(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030766
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】熱伝導接合構造、熱伝導接合方法、該熱伝導接合構造を有するヒートシンク、並びに該熱伝導接合構造を有する半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133874
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】516319500
【氏名又は名称】株式会社ロータス・サーマル・ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】井手 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】村上 政明
(72)【発明者】
【氏名】沼田 富行
(72)【発明者】
【氏名】巽 裕章
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BA05
5F136BC07
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA32
5F136FA33
5F136FA34
(57)【要約】
【課題】半導体装置の接合構造に好適で、熱ひずみによる応力を緩和でき、接合部の破損や剥離を防止できるとともに、熱抵抗が小さく、部材間の熱伝導を通じた放熱性を高めることができ、また、部材間の積層方向に剛性が保てず、装置としての耐久性を維持でき、接合組み付けの際に、部材間の平行度を保つことができ、組み付け精度も高められる熱伝導接合技術を提供せんとする。
【解決手段】 ある部材9に密着して該部材9との間で熱伝導を行う接合層10からなる構造であり、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔111が形成される金属製の多孔ベース板11と、該多孔ベース板11の前記貫通孔111内に充填された充填部121、および該充填部に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだ膜122,123からなるはんだ固化体12とを備え、はんだ膜122により対面する部材9に密着して接合される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある部材に密着して該部材との間で熱伝導を行う接合層からなる熱伝導接合構造であって、
前記接合層は、
厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成される金属製の多孔ベース板と、
該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填された充填部、および該充填部に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだ膜からなるはんだ固化体とを備え、
前記はんだ膜が、対面する前記部材に密着して接合されている、
熱伝導接合構造。
【請求項2】
二部材の間に設けられて両部材を接合し、且つ二部材の一方から他方に熱を伝える接合層からなる熱伝導接合構造であって、
前記接合層は、
厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成され、二部材の間に介装される金属製の多孔ベース板と、
該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填された充填部、および該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜からなるはんだ固化体とを備え、
前記はんだ膜が、対面する二部材にそれぞれ密着して接合されている、
熱伝導接合構造。
【請求項3】
前記接合層を構成する多孔ベース板の前記貫通孔による空隙率が、30~80vol%である、請求項1又は2記載の熱伝導接合構造。
【請求項4】
ある部材に密着して該部材との間で熱伝導を行う接合層を設けてなる熱伝導接合方法であって、
前記接合層として、
厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成された金属製の多孔ベース板を設け、
はんだ材を、該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で固化させたはんだ固化体を設け、
前記はんだ膜が、対面する前記部材に密着して接合される、
熱伝導接合方法。
【請求項5】
二部材の間に、該二部材の一方から他方に熱を伝える接合層を設けて両部材を接合する熱伝導接合方法であって、
前記接合層として、
厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成された金属製の多孔ベース板を、二部材の間に介装するとともに、
はんだ材を、該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で固化させたはんだ固化体を設け、
前記はんだ膜が、対面する二部材にそれぞれ密着して接合される、
熱伝導接合方法。
【請求項6】
前記多孔ベース板の表裏一方又は双方の板面とこれに対面する前記部材との間に、前記はんだ材を介装し、
前記部材、前記多孔ベース板、および前記はんだ材を重ねた状態で加熱し、前記はんだ材を溶融させて、該はんだ材を多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で、冷却固化させることにより、前記はんだ固化体を形成してなる、
請求項4又は5記載の熱伝導接合方法。
【請求項7】
前記二部材、前記多孔ベース板、および前記はんだ材を上下方向に重ね、且つ前記多孔ベース板の上面側に前記はんだ材を配した状態で、前記加熱し、前記はんだ材を溶融させて、
該はんだ材の自重および上側の部材からの荷重により、前記貫通孔に落ち込み充填させるとともに、
前記貫通孔の下側の開口から漏出して多孔ベース板および下側の部材の間の隙間に広がり下側の板面上の前記はんだ膜を形成し、
前記貫通孔に落ち込まなかったはんだ材残部が上側の板面上の前記はんだ膜を形成する、
請求項6記載の熱伝導接合方法。
【請求項8】
請求項1記載の熱伝導接合構造を有するヒートシンクであって、
冷却対象物に当接される当接面を有し、該当接面を通じて冷却対象物の熱が伝達される、前記ある部材としての金属製の吸熱体と、
該吸熱体の前記当接面と反対側の面に板面の一部領域が接合された、前記多孔ベース板としての金属製の板状フィンとを備え、
前記板状フィンに、板面に開口する複数の貫通孔が形成されており、
前記板状フィンの前記一部領域に、該領域に形成されている貫通孔内に充填された前記充填部、および該充填部に連続して前記板面の上に広がる前記はんだ膜からなる前記はんだ固化体を有し、前記はんだ膜が対面する前記吸熱体に密着し、該吸熱体との間で熱伝導を行う前記接合層が形成され、
前記板状フィンの前記吸熱体の周囲に突出した残部領域の貫通孔を通じて、熱を外部に放熱する、
ヒートシンク。
【請求項9】
請求項2記載の熱伝導接合構造を有するヒートシンクであって、
冷却対象物に当接される当接面を有し、該当接面を通じて冷却対象物の熱が伝達される、前記二部材のうちの一方の部材としての金属製の吸熱体と、
該吸熱体の前記当接面と反対側の面に板面の一部領域が接合された、前記多孔ベース板としての金属製の第1の板状フィンと、
前記第1の板状フィンの前記板面と反対側の板面の前記一部領域に対応する領域に接合された、前記二部材のうちの他方の部材としての金属製の連結体と、
該連結体の前記第1の板状フィンに接合する面と反対側の面に、板面の一部領域が接合された金属製の第2の板状フィンとを備え、
前記第1の板状フィン及び第2の板状フィンに、それぞれ板面に開口する複数の貫通孔が形成されており、
前記第1の板状フィンの前記一部領域に、該領域に形成されている貫通孔内に充填された前記充填部、および該充填部に連続して両板面の上に広がる前記はんだ膜からなる前記はんだ固化体を有し、前記はんだ膜が対面する前記吸熱体および前記連結体にそれぞれ密着し、該吸熱体から連結体に熱を伝える前記接合層が形成され、
前記第1の板状フィンの前記吸熱体及び前記連結体の周囲に突出した残部領域の貫通孔、及び前記第2の板状フィンの前記連結体の周囲に突出した残部領域の貫通孔を通じて、熱を外部に放熱する、
ヒートシンク。
【請求項10】
ベース板と、
該ベース板の上に接合される回路基板と、
該回路基板の上に接合される半導体チップとを備え、
前記ベース板と回路基板との二部材間、及び前記回路基板と半導体チップとの二部材間のうち、少なくとも一つの二部材間に、前記接合層からなる請求項2記載の熱伝導接合構造を有する、半導体装置。
【請求項11】
回路基板及び半導体チップが積層されるベース板の下面側に、ヒートシンクが設けられ、
該ベース板とヒートシンクとの二部材間に、前記接合層からなる請求項2記載の熱伝導接合構造を有する、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクの受熱体と放熱フィンとの接合構造や、半導体装置の各部の接合構造に好適な熱伝導接合構造、並びに熱伝導接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体装置,特にパワー半導体装置は、電流密度の増大に伴って半導体チップの発熱量が大きくなっている。また、半導体装置は小型化が期待され、発熱量の大きな半導体チップの熱を効率良く、冷却器であるヒートシンクに輸送し,さらにヒートシンクから気相あるいは液相冷媒中へ放散させることがより重要となっている。代表的な半導体装置は、たとえばベース板の上に回路基板と半導体チップが積層され、ベース板の下面側にヒートシンクが取り付けられている。積層される各部材間には、良好な熱伝導を維持して両者を接合する熱伝導シートが提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、半導体装置は、線膨張係数の異なる複数の部材(半導体チップ、回路基板、ベース板等)を互いに接合させて積層した構造を有している。このため、上記発熱に伴う大きな温度変化は,半導体装置の各部に熱ひずみを発生させ、特に接合部である熱伝導シートの破損、剥離が問題となっている。このような熱ひずみによる接合部の破損を防止するため、熱伝導シートの代わりに、低剛性で応力を緩和できるはんだ層とすることも考えられる。しかし、はんだは熱抵抗が比較的大きく、部材間の熱伝導を通じた放熱性が悪くなる。また、部材間の積層方向、すなわち接合面に直交する板厚方向に剛性が保てず、装置としての耐久性に限界がある。さらに、接合組み付けの際に、部材間の平行度を保つことが難しく、組み付け精度の面でも課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、半導体装置の接合構造に好適で、熱ひずみによる応力を緩和でき、接合部の破損や剥離を防止できるとともに、熱抵抗が小さく、部材間の熱伝導を通じた放熱性を高めることができ、小型化・長寿命化を期待できる熱伝導接合技術、さらには、部材間の積層方向に剛性を保つことができ、耐久性とともに接合組み付けの際に部材間の平行度を保つことができ、組み付け精度も高められる熱伝導接合技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者はかかる現況に鑑み、鋭意検討を進めた結果、厚み方向に延びる複数の貫通孔を有する金属板と、はんだとを組み合わせることで、面に平行な水平方向に応力を緩和し、破損や剥離を防止できるとともに、厚み方向(板厚方向)の熱抵抗を小さく抑え、優れた熱伝導性を有し、且つ、厚み方向に剛性を保つことができ、組み付け精度も得られる接合構造が実現できること、並びに、このような熱伝導接合構造は半導体装置以外にも有効であることを見出し、さらに、これを新たなヒートシンクの受熱体と放熱フィンとの接合構造に応用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、下に示す実験条件で、金属板(銅板)とはんだの体積比率を変化させたときに、厚み方向の熱伝導率と面内方向の見かけの剛性の変化を調べた結果、
図11のグラフを得た。このグラフから、金属板の体積(孔を除く肉部分の体積)が大きい(空隙率が小さい)ほど、熱伝導率は比例して大きくなるが、面内方向の見かけの剛性は加速度的に大きくなることがわかる。このことから、熱伝導性と応力の緩和の双方を満たすためには、金属板の体積が70vol%以下(空隙率が30vol%以上)の範囲、より好ましくは、金属板の体積が20vol%以上70vol%以下(空隙率が30vol%以上80vol%以下)の範囲に設定することが好ましいことが分かった。
(実験条件)
・接合層の板厚:200μm
・はんだ:SAC305(Sn-3mass%Ag-0.5mass%Cu)
・熱伝導率測定装置:TCM1001(レスカ株式会社製)
【0007】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) ある部材に密着して該部材との間で熱伝導を行う接合層からなる熱伝導接合構造であって、前記接合層は、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成される金属製の多孔ベース板と、該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填された充填部、および該充填部に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだ膜からなるはんだ固化体とを備え、前記はんだ膜が、対面する前記部材に密着して接合されている、熱伝導接合構造。
【0008】
(2) 二部材の間に設けられて両部材を接合し、且つ二部材の一方から他方に熱を伝える接合層からなる熱伝導接合構造であって、前記接合層は、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成され、二部材の間に介装される金属製の多孔ベース板と、該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填された充填部、および該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜からなるはんだ固化体とを備え、前記はんだ膜が、対面する二部材にそれぞれ密着して接合されている、熱伝導接合構造。
【0009】
(3) 前記接合層を構成する多孔ベース板の前記貫通孔による空隙率が、30~80vol%である、(1)又は(2)記載の熱伝導接合構造。
【0010】
(4) ある部材に密着して該部材との間で熱伝導を行う接合層を設けてなる熱伝導接合方法であって、前記接合層として、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成された金属製の多孔ベース板を設け、はんだ材を、該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で固化させたはんだ固化体を設け、前記はんだ膜が、対面する前記部材に密着して接合される、熱伝導接合方法。
【0011】
(5) 二部材の間に、該二部材の一方から他方に熱を伝える接合層を設けて両部材を接合する熱伝導接合方法であって、前記接合層として、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔が形成された金属製の多孔ベース板を、二部材の間に介装するとともに、はんだ材を、該多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で固化させたはんだ固化体を設け、前記はんだ膜が、対面する二部材にそれぞれ密着して接合される、熱伝導接合方法。
【0012】
(6) 前記多孔ベース板の表裏一方又は双方の板面とこれに対面する前記部材との間に、前記はんだ材を介装し、前記部材、前記多孔ベース板、および前記はんだ材を重ねた状態で加熱し、前記はんだ材を溶融させて、該はんだ材を多孔ベース板の前記貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で、冷却固化させることにより、前記はんだ固化体を形成してなる、(4)又は(5)記載の熱伝導接合方法。
【0013】
(7) 前記二部材、前記多孔ベース板、および前記はんだ材を上下方向に重ね、且つ前記多孔ベース板の上面側に前記はんだ材を配した状態で、前記加熱し、前記はんだ材を溶融させて、該はんだ材の自重および上側の部材からの荷重により、前記貫通孔に落ち込み充填させるとともに、前記貫通孔の下側の開口から漏出して多孔ベース板および下側の部材の間の隙間に広がり下側の板面上の前記はんだ膜を形成し、前記貫通孔に落ち込まなかったはんだ材残部が上側の板面上の前記はんだ膜を形成する、(6)記載の熱伝導接合方法。
【0014】
(8) (1)記載の熱伝導接合構造を有するヒートシンクであって、冷却対象物に当接される当接面を有し、該当接面を通じて冷却対象物の熱が伝達される、前記ある部材としての金属製の吸熱体と、該吸熱体の前記当接面と反対側の面に板面の一部領域が接合された、前記多孔ベース板としての金属製の板状フィンとを備え、前記板状フィンに、板面に開口する複数の貫通孔が形成されており、前記板状フィンの前記一部領域に、該領域に形成されている貫通孔内に充填された前記充填部、および該充填部に連続して前記板面の上に広がる前記はんだ膜からなる前記はんだ固化体を有し、前記はんだ膜が対面する前記吸熱体に密着し、該吸熱体との間で熱伝導を行う前記接合層が形成され、前記板状フィンの前記吸熱体の周囲に突出した残部領域の貫通孔を通じて、熱を外部に放熱する、ヒートシンク。
【0015】
(9) (2)記載の熱伝導接合構造を有するヒートシンクであって、冷却対象物に当接される当接面を有し、該当接面を通じて冷却対象物の熱が伝達される、前記二部材のうちの一方の部材としての金属製の吸熱体と、該吸熱体の前記当接面と反対側の面に板面の一部領域が接合された、前記多孔ベース板としての金属製の第1の板状フィンと、前記第1の板状フィンの前記板面と反対側の板面の前記一部領域に対応する領域に接合された、前記二部材のうちの他方の部材としての金属製の連結体と、該連結体の前記第1の板状フィンに接合する面と反対側の面に、板面の一部領域が接合された金属製の第2の板状フィンとを備え、前記第1の板状フィン及び第2の板状フィンに、それぞれ板面に開口する複数の貫通孔が形成されており、前記第1の板状フィンの前記一部領域に、該領域に形成されている貫通孔内に充填された前記充填部、および該充填部に連続して両板面の上に広がる前記はんだ膜からなる前記はんだ固化体を有し、前記はんだ膜が対面する前記吸熱体および前記連結体にそれぞれ密着し、該吸熱体から連結体に熱を伝える前記接合層が形成され、前記第1の板状フィンの前記吸熱体及び前記連結体の周囲に突出した残部領域の貫通孔、及び前記第2の板状フィンの前記連結体の周囲に突出した残部領域の貫通孔を通じて、熱を外部に放熱する、ヒートシンク。
【0016】
(10) ベース板と、該ベース板の上に接合される回路基板と、該回路基板の上に接合される半導体チップとを備え、前記ベース板と回路基板との二部材間、及び前記回路基板と半導体チップとの二部材間のうち、少なくとも一つの二部材間に、前記接合層からなる(2)記載の熱伝導接合構造を有する、半導体装置。
【0017】
(11) 回路基板及び半導体チップが積層されるベース板の下面側に、ヒートシンクが設けられ、該ベース板とヒートシンクとの二部材間に、前記接合層からなる(2)記載の熱伝導接合構造を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱伝導接合構造/熱伝導接合方法によれば、貫通孔にはんだが充填された金属製の多孔ベース板が、接合面に平行な水平方向に伸縮容易で、応力を緩和することができ、また、はんだ膜に連続する充填部がアンカー効果を奏するため、破損や剥離を防止することができる。すなわち、板厚方向の複数の貫通孔を有する多孔ベース板は、水平方向には変形して応力を緩和することができ、また各貫通孔に充填されるはんだの充填部は板厚方向に棒状となるため、水平方向への屈曲が容易で、該方向への応力の緩和をより促進する。はんだ膜に連続して各貫通孔に充填されている充填部は、アンカーとしてはんだ膜と多孔ベース板との強固な一体性、密着性を維持する。
【0019】
また、部材に密着するはんだ膜を備えるが、はんだが充填される貫通孔の周囲は金属の板材であるため、板厚(厚み)方向に沿った熱抵抗は小さく、部材に対する優れた密着性及び熱伝導性を有する。貫通孔にはんだが充填されるため、空隙の存在による熱抵抗の増加も回避できるとともに、はんだ固化体と多孔ベース板とは、貫通孔に充填された充填部を通じて、広い接触面積を有しており、はんだ膜が受けた熱を多孔ベース板に効率よく伝熱することができる。
【0020】
さらに、多孔ベース板の各貫通孔が厚み方向に延びていることから、接合面に直交する板厚方向には優れた剛性を保つ。また各貫通孔に充填されたはんだの充填部は、上記のとおり板厚方向に伸びる棒状となるため、軸心方向となる板厚方向の剛性をさらに向上させる。したがって、組み付けの際の精度も容易に得られる。すなわち、設計通りの厚み、平行度等の精度で、低い熱抵抗、優れた熱伝導性の接合構造が実現できる。
【0021】
ここで、接合層を構成する多孔ベース板の貫通孔による空隙率が、30~80vol%であるものが好ましい。上記空隙率が30%未満であれば、応力緩和効果が小さくなりやすい。また、80%より大きくなると、縦の剛性が小さくなり、全体として変形しやすく、厚み等の接合部の精度を維持できなくなりやすい。
【0022】
また、多孔ベース板の表裏一方又は双方の板面とこれに対面する部材との間に、はんだ材を介装し、部材、多孔ベース板、およびはんだ材を重ねた状態で加熱し、はんだ材を溶融させて、該はんだ材を多孔ベース板の貫通孔内に充填させ、且つ当該充填部に連続して両板面上に広がるはんだ膜を形成した状態で、冷却固化させることにより、はんだ固化体を形成する方法によれば、効率良く、精度の良い本発明に係る熱伝導接合構造を実現できる。
【0023】
二部材の間に設ける場合は、二部材、多孔ベース板、およびはんだ材を上下方向に重ね、且つ前記多孔ベース板の上面側にはんだ材を配した状態で、加熱し、はんだ材を溶融させて、該はんだ材の自重および上側の部材からの荷重により、貫通孔に落ち込み充填させるとともに、貫通孔の下側の開口から漏出して多孔ベース板および下側の部材の間の隙間に広がり下側の板面上の前記はんだ膜を形成し、前記貫通孔に落ち込まなかったはんだ材残部が上側の板面上の前記はんだ膜を形成する方法により、効率良く、精度の良い本発明の熱伝導接合構造を実現できる。
【0024】
また、本発明に係る熱伝導接合構造を有する上記ヒートシンクによれば、吸熱体と板状フィンとの接合部に優れた密着性及び熱伝導性を有し、優れた放熱性を備えるとともに、接合部に生じる応力を緩和でき、剥離を防止できる。また、高い剛性及び組み付け精度を備え、設計通りの強度及び精度を備えた良質のヒートシンクを安定的に効率よく提供できる。また、本発明に係る熱伝導接合構造によって、さらに連結体と第2の板状フィンが接合され、より放熱性に優れた同じく高品質のヒートシンクも安定的に効率よく提供できる。
【0025】
また、本発明に係る熱伝導接合構造を有する上記半導体装置によれば、ベース板と回路基板との間、又は回路基板と半導体チップとの間の接合部に、優れた密着性及び熱伝導性を有するとともに、接合部に生じる応力を緩和でき、破壊や剥離を防止できる。よって、効率的な放熱と応力緩和が達成でき、半導体装置の小型化・長寿命化が期待できる。また、高い剛性及び組み付け精度を備え、設計通りの強度及び精度を備えた良質の半導体装置を安定的に効率よく提供できる。
【0026】
また、回路基板及び半導体チップが積層されるベース板の下面側に、ヒートシンクが設けられ、該ベース板とヒートシンクとの二部材間に、前記接合層からなるものでは、ベース板とヒートシンクの間の接合部に、優れた密着性及び熱伝導性を有し、優れた放熱性を有するとともに、接合部に生じる応力を緩和でき、ヒートシンクの剥離を防止できる。また、高い剛性及び組み付け精度を備え、設計通りの強度及び精度を備えた良質の半導体装置を安定的に効率よく提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図3】同じく熱伝導接合構造の変形例を示す説明図。
【
図4】二部材の間に設ける本発明の熱伝導接合構造を示す概念図。
【
図5】二部材を接合する本発明の熱伝導接合方法を示す説明図。
【
図6】(a)は本発明の熱伝導接合構造を有するヒートシンクの例を示す斜視図、(b)は断面図。
【
図7】同じくヒートシンクの製造の手順を示す説明図。
【
図8】(a)は二部材の間に設ける本発明の熱伝導接合構造を有するヒートシンクの例を示す斜視図、(b)は断面図。
【
図9】同じくヒートシンクの製造の手順を示す説明図。
【
図10】二部材の間に設ける本発明の熱伝導接合構造を有する半導体装置の例を示す断面図。
【
図11】厚み方向の熱伝導率と面内方向の見かけの剛性の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
まず、
図1~
図5に基づき、本発明の熱伝導接合構造、熱伝導接合方法について説明する。本発明に係る熱伝導接合構造S1は、
図1に示すように、ある部材9に密着して該部材9との間で熱伝導を行う接合層10からなる構造である。
【0030】
接合層10は、
図1及び
図2に示すように、厚み方向に延びて表裏両板面に開口する複数の貫通孔111が形成される金属製の多孔ベース板11と、該多孔ベース板11の前記貫通孔111内に充填された充填部121、および該充填部に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだ膜122,123からなるはんだ固化体12とを備えている。そして、はんだ膜122により対面する前記部材9に密着して接合されている。
【0031】
このような本発明の熱伝導接合構造S1では、多孔ベース板11が金属製であり、熱抵抗が小さく、部材9に対する優れた密着性及び熱伝導性を有すると同時に、厚み方向に延びる貫通孔111を有する板材であるため、水平方向に変形容易で、応力を緩和することができる。また、はんだ膜122に連続して各貫通孔111に充填されている充填部121は、アンカーとしてはんだ膜122と多孔ベース板11との強固な一体性、密着性を維持する。
【0032】
また、部材に密着するはんだ膜を備えるが、はんだが充填される貫通孔の周囲は金属の板材であるため、板厚方向に沿った熱抵抗は小さく、部材に対する優れた密着性及び熱伝導性を有する。はんだ固化体12と多孔ベース板11との間も、貫通孔111に充填された充填部121を通じて、広い接触面積を有し、はんだ膜122が受けた熱を多孔ベース板11に効率よく伝熱することができる。また、貫通孔111は厚み方向に延びているので、多孔ベース板11は厚み方向に優れた剛性を保つ。さらに各貫通孔111に充填されたはんだの充填部121は、上記のとおり板厚方向に伸びる棒状となるため、軸心方向となる板厚方向の剛性をさらに向上させる。したがって、組み付けの際の精度も容易に得られる。すなわち、設計通りの厚み、平行度等の精度で、低い熱抵抗、優れた熱伝導性の接合構造が実現できるのである。
【0033】
本例では、接合層10の部材9と反対側には、他の部材が接合されてもよいし、されなくてもよい。後述のヒートシンクの例で示すように、接合層10を構成する多孔ベース板11が、接合層10を構成する領域以外に、該領域から外方に延びる残部領域を備え、該領域に接合以外の他の機能を有するもの(後述のヒートシンクの場合は冷却用の流体を通す冷却フィンとしての機能を有する)や、
図3に示すように、非接合領域を介して、第二の接合領域を設けたもの等、広く応用可能である。
【0034】
多孔ベース板11は、アルミニウムや鉄、銅など、熱伝導性に優れた金属材料やその合金を広く用いることができる。銅などの場合は、好ましくは、金属凝固法で成形された一方向に伸びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に直交する方向に切断加工した多孔板が用いられる。ただし、本発明の多孔ベース板には、ドリルやレーザ等で貫通孔を設けたものも勿論含む。ロータス型ポーラス金属成形体は、高圧ガス法(Pressurized Gas Method)(例えば特許第4235813号公報開示の方法)や、熱分解法(Thermal Decomposition Method)など、公知の方法で成形することができる。このようにロータス型ポーラス金属成形体から切り出した多孔板の貫通孔は、前記切断加工により分断された前記気孔である。
【0035】
貫通孔以外に貫通していない有底の孔も存在するが(気孔の途切れた位置で切断された場合の当該孔)、このような有底の孔もはんだ固化体12との接触面積を増大させる効果があり、また、後述のヒートシンクの場合も、表面積を増大させて該板面からの放熱を促進する効果がある。このように、ロータス型ポーラス金属成形体から切り出した多孔板を用いることで、多孔ベース板11を低コスト且つ容易に得ることができる。多孔ベース板11の貫通孔111による気孔率、すなわち多孔ベース板11に孔が存在しないと仮定した体積に対する、貫通孔111内部の合計体積の割合は、20~70体積%であることが好ましい。また、貫通孔111の開口径(直径)は、0.01~1.00mmであることが好ましい。
【0036】
はんだ固化体12のはんだ(はんだ合金)は、使用環境、たとえば接合対象の部材と授受する熱の温度や想定される応力等や、多孔ベース板11の素材、貫通孔の大きさ、板厚等により求められる濡れ性等の特性などに応じて、公知のものから適宜選択すればよい。特に、Sn-Ag系,Sn-Cu系,Sn-Bi系,Sn-In系,あるいはそれらを基に第3元素を含んだはんだ合金が好ましい。
【0037】
充填部121は、多孔ベース板11の貫通孔111内に充填されたはんだが固化したものであり、はんだ膜122、123と一体化されている。後述するように、多孔ベース板11に重ねて配置されたはんだ板を溶かして、はんだ自ら貫通孔111内に流入して固化させるため、多孔ベース板11の表面(貫通孔の内壁を含む)にはんだの濡れ性を高めるフラックスその他のコーティング剤や金属膜を塗布/蒸着等することも好ましい。
【0038】
はんだ膜122,123は、上記充填部121に連続して少なくとも一方の板面上に広がるはんだの膜であり、接合対象の部材との密着性、付着性を高める膜である。本例では部材9に接合する側のはんだ膜122以外に、反対側の面にもはんだ膜123が形成されているが、はんだ膜123は省略することもできる。はんだ膜122と部材9とは強固に密着し、熱伝達を行うことができる。従来のはんだ接合と異なり、はんだ膜122は比較的薄く、当該はんだ膜122により全体の剛性や精度が低下することもない。また、はんだ膜122に連続して形成されている上記充填部121がアンカーとして機能し、多孔ベース板11からの剥離も防止できる。
【0039】
図2は、本例の熱伝導接合構造S1を形成する手順、すなわち、部材9に密着して該部材との間で熱伝導を行う接合層10を設けてなる熱伝導接合方法を示している。まず、部材9のうえに、はんだ板120と多孔ベース板11を重ねておく。そして、加熱炉などで加熱することではんだ板120を溶融する。これにより、はんだ板120のはんだは、多孔ベース板11の貫通孔111を通じて上昇し、上面側に染み出てはんだ膜123を形成して固化する。
【0040】
貫通孔111に入らず残ったはんだは、多孔ベース板11と部材9との間にはんだ膜122を形成して固化する。また、貫通孔111内で固まったはんだは、上記充填部121を形成する。このようにして、部材9に密着接合した接合層10(熱伝導接合構造S1)が形成される。はんだ膜122と多孔ベース板11との剥離は、充填部121のアンカー効果で防止できるが、本例のように充填部121の先に充填部121同士を連結して一体化するはんだ膜123が形成されていることで、よりアンカー効果が高まる。
【0041】
本例では、はんだ板120を部材9と多孔ベース板11との間に設けて加熱したが、さらに上面側、すなわちはんだ膜123が形成される側にもはんだ板を配置したうえで加熱することも好ましい。これによりはんだ膜123をより確実に形成することができる。また、はんだ板120に加えて貫通孔111内にはんだの粉末を充填しておくことも好ましい。
【0042】
次に、二部材の間に設けられて両部材を接合し、二部材の一方から他方に熱を伝える接合層からなる熱伝導接合構造S2の例について、
図4及び
図5に基づき説明する。
【0043】
本熱伝導接合構造S2の接合層10Aは、
図4に示すように、二部材91、92の間に介装される上記多孔ベース板11と、該多孔ベース板11の貫通孔111内に充填された充填部121、および該充填部121に連続して両板面上に広がるはんだ膜122、123からなるはんだ固化体12とを備え、はんだ膜122、123が、対面する二部材91、92にそれぞれ密着して接合されている構造である。このような本発明の熱伝導接合構造S2では、同様に、部材91、92に対する優れた密着性及び熱伝導性を有すると同時に、厚み方向に延びる貫通孔111を有する板材であるため、水平方向に変形容易で、応力を緩和することができる。特に2部材の接合は2部材の熱収縮の違い等により接合部に応力が生じやすいが、本発明をこれを吸収して破壊、破損を未然に防止する。
【0044】
はんだ膜122、123と多孔ベース板11との間は、充填部121及び互いにはんだ膜をアンカーとして強固な一体性、密着性を維持する。また、同様に、設計通りの厚み、平行度等の精度で、低い熱抵抗、優れた熱伝導性の接合構造が実現できる。多孔ベース板11の素材、貫通孔111の気孔率、開口径などの構成、はんだの素材、その他の形態は、上記の構造S1と同様に考えることができるので、その説明を省略する。
【0045】
図5は、本例の熱伝導接合構造S2を形成する手順、すなわち、二部材91、92の間に、該二部材91、92の一方から他方に熱を伝える接合層10を設けてなる熱伝導接合方法を示している。まず、一方の部材91のうえに、はんだ板120、多孔ベース板11及びはんだ板120を順に重ね、さらにそのうえに他方の部材92を重ねておく。そして、ヒータ4や加熱炉に入れる等して加熱することにより、双方のはんだ板120を溶融する。これにより、はんだ板120のはんだは、上下からそれぞれ多孔ベース板11の貫通孔111に充填され、且つ当該充填部121に連続して両板面上に広がるはんだ膜122、123が形成される。
【0046】
はんだ板120が溶融して貫通孔111へ流入するはんだの量は、重力で流入する上側のはんだほど多くなるため、はんだ膜122、123の厚みを同じ程度にするためには、上側のはんだ板120の方を厚くし、はんだの量を多くすることが好ましい。本例では多孔ベース板11の上下両側にはんだ板120を配置したが、たとえば上側のはんだ板のみとし、下側は省略することも可能である。下側を省略しても、貫通孔111から下方に流出したはんだが広がり、下側のはんだ膜122を形成することも可能である。
【0047】
その他の構成、変形例については、上述の
図1~
図3の構造と同様であり、その説明は省略する。
【0048】
次に、熱伝導接合構造S1により構成されたヒートシンクの例について、
図6及び
図7に基づき説明する。
【0049】
本例のヒートシンク2は、特開2018-73869号公報に記載のヒートシンクの改良版にあたり、本熱伝導接合構造S1を用いることで、より効率良く、精度よく製造でき、吸熱体から冷却フィンへの熱伝導に優れ、且つ、接合強度も優れたものとして構成したものである。具体的には、
図6に示すように、CPU等の冷却対象物に当接される当接面20bを有し、該当接面を通じて冷却対象物の熱が伝達される金属製の吸熱体20と、該吸熱体20の当接面20bと反対側の面20aに板面の一部領域R1が接合された金属製の板状フィン21とを備えている。板状フィン21には、板面に開口する複数の貫通孔111が形成されている。
【0050】
そして、吸熱体20と板状フィン21の接合層10が、吸熱体20を上記部材9とし、且つ、板状フィン21を多孔ベース板11として、板状フィン21の前記一部領域R1に、該領域R1の貫通孔111内に充填された上記充填部121、および該充填部121に連続して板面の上に広がる上記はんだ膜122、123からなる前記はんだ固化体12により構成されている。はんだ膜122は、対面する吸熱体20に密着し、該吸熱体20との間で効率良く熱伝導を行う。
【0051】
板状フィン21の吸熱体20の周囲に突出した残部領域R2は、貫通孔111を通過する流体に熱を放熱する放熱フィンとして機能する。本例のヒートシンク2によれば、熱伝導接合構造S1の上記作用効果、すなわち従来の上記ヒートシンクのように放熱フィンの板端部で吸熱体側壁に接合していたものに比べ、優れた密着性及び熱伝導性を有し、応力も緩和でき、優れた接合強度を有する。
【0052】
また、はんだ膜122に連続して各貫通孔111に充填されている充填部121は、アンカーとしてはんだ膜122と板状フィン21との強固な一体性、密着性を維持する。また、設計通りの厚み、平行度等の精度で、低い熱抵抗、優れた熱伝導性の接合構造が容易に実現できる。本例では、板状フィン21の吸熱体20と反対側の面にもはんだ膜123が形成されているが、この膜は省略することもできる。
【0053】
本ヒートシンク2は、
図7に示すように、吸熱体20の上面に、平面視同一形状のはんだ板120を置き、さらに板状フィン21を重ねておく。板状フィン21は、中心の領域R1がはんだ板120に載置され、その周囲に残部領域R2が位置するように置かれる。そして、ヒータ4や加熱炉に入れる等してはんだ板120を加熱・溶融させることで、はんだ板120のはんだが、板状フィン21の中心側の領域R1の貫通孔111を通じて上昇し、上面側に染み出てはんだ膜123を形成して固化する。
【0054】
貫通孔111に入らず残ったはんだは、板状フィン21と吸熱体20との間にはんだ膜122を形成して固化する。また、貫通孔111内で固まったはんだは、充填部121を形成する。このようにして、吸熱体20に密着接合した接合層10(熱伝導接合構造S1)が形成される。
【0055】
吸熱体20は、金属製の中実な立方体形状とされているが、このような構成に何ら限定されるものではない。中実ではなく中空としてもよい。材料はアルミニウムや鉄、銅など従来のヒートシンクに使用されるものを広く適用できる。また、ヒートパイプを内装したもの、或いはヒートパイプ自体で構成することもできる。
【0056】
板状フィン21を構成する金属材料としては、吸熱体20と同様、アルミや鉄、銅など従来のヒートシンクの板状フィンに使用されるものを広く適用できる。本例では、銅製であり、具体的には、金属凝固法で成形された一方向に伸びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の伸びる方向に交差する方向に切断加工したものである。ロータス型ポーラス金属成形体から切り出した板材には、貫通孔111以外に貫通していない有底の孔も存在するが、このような有底の孔も放熱フィンとして機能する領域R2の板面の表面積を増大させる効果があり、該板面からの放熱を促進する効果がある。板状フィン21の形状は方形としたが、これに何ら限定されず、多角形や円形など、方形以外の形状とすることも勿論できる。
【0057】
次に、熱伝導接合構造S2を有するヒートシンクの例について、
図8及び
図9に基づき説明する。
【0058】
本例のヒートシンク2Aは、同じく特開2018-73869号公報に記載のヒートシンクの改良版にあたり、本熱伝導接合構造S2を用いることで、より効率良く、精度よく製造でき、吸熱体から冷却フィンへの熱伝導に優れ、且つ、接合強度も優れたものとして構成したものである。
【0059】
具体的には、
図8に示すように、冷却対象物に当接される当接面20bを有し、該当接面を通じて冷却対象物の熱が伝達される金属製の吸熱体20と、該吸熱体20の当接面20bと反対側の面20aに,板面の一部領域R3が接合された金属製の第1の板状フィン21と、第1の板状フィン21の前記板面と反対側の板面の前記一部領域R3に対応する領域に接合された金属製の連結体22と、該連結体22の前記第1の板状フィン21に接合する面と反対側の面に、板面の一部領域R5が接合された金属製の第2の板状フィン21Aとを備えている。
【0060】
そして、吸熱体20、板状フィン21及び連結体22の接合層10Aが、吸熱体20を上記二部材のうちの一方の部材91とし、第1の板状フィン21を多孔ベース板11とし、連結体22を上記二部材のうちの他方の部材92として、板状フィン21の前記一部領域R3に、該領域R3の貫通孔111内に充填された上記充填部121、および該充填部121に連続して上下の板面に広がる上記はんだ膜122、123からなる前記はんだ固化体12により構成されている。はんだ膜122、123は、それぞれ対面する吸熱体20、連結体22に密着し、該吸熱体20、連結体22との間でそれぞれ効率良く熱伝導を行う。連結体22と第2の板状フィン21Aとの接合は、上述のヒートシンク2の例と同じ接合層10からなる熱伝導接合構造S1により接合されている。
【0061】
第1の板状フィン21の吸熱体20及び連結体22の周囲に突出した残部領域R4、第2の板状フィン21Aの連結体22の周囲に突出した残部領域R6は、それぞれ貫通孔111を通過する流体に熱を放熱する放熱フィンとして機能する。本例のヒートシンク2Aによれば、熱伝導接合構造S1,S2の上記作用効果、すなわち従来の上記ヒートシンクのように放熱フィンの板端部で吸熱体側壁に接合していたものに比べ、優れた密着性及び熱伝導性を有し、応力も緩和でき、優れた接合強度を有する。
【0062】
本例では、連結体22を一つのみとし、板面に垂直な軸方向に、板状フィン21、21Aの2枚の放熱フィンを並設した構造とされているが、熱伝導接合構造S2を二つ以上軸方向に連設して連結体22を二つ以上設け、3枚以上の放熱フィンを並設したヒートシンクとすることもできる。本発明の熱伝導接合構造S1、S2によれば、このように複数枚の放熱フィンを互いに平行に精度よく組み付けることができるとともに、各フィンに吸熱した熱を効率よく伝達し、各フィンから効率よく放熱させることができる。
【0063】
本ヒートシンク2は、
図9に示すように、吸熱体20の上面側に、はんだ板120、板状フィン21、はんだ板120、連結体22、はんだ板120、板状フィン21Aを順に置き、重ねておく。板状フィン21、21Aは、中心の領域R3、R5がそれぞれはんだ板120の位置に対応するように載置され、その周囲に残部領域R4、R6が位置するように置かれる。そして、ヒータ4や加熱炉などで加熱することで各はんだ板120を溶融させることで、各はんだ板120のはんだが、板状フィン21、21Aの中心側の領域R3,R5の貫通孔111に浸入するとともに、各フィンの両面にはんだ膜122、123を形成して固化する。
【0064】
各フィンの貫通孔111内で固まったはんだは、それぞれ充填部121を形成する。このようにして、板状フィン21が吸熱体20及び連結体22に密着接合した接合層10A(熱伝導接合構造S2)と、板状フィン21Aが連結体22に密着接合した接合増10(熱伝導接合構造S1)とが形成される。その他の構造、素材、変形例等は、上記ヒートシンク2と同じであるので、その説明は省略する。
【0065】
次に、熱伝導接合構造S2を有する半導体装置の例について、
図10に基づき説明する。
【0066】
本例の半導体装置3は、ベース板30と、該ベース板30の上に接合される回路基板31と、該回路基板31の上に接合される半導体チップ32と、ベース板30の下面側に接合されるヒートシンク33とを備えており、ベース板30と回路基板31との間、回路基板31と半導体チップ32との間、ベース板30とヒートシンク33との間に、それぞれ上記接合層10Aからなる本熱伝導接合構造S2を設けたものである。符号34はボンディングワイヤ、35はターミナル(端子)、36はケース、37は充填剤をそれぞれ示している。
【0067】
このように本発明の熱伝導接合構造S2を用いた半導体装置3では、これら接合部に優れた密着性及び熱伝導性を有し、且つ、接合部に生じる応力を緩和し、破壊や剥離を未然に防止する耐久性に優れたものとなるため、効率的な放熱と応力緩和が達成でき、装置の小型化・長寿命化が期待できる。また、高い剛性や組み付け精度を備えるため、設計通りの強度及び精度を備えた良質の装置を安定的に効率よく提供することができる。本例では、各接合部にそれぞれ熱伝導接合構造S2を用いたが、一部の接合部にのみ採用してものでも勿論よい。また、半導体装置の構造は、図示したものに何ら限定されず、各種の装置に適用できることは言うまでもない。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
S1、S2 熱伝導接合構造
2、2A ヒートシンク
3 半導体装置
4 ヒータ
9 部材
10、10A 接合層
11 多孔ベース板
12 はんだ固化体
20 吸熱体
20a 面
20b 当接面
21、21A 板状フィン
22 連結体
30 ベース板
31 回路基板
32 半導体チップ
33 ヒートシンク
91、92 部材
111 貫通孔
120 はんだ板
121 充填部
122、123 はんだ膜
R1-R6 領域