(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030266
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20240229BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20240229BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240229BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240229BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240229BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D71/34
B01D71/64
B01D71/68
C02F1/44 A
A61L9/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133009
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】森田 陽明
【テーマコード(参考)】
4C180
4D006
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180DD09
4C180EB21Y
4C180EB22Y
4C180MM08
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA44
4D006MA22
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4D006MC58X
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4D006NA03
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4D006PB55
4D006PC51
(57)【要約】
【課題】優れたウイルス等の除去性能と長いライフタイムとを備える多孔質膜と、当該多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスの除去方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスフリー製品の製造方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして備えるデバイスとを提供すること。
【解決手段】球状孔が相互に連通した構造を含む多孔膜において、当該球状孔同士が連通する開口である連通孔の孔径を10nm以上35nm以下とし、多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数を、200個以上1000個以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状孔が相互に連通した構造を含む多孔質膜であって、
前記球状孔同士が連通する開口である連通孔の孔径が、10nm以上35nm以下であり、
前記多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の前記球状孔の数が、200個以上1000個以下である、多孔質膜。
【請求項2】
ポリイミド、ポリエーテルスルホン、及びポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される1種以上の材料からなる、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記球状孔の平均径が、前記連通孔の平均径の2倍以上6倍以下である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
ウイルスを含む気体、又は液体から前記ウイルスを除去するためのフィルターとして用いられる、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記連通孔の平均径が、前記ウイルスの平均サイズの0.5倍以上1.5倍以下である、請求項4に記載の多孔質膜。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の多孔質膜をフィルターとして用いて、ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去する、ウイルスの除去方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の多孔質膜をフィルターとして用いて、ウイルスを含む液体、又は気体状の試料、又は製品から、前記ウイルスを除去する、ウイルスフリー試料、又はウイルスフリー製品の製造方法。
【請求項8】
ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去する機能を有するデバイスであって、
請求項4に記載の多孔質膜を、ウイルス除去用のフィルターとして備える、デバイス。
【請求項9】
浄水装置、又は空気清浄装置である、請求項8に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状孔が相互に連通した構造を含む特定の多孔質構造を有する多孔質膜と、当該多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスの除去方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスフリー製品の製造方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして備えるデバイスと、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の多孔質膜がフィルター等の用途で使用されている。例えば、多孔質膜は液体中や気体中のウイルスや有害成分の除去に利用されている。
【0003】
具体的には、多孔質膜は、医療の分野において、薬液等からのウイルス除去に利用される。(先行文献1及び2)。また、多孔質膜は、家庭用浄水器の分野でも水からのウイルスや細菌の除去に利用される(先行文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004035180A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2009141965A1号明細書
【特許文献3】特開2019-48297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高いウイルス等除去性能を有する多孔質膜は、一般的に、孔が閉塞しやすく、ライフタイムが短い傾向がある。ライフタイムは、多孔質膜をウイルス等の除去に使用し始めた時から、多孔質膜のウイルス等の除去性能が所望の性能より低くなるときまでの時間である。また、多孔質膜のライフタイムを長くしようとすると、孔のサイズが大きくなるため、ウイルス漏出の問題が生じる。つまり、多孔質膜には、ウイルス等の除去性能と、ライフタイムの間にトレードオフの関係があり、多孔質膜における高いウイルス等の除去性能と、長いライフタイムとの両立が困難である。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、優れたウイルス等の除去性能と長いライフタイムとを備える多孔質膜と、当該多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスの除去方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスフリー製品の製造方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして備えるデバイスとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、球状孔が相互に連通した構造を含む多孔膜において、当該球状孔同士が連通する開口である連通孔の孔径を10nm以上35nm以下とし、多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数を、200個以上1000個以下とすることによって、上記課題が解決すること見出し、本発明に至った。具体的には以下のものを提供する。
【0008】
本発明の第1の態様は、球状孔が相互に連通した構造を含む多孔質膜であって、
球状孔同士が連通する開口である連通孔の孔径が、10nm以上35nm以下であり、
多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数が、200個以上1000個以下である、多孔質膜である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様にかかる多孔質膜をフィルターとして用いて、ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去する、ウイルスの除去方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様にかかる多孔質膜をフィルターとして用いて、ウイルスを含む液体、又は気体状の試料、又は製品から、前記ウイルスを除去する、ウイルスフリー試料、又はウイルスフリー製品の製造方法である。
【0011】
本発明の第4の態様は、ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去する機能を有するデバイスであって、
第1の態様にかかる多孔質膜を、ウイルス除去用のフィルターとして備える、デバイスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れたウイルス等の除去性能と長いライフタイムとを備える多孔質膜と、当該多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスの除去方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして用いたウイルスフリー製品の製造方法と、前述の多孔質膜をフィルターとして備えるデバイスとを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪多孔質膜≫
多孔質膜は、球状孔が相互に連通した構造(以下、連通孔と略称する)を含む。多孔質膜が積層体である場合に、積層体に含まれる多孔質層についても同様である。
【0014】
孔の形状に関する球状は、真球状を含む概念であるが、必ずしも真球のみに限定されない。球状とは、実質的に真球状であればよく、孔部の拡大像を目視により確認した場合に略真球状と認識できる形状も、球状に含まれる。
具体的には球状孔では、孔部を規定する面が曲面であり、当該曲面により真球状又は略真球上の空孔が規定されていればよい。
なお、多孔質膜が積層体である場合に、積層体を構成する各多孔質層について、空隙率や、連通孔を構成する球状孔の孔径は、同じであっても異なっていてもよい。
【0015】
多孔質膜について、個々の球状孔は、典型的には、後述する樹脂-微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される孔である。また、連通孔は、後述する多孔質膜の製造方法において、樹脂―微粒子複合膜中にそれぞれ接して存在する複数の微粒子が、後工程で除去されることにより形成される。連通孔における球状孔が連通する箇所は、除去される前の複数の微粒子が互いに接触する箇所に由来する。
【0016】
球状孔の直径は、40nm以上300nm以下が好ましく、50nm以上200nm以下がより好ましく、50nm以上100nm以下がさらに好ましく、80nm以上100nm以下が特に好ましい。
連通孔の直径は、ウイルス除去用途の場合、10nm以上35nm以下が好ましく、15nm以上30nm以下がより好ましく、20nm以上30nm以下がさらに好ましい。
球状孔の平均径は、連通孔の平均径の1.1倍以上20倍以下が好ましく、1.5倍以上10以下がより好ましく、2倍以上6倍以下がさらに好ましい。
多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数は、200個以上1100個以下が好ましく、200個以上1000個以下がより好ましく、200個以上700個以下がさらに好ましい。
【0017】
多孔質膜は、多孔質膜を厚さ方向に貫通する、連通孔を流体の流路として内部に有する。これにより流体は、多孔質膜の一方の主面から、他方の主面へと透過できる。
また、多孔質膜をフィルターとして用いる場合、流体は個々の球状孔を規定する曲面に接触しながら多孔質膜の内部を通過する。
【0018】
本明細書において、孔径は、後述のケミカルエッチング処理を行ったものはポロメーター(バブルポイント法)により平均の連通孔のサイズ変化を求め、その値から実際の平均孔径を求める値である。
【0019】
ポロメーターを用いて連通孔のサイズは、以下の式により求めることができる。
d=Cγ/P
ここで、dは連通孔サイズ(μm)である。γは液体の表面張力(mN/m)である。Pは圧力(kg/cm2)である。Cは定数である。Cの定数は圧力の単位がpsiのとき、0.415である。
液体で濡れた多孔質膜に対し空気圧を加えた際、孔の中の液体の毛細管張力より、加えた空気圧が大きくなったときに空気が通る。
バブルポイント法では、空気を通すためには、より小さい孔(例えば連通孔)ではより高い圧力が必要になる原理を利用している。同じ圧力において、濡れた多孔質膜と乾いた多孔質膜の両方の気体流量を比較することによって、多孔質膜における特定されたサイズ以上の孔を通過する流量の割合を、圧力と孔サイズの関係から計算できる。同時に、圧力を少しずつ増すことにより、非常に小さい孔サイズ(約10nm程度)の増分の流量分布も差によって決定することができる。
【0020】
このようにして得られたデータを基に、濡れた多孔質膜の空気の流量が、乾燥した多孔質膜の空気の流量の1/2になる圧力を求め、その時の孔径を上記式によって求め、平均の連通孔のサイズとする。
【0021】
多孔質膜に含まれる球状孔の孔径は、FIB-SEM(集束イオンビームー走査顕微鏡)を用いて、多孔質膜の断面画像を撮影して取得された3次元画像から算出される。まず、多孔質膜の一方の主面において、5μm×5μmのサイズの任意の領域を定める。5μm×5μmの範囲で膜厚方向に2nmずつFIBにて切削しながら、多孔質膜の断面SEM画像を、多孔質膜の膜厚全範囲にわたって2nm間隔で取得する。取得された断面SEM画像を3次元に繋ぎ合わせて、膜厚×5μm×5μmの3次元画像を作成する。得られた3次元画像において、100個の球状孔の径を測定し、100個の径の測定値の平均値を、球状孔の孔径とする。
【0022】
多孔質膜の膜厚垂直方向に含まれる球状孔の数は、FIB-SEMを用いて、多孔質膜の断面画像を撮影して取得された3次元画像中の球状孔の数から算出される。まず、多孔質膜の一方の主面において、5μm×5μmのサイズの任意の領域を定める。5μm×5μmの範囲で膜厚方向に2nmずつFIBにて切削しながら、多孔質膜の断面SEM画像を、多孔質膜の膜厚全範囲にわたって2nm間隔で取得する。取得された断面SEM画像から、膜厚×5μm×5μmの3次元画像を作成する。当該3次元画像から、膜厚×球状孔径×球状孔径の3次元画像を100個切り出し、各3次元画像中の球状孔の個数を算出する。なお、3次元画像に含まれる不完全な球状孔の数は、球状孔の個数に含めない。不完全な球状孔とは、例えば、半球状の孔である。100個の3次元画像中の球状孔の個数の平均値を、膜厚垂直方向の球状孔数とする。膜厚垂直方向の球状数は、多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、球状孔の数である。
【0023】
多孔質膜の全体の膜厚は特に限定されない。球状孔の直径に応じて、多孔質膜の全体の膜厚を適宜調整できる。例えば、多孔質膜がフィルター等として使用される場合には、多孔質膜の全体の膜厚は、15μm以上100μm以下が好ましく、18μm以上80μm以下がより好ましく、18μm以上70μm以下がさらに好ましい。上記の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。
【0024】
多孔質膜を形成するための材料は特に限定されず、有機材料であっても無機材料であってもよい。加工性や可撓制に優れることから、典型的には高分子材料であるのが好ましい。例えば、種々の樹脂の溶液や、熱硬化性樹脂組成物や、感光性樹脂組成物が挙げられる。感光性樹脂組成物としては、露光部が現像液に対して可溶化するポジ型のものと、露光部が現像液に対して不溶化するネガ型のものとがあるが、両者とも多孔質膜の形成に用いることができる。多孔質膜を形成するための材料としては、強度に優れる薄膜を形成できる点で、加熱により硬化する熱硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0025】
<多孔質膜製造用ワニス>
前述の多孔質膜の製造には、それぞれ所定の微粒子と、樹脂と、溶剤とを含有し、樹脂が溶剤に溶解している多孔質膜製造用ワニス(以下、単に「ワニス」とも記載する。)を用いる。
ワニスは、典型的には、微粒子を溶剤に分散させる、微粒子分散液調製工程と、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体となるポリアミド酸、及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む樹脂溶液を調製する工程と、これら微粒子分散液と樹脂溶液とを合わせて混錬し濃度調製を行う混錬工程とにより製造される。
【0026】
ワニスの混錬には、自転・公転ミキサー(例えば、商品名:あわとり錬太郎、(株)シンキー製)、プラネタリミキサー、ビーズミル等を用いることができる。
【0027】
〔樹脂〕
前述の通り、ワニスは、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む。以下、これらの樹脂について説明する。
【0028】
(ポリフッ化ビニリデン)
ポリフッ化ビニリデンとしては、ワニス形成に用いられる溶剤に可溶なものであれば特に限定されない。ポリフッ化ビニリデンとしては、ホモポリマーであってもよいし、コポリマー(共重合体)であってもよい。共重合する構成単位としては、エチレン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン又は六フッ化プロピレン等が挙げられ、質量平均分子量は、例えば1万以上500万以下程度である。
【0029】
(ポリエーテルスルホン)
ポリエーテルスルホンとしては、ワニス形成に用いられる溶剤に可溶なものであれば特に限定されない。ポリエーテルスルホンとしては、製造する多孔質膜の用途に応じて適宜選択することができ、親水性でも疎水性であってもよい。また脂肪族ポリエーテルスルホンであっても芳香族ポリエーテルスルホンであってもよい。質量平均分子量は、例えば、5,000以上1,000,000以下であり、好ましくは10,000以上300,000以下である。
【0030】
(ポリアミド酸)
ポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られる生成物が、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50モル以上1.50モル以下用いるのが好ましく、0.60モル以上1.30モル以下用いるのがより好ましく、0.70以上1.20モル以下用いるのが特に好ましい。
【0031】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は1種類を単独で又は二種以上混合して用いることもできる。
【0033】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2~10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0035】
フェニレンジアミンはm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等である。
【0036】
ジアミノビフェニル化合物では、2つのアミノフェニル基同士が結合している。例えば、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0037】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合した化合物である。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合の炭素原子数は1~6程度である。アルキレン基の誘導体基は、1以上のハロゲン原子等で置換されたアルキレン基である。
【0038】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(p-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ペンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニル尿素、4,4’-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0039】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0040】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がいずれも他の基を介して結合した化合物である。他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様の基が選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0041】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5-ジアミノナフタレン及び2,6-ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0042】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンを挙げることができる。
【0043】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0044】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0045】
脂肪族ジアミンの炭素原子数は、例えば、2以上15以下程度がよい。脂肪族ジアミンの具体例としては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0046】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0047】
ポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0048】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しない溶剤であれば特に限定されない。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類、キシレン系混合溶媒等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%とするのが望ましい。
【0050】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0051】
重合温度は一般的には-10℃以上120℃以下、好ましくは5℃以上30℃以下である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3Hr以上24Hr以下(時間)である。
ポリアミド酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(ポリイミド)
ポリイミドは、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のポリイミドが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、ワニスが溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドが好ましい。
【0053】
溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。さらに、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したモノマーと同じモノマーを併用することもできる。
ポリイミド及びそのモノマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ポリイミドを製造する手段に特に制限はない。例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的な手段で閉環反応させることによって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミド等が挙げられる。式中、Arはアリール基を示す。ワニスが溶剤を含有する場合、これらのポリイミドは、次いで、使用する溶剤に溶解させるとよい。
【化1】
【化2】
【0055】
(ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体)
ポリアミドイミドは、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、ワニスが溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドが好ましい。
【0056】
ポリアミドイミドは、通常、(i)無水トリメリット酸等の1分子中にカルボキシル基と酸無水物基とを有する酸とジイソシアネートとを反応させて得られる樹脂、(ii)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマー(ポリアミドイミド前駆体)をイミド化して得られる樹脂等を特に限定されることなく使用できる。
【0057】
上記酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0058】
上記任意のジアミンとしては、前述のポリアミド酸の説明において例示したジアミンが挙げられる。また、ジアミノピリジン系化合物も用いることができる。
【0059】
上記任意のジイソシアネートとしては、特に限定されず、例えば、上記任意のジアミンに対応するジイソシアネート化合物等が挙げられ、具体的には、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2’-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0060】
ポリアミドイミドの原料モノマーとしては、上記以外にも、特開昭63-283705号公報、特開平2-198619号公報に一般式として記載されている化合物を使用することもできる。また、上記(ii)の方法におけるイミド化は熱イミド化及び化学イミド化のいずれであってもよい。化学イミド化としては、ポリアミドイミド前駆体等を含むワニスを用いて形成した未焼成複合膜を、無水酢酸、あるいは無水酢酸とイソキノリンの混合溶媒に浸す等の方法を用いることができる。なお、ポリアミドイミド前駆体は、イミド化前の前駆体という観点では、ポリイミド前駆体ともいえる。
【0061】
ワニスに含有させるポリアミドイミドとしては、上述の(1)無水トリメリット酸等の酸とジイソシアネートとを反応させて得られるポリマー、(2)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるポリマー等であってよい。本明細書及び本特許請求の範囲において、「ポリアミドイミド前駆体」は、イミド化前のポリマー(前駆体ポリマー)を意味する。
ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体の各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリアミドイミドについて、上記ポリマー、原料モノマー、及びオリゴマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
〔微粒子〕
微粒子の材質は、ワニスに含まれる溶剤に不溶で、後に樹脂-微粒子複合膜から除去可能であれば、特に限定されることなく公知の材質を採用可能である。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。
【0063】
具体的に微粒子としては、例えば、コロイダルシリカが挙げられる。中でも単分散球状シリカ粒子を選択する場合、均一な孔を形成できるために好ましい。
【0064】
また、微粒子について、真球率が高く、粒径分布指数が小さいのが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の平均粒径は、例えば、50nm以上200nm以下であることが好ましい。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができる。
微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
〔溶剤〕
溶剤は、前述の樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しなければ、特に限定されない。溶剤の例としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示した溶剤が挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリフッ化ビニリデンの場合、溶剤としては、上記含窒素極性溶剤の他、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトンや、リン酸トリメチル等が挙げられる。
ポリエーテルスルホンの場合、溶剤としては、上記含窒素極性溶剤の他、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ベンゾフェノン、テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の極性溶媒が挙げられる。
【0066】
〔分散剤〕
ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、微粒子をワニス中に一層均一に混合でき、さらには、ワニスを成膜した膜中で、微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔質膜の透気度が向上する。さらに、分散剤を添加することにより、ワニスの乾燥性が向上しやすく、また、形成された未焼成複合膜の基板等からの剥離性が向上しやすい。
【0067】
分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0068】
ワニスにおいて、分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子の質量に対し0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0069】
〔多孔質膜の好適な製造方法〕
[未焼成複合膜成膜工程]
未焼成複合膜成膜工程では、例えば、基板上に上述したワニスを塗布し、常圧又は真空下で0℃以上100℃以下、好ましくは常圧下10℃以上100℃以下で乾燥することにより、未焼成複合膜を形成することができる。基板としては、例えば、PETフィルム、SUS基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0070】
また、未焼成複合膜を基板から剥離する場合、膜の剥離性をさらに高めるために、予め離型層を設けた基板を使用することもできる。基板に予め離型層を設ける場合は、ワニスの塗布の前に、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行う。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥した未焼成複合膜を基板から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存するため、焼成中の変色や電気特性への悪影響の原因ともなるので、極力取り除くことが好ましい。離型剤を取り除くことを目的として、基板より剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤を用いて洗浄する洗浄工程を導入してもよい。
【0071】
一方、未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や上記洗浄工程を省くことができる。また、未焼成複合膜の製造において、後述の焼成工程の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、プレス工程、当該浸漬工程後の乾燥工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0072】
[焼成工程]
未焼成複合膜に加熱による後処理(焼成)を行って樹脂と微粒子とからなる複合膜(樹脂-微粒子複合膜)を形成する。焼成工程における焼成温度は、未焼成複合膜の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120℃以上450℃以下が好ましく、150℃以上400℃以下がより好ましい。また、微粒子に、有機材料を使用するときは、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0073】
焼成条件は、例えば、室温~400℃までを3時間で昇温させた後、400℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に400℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に400℃で20分保持させる等の段階的な乾燥-熱イミド化法を用いることもできる。基板上に未焼成複合膜を成膜し、上記基板から上記未焼成複合膜を一旦剥離する場合は、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0074】
[微粒子除去工程]
以上のようにして形成された、樹脂-微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、所望する構造の多孔質膜を再現性よく製造することができる。
微粒子の材質として、例えば、シリカを採用した場合、樹脂-微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水等により処理して、シリカを溶解除去することが可能である。
なお、微粒子が有機微粒子である場合、有機微粒子を熱分解させることにより、ポリイミド樹脂-微粒子複合膜からも微粒子を除去することができる。
また、微粒子が有機微粒子である場合、微粒子を溶解させるが、樹脂を溶解させない処理液を選択して、当該処理液による処理を行い、有機微粒子を除去することができる。典型的には、処理液としては有機溶剤が使用される。有機微粒子が、酸又はアルカリに可溶である場合、酸性水溶液やアルカリ性水溶液も処理液として使用できる。
【0075】
[樹脂除去工程]
多孔質膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、樹脂-微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去する樹脂除去工程を有していてもよい。
微粒子除去工程前に、樹脂-微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去することにより、除去が行われない場合と比較し、最終製品である多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0076】
上記の樹脂部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0077】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0078】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01質量%以上20質量%以下である。
【0079】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを膜の表面に30m/s以上100m/s以下の速度で照射することで表面処理する方法等が使用できる。
【0080】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後のいずれの樹脂除去工程にも適用可能であるので好ましい。
【0081】
一方、微粒子除去工程後に行う樹脂除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質膜が台紙フィルムから引きはがされる。
【0082】
≪多孔質膜の用途≫
以上説明した多孔質膜は、フィルターとして使用することが可能である。上記多孔質膜は、微粒子除去、ウイルス除去として使用することが可能であり、ウイルス除去用フィルターとして使用することが好ましい。また、当該ウイルス除去用フィルターは、空気中のウイルス除去又は液体中のウイルス除去の何れの用途でも使用可能である。
上記多孔質膜をウイルス除去用フィルターとして用いる場合、多孔質膜の連通孔の平均径は、除去対象であるウイルスの平均サイズの0.5倍以上1.5倍以下が好ましい。
【0083】
上記ウイルス除去用フィルターは、種々のデバイスに適用可能である。ウイルス除去用フィルターを適用可能なデバイスとしては、具体的には以下のデバイスが挙げられる。空気中からのウイルス除去の場合は、空気清浄装置、エアーコンディショナー、及びガス精製装置等が挙げられる。また、液体中のウイルス除去の場合は、浄水装置、及び精製水製造装置等が挙げられる。
上記ウイルス除去フィルターは、産業用にも利用可能であるため、ウイルスを含む液体、又は気体状の試料、又は製品から、ウイルスを除去した、ウイルスフリー試料、又はウイルスフリー製品の製造に利用可能である。
【0084】
(1)球状孔が相互に連通した構造を含む多孔質膜であって、
球状孔同士が連通する開口である連通孔の孔径が、10nm以上35nm以下であり、
多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数が、200個以上1000個以下である、多孔質膜。
(2)ポリイミド、ポリエーテルスルホン、及びポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される1種以上の材料からなる、(1)に記載の多孔質膜。
(3)球状孔の平均径が、連通孔の平均径の2倍以上6倍以下である(1)又は(2)に記載の多孔質膜。
(4)ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去するためのフィルターとして用いられる、(1)から(3)の何れかに記載の多孔質膜。
(5)連通孔の平均径が、ウイルスの平均サイズの0.5倍以上1.5倍以下である、(4)に記載の多孔質膜。
(6)(1)から(5)の何れかに記載の多孔質膜をフィルターとして用いて、ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去する、ウイルスの除去方法。
(7)(1)から(5)の何れかに記載の多孔質膜をフィルターとして用いて、ウイルスを含む液体、又は気体状の試料、又は製品から、ウイルスを除去する、ウイルスフリー試料、又はウイルスフリー製品の製造方法。
(8)ウイルスを含む気体、又は液体からウイルスを除去する機能を有するデバイスであって、
(1)から(5)の何れかに記載の多孔質膜を、ウイルス除去用のフィルターとして備える、デバイス。
(9)浄水装置、又は空気清浄装置である、(8)に記載のデバイス。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0086】
[多孔質膜製造用ワニスの調製]
(実施例1~4及び比較例1~4)
ポリアミド酸溶液に、ポリアミド酸(樹脂成分)の質量とシリカの質量との合計に対する、樹脂成分の質量の比率、及びシリカの質量の比率が、それぞれ表1に記載の比率(質量%)となるように、シリカ分散液(シリカに対し0.5質量%の分散剤を含む)を添加した。さらに有機溶剤(1)及び(2)を最終組成物全体における溶剤組成が有機溶剤(1):有機溶剤(2)=90:10となるようにそれぞれ追加した。自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)に加えた後、回転数2000rpmで5分間混練し、固形分濃度30質量%の多孔質膜製造用ワニスを調製した。
なお、以下に示すポリアミド酸溶液、有機溶剤、分散剤、及び微粒子を用いた。
・ポリアミド酸溶液:ピロメリット酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの反応物(固形分20質量%(有機溶剤:N,N-ジメチルアセトアミド))
・有機溶剤(1):N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)
・有機溶剤(2):ガンマブチロラクトン
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・微粒子:シリカ
【表1】
※樹脂の質量と微粒子の質量との合計に対する質量%
【0087】
得られた多孔質膜製造用ワニスを、基材であるポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、未焼成複合膜を形成した。次いで、未焼成複合膜を、基材から剥離した。この未焼成複合膜をオーブンの中に入れ、380℃で15分間焼成して、イミド化を完結させて樹脂-微粒子複合膜を得た。樹脂-微粒子複合膜をフッ化水素(HF)中に10分間浸漬することで、膜中に含まれるシリカ微粒子を除去した後、水洗・乾燥して、それぞれ所定膜厚の実施例1~4及び比較例1~4のポリイミド多孔質膜を得た。
【0088】
(実施例5)
ポリアミド酸をポリエーテルスルホンに変更することと、ワニスの固形分濃度を30質量%から35質量%に変更することと、シリカ分散液中にさらにシリカに対し5質量%のリン酸系分散剤を添加したことと、有機溶剤としてDMAcのみを用いることと、の他は、実施例2と同様にして、多孔質膜製造用ワニスを調製した。
【0089】
得られた多孔質膜製造用ワニスを、基材であるポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上にアプリケーターを用いて塗布した。その後、塗布膜を50℃で5分間ベークして樹脂-微粒子複合膜を形成した。樹脂-微粒子複合膜を、3分間水に浸漬させた。その後、基材からこの樹脂-微粒子複合膜を剥離した。樹脂-微粒子複合膜をフッ化水素(HF)中に10分間浸漬することで、膜中に含まれるシリカ微粒子を除去した後、水洗・乾燥して、所定膜厚の実施例5のポリエーテルスルホン多孔質膜を得た。
【0090】
以上のようにして得られた多孔質膜について、連結孔の平均径、球状孔の平均径及び膜厚方向の球状孔数を、FIB-SEMを用いて測定した。測定結果を、表2に示す。
【表2】
【0091】
(比較例5及び6)
比較例5及び比較例6は以下の多孔質膜を用いた。
比較例5:先行文献1の実施例1に記載の多孔質膜(連結孔の平均径:20nm、膜厚:40μm)。
比較例6:先行文献3の実施例1に記載の多孔質膜(連結孔の平均径:100nm、膜厚:40μm)。
【0092】
[ライフタイム及びウイルス漏出防止性能の測定]
(試験方法)
試験菌を下記の試験ウイルスに変更すること以外は、「精密ろ過膜エレンと及びモジュールの最近捕捉性能試験方法(JIS K 3835)」に従って、以下の条件にて試験を実施した。
試験条件:
・試験菌(ウイルス):Escherichia coli phage MS2 NBRC 13898(大腸菌ファージ*)(以下、MS2ウイルスと記す。)
*宿主菌はEscherichia coli NBRC 13965(大腸菌)
・試験液:リン酸緩衝液pH7.2に試験菌を混濁した試験ウイルス液
・滅菌:ステンレスホルダーにセット後、121℃20分オートクレーブ滅菌
・湿潤液:60% 2-プロパノール
【0093】
(試験菌の調製)
試験ウイルスとして前述のMS2ウイルスを用いて、「日本電機工業会企画JEM1467家庭用空気清浄機 付属書D 浮遊ウイルスに対する除去性能評価試験」に従い、試験菌を調製した。
【0094】
(試験ウイルス液の調製)
NB培地中で、宿主菌を36℃±2℃で一晩培養して得た宿主菌液に前述の試験ウイルス(MS2ウイルス)を接種した。試験ウイルスが接種された宿主菌液を、半流動寒天(NB培地+0.5%塩化ナトリウム+0.5%Agar)と混合した。得られた混合液を、普通寒天培地に重層した。宿主菌を36℃±2℃で18時間培養した後、宿主菌を寒天と共に遠心除去した。遠心除去によって得られた液を、孔径0.22μmの面ブランフィルターでろ過して、約1011PFU/mLの試験ウイルス液を得た。
【0095】
(MS2ウイルス除去試験方法)
実施例1~5及び比較例1~6の多孔質膜を試験フィルターとして用いて、試験ウイルス液を濾過した。得られたろ過液1mL中のウイルス数を測定し、式(a)により試験フィルターのウイルス捕捉性能(LRV)を算出した。
M=log10(A/B)・・・(a)
M:ウイルス捕捉性能(LRV)
A:精密ろ過膜に付加した試験ウイルスの総数
B:ろ液中の試験ウイルスの総数(Bの試験ウイルス数が「0」の場合は、Bは「1」とする)
上記Bのウイルス数の測定方法は、試験フィルターを通過した試験ウイルス液(ろ液)に対し、滅菌精製水で10倍段階希釈列を作製する。これを宿主菌液と半流動寒天に混合して普通寒天培地に重層した後、36℃±2℃で48時間培養した。培養後、発生したプラーク数を数え、ウイルス数(PFU/mL)を求めた。
【0096】
[ライフタイムの評価]
MS2ウイルス除去試験を10日間連続して実施した。その際、ろ過時のろ液圧力を測定した。1日目のろ液圧力をP1、10日目のろ液圧力をP10とした。
下記式に基づいて、ろ液圧力の変化率を算出した。
ろ液圧力変化率(%)=P10/P1×100
算出された膜厚変化の値に基づいて、以下の基準に従いライフタイムを評価した。結果を表3に示す。
◎:圧力上昇が、50%以下
○:圧力上昇が、50%超100%以下
×:圧力上昇が、100%超
【0097】
[ウイルス漏出防止の評価]
MS2ウイルス除去試験を10日間連続して実施した。ろ液のウイルス数を式(a)によって算出した。
算出されたウイルス数に基づいて、以下の基準に従いウイルス漏出防止の評価をした結果を表3に示す。
○:LRVが、8以下
×:LRVが、8超
【0098】
【0099】
表3によれば、連結孔径10nm以上35nm以下及び多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数が、200個以上1000個以下である、実施例1~5の多孔質膜は、優れたライフタイムと、優れたウイルス漏出防止性能を示すことが分かる。
他方、連結孔径10nm以上35nm以下及び多孔質膜の一方の面から他方の面との間に存在する、50nm以上200nm以下の球状孔の数が、200個以上1000個以下でない、比較例1~6の多孔質膜は、優れたライフタイムと、優れたウイルス漏出防止性能を備える多孔質膜を形成することが困難であった。