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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030561
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】計測システム及び計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 11/00 20060101AFI20240229BHJP
   G01J 9/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01J11/00
G01J9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133524
(22)【出願日】2022-08-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構、平成30年度、戦略的創造研究推進事業、研究タイプ「チーム型研究(CREST)」、研究領域「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出」、研究課題「量子光源による超高感度分子イメージング」、研究題目「量子光源による超高感度分子イメージング」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】小関 泰之
(72)【発明者】
【氏名】小口 研一
(72)【発明者】
【氏名】似内 渉
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AA12
2G065AB14
2G065BB25
2G065BC35
(57)【要約】
【課題】変調信号の位相揺らぎの影響を低減して光パルスのスペクトル強度とスペクトル位相とを計測する計測システム及び計測方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、計測システムが提供される。この計測システムは、変調部と、復調部と、演算部とを備える。変調部は、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成する。復調部は、光パルス列を検出し、第1の周波数で復調して光パルスの振幅と位相とを特定する。振幅及び位相は、光パルスに含まれる光の波長ごとに特定される。演算部は、振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、位相に基づいてスペクトル位相を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測システムであって、
変調部と、復調部と、演算部とを備え、
前記変調部は、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成し、
前記復調部は、前記光パルス列を検出し、前記第1の周波数で復調して前記光パルスの振幅と位相とを特定し、
前記振幅及び前記位相は、前記光パルスに含まれる光の波長ごとに特定され、
前記演算部は、前記振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、前記位相に基づいてスペクトル位相を算出する
計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の計測システムにおいて、
前記復調部は、分光部と、光電変換部と、検出部とを備え、
前記分光部は、前記光パルス列を波長ごとに分光して第1の電気信号に変換し、
前記光電変換部は、前記光パルス列を光電変換して第2の電気信号を生成し、
前記検出部は、前記第2の電気信号を参照して前記第1の電気信号から前記振幅及び前記位相を検出する
計測システム。
【請求項3】
請求項2に記載の計測システムにおいて、
前記変調部は、信号生成部と、強度変調部とを備え、
前記信号生成部は、第2の周波数の逓倍から前記第1の周波数を増加または減少させた第3の周波数の正弦波信号を生成し、
前記第2の周波数は、前記光パルスの周波数であり、
前記強度変調部は、前記正弦波信号を変調信号として前記光パルスを強度変調する
計測システム。
【請求項4】
請求項3に記載の計測システムにおいて、
前記信号生成部は、位相同期回路であり、
前記強度変調部は、マッハツェンダ型強度変調器であり、
前記分光部は、光スペクトラムアナライザであり、
前記光電変換部は、フォトディテクタであり、
前記検出部は、ロックインアンプである
計測システム。
【請求項5】
請求項4に記載の計測システムにおいて、
前記第1の周波数は、前記光スペクトラムアナライザが許容する周波数以下の周波数である
計測システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の計測システムにおいて、
前記光パルスは、ピコ秒光パルスである
計測システム。
【請求項7】
計測方法であって、
変調ステップと、復調ステップと、演算ステップとを備え、
前記変調ステップでは、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成し、
前記復調ステップでは、前記光パルス列を前記第1の周波数で復調して該光パルスの振幅と位相とを特定し、
前記振幅及び前記位相は、前記光パルスに含まれる光の波長ごとに特定され、
前記演算ステップでは、前記振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、前記位相に基づいてスペクトル位相を算出する
計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測システム及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ピコ秒光パルスを用いた誘導ラマン顕微法の生体イメージング応用が広がるとともに、量子増強による感度向上も試みられている。そこでは光パルス波形のチャープを正確に計測し、制御することが重要である。なお、従来のパルス計測法の多くは非線形光学効果とスペクトル計測を利用している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-29808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非線形光学効果とスペクトル計測を利用するパルス計測法では、低ピークパワーかつ狭帯域のピコ秒光パルスを計測することは困難であるため、低ピークパワーの光パルス計測法として光変調器を用いる手法がいくつか提案されている。しかしながら、提案されている手法は、いずれもパルス光源の繰り返し周波数の高調波に同期した高周波変調を必要とするため、変調信号の位相揺らぎがあると計測ができないという課題があった。
【0005】
本発明では上記事情を鑑み、変調信号の位相揺らぎの影響を低減して光パルスのスペクトル強度とスペクトル位相とを計測する計測システム及び計測方法を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、計測システムが提供される。この計測システムは、変調部と、復調部と、演算部とを備える。変調部は、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成する。復調部は、光パルス列を検出し、第1の周波数で復調して光パルスの振幅と位相とを特定する。振幅及び位相は、光パルスに含まれる光の波長ごとに特定される。演算部は、振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、位相に基づいてスペクトル位相を算出する。
【0007】
本発明の一態様によれば、変調信号の位相揺らぎの影響を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る計測システム1の構成の概要を示した図である。
図2】計測システム1の構成例を示した図である。
図3】強度変調を説明するための図である。
図4】強度変調結果の例を示した図である。
図5】波長ごとの波形の例を示した図である。
図6】演算結果の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
ところで、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流・光等で表す信号値の物理的な値、又は、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0011】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0012】
1.構成概要
図1は、本発明の実施形態に係る計測システム1の構成の概要を示した図である。同図に示すように、計測システム1は、変調部11と、復調部12と、演算部13とを備える。変調部11は、パルス光源2が出力する光パルスを強度変調して第1の周波数Δfで変調された光パルス列を生成する。パルス光源2が出力する光パルスは、例えば、ピコ秒光パルスである。なお、第1の周波数Δfについては、後述するが、光パルスの繰り返し周波数である第2の周波数fとは異なるものである。復調部12は、変調部11が生成した光パルス列を第1の周波数Δfで復調して変調前の光パルスの振幅と位相とを特定する。この光パルスの振幅及び位相は、当該光パルスに含まれる光の波長ごとに特定される。演算部13は、復調部12が特定した振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、復調部12が特定した位相に基づいてスペクトル位相を算出する。
【0013】
2.構成例
図2は、計測システム1の構成例を示した図である。同図に示すように、変調部11は、信号生成部PLLと、強度変調部MZMとを備え、復調部12は、分光部OSAと、光電変換部PDと、検出部LIAとを備える。
【0014】
信号生成部PLLは、パルス光源2から第2の周波数fを電気信号として取得し、この第2の周波数fの逓倍から第1の周波数Δfを増加させた第3の周波数Nf+Δf、または、第2の周波数fの逓倍から第1の周波数Δfを減少させた第3の周波数Nf-Δfの正弦波信号を生成する。この信号生成部PLLは、例えば、位相同期回路により実現することができる。なお、第2の周波数fの逓倍である周波数NfのNは、強度変調部MZMが対応可能な周波数により上限が特定される。また、信号生成部PLLは、生成する正弦波信号に周波数の揺らぎが無いことが望ましいが、揺らぎを完全に除去することは困難であることが多いため、第1の周波数Δfを大きくし、その周期1/Δfが周波数揺らぎの発生する時間よりも短くなるようにすることが望ましい。
【0015】
強度変調部MZMは、第3の周波数Nf+Δfの正弦波信号を変調信号として第2の周波数fの光パルスを強度変調する。ここで、強度変調について説明する。図3は、強度変調を説明するための図である。同図に示すように、変調信号は、第3の周波数Nf+Δfの正弦波信号であるため、その正弦波の周期は、1/(Nf+Δf)となる。一方、光パルスは、繰り返し周波数が第2の周波数fであるため、その周期は、1/fとなる。このため、光パルスの強度は、時間的に変化するものとなり、結果として、図4に示すように平均強度が第1の周波数Δfの正弦波となる光パルス列が生成されることになる。図4は、強度変調結果の例を示した図である。この強度変調部MZMは、例えば、マッハツェンダ型強度変調器により実現することができる。
【0016】
分光部OSAは、強度変調部MZMで強度変調された光パルス列を波長ごとに分光して第1の電気信号に変換する。例えば、図4に示した波形は、波長ごとに分光すると、図5に示したような波形となる。図5は、波長ごとの波形の例を示した図である。なお、図5においては、簡単化のため、図4に示した波形を2波長に分光した例を示しているが、実際には、さらに多くの波長に分光される。この分光部OSAは、例えば、光スペクトラムアナライザにより実現することができるが、より多くの波長ごとに分光を行うために、高分解能光スペクトラムアナライザを用いることが望ましい。また、光スペクトラムアナライザは、内蔵する光検出器の周波数帯域に性能的な上限があるため、第1の周波数Δfは、光スペクトラムアナライザが許容する周波数以下の周波数であることが望ましい。なお、信号生成部PLLでは、第1の周波数Δfを大きくすることが望ましいため、結果として、第1の周波数Δfは、光スペクトラムアナライザが許容する周波数であることが望ましいものとなる。
【0017】
光電変換部PDは、分光部OSAに入力される光パルス列と同じ光パルス列を光電変換して第2の電気信号を生成する。この光電変換部PDに入力される光パルス列は、例えば、分光部OSAに入力される光パルス列を分岐したものであり、結果として、図4に示した波形と同形状の電気信号を第2の電気信号として生成する。この光電変換部PDは、例えば、フォトディテクタにより実現することができる。
【0018】
検出部LIAは、第2の電気信号を参照して第1の電気信号から振幅及び位相を検出する。この検出部LIAは、例えば、ロックインアンプにより実現することができる。検出部LIAにロックインアンプを用いる場合、第1の電気信号を検出対象の信号とし、第2の信号を参照信号として入力する。検出部LIAは、光パルスの波長ごとの電気信号を出力する。なお、検出部LIAでは、分光部OSAに入力される光パルス列と同じ光パルス列を光電変換した第2の電気信号を参照信号として用いるため、信号生成部PLLが生成した信号に揺らぎがあった場合でも、その影響を除去した出力を得ることができる。
【0019】
演算部13は、検出部LIAの出力が出力した電気信号に基づき、その振幅からスペクトル強度を算出し、位相から群遅延を算出し、算出した群遅延を角周波数領域で積分することでスペクトル位相を算出する。
【0020】
以上の構成では、例えば、第1の周波数Δfが10kHz、第2の周波数fが76.52MHzの条件で、第3の周波数が、第2の周波数fを140倍して第1の周波数Δfを加えた周波数とした場合の演算部13の出力は、図6に示すようなものとなる。図6は、演算結果の例を示した図である。同図に示す曲線iは、スペクトル強度を示したものであり、曲線pは、スペクトル位相を示したものである。この結果からスペクトル位相が2次分散を持ち、チャープを有することが見て取れる。
【0021】
8.その他
以上説明したように、光パルスの計測方法は、変調ステップと、復調ステップと、演算ステップとを備える。この変調ステップでは、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成する。また、復調ステップでは、光パルス列を第1の周波数で復調して該光パルスの振幅と位相とを特定する。振幅及び位相は、光パルスに含まれる光の波長ごとに特定される。さらに、演算ステップでは、振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、位相に基づいてスペクトル位相を算出する。
【0022】
なお、計測システム1による計測結果に基づいて、パルス光源2を制御するようなシステムを構成することで、パルス光源2から出力される光パルスのチャープの低減を行うことが可能であり、また、チャープを積極的に利用するための制御を行うようにすることも可能である。
【0023】
本発明は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0024】
(1)計測システムであって、変調部と、復調部と、演算部とを備え、前記変調部は、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成し、前記復調部は、前記光パルス列を検出し、前記第1の周波数で復調して前記光パルスの振幅と位相とを特定し、前記振幅及び前記位相は、前記光パルスに含まれる光の波長ごとに特定され、前記演算部は、前記振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、前記位相に基づいてスペクトル位相を算出する計測システム。
【0025】
(2)上記(1)に記載の計測システムにおいて、前記復調部は、分光部と、光電変換部と、検出部とを備え、前記分光部は、前記光パルス列を波長ごとに分光して第1の電気信号に変換し、前記光電変換部は、前記光パルス列を光電変換して第2の電気信号を生成し、前記検出部は、前記第2の電気信号を参照して前記第1の電気信号から前記振幅及び前記位相を検出する計測システム。
【0026】
(3)上記(2)に記載の計測システムにおいて、前記変調部は、信号生成部と、強度変調部とを備え、前記信号生成部は、第2の周波数の逓倍から前記第1の周波数を増加または減少させた第3の周波数の正弦波信号を生成し、前記第2の周波数は、前記光パルスの周波数であり、前記強度変調部は、前記正弦波信号を変調信号として前記光パルスを強度変調する計測システム。
【0027】
(4)上記(3)に記載の計測システムにおいて、前記信号生成部は、位相同期回路であり、前記強度変調部は、マッハツェンダ型強度変調器であり、前記分光部は、光スペクトラムアナライザであり、前記光電変換部は、フォトディテクタであり、前記検出部は、ロックインアンプである計測システム。
【0028】
(5)上記(4)に記載の計測システムにおいて、前記第1の周波数は、前記光スペクトラムアナライザが許容する周波数以下の周波数である計測システム。
【0029】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の計測システムにおいて、前記光パルスは、ピコ秒光パルスである計測システム。
【0030】
(7)計測方法であって、変調ステップと、復調ステップと、演算ステップとを備え、前記変調ステップでは、光パルスを強度変調して第1の周波数で変調された光パルス列を生成し、前記復調ステップでは、前記光パルス列を前記第1の周波数で復調して該光パルスの振幅と位相とを特定し、前記振幅及び前記位相は、前記光パルスに含まれる光の波長ごとに特定され、前記演算ステップでは、前記振幅に基づいてスペクトル強度を算出し、前記位相に基づいてスペクトル位相を算出する計測方法。
もちろん、この限りではない。
【符号の説明】
【0031】
1 :計測システム
2 :パルス光源
11 :変調部
12 :復調部
13 :演算部
LIA :検出部
MZM :強度変調部
Nf :周波数
OSA :分光部
PD :光電変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6