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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003086
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】接合部材および接合部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27N 5/00 20060101AFI20231228BHJP
   B29C 65/70 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B27N5/00 A
B29C65/70
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188005
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2019217760の分割
【原出願日】2019-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡一
(72)【発明者】
【氏名】金山 公三
(72)【発明者】
【氏名】橋本 清春
(72)【発明者】
【氏名】加門 真一
(72)【発明者】
【氏名】小島 始男
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(57)【要約】
【課題】木質系材料と非木質系材料とが強固に接合した接合部材を提供すること。
【解決手段】木質系材料と、表面に凹部および/または凸部を有する非木質系材料とが接合、一体化した接合部材であって、木質系材料は、木質繊維細胞の細胞壁が破壊されることなく、木質繊維細胞の相互の位置関係が変化した状態で非木質系材料の凹部の内部または凸部の周囲に入り込んで、充填されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部および/または凸部を加工された非木質系部材に木質系部材が篏合して接合、一体化した接合部材であって、
前記木質系部材は、前記非木質系部材の前記凹部の内部を充填しまたは前記凸部の周囲に沿って、木質繊維細胞の相互の位置関係を変化させるように塑性流動し変形させられた接合部を表面に有していることを特徴とする接合部材。
【請求項2】
前記接合部では、前記木質繊維細胞が圧密化されていることを特徴とする請求項1記載の接合部材。
【請求項3】
前記接合部は、前記木質系部材の前記接合部以外の他箇所よりも高い材料強度を有していることを特徴とする請求項2記載の接合部材。
【請求項4】
前記木質系部材は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含浸されていることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の接合部材。
【請求項5】
表面に凹部および/または凸部を加工された非木質系部材に木質系部材が篏合して接合、一体化した接合部材の製造方法であって、
前記非木質系部材が設置された金型内に前記木質系部材を投入する第1工程と、
前記木質系部材を加熱して軟化させるとともに、前記木質系部材を加圧することで少なくとも前記凹部の内部へまたは前記凸部の周囲に沿って塑性流動させる第2工程と、を含み、
前記第2工程では、前記木質系部材が前記非木質系部材の前記凹部の内部を充填しまたは前記凸部の周囲に沿って、木質繊維細胞の相互の位置関係を変化させるように塑性流動させて変形させた接合部を与えるように加圧することを特徴とする接合部材の製造方法。
【請求項6】
前記接合部では、前記木質繊維細胞が圧密化されていることを特徴とする請求項5記載の接合部材の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程は、前記金型内への投入前に、前記木質系部材に樹脂を含浸させておく工程を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の接合部材の製造方法。
【請求項8】
前記非木質系部材は、前記第2工程の加圧によって変形または破壊しない材料からなることを特徴とする請求項5記載の接合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系材料と非木質系材料とを接合し一体化した接合部材と、この接合部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材や竹などの木質系材料と金属などの非木質系材料とを接合した部材を製造する場合、接合方式としては、ボルトなどの締結部品を用いる機械的方式、接着剤などを用いる化学的方式、それらを併用した複合的方式によるものが挙げられ、これらの接合方式は、使用用途・環境・経済性に応じて、適宜利用されている。
【0003】
一方、本発明者らのグループは、膨潤状態の木質材料に熱をかけて軟化状態とし、圧力を作用させることで塑性流動する現象を見出し、この塑性流動を利用した木質系材料の成形に関連する技術について提案している(例えば、特許文献1-3)。このような木質系材料の流動成形技術は、圧縮加工のように木質細胞の内腔の閉塞によって緻密化させて形状変化を与える方法と比べて、木質細胞間のすべり(流動)現象による位置変化によって変形を与えるため、より大きな変形量を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2018/096820
【特許文献2】特開2018-196946号公報
【特許文献3】特開2019-188648号公報
【特許文献4】国際公開WO2019/004315
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接合方式の場合、木質系材料と非木質系材料との接合部において木質系材料の強度が接合強度の律速になるため、木質系材料の材料強度以上の接合強度がでないこと、接着やボルト締結などに手間やコストがかかることが問題となっている。また、木質系材料の膨潤収縮による寸法変化や応力緩和ならびにクリープなどにより、初期締結力や接着力が漸減し、部材接合強度が低下してしまうことも問題とされている。
【0006】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、これまでの木質系材料の流動成形技術に関する知見を利用して、木質系材料と非木質系材料とが強固に接合した接合部材を提供することを課題としている。また、このような接合部材の製造方法として、従来法よりも手間やコストが抑制された製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の接合部材は、木質系材料と、表面に凹部および/または凸部を有する非木質系材料とが接合、一体化した接合部材であって、
前記木質系材料は、木質繊維細胞の相互の位置関係が変化した状態で前記非木質系材料の前記凹部の内部または前記凸部の周囲に入り込んで、充填されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の建築用部材、自動車用部材、家具、日用品および電化製品用部材は、前記接合部材を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明の接合部材の製造方法は、以下の工程:
表面に凹部および/または凸部を有する非木質系材料が設置された金型内に木質系材料を投入する第1工程;および、
前記金型を加熱することで前記木質系材料を加熱して軟化させるとともに、この木質系材料を加圧することで塑性流動させる第2工程
を含み、
前記第2工程では、塑性流動によって、前記木質系材料が前記非木質系材料の前記凹部の内部または前記凸部の周囲に入り込んで充填され、前記木質系材料と前記非木質系材料とが接合、一体化することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接合部材は、非木質系材料の表面の凹部の内部または凸部の周囲に塑性流動した木質系材料が侵入することで木質系材料と非木質系材料と接合しており、接合強度と寸法や物性の安定性に優れている。
【0011】
本発明の接合部材の製造方法は、一般的な樹脂成形におけるインサート成形と同様の手段であり、一段階の加工で木質系材料と非木質系材料の接合部材を作製することができるため、従来の木質系材料の接合方法における接着やボルト締め等の手間やコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の接合部材の製造方法の一実施形態を例示した接合部材の断面を示した模式図である。
図2】釘打ちによる接合部材の断面を示した模式図である。
図3】実施例1と比較例1の接合部材の断面写真である。
図4】実施例1と比較例1の接合部材の接合部拡大写真である。
図5】実施例1と比較例1の接合部材の接合部顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の接合部材の一実施形態について説明する。
【0014】
本発明の接合部材は、木質系材料と非木質系材料とが接合し、一体化している。本発明の接合部材においては、木質系材料は、木質繊維細胞の細胞壁がほとんど破壊されることなく、木質繊維細胞の相互の位置関係が変化した状態で非木質系材料の表面の凹部の内部または凸部の周囲に入り込んで、充填されている。充填された木質繊維細胞は細胞壁の変形により圧密化(高密度化)されている。
【0015】
木質系材料は、特に限定されないが、例えば、木材、竹、突板、チップ、木粉、木材繊維、竹繊維、麻繊維、ケナフ繊維などを例示することができる。非木質系材料との接合部分を強化するためには、優れた強度特性を有する木質繊維細胞が分断されていない木質系材料を用いることが効果的であり、この場合、木質系材料は、繊維方向の長さが5mm以上であることが好ましい。
【0016】
また、木質系材料には水が含まれる。含まれる水の重量は、木質系材料の乾燥重量に対して1~200%であり、好ましくは、1~30%である。
【0017】
さらに、木質系材料は、樹脂が含浸したものを使用することができる(以下、樹脂が含浸した木質系材料を「木質系複合材料」と記載する場合がある)。この場合、木質系複合材料に含まれる樹脂の重量は、木質系複合材料全体の重量に対して1~60%であることが好ましく、20~60%であることがより好ましい。
【0018】
樹脂としては、木質系材料の流動性を向上させるとともに、接合対象の非木質系材料に対して接着剤の機能を発揮する熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を適宜用いることができる。
【0019】
熱硬化性樹脂としては、フェノール、エポキシ、不飽和ポリエステル、ユリア、メラミン、ジアリルフタレート、ケイ素、ビニルエステル、ポリイミド、ポリウレタン等の各種樹脂のうちの1種または2種以上を例示することができる。また、樹脂には、硬化剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、フタル酸エステル等のエステル類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS、AS、ナイロン等のポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド等の各種樹脂のうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0021】
非木質系材料は、特に限定されないが、無機材料と有機材料およびそれらの複合材料などを例示することができる。
【0022】
無機材料としては、金属、セラミックス、ガラス、炭素、鉱物、各種無機化合物等などを例示することができる。
【0023】
有機材料としては、プラスチック、ゴム、紙、綿、各種有機化合物等の天然物や人工物などを例示することができる。
【0024】
また、非木質系材料の表面には、塗料、接着剤等の各種コーティング剤が塗布されていてもよい。
【0025】
非木質系材料の硬さや強度は特に限定されないが、接合時の圧力下で変形または破壊しないものを適宜選択することができる。また、非木質系材料は、後述する塑性流動時の木質系材料または木質系複合材料よりも硬い材質であることが好ましい。
【0026】
非木質系材料は、その大きさや形状は特に限定されないが、表面に、凹部または凸部の少なくともいずれかを有している。凹部または凸部は、1または2以上形成されていてよい。ここで、非木質系材料の凹部には、溝、空隙、切欠き、窪み、穴などの各種の形態が含まれ、非木質系材料の凸部には、突起、段、凸条などの各種の形態が含まれる。より具体的には、例えば、凹部の場合、深さ0.05~100mm、直径または幅0.1~100mmの範囲を例示することができ、好ましくは、深さ0.1~10mm、直径または幅1~10mmの範囲を例示することができる。例えば、凸部の場合、高さ0.05~100mm、直径または幅0.1~100mmの範囲を例示することができ、好ましくは、高さ0.1~10mm、直径または幅1~10mmの範囲を例示することができる。
【0027】
凹部の深さ、幅、凸部の高さ、幅などがこの範囲であると、後述するように、非木質系材料の凹部の内部や凸部の周囲に塑性流動化した木質系材料の木質繊維細胞が侵入しやすく、木質系材料と非木質系材料の接合強度を高めることができる。
【0028】
さらに、木質系材料は、例えば、防耐火性、耐久性、耐候性、寸法安定性、成形加工性などを改良する目的から、各種の改質処理がなされていてもよい。具体的には、化学的な改質処理としては、例えば、公知のエステル化剤やエーテル化剤による処理などが挙げられ、本発明者らが提案するエステル化処理、改質木材の製造方法(特許文献4)などを考慮することもできる。
【0029】
本発明の接合部材は、優れた接合強度と寸法や物性の安定性を有するため、例えば、建築用部材、自動車用部材、家具、日用品および電化製品用部材などに利用することができる。
【0030】
次に、本発明の接合部材の製造方法の一実施形態について説明する。図1は、本発明の接合部材の製造方法の一実施形態を例示した接合部材の断面を示した模式図である。本発明の接合部材について説明した内容と共通する内容についての説明は省略する。
【0031】
本発明の接合部材の製造方法は、
表面に凹部および/または凸部を有する非木質系材料が設置された金型内に木質系材料を投入する第1工程、および、
前記金型を加熱することで前記木質系材料を加熱して軟化させるとともに、この木質系材料を加圧することで塑性流動させる第2工程
を含んでいる。
【0032】
以下、各工程について説明する。
【0033】
第1工程では、非木質系材料が設置された金型内に木質系材料を投入する。金型は、特に限定されず、一般的な樹脂成形におけるインサート成形に使用されるものを使用することができる。この金型内には、予め非木質系材料が固定しておくことができ、ここに木質系材料を投入する。
【0034】
第2工程では、金型を加熱することで木質系材料を加熱して軟化させるとともに、この木質系材料を加圧することで塑性流動させる。
【0035】
この第2工程では、繊維状細胞が特定方向に配列した凝集構造体である木質系材料に対して、膨潤状態の木質材料に熱をかけて軟化状態とし、圧力を作用させることで概ね細胞構造を維持したまま塑性流動が生じる現象を利用している。第2工程では、塑性流動によって、木質系材料が非木質系材料の凹部の内部または凸部の周囲に入り込んで充填され、木質系材料と非木質系材料とが接合、一体化する。
【0036】
ここで、本発明において、「塑性流動」とは、木質系材料の木質繊維細胞が元来有している細胞壁の破壊をほとんど伴わず、木質繊維細胞が相互に位置変化し、外力を除いてもその変形が残留することを言う。なお、図2に例示したように、例えば、釘を木質系材料に打ち込んだ場合、釘と木質系材料との接触面における木質繊維細胞の細胞壁が破壊され、細胞の変形、破壊が生じるとともに、木質繊維細胞の相互の位置は変化しない。
【0037】
図1に例示した形態では、金型を加熱し、木質系材料の上方から型(パンチ)で押圧することで、木質系材料を加熱・加圧している。
【0038】
金型の加熱温度は、投入する木質系材料を一旦軟化させた後、硬化させる温度域であり、かつ、木質系材料の熱分解温度よりも低い温度に設定する。具体的には、金型の加熱温度は、20~200℃が好ましく、100~180℃であることが好ましい。また、これらの温度範囲は1段階に設定してもよいし、木質系材料の軟化時と硬化時の設定温度を段階的に変化させてもよい。成形時間の短時間化のためには、比較的高い温度設定(150
~180℃)をすることも可能である。
【0039】
さらに、金型の加熱時における圧力は、1~600MPaの範囲を例示することができる。木質系材料を十分に塑性流動させるためには、5~600MPaの範囲を好ましく例示することができる。また、圧力の上限は接合対象の非木質系材料が変形しない範囲で設定することができる。
【0040】
また、上記圧力負荷を持続する時間(加圧時間)については、木質系材料が十分に硬化する時間を確保する必要がある。例えば、木質系材料に熱硬化性樹脂が含浸されている場合は、樹脂が加熱温度において十分に硬化する時間を確保することが望ましく、用いる樹脂にも依存するが、10秒~30分の範囲を例示することができる。また、木質系材料に熱可塑性樹脂が含浸されている場合は、樹脂が冷却によって硬化するまでの時間を確保することが望ましく、金型の冷却速度にも依存するが、10秒~60分の範囲を例示することができる。
【0041】
図1に例示したように、本発明の接合部材の製造方法では、優れた強度特性を持つ木質繊維細胞が非木質系材料の凹部の内部または凸部の周囲に侵入することで、接合部が強固に補強された接合部材を得ることができる。また、非木質系材料の凹部の内部または凸部の周囲に侵入した木質繊維細胞をランダムに配向させることで、木質系材料が有する材料強度の異方性を解消でき、接合部における力学的異方性を解消することができる。木質系材料と非木質系材料を強固に密着させ、その密着部分近傍における木質系材料または木質系複合材料の材料強度および寸法安定性を高めることで、より高い接合強度と環境変化に影響されない接合部材が提供される。
【0042】
そして、本発明の接合部材の製造方法は、一般的な樹脂成形におけるインサート成形と同様の手段であり、一段階の加工で木質系材料と非木質系材料の接合部材を作製することができる。したがって、従来の木質系材料の接合方式における接着やボルト締め等の手間やコストを抑制することができる。
【0043】
本発明の接合部材および接合部材の製造方法は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0044】
以下、本発明の接合部材とその製造方法について実施例とともに説明するが、本発明の接合部材とその製造方法は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
<1>接合部材の製造
木質系複合材料としては、フェノール樹脂を含浸したスギの単板を用いた。
【0046】
スギの単板に水溶性フェノール樹脂(固形分濃度30%)を減圧、加圧することによって含浸させ、35℃以下で風乾により乾燥させることで調整した。この結果、スギ単板の全体重量に対して、50%の樹脂が含まれた木質系複合材料が作製された。
【0047】
接合対象となる非木質系材料としては、表面に深さ最大0.5mm、幅3mmの溝が存在する真鍮金具(立目ローレット袋ナット M10、長さ22mm、直径13mm)を用いた。
【0048】
そして、非木質系材料を予め金型(リテーナ)内に固定したうえで、木材系複合材料を積層して金型間に設置し、金型を外部から約160℃に加熱しながら、単軸プレスによってパンチ圧力135MPaで12分間加圧することにより一体化し、ドアハンドル形状の接合部材を成形した(実施例1)。
【0049】
<2>接合部材の軸方向断面の観察
図3に、上記<1>で作製した実施例1の接合部材の軸方向断面の写真を示す(図3(b))。また、比較例1として、従来の接合方法(接着)により作製した従来のドアハンドル(木材成形品)の軸方向断面の写真を示す(図3(a))。比較例1のドアハンドルは、樹脂は含浸されていない無垢の木材(ブナ)を予めドアハンドルの外形に切削加工し、表面塗装を施した上で、木材の繊維方向に切削により直径13mm、深さ50mmの下穴処理を施し、その部分にエポキシ樹脂を塗布した非木質系材料を挿入することで作製した。
【0050】
また、図4に比較例1と実施例1の接合部材の接合部拡大写真を示す。
【0051】
比較例1(図4(a))は非木質系材料の溝に接着剤のみが侵入し、接着剤を介して木材と非木質系材料が接合しているのに対して、実施例1(図4(b))では非木質系材料の溝に木質系複合材料が侵入し、一体化されていることが確認された。
【0052】
図5に比較例1と実施例1の接合部材の接合部をさらに拡大した顕微鏡写真を示す。
【0053】
比較例1(図5(a)(c))は、非木質系材料(真鍮)の溝内部に接着剤のみが侵入し、木質細胞繊維は侵入していなかった。さらに、溝部分以外の非木質系材料の表面においても木質細胞繊維と非木質系材料が直接接触するのではなく、接着剤の層を介して接合されていた(図5(c))。
【0054】
一方で、実施例1(図5(b)(d))は、非木質系材料の溝内部に木質系繊維細胞が侵入し、非木質系材料の表面と一体化されていた。また、その木質系繊維細胞は、元来もつ細胞壁構造を維持した状態で、細胞の相互の位置関係を変化させて成形されていた。さらに、その木質系繊維細胞は内腔が閉塞、または内腔に含浸樹脂が充填されて、高密度化していることが確認された。
【0055】
<3>接合部材の引き抜き試験
上記<1>で作製した比較例の木製ハンドル(木材成形品)と実施例1のドアハンドル(木質流動成形品)を用いて、接合された非木質系材料の引き抜き試験を行った。試験機は、オートグラフAG 5kN(株式会社島津製作所製)を使用した。非木質系材料の真鍮金具にインサートナットにボルト(M10)を挿入して試験機土台に固定し、ハンドルの頭部分を5mm/分で引っ張り、真鍮金具の引き抜き時の荷重(引き抜き荷重)を、引き抜き強度の指標として測定した。
【0056】
その結果を、表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この結果から、実施例1の接合部材は、従来の接着による接合部材(比較例1)よりも10倍以上の高い引き抜き荷重(すなわち引き抜き強度)を有し、木質系複合材料と非木質系材料の接合強度に優れていることが確認された。
【0059】
同様に、従来の木ネジによる接合部材(比較例2)と、釘打ちによる接合部材(比較例3)を作製し、接合された非木質系材料の引き抜き試験を行った。比較例2の木ネジによる接合部材は、樹脂は含浸されていない無垢の木材(ブナ)に、木材の繊維方向に切削により直径3mm、深さ12.5mmの下穴処理を施し、その部分に呼び径4.5mm、長さ38mmの木ネジを深さ25mmまでねじ込むことで作製した。比較例3の釘打ちによる接合部材は、樹脂は含浸されていない無垢の木材(ブナ)に、下穴を開けずに、繊維方向に太さ2.8mm、長さ50mmの釘を深さ27mmまで打ち込むことで作製した。試験機は、オートグラフAG-X plus 20kN(株式会社島津製作所製)を使用した。実施例1の接合部材は、比較例2、3の接合部材よりも大幅に木質系複合材料と非木質系材料の接合強度が向上していることが確認された。
【0060】
実施例1の接合部材が接合強度に優れる理由として、強固な木質繊維細胞の細胞壁がほとんど破壊されることなく非木質系材料の表面の凹部の内部または凸部の周囲に入り込んで充填されている効果に加えて、その木質系繊維細胞に含浸された樹脂の硬化により細胞壁自体の機械的強度が強化されたこと、さらに充填された木質繊維細胞が細胞壁の変形により圧密化(高密度化)されていることなどが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の接合部材は、従来の木質系材料と非木質系材料の接合部材よりも高い接合強度を有することから、例えば、建築用の非構造部材や構造部材として利用できる。また、この接合部材は接合と同時に多種多様な形状に成形できることから、内装パネル等の自動車用部材、電化製品の筐体等の家電部材、建材等の構造部材、家具、日用品などの幅広い用途として利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5