(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031046
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】全固体型カリウムイオン選択性電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/333 20060101AFI20240229BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N27/333 331F
G01N27/333 331C
G01N27/333 331E
G01N27/416 351B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134340
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 利治
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】武居 祐子
(72)【発明者】
【氏名】青木 一真
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】多々良 涼一
(72)【発明者】
【氏名】石原 研太
(57)【要約】
【課題】より安定性の高いカリウムイオン選択性電極およびその製造方法を提供する。
【解決手段】全固体型カリウムイオン選択性電極は、導体と、前記導体の表面に形成されたインサーション材料と、前記インサーション材料を覆うカリウムイオン感応膜と、を備える。前記インサーション材料は、プルシアンブルー類似体粒子および導電材料粒子を含む混合材料であり、前記プルシアンブルー類似体粒子は、構造式K
xFe[Fe(CN)
6]
y・nH
2Oで表され、前記プルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持ち、xは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の表面に形成されたインサーション材料と、
前記インサーション材料を覆うカリウムイオン感応膜と、
を備え、
前記インサーション材料は、プルシアンブルー類似体粒子および導電材料粒子を含む混合材料であり、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、構造式KxFe[Fe(CN)6]y・nH2Oで表され、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持ち、
xは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数である、
全固体型カリウムイオン選択性電極。
【請求項2】
導体と、
前記導体の表面に形成されたインサーション材料と、
前記インサーション材料を覆うカリウムイオン感応膜と、
を備えた、全固体型カリウムイオン選択性電極の製造方法であって、
前記インサーション材料は、プルシアンブルー類似体粒子および導電材料粒子を含む混合材料であり、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、構造式KxFe[Fe(CN)6]y・nH2Oで表され、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持ち、
xは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数であり、
前記方法は、
スラリーを導体上に供給し、前記スラリーを乾燥させることによって、前記導体の表面に合剤膜を形成する工程と、
前記合剤膜を第1の塩化カリウム水溶液に浸漬させ、前記プルシアンブルー類似体におけるK+の分布を均一にすることによって、前記導体の表面にインサーション材料を形成する工程と、
前記インサーション材料の表面にカリウムイオン感応膜原液を供給し、前記カリウムイオン感応膜原液を乾燥させることによって、前記インサーション材料の表面に、イオン感応原膜を形成する工程と、
前記イオン感応原膜を、第2の塩化カリウム水溶液に浸漬させることによって、前記インサーション材料の表面にカリウムイオン感応膜を形成する工程と、
を備える、全固体型カリウムイオン選択性電極の製造方法。
【請求項3】
前記方法は、前記スラリーを製造する工程を備え、
前記スラリーを製造する工程は、単斜晶系プルシアンブルー類似体を酸化させることにより、少なくとも一部に立方晶系の結晶構造を含むプルシアンブルー類似体粒子を合成する工程を含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記カリウムイオン感応膜を形成する前記工程の後に、電極をK2SO4水溶液中においてK2FeFeの酸化還元電位で電位保持する工程を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記スラリーを製造する工程を備え、
前記スラリーを製造する工程は、
プルシアンブルー類似体粒子と、
アセチレンブラックまたはケッチェンブラックまたはマルチウォールカーボンナノチューブと、
ポリフッ化ビニリデンと、
を混合させる工程を含む、請求項2または3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体型カリウムイオン選択性電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン選択性電極は、液体中におけるイオン濃度を測定する装置等において用いられ、特定のイオンに反応して電位変化を生じる。応用分野は様々であり、環境関連技術、医療関連技術、農業関連技術、等において用いられる。
【0003】
様々な種類のイオンに感応するイオン選択性電極が知られている。特許文献1には、プルシアンブルー類似体を含むマグネシウムイオン選択性電極およびカルシウムイオン選択性電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、カリウムイオン選択性電極において、安定性に改善の余地があるという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、より安定性の高いカリウムイオン選択性電極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る全固体型カリウムイオン選択性電極の一例は、
導体と、
前記導体の表面に形成されたインサーション材料と、
前記インサーション材料を覆うカリウムイオン感応膜と、
を備え、
前記インサーション材料は、プルシアンブルー類似体粒子および導電材料粒子を含む混合材料であり、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、構造式KxFe[Fe(CN)6]y・nH2Oで表され、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持ち、
xは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数である。
【0008】
本発明に係る全固体型カリウムイオン選択性電極の製造方法の一例は、
導体と、
前記導体の表面に形成されたインサーション材料と、
前記インサーション材料を覆うカリウムイオン感応膜と、
を備えた、全固体型カリウムイオン選択性電極の製造方法であって、
前記インサーション材料は、プルシアンブルー類似体粒子および導電材料粒子を含む混合材料であり、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、構造式KxFe[Fe(CN)6]y・nH2Oで表され、
前記プルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持ち、
xは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数であり、
前記方法は、
スラリーを導体上に供給し、前記スラリーを乾燥させることによって、前記導体の表面に合剤膜を形成する工程と、
前記合剤膜を第1の塩化カリウム水溶液に浸漬させ、前記プルシアンブルー類似体におけるK+の分布を均一にすることによって、前記導体の表面にインサーション材料を形成する工程と、
前記インサーション材料の表面にカリウムイオン感応膜原液を供給し、前記カリウムイオン感応膜原液を乾燥させることによって、前記インサーション材料の表面に、イオン感応原膜を形成する工程と、
前記イオン感応原膜を、第2の塩化カリウム水溶液に浸漬させることによって、前記インサーション材料の表面にカリウムイオン感応膜を形成する工程と、
を備える。
【0009】
一例において、
前記方法は、前記スラリーを製造する工程を備え、
前記スラリーを製造する工程は、単斜晶系プルシアンブルー類似体を酸化させることにより、少なくとも一部に立方晶系の結晶構造を含むプルシアンブルー類似体粒子を合成する工程を含む。
【0010】
一例において、前記方法は、前記カリウムイオン感応膜を形成する前記工程の後に、電極をK2SO4水溶液中においてK2FeFeの酸化還元電位で電位保持する工程を含む。
【0011】
一例において、
前記方法は、前記スラリーを製造する工程を備え、
前記スラリーを製造する工程は、
プルシアンブルー類似体粒子と、
アセチレンブラックまたはケッチェンブラックまたはマルチウォールカーボンナノチューブと、
ポリフッ化ビニリデンと、
を混合させる工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る全固体型カリウムイオン選択性電極およびその製造方法によれば、カリウムイオン選択性電極の安定性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係るイオン選択性電極10の構成。
【
図2】
図1のインサーション材料2を形成するためのスラリーを製造する工程の一部。
【
図3】プルシアンブルー類似体のX線回折測定の結果例。
【
図4】プルシアンブルー類似体の粒径測定の結果例。
【
図10】クロノポテンショメトリーによる分極試験の結果例。
【
図11】交流インピーダンス測定試験の結果例としてのナイキストプロット。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
図1に、本発明の実施形態1に係るイオン選択性電極10の構成を示す。イオン選択性電極10は、全固体型カリウムイオン選択性電極である。
図1(a)は平面図を示し、
図1(b)は
図1(a)のB-B線に沿った断面による断面図を示す。
【0015】
イオン選択性電極10は、エポキシ樹脂5と、エポキシ樹脂5内に配置された銅配線4と、銅配線4に接続されエポキシ樹脂5の表面に露出する白金電極3(導体)と、白金電極3の表面に形成されたインサーション材料2と、インサーション材料2を覆うカリウムイオン感応膜1と、を備える。
【0016】
エポキシ樹脂5に代えて任意の絶縁体を用いることができ、銅配線4および/または白金電極3に代えて任意の導体を用いることができる。
【0017】
インサーション材料2は、プルシアンブルー類似体粒子および導電材料粒子を含む混合材料である。プルシアンブルー類似体粒子は、構造式KxFe[Fe(CN)6]y・nH2Oで表される。ここでxは1.5以上2以下の数であり、2に近いことが好ましい。また、yは0よりも大きく1以下の数であり、0に近いことが好ましい。nは0以上の数である。
【0018】
プルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持つ。プルシアンブルー類似体粒子は、一部に立方晶系の結晶構造を持ってもよい。
【0019】
以下、イオン選択性電極10の製造方法の例を説明する。製造方法は、インサーション材料2を形成するためのスラリーを製造する工程を含み、製造されたスラリーを用いてイオン選択性電極10が製造される。なお、以下では、KxFeFeを含む物質について、xが比較的2に近い場合に「K2FeFe」と表記する場合があるが、この表記は必ずしもxの値が2であることを意味するものではなく、またxの範囲を限定するものでもない。
【0020】
図2に、インサーション材料2を形成するためのスラリーを製造する工程の一部を示す。
図2に示す工程は、とくにスラリーに含まれる活物質を合成する工程である。
【0021】
スラリーに含まれる活物質としてK2FeFeを合成するために、二価の鉄イオンを含むフェロシアン化カリウム水溶液(4mmol K4[FeII(CN)6]・3H2O)100mLに、塩化鉄(II)水溶液(4mmol FeIICl2)100mLを滴下しつつ撹拌する(ステップS1)。これらの溶液には、K2FeFeの粒径制御およびK源として機能するクエン酸三カリウム(1.0M)を含有させると好適である。滴下はたとえば窒素雰囲気下で、0.5mL/minで行われる。撹拌はたとえば撹拌翼を用いて300rpmで行われる。
【0022】
この結果、試料溶液から、単斜晶系プルシアンブルー類似体の白色沈殿が得られる。このようにしてK
2FeFeが合成される。なお、K
2FeFeを合成するための方法は
図2に示すものに限らず、当業者が適宜設計可能である。
【0023】
次に、上記の白色沈殿を撹拌する(ステップS2)。撹拌はたとえば室温、窒素雰囲気下で、撹拌翼を用いて300rpmで15時間行われる。次に、白色沈殿を窒素雰囲気下で吸引濾過する(ステップS3)。次に、白色沈殿を洗浄する(ステップS4)。洗浄は、たとえば窒素雰囲気下で、イオン交換水およびエタノールを用いて行われる。K
2FeFeは大気中で極めて酸化されやすい物質であるため、
図2の工程のうちステップS1~S4は、合成中に酸化されないように、上述の通り窒素雰囲気下で実施することが好適である。
【0024】
次に、白色沈殿を乾燥させる(ステップS5)。乾燥はたとえば100℃で24時間真空引きを行うことによって実施される。
【0025】
ステップS5の結果として得られる粉末試料を、数日間大気暴露させる。これによってK2FeFeの青色粉末が得られる。この青色粉末は、少なくとも一部に立方晶系の結晶構造を含むプルシアンブルー類似体粒子であり、インサーション材料2の活物質となる。青色粉末は、プルシアンブルーとプルシアンホワイトの二相共存体であると考えられる。
【0026】
このように、スラリーを製造する工程は、単斜晶系プルシアンブルー類似体を酸化させることにより、少なくとも一部に立方晶系の結晶構造を含むプルシアンブルー類似体粒子を合成する工程を含む。なお、上述の例では、数日間大気暴露させることによる大気室温での酸化を行ったが、酸化の方法はこれに限らず、電気化学的に酸化させてもよく、他の方法で酸化させてもよい。また、K2FeFeの組成によっては、酸化工程を省略してもよい。
【0027】
図3に、プルシアンブルー類似体のX線回折測定の結果例を示す。
図3(a)は比較例としてx=0.36,y=0.67の場合を示し、
図3(b)は本実施形態の一例としてx=1.69,y=0.86の場合を示す。
図3の構造式中の「□」は[Fe(CN)
6]欠陥を示す。
【0028】
実施形態1ではx=1.69のものを用いたが、xの値は1.69に限られず、たとえば1.65としてもよい。xが1.5以上2以下であれば同等または同質の特性を示すと考えられる。同様に、実施形態1ではy=0.86のものを用いたが、yの値は0よりも大きく1以下であればよい。なお、上述のように、xは2に近いことが好ましく、yは0に近いことが好ましい。
【0029】
各図および本明細書において、「立方晶系」(cubic)を「c-」と略記し、「単斜晶系」(monoclinic)を「m-」と略記する場合がある。たとえば、「c-KFeHCF」は立方晶系のプルシアンブルー類似体を表し、「m-KFeHCF」は単斜晶系のプルシアンブルー類似体を表す。
【0030】
図3(a)のようにカリウム量が少なく欠陥が多い組成では立方晶系の相を示し、
図3(b)のようにカリウム量が多く欠陥が少ない組成では単斜晶系の相を示す。
【0031】
図4に、プルシアンブルー類似体の粒径測定の結果例を示す。横軸は粒径を表し、縦軸は体積比率を表す。実施形態1に係るm-KFeHCFに比べ、比較例に係るc-KFeHCFでは粒子がやや凝集しているため粒径が大きくなっている。
【0032】
図5に、このようにして合成された活物質を用いてイオン選択性電極10を製造する方法の例を示す。方法は、スラリーを製造する工程(ステップS11)を含む。スラリーを製造する工程は、上述のように合成された活物質(プルシアンブルー類似体粒子)と、導電材と、バインダーとを混合させる工程を含む。活物質:導電材:バインダーの比率は、たとえば80:10:10[重量%]である。
【0033】
導電材は、たとえばアセチレンブラックまたはケッチェンブラックまたはマルチウォールカーボンナノチューブであり、
図5の例ではアセチレンブラック(AB)である。バインダーは、
図5の例では、N-メチルピロリドン(NMP)に分散させたポリフッ化ビニリデンである。
【0034】
このようにして製造されたスラリーを、白金電極3(
図1参照)に滴下する(ステップS12)。滴下量はたとえば1μLである。その後、スラリーを乾燥させる(ステップS13)。乾燥はたとえば室温で一晩行われる。これによって白金電極3の表面に合剤膜が形成される。このように、実施形態1に係る製造方法は、スラリーを白金電極3上に供給し、スラリーを乾燥させることによって、白金電極3の表面に合剤膜を形成する工程を備える。
【0035】
なお、上述のように、スラリーは、構造式KxFe[Fe(CN)6]y・nH2Oで表されるプルシアンブルー類似体粒子を含む。このプルシアンブルー類似体粒子は少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持ち、xは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数である。
【0036】
その後、合剤膜を0.01MのKCl水溶液(第1の塩化カリウム水溶液)に浸漬させる(ステップS14)。浸漬はたとえば24時間行われる。これによって適切なコンディショニングが行われ、プルシアンブルー類似体におけるK+の分布を均一にすることによって、白金電極3の表面にインサーション材料2を形成することができる。
【0037】
次に、インサーション材料2の表面にカリウムイオン感応膜(K+-ISM)原液を滴下する(ステップS15)。滴下量はたとえば50μLである。カリウムイオン感応膜原液は、たとえばイオノフォアと、膜マトリクスと、膜溶媒と、アニオン排除剤とを含む。イオノフォアはたとえばビス(ベンゾ-15-クラウン-5)であり、膜マトリクスはたとえばポリ塩化ビニル(PVC)であり、膜溶媒はたとえばo-ニトロフェニルオクチルエーテル(o-NPOE)であり、アニオン排除剤はたとえばテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム(K-TCPB)である。分散媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いる。
【0038】
次に、カリウムイオン感応膜原液を乾燥させる(ステップS16)。乾燥はたとえば室温で一晩行われる。これによってイオン感応原膜が形成される。
【0039】
このように、実施形態1に係る製造方法は、インサーション材料2の表面にカリウムイオン感応膜原液を供給し、カリウムイオン感応膜原液を乾燥させることによって、インサーション材料2の表面に、イオン感応原膜を形成する工程を備える。
【0040】
次に、このイオン感応原膜を、0.01MのKCl水溶液(第2の塩化カリウム水溶液)に浸漬させる(ステップS17)。浸漬はたとえば24時間行われる。これによって適切なコンディショニングが行われ、インサーション材料2の表面にカリウムイオン感応膜1が形成される。このようにして、
図1に示すイオン選択性電極10が製造される。
【0041】
以下、イオン選択性電極10の特性について説明する。
【0042】
図6に、定電流充放電試験の結果例を示す。試験は次の構成で行った。
セル…SB9(二室式三極セル)
作用極(イオン選択性電極10)…PB(プルシアンブルー):KB(ケッチェンブラック):PVdF(ポリフッ化ビニリデン)=70:20:10(重量%)
対極…AC:KB:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=80:10:10(重量%)
参照極…Ag/AgCl(飽和KCl)
電解液…0.5M K
2SO
4水溶液
セパレータ…グラスファイバーフィルタ
電流密度…1C (156mAg
-1)
電圧範囲…-0.25Vから0.50V vs. Ag/AgCl
【0043】
図6において、横軸は充放電量を表し、縦軸は電位を表す。
図6(a)は比較例の電極を用いた結果であり、構造式K
xFe[Fe(CN)
6]
y・nH
2Oにおいてxが1.5未満である場合の例である。以下、このような組成について、「c-KFeHCF」と略記する場合がある。
図6(a)に示すように、比較例に係る電極は傾斜のある電位変化を示しており、単相反応であると考えられる。
【0044】
図6(b)は実施形態1に係る電極を用いた結果であり、構造式K
xFe[Fe(CN)
6]
y・nH
2Oにおいてxが1.5以上である場合の例である。以下、このような組成について、「m-KFeHCF」と略記する場合がある。
図6(b)に示すように、実施形態1に係る電極では安定した電位平坦部が見られ、二相反応であると考えられる。
【0045】
図7に、自然電位測定の結果例を示す。作製した電極のカリウムイオンに対する応答性を調査するために、カリウムイオン濃度の異なる水溶液中における自然電位を測定した。横軸はカリウムイオン濃度の対数を表し、縦軸は電位を表す。なおE
0は濃度0.01における検量線の切片を表す。
【0046】
比較例に係るc-KFeHCFを用いた電極と、実施形態1に係るm-KFeHCFを用いた電極とでは、感度および検出限界に大きな差は見られなかった。一方で、電位の絶対値は実施形態1の方が低くなっている。これは、実施形態1では結晶内のカリウム量が多く、カリウムイオン活量が高いため、膜電位が低下したものと考えられる。
【0047】
図8に、
図7に示す自然電位測定の再現性データを示す。同一構造の電極を3個(それぞれ#1~#3として示す)作製し、それぞれで自然電位測定を行った。
【0048】
図9に、長期安定性試験の結果例を示す。試験は次の構成で行い、参照極に対する作用極の電位変化を測定した。
作用極…カリウムイオン選択性電極
参照極…Ag/AgCl(飽和KCl)
測定溶液…10
-2M KCl水溶液
測定温度…室温
【0049】
図9において、横軸は時間(日)を表し、縦軸は電位を表す。
図9(a)に、比較例および実施形態1それぞれの測定結果を示す。比較例に係るc-KFeHCFを用いた電極は、長期安定性が最も悪かった。これは、
図6(a)に示すように電位カーブがスロープ状であるため、組成変化が起きた時に電位変動が大きいためと考えられる。
【0050】
実施形態1に係るm-KFeHCFを用いた電極として、スラリーを製造する工程においてプルシアンブルー類似体を大気室温で酸化させたものと、スラリーを製造する工程においてプルシアンブルー類似体を電気化学的に酸化させたものとを用いて、それぞれ測定を行った。電気化学的に酸化させたものとしては、電極をK2SO4水溶液中においてK2FeFeの酸化還元電位で電位保持したものを用いた。このような電位保持により、結晶内のカリウム量を調整することができるので、長期安定性がさらに向上する。
【0051】
大気室温で酸化させた場合のものは、
図6(b)に示すように電位カーブが平坦部を持つため、組成変化時の電位変動が小さく安定性が高い。さらに、電気化学的に酸化させた場合のものは、
図6(b)の平坦部の特性がより強く現れ、最も高い長期安定性を示した。
【0052】
図9(b)に、実施形態1において大気室温で酸化させた場合のものの再現性データを示す。同一構造の電極を3個作製し、それぞれで長期安定性試験を行った。
【0053】
図9(a)に示すように、比較例の電極では6日目に20mV程度の電位変動を示したが、
図9(a)および(b)に示すように、実施形態1に係る電極はいずれも6日目で10mV程度以下の電位変動に収まった。
【0054】
このように、実施形態1に係る全固体型カリウムイオン選択性電極は、プルシアンブルーとプルシアンホワイトの二相共存体であると考えられるK2FeFeを活物質とすることにより、電位変動が10mV程度以下に抑えられ、電極の長期安定性が向上に繋がっている。
【0055】
図10に、クロノポテンショメトリーによる分極試験の結果例を示す。試験は次の構成で行った。
作用極…カリウムイオン選択性電極
対極…Pt線
参照極…Ag/AgCl(飽和KCl)
電解液…10
-2M KCl水溶液
印加電流…±1nA
測定温度…室温
【0056】
図10において、横軸は時間を表し、縦軸は電位を表す。時刻300sにおいて電流の向きを反転させた。結果は比較例および実施形態1でほぼ変わらなかった。
【0057】
図11に、交流インピーダンス測定試験の結果例としてのナイキストプロットを示す。
図11の横軸はインピーダンスの実部を表し、縦軸は虚部を表す。試験は次の構成で行った。
作用極…カリウムイオン選択性電極
対極…Pt線
参照極…Ag/AgCl(飽和KCl)
電解液…10
-2M KCl水溶液
振幅…100mV
周波数…100kHz~10mHz
測定温度…室温
【0058】
結果は比較例および実施形態1でほぼ変わらなかったが、実施形態1のほうがわずかに低抵抗となった。この理由は、
図4に示すように粒径が小さいためと考えられる。
【0059】
以上説明するように、実施形態1に係る全固体型カリウムイオン選択性電極およびその製造方法によれば、カリウムイオン選択性電極の安定性をより高めることができる。
【0060】
図12に、イオン選択性電極10の使用方法の例を示す。イオン選択性電極10と参照電極11とが、被検液12に浸漬される。イオン選択性電極10および参照電極11は、電圧測定装置13を介して電気的に接続される。電圧測定装置13は、イオン選択性電極10と参照電極11との電位差を測定し、電位差を表す信号を出力する。測定される電位差は、被検液12に含まれるカリウムイオンの濃度によって変化するので、電位差に基づいてカリウムイオンの濃度を算出することができる。
【0061】
[実施形態2]
実施形態2は、実施形態1において、イオン選択性電極の具体的構成を変更したものである。以下、実施形態1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0062】
図13に、実施形態2に係る電極装置30の構成を示す。電極装置30は、基板21と、イオン選択性電極20と、参照電極11とを備える。基板21はたとえばアルミナからなる。イオン選択性電極20および参照電極11は基板21に形成される。
【0063】
イオン選択性電極20は、全固体型カリウムイオン選択性電極であり、実施形態1のイオン選択性電極10と同様の構成を有している(ただし絶縁体の部分はエポキシ樹脂5ではなく基板21である)。また、イオン選択性電極20は、実施形態1のイオン選択性電極10と同様の製造方法で製造することができる。
【0064】
基板21には一対の接続部22が形成される。一対の接続部22は、それぞれ、導線23を介してイオン選択性電極20および参照電極11に接続される。基板21の表面のうち、導線23が形成された領域を含む一部が、エポキシ等の絶縁体からなる保護膜24(破線により透過的に示す)によって覆われる。イオン選択性電極20および参照電極11は保護膜24によっては覆われず、また、接続部22(少なくともそれらの一部)も保護膜24によっては覆われない。
【0065】
図14に、電極装置30の使用方法の例を示す。イオン選択性電極20と参照電極11とが、被検液12に浸漬される。イオン選択性電極20および参照電極11は、電圧測定装置13を介して電気的に接続される。電圧測定装置13は、イオン選択性電極20と参照電極11との電位差を測定し、電位差を表す信号を出力する。測定される電位差は、被検液12に含まれるカリウムイオンの濃度によって変化するので、電位差に基づいてカリウムイオンの濃度を算出することができる。
【0066】
実施形態2に係る全固体型カリウムイオン選択性電極は、実施形態1と同様の構成を有し、同様の製造方法によって製造されるので、実施形態と同様に、カリウムイオン選択性電極の安定性をより高めることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…カリウムイオン感応膜
2…インサーション材料
3…白金電極(導体)
4…銅配線
5…エポキシ樹脂
10…イオン選択性電極(全固体型カリウムイオン選択性電極)
11…参照電極
12…被検液
13…電圧測定装置
20…イオン選択性電極(全固体型カリウムイオン選択性電極)
21…基板
22…接続部
23…導線
24…保護膜
30…電極装置