IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-積層体の製造方法 図1
  • 特開-積層体の製造方法 図2
  • 特開-積層体の製造方法 図3
  • 特開-積層体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003078
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20231228BHJP
   C23C 18/16 20060101ALN20231228BHJP
   C23C 18/30 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
C23C18/44
C23C18/16 A
C23C18/30
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187787
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2022536101の分割
【原出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森原 潤美
(57)【要約】
【課題】金属光沢を有し、かつミリ波レーダーの透過性に優れる積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に銀粒子層を形成する工程を有し、前記工程はアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを接触させることを含み、前記還元剤水溶液は還元剤としてフェノール化合物を含む、積層体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に銀粒子層を形成する工程を有し、前記工程はアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを接触させることを含み、前記還元剤水溶液は還元剤としてフェノール化合物を含む、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記フェノール化合物がヒドロキノンを含む、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記銀粒子層の表面抵抗率が10Ω/□以上である、請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
自動車用部品を製造するための、請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、安全装置の進歩が目覚ましく、例えば、自動衝突回避システムの装備が一般的になってきている。
自動衝突回避システムは、車載カメラの画像データ及びミリ波レーダーによる対象物との相対距離情報を用いて自動的にブレーキをかけるものである。
自動衝突回避システムを構成するミリ波レーダーの送受信機は、自動車の前方中央に配置することが望ましい。自動車の前方中央には、一般に自動車のエンブレムが配置されている。そこで、自動車のエンブレムの後側にミリ波レーダーの送受信機を配置することが望ましい。
【0003】
自動車のエンブレムは一般に、樹脂等の基材上に金属光沢を表現するための金属膜が形成されている。例えば、特開2003-019765号公報には、基材上に銀鏡反応により金属膜を形成する方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2003-019765号公報に記載された発明では、金属膜のミリ波レーダーの透過性については検討されていない。
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属光沢を有し、かつミリ波レーダーの透過性に優れる積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1>基材上に銀粒子層を形成する工程を有し、前記工程はアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを接触させることを含み、前記還元剤水溶液は還元剤としてフェノール化合物を含む、積層体の製造方法。
<2>前記フェノール化合物がヒドロキノンを含む、<1>に記載の積層体の製造方法。
<3>前記銀粒子層の表面抵抗率が10Ω/□以上である、<1>又は<2>に記載の積層体の製造方法。
<4>自動車用部品を製造するための、<1>~<3>のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、金属光沢を有し、かつミリ波レーダーの透過性に優れる積層体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1で得られた銀粒子層の電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1で得られた銀粒子層の電子顕微鏡写真である。
図3】比較例1で得られた銀粒子層の電子顕微鏡写真である。
図4】比較例1で得られた銀粒子層の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0009】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において、各成分に該当する粒子には、複数種の粒子が含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0010】
<積層体の製造方法>
本開示の積層体の製造方法は、基材上に銀粒子層を形成する工程(以下、銀粒子層形成工程)を有し、前記工程はアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを接触させることを含み、前記還元剤水溶液は還元剤としてフェノール化合物を含む、積層体の製造方法である。
【0011】
上記方法により製造される積層体は、金属光沢を有し、かつミリ波レーダーの透過性に優れている。その理由は明確ではないが、以下のように推察される。
上記方法で基材上に形成される銀粒子層を電子顕微鏡で観察すると、大きさの比較的揃った銀粒子が配列した状態になっている。このため、銀粒子の隙間をミリ波レーダーが透過しやすくなっていると考えられる。
【0012】
さらに、還元剤としてフェノール化合物を用いることで、大きさの比較的揃った銀粒子が配列した状態の銀粒子層が形成されやすいと考えられる。その理由は明確ではないが、たとえば、還元剤としてフェノール化合物を用いる場合は他の還元剤を用いる場合に比べて還元反応の進行が緩やかであり、銀粒子の成長速度が揃いやすいことなどが考えられる。
【0013】
上記方法は、分散剤を使用せずに行ってもよい。銀粒子層の形成に分散剤を使用すると、銀粒子の表面が分散剤でコーティングされて粒子同士の凝集が抑制され、ミリ波レーダーを透過可能な銀粒子層が得られるが、銀粒子表面におけるプラズモン現象の発現によって所望の色調が達成されない場合がある。
本発明者らの検討の結果、還元剤としてフェノール化合物を用いた場合は、分散剤を使用しなくてもミリ波レーダーを透過可能な銀粒子層を形成できることがわかった。
【0014】
以下、本開示の方法で使用する各部材について説明する。
【0015】
-基材-
基材の材質は特に限定されず、ガラス等の無機材料、樹脂等の有機材料などを用いることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ABS樹脂(アクリロニトリル(Acrylonitrile)-ブタジエン(Butadiene)-スチレン(Styrene)共重合樹脂)、ポリエステル、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0017】
熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0018】
積層体をエンブレム等の自動車部品に用いる場合には、基材の材質としては、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂等を用いることが好ましい。ポリプロピレンは、樹脂の中でも比重が軽く、加工しやすく、引張強度、衝撃強度及び圧縮強度が高く、耐候性及び耐熱性にも優れている。ABS樹脂は、プラスチック素材の中でも比較的表面処理を施しやすく、よって基材の成形後に塗装等を施しやすい樹脂であり、耐薬品性及び剛性に優れ、耐衝撃性、耐熱性及び耐寒性にも長けている。ポリカーボネートは、プラスチック素材の中でも耐衝撃性が高く、耐候性及び耐熱性にも優れ、透明性にも長けている。また、ポリカーボネートは、加工もしやすく、プラスチック素材の中でも比較的軽く、丈夫な素材である。
【0019】
基材と銀粒子層との密着性の向上、基材表面の平滑化等のために、基材はアンダーコート層を備えてもよい。
アンダーコート層の材料は特に制限されず、アンダーコート層の目的に応じて選択できる。例えば、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂等を用いてもよい。これらの樹脂は溶剤等を添加した塗料の状態であってもよい。
【0020】
アンダーコート層の厚みは特に制限されず、平滑面を確保する観点からは、5μm~25μm程度であることが好ましい。
【0021】
アンダーコート層と基材本体との密着性を高めるために、アンダーコート層と基材本体との間にプライマー層を設けてもよい。
【0022】
基材の厚みは、積層体の用途に応じて適宜設計できる。基材の形状も特に制限されない。
【0023】
-銀粒子層-
本開示の方法では、銀粒子層の形成は、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを接触させることにより行われる。
【0024】
本開示のある実施態様では、アンモニア性硝酸銀水溶液は、硝酸銀と、アンモニアと、アミノアルコール化合物、アミノ酸及びアミノ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種のアミン化合物と、を水中に溶解して得られる。
アミン化合物の具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミノアルコール化合物、グリシン、アラニン、グリシンナトリウム等のアミノ酸又はその塩などが挙げられる。
【0025】
アンモニア性硝酸銀水溶液に含まれる硝酸銀、アンモニア及びアミン化合物の含有率は、特に限定されるものではない。
【0026】
アンモニア性硝酸銀水溶液に含まれる硝酸銀の濃度は特に制限されないが、反応速度の制御の観点からは、0.1質量%~10質量%の範囲で調整することが好ましい。
アンモニア性硝酸銀水溶液のpHは、10~13の間に調整することが好ましく、11~12の間に調整することがより好ましい。
【0027】
本開示のある実施態様では、還元剤水溶液は、フェノール化合物を含む還元剤と強アルカリ成分とを水中に溶解して得られる。
還元剤に含まれるフェノール化合物としては、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシノール等のベンゼンジオール化合物が挙げられ、中でもヒドロキノンが好ましい。
還元剤はフェノール化合物のみでも、フェノール化合物とフェノール化合物以外の化合物との組み合わせであってもよい。フェノール化合物以外の化合物としては、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、ヒドラジン水和物等のヒドラジン化合物、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩化合物、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩化合物などが挙げられる。
還元剤がフェノール化合物とフェノール化合物以外の化合物とを含む場合、フェノール化合物の割合が還元剤全体の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
還元剤水溶液に含まれる強アルカリ成分の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0029】
還元剤水溶液は、必要に応じて上述のアミン化合物を含有してもよい。
還元剤水溶液は、必要に応じてホルミル基を含む化合物を含有してもよい。ホルミル基を含む化合物の具体例としては、グルコース、グリオキサール等が挙げられる。
還元剤水溶液に含まれる還元剤、強アルカリ成分、必要に応じて含有されるアミン化合物、及び必要に応じて含有されるホルミル基を含む化合物の含有率は、特に限定されるものではない。
【0030】
還元剤水溶液に含まれる還元剤の濃度は特に制限されないが、反応速度の制御の観点からは、0.1質量%~10質量%の範囲で調整することが好ましい。
還元剤水溶液のpHは、10~13の間に調整することが好ましく、10.5~11.5の間に調整することがより好ましい。
【0031】
(銀粒子層形成工程)
銀粒子層形成工程において、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを接触させる方法は、特に制限されない。例えば、これらの水溶液を混合した状態、又は混合しない状態で、基材の表面に付与する方法が挙げられる。
【0032】
アンモニア性硝酸銀水溶液及び還元剤水溶液を銀鏡反応処理面に付与する方法は、特に制限されない。これらの中でも、基材の形状を選ばず均一な銀粒子層が形成できるスプレー塗布が好適である。スプレー塗布は、エアブラシ、スプレーガン等の公知の手段を用いて行うことができる。
【0033】
(表面活性化処理工程)
必要に応じ、銀粒子層を形成する前の基材の表面に対して表面活性化処理を行ってもよい。
本開示のある実施態様では、表面活性化処理として、無機スズ化合物を含有する表面活性化処理液を基材の表面に付与する。これにより、基材の表面にスズを存在させる。銀粒子層と基材との間にスズが存在することで、基材と銀粒子との密着性が向上する傾向にある。
【0034】
表面活性化処理液に含まれる無機スズ化合物としては、塩化スズ(II)、酸化スズ(II)、硫酸スズ(II)等の無機スズ化合物が挙げられる。
表面活性化処理液は、無機スズ化合物に加え、必要に応じて塩化水素、過酸化水素、多価アルコール等を含んでもよい。
表面活性化処理液に含有されるこれら成分の含有率は、特に限定されない。
【0035】
表面活性化処理液のpHは、0.5~3.0の間に調整することが好ましく、0.5~1.5の間に調整することがより好ましい。
【0036】
表面活性化処理液を基材の表面に付与する方法としては、基材を表面活性化処理液に浸漬する方法、基材の表面に表面活性化処理液を塗布する方法等が挙げられる。これらの中でも、基材の形状を選ばず均一に付与できるスプレー塗布が好適である。
【0037】
表面活性化処理の後、基材の表面に付着した余分な表面活性化処理液を除去することが好ましい。例えば、脱イオン水又は精製蒸留水で基材の表面を洗浄することが好ましい。
【0038】
(前処理工程)
必要に応じ、銀粒子層を形成する前の基材の表面に対して前処理を行ってもよい。
本開示のある実施態様では、前処理として、上述した表面活性化処理の後に、硝酸銀水溶液を基材の表面に付与する。これにより、基材の表面に銀を存在させる。銀粒子層と基材との間に銀が存在することで、大きさの揃った銀粒子が析出しやすい傾向にある。
【0039】
前処理液のpHは、4.0~8.0の間に調整することが好ましく、6.0~7.0の間に調整することがより好ましい。
【0040】
前処理液を基材の表面に付与する方法としては、基材を前処理液に浸漬する方法、基材の表面に前処理液を塗布する方法等が挙げられる。これらの中でも、基材の形状を選ばず均一に付与できるスプレー塗布が好適である。
【0041】
(不活性化処理工程)
必要に応じ、基材の表面に銀粒子層を形成した後、不活性化処理を行ってもよい。
本開示のある実施態様では、不活性化処理として、水酸化カリウム等の強アルカリ成分と亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩とを含む水溶液である不活性化処理液を銀粒子層に接触させる。これにより、銀粒子層中の銀と、塩化物イオン、硫化物イオン等の残留イオンとの反応活性を低下させることができる。
不活性化処理液に含有される成分の含有率は、特に限定されない。
【0042】
不活性化処理液のpHは、4.0~8.0の間に調整することが好ましく、7.0~8.0の間に調整することがより好ましい。
【0043】
不活性化処理液を銀粒子層に接触させる方法としては、銀粒子層が形成された基材を不活性化処理液に浸漬する方法、銀粒子層に不活性化処理液を塗布する方法等が挙げられる。これらの中でも、基材の形状を選ばず均一に塗布できるスプレー塗布が好適である。
【0044】
不活性化処理の前後には、脱イオン水又は精製蒸留水で銀粒子層を洗浄することが好ましい。
【0045】
基材上に形成される銀粒子層の厚みは、特に制限されない。充分な金属光沢を得る観点からは、50nm以上であることが好ましく、充分なミリ波レーダー透過性を得る観点からは、300nm以下であることが好ましい。
【0046】
銀粒子層の厚み方向の断面を観察したときに、銀粒子層に占める銀粒子の割合は95%以下であることが好ましい。銀粒子層に占める銀粒子の割合が95%以下であると、ミリ波レーダーの透過性がより向上する傾向にある。十分な金属光沢を得る観点からは、銀粒子層に占める銀粒子の割合は80%以上であることが好ましい。
【0047】
銀粒子層に占める銀粒子の割合とは、以下のようにして測定された値をいう。
装飾品における銀粒子層の厚み方向の断面について、30万倍の倍率で透過型電子顕微鏡写真を撮影する。得られた電子顕微鏡写真に対して、銀粒子層の厚み方向の中央を通る中央線を決定する。次いで、中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを求める。中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを中央線全体の長さで除した値の百分率を、銀粒子層に占める銀粒子の割合と定義する。
【0048】
銀粒子層の表面抵抗率は、10Ω/□以上であることが好ましく、10Ω/□以上であることがより好ましい。
銀粒子層の表面抵抗率が上記範囲内であると、充分なミリ波レーダーの透過性が達成されていると判断できる。
銀粒子層の表面抵抗率の上限は、特に限定されるものではない。
銀粒子層の表面抵抗率は、JIS K6911:2006に準じて測定された値をいう。
【0049】
-トップコート層-
積層体は、必要に応じ、基材と銀粒子層以外の層を有してもよい。例えば、銀粒子層の保護を目的として、銀粒子層の上にトップコート層を有してもよい。
トップコート層は、銀粒子層の金属光沢を隠蔽せず、かつミリ波レーダーを遮断しない程度の透明性を有することが好ましく、無色クリア(無色透明)であっても、着色されたカラークリア(有色透明)であってもよい。
【0050】
トップコート層の材料は特に制限されず、例えば、基材のアンダーコート層の材料として上述した樹脂から選択できる。
【0051】
トップコート層の厚みは特に限定されず、20μm~40μm程度であることが好ましい。トップコート層の厚みが20μm以上であると、銀粒子層を充分保護できる傾向にあり、40μm以下であると、経時変化によるクラック、剥がれ、密着不良等が発生しにくい傾向にある。
【0052】
(積層体の用途)
本開示の積層体は金属光沢を有し、かつミリ波レーダーの透過性に優れている。このため、エンブレム等の自動車用部品として特に好適に使用できる。具体的には、自動車のエンブレムとして車体の前方に積層体を配置した場合、エンブレムの後方に配置されたミリ波レーダーの送受信機によるミリ波レーダーの送受信を妨げることなくエンブレムとしての機能を果たすことができる。また、その他の内外装品の部品にも展開可能である。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて本開示を説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
(1)基材の準備
厚みが2mmのポリカーボネート基材の表面を、イソプロピルアルコールを含ませたウエスで拭くことで油膜、汚れ及び塵埃を除去し、その後、基材を乾燥した。
【0055】
(2)表面活性化工程
アンダーコート層が形成された基材を純水でスプレー洗浄した後、表面活性化処理液(三菱製紙株式会社製、MSPS-Sa1A)をスプレー塗布した。その後、純水でスプレー洗浄した。使用した表面活性化処理液は、塩化スズ(II)、塩化水素、過酸化水素及び多価アルコールを含むpH1.0の水溶液である。
【0056】
(3)前処理工程
表面活性化処理後の基材の表面に、前処理液(三菱製紙株式会社製、MSPS-Sa2Aをスプレー塗布した。その後、純水でスプレー洗浄した。使用した前処理液は、pH6.8の硝酸銀水溶液である。
【0057】
(4)銀粒子層形成工程
前処理後の基材の表面に、アンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを、同時に別々のエアブラシでスプレー塗布した。エアブラシの吐出量は、それぞれ1.0g/10秒~1.5g/10秒とした。この際、銀鏡反応により基材の表面に銀粒子が析出して、銀光沢を有する銀粒子層(厚み:0.2μm)が形成された。その後、純水でスプレー洗浄した。
使用したアンモニア性硝酸銀水溶液は、硝酸銀、アンモニア及びトリエタノールアミンを含むpH11.5の水溶液(硝酸銀濃度:0.5質量%)である。
使用した還元剤水溶液は、ヒドロキノン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、アミノアルコールを含むpH10.8の水溶液(ヒドロキノン濃度:4.5質量%)である。
【0058】
(5)不活性化処理工程
銀粒子層形成工程後の基材の表面に、不活性化処理液(三菱製紙株式会社製、MSPS-R1A)をスプレー塗布した。その後、純水でスプレー洗浄した。使用した不活性化処理液は、水酸化カリウム及び亜硫酸塩を含むpH7.5の水溶液である。
【0059】
<比較例1>
還元剤水溶液として、ヒドロキノンに代えて硫酸ヒドラジンを含む水溶液(pH10.1)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、基材上に銀粒子層(厚み:0.13μm)を形成した。
【0060】
<評価>
(1)電子顕微鏡観察
実施例1で作製した積層体の銀粒子層を、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2100)を用いて正面から撮影した写真を図1に示す。さらに、銀粒子層の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2100)を用いて撮影した写真を図2に示す。
比較例1で作製した積層体の銀粒子層を、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2100)を用いて正面から撮影した写真を図3に示す。さらに、銀粒子層の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2100)を用いて撮影した写真を図4に示す。
【0061】
図1及び図2に示すように、実施例1の銀粒子層は、大きさの比較的揃った銀粒子が配列している状態が確認された。
図3及び図4に示すように、比較例1の銀粒子層は、銀粒子が凝集して隙間のないバルク状であることが観察された。
【0062】
(2)表面抵抗率の測定
実施例1で作製した積層体の銀粒子層の表面抵抗率を低抵抗率計(商品名:ロレスタEP、ダイヤインスツルメンツ社)を用いて四探針法によって測定したところ、2.2×10Ω/□であった。
比較例1で作製した積層体の銀粒子層の表面抵抗率を低抵抗率計(商品名:ロレスタEP、ダイヤインスツルメンツ社)を用いて四探針法によって測定したところ、1.1×10Ω/□であった。
【0063】
(3)ミリ波透過減衰量の測定
大橋化学工業株式会社製のMSPS用トップコートクリヤーMと、MSPS用トップコートシンナーP-7と、MSPS用トップコート硬化剤Wとを、20:20:5(質量部基準)で配合してトップコート層用組成物を調製した。この組成物を、実施例1及び比較例で作製した積層体の銀粒子層の上にスプレー塗布して、厚み25μmのトップコート層を形成した。
【0064】
トップコート層を形成した実施例1の積層体について、下記方法によりミリ波(77.0125GHz)を透過させた際の減衰量を測定したところ、透過減衰量は0.99dBであった。
トップコート層を形成した比較例1の積層体について同様の測定を行ったところ、透過減衰量は50.05dBであった。
透過減衰量は、JIS R1679:2007(電波吸収体のミリ波帯における電波吸収特性測定方法)で規定される、送信アンテナと受信アンテナの間に試料を置いて電磁波を試料へ垂直に照射する自由空間法で求められた透過波(透過係数)から算出した。
ここで、透過減衰量は、透過係数(絶対値)を用いて次式より算出できる。
透過減衰量=20log10|(透過係数)|
【0065】
以上の結果から、銀粒子層を形成する際に還元剤としてフェノール化合物を用いた場合は、還元剤としてフェノール化合物と異なる化合物を用いた場合に比べてミリ波レーダーの透過性に優れる銀粒子層が得られることがわかる。
【0066】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
図1
図2
図3
図4