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特開2024-30343殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤とその製造方法、および光触媒コーティング剤層の形成方法
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  • 特開-殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤とその製造方法、および光触媒コーティング剤層の形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030343
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤とその製造方法、および光触媒コーティング剤層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/04 20060101AFI20240229BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20240229BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 37/04 20060101ALI20240229BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240229BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240229BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240229BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C09D201/04
A01N59/16 Z
A01P1/00
A01N37/04
A01N25/04 102
C09D7/63
C09D7/61
C09D127/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133169
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】518247232
【氏名又は名称】株式会社ケミカル・テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】520324938
【氏名又は名称】RFテクノ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093506
【弁理士】
【氏名又は名称】小野寺 洋二
(74)【代理人】
【識別番号】100206302
【弁理士】
【氏名又は名称】落志 雅美
(72)【発明者】
【氏名】野口 耕司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 智
(72)【発明者】
【氏名】北村 透
【テーマコード(参考)】
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB06
4H011BB18
4H011BC19
4H011DA15
4H011DH02
4J038CD121
4J038HA166
4J038JA39
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB06
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】人体に安全で、持続性に優れた殺菌・抗ウイルス性コーティング剤を提供する。
【解決手段】バインダー成分と光触媒に多価カルボン酸とを含ませることで、人体に安全で、かつ即効性及び持続性に優れた菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒コーティング剤であって、
バインダー成分と光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項2】
光触媒コーティング剤であって、
フッ素樹脂系バインダー成分と光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項3】
光触媒コーティング剤であって、
ナフィオン(登録商標)と光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項4】
光触媒コーティング剤であって、
ナフィオン(登録商標)と酸化タングステン系光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項5】
前記多価カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸から選ばれた二価カルボン酸の1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項6】
光触媒、ナフィオン(登録商標)、多価カルボン酸化合物の3成分を不揮発分として含み、その質量比率が、光触媒/ナフィオン(登録商標)/多価カルボン酸化合物=20~60/20~60/10~30なる範囲の混合物であることを特徴とする請求項3~5のいずれか1項に記載の殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項7】
光触媒、ナフィオン(登録商標)、多価カルボン酸化合物の3成分に過酸化水素を追加の添加成分として含み、酢酸測定器による過酢酸濃度が80ppm以上としたことを特徴とする請求項3~6のいずれか1項に記載の殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【請求項8】
光触媒とナフィオン(登録商標)と多価カルボン酸化合物の混合物に.水とアルコールを加えて強攪拌・分散して均一な混合液とすることを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤の製造方法。
【請求項9】
光触媒とナフィオン(登録商標)と多価カルボン酸化合物の混合物に.水とアルコールを加えて強攪拌・分散して均一な混合液とし、同混合液を対象物基材面に塗布して乾燥することを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤層の形成方法。
【請求項10】
光触媒とナフィオン(登録商標)と多価カルボン酸化合物の混合物に.水とアルコールを加えて強攪拌・分散して均一な混合液とし、同混合液を対象物基材面に塗布して乾燥した後、太陽光に晒してプレアクチベートすることを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒コーティング剤に係り、特に新型コロナウイルススパイク蛋白質を有するウイルスにも抗ウイルス活性を発揮する殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤とその製造方法、および光触媒コーティング剤層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐汚染性と抗菌性に優れた光触媒機能を有する金属化合物を配合した光触媒コーティング剤が実用化されているが、近年の新型コロナウイルスのパンデミックにも対応可能な抗ウイルス活性を備えた光触媒コーティング剤が要望されている。
【0003】
この技術分野に関連する従技術を開示したものとしては、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4などを挙げることができる。
【0004】
特許文献1は、TiO、WO等の金属酸化物からなる光触媒粒子:0.5~5w%、バインダーとしてナフィオン(登録商標):1~3w%、シランカップリング剤:0.1~5w%、アルコール10~50w%、アセトン10~50w%としたシ-リング用光触媒コーティング組成物を開示する。
この光触媒コーティング組成物をコーティングした膜は、水の接触角が極めて小さいために汚染物質の付着低減と分解除去効果が大であるとの記載がある。
【0005】
特許文献2には、TiOなどの酸化金属にナフィオン(登録商標)を配合した光触媒塗料としたことで、塗布した基材を屈曲しても塗膜が剥離しないとする効果が記載されている。
【0006】
特許文献3は、TiOなどの酸化金属にナフィオン(登録商標)を配合し、さらにPVDF、ETFE、PVDF―HFP、などの熱可塑性フッ素重合体を配合して接着性と耐摩耗性を有するとした光触媒コーティング組成物を開示する。
【0007】
特許文献4は、TiOなどの光触媒型の酸化金属(B)にケイ素化合物系等の無機系バインダー(A)とアルコール(C)を含み、(A)に対する(B)の質量比を0.5~5.0の班内とした抗菌・抗ウイルスコーティング組成物を開示する。この抗菌・抗ウイルスコーティング組成物は抗菌効果・抗ウイルス効果に加えて、貯蔵安定性と作業性が良好であるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010- 53202号公報
【特許文献2】特開2006-233073号公報
【特許文献3】特開2008-222853号公報
【特許文献4】特開2022- 85649号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本産業規格(R1756:2020)、ファインセラミックス-可視光応答形光触媒 抗菌加工材料の抗菌性試験方法及び抗菌効果
【非特許文献2】Uema, M., et al (2021) Effect of the Photocatalyst under Visible Light Irradiation in SARS-CoV-2 Stability on an Abiotic Surface.BiocontrolScience,Vol.26,No.2,119-125.DOI:https://doi.org/10.4265/bio.26.119
【非特許文献3】Yamaguchi, Y., et al (2016) Sporicidal performance induced by photocatalytic production of organic peroxide under visible light irradiation.Scientific,Reports,6,33715.DOI:https://doi.org/10.1038/srep33715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のTiOやWOに代表される酸化金属を光触媒として用いた組成物のコーティングでは、強い紫外線の長時間暴露など、実際の使用条件とは異なる条件下での検証データをコーティング膜の有効性の根拠としており、実際の使用における検証データをもってコーティング膜の有効性を議論するものとはなっていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
光触媒自体の実用上の殺菌機能は微弱であることから、それを補うために本発明では、バインダー成分のナフィオン(登録商標)と共にカルボン酸含有有機化合物を添加した。これは光触媒反応でカルボン酸が過カルボン酸となり一般に強力な殺菌剤として認知される過酢酸(CHO)と同じ反応機構での殺菌作用を生じさせる効果がある。
【0012】
過酢酸は強力な殺菌剤ではあるが持続時間が短いことと刺激臭のあることが問題であったが、本発明では、これを有効官能基であるカルボン酸をそのままに、分子量を上げて揮発し難い化合物に変更することで解決する。
したがって、本発明に係るコーティング剤は、光触媒、ナフィオン(登録商標)、カルボン酸含有有機化合物の3種が必須成分となる。
本発明の目的は、上記の考察に基づいて、従来の過酢酸殺菌剤の欠点を克服し、人体に安全で効果そのものだけでなく、その持続性にも優れた殺菌コーティング剤を提供することにある。
【0013】
本発明は、光触媒に特定のバインダーとカルボン酸を含む有機化合物を必須の成分としたことで殺菌作用、抗ウイルス作用を向上させたものである。
本発明に係る殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤とその製造方法、および光触媒コーティング剤層の形成方法の代表的構成を以下に記述する。
【0014】
(1)バインダー成分と光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0015】
(2)フッ素樹脂系バインダー成分と光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0016】
(3)ナフィオン(登録商標)と光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0017】
(4)ナフィオン(登録商標)と酸化タングステン系光触媒と多価カルボン酸とを含むことを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0018】
(5)前記(1)~(4)いずれかに記載の多価カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸から選ばれた二価カルボン酸の1種又は2種以上であることを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0019】
(6)光触媒、ナフィオン(登録商標)、多価カルボン酸化合物の3成分を不揮発分として含み、その質量比率が、光触媒/ナフィオン(登録商標)/多価カルボン酸化合物=20~60/20~60/10~30なる範囲の混合物であることを特徴とする上記(3)~(5)のいずれかに記載の殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0020】
(7)光触媒、ナフィオン(登録商標)、多価カルボン酸化合物の3成分に過酸化水素を追加の添加成分として含み、酢酸測定器による過酢酸濃度が80ppm以上としたことを特徴とする上記(3)~(6)のいずれかに記載の殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤。
【0021】
(8)光触媒とナフィオン(登録商標)と多価カルボン酸化合物の混合物に.水とアルコールを加えて強攪拌・分散して均一な混合液とすることを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤の製造方法。
【0022】
(9)光触媒とナフィオン(登録商標)と多価カルボン酸化合物の混合物に.水とアルコールを加えて強攪拌・分散して均一な混合液とし、同混合液を対象物基材面に塗布して乾燥することを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤層の形成方法。
【0023】
(10)光触媒とナフィオン(登録商標)と多価カルボン酸化合物の混合物に.水とアルコールを加えて強攪拌・分散して均一な混合液とし、同混合液を対象物基材面に塗布して乾燥した後、太陽光に晒してプレアクチベートすることを特徴とする殺菌及び抗ウイルス機能を有することを特徴とする光触媒コーティング剤層の形成方法。
【発明の効果】
【0024】
人体に安全で即効的効果そのものだけでなく、その持続性にも優れた新型コロナウイルススパイス蛋白質を有するウイルスにも抗ウイルス活性を発揮する殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤とその製造方法、および光触媒コーティング剤層の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ガラス密着法の処理手順の流れ図
図2】光触媒コーティング基剤における感染阻害の説明図で、(a)はPseudovirus (D614G type)に可視光被曝2時間後、(b)は同4時間後のウイルス液の感染結果を光触媒コーティング基剤別に示す図
図3】可視光照度3000luxにおける感染阻害の説明図
図4】プレアクティベートの有無による感染阻害への影響を説明する図
図5】カルボン酸処理におけるD614G株の感染阻害の説明図
図6】光触媒コーティング基剤におけるDelta変異株の感染阻害の説明図
図7】SARS-CoV-2のスパイク蛋白質の発現を示す図
図8】スパイク蛋白質の発現低下時間の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
光触媒は酸化チタン(TiO)、酸化タングステン(WO)(これらと同等の他の金属酸化物等も含む)から選択可能であり、とりわけ酸化チタンは室内での反応性を向上させるためにドーピング等の変性を施したものが適している。
【0028】
ナフィオン(登録商標)は、化学名としてはパーフルオロスルホン酸グラフトポリテトラフルオロエチレンと言い換えることが可能であるが、これは光触媒反応に必須の親水性を維持したまま十分な耐水性、耐候性と耐摩耗性を維持するための樹脂成分である。
【0029】
カルボン酸含有有機化合物の多価カルボン酸は二価カルボン酸のシュウ酸、マロン酸、コハク酸リンゴ酸、グルタル酸、アジピン酸から選ばれる群から選択可能である。これらは揮発性が極めて低いため過酢酸のような刺激臭や不快臭を発することなく、コーティング膜中に長期間存在するので殺菌効果の持続に貢献する。
【0030】
不揮発分中に占める各々の比率は光触媒/ナフィオン(登録商標)/多価カルボン酸=20~60/20~60/10~30なる範囲が適している。
【0031】
殺菌成分を得るためには、酢酸(CHO)を過酢酸(CHO)にするプロセス同様に、3成分の強分散と混合後に光照射して光触媒の酸化反応でカルボン酸を過カルボン酸にするプロセスが必要である(式1)。
-COOH + O・ → -COOOH ・・・(1)
ただし、この反応は本来、酢酸に過酸化水素を添加して進行させているので光触媒に頼る必要はなく、単に過酸化水素の添加だけでも十分である(式2)。
-COOH + H2O2 → -COOOH + H2O ・・・(2)
【0032】
光触媒反応に頼るのはむしろこのコーティング剤を塗布して時間が経過し、過酢酸と見立てている過カルボン酸が酸化作用を持つ活性酸素を失って単なるカルボン酸に戻った後である。それを、ふたたび過カルボン酸に再生させるために光触媒反応が必要となる(式3)。
-COOOH → -COOH + O・ →(光触媒反応)-COOOH ・・・(3)
光触媒の共存で過カルボン酸の殺菌機能は光が存在する限り持続することになる。
【0033】
具体的な殺菌の発現機構は過酢酸とまったく同じであるため、コーティング液(剤)の殺菌能力は過酢酸の性能測定に採用されている試験方法をそのまま適用することが可能であり、また塗布後の乾燥膜の殺菌性能の測定には公知のスタンプ培地が適用できる。
【0034】
光触媒は多価カルボン酸のカルボン酸を過酢酸と同等の活性酸素種に酸化させるために必要となる。ナフィオン(登録商標)はこの光触媒の酸化反応に関与せずに安定した耐候性と耐水性を、生成した膜に具備させるために必要なものである。
【0035】
多価カルボン酸は過酢酸と同等の活性酸素種を発生させるために必要である。本来は、酢酸から過酢酸を生成させることでいいのであるが、酢酸は低分子過ぎて臭気が強いと共に揮発性があり、長期間の効果持続に適しないため、より高分子の類似酸に代替したものである。ただ、水か水/アルコール混合液に溶解しなければならないという条件があるため、本発明の組成としたものである。
【0036】
プレアクチベート処理(前処理)として、例えば、光触媒にルネキャット(登録商標、東芝マテリアル製品:不揮発分10%)を採用し、これの20gとナフィオン(登録商標)DE520(米国ケマーズ社製品:不揮発分5%)の60gを、先ずロッキングミルで強分散して均一な溶液を得た。
【0037】
別途、リンゴ酸の10%水溶液を調整し、これを上記の混合物80gに20g加えて更に攪拌混合した。さらに、これに水400gとエタノール500gを加えて攪拌し、合計1000gの混合液を得た。この溶液の不揮発分は、ルネキャット(登録商標)2g、ナフィオン(登録商標)3g、リンゴ酸2g、の合計7g、つまり7質量%となり、光触媒/ナフィオン(登録商標)/多価カルボン酸(リンゴ酸)の質量比率は20/30/20/となる。
【0038】
次に、最適な質量比率について説明する。
上記した各具体的な成分を基にすると、上記がほぼ最適比率である。しかしながら、光触媒を暗反応性に劣る酸化チタン(TiO)に変更する場合には、光触媒の比率を増さねばならない。また、多価カルボン酸含有有機化合物のカルボン酸当量に生成される活性酸素は量に依存するので、その配合量は直接にその影響を受ける。
【0039】
リンゴ酸でのカルボン酸当量に生成される活性酸素は67であるが、例えばアジピン酸でのそれは73であり、同量のカルボキシル基を得るためには9質量%の増量が必要である。カルボキシル基が多いほど殺菌力が増すため、使用用途によっても必要量は左右される。ちなみに、多ければ多いほど良いという訳でもなく、多くなるほど耐水性が低下するという問題も生じる。
【0040】
ナフィオン(登録商標)は耐候性や耐水性を維持しながら安定的な反応の場を提供するという重要な役割を担うので比率は多くても構わないが、多くなるとカルボン酸の濃度が低下するので、多すぎると活性に悪影響を与える。
【0041】
光触媒反応に長期間侵されずに安定的な耐候性を有し、乾燥と塗膜が耐水性を示しながらも(水が関与する)光触媒反応を阻害しないという二律背反的な性能を具備する樹脂は、現時点ではナフィオン(登録商標)のみである。なお、類似品として、アクイビオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)がある。
【0042】
次に、二価カルボン酸が好ましいことについて説明する。一価カルボン酸は分子量が大きくなると水やエタノールに不溶となるため、他の成分との混合に難がある。また、カルボン酸の濃度を上げて反応を効率化するためにも二価以上の多価カルボン酸が好ましい。
【0043】
以下に、本発明に係る殺菌及び抗ウイルス機能を有する光触媒コーティング剤(塗布剤)の殺菌細菌および新型コロナウイルスと触媒の抗ウイルス効果について、試験とその結果を用いて説明する。
【0044】
新型コロナウイルスのスパイク蛋白質の感染力を測定する実験系と分子動力学プログラムをナフィオン(登録商標)型光触媒コーティング薬液としてフッ素樹脂ベース多機能光触媒コーティング剤(NFE2)の抗ウイルス効果技術開発に応用する。
【0045】
実際の商品試作品を試験材料として、非特許文献1として挙げた日本産業規格(R1756:2020)により施行されたファインセラミックス-可視光応答型光触媒材料の抗ウイルス試験方法に準じて試験を行った。
【0046】
光触媒効果については、実際の生活環境と同等レベルの条件で抗ウイルス試験を実施した。
【0047】
変異株への抗ウイルス効果を明らかにするため、変異株スパイク蛋白質を発現するSARS-CoV-2シュードタイプウイルスによる感染モデルを用いて感染阻害効果を測定した。
【0048】
試験基材による直接的な抗SARS-CoV-2作用を明らかにするため、SARS-CoV-2感染メカニズムに必須の機能分子スパイク蛋白質に対する影響をウエスタンブロットで測定した。
【0049】
図1は、ガラス密着法を用いた本発明に係る抗ウイルス効果試験のフローチャートである。
先ず、生活環境下における光強度で、SARS-CoV-2スパイク蛋白質とACE2の結合を阻害する光触媒コーティング基剤の条件同定について試験を行った。
【0050】
図1において、試験片を設置し(ステップ1、以下S-1のように記す)、可視光照射下において、SARS-CoV-2シュードタイプウイルス液と供与試験片とを接触させて(S-2)、各試験片を得る(S-3)。試験片に可視光を照射又は暗所にて保存する。
【0051】
試験ウイルスの洗い出しを行い(S-4)、VeroE6/TMPRSS2細胞に添加する(S-5)。これを37℃、5%CO2で3日間培養する。
回収されたウイルス液の感染細胞のルシフェラーゼ発光量をプレートリーダーにて測定して(S-6)、その感染力を比較定量することで、可視光応答形光触媒加エコーティング基剤の抗ウイルス性を評価した(S-7)。
【0052】
適用した方法としては、繊維状材料に適用可能なガラス密着法を採用した。無加工基材、ナフィオン(登録商標)、後述する試験剤を塗布した試験片、酸化タングステン(W0)型、東芝ルネキャット(ルネキャットは登録商標)を試験片とし、これらの祖堅辺をシャーレに置き、試験SARS-CoV-2シュードタイプウイルス液(D614G株;Nextstrain Clade19A)100μLを試験片に滴下後、密着ガラス(24×24mm)によって試験ウイルス液を覆い、上蓋をシャーレの上に被せた。
【0053】
試験片を入れたシャーレに可視光(lOOOlux)を照射した。照射後(2時間、4時間)、試験片及び密着ガラスから試験ウイルスを洗い出し、この洗い出された 試験ウイルス液をVeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB細胞バンク:JCRB1819)に添加し、3日間培養した。
【0054】
培地を除去後、感染細胞中で発現しているレポーターのルシフェラーゼ活性を、ピッカジーン メリオラスターエルティー発光試薬を用いて測定した。
【0055】
ルシフェラーゼ発光量はプレートリーダー(Perkin Elmer社製2104 EnVision マルチラベルカウンタ、またはモレキュラーデバイス社製マルチラベルカウンタiD3)を使用して測定した。
得られた結果は、無加工試験片及び暗所下の光触媒加工コーティング基剤加工試験片の測定結果と比較した。
【0056】
さらに、東芝ルネキャット(ルネキャットは登録商標)における先行研究(非特許文献2)の条件設定より、可視光照度を3000lux、照射時間を30分、1時間においても同様の実験を行った。
また、光触媒加エコーティング基剤調整時における太陽光照射におけるプレアクティベートが抗ウイルス性に影響を及ぼすかどうかを検証するために、プレアクティベートしていない試験片においても同様の実験を行った。
【0057】
また、後述する試験剤で加工されたコーティング基剤の試験片では、成分表においてアジピン酸が含有されている。このアジピン酸の抗ウイルス性を検証するため、種々のジカルボン酸の処理に対するSARS-CoV-2シュードタイプウイルスの感染力を上記と同様の方法で測定した。
【0058】
次に、遺伝子変異型スパイク蛋白質とACE2の結合を阻害する光触媒コーティング基剤の条件同定について試験を行った。
D614G株の検証により最適化された条件下において、懸念される変異株(Variant of Concern;VOC変異株)であるDelta株(Nextstrain Clade 21A)における可視光応答形光触媒加エコーティング基剤の抗ウイルス性を評価した。適用した方法としては、ガラス密着法を採用した。
【0059】
さらに、遺伝子変異型スパイク蛋白質における光触媒加エコーティング基剤の直接的な影響を検証するため、ヒト胚性腎臓細胞であるHEK293T細胞に遺伝子変異型スパイク蛋白質(D614G株、Delta株)を過剰発現させ、得られた細胞溶解液を後述する試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片に100μL滴下後、可視光(3000lux)を照射した。照射後(10分、1時間、2時間)、細胞溶解液を回収し、スパイク蛋白質の発現をウェスタンブロット法にて検出した。スパイク蛋白質の発現量は、内在性コントロールであるGAPDHにより正規化し、定量した。
【0060】
研究結果
1.実際の生活環境における光強度で、スパイク蛋白質とACE2の結合を阻害する光触媒基剤の条件同定について、
図2は、光触媒コーティング基剤における感染阻害の説明図で(a)はSARS-CoV-2シュードタイプウイルス(D614G 株)に被曝感染後2時間後、(b)は同4時間後の結果を光触媒コーティング基材別に示す。図中、横軸のP1は基剤が無加工のプレートのみ、P2はナフィオン(登録商標)、P3は本発明の試験片、P4はWO、P5は東芝ルネキャット(ルネキャットは登録商標)である。
【0061】
図2に示されたように、無加工基剤と比較して、可視光応答形光触媒加エコーティング基剤において、可視光照射の有無に関わらず、照射後2時間(a)、4時間後(b)の何れにおいても、SARS-CoV-2シュードタイプウイルスの感染活性が低下した。特に、後述する試験片T-1、T-2、T-3、T-4で加工されたコーティング基剤塗布試験片上において顕著に感染活性が低下したことが確認された。
【0062】
図3は、可視光照度3000luxにおける感染阻害の説明図である。各折れ線のシンボル(―□―、…□…、―××―、―×―、―△―、…△…、―〇―、―×―)は図2と同じである。
本実施例ではさらに、可視光照度3000lux下では、照射後30分、および1時間においても、本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片上において顕著に感染活性が低下した(図中のP3を参照)。すなわち、本発明の試験剤によれば、ウイルス感染活性の顕著な低下が即効性と持続性を伴って発揮されることが理解される。
【0063】
しかしながら、酸化タングステン(W03)型においては、照射後30分、1時間では本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片上と比較して減少率が低かった。一方で、可視光照射の有無による感染活性の差異は見られなかった。
【0064】
図4は、プレアクティベートの有無による感染阻害への影響を説明する図であり、(a)はプレアクティベート有り、(b)はプレアクティベート無しでのコーティング基剤別の感染阻害への影響を説明するものである。図中横軸の「control」は処理時間0時間の初期量を意味するものであり、P1乃至P5は図2及び図3と同じである。
図4に示されたように、プレアクティベートの有無による可視光応答性の差異に関しては、プレアクティベート有りの方がより顕著に感染活性が低下していることが確認された。
【0065】
図5は、カルボン酸のみ(光触媒なし)の処理におけるD614G株の感染阻害の説明図である。図5に示されたように、アジピン酸を含む種々のジカルボン酸処理(0.0001~0.1%)におけるウイルス感染阻害を測定した結果、0.01%以下ではジカルボン酸の抗ウイルス性は認められなかった。
【0066】
2.遺伝子変異型スパイク蛋白質とACE2の結合を阻害する光触媒基剤の条件同定について、
D614G株の検証により得られた条件下(3000lux)において、VOC変異株であるDelta株の可視光応答形光触媒加エコーティング基剤の抗ウイルス活性を評価した。結果は、D614G株と同様に、照射後30分、1時間、2時間の何れにおいても、本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片上において顕著に感染活性が低下した。
【0067】
図6は、光触媒コーティング基剤におけるDelta変異株の感染阻害の説明図である。折れ線のシンボルは図3と同じである。酸化夕ングステン(W03)型においては、照射後2時間において、具体的に後述する試験剤で加工されたコーティング基剤と同様の減少率となったことが示されている。
【0068】
図7は、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質の発現を示す図であり、図8は、スパイク蛋白質の発現低下時間の説明図である。図7の矢印Aで領域に黒いシグナルのバンドがスパイク蛋白質を示す。
【0069】
図8の矢印B、Cに示されたように、遺伝子変異型スパイク蛋白質における光触媒加工コーティング基剤の直接的な影響を検証した実験では、D614G株、Delta株いずれにおいてもスパイク蛋白質の発現が時間依存的に低下したことが解る。さらに、スパイク蛋白質の発現の低下は、処理後10分から確認された。
【0070】
以上説明した試験結果に基いて、本発明に係る光触媒コーティング剤の効果を以下のように考察する。
本実施例で説明した試験について、SARS-CoV-2に対する可視光応答形光触媒加エコーティング基材の抗ウイルス性を考察し、評価した。
本試験で供与された可視光応答形光触媒加工コーティング基剤においては、他のコーティング基剤と比較して、より高い抗ウイルス性を示した。特に、後述する試験片T-1、T-2、T-3、T-4で加工されたコーティング基剤塗布試験片は顕著な抗ウイルス性を示した。
【0071】
さらに、抗ウイルス効果を示す最適な可視光照度は3000luxであった。照度3000luxとは、非特許文献2で検証された照度であり、生活環境下において逸脱しない照度である。興味深いことに、本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片は、照射後30分でも抗ウイルス効果を示しており、非特許文献2に示された照射時間と比較して、より短い時間で効果を示した。
【0072】
つまり、本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片が高い抗ウイルス性を保持していることを示唆している。しかしながら、本実施例で供与された光触媒加エコーティング基剤においては、可視光応答性に明確な差異が見られなかった。
【0073】
可視光照射下での枯草菌胞子(Bacillus subtilis)における酸化夕ングステンの光触媒効果を検証した報告(非特許文献3)では、光照射時間20時間程度、エタノール/水の組成比が8:2(v/v)において最適な抗菌活性を示しており過酸化物の生成が示唆されているが、これらの組成の違いが、可視光応答性に影響していた可能性が考えられる。
【0074】
しかしながら、可視光照射に依存することなく抗ウイルス性を示したことは、 暗所環境下においても使用することが可能であり、多種多様な生活環境において、本研究で供与されたコーティング基剤が幅広く活用できる可能性を示唆している。
【0075】
一方、光触媒加エコーティング基剤調整時の太陽光照射におけるプレアクティベートにより抗ウイルス性が高まっていることから、光触媒効果により何らかの抗ウイルス活性が本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤に生じていると推測される。
本発明の試験剤成分表中に含まれるジカルボン酸のアジピン酸自体には抗ウイルス性は認められないことから、太陽光照射におけるプレアクティベートで誘起された光触媒作用により何らかの化学反応が生じている可能性が示唆される。
【0076】
本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤塗布試験片に使われる本発明の試験剤には、参考資料3の光触媒効果の検証論文で検討されている条件と同様にエタノールと水が含有されていることから、類似の化学反応により生じる過酸化産物によって抗ウイルス作用を発揮している可能性も考えられる。
【0077】
次に、VOC変異株であるDelta株の可視光応答形光触媒加エコーティング基剤の抗ウイルス活性を評価した。D614G株と同様に、本研究で供与された基剤試験片において、他社の製品と比較して、より高い抗ウイルス性を示し、特に、具体的に後述する各試験片で加工されたコーティング基剤試験では顕著な抗ウイルス性を示した。
【0078】
次に、上記の実施形態の説明における複数の試験片(説明の便宜上、T―1,T―2,T―3,T―4と記す)の作成について、本発明の実施例として詳細に説明する。
【実施例0079】
試験片[T-1]
先ず、下記aとbとcを用意する。
a.「ルネキャット」(登録商標:東芝マテリアル社製のWO系光触媒(不揮発分10%))40g、
b.「ナフィオン(登録商標)DE520」(ケマーズ社製のフッ素樹脂(不揮発分5%))60g、
c.アジピン酸(2.0%水溶液)200g、
これに加えて、
d.水200g、
e.エタノール500g
を用意する。
【0080】
次に、上記a(40g)とb(60g)をロッキングミルで強攪拌・分散して均一な混合液とした。
続いて、上記a・b混合液(100g)にc液(200g)を添加し攪拌・混合した。
その後、前記a・b・c混合液(300g)に、d(200g)とe(500g)を加えて攪拌し合計1000gの混合溶液(a・b・c・d・eの全部混合液)を得た。
【0081】
上記の全部混合液中の不揮発分は、ルネキャット(登録商標)4g、ナフィオン(登録商標)3g、アジピン酸4gの合計11g、すなわち光触媒/ナフィオン(登録商標)/リンゴ酸の質量比は40/30/40であった。
【0082】
この混合液を50mm×50mmのガラス板にエアーブラシで塗布した。塗布量は40g/mを目途とした。
それを、室内で3時間放置して乾燥させて試験用試料(T-1)を作成した。
評価:
上記[T-1]を他の試験体と同様に光照射処理をして経時観察をしたところ、図2図3に示す如き効果を得た。図中、P3が本実施例の光触媒コーティング剤である。他の実施例でも同じ。
【実施例0083】
試験片[T-2]
実施例2の試験片[T-2]は、実施例1の試験片[T-1]の変形例で、[T-1]をプレアクチベートしたものである。
実施例1と同じくして50mm×50mmのガラス板にエアーブラシで塗布(塗布量は40g/m)したものを、晴天の屋外太陽光下で1時間乾燥兼日光浴させてプレアクティベートして試験用試料[T-2]を作成した。
【0084】
評価:
上記T-2を他の試験体と同様に光照射処理をして経時観察をしたところ、図4に示す如き効果を得た。
【実施例0085】
試験片[T-3]
まず、下記aとbとc’を用意する。
a.「ルネキャット」(登録商標:東芝マテリアル社製のWO系光触媒(不揮発分10%)20g、
b.「ナフィオン(登録商標)DE520」(ケマーズ社製のフッ素樹脂(不揮発分5%))65g、
c’.リンゴ酸(10%水溶液)15g、
これに加えて、
d.水400g、
e.エタノール500g
を用意する。
【0086】
次に、上記a(20g)とb(65g)をロッキングミルで強攪拌・分散して均一な混合液とした。
続いて、上記a・b混合液(85g)にc’液(15g)を添加し攪拌・混合した。
その後、前記a・b・c’混合液(100g)に、d(400g)とe(500g)を加えて攪拌し合計1000gの混合溶液(a・b・c’・d・eの全部混合液)を得た。
【0087】
上記の全部混合液中の不揮発分は、ルネキャット(登録商標)2g、ナフィオン(登録商標)3.25g、リンゴ酸1.5gの合計6.75g、すなわち光触媒/ナフィオン(登録商標)/リンゴ酸の質量比は20/32.5/15であった。
【0088】
この混合液を50mm×50mmのガラス板にエアーブラシで塗布した。塗布量は40g/mを目途とした。
それを、室内で3時間放置して乾燥させて試験用試料[T-3]を作成した。
【0089】
評価:
上記[T-3]を他の試験体と同様に光照射処理をして経時観察をしたところ、T-1のデータとほぼ同じ結果であった。
【実施例0090】
試験片[T-4]
まず、下記aとbとc”を用意する。
a.「ルネキャット」(登録商標:東芝マテリアル社製のWO系光触媒(不揮発分10%)20g、
b.「ナフィオン(登録商標)DE520」(ケマーズ社製のフッ素樹脂(不揮発分5%))50g、
c”.コハク酸(5%水溶液)30g、
これに加えて、
d.水400g、
e.エタノール500g。
【0091】
次に、上記a(20g)とb(50g)をロッキングミルで強攪拌・分散して均一な溶液とした。
続いて、上記a・b混合液(70g)にc”液(30g)を添加し攪拌・混合した。
【0092】
その後、前記a・b・c”混合液(100g)に、d(400g)とe(500g)を加えて攪拌し合計1000gの混合溶液(a・b・c″・d・eの全部混合液)を得た。
【0093】
上記の全部混合液中の不揮発分は、ルネキャット2g、ナフィオン2.5g、コハク酸1.5gの合計6.0g、すなわち光触媒/ナフィオン/コハク酸の質量比は20/25/15であった。
この混合液を50mm×50mmのガラス板にエアーブラシで塗布した。塗布量は40g/mを目途とした。
それを、室内で3時間放置して乾燥させて試験用試料(T-4)を作成した。
【0094】
評価:
上記[T-4]を他の試験体と同様に光照射処理をして経時観察をしたところ、T-1のデータとほぼ同じ結果であった。
【0095】
この結果より、本発明の各試験で供与された各試験片が変異株においても抗ウイルス性を示す可能性を示唆している。ウイルス表面に存在するスパイク蛋白質が、ヒト細胞に侵入する初期段階において、ヒト細胞表面のアンジオテンシン変換酵素II(ACE2受容体)に結合して吸着し、ウイルスが侵入することで感染に至るとされている。そして、各試験片で加工されたコーティング基剤試験片上で処理した細胞溶解液では、経時的にスパイク蛋白質の発現量が低下した。つまり、本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤はスパイク蛋白質に直接的な影響を与えることで抗ウイルス性を発現したことが確認された。
【0096】
本実施例により、本発明の試験剤で加工されたコーティング基剤のSARS-CoV-2に対する高い抗ウイルス性が生活環境における光強度で示された。
さらには、この抗ウイルス性には、スパイク蛋白質の蛋白量低下に寄与していることが確認された。
【符号の説明】
【0097】
P1・・・基剤無しの無加工のプレート
P2・・・ナフィオン(登録商標)
P3・・・本発明の試験剤
P4・・・WO
P5・・・東芝ルネキャット(ルネキャットは登録商標)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8