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特開2024-30560有機半導体素子の製造方法、並びに回路装置及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030560
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】有機半導体素子の製造方法、並びに回路装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240229BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240229BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240229BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240229BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01L29/78 618A
H01L29/78 618B
H01L29/28 100A
H01L29/28 250H
H01L21/368 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133522
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】513104479
【氏名又は名称】パイクリスタル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻一郎
(72)【発明者】
【氏名】安部 深月
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 直孝
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】牧田 龍幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝典
【テーマコード(参考)】
5F053
5F110
【Fターム(参考)】
5F053AA06
5F053AA50
5F053DD19
5F053FF01
5F053GG01
5F053HH05
5F053LL01
5F053LL05
5F053LL10
5F053RR08
5F110AA07
5F110AA30
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD21
5F110EE01
5F110FF01
5F110FF02
5F110GG01
5F110GG05
5F110GG12
5F110GG17
5F110GG41
5F110GG42
5F110HK01
5F110NN78
5F110QQ06
(57)【要約】
【課題】有機半導体膜における圧縮歪みの制御を容易にすることができる有機半導体素子の製造方法、並びに回路装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平板状の形成用基板上に有機半導体膜12が塗布法によって形成される。形成用基板上の有機半導体膜12がスタンパ24に転写される。支持基板14には、ゲート電極15とゲート絶縁膜16とが形成されている。支持基板14を引っ張ることにより、ゲート絶縁膜16の表面16aが伸長された状態にされる。伸長された状態の表面16aにスタンパ24からの有機半導体膜12が転写されて固定される。有機半導体膜12の固定後、支持基板14の引っ張りを解除して有機半導体膜12に圧縮歪みを与えた状態にする。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体の単結晶である有機半導体膜を準備する膜準備工程と、
支持基板上の支持面に一方向に引張歪みを生じさせた状態で、前記有機半導体膜を前記支持面上に移して固定する有機半導体膜固定工程と、
前記支持面の引張歪みを解消し、前記支持面上の前記有機半導体膜に前記一方向に圧縮歪みを生じさせた状態にする歪み付与工程と
を有することを特徴とする有機半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記有機半導体膜固定工程は、前記支持基板の前記一方向における両端を引っ張ることにより前記支持面に引張歪みを生じさせることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記有機半導体膜固定工程は、前記支持基板を湾曲することにより前記支持面に引張歪みを生じさせることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記有機半導体膜固定工程は、前記支持基板とは異なる転写部材の表面に設けられた前記有機半導体膜を前記支持面に密着することによって、前記有機半導体膜を前記支持面に移して固定することを特徴とする請求項2または3に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記有機半導体膜固定工程は、前記支持基板をローラの周面に沿って湾曲させた状態で前記周面上に固定し、前記支持面を、前記支持基板とは異なる転写部材の表面に設けられた前記有機半導体膜に密着させながら前記ローラを回転させて前記転写部材上を移動することにより、前記有機半導体膜を前記支持面に移して固定することを特徴とする請求項2に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項6】
有機半導体の単結晶である有機半導体膜を有する有機半導体素子を含む回路部をベース部材上に形成した回路モジュールを準備する工程と、
湾曲させた支持基板に前記回路モジュールを湾曲させて貼り付けて固定した後、前記支持基板を平板状に戻すことによって、前記有機半導体膜に圧縮応力を作用させた状態にする回路モジュール固定工程と
を有することを特徴とする回路装置の製造方法。
【請求項7】
支持基板と、
前記支持基板の一方の基板面に固定され、有機半導体の単結晶である有機半導体膜を有する有機半導体素子を含む回路部がベース部材上に形成され、前記有機半導体膜が一方向に圧縮歪みを生じさせた状態にされた回路モジュールと、
を備えることを特徴とする回路装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体素子の製造方法、並びに回路装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板と、この基板上に設けた有機半導体膜とを備えるトランジスタや歪みゲージ等の有機半導体素子が知られている。有機半導体膜は、有機半導体の非晶質、多結晶あるいは単結晶の薄膜として形成されている。このような有機半導体素子では、有機半導体膜に圧縮応力を作用させることによって有機半導体膜におけるキャリアの移動度を高めたものが例えば特許文献1、2によって知られている。
【0003】
特許文献1には、湾曲させた基板上にスピンコートや蒸着によって、非晶質または多結晶の有機半導体膜を形成した後に、その基板を平坦にすることによって、有機半導体膜に圧縮応力が作用した状態にすることが開示されている。また、特許文献2には、湾曲させた基板上に、エッジキャスト法によって、単結晶の有機半導体膜を形成した後に、その基板を平坦にすることによって、有機半導体膜に圧縮応力が作用した状態にすることが開示されている。特許文献1、2には、加熱によって熱膨張した基板上に有機半導体膜を形成し、常温に戻して基板を収縮することで、有機半導体膜に圧縮応力が作用した状態にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-166742号公報
【特許文献2】特開2016-143675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように基板面を伸長した状態で、その基板面に有機半導体を形成する場合、有機半導体膜の形成過程における加熱によって、基板面の伸長状態や有機半導体膜の応力が変化してしまうため、有機半導体素子における有機半導体膜の圧縮歪みの制御が難しかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機半導体膜における圧縮歪みの制御を容易にすることができる有機半導体素子の製造方法、並びに回路装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機半導体素子の製造方法によれば、有機半導体の単結晶である有機半導体膜を準備する膜準備工程と、支持基板上の支持面に一方向に引張歪みを生じさせた状態で、前記有機半導体膜を前記支持面上に移して固定する有機半導体膜固定工程と、前記支持面の引張歪みを解消し、前記基板面上の前記有機半導体膜に前記一方向に圧縮歪みを生じさせた状態にする歪み付与工程とを有するものである。
【0008】
本発明の回路装置の製造方法は、有機半導体の単結晶である有機半導体膜を有する有機半導体素子を含む回路部をベース部材上に形成した回路モジュールを準備する工程と、湾曲させた支持基板に前記回路モジュールを湾曲させて貼り付けて固定した後、前記支持基板を平板状に戻すことによって、前記有機半導体膜に圧縮応力を作用させた状態にする回路モジュール固定工程とを有するものである。
【0009】
本発明の回路装置は、支持基板と、前記支持基板の一方の基板面に固定され、有機半導体の単結晶である有機半導体膜を有する有機半導体素子を含む回路部がベース部材上に形成され、前記有機半導体膜が一方向に圧縮歪みを生じさせた状態にされた回路モジュールとを備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、予め作製された有機半導体膜を伸長した支持面に移して固定し、あるいは有機半導体素子を含む回路部をベース部材上に形成した回路モジュールを支持基板の伸長した基板面に固定したので、支持面または基板面の伸長の程度で有機半導体膜の圧縮歪みの程度を容易に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】有機半導体素子を示す断面図である。
図2】スタンパに有機半導体膜を転写する手順を示す説明図である。
図3】スタンパから支持基板上に有機半導体膜を転写する手順を示す説明図である。
図4】支持基板に印加した歪み率εPENと有機半導体膜に生じている歪み率εOSCとの関係を示すグラフである。
図5】有機半導体膜に圧縮歪みを生じさせている場合と生じさせない場合の有機半導体膜のシート伝導率を示すグラフである。
図6】有機半導体膜に圧縮歪みを生じさせている場合と生じさせない場合の有機半導体膜のキャリア移動度を示すグラフである。
図7】有機半導体素子の伝達特性を示すグラフである。
図8】有機半導体素子の出力特性を示すグラフである。
図9】ローラ上の湾曲した支持基板上に有機半導体膜を転写する第2実施形態の手順を示す説明図である。
図10】湾曲した支持基板に回路モジュールを貼り付けて圧縮歪みを生じさせる第3実施形態の手順を示す説明図である。
図11】回路モジュールの有機半導体膜についてX線回折法で得られた(020)ピークの反射強度パターンを示すグラフである。
図12】回路モジュールの有機半導体膜についてX線回折法で得られた(021)ピークの反射強度パターンを示すグラフである。
図13】回路モジュールの有機半導体膜のキャリアの移動度を測定した結果を示すグラフである。
図14】D型フリップフロップとして構成した回路モジュールの有機半導体膜を含む部分を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
図1に、第1実施形態に係る有機半導体素子10を示す。この例における有機半導体素子10は、有機半導体膜12を活性層として電界効果トランジスタ(FET)を構成する。有機半導体素子10は、有機半導体膜12の他、支持基板14、ゲート電極15、ゲート絶縁膜16、ソース電極17、ドレイン電極18を備えている。
【0013】
なお、この例では、有機半導体素子10を電界効果トランジスタとした場合について説明するが、有機半導体素子は、この他の形式のトランジスタ、歪みゲージ、有機エレクトロルミネッセンス、太陽電池等であってもよい。また、有機半導体膜12は、ドーピングを行なったものであってもよい。ドーピングの手法としては、特に限定されず、例えば国際公開第2020/085342号、国際公開第2020/050288号等に記載されたドーピングの手法を用いることができる。
【0014】
支持基板14は、平板状であり、その表層にゲート電極15が埋め込まれている。ゲート絶縁膜16は、ゲート電極15を含む支持基板14の表面を覆うように設けられており、その表面が平坦にされている。有機半導体膜12は、ゲート絶縁膜16の表面(支持基板14と反対側の膜面)16aに設けられている。より詳細には、有機半導体膜12は、表面16aのゲート電極15の直上となる部分に設けられている。また、ゲート絶縁膜16の表面16a上では、有機半導体膜12の両端にソース電極17、ドレイン電極18が設けられている。このように構成される有機半導体素子10は、ゲート電極15、ソース電極17及びドレイン電極18のそれぞれに所定の電圧を印加することによって、有機半導体膜12にチャネルが形成されて電界効果トランジスタとして動作する。この例では、支持基板14の表層にゲート電極15を埋め込んだ構成であるが、平坦な支持基板14の基板面の上に、例えば厚さ30-40nm程度のゲート電極15を形成し、このゲート電極15を覆うように、ゲート絶縁膜16を支持基板14の上に形成した構成であってもよい。
【0015】
支持基板14は、後述するように、それを一方向(図1において左右方向、以下、特定方向と称する)に伸長した後にその伸長を解消する。このため、この例の支持基板14としては、当該一方向に弾性を有する材料で作製され、ゲート電極15及びゲート絶縁膜16が支持基板14とともに特定方向に変形(伸縮)する材料で作製されたものを用いている。ゲート電極15及びゲート絶縁膜16は、支持基板14と同様に、特定方向に弾性を有する材料で作製してもよく、支持基板14の変形にともなって従動的に伸縮するものでもよい。ゲート絶縁膜16は、絶縁性の材料、例えば酸化物、絶縁性有機物を用いた単一もしくは複数の層から構成される。ゲート絶縁膜16の酸化物としては、酸化アルミニウムや酸化ケイ素等が挙げられ、絶縁性有機物としてはポリメチルメタクリレート(PMMA)、パラキシリレン系樹脂(パリレン(登録商標))、オレフィン等が挙げられる。
【0016】
支持基板14の材料としては、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂、アルミやSUS等の金属、合成ゴムやシリコーン等のエラストマー等が挙げられる。なお、支持基板14、ゲート電極15及びゲート絶縁膜16は、それらの相互間で剥がれが生じない組み合わせの材料が選択される。
【0017】
有機半導体膜12は、有機半導体の単結晶の薄膜として形成されている。例えば、有機半導体膜12とするP型の有機半導体としては、3,11‐ジオクチルジナフ卜[2,3-d:2',3'‐d']ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン(C8-DNBDT)、3,11‐ジノニルジナフ卜[2,3-d:2',3'‐d']ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン(C9-DNBDT)、3,11‐ジデシルジナフ卜[2,3-d:2',3'‐d']ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン(C10-DNBDT)、3,9-ジヘキシルジナフト[2,3-b;2',3-d]チオフェン (C6-DNT)、2,9-ジナフト[2,3‐b:2',3'‐f]チエノ[3,2‐b]チオフェン (C10-DNTT)、2,7-ジオクチルベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン (C8-BTBT)、6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン等が挙げられる。また、有機半導体膜12とするN型の有機半導体材料としては、例えばジシアノペリレン-3,4:9,10-ビス(ジカルボキシイミド)等を挙げることができる。
【0018】
有機半導体膜12は、特定方向に圧縮応力が作用した状態すなわち圧縮歪を有する状態にされている。有機半導体膜12がC8-DNBDT-NW、C10-DNTT等の単結晶の薄膜である場合、結晶軸のうちのc軸に特定方向を一致させることが効果的にキャリアの移動度を高めるうえで好ましい。これにより、圧縮応力を作用させていない構成と比較して、有機半導体膜12におけるキャリアの移動度が高くなり、有機半導体素子10における損失の低減、素子の高速化が図られている。なお、ソース電極17とドレイン電極18とを結ぶ方向を特定方向に一致させている。
【0019】
上記のように、この例ではゲート絶縁膜16の表面16aに有機半導体膜12が設けられており、その表面16aが、有機半導体膜12が固定される支持基板14上の支持面である。この支持面は、有機半導体素子の構造によって決まるものである。例えば、支持基板14自体の表面に有機半導体膜12を直接に設ける構造では、その支持基板14の表面が支持面となる。また、支持基板14の変形(この例では伸縮)によって、支持面が伸長しまた伸長した状態から伸長していない状態に戻るように収縮するのであれば、支持基板14と支持面との間に配線層や他の半導体膜等があってもよい。
【0020】
有機半導体素子10の作製では、形成用基板に形成した有機半導体膜をスタンパに転写し、そのスタンパ上の有機半導体膜を支持面(ゲート絶縁膜16の表面16a)に転写する。
【0021】
1回目の転写に先だって、図2(A)に示すように、形成用基板21の表面に塗布法によって単結晶の薄膜である有機半導体膜22を形成する。有機半導体膜22は、有機半導体膜12となるものである。形成用基板21としては、表面が親水化処理された平板状の例えばガラス板やマイカが用いられる。なお、図2では、煩雑になることを避けるために断面を示すハッチングを省略している。図3についても同様である。
【0022】
塗布法では、有機半導体を溶媒に溶解させて有機半導体溶液を調製し、その有機半導体溶液を形成用基板21の平坦な表面に塗布し、有機溶媒を蒸発させることで有機半導体膜22を形成する。この例では、塗布法として、エッジキャスト法を用いて有機半導体膜22を形成している。エッジキャスト法では、形成用基板21とこの形成用基板21に対して略垂直になるように配置したブレード(図示省略)とを相対的に一方向に移動させながら、形成用基板21とブレードとの間に有機半導体溶液を供給することによって、有機半導体溶液を形成用基板21の表面に展開する。このように有機半導体膜12は、平坦に形成用基板21上で形成すればよいので、その作製が容易である。
【0023】
なお、塗布法として、エッジキャスト法の他に、従来から用いられているものを用いることができ、連続エッジキャスト法、ドロップキャスト法、スピンコーティング法、印刷法(インクジェット法やグラビア印刷法)、ディスペンサー法、及びスプレー法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、ブレードコーティング法等を用いることができる。
【0024】
有機半導体溶液の溶媒としては、例えば、芳香族化合物(o-ジク口口ベンゼン等)を用いることができる。また、有機半導体溶液として、高分子材料と有機半導体膜12となる有機半導体とを溶媒に溶解したものを用いてもよい。この場合の高分子材料としては、PMMA、ポリ(4ーメチルスチレン)、ポリ(卜リアリールアミン)、ポリスチレン、ポリアクリ口ニトリル、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。また、この場合の溶媒としては、有機化合物と高分子との両方が溶解するものであれば、特に限定されないが、例えば、ク口口ベンゼン、3-ク口口チオフェン、1-ク口口ナフタレン等のハロゲン系芳香族溶媒、ヘキサン、へプタン等の炭化水素溶媒や、卜ルエン、キシレン、テ卜ラリン等の非ハロゲン系芳香族溶媒等を用いることができる。
【0025】
形成用基板21に形成する有機半導体膜22のサイズは、支持基板14上に設ける有機半導体膜12のサイズよりも大きくてもかまわない。これは、後述のように、スタンパ24に転写する際に、有機半導体膜22がスタンパ24の凸部24aの端面のサイズにトリミング(パターニング)されるためである。
【0026】
転写部材としてのスタンパ24は、この例ではベース板25に弾性を有する樹脂層26を設けたものである。ベース板25は、例えばガラス、PENまたはPET等で作製されて適当な剛性を有しており、スタンパ24のハンドリングを容易にしている。樹脂層26は、その表面に突出した凸部24aが形成されている。凸部24aの端面(図2(A)において下面)は、有機半導体膜12と同じサイズの平坦面になっている。樹脂層26の構成材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、PMMA等を用いることができる。なお、有機半導体膜12をスタンパ24から支持基板14に転写する際に、スタンパ24から有機半導体膜12が剥がれやすくするために、樹脂層26の表面にCYTOP(登録商標)等で構成される剥離層を設けてもよい。
【0027】
形成用基板21上に有機半導体膜22を形成した後、図2(B)に示すように、有機半導体膜22にスタンパ24の凸部24aを密着させる。この後に、形成用基板21と有機半導体膜22との界面に剥離液27を供給する。剥離液27は、水、あるいは水とエタノール、メタノール、アセトニトリル等の極性溶媒との混合液(水溶液)を用いることができる。剥離液27の供給により、形成用基板21の親水性の表面と高撥水性となる有機半導体膜22との間に剥離液27が浸入し、有機半導体膜22が形成用基板21から剥離しやすい状態になる。そして、図2(C)に示すように、スタンパ24を形成用基板21から離すと、凸部24aの端面に有機半導体膜22が有機半導体膜12として転写される。
【0028】
上記のように1回目の転写で有機半導体膜12が転写されたスタンパ24を用いて2回目の転写を行なう。2回目の転写では、図3(A)に示すように、ゲート電極15及びゲート絶縁膜16が予め形成された支持基板14と、上記のようにして有機半導体膜12が転写されたスタンパ24とを準備する。
【0029】
図3(B)に示すように、支持基板14を特定方向に所定の引張荷重で引っ張り、支持面であるゲート絶縁膜16の表面16aを伸長した状態にする。このときにゲート絶縁膜16を支持基板14とともに引っ張ってもよく、この例では、そのようにしている。例えば、ゲート絶縁膜16とともに支持基板14の特定方向の両端部をゲート絶縁膜16とともにクランプでそれぞれ挟持して、各クランプを互いに離れる方向に所定長だけ移動する。これにより、支持基板14とともにゲート絶縁膜16の表面16aを特定方向に伸長する。支持基板14を引っ張る大きさは、有機半導体素子10における有機半導体膜12の圧縮歪みの程度に応じて決めればよく、圧縮歪みを大きくする場合には支持基板14の引っ張りを大きくすればよい。
【0030】
ゲート絶縁膜16の表面16aを伸長した状態で、ゲート電極15の直上となるゲート絶縁膜16の表面16aの部分に、スタンパ24の凸部24a上の有機半導体膜12を密着させて、スタンパ24を支持基板14に押しつける。なお、特定方向と有機半導体膜12における結晶軸のうちのc軸を一致させるには、表面16aが伸長した方向(特定方向)に有機半導体膜12におけるc軸を一致させて、表面16aに有機半導体膜12を密着させる。
【0031】
続いて、図3(C)に示すように、スタンパ24を支持基板14から離す。これにより、凸部24a上の有機半導体膜12がゲート絶縁膜16の表面16aに転写され、有機半導体膜12は、ファンデルワールス力、静電気力等の相互作用によりゲート絶縁膜16の表面16aに固定される。
【0032】
ゲート絶縁膜16の表面16aに有機半導体膜12を転写した後、支持基板14に対する引っ張りを解除する。これにより、図3(D)に示すように、支持基板14の弾性により、支持基板14が特定方向に収縮して定常状態すなわち伸長されていない状態に戻る。支持基板14が定常状態に復元することによってゲート絶縁膜16の表面16aについても、特定方向に収縮して伸長されていない状態すなわち引張歪みが解消した状態に戻る。有機半導体膜12は、ゲート絶縁膜16の表面16aに固定されているので、ゲート絶縁膜16の表面16aが伸長前の状態に戻る際に特定方向に圧縮される。この結果、支持基板14の定常状態において、有機半導体膜12が特定方向に圧縮応力が作用した状態になる。なお、支持基板14が完全に伸長前の状態に戻らなくてもよい。
【0033】
上記のようにして有機半導体膜12に圧縮応力を作用させた状態にしてから、ソース電極17及びドレイン電極18を形成することで、有機半導体素子10とされる。このようにして、定常状態において有機半導体膜12に圧縮応力を作用させた有機半導体素子10が得られる。
【0034】
上記のように作製される有機半導体素子10における有機半導体膜12の圧縮歪み程度は、支持基板14すなわち支持面であるゲート絶縁膜16の表面16aの引っ張りの程度で決まるので、有機半導体膜12の圧縮歪みの程度の制御が容易である。したがって、所望とするキャリア移動度を有する有機半導体素子10が容易に得られる。また、有機半導体膜12の圧縮歪みの程度の制御が容易であるため、有機半導体素子10の個体間におけるキャリア移動度のばらつきが抑制される。
【0035】
上記では、スタンパを介して形成用基板上に形成された有機半導体膜を有機半導体素子の基板に転写しているが、形成用基板を転写部材として、形成用基板上に形成される有機半導体膜を直接に有機半導体素子の支持基板上の支持面に転写してもよい。
【0036】
なお、上記のような転写を用いた有機半導体膜の形成手法(転写手法)については、国際公開第2021/182545号、国際公開第2020/171131号に詳細が記載されており、それらに記載された技術を用いることができる。
【0037】
上記手順によって作製した有機半導体素子10の有機半導体膜12の歪み率をX線回折法(透過法)によって測定した。支持基板14は、PENで作製し、有機半導体膜12は、C8-DNBDT-NWの単結晶膜とした。また、ゲート絶縁膜16は、パリレンで作製し、ゲート電極15は、支持基板14の基板面にAu(金)で作製し、これをゲート絶縁膜16で覆う構造とした。また、作製の際には、有機半導体膜12におけるC8-DNBDT-NWのc軸を支持基板14の引っ張り方向と一致させた。
【0038】
測定では、支持基板14の引っ張りを解除した後の有機半導体膜12に生じている歪み率εOSCをX線回折の結果から算出した。得られた歪み率εOSCと、支持基板14に印加した歪み率εPENとの関係を図4に示す。なお、歪み率εPENは、支持基板14を引っ張った状態での特定部分の引っ張り方向の長さをLstrain、引っ張り解除後の特定部分の引っ張り方向の長さをLfinalとしたときに、「εPEN=(Lstrain-Lfinal)/Lfinal」として算出した値である。この、圧縮歪みがあるときに歪み率εOSCは負の値であるが、歪み率εPENは正の値となる。上記測定により、支持基板14の引っ張りを解除した後にも、有機半導体膜12に定常的な圧縮歪みが生じていることを確認できた。
【0039】
図5及び図6に、支持基板14を引っ張ることなく有機半導体膜12を支持基板14に転写した場合(歪み率εPEN=0%)及び支持基板14を引っ張って歪み率εPENが1.86%となった場合における有機半導体膜12のシート伝導率とキャリア移動度とを測定した。この測定で得られた有機半導体膜12のシート伝導率を図5に、また有機半導体膜12のキャリア移動度を図6にそれぞれ示す。これらの結果より、定常的な圧縮歪みの導入がキャリアの高移動度化に有効であることがわかった。
【0040】
さらに、上記の作製した有機半導体素子10の伝達特性(ID-VGS特性)と、出力特性(VDS-ID特性)を測定した。測定した伝達特性を図7に、また出力特性を図8にそれぞれ示す。これらの測定結果より、線形領域における二端子移動度μ2Tは14.2cm/Vs、飽和領域における二端子移動度μ2Tは14.9cm/Vsとなり、理想的なトランジスタ特性が得られていることがわかった。
【0041】
[第2実施形態]
第2実施形態は、転写部材上の有機半導体膜を湾曲させた基板上の支持面に転写した後、支持基板を平板状に戻すことで有機半導体膜に圧縮応力を作用させた状態にするものである。なお、以下に詳細を説明する他は、第1実施形態と同様であり、実質的に同じ部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0042】
図9(A)に示すように、ローラ31には、その周面に支持基板14が取り付けられている。支持基板14は、それに形成されたゲート絶縁膜16が外側となるように巻き付けられて固定される。すなわち、支持基板14は、ローラ31の周面上にその周面に沿って湾曲した状態で固定される。これにより、支持面であるゲート絶縁膜16の表面16aが湾曲してローラ31の周方向に伸長した状態にされる。転写部材としてのスタンパ24の凸部24aには、第1実施形態と同様に有機半導体膜12が転写された状態にされている。なお、ローラ31の周方向が有機半導体素子の特定方向に一致する向きでローラ31に支持基板14を取り付ける。
【0043】
この例における支持基板14としては、弾性を有するものを用いて弾性変形によって湾曲させてもよく、支持基板14を塑性変形によって湾曲させてもよい。支持基板14が弾性を有する場合、湾曲した状態を保持するように、例えば支持基板14の両端をローラ31に固定する。支持基板14が塑性変形する場合には、支持基板14を予めあるいはローラ31上で湾曲させてローラ31に固定する。
【0044】
ローラ31上の支持基板14におけるゲート絶縁膜16の表面16aをスタンパ24に押しつけながらローラ31を一方向に回転させるとともに、このローラ31の回転に同期して支持基板14を移動する。より具体的には、有機半導体膜12を転写すべき領域、この例では、ゲート絶縁膜16を挟んでゲート電極15の直上となる領域に有機半導体膜12が密着するように、ローラ31の回転位置に対するスタンパ24の位置を決め、ローラ31上の表面16aの周速度と同じ速度でスタンパ24を直線的に移動する。
【0045】
ローラ31の回転と支持基板14との移動により、表面16aと凸部24a上の有機半導体膜12との密着する位置が漸次に移動する。有機半導体膜12が表面16aに密着した部分は、その表面16aにファンデルワールス力、静電気力等によって張り付き固定される。そして、凸部24aから表面16aが離れる際に、凸部24aから有機半導体膜12が剥離して表面16aに移った状態になる。このようにして、表面16aが凸部24aを通過すると、図9(B)に示すように、有機半導体膜12の全てがゲート絶縁膜16の表面16aに転写された状態になる。
【0046】
有機半導体膜12の転写後、ローラ31から支持基板14が取り外される。この後、図9(C)に示すように、支持基板14を湾曲した状態から平坦な状態に戻す。支持基板14を弾性変形させた場合には、ローラ31に対する固定を解除することにより、支持基板14がその弾性によって平坦な平板に戻る。一方、支持基板14を塑性変形させている場合には、ローラ31に対する固定を解除したのち、湾曲している向きとは逆向きに支持基板14を変形させることによって、支持基板14を平坦な状態に戻す。
【0047】
有機半導体膜12は、湾曲によって特定方向に伸長したゲート絶縁膜16の表面16aに固定された後、その固定された状態にまま支持基板14が平坦になってゲート絶縁膜16の表面16aが伸長されていない状態に戻るため特定方向に圧縮される。この結果、支持基板14の定常状態において、有機半導体膜12が特定方向に圧縮応力が作用した状態になる。
【0048】
この例においても、有機半導体膜12は、平坦に形成用基板21上で形成すればよいので、その作製が容易である。有機半導体素子10における有機半導体膜12の圧縮歪み程度は、支持基板14の湾曲すなわち支持面であるゲート絶縁膜16の表面16aの湾曲の程度で決まるので、有機半導体膜12の圧縮歪みの程度の制御が容易である。
【0049】
[第3実施形態]
第3実施形態は、有機半導体素子を含む回路を形成した回路モジュールを、湾曲させた支持基板に貼り付けて固定した後、支持基板を平板状に戻すことで有機半導体膜に圧縮応力を作用させた状態にするものである。なお、以下に詳細を説明する他は、第1実施形態と同様であり、実質的に同じ部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0050】
図10(A)において、回路モジュール44は、ベース部材45と、このベース部材45上に形成された回路部46とを有する。ベース部材45は、支持基板48に沿って湾曲することができるように可撓性を有するシート状または板状のものであれば、それを構成する材料は特に限定されない。ベース部材45は、例えば、ポリイミド、PET、PEN等の樹脂製や金属製とすることができる。また、ベース部材45は、弾性変形するものでも、塑性変形するものでもよい。
【0051】
回路部46は、少なくとも有機半導体膜12を用いた有機半導体素子を含む1または複数の回路素子を有している。回路素子としては、後述するように、回路モジュール44を湾曲させた際に回路素子が破壊することなく変形可能な構造のものであれば有機半導体素子以外のものが含まれてもよい。例として、有機半導体素子の他に、有機半導体以外の半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)等の半導体素子や、抵抗、キャパシタ等が含まれてもよい。また、回路部46は、回路モジュール44を湾曲させた際に破壊せず変形可能なものであれば、回路素子以外の配線等の要素を含むことができる。
【0052】
回路部46は、有機半導体膜12を用いた有機半導体素子単体として構成されてもよい。回路部46に含まれる有機半導体素子は、特に限定されず、トランジスタ、歪みゲージ、有機エレクトロルミネッセンス、太陽電池等とすることができる。したがって、回路モジュール44は、例えばトランジスタ、歪みゲージ等の有機半導体素子単体としてのモジュールである場合や、有機半導体素子と他の回路素子とが含まれるモジュールである場合がある。
【0053】
回路部46において、有機半導体膜12が形成された面が支持面である。支持面への有機半導体膜12の形成手法は、限定されず、第1実施形態や第2実施形態のように、スタンパを用いてベース部材45上の支持面に予め作製したものを転写することで形成してもよく、ベース部材45上の支持面に直接に有機半導体溶液を塗布することで形成してもよい。
【0054】
支持基板48は、ベース部材45を貼り付ける際に湾曲した状態にされる。この支持基板48は、ベース部材45と同様に、湾曲することができるように可撓性を有していれば、それを構成する材料は特に限定されない。
【0055】
図10(B)に示すように、回路部46側が突出するように回路モジュール44を湾曲させて、そのベース部材45を支持基板48の外側(凸となる側)の基板面48aに接着剤等によって固定する。
【0056】
回路モジュール44の固定後、図10(C)に示すように、支持基板48を平坦に戻す。これにより、回路モジュール44中の有機半導体膜12に特定方向に圧縮応力が作用した状態の回路装置50とする。有機半導体膜12の歪み率εは、次の式(1)によって近似的に表すことができる。式(1)中における値hは、回路モジュール44の底面(支持基板48側の面)から有機半導体膜12までの距離であってほぼベース部材45の厚みに等しい値であり、値hは、支持基板48の厚み、値rは、支持基板48を湾曲させたときの内側(凹となる側)の基板面の曲率半径である。式(1)は、距離hに対して支持基板48の厚みhが大きいことを想定して、有機半導体膜12の歪みが、主として回路モジュール44の固定時における支持基板48の湾曲に由来して決まる場合の有機半導体膜12の歪みを近似している。
【0057】
【数1】
・・・(1)
【0058】
上記式(1)から分かるように、有機半導体膜12の歪み率εは、距離h(ベース部材45の厚み)、支持基板48の厚みh及び曲率半径rによって決まる。このため、これらの値を適宜調整することで有機半導体膜12の歪み率εを制御することができ、所望とする歪み率εにすることが容易である。また、有機半導体膜12及び他の回路素子は、平坦なベース部材45上に形成すればよいので作製が容易である。なお、支持基板48の厚みhを距離hよりも大きくする必要があり、歪み率εを大きくするために前者を後者よりも十分に大きくすることが好ましい。
【0059】
回路モジュール44として有機半導体膜12を活性層とする電界効果トランジスタを作製し、この回路モジュール44を支持基板48に貼り付ける際の支持基板48の湾曲の有無による有機半導体膜12の圧縮歪みとキャリアの移動度の違いを調べた。
【0060】
回路モジュール44は、ベース部材45上にゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜12を積層するとともに、有機半導体膜12の両端にソース電極及びドレイン電極を設けた。ゲート電極はAu、ゲート絶縁膜はパリレンでそれぞれ作製し、有機半導体膜12は、C8-DNBDT-NWの単結晶膜とした。
【0061】
回路モジュール44の有機半導体膜12への歪みの印加の前後において各種測定をそれぞれ行なった。有機半導体膜12への歪みは、回路モジュール44を湾曲させた支持基板48の基板面48aに貼り付けた後に、支持基板48の湾曲を解除し回路装置50とすることにより、圧縮歪みを与えた。歪みの印加の前の測定は、支持基板48への回路モジュール44の貼り付け前に回路モジュール44を平坦にした状態で行い、歪みの印加の後の測定は、支持基板48上の回路モジュール44に対して行なった。なお、有機半導体膜12におけるC8-DNBDT-NWのc軸を圧縮方向と一致させるようにした。
【0062】
なお、回路モジュール44の底面から有機半導体膜12までの距離(h)は、15μm、支持基板48の厚み(h)は500μmであった。また、歪みの印加の際には、支持基板48を曲率半径25mmで湾曲させた。したがって、式(1)から算出される有機半導体膜12の歪み率εは0.98%であった。
【0063】
有機半導体膜12について、X線回折法(反射法)で測定を行なった。測定された(020)ピークと(021)ピークの反射強度パターンを図11図12に示す。図11図12中において、「unstrained」が歪み印加前のもの、「strained」が歪み印加後のものである。この測定より得られる有機半導体膜12の単結晶のc軸における格子定数は、歪み印加前では6.101±0.011であったが、歪み印加後では6.033±0.012Åとなって1.1%減少した。これにより、回路装置50の定常状態で有機半導体膜12に圧縮歪みがあることを確認できた。
【0064】
図13に、歪みの印加の前後における有機半導体膜12のキャリアの移動度を測定した結果を示す。図13中において、「unstrained」が歪み印加前のもの、「strained」が歪み印加後のものである。この測定結果から、有機半導体膜12への圧縮歪みの印加により移動度が14.8cm-1-1から17.1cm-1-1に増加していることがわかった。すなわち、1%程度の圧縮歪みによってキャリアの移動度が15.5%上昇しており、トランジスタとしての性能を向上できることがわかった。
【0065】
回路モジュール44としてD型フリップフロップを作製し、最大動作周波数の変化を調べた。図14は、作製した回路モジュール44の有機半導体膜12を含む部分の断面を示している。なお、図14では、煩雑になることを避けるために断面を示すハッチングを省略している。
【0066】
回路モジュール44は、ポリイミド製のベース部材45上に、P型の薄膜トランジスタ51、N型の薄膜トランジスタ52等の回路素子や各種配線からなる回路部46を形成したものである。
【0067】
P型の薄膜トランジスタ51を有機半導体素子とし、その活性層として有機半導体膜12を形成した。符号51a~51cは、薄膜トランジスタ51のゲート電極、ソース電極、ドレイン電極である。ゲート電極51aと有機半導体膜12との間には、ゲート電極51a側から順番に、酸化アルミニウム、PMMA、パリレンからなる各絶縁膜53a~53cが設けられた構成であり、この内のパリレンの絶縁膜53cの表面が支持面となる。
【0068】
N型の薄膜トランジスタ52としては、IZO(Indium Zinc Oxide)薄膜54を活性層とした。符号52a~52cは、薄膜トランジスタ52のゲート電極、ソース電極、ドレイン電極である。
【0069】
上記回路モジュール44は、ガラス板上で作製し、ガラス板から剥がして最大動作周波数を測定した。回路モジュール44の最大動作周波数は、支持基板48に貼付する前に回路モジュール44を平坦にした状態では25kHzであった。これに対して、上記のように湾曲した支持基板48に貼付した後に支持基板48とともに回路モジュール44を平坦にした状態では42kHzとなった。これにより、回路モジュール44を湾曲させた支持基板48に貼り付けて固定した後に支持基板48を平板状に戻すことで有機半導体膜12に圧縮応力を作用させた状態にすることができ、有機半導体膜12のキャリアの移動度を向上できることが分かった。
【符号の説明】
【0070】
10 有機半導体素子
12 有機半導体膜
14 支持基板
16a 表面
24 スタンパ
31 ローラ
44 回路モジュール
45 ベース部材
46 回路部
48 支持基板
48a 基板面
50 回路装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14