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特開2024-30725薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤
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  • 特開-薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030725
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20240229BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133803
(22)【出願日】2022-08-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】三木 彩楓
(72)【発明者】
【氏名】小林 文香
(72)【発明者】
【氏名】森岡 俊文
(72)【発明者】
【氏名】吉村 延能
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076BB01
4C076DD29
4C076EE06
4C076FF36
(57)【要約】
【課題】良好な薬物溶出性を示し、さらに長期間保管したとしても、高い溶出率を維持することができる保存安定性に優れる薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤の提供。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂と薬物を含有し、さらに固体粒子を含有する薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂と薬物を含有し、さらに固体粒子を含有する薬物含有ファイバー。
【請求項2】
前記固体粒子の含有量がポリビニルアルコール系樹脂100重量%に対して0.0150重量%である請求項1に記載の薬物含有ファイバー。
【請求項3】
前記固体粒子の含有量が、薬物含有ファイバー全体に対して20重量%以下である請求項1または2に記載の薬物含有ファイバー。
【請求項4】
前記固体粒子が、無機微粒子である請求項1または2に記載の薬物含有ファイバー。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、75~99.9モル%である請求項1または2に記載の薬物含有ファイバー。
【請求項6】
請求項1または2に記載の薬物含有ファイバーからなる経口製剤。
【請求項7】
請求項4に記載の薬物含有ファイバーからなる経口製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂と薬物、さらに固体粒子を含有する薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与用などの各種製剤の設計において、薬物の生物学的利用能(Bioavailability)を十分高く設計することが、薬物の有効性、安全性の面から重要視されている。
医薬品の生物学的利用能に影響を与える重要な因子の1つとして、薬物の溶解性が挙げられ、これまでにも溶解性と消化管吸収性との関係について多くの研究が行われている。特に難溶性薬物では、その溶解速度が吸収の律速段階となることが知られている。
【0003】
難溶性薬物の溶解性を改善するための製剤方法としては種々の方法が知られており、具体的には、固体分散体を用いた方法があり、製造方法として溶媒法、溶融法及び混合粉砕法(メカノケミカル法)等があるが、近年はナノファイバー化した製剤が検討されている。
ナノファイバー化した製剤として、例えばポリビニルアルコール系樹脂と非晶状態の薬物とを含有することを特徴とする薬物含有ファイバー使用する方法(特許文献1)がある。
しかしながら、特許文献1の技術では、薬物の溶出率に改善の余地があり、生物学的利用能を十分高く設計できてはいなかった。
そこで、特許文献2ではより薬物の溶出率を向上させる方法として、ポリビニルアルコール系樹脂と界面活性剤と薬物を含有するファイバーであり、含有された薬物がナノ結晶状態である薬物含有ファイバーが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献2のように界面活性剤を含有した薬物含有ファイバーは、保存安定性が悪く、長期間保存すると溶出率が低下してしまうという問題が生じることを本発明者らは発見した。
そのため、長期間保管したとしても、高い溶出率を維持することができる良好な溶出性の薬物含有ファイバーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-88552号公報
【特許文献2】特開2022-81718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、良好な薬物溶出性を示し、さらに保存安定性に優れる薬物含有ファイバー、およびそのファイバーからなる経口製剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系樹脂と固体粒子、及び薬物を含有する薬物含有ファイバーを用いることにより、薬物の非晶質状態が維持され、良好な薬物溶出性、および保存安定性の薬物ファイバーが得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明の要旨は、以下の[1]~[6]である。
[1]ポリビニルアルコール系樹脂と薬物を含有し、さらに固体粒子を含有する薬物含有ファイバー。
[2] 前記固体粒子の含有量ポリビニルアルコール系樹脂100重量%に対して0.01~50重量%である[1]に記載の薬物含有ファイバー。
[3]前記固体粒子の含有量が、薬物含有ファイバー全体に対して20重量%以下である[1]または[2]に記載の薬物含有ファイバー。
[4]前記固体粒子が、無機微粒子である[1]から[3]のいずれかに記載の薬物含有ファイバー。
[5]前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、75~99.9モル%である[1]から[4]のいずれかに記載の薬物含有ファイバー。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の薬物含有ファイバーからなる経口製剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の薬物含有ファイバーによれば、薬物の溶出性に優れ、かつ保存安定性の良好な薬物含有ファイバー、および薬物含有ファイバーからなる経口製剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1および2、比較例1および2の溶出率の結果を示すチャートである。
図2】実施例2の保存安定性の結果を示すチャートである。
図3】実施例2のDSCの結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0012】
本発明の薬物含有ファイバーは、ポリビニルアルコール系樹脂と固体粒子、及び薬物とを含有する。まず、ポリビニルアルコール系樹脂(以下「PVA系樹脂」ともいう。)について説明する。
【0013】
<PVA系樹脂>
本発明のPVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系重合体をケン化して得られる樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残ったビニルエステル構造単位から構成される。
【0014】
本発明に使用されるPVA系樹脂のケン化度の下限は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは83モル%以上、特に好ましくは85モル%以上である。上限としては、好ましくは99.9モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは93モル%以下、特に好ましくは90モル%以下である。PVA系樹脂のケン化度が高すぎても低すぎても、本発明の効果が得られ難くなる傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求められた値とする。
【0015】
本発明に使用されるPVA系樹脂の平均重合度の下限は、好ましくは300以上であり、より好ましくは400以上、更に好ましくは500以上、特に好ましくは600以上である。上限としては、好ましくは4000以下、より好ましくは3500以下、更に好ましくは3000以下である。
PVA系樹脂の平均重合度が低すぎると、薬物含有ファイバーの強度が不足し使用時の安定性が低下する傾向があり、平均重合度が高すぎると、水溶液粘度が高くなり薬物含有ファイバーが形成し難い傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。
【0016】
PVA系樹脂は、2種以上を併用することも可能である。併用する際には、ケン化度や平均重合度、ブロック性の異なるPVA系樹脂を併用することができる。
【0017】
本発明に使用されるPVA系樹脂の製造方法を詳しく説明する。
PVA系樹脂は、例えば、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をケン化することにより得られる。
かかるビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、実用的に酢酸ビニルが好適である。
【0018】
また、本発明の効果を阻害しない程度に、上記ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーを共重合させることもできる。このような共重合モノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類及びその塩;モノ
エステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類及びその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン
、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等が挙げられる。かかる共重合モノマーの含有量は、重合体全量を基準として、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0019】
上記ビニルエステル系モノマー及び共重合モノマーを重合する方法としては特に制限はなく、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又は乳化重合などの公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0020】
かかる重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的にはメタノールが好適に使用される。
【0021】
また、重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。また、反応温度は35℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0022】
得られたポリビニルエステル系重合体は、次いで連続式又はバッチ式にてケン化される。かかるケン化にあたっては、アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的には重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下で行うことが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の重合体の濃度は20~60重量%の範囲から選ばれる。また、必要に応じて、0.3~10重量%程度の水を加えてもよく、更には、酢酸メチル等の各種エステル類やベンゼン、ヘキサン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種溶剤類を添加してもよい。
【0023】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を具体的に挙げることができる。かかる触媒の使用量はモノマーに対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0024】
PVA系樹脂のケン化度は、ケン化触媒量、ケン化時間、ケン化溶媒、ケン化温度により調整することができる。
【0025】
ケン化後、得られたPVA系樹脂を洗浄液で洗浄することが好ましい。洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。
【0026】
洗浄方法としては、連続式(回転円筒型、向流接触型、遠心分離ふりかけ洗浄など)でもよいが、通常はバッチ式が採用される。洗浄時の撹拌方式(装置)としては、スクリュー翼、リボンブレンダー、ニーダー等が挙げられる。浴比(洗浄液の重量/ポリビニルエステル系重合体粒子の重量)は、通常、1以上であり特に2以上、30以下であり特に20以下が好ましい。浴比が大きすぎると、大きな洗浄装置が必要となり、コスト増につながる傾向があり、浴比が小さすぎると、洗浄効果が低下し、洗浄回数を増加させる傾向がある。
【0027】
洗浄時の温度は、通常下限としては10℃以上であり、特に20℃以上が好ましい。上限としては80℃以下であり、特に70℃以下が好ましい。温度が高すぎると、洗浄液の揮発量が多くなり、還流設備を必要とする傾向がある。また温度が低すぎると、洗浄効率が低下する傾向がある。洗浄時間は、通常、下限としては5分以上であり、特に30分以上が好ましい。上限としては、12時間以下であり、特に4時間以下が好ましい。洗浄時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、洗浄時間が短すぎると、洗浄が不十分となる傾向がある。また、洗浄回数は、通常、下限としては1回以上である。上限としては、10回以下、特に5回以下が好ましい。洗浄回数が多すぎると、生産性が低下し、コストがかかる傾向がある。
【0028】
洗浄されたPVA系樹脂の粒子を連続式又はバッチ式にて熱風などで乾燥し、本発明で用いられるPVA系樹脂を粉末状で得る。乾燥温度は、通常、下限としては50℃以上であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である。上限としては、150℃以下であり、好ましくは130℃以下、より好ましくは110℃以下である。乾燥温度が高すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。乾燥時間は、通常、下限としては1時間以上であり、好ましくは2時間以上である。上限としては、48時間以下であり、好ましくは36時間以下である。乾燥時間が長すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。
【0029】
乾燥後のPVA系樹脂中に含まれる溶媒の含有量は、通常、下限としては0重量%以上であり、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。上限としては、10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0030】
なお、PVA系樹脂には、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が通常は含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、PVA系樹脂粉末に対して通常、下限としては0.001重量%以上、好ましくは0.005重量%以上、好ましくは0.01重量%以上である。上限としては、2重量%以下、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下である。
アルカリ金属塩の含有量の調整方法としては、例えば、ケン化で用いる時のアルカリ触媒の量を調節する方法や、エタノールやメタノールなどのアルコールでPVA系樹脂を洗浄する方法が挙げられる。
本発明で用いるアルカリ金属塩の定量法としては、PVA系樹脂粉末を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定を行い求める方法が挙げられる。
【0031】
<固体粒子>
本発明の薬物含有ファイバーは、固体粒子を含む。固体粒子の種類は特に限定されないが、例えば有機微粒子または無機微粒子を挙げることができ、いずれを使用してもよいが、無機微粒子がより好適に使用できる。
これらの固体粒子は、有機、無機やその種類に関わらず任意の組合せで使用することができる。
また本発明の薬物含有ファイバーは、良好な溶出性、および保存安定性を示す。その理由としては定かではないが、固体粒子を含むことで、薬物含有ファイバーの吸湿を抑制することが可能となるためであると考えられる。
【0032】
前記有機微粒子としては、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂微粒子、アクリルスチレン系樹脂微粒子、ポリメチルメタクリレート樹脂微粒子、シリコン系樹脂微粒子、ポリスチレン系樹脂微粒子、ポリカーボネート樹脂微粒子、ベンゾグアナミン系樹脂微粒子、メラミン系樹脂微粒子、ポリオレフィン系樹脂微粒子、ポリエステル系樹脂微粒子、ポリアミド系樹脂微粒子、ポリイミド系樹脂微粒子、セルロースエステル系樹脂等を挙げることができる。なかでもポリスチレン系樹脂微粒子が好ましい。これらの有機微粒子は、複数の種類を混合して用いても良い。
【0033】
前記無機微粒子としては、例えば、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素などのナノシリカ、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。これらの無機微粒子は、複数の種類を混合して用いても良い。
また、無機微粒子のなかでもナノシリカが好適に使用することができ、ナノシリカとしては親水性ナノシリカと疎水性ナノシリカがあるが、特に親水性ナノシリカがファイバーの濡れ性が向上し、溶出性が改善する点から好ましい。これらの無機微粒子は、複数の種類を混合して用いても良い。
【0034】
親水性ナノシリカとしては例えば、AEROSIL50、AEROSIL90G、AEROSIL130、AEROSIL200、AEROSIL200CF、AEROSIL200V、AEROSIL 200 FAD、AEROSIL 300、AEROSIL 300 CF、AEROSIL OX 50、AEROSIL TT 600、AEROSIL MOX80、AEROSIL MOX170、AEROSIL COK84、AEROSIL Alu C、AEROSIL Alu 65、AEROSIL Alu130など(日本アエロジル株式会社)が挙げられる。
【0035】
疎水性ナノシリカとしては、例えば、AEROSIL R 972、AEROSIL R 972 CF、AEROSIL R 972 V、AEROSIL R 974、AEROSIL R 976、AEROSIL R 976 S、AEROSIL RX 50、AEROSIL NAX 50、AEROSIL NX 90G、AEROSIL NX130、AEROSIL RX200、AEROSIL RX300、AEROSIL R 812、AEROSIL R 8200、AEROSIL RY50、AEROSIL RY51、AEROSIL NY50、AEROSIL NY50L、AEROSIL RY200S、AEROSIL RY200、AEROSIL NA50H、AEROSIL NA50Y、AEROSIL R504、AEROSIL RY200HS、AEROSIL REA90、AEROSIL REA200、AEROSIL RY200L、AEROSIL RY300、AEROSIL R202、AEROSIL RY805、AEROSIL RM50、AEROSIL RY711、AEROSIL RY7200など(日本アエロジル株式会社)が挙げられる。
【0036】
その他、SYLOPHOBIC 100、SYLYSIA 320、SYLYSIA 350、SYLOSPHERE C―1504、SYLOSPHERE C-1510、SYLOPURE 25、SYLOPURE 30、SYLOPURE 35、SYLOPURE 39、SYLOPURE 40、SYLOPURE 50、SYLOPURE 60、SYLOPURE 65、SYLOPURE P100(富士シリア株式会社)等のナノシリカを使用することができる。
【0037】
本発明における固体粒子の含有量としては、薬物含有ファイバー中、上限としては20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、5重量%以下が特に好ましい。また、下限としては、0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。
固体粒子の含有量が多すぎても少なすぎても、分散液が泡立ち均一な薬物含有ファイバーが得られなくなるため好ましくない。なお、薬物含有ファイバーは後述するが、PVA系樹脂を分散させた分散液(エマルジョン)から得ることができるが、得られる薬物含有ファイバー中に溶媒はほぼ残存していないと考えられる。
【0038】
本発明における固体粒子の含有量としては、固体粒子の種類や粒径、物性などにより異なるが、PVA系樹脂100重量%に対して下限としては、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。また、上限としては、50重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、5重量%以下が特に好ましい。
固体粒子の含有量が少なすぎると、固体粒子に由来する効果を得ることができず、固体粒子の含有量が多すぎる場合、薬物が結晶化してしまい溶出性が低下する傾向になるため好ましくない。
【0039】
本発明における固体粒子の粒子径としては、0.01~10000nmが好ましく、0.1~1000nmがより好ましく、1~100nmがさらに好ましい。
固体粒子が上記の範囲を満たすことで、エマルジョンが小粒径化し、得られる薬物含有ファイバーの単繊維の直径(繊維径)も小さくなるため溶出性が向上する傾向にあり好ましい。
【0040】
<薬物>
本発明における薬物としては、医薬品の有効成分として使用されるものであれば特に限定されないが、本発明の効果をより明白なものとするためには、難溶性薬物が好ましい。
【0041】
難溶性薬物とは、第十七改正日本薬局方に記載された水に「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」、「ほとんど溶けない」に当てはまる薬物をいう。具体的には、固形の医薬品1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、「溶けにくい」とは、100mL以上1000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「極めて溶けにくい」とは、同様に1000mL以上10000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「ほとんど溶けない」とは、同様に30分以内に溶けるために10000mL以上要するものをいう。
【0042】
本発明における難溶性薬物としては、例えば、プロブコール、バルサルタン、シンバスタチン、ランソプラゾール、オランザピン、オメプラゾール、エゼチミブ、リスペリドン、ピオグリタゾン、アリピプラゾール、カンデサルタンシレキセチル、イルベサルタン、ドセタキセル、セレコキシブ、オルメサルタンメドキソミル、エファビレンツ、フェノフィブラート、シプロフロキサシン、テルミサルタン、タクロリムス、モメタゾンフランカルボン酸エステル、ミコフェノール酸モフェチル、ラタノプロスト、レボチロキシンナトリウム、クラリスロマイシン、リトナビル、シクロスポリン、ニフェジピン、パクリタキセル、タダラフィル、デキサメタゾン、ビカルタミド、カルベジロール、ジプラシドン、フィナステリド、グリメピリド、レトロゾール、ロラタジン、ナプロキセン、デュタステリド、ジピリダモール、クロトリマゾール、オキシカルバゼピン、パリカルシトール、フェロジピン、カルシポトリオール、メロキシカム、セフィキシム、エンタカポン、イソトレチノイン、グリクラジド、ウルソデオキシコール酸、ジオスミン、フロセミド、オルリスタット、シロスタゾール、イトラコナゾール、グリベンクラミド、硝酸イソソルビド、ボセンタン、スピロノラクトン、セフジニル、ロラゼパム、メタキサロン、ケトコナゾール、メトトレキセート、エキセメスタン、ネビボロール、イミキモド、エトリコキシブ、レバミピド、アルファカルシドール、トレチノイン、ソラフェニブトシル酸塩、ジアゼパム、クロナゼパム、ロバスタチン、フェニトイン、ネビラピン、パリペリドン、プランルカスト、ビサコジル、カルシトリオール、シロリムス、アトバコン、ブロマゼパム、レフルノミド、アミスルプリド、ナテグリニド、ゾピクロン、ニセルゴリン、セフジトレンピボキシル、モサプリド、ヒドロキシジン、アプレピタント、メゲストロール、トラセミド、スルファサラジン、エプロサルタン、クロルタリドン、グリピジド、アセクロフェナク、ミコフェノール酸、エトドラク、フェルビナク、ピロキシカム、ルビプロストン、メフェナム酸、ジアセレイン、プログアニル、ハロペリドール、タモキシフェンクエン酸塩、ニモジピン、ツロブテロール、ノルフロキサシン、ピメクロリムス、エノキソロン、ロキシスロマイシン、エプラレスタット、ベザフィブラート、リファキシミン、スルピリド、アシトレチン、スピラマイシン、シルニジピン、ジドロゲステロン、ブロチゾラム、ニソルジピン、マニジピン、ノスカピン、ポサコナゾール、マキサカルシトール、ジフルコルトロン、ベルテポルフィン、スルファジアジン、ラバチニブ、ロルメタゼパム、エチゾラム、クレマスチン、ナブメトン、ロルノキシカム、エストリオール、シネパゼド、フルオロメトロン、ユビデカレノン、トリアゾラム、アルベンダゾール、レボカバスチン、コレスチラミン、ブロモクリプチン、ミトタン、イブプロフェン、インドメタシン、フルタミド、ゲフィチニブ、ラマトロバン、ラフチジン、ピモベンダン、セラトロダスト、アゼルニジピン、エベロリムス、メキタジン、ミトタン、ザフィルルカスト、アンピロキシカム、エバスチン、モサプリドクエン酸塩などが挙げられる。なお、難溶性薬物はこれらに限定されず、今後新規に見いだされる医薬合成物も含まれる。
【0043】
本発明における難溶性薬物は、無水物、水和物、溶媒和物、医薬品に許容される塩の形態のいずれをも用いることができる。原料として用いる難溶性薬物の形態は特に限定されず、結晶、非晶質のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。結晶としては公知の結晶多形のうち、いずれでもよい。本発明の薬物含有ファイバーにおいては、PVA系樹脂と混合する前の薬物が結晶か非晶質かに関わらず、非晶状態の薬物となる点が特徴である。
なお、非晶状態とは、示差走査熱量測定により、融解温度付近で吸熱のピークが確認されない状態を指す。
【0044】
<薬物含有ファイバー>
本発明の薬物含有ファイバーは、PVA系樹脂と薬物と固体粒子を少なくとも含有する形成材料を紡糸して繊維状に成形したファイバーである。
本発明の薬物含有ファイバーは、単繊維の直径(繊維径)の下限が好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは10nm以上であり、上限が10μm以下、より好ましくは2000nm以下、特に好ましくは1000nm以下であり、殊に好ましくは700nm以下である。
繊維径が太すぎると、薬物が非晶状態となり難くなり、薬物の溶出性が低下する傾向がある。また、繊維径が細すぎると、十分な強度が発揮され難くなり、使用時のハンドリング等の問題が生じたり、生産効率が低下したりする傾向がある。
繊維径を太く設定すれば、薬物の放出時間が長くなり、逆に細く設定すれば、放出時間を短くすることができるため、薬物の放出コントロールが可能である。なお、薬物含有ファイバーの繊維径は電子顕微鏡を用いて測定される。
【0045】
薬物含有ファイバーの平均繊維長は、特に限定されないが、取り扱い易さの点から、好ましくは直径の10倍以上、好ましくは100倍以上、より好ましくは1000倍以上である。また薬物含有ファイバーは連続繊維であることがより好ましい。
【0046】
上記形成材料におけるPVA系樹脂と薬物との配合比率は、薬物の物性により異なるが、PVA系樹脂:薬物の配合比率(重量比)が、1:100~5000:100が好ましく、10:100~2500:100がより好ましく、50:100~1000:100がさらに好ましく、100:100~500:100が特に好ましい。
【0047】
上記形成材料における固体粒子と薬物との配合比率は、薬物の物性により異なるが、固体粒子:薬物(重量比)としては、0.1:100~500:100が好ましく、0.5:100~100:100がより好ましく、1:100~50:100がさらに好ましく、1:100~20:100が特に好ましい。
【0048】
また形成材料を紡糸し易くするために、紡糸する際のPVA水溶液の粘度を通常1mPa・s以上に調整することが好ましく、より好ましくは10mPa・s以上、特に好ましくは100mPa・s以上に調整するとよい。また、10000mPa・s以下に調整することが好ましく、より好ましくは5000mPa・s以下、特に好ましくは3000mPa・s以下に調整するとよい。
なお、PVA系樹脂水溶液の粘度はブルックフィールド粘度計により測定される。
【0049】
上記成形材料は、PVA系樹脂に加えて、他の水溶性または水分散性樹脂を併用することも可能である。併用が可能な水溶性または水分散性樹脂としては、例えば、デンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン等のデンプン誘導体;ゼラチン、カゼイン等の天然系たんぱく質類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体;アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸等の天然高分子多糖類;ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩等の水溶性樹脂;スチレン・ブタジエンゴム(SBR)ラテックス、ニトリルゴム(N
BR)ラテックスのラテックス類;酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル樹脂系エマルジョン、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン等のエマルジョン類などが挙げられる。
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0050】
また、上記形成材料には、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を配合することができる。このアルカリ金属塩としては、例えば、有機酸や無機酸のカリウム塩やナトリウム塩などが挙げられ、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸などが挙げられ、無機酸としては、例えば、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸などが挙げられる。またアルカリ土類金属塩としては、例えば、有機酸や無機酸のカルシウム塩やマグネシウムなどが挙げられ、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸などが挙げられ、無機酸としては、例えば、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸などが挙げられる。
【0051】
上記形成材料には、上記以外の成分としては、例えば、可塑剤、滑剤、顔料分散剤、増粘剤、膠着防止剤、流動性改良剤、消泡剤、離型剤、浸透剤、染料、顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、紙力増強剤、架橋剤等の周知の添加剤を適宜配合することができる。
【0052】
〔薬物含有ファイバーの製造方法〕
本発明の薬物含有ファイバーは、各種形態の経口製剤として使用することができるが、取り扱い易さの点から、シート状に形成することが好ましく、例えば、薬物含有ファイバーから不織布を形成することが好ましい。以下、薬物含有ファイバーから不織布(以下「ファイバー不織布」ともいう。)を形成する方法について説明する。
【0053】
(ファイバー不織布の製造)
ファイバー不織布は、固体粒子を含み、PVA系樹脂溶媒に溶解させた含固体粒子PVA系樹脂溶解液を分散剤とし、薬物を含有する溶液を分散質として得られた分散液を形成材料として、この分散液をエレクトロスピニング法(静電紡糸法)またはメルトブロー法に適用することにより得られる。
含固体粒子PVA系樹脂溶解液を調整する方法としては、特に限定されず、溶媒中にPVA系樹脂を溶解させた後に固体粒子を添加し溶解させる方法、PVA系樹脂と固体粒子を溶媒中に添加後溶解させる方法、溶媒に固体粒子を添加した後にPVA系樹脂を溶解させる方法などが挙げられる。
また、薬物が難溶性薬物の場合は、当該薬物が溶解する溶媒に溶解した後に含固体粒子PVA系樹脂と混合することが好ましい。
この場合の溶媒は、薬物が溶解する必要があるが、エマルジョン状態とするために、水とは混和しない溶媒が好ましい。また、繊維状とする際に沸点が水と同程度又は水よりも低いほうが好ましい。
かかる溶媒としては、例えば、アニソール、1-ブタノール、酢酸n-ブチル、酢酸エチル、ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、3-メチル-1-ブタノール、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-プロパノール、ペンタン、酢酸プロピルなどが挙げられる。
また、溶媒は使用する薬物に適した溶媒が用いられる。例えば、薬物としてプロブコールを用いる場合では、酢酸エチルで溶解することが好ましい。
【0054】
PVA系樹脂を溶解させる溶媒としては、例えば、水、アルコール類、その他の有機溶媒を用いることができる。これらの中でも製造環境上の問題を考慮すると、水を用いることが好ましい。
PVA系樹脂、固体粒子と薬物を含有する分散液を調製するに際しては、ホモジナイザ-を用いることが好ましく、高圧式ホモジナイザ―、超音波ホモジナイザ―、超高速ホモジナイザーのいずれをも使用することができる。
【0055】
本発明の薬物含有ファイバーの製造方法としては、紡糸ノズルを使用するエレクトロスピニング法、紡糸ノズルを使用しないエレクトロスピニング法、メルトブロー法等公知の方法が挙げられ、いずれも方法も用いることが可能であるが、本発明では紡糸ノズルを使用するエレクトロスピニング法を採用している。
【0056】
紡糸ノズルを使用するエレクトロスピニング法について細述する。
紡糸ノズルを使用するエレクトロスピニング法を用いて、例えば、次のようにしてファイバー不織布を得ることができる。上記ファイバー不織布は、上記分散液を紡糸ノズルから押し出す際に、紡糸ノズル側に高電圧を印加し、分散液に電界を作用させることにより延伸してファイバー化し、対向電極側にファイバーを堆積させることにより得られる。なお、紡糸ノズル側ではなく対向電極側に電圧を印加し、紡糸ノズルとの間に電界を作用させてもよい。
【0057】
上記分散液におけるPVA系樹脂の濃度は特に限定されないが、下限としては、0.5重量%以上が好ましく、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上である。上限としては、40重量%以下が好ましく、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。
【0058】
上記分散液における固体粒子の濃度は特に限定されないが、下限としては、0.001重量%以上が好ましく、より好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.05重量%以上である。上限としては、10重量%以下が好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。
【0059】
この分散液の押し出し方向は、特に限定されないが、分散液の滴下が生じにくいように、ノズルからの押し出し方向と重力の作用方向とが一致しないことが好ましい。特には、重力の作用方向に対して反対方向または重力の作用方向に対して直角方向に分散液を押し出すことが好ましい。
【0060】
この分散液を押し出す紡糸ノズルの直径(内径)は、繊維径によって変化するが、例えば繊維径1nm以上1000nm以下のファイバーを形成する場合には、紡糸ノズルの直径の下限が通常0.1mm以上、特には0.5mm以上であり、上限としては5mm以下、特には2mm以下であることが好ましい。直径が大きすぎると、液だれが多く、エレクトロスピニングが困難な傾向があり、逆に、直径が小さすぎると、分散液を押し出しにくく、生産性が低下する傾向がある。
【0061】
また、紡糸ノズルは金属製であっても、非金属製であってもよい。紡糸ノズルが金属製であれば紡糸ノズルを一方の電極として使用することができ、紡糸ノズルが非金属製である場合には、紡糸ノズルの内部に電極を設置することにより、分散液に電界を作用させることができる。
【0062】
このような紡糸ノズルから分散液を押し出した後、押し出した分散液に電界を作用させることにより延伸して繊維化する。この電界は、ファイバーの繊維径、紡糸ノズルとファイバーを集積する捕集体との距離、分散液の粘度などによって変化するので特に限定されないが、本発明に係るファイバーとするには、0.2~5kV/cmであることが好ましい。印加する電界が大きければ、その電界値の増加に応じてファイバーの繊維径が細くなる傾向があるが、電界値が大きすぎると、空気の絶縁破壊が生じやすい傾向があり、逆に、小さすぎると、繊維形状となりにくい傾向がある。
【0063】
このように押し出した分散液に電界を作用させることにより、分散液に静電荷が蓄積され、捕集体側の電極によって電気的に引っ張られ、引き伸ばされて繊維化する。電気的に引き伸ばしているため、繊維が捕集体に近づくにしたがって、電界により繊維の速度が加速され、繊維径のより小さいPVA系樹脂繊維となる。また、溶媒の蒸発によって細くなり、静電気密度が高まり、その電気的反発力によって分裂し、更に繊維径の小さいPVA系樹脂繊維になり、ナノファイバーが得られると考えられる。
【0064】
このような電界は、例えば、紡糸ノズル(金属製ノズルの場合にはノズル自体、ガラスや樹脂などの非金属製ノズルの場合にはノズルの内部の電極)と捕集体との間に電位差を設けることによって、作用させることができる。例えば、紡糸ノズルに電圧を印加するとともに捕集体をアースすることによって電位差を設けることができるし、逆に、捕集体に電圧を印加するとともに紡糸ノズルをアースすることによって電位差を設けることもできる。
【0065】
上記印加電圧は、前述のような電界強度とすることができれば特に限定されないが、下限としては、1kV以上が好ましく、より好ましくは5kV以上、より好ましくは10kV以上であり、上限としては、30kV以下が好ましく、より好ましくは20kV以下ある。電圧が高すぎると、スパークが発生し、紡糸が困難になる傾向があり、逆に、電圧が低すぎても、溶解液を電気的に引っ張る力が不足し、紡糸が困難となる傾向がある。電圧印加装置としては、特に限定されないが、直流高電圧発生装置を使用できるほか、ヴァン・デ・グラフ起電機を用いることもできる。
【0066】
なお、印加電圧の極性は、プラスとマイナスのいずれであってもよい。しかしながら、繊維の広がりを抑制し、孔径が小さく、しかも孔径分布の狭い状態で集合できるように、紡糸ノズル側をプラス電位となるようにすることが好ましい。特に、電圧印加時のコロナ放電を抑制しやすいように、捕集体側の対向電極をアースし、紡糸ノズル側をプラスに印加して、紡糸ノズル側をプラス電位となるようにすることが好ましい。
【0067】
ファイバーを補集し、堆積させるための捕集体としては、特に限定されず、例えば、ドラム、不織布、平板、またはベルト形状を有し、金属製や炭素などからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料などが挙げられる。
捕集体は、上記のように導電性材料である必要はなく、捕集体よりも後方に対向電極を配置することができる。この場合、捕集体と対向電極とは接触していてもよいし、離間していてもよい。
【0068】
なお、このエレクトロスピニング法は、相対湿度が30%以上、特に35%以上が好ましく、80%以下、特には70%以下の雰囲気下で実施することが好ましい。相対湿度が低すぎると、紡糸ノズル出口での分散液の乾燥が速く、固化してノズルを閉塞してしまう傾向があり、相対湿度が高すぎると、逆に乾燥しにくくなり、繊維を形成しにくくなる傾向がある。
【0069】
上記相対湿度を保つため、紡糸ノズル及び捕集体を密閉容器の中に設置するとともに、バルブ等を介して、調湿した空気を送り込み、密閉容器内の湿度を前記範囲内に調節できるようにすることが好ましい。また、密閉容器内の圧力を上昇させないように、また分散液から揮発した溶媒を排出できるように、排気装置が密閉容器に接続されていることが好ましい。
【0070】
<経口製剤>
本発明の経口製剤は上記薬物含有ファイバーからなり、好ましくはファイバー不織布の形態をなす。
ファイバー不織布は、上記の捕集体とともに、又は捕集体から剥離して製剤として投与することができる。投与経路としては、口腔内投与や舌下投与が好ましい。なお、ファイバー不織布は、捕集体や他の層を含む積層体でもよい。
本発明の薬物含有ファイバーを用いたファイバー不織布は、固体粒子を含むことで含有される薬物の非晶状態を維持することかできるため、薬物の溶出性に優れ、さらに保存安定性も良好なため、高い溶出率を長期間維持することができる。したがって、本発明の薬物含有ファイバーは、薬物の有効性や安全性の面で優れている。
【実施例0071】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
<PVA系樹脂と固体粒子、薬物を含有する分散液の調製>
(製造例1)
精製水71.9重量部にポリビニルアルコール(PVA)8重量部(商品名GOHSENOLTM EG-40P ケン化度88モル% 三菱ケミカル社製)とシリカ(商品名Aerosil200、エボニック社製)を0.1重量部加えて加熱撹拌することで、10重量部に調整した混合溶液を得た。
混合溶液に、予め酢酸エチルに溶解させたプロブコール(PBC)溶液(PBC4重量部、酢酸エチル16重量部)を添加し、KINEMATICA社のポリトロンホモジナイザPT10/35で8000rpmで10分間撹拌し、分散液(製造例1)を調製した。
【0073】
(製造例2)
製造例1において、配合量を表1のとおりに変更した以外は同様にして分散液を調整した。
【0074】
(製造例3)
製造例1において、シリカを配合得せず、配合量を表1のとおりに変更した以外は同様にして分散液を調整した。
【0075】
(製造例4)
製造例1において、シリカの代わりに界面活性剤としてTween80を0.1重量部配合し、その他表1のとおりに配合量を変更した以外は同様にして分散液を調整した。
【0076】
【表1】
【0077】
〔薬物含有ファイバー不織布の調製〕
(実施例1)
製造例1の分散液を用いて、エレクトロスピニング法により薬物含有ファイバー不織布を調製した。使用したニードルの直径を22G、電極間の電圧を10kV、ニードル先端から捕集板までの距離を12cm、分散液の吐出速度を0.5ml/時とし、2時間の超極細ファイバー化を行い、捕集板上に不織布を形成して薬物含有ファイバー不織布(実施例1)を調製した。
【0078】
(実施例2、比較例1、2)
実施例1と同様にして、表1に示す組成で製造例2、比較例1、2の薬物含有ファイバー不織布を調製し、繊維径、溶出性について測定をおこなった。測定結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
〔繊維径〕
ナノファイバーの繊維径は、走査型電子顕微鏡(SM―6510LV、日本電子株式会社製)によって取得したSEM画像より算出した。なお、繊維径の算出には画像処理ソフト(ImageJTM、NIH)を用いた。
【0081】
〔溶出性の評価〕
実施例1、2および比較例1、2の分散液を用いて得られた薬物含有ファイバー不織布について、下記のとおり、溶出率を測定し、溶出性を評価した。
【0082】
第十七改正日本薬局方の溶出試験パドル法に準じ、0.1%Tween80水溶液900mlを溶出試験器用ガラスベッセルに仕込み37℃の温浴に浸した。続いて薬物5mg相当を含むファイバーを加え、回転速度50rpmで溶解させながら、経時的に水溶液を採取し、水溶液PBC濃度を測定した。なお、ファイバー不織布に含まれるPBC量は、ファイバー不織布1mg辺りに含まれるPBC量をHPLC測定することにより求めて算出している。採取した溶液を0.45μmのフィルターで篩過した後、表3に示す条件(ナカライテスク社製 COSMOSIL 5C18-MS―II 4.6 mmI.D. × 250使用)で、HPLC(日本分光社製)測定により定量して溶解濃度を求め、下記基準にしたがい溶出性を評価した。
○:2時間後の溶出率が45%超70%以下、かつ10時間後の溶出率が70%越100%以下。
△:2時間後の溶出率が25%超45%以下、かつ10時間後の溶出率が60%越100%以下。
×:2時間後の溶出率が40%未満、もしくは60%以上。
また、溶出率の結果を図1に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
〔保存安定性〕
実施例2の分散液を用いて得られた薬物含有ファイバー不織布を、40℃、75RH%の条件で4週間保管した。
薬物含有ファイバー不織布を作製した直後、および4週間保存後の溶出率、および結晶性を測定し、保存安定性を評価した。
結晶性は、示差走査熱量測定(パーキンエルマー社製、DSC8000)を使用し、測定レンジを25~250℃、昇温速度を10℃/minとして測定をおこなった。なお、比較対象として、PBC粉末についても結晶状態を確認した。
保存安定性を評価した際の溶出率測定の結果を図2に、保存安定性を評価した際の結晶性測定の結果を図3に示した。
【0085】
溶出性評価より、固体粒子を含む実施例1、および2は、界面活性剤(Tween80)を含む比較例1や、いずれも含まない比較例2よりも薬物の溶出性が優れる結果が得られた。
さらに、保存安定性の評価結果より、固体粒子を含む実施例2は、4週間後も薬物含有ファイバー不織布作製直後と同等の物性を示すことが確認できた。
【0086】
本発明の薬物含有ファイバーは、各種の製剤、特に口腔内投与や舌下投与などの経口製剤に好適に利用可能である。
図1
図2
図3