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特開2024-30661ワイヤ状の回路基板、デバイス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030661
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ワイヤ状の回路基板、デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240229BHJP
   H01L 25/04 20230101ALI20240229BHJP
【FI】
H05K1/02 A
H01L25/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133692
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】武居 淳
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一徳
(72)【発明者】
【氏名】日下 靖之
(72)【発明者】
【氏名】延島 大樹
(72)【発明者】
【氏名】竹下 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 学
(72)【発明者】
【氏名】グェン・タン・ヴィン
(72)【発明者】
【氏名】木村 香理
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA12
5E338AA16
5E338BB80
5E338EE60
(57)【要約】
【課題】 ストレッチャブルデバイスへの適用に好適な、伸縮性を有するワイヤ状の回路基板、デバイス及びその製造方法の提供。
【解決手段】 回路基板は、弾性体膜の上を覆って導電性回路部分を有する薄膜からなる回路層を付与された薄膜基板が巻回されてなり、長手方向に沿って回路層の表面にうねりが形成され、長手方向に伸張させたときにうねりが平坦化するようになっており、この回路基板を用いたデバイスも提供される。また、この回路基板の製造方法は、長方形の弾性体膜の対向する2つの短辺をそれぞれ幅方向に拘束しつつ互いに離間させるように荷重を与えて一軸方向に弾性変形させるステップと、弾性体膜の上を覆って導電性薄膜からなる回路層を付与するステップと、荷重を解除して一軸方向に沿って回路層の表面にうねりを形成させるとともに、弾性体膜の2つの長辺から互いに逆回り巻回させるステップと、含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有するワイヤ状の回路基板であって、
弾性体膜の上を覆って導電性回路部分を有する薄膜からなる回路層を付与された薄膜基板が巻回されてなり、長手方向に沿って前記回路層の表面にうねりが形成され、前記長手方向に伸張させたときに前記うねりが平坦化することを特徴とするワイヤ状の回路基板。
【請求項2】
長方形の前記弾性体膜の対向する2辺から互いに逆回りに巻回された並行する2本の巻回部を含むことを特徴とする請求項1記載のワイヤ状の回路基板。
【請求項3】
伸縮性を有するワイヤ状の回路基板を用いたデバイスであって、
弾性体膜の上を覆って導電性回路部分を有する薄膜からなる回路層の上に機能性素子を付与された薄膜基板が巻回されてなり、長手方向に沿って前記回路層の表面にうねりが形成され、前記長手方向に伸張させたときに前記うねりが平坦化することを特徴とするワイヤ状の回路基板を用いたデバイス。
【請求項4】
長方形の前記薄膜基板の対向する2辺から互いに逆回りに巻回された並行する2本の巻回部を含むことを特徴とする請求項3記載のデバイス。
【請求項5】
伸縮性を有するワイヤ状の回路基板の製造方法であって、
長方形の弾性体膜の対向する2つの短辺をそれぞれ幅方向に拘束しつつ互いに離間させるように荷重を与えて一軸方向に弾性変形させるステップと、
前記弾性体膜の上を覆って導電性薄膜からなる回路層を付与するステップと、
前記荷重を解除して前記一軸方向に沿って前記回路層の表面にうねりを形成させるとともに、前記弾性体膜の2つの長辺から互いに逆回り巻回させるステップと、含むことを特徴とするワイヤ状の回路基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有するワイヤ状の回路基板、デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康モニタリングや感覚の共有システムなどにおいて、身体に違和感なく着装できる電子デバイスが求められ、この中枢の回路部分では高機能化とともに小型且つ軽量化が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1では、シート材料上に回路層を形成した上で渦巻状に巻かれてなる渦巻状回路デバイスが開示されている。渦巻状に巻かれた回路は、従来の回路に比べ、体積特性及び重量特性において極めて有利であり、航空宇宙技術等における小型且つ軽量の、より一層多機能な回路デバイスに適用され得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006-527484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような渦巻状回路デバイスをウェアラブルデバイスに使用するには、変形に対する自由度が必要であり、特に、巻き軸方向(長さ方向)への伸縮性が必要とされる。また、変形性を有する渦巻状回路デバイスとしてより細くワイヤ状に加工するには、その体積や重量を増加させる原因となる、渦巻き層間を接着する粘着剤の如き使用を極力制限することも求められる。
【0006】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ストレッチャブルデバイスへの適用に好適な、伸縮性を有するワイヤ状の回路基板、デバイス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による回路基板は、伸縮性を有するワイヤ状の回路基板であって、弾性体膜の上を覆って導電性回路部分を有する薄膜からなる回路層を付与された薄膜基板が巻回されてなり、長手方向に沿って前記回路層の表面にうねりが形成され、前記長手方向に伸張させたときに前記うねりが平坦化することを特徴とする。かかる特徴によれば、小型且つ軽量であることを損なわず、巻き軸方向(長さ方向)への伸縮性を有し得て、ストレッチャブルデバイスへの適用に好適なのである。
【0008】
また本発明によるデバイスは、伸縮性を有するワイヤ状の回路基板を用いたデバイスであって、弾性体膜の上を覆って導電性回路部分を有する薄膜からなる回路層の上に機能性素子を付与された薄膜基板が巻回されてなり、長手方向に沿って前記回路層の表面にうねりが形成され、前記長手方向に伸張させたときに前記うねりが平坦化することを特徴とする。かかる特徴によれば、小型且つ軽量であることを損なわず、巻き軸方向(長さ方向)への伸縮性を有し得て、ストレッチャブルデバイスへの適用に好適なのである。
【0009】
上記した発明において、長方形の前記弾性体膜の対向する2辺から互いに逆回りに巻回された並行する2本の巻回部を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、回路密度を高めることができて、ストレッチャブルデバイスへの適用に好適なのである。
【0010】
更に本発明による回路基板の製造方法は、伸縮性を有するワイヤ状の回路基板の製造方法であって、長方形の弾性体膜の対向する2つの短辺をそれぞれ幅方向に拘束しつつ互いに離間させるように荷重を与えて一軸方向に弾性変形させるステップと、前記弾性体膜の上を覆って導電性薄膜からなる回路層を付与するステップと、前記荷重を解除して前記一軸方向に沿って前記回路層の表面にうねりを形成させるとともに、前記弾性体膜の2つの長辺から互いに逆回り巻回させるステップと、含むことを特徴とする。かかる特徴によれば、小型且つ軽量であることを損なわず、巻き軸方向(長さ方向)への伸縮性を有し得て、ストレッチャブルデバイスへの適用に好適な回路基板を簡便に得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による実施例としてのワイヤ状の回路基板の斜視図である。
図2】同回路基板の長手方向に沿った断面を表す斜視図である。
図3】同断面の拡大図である。
図4】回路基板の第1の製造方法の工程を示す斜視図である。
図5】回路基板の第2の製造方法の工程を示す斜視図である。
図6】回路基板の第3の製造方法の工程を示す写真である。
図7】製造試験における回路基板の寸法記号を示す斜視図である。
図8】第1製造試験における初期長さと幅によるスクロール形状の形成の有無を示すグラフである。
図9】第2製造試験における製造条件と得られた回路基板のスクロール幅の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明による1つの実施例であるワイヤ状の回路基板、これを用いたデバイス、及び、これらの製造方法について、図1乃至図6を用いて説明する。
【0013】
図1に示すように、回路基板1は、薄膜基板2を長手方向に沿った巻き軸の周りに巻回させたことにより、全体としてワイヤ状(線状)を呈する。本実施例においては、巻き軸A1及びA2の2つが存在し、これによって、並行する2本の巻回部R1及びR2を形成している。
【0014】
図2及び図3(a)を併せて参照すると、巻回部R1及びR2は、薄膜基板2による複層状体となり、各層の内周側の表面には巻き軸A1及びA2に沿ってうねり3が形成されている。つまり、うねり3はその尾根3a及び谷3bを巻き軸A1及びA2に垂直な平面上で巻き軸A1及びA2周りに周回させるように形成される。薄膜基板2は、弾性体膜5とその上を覆う回路層4の二層構造となっている。回路層4は、導電性回路部分を有する薄膜によって形成されている。
【0015】
ここで、図3(b)に示すように、回路基板1を長手方向(紙面左右方向)に伸張させると、うねり3が平坦化してその尾根3a及び谷3bの高低差を小さくする。また、伸張させるための力を解除すると、回路基板1は、弾性体膜5の弾性によって同図(a)のようなうねり3の高低差の大きな形状に戻る。
【0016】
つまり、回路層4は、弾性体膜5のような優れた弾性を有していなくても、長手方向に沿ったうねり3を形成していることで、長手方向の伸張に対してうねり3を平坦化させることで追従できる。そのため、回路基板1は長手方向に荷重を付与して伸張させることができ、さらに、かかる荷重を解除して元の形状に戻すことができる。例えば、ワイヤ状の回路基板1をストレッチャブル配線とし得る。
【0017】
また、回路基板1は、回路層4を所定の構成として必要な機能性素子を組み込むことにより、例えば、曲げ検出デバイス、光発電デバイス、発光デバイスなどのストレッチャブルデバイスとし得る。
【0018】
例えば、回路層4の導電性回路部分に用いられる材料としては、薄膜基板2の変形に追従できるものが求められる。例えば、回路基板1を用いたデバイスとして圧力センサを構成する場合、ポリチオフェン系導電性ポリマーであるPEDOT:PSSなどの導電性高分子材料が好適に用いられる。その他、発光素子とする場合には、導電性高分子材料、発光弾性体材料、有機発光材料などを用い得る。また、ストレッチャブル配線とする場合には、液体金属材料などを用い得る。さらに、光発電素子とする場合には、導電性高分子材料、金、P3HT/PCBMなどの有機薄膜太陽電池用の有機半導体材料、液体金属材料などの適用が考慮される。
【0019】
次に、このような回路基板1の製造方法について説明する。
【0020】
[第1の製造方法]
図4(a)に示すように、まず、長方形の弾性体膜5を用意し、対向する2つの短辺をそれぞれ幅方向に拘束するように、長手方向の両端部をそれぞれ治具11で固定する。弾性体膜5としては、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等のシリコーンエラストマを好適に使用し得る。
【0021】
同図(b)に示すように、治具11によって弾性体膜5の短辺を幅方向に拘束しながら2つの治具11を互いに離間させるように荷重を与え、弾性体膜5を長手の一軸方向に伸張させるように弾性変形させる(弾性変形ステップ)。そして、その弾性変形を維持したまま、弾性体膜5の上を覆うように回路層4を付与する(回路層付与ステップ)。回路層4としては、可撓性を有することでうねり3を形成し得る膜体であり、例えば、パリレン(登録商標)やフッ素樹脂などの絶縁膜に導電性回路部分を付与した導電性薄膜である。弾性体膜5に回路層4を付与することで薄膜基板2を得る。なお、回路層4を形成する前にはOプラズマを印加するなどして、各層間の接合性を高くすることが好ましい。回路層4を複層とする場合も同様にプラズマ処理を行うことが好ましい。
【0022】
同図(c)に示すように、治具11に与えた荷重を維持した状態から、同図(d)に示すように、治具11に与えた荷重を解除する(荷重解除ステップ)。すると、治具11に拘束されない薄膜基板2の長手方向の中央部分において巻回部R1及びR2が形成される。巻回部R1及びR2は、長方形の弾性体膜5の対向する2辺(長辺)から薄膜基板2の弾性体膜5を外側にするようにして互いに逆回りに巻回される。このように、2つの長辺から互いに逆回りに巻回させた巻回部を含む形状を、以降、「スクロール形状」と呼ぶことにする。また、回路層4の表面には、弾性体膜5の長辺に沿ってうねり3が形成される。このようにして、回路基板1を得ることができる。なお、巻回部R1及びR2の間を長手方向に切断することで、巻回部を1つとするワイヤ状の回路基板を得ることもできる。
【0023】
このような製造方法においては、延伸させる量は弾性体膜5の弾性限によるため比較的大きくでき、巻回部を形成させるための条件を調整しやすい。
【0024】
なお、同図(d)に示すように、治具11に荷重を与えていない状態から、治具11の2つを互いに離間する方向に荷重を与えると、治具11による短辺の拘束があるため、同図(c)に示すように巻回部R1及びR1を広げて薄膜基板2の全体を平坦とする。また、うねり3は小さくなり、十分に荷重を与えると消失する。
【0025】
[第2の製造方法]
図5に示すように、他の製造方法によってもスクロール形状を有する回路基板1を得ることができる。
【0026】
まず、同図(a)に示すように、長方形の弾性体膜5の上を覆うように伸張前回路層4’を付与した伸張前薄膜基板2’を用意する。このとき、弾性体膜5に荷重は付与されていない。そして、第1の製造方法と同様に、長方形の伸張前薄膜基板2’の対向する2つの短辺をそれぞれ幅方向に拘束するように、長手方向の両端部をそれぞれ治具11で固定する。
【0027】
次に、同図(b)に示すように、治具11によって伸張前薄膜基板2’の短辺を幅方向に拘束しながら2つの治具11を互いに離間させるように荷重を与え、伸張前薄膜基板2’を長手の一軸方向に伸張させるように変形させて薄膜基板2とする。このとき弾性体膜5は弾性変形をし、伸張前回路層4’は塑性変形により伸張して回路層4となる。なお、伸張前回路層4’は、伸張することで回路層4となるような寸法とされ、塑性変形によっても薄膜形状を維持できる材料を用いて形成される。伸張前回路層4’の材料としては、例えば、パリレンを好適に用い得る。また、伸張前回路層4’の導電性回路部分に用いられる材料としても、伸張前薄膜基板2’の変形に追従できるものが求められる。例えば、上記した、導電性高分子材料、発光弾性体材料、有機発光材料、液体金属材料、金、有機半導体材料などを好適に用い得る。
【0028】
最後に、同図(c)に示すように、治具11に与えた荷重を解除すると、治具11に拘束されない薄膜基板2の長手方向の中央部分において巻回部R1及びR2が形成される。巻回部R1及びR2は、長方形の弾性体膜5の対向する2辺(長辺)から薄膜基板2の弾性体膜5を外側にするようにして互いに逆回りに巻回され、スクロール形状を得る。また、回路層4の表面には、弾性体膜5の長辺に沿ってうねり3が形成される。このようにして、回路基板1を得ることができる。
【0029】
また、同図(c)に示すように、治具11に荷重を与えていない状態から、治具11の2つを互いに離間する方向に荷重を与えると、同図(b)に示すように、薄膜基板2は伸張される。このとき、治具11による短辺の拘束があるため、巻回部R1及びR1を広げて薄膜基板2の全体を平坦とする。また、うねり3は小さくなり、十分に荷重を与えると消失する。
【0030】
このような製造方向においては、塑性変形させる量は伸張前回路層4’の塑性変形能によるため、上記した第1の製造方法に比較して小さくなる傾向にある。一方、伸張前回路層4’を付与するときに治具11への荷重を要さず、製造が容易である。
【0031】
[第3の製造方法]
図6に示すように、例えば、1mを超えるような長さを有する回路基板1を製造することもできる。
【0032】
まず、同図(a)に示すように、円盤状の基台の表面に剥離剤を成膜し、その上に第2の製造方法と同様の伸張前薄膜基板2’を成膜する。さらに、伸張前薄膜基板2’に渦巻き状の切れ込みをいれた。
【0033】
ここでは、基台として直径8インチのシリコンウエハを用い、剥離剤としてCytop 809Mをスピンコートにより成膜した。また、伸張前薄膜基板2’の弾性体膜5として、Sylgard184の主剤と硬化剤を5:1で混合し、約50μmの厚さで塗布して硬化させた。さらに、伸張前薄膜基板2’の伸張前回路層4’として、パリレンCを4μmの厚さで成膜した。また、渦巻き状の切れ込みの幅は約5mmとした。
【0034】
次に、同図(b)に示すように、外周側から伸張前薄膜基板2’の一部を剥離させ、引っ張り荷重を付与して延伸させる。延伸させた部分の荷重を解除すると、剥離・延伸させた部分において薄膜基板2に巻回部R1及びR2を形成しスクロール形状を有する回路基板1となる。ここでは、伸張前薄膜基板2’の長さ3cm程度を剥離させ、5cm程度の長さまで延伸させて薄膜基板2とし、荷重を解除した。
【0035】
さらに、同図(c)に示すように、剥離・延伸を渦巻きの外側から、順次、繰り返して行い、長く連続したスクロール形状を有する回路基板1を得た。
【0036】
以上のように、薄膜基板2を巻回させる構造により、小型且つ軽量であることを損なわず、巻き軸方向(長さ方向)への伸縮性を有し得る回路基板1を得ることができる。また、このような回路基板1は、ワイヤ状で長さ方向への伸縮性を有するため、ストレッチャブルデバイスへの適用に好適であり、比較的簡便に得られる。
【0037】
次に、上記した第2の製造方法による回路基板の製造を実際に行った結果について、図7乃至図9を用いて説明する。
【0038】
[第1製造試験]
上記した第2の製造方法と同様の製造方法によって薄膜基板2を製造したときに、スクロール形状を有するワイヤ状の回路基板1を得られるか、複数の製造条件で確認した。
【0039】
まず、図7に示すように、治具11間の初期長さL、幅Wの長方形の伸張前薄膜基板2’を用意した。つまり、弾性体膜5とその上を覆う伸張前回路層4’を付与した伸張前薄膜基板2’の両短辺を治具11で拘束した。なお、弾性体膜5は、Sylgard(登録商標) 184 Erastomer kit(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社製)を用い、主剤:硬化剤を5:1の割合で混合して厚さ55μmに成膜して得た。また、伸張前回路層4’としては、弾性体膜5の上にParylene C(PARYLENEは登録商標)を4μmの厚さに成膜して得た。
【0040】
次に、治具11の2つを互いに離間させるように荷重を付与し、治具11間の距離が初期長さLの1.8倍となるまで伸張前薄膜基板2’を伸張させ、伸張前回路層4’を塑性変形させ、薄膜基板2(図5(b)参照)を得た。さらに、治具11間を離間させた荷重を解除し、薄膜基板2がスクロール形状を呈するかを観察した。
【0041】
図8には、観察した結果を示した。ここでは、「〇」がスクロール形状を呈したものであり、「×」はスクロール形状を得られなかったものである。スクロール形状を呈する幅と初期長さとの組み合わせに条件のあることが判る。
【0042】
[第2製造試験]
上記した第2の製造方法と同様の製造方法によってスクロール形状を有する回路基板1を製造したときのスクロール形状部分の幅(スクロール幅)を測定した。
【0043】
図9には、弾性体膜5の厚さ、伸張前回路層4’の厚さ、伸張前薄膜基板2’の長さ及び幅、伸張前薄膜基板2’を伸張させる割合(最大歪)を変化させたときのスクロール幅を示した。なお、最大歪 εは、初期長さ Lに対し、全長がL×(1+ε/100%)となるまで伸張させたことを示す。例えば、最大歪 εが100%の場合は、初期長さ Lに対し、伸張させたときの寸法を2×Lとするのである。
【0044】
No.1~27については、以下の条件とした。弾性体膜5は、上記と同じくSylgard 184 Erastomer kitを主剤:硬化剤を5:1の割合で混合し、ヤング率を1.37MPaとした。また、伸張前回路層4’は、上記と同じくParylene Cを厚さ4μmとして用いた。なお、伸張前回路層4’のヤング率は1.8GPaである。
【0045】
No.28、29は、弾性体膜5を混合材料とし、伸張前薄膜基板2’を複層にした場合の例である。弾性体膜5は、Sylgard 184 Erastomer kitの主剤(a)、硬化剤(b)と、Ecoflex 00-30(Smoothon社製)のA剤(c)、B剤(d)を混合した。混合比率は(a):(b):(c):(d)=40:1:82:82とした。なお、ヤング率は86kPaであった。また、伸張前薄膜基板2’は、Parylene C→diX-SR(diXは登録商標:KISCO株式会社製)→Parylene C→Cytop 809M(Cytopは登録商標:AGC化学品カンパニー製)の四層構造とした。Paryleneは、2層ともに厚さ0.2μmとし、ヤング率は1.8GPaであった。diX-SRは、No.28において厚さ1μm、No.29において厚さ0.8μmとし、ヤング率は4.0GPaであった。Cytop 809Mは、厚さ0.3μmとし、ヤング率は1.3GPaであった。
【0046】
これらに示すように、種々の条件においてスクロール形状を有する回路基板1を製造することができた。伸張前薄膜基板の厚さが薄く、伸張前薄膜基板の幅Wが小さく、最大歪εが大きいものほどスクロール幅が小さくなる傾向にあった。
【0047】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0048】
1 回路基板
2 薄膜基板
2’伸張前薄膜基板
3 うねり
4 回路層
4’伸張前回路層
5 弾性体膜
11 治具
R1、R2 巻回部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9