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▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030548
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】水酸化コバルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/04 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
C01G51/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133509
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】大塚 啓司
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE06
(57)【要約】
【課題】塩化コバルト液を原料として水酸化コバルトを安価かつ濾過性が良く塩素(塩化物)品位を低くすることが可能な、水酸化コバルトの製造方法を提供する。
【解決手段】塩化物とコバルトを含有する溶液にアルカリを添加してスラリーを生成し、前記スラリーを固液分離して水酸化コバルトを得る方法において、前記固液分離が、前記スラリーのpHを、10を超えて14以下となる範囲で、25分間以上保持した後、前記スラリーを固液分離に付すことを特徴とする水酸化コバルトの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物とコバルトを含有する溶液にアルカリを添加してスラリーを生成し、前記スラリーを固液分離して水酸化コバルトを得る方法において、
前記固液分離が、前記スラリーのpHを、10を超えて14以下となる範囲で、25分間以上保持した後、前記スラリーを固液分離に付すことを特徴とする水酸化コバルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過性が良く低塩素品位の水酸化コバルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池などの材料に用いられる酸化コバルト等のコバルト化合物を得る方法として、コバルトを含む原料を酸などで浸出して溶液を得、この溶液を溶媒抽出などの方法を用いて不純物を除去する精製工程に付して精製液を得、次いで前記精製液を中和して水酸化コバルトを得て中間原料とし、この中間原料を例えば焼成して酸化コバルトを得る方法が知られている。
【0003】
上記のような工程で処理される場合、原料の溶解に用いる酸が塩酸の場合、精製液を中和して得た中間原料に塩素(塩化物)が混在する課題がある。
その一つとして焼成を行う場合、塩素は焼成炉の材質にも損傷を与えることから、塩化物品位はなるべく低濃度であることが好ましい。
特に水酸化コバルトを電池用途に用いる場合、特性を維持するために水酸化コバルト中の塩素品位をできるだけ、具体的には1重量%以下、に低減することが求められる。
【0004】
同時に、精製液にアルカリ剤を添加して中和するため、アルカリ剤コストが低いことも大切である。さらに中和で生成する水酸化物は一般に微細で濾過性が低い傾向がある。ところで、濾過性が良好であれば、設備が簡略化でき設備投資や操業の手間が省けてコスト減少に効果が大きい。
さらに、濾過性が悪い場合、水酸化コバルトの周囲に塩素(塩化物)が付着することで水酸化コバルトの塩素品位が上昇し、上述するように電池特性への影響も懸念され好ましくない。
すなわち濾過性が良く不純物濃度が低い水酸化コバルトが求められている。
【0005】
塩化コバルト溶液から水酸化コバルトを製造する方法として、例えば特許文献1には、塩化コバルト溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加してpHを8.0~9.5に調整する中和に付し、水酸化コバルトを得る方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の方法で塩化コバルト溶液を中和した場合、得られる水酸化コバルトに含有される塩素(塩化物)品位が高く、また固液分離する際の濾過性が劣るという課題がある。
【0007】
上述するように、塩素品位の高い水酸化コバルトは、電池の材料として用いる用途には適さず、また濾過性が劣ることは生産性の低下や操業コストの増加をもたらすなど、いずれも好ましくない。
【0008】
また、特許文献2には、塩化コバルト溶液にアルカリを添加して中和する際、最初にpHを10.5~12.0の範囲に制御して水酸化コバルト結晶の核となる粒子を発生させ、次いでpHを9.5~10.5となる範囲に低下させると共に錯化剤を添加して粒子を成長させる方法が開示されている。粒子の成長により濾過性の向上が期待できる特徴がある。
【0009】
しかしながら、上記の方法では、錯化剤としてアンモニアを使用しており、コバルト回収後の溶液を排水処理に付して処分しようとする際、排水の窒素を除去する脱窒処理が必要となり手間とコストがかかる課題がある。
【0010】
また、2段目のpH調整にともなって塩素濃度が下がるので、水酸化コバルト中の塩素品位が増加する課題もあった。
このように、電池材料用の中間原料となる水酸化コバルトの品質と製造時の生産性を向上することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60-195024号公報
【特許文献2】特開2015-165477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、このような状況を解決するため、塩化コバルト液を原料として水酸化コバルトを安価かつ濾過性が良く塩素(塩化物)品位を低くすることが可能な、水酸化コバルトの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、塩素を含有するコバルト塩溶液を原料としてアルカリ剤を後から添加し、撹拌しながら、pHが10.5以上になった時点から25分間以上保持することで、塩素品位が1%以下で濾過性の良い水酸化コバルトを得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の第1の態様は、塩化物とコバルトを含有する溶液にアルカリを添加してスラリーを生成し、このスラリーを固液分離して水酸化コバルトを得る方法において、その固液分離が、スラリーのpHを、10を超えて14以下となる範囲で、25分間以上保持した後、前記スラリーを固液分離に付すことを特徴とする水酸化コバルトの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水酸化コバルトの製造方法を用いることで、濾過性が良く塩素品位の低い水酸化コバルトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1a】pHを11.2とした場合での、保持時間による粒径変化を示す電子顕微鏡写真で、保持なしの場合である。
図1b】pHを11.2とした場合での、保持時間による粒径変化を示す電子顕微鏡写真で、25min間保持した場合である。
図1c】pHを11.2とした場合での、保持時間による粒径変化を示す電子顕微鏡写真で50min間保持した場合である。
図1d】pHを11.2とした場合での、保持時間による粒径変化を示す電子顕微鏡写真で75min間保持した場合である。
図2a】保持時間を75分間とした場合で、pH8.0とした粒径変化を示す電子顕微鏡写真である。
図2b】保持時間を75分間とした場合で、pH10.0とした粒径変化を示す電子顕微鏡写真ある。
図2c】保持時間を75分間とした場合で、pH11.2とした粒径変化を示す電子顕微鏡写真である。
図2d】保持時間を75分間とした場合で、pH12.0とした粒径変化を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の、水酸化コバルトの製造方法を詳細に説明する。
本発明の水酸化コバルト製造方法は、塩素を含有するコバルト塩溶液を原料としてアルカリ剤を後から添加し、撹拌しながら、pHが10を超えた段階で25分以上維持することを特徴とし、塩素品位が1%以下で濾過性の良好な水酸化コバルトを得ることができる。
さらに本発明では、錯化剤を用いないので排水処理の手間やコストを低減でき、環境面でも優れている。
本発明ではpHを上げることで結晶を成長させ、低塩素濃度かつ濾過性の良い水酸化コバルトを製造する。
【0018】
塩化コバルト溶液に水酸化ナトリウムを添加して中和した場合、最初は微細なCoCl(OH)とCo(OH)の混合物が生成し、その後時間の経過とともにCoCl(OH)がCo(OH)に変化することを見出した。
つまり、所定のpHまで中和を行っても保持することで形態が変化するとともに図1aから図1dに示すように粒径も粗大化し、生成するコバルト化合物の粒子自身や粒子同士の隙間に巻き込まれて含有される塩素品位を低減することができる。
【0019】
また、図2aから図2dに示すように、同じ保持時間であってもpHが高い方が大きな粒径の水酸化コバルトが得られ、塩素品位も減少傾向となる。
このことからpHを、10を超えて高く、かつpH調整後に濾過を開始するまでに25分以上の保持時間を持つことで、従来からの方法と異なって1段のpH調整で済み、アンモニアなどの錯化剤を用いなくても塩素濃度が低く濾過性のよい水酸化コバルトを得ることができる。
【実施例0020】
以下、実施例および比較例によって、本発明をより詳細に説明する。
コバルト濃度が76g/Lの塩化コバルト溶液を原料に用いた。溶液のpHは2.5を示した。なお、原料は塩化コバルト液に限定されず、硫酸コバルト液等の酸性の含コバルト溶液でも同様に処理できる。
アルカリ剤には、富士フイルム和光純薬株式会社製の濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いた。他のアルカリ剤として水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、あるいはこれらの混合物も使用できる。
【0021】
容量500mlのガラス製の反応容器をウォーターバス中に設置し、前記塩化コバルト溶液の液温を60℃の一定温度に維持した。液温も室温から95℃程度まで実施可能である。なお、反応容器の上部に塩ビ製の蓋を設けた。蓋にはアルカリ剤投入口、窒素ガス吹き込み口、pH電極差し込み口を設けた。
【0022】
反応時はpHを連続して測定した。測定器には東亜DKK株式会社製の形式HM41X型を用い、pH電極には銀塩化銀電極を参照電極とする東亜DKK株式会社製の形式GST―5841Cを用いた。アルカリ剤を添加する定量ポンプには東京理化器械株式会社製の形式SMP-21を用いた。
【0023】
具体的な手順として、まず反応容器に200mlの塩化コバルト溶液を装入し、送液ポンプで濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液をpHが各設定値になるまで流量2ml/minで添加し、同時にボンベから供給した窒素ガスを1L/minの流量で反応槽のスラリー内にシンターグラスを介して吹き込んだ。
【0024】
設定値に到達後は、設定pHを維持するように流量を調整しながら0分~75分の設定時間を維持し、設定時間到達後濾過を行い、濾過物と濾液に分離した。
なお、保持時間0分の場合は、設定pHに到達後ただちに濾過を開始した。
【0025】
試験終了後、ヌッチェ濾過器を用いて、濾過を行った。濾紙はアドバンテック社製の125mm径の5C濾紙(粒子保持能1μm)を用いた。ドライ真空ポンプはアルバック機工株式会社製の商品名DTC-41型を用いた。濾過時間は、スラリーをヌッチェ投入開始後、目視し、濾過物ケーキにヒビが入るまでの間とした。
【0026】
なお、濾過時間は短いほど良いが、一般的に本量程度のスラリーであれば、300秒以下が好ましいとされる。濾過完了後、300mlの純水を4回通水して濾過物ケーキを洗浄し洗浄後濾過物を得た。
【0027】
次に洗浄後濾過物を真空乾燥機に入れて12時間かけて乾燥させて乾燥後の濾過物を得、次いで乾燥後濾過物の成分を分析した。なお、塩素(塩化物)濃度の分析には、市販の蛍光X線分析装置(XRF)を用いた。
【0028】
(実施例1~実施例9)
表1に示す諸条件(「設定pH」、「保持時間[min]」、塩素品位[%])で、本発明に係る実施例1~実施例9による水酸化コバルト生成試験後、濾過による固液分離を行い、その「濾過時間[sec]」を計測し、先の諸条件と合わせて、その結果を表1に記した。
【0029】
(比較例1~比較例11)
表1に示す諸条件(「設定pH」、「保持時間[min]」、塩素品位[%]、)で、本発明の比較例1~比較例11による水酸化コバルト生成試験後、濾過による固液分離を行い、その「濾過時間[sec]」を計測し、先の諸条件と合わせて、その結果を表1に合わせて記した。
【0030】
[考察]
設定pHを、本発明の範囲内の「10.5、11.2、12.0」とし、保持時間を「25分以上」とした実施例1から実施例9では、表1に示したように、塩化物品位が低く、濾過時間も短い(すなわち濾過速度が速い)結果を得た。
一方、設定pHを本発明の範囲外の「8.0」および「10.0」とした比較例4から比較例11では、濾過に要する時間と塩素品位の両方で目標を達成できなかった。
又、保持時間が25分に満たない比較例1から比較例3(保持時間なし)では、設定pHを満足していたが、濾過に要する時間が過大となり、塩素品位も目標を達成できなかった。
【0031】
このように、pHで10.0を超え、保持時間を25分以上にすることで、濾過性がよく塩素品位が1%未満の水酸化コバルトを得られることがわかった。
【0032】
【表1】
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図2c
図2d