のnは、1以上9以下の奇数であることが好ましく、1であることがより好ましい。また、同様の観点から、式(3)のRは、直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0032】
mまたはnが奇数である場合、式(2)または式(3)で表される1価の基を構成するスルフィド基の数は偶数になるため、このスルフィド基の硫黄原子が金属に効率よく二座配位でき、化合物の金属抽出能が向上すると考えられる。特にmまたはnが1である場合、式(2)または式(3)で表される1価の基を構成する2つのスルフィド基の硫黄原子は二座で配位しつつ、さらに、同一分子内の他方の1価の基、または他の分子中の式(2)もしくは式(3)で表される1価の基を構成するスルフィド基の硫黄原子が配位しやすいため、化合物の金属抽出能がさらに向上すると考えられる。
【0033】
化合物の金属抽出能を向上する観点から、上記式(5)で表される化合物の好適例を以下に列挙する。
【0034】
【化20】
【0035】
また、化合物の金属抽出能を向上する観点から、上記式(6)で表される化合物の好適例を以下に列挙する。
【0036】
【化21】
【0037】
また、化合物の金属抽出能を向上する観点から、上記式(7)で表される化合物の好適例を以下に列挙する。
【0038】
【化22】
【0039】
また、化合物の金属抽出能を向上する観点から、上記式(4)~(7)で表される化合物以外の好適例を以下に列挙する。
【0040】
【化23】
【0041】
なかでも、金属抽出能を向上する観点から、式(1)の化合物は、下記式(1-1)で表される化合物、下記式(1-2)で表される化合物または下記式(1-3)で表される化合物であることが好ましい。
【0042】
【化24】
【0043】
【化25】
【0044】
【化26】
【0045】
上記式(1-1)~式(1-3)の化合物は、金の抽出剤であるジブチルカルビトール(DBC)に比べて、例えば0.1mM程度の低濃度の金属抽出剤で、金の抽出率を大幅に向上できる。また、上記式(1-1)~式(1-3)の化合物は、パラジウムの抽出剤であるジヘキシルスルフィド(DHS)やジオクチルスルフィド(DOS)に比べて、例えば0.1mM程度の低濃度の金属抽出剤で、パラジウムの抽出率を大幅に向上できる。
【0046】
上記式(1-1)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0047】
【化27】
【0048】
o-Benzenedithiol、2-Chloroethyl methyl sulfideおよびKOHを反応容器内のエタノールに投入する。その後、窒素雰囲気下において4時間攪拌し、加熱還流する。その後、クロロホルムを用いて反応容器内に残留する物質を分液漏斗に移動させ、余剰KOHの処理のためHClを1回、続いて有機相の洗浄のため蒸留水を2回、続いてNaOH水溶液を5回接触させた後、硫酸ナトリウム(NaSO)により脱水を行う。溶媒留去の後、100℃で減圧乾燥させて、目的物である式(1-1)の化合物を得ることができる。
【0049】
また、上記式(1-2)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0050】
【化28】
【0051】
m-Benzenedithiol、2-Chloroethyl methyl sulfideおよびKOHを反応容器内のエタノールに投入する。その後、窒素雰囲気下において4時間攪拌し、加熱還流する。その後、クロロホルムを用いて反応容器内に残留する物質を分液漏斗に移動させ、余剰KOHの処理のためHClを1回、続いて有機相の洗浄のため蒸留水を2回、続いてNaOH水溶液を5回接触させた後、硫酸ナトリウム(NaSO)により脱水を行う。溶媒留去の後、100℃で減圧乾燥させて、目的物である式(1-2)の化合物を得ることができる。
【0052】
また、上記式(1-3)で表される化合物は、下記反応式で表される反応によって合成することができる。
【0053】
【化29】
【0054】
p-Benzenedithiol、2-Chloroethyl methyl sulfideおよびKOHを反応容器内のエタノールに投入する。その後、窒素雰囲気下において4時間攪拌し、加熱還流する。その後、クロロホルムを用いて反応容器内に残留する物質を分液漏斗に移動させ、余剰KOHの処理のためHClを1回、続いて有機相の洗浄のため蒸留水を2回、続いてNaOH水溶液を5回接触させた後、硫酸ナトリウム(NaSO)により脱水を行う。溶媒留去の後、100℃で減圧乾燥させて、目的物である式(1-3)の化合物を得ることができる。
【0055】
上記式(1)で表される化合物について、溶媒抽出における金属の抽出能が高い。さらに、この化合物は、複数種の金属に対する抽出能を有する。特に、従来の金属抽出剤に比べて、式(1)で表される化合物を少量で、換言すると、金属抽出剤中の化合物濃度を低濃度で、溶媒抽出における1種以上の金属の抽出量を増加できる。そのため、式(1)で表される化合物は、金属抽出剤に好適に用いられる。また、式(1)で表される化合物は、白金族金属を含む溶液から抽出対象物の金属を抽出できる。
【0056】
次に、実施形態の金属抽出剤について説明する。
【0057】
実施形態の金属抽出剤は、上記実施形態の化合物、すなわち上記式(1)で表される化合物を含む。金属抽出剤は、溶媒抽出に好適に用いられる。
【0058】
金属抽出剤は、1種の金属のみならず、複数種の金属に対する高い抽出能を有する。なかでも、金属抽出剤は、Pd、Au、Pt、Ru、Ag、Cu、Rh、NiおよびCoからなる群より選択される1種以上の金属に対する抽出能に優れており、なかでもPd、Au、Pt、Ru、AgおよびCuからなる群より選択される1種以上の金属に対する抽出能にさらに優れている。
【0059】
金属抽出剤の形態は、溶媒抽出のプロセスに応じて、適宜選択できる。金属抽出剤は、上記化合物のみから構成されてもよいし、金属抽出能を低下しなければ、上記化合物に加えて各種機能性物質を含んでもよい。
【0060】
次に、実施形態の金属抽出剤を用いた金属の抽出方法の一例について説明する。
【0061】
金属の抽出方法は、上記実施形態の化合物を含む有機相と金属を含む酸性水溶液とを接触させる接触工程を有する。接触工程で有機相と酸性水溶液とを接触させることで、抽出対象物である金属を有機相に抽出できる。
【0062】
酸性水溶液に接触する前の有機相では、上記化合物が溶媒中に溶解されている。有機相の溶媒は、非水溶性の溶媒であり、上記化合物を溶解できれば特に限定されるものではない。
【0063】
有機相の溶媒としては、石油、ケロシンなどの鉱油、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレンなどのハロゲン化溶媒が好適である。また、溶媒は、1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
有機相における上記化合物の濃度は、従来の金属抽出剤中の抽出剤濃度に比べて低いことが好ましい。特に、パラジウムの溶媒抽出では、有機相における上記化合物の濃度は、0.05mM以上0.50mM以下であることが好ましく、0.05mM以上0.40mM以下であることがより好ましい。また、金の溶媒抽出では、有機相における上記化合物の濃度は、0.05mM以上0.50mM以下であることが好ましく、0.05mM以上0.25mM以下であることがより好ましい。
【0065】
また、有機相に接触する前の酸性水溶液は、抽出対象物である金属が塩酸中に溶解されている。塩酸の濃度は、例えば0.01M以上8.00M以下であり、抽出率を高くする観点から、好ましくは0.01M以上2.00M以下、より好ましくは0.01M以上1.00M以下、さらに好ましくは0.05M以上0.50M以下、特に好ましくは0.05M以上0.15M以下である。
【0066】
酸性水溶液における金属の濃度は、特に限定されるものではなく、例えば1ppm以上1000ppm以下である。
【0067】
また、金属抽出剤の金属抽出能が損なわれなければ、酸性水溶液には、抽出対象物の金属以外の金属などが含まれてもよい。
【0068】
例えば、酸性水溶液は、少なくとも抽出対象物の金属を含む廃棄物を塩酸処理して水溶液化した酸浸出液である。このような廃棄物としては、好ましくは自動車排ガス触媒である。
【0069】
接触工程において、接触させる有機相および酸性水溶液の温度は、有機相の溶媒の沸点以下であり、例えば25℃程度である。接触工程では、有機相と酸性水溶液とを振とうや撹拌などによって互いに接触させる。例えば、振とうの振とう数は、100回/分以上500回/分以下である。
【0070】
以上説明した実施形態によれば、上記化合物を新たに合成し、この新規の化合物を金属抽出剤に用いることによって、1種の金属のみならず、複数種の金属に対する金属抽出能を向上することができる。
【0071】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0072】
次に、実施例および比較例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
以下の化合物を合成した後、各化合物を含む金属抽出剤を用いて、各実施例を行った。
【0074】
(式(1-1)の化合物の合成)
o-Benzenedithiol(0.5g、3.52mmol、ALDRICH)、1-Chloroethyl methyl sulfide(1.98g、17.6mmol、東京化成工業)およびKOH(1.578g、28.0mmol、関東化学)を反応容器内のエタノール(20mL、関東化学)に投入した。その後、窒素雰囲気下において4時間攪拌し、加熱還流した。この間、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって反応の追跡を行った(展開溶媒 n-Hexane:Acetone=4:1)。その後、クロロホルムを用いて反応容器内に残留した物質を分液漏斗に移動させ、余剰KOHの処理のため2MのHClを1回、続いて有機相の洗浄のため蒸留水を2回、続いて0.1MのNaOH水溶液を5回接触させた後、硫酸ナトリウムにより脱水を行った。溶媒留去の後、100℃で減圧乾燥させて、式(1-1)の化合物を得た。この化合物は、薄黄色溶液であった。収率は87.4%であった。この化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトルと赤外吸収スペクトルにて確認した。
【0075】
分析結果は以下の通りであった。
1H NMR (500 MHz, δ from TMS, CDCl3): 7.32 (2H, d), 7.18 (2H, d), 3.12 (4H, t), 2.73 (4H, t), 2.14 (6H, s)
FT-IR (ATR, ν/cm-1): 2965, 2927, 1479, 1422
【0076】
(式(1-2)の化合物の合成)
m-Benzenedithiol(0.5g、3.52mmol、東京化成工業)、1-Chloroethyl methyl sulfide(1.98g、17.6mmol、東京化成工業)およびKOH(1.578g、28.0mmol、関東化学)を反応容器内のエタノール(20mL、関東化学)に投入した。その後、窒素雰囲気下において4時間攪拌し、加熱還流した。この間、薄層クロマトグラフィーによって反応の追跡を行った(展開溶媒 n-Hexane:Acetone=4:1)。その後、クロロホルムを用いて反応容器内に残留した物質を分液漏斗に移動させ、余剰KOHの処理のため2MのHClを1回、続いて有機相の洗浄のため蒸留水を2回、続いて0.1MのNaOH水溶液を5回接触させた後、硫酸ナトリウムにより脱水を行った。溶媒留去の後、100℃で減圧乾燥させて、式(1-2)の化合物を得た。この化合物は、薄黄色溶液であった。収率は92.5%であった。この化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトルと赤外吸収スペクトルにて確認した。
【0077】
分析結果は以下の通りであった。
1H NMR (500 MHz, δ from TMS, CDCl3): 7.38 (1H, s), 7.21 (1H, t), 7.18 (2H, d), 3.12 (4H, t), 2.72 (4H, t), 2.14 (6H, s)
FT-IR (ATR, ν/cm-1): 2968, 2913, 1570, 1463, 1427
【0078】
(式(1-3)の化合物の合成)
p-Benzenedithiol(0.5g、3.52mmol、東京化成工業)、1-Chloroethyl methyl sulfide(1.98g、17.6mmol、東京化成工業)およびKOH(1.578g、28.0mmol、関東化学)を反応容器内のエタノール(20mL、関東化学)に投入した。その後、窒素雰囲気下において4時間攪拌し、加熱還流した。この間、薄層クロマトグラフィーによって反応の追跡を行った(展開溶媒 n-Hexane:Acetone=4:1)。その後、クロロホルムを用いて反応容器内に残留した物質を分液漏斗に移動させ、余剰KOHの処理のため2MのHClを1回、続いて有機相の洗浄のため蒸留水を2回、続いて0.1MのNaOH水溶液を5回接触させた後、硫酸ナトリウムにより脱水を行った。溶媒留去の後、100℃で減圧乾燥させて、式(1-3)の化合物を得た。この化合物は、無色透明結晶であった。収率は82.2%であった。この化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトルと赤外吸収スペクトルにて確認した。
【0079】
分析結果は以下の通りであった。
1H NMR (500 MHz, δ from TMS, CDCl3): 7.28 (4H, s), 3.10 (4H, t), 2.70 (4H, t), 2.13 (6H, s)
FT-IR (ATR, ν/cm-1): 2965, 2927, 1480, 1422
【0080】
(実施例1-1)
クロロホルムを用いて、式(1-1)の化合物の濃度が0.10mMの有機相を調製した。また、0.02Mの塩酸を用いて、抽出対象物であるAuの濃度が0.1mMの酸性水溶液を調製した。そして、常温下、有機相と酸性水溶液とを24時間振とうして互いに接触させて、Auの抽出を行った。その結果、表1に示すように、Auの抽出率は95.0%であった。
【0081】
(実施例1-2)
式(1-1)の化合物を式(1-2)の化合物に変更した以外は実施例1-1と同様にして、Auの抽出を行った。Auの抽出率を表1に示す。
【0082】
(実施例1-3)
式(1-1)の化合物を式(1-3)の化合物に変更した以外は実施例1-1と同様にして、Auの抽出を行った。
【0083】
(比較例1-1)
式(1-1)の化合物をジブチルカルビトール(DBC)に変更した以外は実施例1-1と同様にして、Auの抽出を行った。
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例2-1)
クロロホルムを用いて、式(1-2)の化合物の濃度が0.10mMの有機相を調製した。また、0.01Mの塩酸を用いて、抽出対象物であるPdの濃度が0.1mMの酸性水溶液を調製した。そして、常温下、有機相と酸性水溶液とを24時間振とうして互いに接触させて、Pdの抽出を行った。その結果、表2に示すように、Pdの抽出率は98.8%であった。
【0086】
(実施例2-2)
式(1-2)の化合物を式(1-3)の化合物に変更した以外は実施例2-1と同様にして、Pdの抽出を行った。Pdの抽出率を表2に示す。
【0087】
(比較例2-1)
式(1-2)の化合物をジヘキシルスルフィド(DHS)に変更した以外は実施例2-1と同様にして、Pdの抽出を行った。
【0088】
(比較例2-2)
式(1-2)の化合物をジオクチルスルフィド(DOS)に変更した以外は実施例2-1と同様にして、Pdの抽出を行った。
【0089】
【表2】
【0090】
表1~2に示すように、式(1)で表される化合物は、既存の抽出剤に比べて金属の抽出率が高かった。このように、式(1)で表される化合物は、金属抽出能に優れているため、少量で効率的に金属を回収できた。