(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030650
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240229BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240229BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20240229BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240229BHJP
C09B 23/01 20060101ALN20240229BHJP
C09B 23/14 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
G02B5/22
C09K3/00 105
G02B5/26
G02B5/28
C09B23/01
C09B23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133669
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 昂輝
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA05
2H148CA12
2H148CA23
2H148FA12
2H148GA19
(57)【要約】
【課題】本発明は、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性に優れ、可視光と近赤外光の境界領域における透過率変化の急峻性が大きい光学フィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】基材と誘電体多層膜とを備えた光学フィルタであって、前記基材は、690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(1)および樹脂を含む吸収層(1)と、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(2)および樹脂を含む吸収層(2)とを有し、前記吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方が、平均一次粒子径100nm以下のSiO
2微粒子を含み、前記光学フィルタが特定の分光特性(i-1)~(i-7)をすべて満たす、光学フィルタ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と誘電体多層膜とを備えた光学フィルタであって、
前記基材は、690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(1)および樹脂を含む吸収層(1)と、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(2)および樹脂を含む吸収層(2)とを有し、
前記吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方が、平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含み、
前記光学フィルタが以下の分光特性(i-1)~(i-7)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)430~580nmにおける入射角0度での平均透過率T430-580(0deg)AVEが85%以上
(i-2)580~660nmにおける入射角0度での平均透過率T580-660(0deg)AVEが60%以上
(i-3)710~730nmにおける入射角0度での平均透過率T710-730(0deg)AVEが5%以下
(i-4)830~850nmにおける入射角0度での平均透過率T830-850(0deg)AVEが5%以下
(i-5)550~700nmにおいて入射角0度で透過率が10%となる波長IR10(0deg)と透過率が75%となる波長IR75(0deg)との差Δ(IR10(0deg)-IR75(0deg))が80nm以下
(i-6)710~730nmにおける入射角50度での平均透過率T710-730(50deg)AVEが5%以下
(i-7)830~850nmにおける入射角50度での平均透過率T830-850(50deg)AVEが5%以下
【請求項2】
前記基材が下記分光特性(ii-1)~(ii-5)をすべて満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(ii-1)430~580nmにおける平均内部透過率T430-580AVEが80%以上
(ii-2)580~660nmにおける平均内部透過率T580-660AVEが87%以上
(ii-3)710~730nmにおける平均内部透過率T710-730AVEが20%以下
(ii-4)830~850nmにおける平均内部透過率T830-850AVEが30%以下
(ii-5)550~700nmにおいて内部透過率が10%となる波長IR10と内部透過率が75%となる波長IR75との差Δ(IR10-IR75)が75nm以下
【請求項3】
前記吸収層(2)が前記平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記吸収層(1)における樹脂および前記吸収層(2)における樹脂の少なくとも一方がエポキシ樹脂である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
ヘイズが1%以下である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記前記吸収層(1)または前記吸収層(2)における前記SiO2微粒子の含有量が5質量%以上である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記近赤外線吸収色素(2)がシアニン色素を含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記近赤外線吸収色素(1)がスクアリリウム色素を含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
下記式(A)により算出される、前記SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータと前記近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータとの差の絶対値RaIRが10以下である、請求項1に記載の光学フィルタ。
RaIR=[4×(δdp-δdd)2+(δpp-δpd)2+(δhp-δhd)2]1/2 (A)
(式中の各符号の意味は下記のとおりである。
δdp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの分散項
δpp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの分極項
δhp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの水素結合項
δdd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの分散項
δpd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの分極項
δhd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの水素結合項)
【請求項10】
前記近赤外線吸収色素(2)は、下記式(III)~(V)に示すシアニン色素の少なくとも一種を含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【化1】
【化2】
〔上記式中の記号は以下のとおりである。
R
101~R
111およびR
121~R
131は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。Yは、ハロゲン原子または置換基を有してもよいフェニル基を示す。
X
-は一価のアニオンを示す。
n1およびn2は0または1である。-(CH
2)
n1-を含む炭素環、および、-(CH
2)
n2-を含む炭素環に結合する水素原子はハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基または炭素数5~20のアリール基で置換されていてもよい。〕
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外波長領域の光を遮断する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視領域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し、近赤外波長領域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。該光学フィルタとしては、近赤外線吸収色素を含む吸収層と、近赤外光を反射により遮断する誘電体多層膜からなる反射層とを組み合わせた近赤外光カットフィルタが知られている。
【0003】
また画像特性の向上のため、近赤外光のさらなる遮蔽性が求められており、これを実現するために、例えば吸収層において、最大吸収波長の異なる近赤外線吸収色素を組み合わせることが試みられている。
特許文献1には、700nmの波長帯域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素に加えて、800nmの波長帯域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素を含む吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の光学フィルタは、800nmの波長帯域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素を含むことで近赤外帯域の遮光性は向上するが、最大吸収波長が長波長帯域である色素は可視光も吸収する傾向にあるため、光学フィルタ全体として可視光の透過性が低下するおそれがある。
また、近赤外光カットフィルタに求められる分光特性として、可視光をより効率的に透過し近赤外光をより効率的に遮蔽する観点から、可視光と近赤外光の境界領域である650nmの波長帯域における透過率の変化が急峻であることが好ましい。しかしながら特許文献1に記載の光学フィルタは急峻性が低く、分光特性として改善の余地があった。
【0006】
よって本発明は、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性に優れ、可視光と近赤外光の境界領域における透過率変化の急峻性が大きい光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
〔1〕 基材と誘電体多層膜とを備えた光学フィルタであって、
前記基材は、690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(1)および樹脂を含む吸収層(1)と、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(2)および樹脂を含む吸収層(2)とを有し、
前記吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方が、平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含み、
前記光学フィルタが以下の分光特性(i-1)~(i-7)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)430~580nmにおける入射角0度での平均透過率T430-580(0deg)AVEが85%以上
(i-2)580~660nmにおける入射角0度での平均透過率T580-660(0deg)AVEが60%以上
(i-3)710~730nmにおける入射角0度での平均透過率T710-730(0deg)AVEが5%以下
(i-4)830~850nmにおける入射角0度での平均透過率T830-850(0deg)AVEが5%以下
(i-5)550~700nmにおいて入射角0度で透過率が10%となる波長IR10(0deg)と透過率が75%となる波長IR75(0deg)との差Δ(IR10(0deg)-IR75(0deg))が80nm以下
(i-6)710~730nmにおける入射角50度での平均透過率T710-730(50deg)AVEが5%以下
(i-7)830~850nmにおける入射角50度での平均透過率T830-850(50deg)AVEが5%以下
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性に優れ、可視光と近赤外光の境界領域における透過率変化の急峻性が大きい光学フィルタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は例2-2および例2-4の吸収層の分光透過率曲線を示す図である。
【
図4】
図4は例3-2の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図5】
図5は例3-3の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図6】
図6は例3-1および例3-3の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
<光学フィルタ>
本発明の光学フィルタ(以下「本フィルタ」とも記載する。)は、基材と誘電体多層膜とを備え、基材は、690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(1)および樹脂を含む吸収層(1)と、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(2)および樹脂を含む吸収層(2)とを有する。さらに吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方が、平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含み、光学フィルタが後述する特定の分光特性を満たす。
【0012】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。
図1~2は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【0013】
図1に示す光学フィルタ1は、基材10と、基材10の一方の主面側に積層された誘電体多層膜31とを有する。基材10は、支持体11と支持体の一方の主面側に積層された吸収層1Aと吸収層2Aとを有する。誘電体多層膜31は、図示しないが吸収層2Aの上に積層されていてもよい。また、吸収層1Aと吸収層2Aの積層順は
図1に限定されない。
【0014】
図2に示す光学フィルタ1は、基材10の他方の主面側に積層された誘電体多層膜32をさらに有する。
【0015】
<基材>
本発明の光学フィルタにおける基材は、690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(1)および樹脂を含む吸収層(1)と、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(2)および樹脂を含む吸収層(2)とを有する。そして吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方が、平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含む。
【0016】
最大吸収波長の異なる近赤外線吸収色素(1)と近赤外線吸収色素(2)を併用することで、近赤外光を広範囲に吸収できる。
ここで、近赤外線吸収色素は樹脂中で均一に分散されていることが好ましく、色素が凝集すると、ヘイズの増加や、吸収幅が広くなり可視光領域の透過率低下を引き起こすおそれがある。SiO2微粒子を近赤外線吸収色素と共存させることで、SiO2微粒子表面に色素が吸着され、樹脂中での凝集を防ぐことができる。
【0017】
また、最大吸収波長が長波長であるほど可視光領域の透過率低下に関与しやすいことから、近赤外線吸収色素(2)を含む吸収層(2)がSiO2微粒子を含むことが、本発明の効果が発揮されやすい点で好ましい。
【0018】
<SiO2微粒子>
SiO2微粒子は、SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータ(以下、「HSP」とも記載する)と近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータとの差の絶対値RaIRが10以下であることが好ましい。
HSPとはヒルデブランドの溶解度パラメータを、分散項成分、分極項成分及び水素結合項成分の3つの凝集エネルギー成分に分割したものであり、物質の相溶性を示すベクトル量のパラメータである。本明細書ではHSPの分散項成分をδd、分極項成分をδp、水素結合成分をδhと表記する。これら3つのパラメータは3次元空間における座標とみなされ、2つの物質のHSPを3次元空間に置いたとき、2点間の距離が小さい程、当該2つの物質の親和性が高いことを示す。
ここで絶対値RaIRは以下の数式(A)で表され、RaIRが小さいほどSiO2微粒子は近赤外線吸収色素(2)との親和性が高いことを意味する。
RaIR=[4×(δdp-δdd)2+(δpp-δpd)2+(δhp-δhd)2]1/2 (A)
(式中の各符号の意味は下記のとおりである。
δdp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの分散項
δpp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの分極項
δhp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの水素結合項
δdd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの分散項
δpd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの分極項
δhd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの水素結合項)
【0019】
本発明におけるSiO2微粒子は、上記RaIRが好ましくは10以下、より好ましくは8.5以下である。RaIRが10以下であれば、近赤外線吸収色素(2)との親和性が十分であり、SiO2微粒子表面に近赤外線吸収色素(2)を吸着でき色素の凝集を抑制できる。
【0020】
物質のHSP(δd、δp、δh)は、HSPが既知の複数の溶媒に溶解させ、溶解性結果をHSP算出ソフトウェアに入力することで算出できる。
物質のHSPはまた、化学構造式のSMILES形式をHSP算出ソフトウェアに入力することでも算出できる。
【0021】
SiO2微粒子は通常、表面に水酸基を有するが、表面にエポキシ構造を有するSiO2微粒子または表面が高疎水処理されたSiO2微粒子を用いてもよい。水酸基を有したままのSiO2微粒子は表面が親水性であるため微粒子が吸水性を有し、樹脂膜である吸収層の耐吸湿性が低下するおそれがある。表面が官能基で修飾され疎水性を有するSiO2微粒子であれば、微粒子自体が吸水性を有することなく、また、微粒子自体が凝集しにくいためヘイズの低下を回避できる点で好ましい。
【0022】
SiO2微粒子の形状としては、球状、板状、柱状、繊維状、針状、不定形状、多孔質構造を有する粒子等の任意の形状が挙げられる。
【0023】
SiO2微粒子は、光学フィルタのヘイズ上昇を抑制できる観点から平均一次粒子径が100nm以下であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。また、一次粒子の凝集を防ぐ観点から好ましくは5nm以上である。一次粒子径が5nm以上であれば、粒子間の凝集力が増して二次凝集体形成によるヘイズの増加が懸念されず好ましい。
【0024】
SiO2微粒子の平均一次粒子径は、主にBET法に基づき測定される。
【0025】
SiO2微粒子の吸収層における含有量としては、近赤外線吸収色素の凝集を十分に抑制できる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。また、吸収層の平滑性等の外観を良好に保つ観点、微粒子自体の凝集を抑制できる観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0026】
吸収層は、SiO2微粒子以外の無機微粒子も含んでもよい。無機微粒子の種類としては、色素との反応性が小さい観点から、SiO2、アルミナ、ジルコニア、アルミノシリケート、カオリナイト、酸化亜鉛、酸化チタン、CsWO3、LaB6が好ましく挙げられ、なかでも、SiO2、アルミナ、酸化チタンがより好ましい。これらは1種のみを用いても、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0027】
<近赤外線吸収色素(1)>
近赤外線吸収色素(1)は690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する。ここで、最大吸収波長は、吸収層(1)で用いられる樹脂中における波長である。
【0028】
近赤外線吸収色素(1)としては、たとえば、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、およびナフタロシアニン色素からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、単独もしくは複数を混合して用いることができる。中でも、本発明の効果が発揮されやすい観点から、スクアリリウム色素が好ましい。
【0029】
<スクアリリウム色素>
スクアリリウム色素は、下記式(I)または式(II)で示される化合物であることが好ましい。
なお、スクアリリウム色素化合物中に同一の記号が2以上存在する場合、それらの記号の定義は同一でも異なっていてもよい。
【0030】
<スクアリリウム化合物(I)>
【0031】
【0032】
ただし、上記式中の記号の定義は以下のとおりである。
R24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基、-NR27R28(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)、-NHR30、または、-SO2-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0033】
【0034】
R21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X1-Y1-および-X2-Y2-(窒素に結合する側がX1およびX2)として、X1およびX2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y1およびY2がそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X1およびX2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y1およびY2はそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0035】
【0036】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または-NR38R39(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
R27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、R21、R22、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、または、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基を示す。
【0037】
化合物(I)としては、例えば、式(I-1)~(I-3)のいずれかで示される化合物が挙げられ、樹脂への溶解性、樹脂中での耐熱性や耐光性、これを含有する樹脂層の可視光透過率の観点から、式(I-1)で示される化合物が特に好ましい。
【0038】
【0039】
式(I-1)~式(I-3)中の記号は、式(I)における同記号の各規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0040】
化合物(I-1)において、X1としては、基(2x)が好ましく、Y1としては、単結合または基(1y)が好ましい。この場合、R31~R36としては、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。なお、-Y1-X1-として、具体的には、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0041】
-C(CH3)2-CH(CH3)- …(11-1)
-C(CH3)2-CH2- …(11-2)
-C(CH3)2-CH(C2H5)- …(11-3)
-C(CH3)2-C(CH3)(nC3H7)- …(11-4)
-C(CH3)2-CH2-CH2- …(12-1)
-C(CH3)2-CH2-CH(CH3)- …(12-2)
-C(CH3)2-CH(CH3)-CH2- …(12-3)
【0042】
また、化合物(I-1)において、R21は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4-1)または(4-2)で示される基がより好ましい。
【0043】
【0044】
式(4-1)および式(4-2)中、R71~R75は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0045】
化合物(I-1)において、R24は-NR27R28が好ましい。-NR27R28としては、樹脂と塗工溶媒への溶解性の観点から-NH-C(=O)-R29または-NH-SO2-R30が好ましい。
【0046】
<スクアリリウム化合物(II)>
【0047】
【0048】
ただし、上記式中の記号の定義は以下のとおりである。
環Zは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を環中に0~3個有する5員環または6員環であり、環Zが有する水素原子は置換されていてもよい。
R1とR2、R2とR3、およびR1と環Zを構成する炭素原子またはヘテロ原子は、互いに連結して窒素原子とともにそれぞれヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1を形成していてもよく、その場合、ヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1が有する水素原子は置換されていてもよい。ヘテロ環を形成していない場合のR1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子間に不飽和結合、ヘテロ原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。R4およびヘテロ環を形成していない場合のR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよく、置換基を有してもよいアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0049】
化合物(II)としては、例えば、式(II-1)~(II-3)のいずれかで示される化合物が挙げられ、樹脂への溶解性、樹脂中での可視光透過性の観点から、式(II-3)で示される化合物が特に好ましい。
【0050】
【0051】
式(II-1)、式(II-2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、R3~R6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基を示す。
【0052】
式(II-3)中、R1、R4、およびR9~R12は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。
【0053】
化合物(II-1)および化合物(II-2)におけるR1およびR2は、樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数7~15のアルキル基がより好ましく、R1とR2の少なくとも一方が、炭素数7~15の分岐鎖を有するアルキル基がさらに好ましく、R1とR2の両方が炭素数8~15の分岐鎖を有するアルキル基が特に好ましい。
【0054】
化合物(II-3)におけるR1は、透明樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、エチル基、イソプロピル基が特に好ましい。
【0055】
R4は、可視光透過性、合成容易性の観点から、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、水素原子が特に好ましい。
R7およびR8は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、メチル基がより好ましい。
【0056】
R9~R12は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
-CR9R10-CR11R12-として、下記基(13-1)~(13-5)で示される2価の有機基が挙げられる。
-CH(CH3)-C(CH3)2- …(13-1)
-C(CH3)2-CH(CH3)- …(13-2)
-C(CH3)2-CH2- …(13-3)
-C(CH3)2-CH(C2H5)- …(13-4)
-CH(CH3)-C(CH3)(CH2-CH(CH3)2)-…(13-5)
【0057】
化合物(I)~(II)は、それぞれ公知の方法で製造できる。化合物(I)については、米国特許第5,543,086号明細書、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号明細書に記載された方法で製造可能である。化合物(II)については、国際公開第2017/135359号明細書に記載された方法で製造可能である。
【0058】
<吸収層(1)における樹脂>
吸収層(1)における樹脂としては、透明樹脂であれば制限されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等から選ばれる1種以上の透明樹脂が用いられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
吸収層の分光特性やガラス転移点(Tg)、密着性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0059】
<近赤外線吸収色素(2)>
近赤外線吸収色素(2)は、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する。ここで、最大吸収波長は、吸収層(2)で用いられる樹脂中における波長である。
【0060】
近赤外線吸収色素(2)としては、たとえば、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、およびナフタロシアニン色素からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、単独もしくは複数を混合して用いることができる。中でも、本発明の効果が発揮されやすい観点から、シアニン色素が好ましい。
【0061】
<シアニン色素>
シアニン色素は、下記式(III)~式(V)のいずれかで示される化合物であることが好ましい。
【0062】
<シアニン化合物(III)、(IV)、(V)>
【0063】
【0064】
【0065】
ただし、上記式中の記号は以下のとおりである。
R101~R111およびR121~R131は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。Yは、ハロゲン原子または置換基を有してもよいフェニル基を示す。
X-は一価のアニオンを示す。
n1およびn2は0または1である。-(CH2)n1-を含む炭素環、および、-(CH2)n2-を含む炭素環に結合する水素原子はハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基または炭素数5~20のアリール基で置換されていてもよい。
【0066】
上記において、アルキル基(アルコキシ基が有するアルキル基を含む)は直鎖であってもよく、分岐構造や飽和環構造を含んでもよい。アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基における置換基としては、ハロゲン原子および炭素数1~10のアルコキシ基が挙げられる。
【0067】
式(III)~式(V)において、R101およびR121は、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基が好ましく、樹脂中で高い可視光透過率を維持する観点から分岐を有する炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。
【0068】
式(III)~式(V)において、R102~R105、R108、R109、R110、R111、R122~R127、R130およびR131はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または炭素数5~20のアリール基が好ましく、高い可視光透過率が得られる観点から水素原子がより好ましい。
【0069】
式(III)、式(IV)において、Yにおけるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。Yがフェニル基である場合の置換基としては炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。高い可視光透過率が得られる観点からYは塩素原子またはフェニル基がより好ましい。
【0070】
R106、R107、R128およびR129は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R106とR107、R128とR129は、同じ基が好ましい。
【0071】
X-としては、I-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、式(X1)、および(X2)で示されるアニオン等が挙げられ、好ましくは、BF4
-、またはPF6
-である。
【0072】
【0073】
色素(III)、色素(IV)、色素(V)は、例えば、Dyes and pigments 73(2007) 344-352やJ.Heterocyclic chem,42,959(2005)に記載された方法で製造可能である。
【0074】
<吸収層(2)における樹脂>
吸収層(2)における樹脂としては、透明樹脂であれば制限されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等から選ばれる1種以上の透明樹脂が用いられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0075】
吸収層の分光特性やガラス転移点(Tg)、密着性の観点から、また色素の分散性を高める観点から、特にエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、構成成分(単量体)としてエポキシ化合物を重合して得られる樹脂であれば特に限定されない。色素の分散性を高める観点からは、分子量が10000以下のエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、又は、脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。また、エポキシ樹脂としては、透明性・耐熱性・耐光性の観点から脂環式エポキシ化合物を重合して得られる樹脂であることが好ましい。
【0076】
吸収層(1)における近赤外線吸収色素(1)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.1~15質量部である。なお、2種以上の化合物を組み合わせる場合、上記含有量は各化合物の総和である。
【0077】
吸収層(2)における近赤外線吸収色素(2)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.1~15質量部である。なお、2種以上の化合物を組み合わせる場合、上記含有量は各化合物の総和である。
【0078】
吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の色素、例えば紫外光吸収色素を含有してもよい。
紫外光吸収色素としては、オキサゾール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、ナフタルイミド色素、オキサジアゾール色素、オキサジン色素、オキサゾリジン色素、ナフタル酸色素、スチリル色素、アントラセン色素、環状カルボニル色素、トリアゾール色素等が挙げられる。
【0079】
本フィルタにおける基材の材質としては可視光を透過する透明性材料であれば有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。
基材としては、支持体の少なくとも一方の主面に吸収層(1)および吸収層(2)を積層した複合基材が好ましい。このとき支持体は樹脂または無機材料からなることが好ましい。
【0080】
無機材料としては、ガラス、ガラスセラミックス、水晶及びサファイアからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、単独もしくは複数を組み合わせて用いることができる。
【0081】
支持体の厚さは、誘電体多層膜成膜時の反り低減、光学フィルタ低背化の観点から、400μm以下が好ましく、また、通常、50μm以上が好ましい。
【0082】
吸収層は、近赤外線吸収色素と、樹脂と、SiO2微粒子と、必要に応じて配合される重合開始剤等の各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを支持体に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記支持体は、本フィルタに含まれる支持体でもよいし、吸収層を形成する際にのみ使用する剥離性の支持体でもよい。溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
重合開始剤としては、光重合開始剤、熱重合開始剤等を用いることができる。高重合度の塗膜が得られる観点から熱重合開始剤を用いることが好ましい。
【0083】
塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。
塗工液を支持体に塗工する前に、接着性を向上させる観点から、シランカップリング剤等を用いて支持体に表面処理を施してもよい。
【0084】
上記塗工液を支持体上に塗工後、塗工膜を乾燥または乾燥後に硬化させることにより吸収層が形成される。
【0085】
塗工膜の硬化方法としては、特に限定されず、例えば、熱硬化や光硬化(活性エネルギー線照射による硬化)等の種々の方法を好適に用いることができる。熱硬化としては30~400℃程度で硬化することが好ましく、光硬化としては10~10000mJ/cm2で硬化することが好ましい。硬化は1段階で行ってもよく、また、1次硬化(予備硬化)、2次硬化(本硬化)のように2段階で行ってもよい。硬化工程は、空気中、又は、窒素等の不活性ガス雰囲気のいずれの雰囲気下でも行うことができる。
【0086】
吸収層(1)の厚さは、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.3~10μmである。
吸収層(2)の厚さは、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.3~10μmである。
【0087】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
【0088】
上記の構成を有する本フィルタにおける基材は、下記分光特性(ii-1)~(ii-5)をすべて満たすことが好ましい。
(ii-1)430~580nmにおける平均内部透過率T430-580AVEが80%以上
(ii-2)580~660nmにおける平均内部透過率T580-660AVEが87%以上
(ii-3)710~730nmにおける平均内部透過率T710-730AVEが20%以下
(ii-4)830~850nmにおける平均内部透過率T830-850AVEが30%以下
(ii-5)550~700nmにおいて内部透過率が10%となる波長IR10と内部透過率が75%となる波長IR75との差Δ(IR10-IR75)が75nm以下
【0089】
分光特性(ii-1)~(ii-5)を満たすことは、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性に優れ、可視光と近赤外光の境界領域における透過率変化の急峻性が大きいことを意味する。
【0090】
平均内部透過率T430-580AVEはより好ましくは90%以上である。
平均内部透過率T580-660AVEはより好ましくは87.5%以上である。
平均内部透過率T710-730AVEはより好ましくは15%以下である。
T830-850AVEはより好ましくは20%以下である。
Δ(IR10-IR75)はより好ましくは73nm以内である。
【0091】
<誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層されることが好ましい。
【0092】
本フィルタにおいて、誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層(以下、NIR反射層とも記載する。)として設計されることが好ましい。誘電体多層膜の他方はNIR反射層、近赤外域以外の反射域を有する反射層、または反射防止層として設計されることが好ましい。
【0093】
NIR反射層は、近赤外光を遮蔽するように設計された誘電体多層膜である。NIR反射層としては、例えば、可視光を透過し、吸収層である樹脂膜の遮光域以外の近赤外域の光を主に反射する波長選択性を有する。なお、NIR反射層の反射領域は、樹脂膜の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。NIR反射層は、NIR反射特性に限らず、近赤外域以外の波長域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0094】
NIR反射層は、例えば、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa2O5、TiO2、TiO、Ti2O3、Nb2O5が挙げられる。その他市販品としてキヤノンオプトロン社製、OS50(Ti3O5)、OS10(Ti4O7)、OA500(Ta2O5とZrO2の混合物)、OA600(Ta2O5とTiO2の混合物)などが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiO2が好ましい。
【0095】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO2、SiOxNy、MgF2等が挙げられる。その他市販品としてキヤノンオプトロン社製、S4F、S5F(SiO2とAlO2の混合物)が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiO2が好ましい。
【0096】
NIR反射層は、反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数が、近赤外光波長領域における遮光性の観点から好ましくは20層以上、より好ましくは25層以上、さらに好ましくは30層以上である。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。
また、反射層の膜厚は、光学フィルタの反り低減の観点から全体として2~10μmが好ましい。
【0097】
また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0098】
NIR反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の分光特性を与えたり、2層で所定の分光特性を与えたりしてもよい。2層以上有する場合、各反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。反射層を2層以上有する場合、通常、反射帯域の異なる複数の反射層で構成される。2層の反射層を設ける場合、一方を、近赤外域のうち短波長帯の光を遮蔽する近赤外反射層とし、他方を、該近赤外域の長波長帯および近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。
【0099】
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。反射防止層は、反射層と同様に誘電体多層膜を交互に積層して得られる。
【0100】
<光学フィルタ>
上記構成を有する本フィルタは、可視光を透過し近赤外光を遮断する、光透過選択性に優れた光学フィルタである。
本発明の光学フィルタが以下の分光特性(i-1)~(i-7)をすべて満たす。
(i-1)430~580nmにおける入射角0度での平均透過率T430-580(0deg)AVEが85%以上
(i-2)580~660nmにおける入射角0度での平均透過率T580-660(0deg)AVEが60%以上
(i-3)710~730nmにおける入射角0度での平均透過率T710-730(0deg)AVEが5%以下
(i-4)830~850nmにおける入射角0度での平均透過率T830-850(0deg)AVEが5%以下
(i-5)550~700nmにおいて入射角0度で透過率が10%となる波長IR10(0deg)と透過率が75%となる波長IR75(0deg)との差Δ(IR10(0deg)-IR75(0deg))が80nm以下
(i-6)710~730nmにおける入射角50度での平均透過率T710-730(50deg)AVEが5%以下
(i-7)830~850nmにおける入射角50度での平均透過率T830-850(50deg)AVEが5%以下
【0101】
分光特性(i-1)~(i-5)を満たすことは、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性に優れ、可視光と近赤外光の境界領域における透過率変化の急峻性が大きいことを意味する。
分光特性(i-6)~(i-7)を満たすことは、高入射角であっても近赤外光の遮蔽性に優れることを意味する。
【0102】
平均透過率T430-580(0deg)AVEは好ましくは86%以上である。
平均透過率T580-660(0deg)AVEは好ましくは62%以上である。
平均透過率T710-730(0deg)AVEは好ましくは1.5%以下である。
平均透過率T830-850(0deg)AVEは好ましくは1.5%以下である。
Δ(IR10(0deg)-IR75(0deg))は好ましくは79nm以下である。
【0103】
平均透過率T710-730(50deg)AVEは好ましくは1.5%以下である。
平均透過率T830-850(50deg)AVEは好ましくは1.5%以下である。
【0104】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-8)をさらに満たすことが好ましい。
(i-8)550~700nmにおいて入射角0度で透過率が50%となる波長IR50(0deg)と入射角50度で透過率が50%となる波長IR50(50deg)との差Δ(IR50(0deg)-IR50(50deg))が20nm以下
分光特性(i-8)を満たすことは、可視光の透過性と近赤外光の遮蔽性とが入射光の角度に依存しないことを意味する。
Δ(IR50(0deg)-IR50(50deg))はより好ましくは10nm以下である。
【0105】
本発明の光学フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れる撮像装置を提供できる。かかる撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本発明の光学フィルタとを備える。本発明の光学フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【0106】
上記の通り、本明細書は下記の光学フィルタ等を開示する。
〔1〕 基材と誘電体多層膜とを備えた光学フィルタであって、
前記基材は、690~740nmの波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(1)および樹脂を含む吸収層(1)と、740nmを超え870nm以下の波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素(2)および樹脂を含む吸収層(2)とを有し、
前記吸収層(1)および吸収層(2)の少なくとも一方が、平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含み、
前記光学フィルタが以下の分光特性(i-1)~(i-7)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)430~580nmにおける入射角0度での平均透過率T430-580(0deg)AVEが85%以上
(i-2)580~660nmにおける入射角0度での平均透過率T580-660(0deg)AVEが60%以上
(i-3)710~730nmにおける入射角0度での平均透過率T710-730(0deg)AVEが5%以下
(i-4)830~850nmにおける入射角0度での平均透過率T830-850(0deg)AVEが5%以下
(i-5)550~700nmにおいて入射角0度で透過率が10%となる波長IR10(0deg)と透過率が75%となる波長IR75(0deg)との差Δ(IR10(0deg)-IR75(0deg))が80nm以下
(i-6)710~730nmにおける入射角50度での平均透過率T710-730(50deg)AVEが5%以下
(i-7)830~850nmにおける入射角50度での平均透過率T830-850(50deg)AVEが5%以下
〔2〕 前記基材が下記分光特性(ii-1)~(ii-5)をすべて満たす、〔1〕に記載の光学フィルタ。
(ii-1)430~580nmにおける平均内部透過率T430-580AVEが80%以上
(ii-2)580~660nmにおける平均内部透過率T580-660AVEが87%以上
(ii-3)710~730nmにおける平均内部透過率T710-730AVEが20%以下
(ii-4)830~850nmにおける平均内部透過率T830-850AVEが30%以下
(ii-5)550~700nmにおいて内部透過率が10%となる波長IR10と内部透過率が75%となる波長IR75との差Δ(IR10-IR75)が75nm以下
〔3〕 前記吸収層(2)が前記平均一次粒子径100nm以下のSiO2微粒子を含む、〔1〕または〔2〕に記載の光学フィルタ。
〔4〕 前記吸収層(1)における樹脂および前記吸収層(2)における樹脂の少なくとも一方がエポキシ樹脂である、〔1〕~〔3〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔5〕 ヘイズが1%以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔6〕 前記前記吸収層(1)または前記吸収層(2)における前記SiO2微粒子の含有量が5質量%以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔7〕 前記近赤外線吸収色素(2)がシアニン色素を含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔8〕 前記近赤外線吸収色素(1)がスクアリリウム色素を含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
〔9〕 下記式(A)により算出される、前記SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータと前記近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータとの差の絶対値RaIRが10以下である、〔1〕~〔8〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
RaIR=[4×(δdp-δdd)2+(δpp-δpd)2+(δhp-δhd)2]1/2 (A)
(式中の各符号の意味は下記のとおりである。
δdp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの分散項
δpp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの分極項
δhp:SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータの水素結合項
δdd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの分散項
δpd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの分極項
δhd:近赤外線吸収色素(2)のハンセン溶解度パラメータの水素結合項)
〔10〕 前記近赤外線吸収色素(2)は、下記式(III)~(V)に示すシアニン色素の少なくとも一種を含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1に記載の光学フィルタ。
【0107】
【0108】
【0109】
〔上記式中の記号は以下のとおりである。
R101~R111およびR121~R131は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。Yは、ハロゲン原子または置換基を有してもよいフェニル基を示す。
X-は一価のアニオンを示す。
n1およびn2は0または1である。-(CH2)n1-を含む炭素環、および、-(CH2)n2-を含む炭素環に結合する水素原子はハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基または炭素数5~20のアリール基で置換されていてもよい。〕
〔11〕 〔1〕~〔10〕のいずれか1に記載の光学フィルタを備えた撮像装置。
【実施例0110】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
各分光特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いた。
なお、入射角度が特に明記されていない場合の分光特性は入射角0度(光学フィルタ主面に対し垂直方向)で測定した値である。
【0111】
<SiO2微粒子>
各例で用いたSiO2微粒子は下記のとおりである。
【0112】
【0113】
<色素>
各例で用いた色素化合物は下記のとおりである。
化合物B1(メロシアニン色素):独国特許公報第10109243号明細書に基づき合成した。
化合物B2(スクアリリウム色素):国際公開第2014/088063号および国際公開第2016/133099号に基づき合成した。
化合物B3(シアニン色素):FEW Chemicals社製S0712を用いた。
化合物B4(シアニン色素):Dyes and Pigments、73、344-352(2007)に基づき合成した。
なお、化合物B1は紫外光吸収色素であり、化合物B2~B4は近赤外光吸収色素である。
【0114】
【0115】
<SiO2微粒子のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の算出>
試験に用いたSiO2微粒子のHSP(分散項δd、分極項δp、水素結合項δh)は溶解試験をHSP算出ソフトウェア(HSPiP 5th Edition バージョン5.3.04)に入力することで算出した。
まず、下記表に示すHSPが既知の21種類の溶媒1.2mlに、各SiO2微粒子を30mgそれぞれ添加した。超音波洗浄器MCS-2(アズワン株式会社製)を用いて試料を添加した溶液を40kHzで5分間振とうさせた。超音波洗浄後1時間以内に粒子が全て溶解したものを〇、溶解しなかったものを×と判断した。結果を下記表に示す。
次にHSPiPを用いて各種溶媒における溶解性結果を入力し、各SiO2微粒子のHSPを求めた。
【0116】
【0117】
<色素のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の算出(色素B1、B2)>
HSP算出ソフトウェア(HSPiP 5th Edition バージョン5.3.04)に各化合物の構造式をSMILES形式にて入力することでHSPを算出した。
【0118】
<色素のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の算出(色素B3、B4)>
試験に用いた色素のHSP(分散項δd、分極項δp、水素結合項δh)は溶解試験をHSP算出ソフトウェア(HSPiP 5th Edition バージョン5.3.04)に入力することで算出した。
まず、下記表3または表4に示す、HSPが既知の20~29種類の溶媒140μlに、各色素を5mgそれぞれ添加した。手攪拌で30回程度攪拌させた後1時間以内に色素が全て溶解したものを〇、溶解しなかったものを×と判断した。結果を下記表に示す。
次にHSPiPを用いて各種溶媒における溶解性結果を入力し、各色素のHSPを求めた。
【0119】
【0120】
【0121】
<ハンセン溶解度パラメータとの差の絶対値(RaIR)の算出>
SiO2微粒子のHSPと色素のHSPとの差の絶対値RaIRは以下の式より求めた。
RaIR=[4×(δdp-δdd)2+(δpp-δpd)2+(δhp-δhd)2]1/2
(式中、δdp、δpp、δhpはそれぞれSiO2微粒子のHSPの分散項、分極項および水素結合項を表し、δdd、δpd、δhdはそれぞれ色素のHSPの分散項、分極項および水素結合項を表す。)
【0122】
上記より求めたSiO2微粒子のHSPと、色素のHSPと、SiO2微粒子のHSPと色素のHSPとの差の絶対値RaIRとを、それぞれ下記表5~表7に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
<樹脂>
吸収層の樹脂として、ポリイミド樹脂またはエポキシ樹脂を用いた。
ポリイミド樹脂は、三菱ガス化学株式会社製C-3G30Gを用いた。
エポキシ樹脂は、単量体として下記エポキシ化合物(株式会社プリンテック製VG3101L、分子量:597.28)を用い、重合開始剤として熱カチオン発生剤(三新化学株式会社製、SI-B3)を用いて重合し、合成した。
【0127】
【0128】
<吸収層の特性>
〔例1-1、1-6〕
有機溶媒で希釈したC-3G30G(三菱ガス化学社製、ポリイミドワニス)に表8または表9に記載の色素を混合し、ポリイミド溶液と色素を十分に溶解させた。得られた樹脂溶液をスピンコーターを用いてガラス基板(アルカリガラス、松浪硝子製D263)に塗工して、十分に加熱して有機溶媒を除去することで膜厚1μmの吸収層を得た。
【0129】
〔例1-2、1-7〕
エポキシ化合物と表8または表9に記載の量の色素、開始剤を混合し、色素溶液を調製した。得られた色素溶液をガラス基板(アルカリガラス、松浪硝子製D263)に塗布し、80℃で5分、160℃で1時間と順次加熱することにより樹脂組成物を熱硬化させ、膜厚1μmの吸収層を得た。
【0130】
〔例1-3~1-5、1-8~1-11〕
エポキシ化合物と表8または表9に記載の量の色素、開始剤、SiO2微粒子とを混合し、色素溶液を調製した。得られた色素溶液をガラス基板(アルカリガラス、松浪硝子製D263)に塗布し、80℃で5分、160℃で1時間と順次加熱することにより樹脂組成物を熱硬化させ、膜厚1μmの吸収層を得た。
【0131】
<吸収層の分光特性>
得られた吸収層について、波長350nm~1200nmの波長範囲で、0degの入射方向における透過分光、5degの入射方向における反射分光を、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いて測定した。透過率は下記式で表す内部透過率で示した。
内部透過率=[実測透過率(入射角0度)/(100-反射率(入射角5度))]×100
【0132】
<吸収層のヘイズ>
得られた吸収層について、ヘイズメーターNDH7000SPII(日本電色工業株式会社製)を用い、光源としてD265光源を用いて測定した。
【0133】
各特性を下記表8および表9に示す。
なお、例1-1~例1-11は参考例である。
【0134】
【0135】
【0136】
<吸収層の特性>
〔例2-1~2-4〕
表10に記載の材料を混合させ、50℃、30分以上攪拌することで調合液TypeA~TypeDを調製した。各材料の含有量単位は質量%である。
【0137】
(例2-1)
アルカリガラス基板にTypeAの調合液をスピンコートし、厚さ1μmの吸収層を成膜した。
【0138】
(例2-2~例2-4)
アルカリガラス基板にTypeAの調合液をスピンコートし、厚さ1μmの吸収層(1層目)を成膜した。
次いで上記吸収層(1層目)上にTypeB、TypeC、TypeDのいずれかの調合液をスピンコートし、80℃で5分、160℃で1時間と順次加熱することにより樹脂組成物を熱硬化させ、厚さ1μmの吸収層(2層目)を成膜した。
【0139】
<吸収層の分光特性>
得られた吸収層について、波長350nm~1200nmの波長範囲で、0degの入射方向における透過分光、5degの入射方向における反射分光を、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いて測定した。透過率は下記式で表す内部透過率で示した。
内部透過率=[実測透過率(入射角0度)/(100-反射率(入射角5度))]×100
【0140】
各特性を下記表10に示す。
また例2-2および例2-4の吸収層の分光透過率曲線を
図3に示す。
なお、例2-1~例2-4は参考例である。
【0141】
【0142】
<光学フィルタ>
〔例3-1~例3-3〕
表12に記載の材料を混合させ、50℃、30分以上攪拌することで調合液TypeA~TypeDを調製した。各材料の含有量単位は質量%である。
アルカリガラス基板に、表11に示すType1の構成の誘電体多層膜からなり、近赤外光を遮蔽するように設計された反射層を蒸着により作製し、誘電多層膜付き基板を得た。
得られた誘電多層膜付き基板の、誘電体多層膜が積層されていない方の主面に、TypeAの調合液をスピンコートし、厚さ1μmの吸収層(1層目)を成膜した。
次いで上記吸収層(1層目)上にTypeB、TypeC、TypeDのいずれかの調合液をスピンコートし、80℃で5分、160℃で1時間と順次加熱することにより樹脂組成物を熱硬化させ、厚さ1μmの吸収層(2層目)を成膜した。
次いで上記吸収層(2層目)の上にSiO2/TiO2からなる反射防止膜を成膜した。
上記により、光学フィルタを作製した。
【0143】
【0144】
<光学フィルタの分光特性>
得られた光学フィルタについて、波長350nm~1200nmの波長範囲で、0degおよび50degの入射方向における透過分光を、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いて測定した。
【0145】
<光学フィルタのヘイズ>
得られた光学フィルタについてヘイズメーターNDH7000SPII(日本電色工業株式会社製)を用い、光源としてD265光源を用いて測定した。
【0146】
各特性を下記表12に示す。
また、例3-2の光学フィルタの分光透過率曲線を
図4に示す。例3-3の光学フィルタの分光透過率曲線を
図5に示す。例3-1および例3-3の光学フィルタの分光透過率曲線を
図6に示す。
なお、例3-1は比較例であり、例3-2~例3-3は実施例である。
【0147】
【0148】
上記結果より、SiO2微粒子を含有する吸収層を備えた例3-2および例3-3の光学フィルタは、可視光透過性と近赤外光遮蔽性に優れ、650nm帯域の透過率変化が急峻であることが分かる。
SiO2微粒子を含有する吸収層を備えていない例3-1の光学フィルタは、平均透過率T580-660(0deg)AVEが60%未満であること、および平均透過率T430-580(0deg)AVEが例3-2および例3-3よりも小さいことから可視光の透過性が低く、またΔ(IR10(0deg)-IR75(0deg))が80nmを超えていることから650nm帯域の透過率変化の急峻性が小さいことが分かる。