(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031038
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】エレクトレット膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240229BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08J7/00 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134330
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】田口 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】石田 謙司
(72)【発明者】
【氏名】堀家 匠平
(72)【発明者】
【氏名】小柴 康子
(72)【発明者】
【氏名】斧原 誠司
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
【Fターム(参考)】
4F071AA43
4F071AA88
4F071AA89
4F071AF38
4F071AG17
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F073AA18
4F073AA32
4F073BA25
4F073BB01
4F073CA21
(57)【要約】
【課題】電荷保持性能に優れるエレクトレット膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を準備する工程Aと、液晶性樹脂を溶媒に溶解して液晶性樹脂溶液を調製する工程Bと、液晶性樹脂溶液を用いて製膜する工程Cと、を含む、エレクトレット膜の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を準備する工程Aと、
前記液晶性樹脂を溶媒に溶解して液晶性樹脂溶液を調製する工程Bと、
前記液晶性樹脂溶液を用いて製膜する工程Cと、
を含む、エレクトレット膜の製造方法。
【請求項2】
前記工程Cにおいて、前記液晶性樹脂溶液を用い、溶液製膜法により製膜する、請求項1に記載のエレクトレット膜の製造方法。
【請求項3】
前記工程Cにおいて、前記液晶性樹脂溶液をゲル化し、得られたゲルを膜状にして加熱乾燥して製膜する、請求項1に記載のエレクトレット膜の製造方法。
【請求項4】
非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を含み、X線回折法で測定した結晶化度が35%以下である、エレクトレット膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂を用いてなるエレクトレット膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットは、電場を印加すると表面に電荷を生じ、その電場を去っても半永久的に電荷が保持される材料であり、電気-運動エネルギー変換材料(静電誘導型変換素子)として、スピーカー、ヘッドフォン、マイクロフォン等の電気音響変換材料、あるいは超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー等の各種センサー等に利用されている。
【0003】
エレクトレットのうち、ポリマー材料からなるものとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の強誘電性を示す材料が知られている。
【0004】
一方、液晶性樹脂は、優れた流動性、機械強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランスよく有するため、高機能エンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。従って、エレクトレットを液晶性樹脂から構成することができれば有用である。液晶性樹脂からなるエレクトレットとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸残基を含む、溶融時に異方性を示すポリエステル等の成形体を熱エレクトレット化して得られるものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のエレクトレットを膜状に形成した場合、その膜に電場を印加して電荷を生じさせても短時間で電荷が消失する傾向にある。すなわち、従来のエレクトレット膜は電荷保持性能が不十分であり、改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、電荷保持性能に優れるエレクトレット膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を準備する工程Aと、
前記液晶性樹脂を溶媒に溶解して液晶性樹脂溶液を調製する工程Bと、
前記液晶性樹脂溶液を用いて製膜する工程Cと、
を含む、エレクトレット膜の製造方法。
【0009】
(2)前記工程Cにおいて、前記液晶性樹脂溶液を用い、溶液製膜法により製膜する、前記(1)に記載のエレクトレット膜の製造方法。
【0010】
(3)前記工程Cにおいて、前記液晶性樹脂溶液をゲル化し、得られたゲルを膜状にして加熱乾燥して製膜する、前記(1)に記載のエレクトレット膜の製造方法。
【0011】
(4)非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を含み、X線回折法で測定した結晶化度が35%以下である、エレクトレット膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電荷保持性能に優れるエレクトレット膜及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態における液晶性樹脂のコロナ放電処理前(a)、及びコロナ放電 処理後(b)におけるポリマー分子の状態を模式的に示す図である。
【
図2】実施例・比較例において作製したエレクトレット膜の経過時間に対する表面電荷密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<エレクトレット膜の製造方法>
本実施形態のエレクトレット膜の製造方法は、非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を準備する工程Aと、液晶性樹脂を溶媒に溶解して液晶性樹脂溶液を調製する工程Bと、液晶性樹脂溶液を用いて製膜する工程Cと、を含む。
【0015】
本実施形態のエレクトレット膜の製造方法は、端的に言えば、上記のような液晶性樹脂の溶液を調製し、その液晶性樹脂溶液を用いて製膜してエレクトレット膜を得る。そして、そのように製膜することで、得られた膜の内部に電荷をトラップし得るトラップサイトが無数に発現し、電荷保持性能が向上すると推察される。
以下、各工程について詳述する。
【0016】
[工程A]
工程Aでは、非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を準備する。
【0017】
本実施形態において、液晶性樹脂は、非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含むが、93mol%未満であると、誘電特性が低下する。非対称性芳香族モノマー残基は、97~100mol%含むことが好ましい。
【0018】
また、液晶性樹脂は、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満であるが、1.0dL/g未満であると、強誘電性を発現せず、6.0dL/g以上であると、コロナ放電による配向制御が困難となる。当該極限粘度は2.5~5.5dL/gが好ましく、4~5dL/gがより好ましい。
なお、極限粘度は、JIS K7367に準拠し、溶媒にはペンタフルオロフェノールとクロロホルムの50/50の混合溶媒を使用して測定して得ることができる。
【0019】
本実施形態において、液晶性樹脂としては、全芳香族ポリエステル又は全芳香族ポリエステルアミドを用いることができる。
【0020】
本実施形態において、液晶性樹脂は、上記の通り、非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を所定の割合で有する。非対称性芳香族モノマー残基の由来となるモノマーとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、芳香族アミノカルボン酸、及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0021】
非対称性芳香族モノマー残基は、下記構造式(I)~(V)で表される構造単位のうちの少なくとも1種の構造を有することが好ましい。換言すると、本実施形態において、非対称性芳香族モノマー残基の由来となるモノマーは、下記構造式(I)~(V)で表される構造単位のうちのいずれかを有すること好ましい。
【0022】
【0023】
構造式(I)で表される構造単位を有するモノマーとしては、4-ヒドロキシ安息香酸(以下、「HBA」ともいう。)が挙げられる。
構造式(II)で表される構造単位を有するモノマーとしては、3-ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
構造式(III)で表される構造単位を有するモノマーとしては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(以下、「HNA」とも呼ぶ。)が挙げられる。
構造式(IV)で表される構造単位を有するモノマーとしては、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸(以下、「HBCA」とも呼ぶ。)が挙げられる。
構造式(V)で表される構造単位を有するモノマーとしては、N-アセチル-アミノ安息香酸が挙げられる。
なお、いずれも重合後に構造式(I)~(V)で表される構造単位となればよく、上記のように例示したモノマーに限定されることはない。例えば、上記例示のモノマーの水酸基又はアミノ基をアシル化したものを用いてもよい。
【0024】
本実施形態において、液晶性樹脂としては、上記構造式(I)~(V)で表される構造単位のいずれかを有するモノマー2種以上を共重合したものを挙げることができる。例えば、構造式(I)で表される構造単位を有するモノマーと、構造式(III)で表されるモノマーとを共重合したものであることが好ましい。具体的には、HBAとHNAとが共重合したものが挙げられ、その場合の共重合比(HBA:HNA)は、60:40~90:10であることが好ましい。
【0025】
本実施形態における液晶性樹脂において、非対称性芳香族モノマー残基のうち、キンク構造を有するモノマー残基が0.1mol%以上45mol%以下であることが好ましい。キンク構造を有するモノマーが上記範囲内であると、加工性が向上し、融点の制御が容易となる。
キンク構造を有するモノマー残基としては、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸等の各モノマーの残基が挙げられ、中でも、3-ヒドロキシ安息香酸残基又は6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸残基であることが好ましい。
【0026】
[工程B]
工程Bでは、液晶性樹脂を溶媒に溶解して液晶性樹脂溶液を調製する。すなわち、工程Bにおいては、工程Aで準備した液晶性樹脂を溶媒に溶解し、後述する工程Cにおいて用いられる液晶性樹脂溶液を調製する。
【0027】
工程Bで使用する溶媒としては、液晶性樹脂が溶解し得る溶媒であればよく、例えば、ペンタフルオロフェノール(PFP)、3,5-ビストリフルオロメチルフェノール(BTFMP)等が挙げられる。
【0028】
液晶性樹脂溶液中の液晶性樹脂の濃度は、工程Cにおける製膜性の向上とトラップサイトを無数に発現させる観点から、0.1~5質量%とすることが好ましく、0.5~3質量%とすることがより好ましく、0.7~1.5質量%であることがさらに好ましい。別の観点からは、液晶性樹脂溶液は、工程Cにおいて塗布する温度において、飽和溶液であることが好ましい。
【0029】
液晶性樹脂の溶媒への溶解は、定法に従い行うことができる。すなわち、必要に応じて加熱、攪拌する等、液晶性樹脂が溶解しやすい状態として溶解することができる。
【0030】
[工程C]
工程Cでは、工程Bで調製した液晶性樹脂溶液を用いて製膜する。すなわち、工程Cにおいては、液晶性樹脂溶液を、支持基体上に塗布すること等により膜状とし、加熱乾燥することで製膜してエレクトレット膜が得られる。
【0031】
工程Cにおいては、液晶性樹脂溶液を用いて製膜するのであるが、以下において、2つの態様について説明する。第1の態様は、溶液製膜法により製膜する態様であり、第2の態様はゲル状態を介して製膜する態様である。
先ず、溶液製膜法により製膜する第1の態様について説明する。
【0032】
溶液製膜法では、支持基体上に液晶性樹脂溶液を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を加熱乾燥することで製膜することができる。第1の態様において形成される膜は多結晶構造と推察され、結晶粒界にトラップサイトが無数に存在し、電荷保持性能に優れると考えられる。
【0033】
液晶性樹脂溶液を支持基体上の塗布するための塗布法は特に限定はなく、例えば、スピンコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、ディップコーティング法等、公知の塗布法を採用することできる。
【0034】
塗膜の厚さとしては、最終結果物であるエレクトレット膜の厚さを考慮して決定されるが、例えば、0.1~100μmとすることができる。
【0035】
上記の塗布法により液晶性樹脂溶液を支持基体上に塗布して塗膜を形成後、塗膜を加熱乾燥する。このときの加熱温度は、溶媒の沸点近傍とすることが好ましく、具体的には140~160℃とすることができる。
【0036】
次いで、ゲル状態を介して製膜する第2の態様、すなわち、液晶性樹脂溶液をゲル状態にして製膜する態様について説明する。第2の態様においては、液晶性樹脂溶液をゲル化し、得られたゲルを膜状にして(以下、この膜状のゲルを「ゲル状膜」とも呼ぶ。)加熱乾燥して製膜する。第2の態様においては、液晶性樹脂溶液をゲル化すると、1軸配向していた液晶性樹脂の結晶性が低下しアモルファス状態(無配向)となり、トラップサイトが無数に発現する。そして、その状態で膜化することで、トラップサイトが保持されたままポリドメイン構造となり、電荷保持性能に優れると考えられる。
【0037】
液晶性樹脂溶液のゲル化は、貧溶媒を添加する、高温下で飽和した溶液を冷却し析出させる等によって行うことができる。貧溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルム、ジブロモクロロメタン等が挙げられる。
【0038】
ゲル状膜の厚さは、第1の態様と同様、最終結果物であるエレクトレット膜の厚さを考慮して決定されるが、例えば、80~100μmとすることができる。
【0039】
液晶性樹脂溶液をゲル化して製膜するまでの過程の一例を示す。液晶性樹脂のペンタフルオロフェノール(以下、「PFP」とも呼ぶ。)溶液に対して、例えば、クロロホルムを5分おきに10滴ずつ滴下する。すると、溶液は二層に分離し、上層にゲル及びPFPの層、下層にクロロホルム及びPFPの層が得られる。そして、下層を除去して、上層を支持基体に載置する。このとき、上層のゲル及びPFPの層が柔らかくて支持基体に載置することが困難な場合、PFPを一定量蒸発させ、ある程度硬くすることが好ましい。さらにPFPを蒸発させるとゲル状膜が得られる。そして、得られたゲル状膜を加熱乾燥することで膜が得られる。このときの加熱温度は140~160℃とすることが好ましい。
第2の態様において、ゲル状膜を加熱乾燥する際、ゲル状膜を加圧するかは任意であるが、加圧せずにそのままの状態で加熱することが好ましい。
【0040】
いずれの態様においても、得られる膜を支持基体からの剥離を容易にするためには、離型層を設けることができる。すなわち、支持基体上に先ず離型層を形成し、その後離型層状に液晶性樹脂溶液を塗布することが好ましい。
【0041】
本実施形態においては、以上のようにして工程Cにより得られた膜に対して、分極処理を施してエレクトレット膜が得られる。例えば、コロナ電流値が-30μA以下又は30μA以上となるようにコロナ放電処理を実行して分極処理を施すことが好ましい。そして、この処理により、液晶性樹脂に電荷を注入してエレクトレット膜として機能させるとともに、特に芳香環を垂直方向に配向させることで分極を大きくすることができる。
【0042】
図1は、コロナ放電処理前(a)及びコロナ放電処理後(b)における液晶性樹脂表面の分子の状態を模式的に示している。
図1においては、基板10上に液晶性樹脂分子12が膜状に形成された状態を示している。
図1(a)においては、液晶性樹脂分子12の芳香環12Aは、基板と平行に配向しているが、コロナ放電処理後である
図1(b)においては表面近傍の芳香環12Aが基板と垂直に配向している。
【0043】
コロナ放電処理は、液晶性樹脂に対する分極処理のみならず、ポリマー分子、特に芳香環を垂直方向に配向させるために実行される。より具体的には、コロナ電流値が-30μA以下又は30μA以上となるようにコロナ放電処理が実行されることが好ましい。従って、当該コロナ放電処理は、分極のみを目的として実行されるコロナ放電処理とは異なり、ポリマー分子、特に芳香環が垂直方向に配向するように諸条件が設定される。当該諸条件としては、印加電圧は-4.5~-6kV又は4.5~6kV、ステージ温度は30~130℃、掃引速度は1~10mm/s、掃引回数は0~40回が好ましい。
【0044】
本実施形態において、エレクトレット膜の膜厚は、電荷を蓄積しやすくする観点から0.1~100μmであることが好ましく、0.1~70μmであることがより好ましく、0.1~40μmであることがさらに好ましい。
【0045】
<エレクトレット膜>
本実施形態のエレクトレット膜は、非対称な分子構造を有する非対称性芳香族モノマー残基を93~100mol%含み、かつ、極限粘度が1.0dL/g以上6.0dL/g未満である液晶性樹脂を含み、X線回折法で測定した結晶化度が35%以下である。このようなエレクトレット膜は、例えば、上述の本実施形態のエレクトレット膜の製造方法により製造することができる。すなわち、本実施形態のエレクトレット膜の製造方法においては、液晶性樹脂をそのまま製膜するのではなく、溶液として製膜するため結晶化度が低下する。ひいては、本実施形態のエレクトレット膜は、上述の説明の通り、電荷保持特性に優れる。
【0046】
本実施形態において、エレクトレット膜の結晶化度は、35%以下であるが、10~30%が好ましく、15~25%がより好ましい。本実施形態において、結晶化度は、広角X線回折測定を行い、W.Ruland, Acta Cryst.,14, 1180 (1961)の方法に従って算出することができる。
【0047】
また、本実施形態において、エレクトレット膜と電極とが接合していることが好ましい。電極が接合していることにより、帯電量が増大するとともに、放電しにくくなりさらに電荷保持特性に優れる。当該電極は、液晶性樹脂の一方の面に接合してもよいし、両面に接合してもよい。
【0048】
エレクトレット膜に接合する電極の材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、プラチナ、導電性高分子等が挙げられ、中でも、アルミニウム、金、銅が好ましい。電極を膜状とした場合、その膜厚は10nm~1mmが好ましく、50nm~0.1mmがより好ましい。
【実施例0049】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(液晶性ポリエステルLCP1の製造方法)
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、脂肪酸金属塩触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(原料)
4-ヒドロキシ安息香酸;1660g(73mol%)
2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸;837g(27mol%)
アシル化剤(無水酢酸);1714g
【0051】
重合容器に原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に325℃まで3.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。
得られたポリマーは、0.1質量%濃度、60℃でペンタフルオロフェノールとクロロホルムの50/50の混合溶媒中において測定したところ4.7dL/gの極限粘度を有していた。
なお、得られたポリマーの非対称性芳香族モノマー残基は、100mol%、キンク構造を有するモノマー残基は、27mol%であった。
【0052】
[実施例1]
ペンタフルオロフェノール(PFP)2000mgに21.5mgのLCP1を加え、60℃に加熱し、1.08質量%のLCP1溶液を調製した。調製したLCP1溶液を40℃に保ち、クロロホルムを、5分おきに1回当たり10滴ずつ、合計36回滴下した。滴下総量は3.85gであった。クロロホルムの滴下後、相分離し、上層がLCP1のゲル及びPFPの層で、下層がPHP及びクロロホルムの層となった。次いで、下層を除去し、室温で17時間放置し、上層の溶媒を蒸発させ、LCP1のゲル状膜を得た。さらに、ゲル状膜に対して、1.29kg/cm2の加圧(圧迫)をしつつ160℃で5分間加熱し、膜状体を得た。
得られた膜状体に対して、100nm厚のアルミニウム電極を4×10-4Paの条件で真空蒸着して製膜し、電極付液晶性樹脂膜を形成した。
【0053】
液晶性樹脂膜を形成後、トレック・ジャパン(株)製、高電圧電源を用い、下記条件によりコロナ放電処理を行い、エレクトレット膜とした。なお、コロナ電流値は、コロナ放電処理時に発生した電流値を測定した。
(コロナ放電処理条件)
印加電圧:-5.5kV
温度:30℃
掃引速度:10mm/s
掃引回数:40回
【0054】
(結晶化度の測定)
得られたエレクトレット膜の結晶化度を次のようにして測定した。Rigaku社製、試料水平型多目的X線回折装置「Ultima IV RINT-21」にて、線源はCuKα線を用い、スキャン速度を3°/分で走査して測定した。そして、得られた回折曲線をガウス関数にて、回帰分析し、15°から30°までに現れるピークの総面積と19°付近に現れる鋭いピークの比を結晶化度として算出した。測定結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
ゲル状膜に対する加圧(圧迫)をしなかったこと以外は実施例1と同様にしてエレクトレット膜を得た。そして、実施例1と同様にして、エレクトレット膜の結晶化度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られたLCP1溶液にクロロホルム1.1gを滴下して混合し、0.7質量%のLCP1クロロホルム混合溶液を得た。表面にポリビニルアルコール膜を形成したガラス基板の表面に、LCP1クロロホルム混合溶液を滴下して膜状にした。室温で14時間放置し。その後、水中に3時間浸漬した。その後、水中から膜を取り出し、エレクトレット膜を得た。そして、実施例1と同様にして、エレクトレット膜の結晶化度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
LCP1のポリマーを溶融成膜してフィルムを得た。なお、溶融成膜機としては、(株)東洋精機製作所製ラボプラストミルに単軸押出機及びTダイを設置したものを使用した。得られたフィルムに対して、100nm厚のアルミニウム電極を4×10-4Paの条件で真空蒸着して製膜し、電極付液晶性樹脂膜を形成した。その後、実施例1と同様にしてコロナ放電処理を行い、エレクトレット膜を得た。そして、実施例1と同様にして、エレクトレット膜の結晶化度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0058】
[評価]
(1)表面電荷密度の測定
得られたエレクトレットの表面(コロナ放電処理直後)の電荷密度を、関西電子(株)製、モンローエレクトロニクス表面電位計Model244Aを用い、大気下にて測定した。測定結果を表1に示す。
(2)コロナ放電処理後24時間経過後の表面電荷密度の測定
コロナ放電処理後24時間経過後のエレクトレットの表面の電荷密度を上記(1)と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。なお、経時変化中は、ドライボックスには入れずに、23℃、50%RHの環境下で放置した。
【0059】
【0060】
表1より、実施例1~3は結晶化度が35%以下のエレクトレット膜が得られ、いずれも、コロナ放電処理後24時間経過後の表面電荷密度が比較例1よりも高い。すなわち、実施例1~3のエレクトレット膜は電荷保持特性が高い。
【0061】
一方、実施例1~3及び比較例1のエレクトレット膜について、経過時間に対する表面電荷密度の変化についてのグラフを
図2に示す。
図2において、実線のグラフが実施例1を、破線のグラフが実施例2を、一点鎖線のグラフが実施例3を、点線のグラフが比較例1を示す。
図2からも、実施例1~3の方が比較例1よりも表面電荷保持特性が高いことが分かる。