(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031047
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】全固体型カリウムイオン選択性電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/333 20060101AFI20240229BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N27/333 331A
G01N27/333 331F
G01N27/416 351B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134341
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 利治
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】武居 祐子
(72)【発明者】
【氏名】青木 一真
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】多々良 涼一
(72)【発明者】
【氏名】石原 研太
(57)【要約】
【課題】より安定性の高いカリウムイオン選択性電極を提供する。
【解決手段】全固体型カリウムイオン選択性電極は、導体と、前記導体の表面に形成された内部構造と、前記内部構造を覆うカリウムイオン感応膜と、を備え、前記内部構造は、構造式K
xFeFeで表される活物質と、KTPとを含み、xは0よりも大きく2以下の数である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の表面に形成された内部構造と、
前記内部構造を覆うカリウムイオン感応膜と、
を備え、
前記内部構造は、構造式KxFeFeで表される活物質と、KTPとを含み、xは0よりも大きく2以下の数である、
全固体型カリウムイオン選択性電極。
【請求項2】
前記内部構造は導電成分を含む、請求項1に記載の全固体型カリウムイオン選択性電極。
【請求項3】
前記内部構造は、
前記活物質を含むインサーション材料層と、
KTPを含み、前記インサーション材料層および前記カリウムイオン感応膜の間に形成される中間層と、
を備える、請求項1に記載の全固体型カリウムイオン選択性電極。
【請求項4】
前記中間層は導電成分を含む、請求項3に記載の全固体型カリウムイオン選択性電極。
【請求項5】
前記インサーション材料層は導電成分を含む、請求項3または4に記載の全固体型カリウムイオン選択性電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体型カリウムイオン選択性電極に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン選択性電極は、液体中におけるイオン濃度を測定する装置等において用いられ、特定のイオンに反応して電位変化を生じる。応用分野は様々であり、環境関連技術、医療関連技術、農業関連技術、等において用いられる。
【0003】
様々な種類のイオンに感応するイオン選択性電極が知られている。特許文献1には、プルシアンブルー類似体を含むマグネシウムイオン選択性電極およびカルシウムイオン選択性電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、カリウムイオン選択性電極において、安定性に改善の余地があるという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、より安定性の高いカリウムイオン選択性電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る全固体型カリウムイオン選択性電極の一例は、
導体と、
前記導体の表面に形成された内部構造と、
前記内部構造を覆うカリウムイオン感応膜と、
を備え、
前記内部構造は、構造式KxFeFeで表される活物質と、KTPとを含み、xは0よりも大きく2以下の数である。
【0008】
一例において、前記内部構造は導電成分を含む。
一例において、前記内部構造は、
前記活物質を含むインサーション材料層と、
KTPを含み、前記インサーション材料層および前記カリウムイオン感応膜の間に形成される中間層と、
を備える。
一例において、前記中間層は導電成分を含む。
一例において、前記インサーション材料層は導電成分を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る全固体型カリウムイオン選択性電極によれば、カリウムイオン選択性電極の安定性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係るイオン選択性電極10の構成。
【
図4】インサーション材料層2のスラリーを製造する工程の例。
【
図5】カリウムイオン感応膜原液を製造する工程の例。
【
図6】
図1のイオン選択性電極10を製造する工程の例。
【
図8】
図1のイオン選択性電極10の使用方法の例。
【
図9】実施形態1の変形例に係る電極装置30の構成。
【
図11】本発明の実施形態2に係るイオン選択性電極40の構成。
【
図13】
図11の中間層6の別のスラリーを製造する工程の例。
【
図14】インサーション材料層2のスラリーを製造する工程の例。
【
図17】参考実施形態に係るインサーション材料の電流・電圧特性。
【
図18】参考実施形態に係る電極を各濃度のKCl水溶液に浸漬した際の電位の時間応答性。
【
図19】参考実施形態に係る自然電位測定の結果例。
【
図21】参考実施形態に係るクロノポテンショメトリーによる分極試験の結果例。
【
図22】参考実施形態に係る交流インピーダンス測定試験の結果例としてのナイキストプロット。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
図1に、本発明の実施形態1に係るイオン選択性電極10の構成を示す。イオン選択性電極10は、全固体型カリウムイオン選択性電極である。
図1(a)は平面図を示し、
図1(b)は
図1(a)のB-B線に沿った断面による断面図を示す。
【0012】
イオン選択性電極10は、エポキシ樹脂5と、エポキシ樹脂5内に配置された銅配線4と、銅配線4に接続されエポキシ樹脂5の表面に露出する白金電極3(導体)と、白金電極3の表面に形成されたインサーション材料層2(内部構造)と、インサーション材料層2を覆うカリウムイオン感応膜1と、を備える。
【0013】
エポキシ樹脂5に代えて任意の絶縁体を用いることができ、銅配線4および/または白金電極3に代えて任意の導体を用いることができる。
【0014】
インサーション材料層2は、構造式KxFeFeで表される活物質と、KTP(KTiOPO4。リン酸チタニルカリウムとも呼ばれる)とを含む。xは0よりも大きく2以下の数である。なお、以下では、KxFeFeまたはこれを含む物質について、xが2以下であることから「K2FeFe」と表記する場合があるが、この表記は必ずしもxの値が2であることを意味するものではなく、またxの範囲を限定するものでもない。
【0015】
以下、イオン選択性電極10の製造方法の例を説明する。製造方法は、KTPを合成する工程と、活物質であるK2FeFeを合成する工程と、合成されたKTPおよび/または活物質を用いてスラリーを製造する工程と、カリウムイオン感応膜(K+-ISM)原液を製造する工程と、製造されたスラリーおよびK+-ISM原液を用いてイオン選択性電極10を製造する工程とを含む。
【0016】
図2に、KTPを合成する工程の例を示す。リン酸二水素カリウムとアナターゼ型酸化チタンのナノ粉末を混合する(ステップS1)。混合はたとえば1:1のモル比で、ボールミルを用い、400rpmで12時間行われる。次に、混合物を焼成する(ステップS2)。焼成はたとえば850℃で12時間行われる。このようにしてKTPが合成される。
【0017】
図3に、活物質であるK
2FeFeを合成する工程の例を示す。二価の鉄イオンを含むフェロシアン化カリウム水溶液(4mmol K
4[Fe
II(CN)
6]・3H
2O)100mLに、塩化鉄(II)水溶液(4mmol Fe
IICl
2)100mLを滴下しつつ撹拌する(ステップS11)。これらの溶液には、K
2FeFeの粒径制御およびK源として機能するクエン酸三カリウム(1.0M)を含有させると好適である。滴下はたとえば窒素雰囲気下で、0.5mL/minで行われる。撹拌はたとえば撹拌翼を用いて300rpmで行われる。
【0018】
この結果、試料溶液から、単斜晶系プルシアンブルー類似体の白色沈殿が得られる。このようにしてK
2FeFeが合成される。なお、K
2FeFeを合成するための方法は
図3に示すものに限らず、当業者が適宜設計可能である。
【0019】
次に、上記の白色沈殿を撹拌する(ステップS12)。撹拌はたとえば室温、窒素雰囲気下で、撹拌翼を用いて300rpmで15時間行われる。次に、白色沈殿を窒素雰囲気下で吸引濾過する(ステップS13)。次に、白色沈殿を洗浄する(ステップS14)。洗浄は、たとえば窒素雰囲気下で、イオン交換水およびエタノールを用いて行われる。K
2FeFeは大気中で極めて酸化されやすい物質であるため、
図3の工程のうちステップS11~S14は、合成中に酸化されないように、上述の通り窒素雰囲気下で実施することが好適である。
【0020】
次に、白色沈殿を乾燥させる(ステップS15)。乾燥はたとえば100℃で24時間真空引きを行うことによって実施される。
【0021】
ステップS15の結果として得られる粉末試料を、数日間大気暴露させる。これによってK2FeFeの青色粉末が得られる。この青色粉末はプルシアンブルー類似体粒子であり、インサーション材料層2の活物質となる。
【0022】
図4に、合成された活物質およびKTPを用いて、インサーション材料層2のスラリーを製造する工程の例を示す。まず、PVdF-NMP溶液を調製する(ステップS21)。これはたとえば以下のようにして行われる。5mgのPVdF(ポリフッ化ビニリデン)に100μLのN-メチルピロリドン(NMP)を加え、自転公転式ミキサーを用いて2000rpmで10分間機械混合し、さらに2200rpmで30秒間脱気する。これによってPVdF-NMP溶液が調製される。
【0023】
次に、12.5mgのK2FeFeに、5mgのKTPと5mgのAB(アセチレンブラック)を加えてめのう乳鉢で30分間混合する(ステップS22)。ABはカーボン系の導電成分の例であり、他の導電成分を用いてもよい。たとえばケッチェンブラックまたはマルチウォールカーボンナノチューブを用いてもよい。このようにスラリーに導電成分を混合することにより、形成されるインサーション材料層2は導電成分を含むことになる。なお、変形例として、スラリーに導電成分を混合しないことも可能である。
【0024】
次に、PVdF-NMP溶液を50μL加える(ステップS23)。次に、自転公転式ミキサーを用いて機械混合する(ステップS24)。機械混合はたとえば2000rpmで10分間行われる。次に、自転公転式ミキサーを用いて脱気する(ステップS25)。脱気はたとえば2200rpmで30秒間行われる。
【0025】
次に、100μLのNMPを加える(ステップS26)。次に、自転公転式ミキサーを用いて機械混合する(ステップS27)。機械混合はたとえば2000rpmで10分間行われる。次に、自転公転式ミキサーを用いて脱気する(ステップS28)。脱気はたとえば2200rpmで30秒間行われる。これによってスラリーが製造される。なおPB(プルシアンブルー、ここではK
2FeFe):KTP:AB:PVdFの重量比は5:2:2:1となっている。
図4の工程によって製造されたスラリーをスラリーIIIとする。スラリーIIIは、プルシアンブルー類似体粒子と、バインダーとしてのPVdFと、KTPと、導電材料粒子とを含む混合材料である。このプルシアンブルー類似体粒子は、構造式K
xFe[Fe(CN)
6]
y・nH
2Oで表され、たとえばxは1.5以上2以下の数であり、yは0よりも大きく1以下の数であり、nは0以上の数である。また、このプルシアンブルー類似体粒子は、少なくとも一部に単斜晶系の結晶構造を持つ。
【0026】
図5に、K
+-ISM原液を製造する工程の例を示す。K
+-ISM原液は、たとえばイオノフォアと、膜マトリクスと、膜溶媒と、アニオン排除剤とを含む。イオノフォアはたとえばビス(ベンゾ-15-クラウン-5)であり、膜マトリクスはたとえばポリ塩化ビニル(PVC)であり、膜溶媒はたとえばo-ニトロフェニルオクチルエーテル(o-NPOE)であり、アニオン排除剤はたとえばテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム(K-TCPB)である。分散媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いる。
【0027】
600μLのo-NPOEをサンプル管に秤量し、o-NPOEの重量を基準としてo-NPOE:ビス(ベンゾ-15-クラウン-5):PVC:K-TCPB=65.5:0.9:33.3:0.3(重量%)となるようにイオノフォア、膜マトリクスおよびアニオン排除剤を加える(ステップS31)。次に、3000μLのTHFを加えて2時間撹拌する(ステップS32)。これによってK+-ISM原液が製造される。
【0028】
図6に、製造されたスラリーIIIおよびK
+-ISM原液を用いてイオン選択性電極10を製造する工程の例を示す。まず、白金電極基板から白金電極を作製する(ステップS41)。たとえば、#1000および#3000の紙やすりを用いて白金電極基板を研磨し、イオン交換水中で超音波処理を20分間行い、デシケーター(大気雰囲気下)内で24時間乾燥させる。
【0029】
次に、白金電極3上にスラリーIIIを滴下する(ステップS42)。滴下はたとえば1μLドロップキャスト法で行われる。なお、上述のように、スラリーIIIは活物質(K2FeFe):固体電解質(KTP):導電材(AB):バインダー(PVdF)を50:20:20:10(重量%)含む。
【0030】
次に、乾燥させる(ステップS43)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。次に、コンディショニングする(ステップS44)。コンディショニングは、インサーション材料中のカリウムイオンを平衡化する目的で、たとえば0.01M KCl水溶液に24時間浸漬することにより行われる。次に、白金電極を洗浄する(ステップS45)。洗浄はたとえばイオン交換水で行われる。次に、乾燥させる(ステップS46)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。このようにしてスラリーIIIからインサーション材料層2が形成される。
【0031】
次に、K+-ISM原液を滴下する(ステップS47)。滴下はたとえば10μL×5回ドロップキャスト法で行われる。なお、上述のように、K+-ISM原液は、イオノフォア(ビス(ベンゾ-15-クラウン-5))と、膜マトリクス(PVC)と、膜溶媒(o-NPOE)と、アニオン排除剤(K-TCPB)とを含み、これらがTHFに溶解している。
【0032】
次に、乾燥させる(ステップS48)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。なお、K+-ISM原液はTHFを溶媒としているため揮発性が高い。そのため、K+-ISM原液が乾燥する前に素早く5回キャストすると好適である。
【0033】
次に、再びコンディショニングを行う(ステップS49)。コンディショニングは、0.01M KCl水溶液に24時間浸漬することにより行われる。次に、洗浄を行う(ステップS50)。洗浄はたとえばイオン交換水で行われる。このようにしてカリウムイオン感応膜1が形成され、イオン選択性電極10が製造される。
【0034】
なお、上述のように、インサーション材料層2は、構造式KxFeFe(ただしxは0よりも大きく2以下の数)で表される活物質と、KTPとを含み、白金電極3/インサーション材料層2(K2FeFe、KTPおよびAB)/カリウムイオン感応膜1という構成となる。
【0035】
以下、本実施形態に係るインサーション材料層2およびイオン選択性電極10の作用について説明する。
【0036】
図7に、長期安定性試験の結果例を示す。試験は次の構成で行い、参照極に対する作用極の電位変化を測定した。
図7において、横軸は時間(日)を表し、縦軸は電位を表す。
作用極…カリウムイオン選択性電極
参照極…シングルジャンクション型Ag/AgCl(飽和KCl)
測定溶液…10
-2M KCl水溶液
測定温度…室温
【0037】
比較例として、インサーション材料層にKTPを用いず、PBおよびABのみを用いて製造された電極を用いた。比較例の電極は6日間で約10mVの電位変動を示したのに対し、KTPを添加した実施形態1に係るスラリーIIIを用いた電極の電位変動は5mV程度へと抑えられた。
【0038】
固体電解質の一種であるKTPは、室温で10-4S/cmのカリウムイオン伝導率を示し、水の電位窓内では還元不活性(酸化還元電位:約1V vs. K+/K)といった性質を有することが知られている。この事からカリウムイオン伝導性を有するKTPをカリウムインサーシヨン材料であるK2FeFeのカリウム供給源として機能させることで、イオン選択性電極の電極電位の安定性が向上したと考えられる。
【0039】
なお
図7には実施形態2の変形例に係る電極の結果も示しているが、これについては後述の実施形態2に関して説明する。
【0040】
以上説明するように、実施形態1に係る全固体型カリウムイオン選択性電極によれば、カリウムイオン選択性電極の安定性をより高めることができる。
【0041】
図8に、イオン選択性電極10の使用方法の例を示す。イオン選択性電極10と参照電極11とが、被検液12に浸漬される。イオン選択性電極10および参照電極11は、電圧測定装置13を介して電気的に接続される。電圧測定装置13は、イオン選択性電極10と参照電極11との電位差を測定し、電位差を表す信号を出力する。測定される電位差は、被検液12に含まれるカリウムイオンの濃度によって変化するので、電位差に基づいてカリウムイオンの濃度を算出することができる。
【0042】
図9に、実施形態1の変形例に係る電極装置30の構成を示す。電極装置30は、基板21と、イオン選択性電極20と、参照電極11とを備える。基板21はたとえばアルミナからなる。イオン選択性電極20および参照電極11は基板21に形成される。
【0043】
イオン選択性電極20は、全固体型カリウムイオン選択性電極であり、実施形態1のイオン選択性電極10と同様の構成を有している(ただし絶縁体の部分はエポキシ樹脂5ではなく基板21である)。また、イオン選択性電極20は、実施形態1のイオン選択性電極10と同様の製造方法で製造することができる。
【0044】
基板21には一対の接続部22が形成される。一対の接続部22は、それぞれ、導線23を介してイオン選択性電極20および参照電極11に接続される。基板21の表面のうち、導線23が形成された領域を含む一部が、エポキシ等の絶縁体からなる保護膜24(破線により透過的に示す)によって覆われる。イオン選択性電極20および参照電極11は保護膜24によっては覆われず、また、接続部22(少なくともそれらの一部)も保護膜24によっては覆われない。
【0045】
図10に、電極装置30の使用方法の例を示す。イオン選択性電極20と参照電極11とが、被検液12に浸漬される。イオン選択性電極20および参照電極11は、電圧測定装置13を介して電気的に接続される。電圧測定装置13は、イオン選択性電極20と参照電極11との電位差を測定し、電位差を表す信号を出力する。測定される電位差は、被検液12に含まれるカリウムイオンの濃度によって変化するので、電位差に基づいてカリウムイオンの濃度を算出することができる。
【0046】
[実施形態2]
実施形態2は、実施形態1において、イオン選択性電極の具体的構成を変更したものである。以下、実施形態1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0047】
図11に、本発明の実施形態2に係るイオン選択性電極40の構成を示す。イオン選択性電極40は、全固体型カリウムイオン選択性電極である。
図11(a)は平面図を示し、
図11(b)は
図11(a)のB-B線に沿った断面による断面図を示す。
【0048】
イオン選択性電極40は、エポキシ樹脂5と、エポキシ樹脂5内に配置された銅配線4と、銅配線4に接続されエポキシ樹脂5の表面に露出する白金電極3と、白金電極3の表面に形成された内部構造と、内部構造を覆うカリウムイオン感応膜1と、を備える。
【0049】
実施形態1ではインサーション材料層2のみが内部構造を形成していたが、実施形態2における内部構造は、活物質を含むインサーション材料層2と、KTPを含む中間層6とを備える。中間層6は、インサーション材料層2およびカリウムイオン感応膜1の間に形成される。
【0050】
図12に、合成されたKTPを用いて、中間層6のスラリーを製造する工程の例を示す。スラリーは、インサーション材料層2の材料となる。
【0051】
まず、PVdF-NMP溶液を調製する(ステップS51)。たとえば実施形態1のステップS21(
図4)と同様にして調製することができる。
【0052】
次に、22.5mgのKTPにPVdF-NMP溶液を50μL加える(ステップS52)。ここで、
図12の例では導電成分が混合されないので、このスラリーを用いて形成される中間層6は導電成分を含まない。
【0053】
次に、自転公転式ミキサーを用いて機械混合する(ステップS53)。機械混合はたとえば2000rpmで10分間行われる。次に、自転公転式ミキサーを用いて脱気する(ステップS54)。脱気はたとえば2200rpmで30秒間行われる。
【0054】
次に、100μLのNMPを加える(ステップS55)。次に、自転公転式ミキサーを用いて機械混合する(ステップS56)。機械混合はたとえば2000rpmで10分間行われる。次に、自転公転式ミキサーを用いて脱気する(ステップS57)。脱気はたとえば2200rpmで30秒間行われる。これによってスラリーが製造される。なおKTP:PVdFの重量比は9:1となっている。
図12の工程によって製造されたスラリーをスラリーIとする。
【0055】
図13に、合成されたKTPを用いて、中間層6の別のスラリーを製造する工程の例を示す。まず、PVdF-NMP溶液を調製する(ステップS61)。たとえば実施形態1のステップS21(
図4)と同様にして調製することができる。
【0056】
次に、20mgのKTPと2.5mgのABをめのう乳鉢で30分間混合する(ステップS62)。このように、
図13の例では導電成分としてABが混合されるので、このスラリーを用いて形成される中間層6は導電成分を含む。なお、導電成分はABを用いる必要はなく、他の導電成分(たとえばケッチェンブラックまたはマルチウォールカーボンナノチューブ等)を用いてもよい。
【0057】
次に、
図12のステップS52以降と同様の操作を行う。すなわち、PVdF-NMP溶液を50μL加え(ステップS63)、機械混合し(ステップS64)、脱気し(ステップS65)、100μLのNMPを加え(ステップS66)、機械混合し(ステップS67)、脱気する(ステップS68)。これによってスラリーが製造される。なおKTP:AB:PVdFの重量比は8:1:1となっている。
図13の工程によって製造されたスラリーをスラリーIIとする。
【0058】
図14に、活物質を用いて、インサーション材料層2のスラリーを製造する工程の例を示す。まず、PVdF-NMP溶液を調製する(ステップS71)。たとえば実施形態1のステップS21(
図4)と同様にして調製することができる。
【0059】
次に、17.5mgのK
2FeFeと5mgのABをめのう乳鉢で30分間混合する(ステップS72)。次に、
図12のステップS52以降と同様の操作を行う。すなわち、PVdF-NMP溶液を50μL加え(ステップS73)、機械混合し(ステップS74)、脱気し(ステップS75)、100μLのNMPを加え(ステップS76)、機械混合し(ステップS77)、脱気する(ステップS78)。これによってスラリーが製造される。なおK
2FeFe:AB:PVdFの重量比は7:2:1となっている。
図14の工程によって製造されたスラリーをスラリーIVとする。
【0060】
図15に、製造されたスラリー(スラリーIまたはスラリーIIと、スラリーIV)およびK
+-ISM原液を用いてイオン選択性電極40を製造する工程の例を示す。まず、白金電極基板から白金電極を作製する(ステップS81)。たとえば、#1000および#3000の紙やすりを用いて白金電極基板を研磨し、イオン交換水中で超音波処理を20分間行い、デシケーター(大気雰囲気下)内で24時間乾燥させる。
【0061】
次に、白金電極上にスラリーIVを滴下する(ステップS82)。滴下はたとえば0.5μLドロップキャスト法で行われる。次に、乾燥させる(ステップS83)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。次に、コンディショニングする(ステップS84)。コンディショニングは、インサーション材料中のカリウムイオンを平衡化する目的で、たとえば0.01M KCl水溶液に24時間浸漬することにより行われる。次に、白金電極を洗浄する(ステップS85)。洗浄はたとえばイオン交換水で行われる。次に、乾燥させる(ステップS86)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。このようにしてインサーション材料層2が形成される。
【0062】
次に、インサーション材料層2の上に、スラリーIまたはIIを滴下する(ステップS87)。滴下はたとえば0.1μLドロップキャスト法で行われる。ここでは、スラリーIまたはIIのいずれを用いても、実施形態2に係るイオン選択性電極40を製造することができる。なお、上述のようにスラリーIは導電成分を含まず、スラリーIIは導電成分を含む。
【0063】
次に、乾燥させる(ステップS88)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。次に、コンディショニングする(ステップS89)。コンディショニングは、インサーション材料中のカリウムイオンを平衡化する目的で、たとえば0.01M KCl水溶液に24時間浸漬することにより行われる。次に、白金電極を洗浄する(ステップS90)。洗浄はたとえばイオン交換水で行われる。次に、乾燥させる(ステップS91)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。このようにして中間層6が形成される。
【0064】
次に、中間層6の上に、K+-ISM原液を滴下する(ステップS92)。滴下はたとえば10μL×5回ドロップキャスト法で行われる。なお、K+-ISM原液はTHFを溶媒としているため揮発性が高い。そのため、K+-ISM原液が乾燥する前に素早く5回キャストすると好適である。
【0065】
次に、乾燥させる(ステップS93)。乾燥はたとえばデシケーター(大気雰囲気下)内で一晩行われる。次に、コンディショニングする(ステップS94)。コンディショニングは、たとえば0.01M KCl水溶液に24時間浸漬することにより行われる。次に洗浄する(ステップS95)。洗浄はたとえばイオン交換水で行われる。このようにしてカリウムイオン感応膜1が形成され、イオン選択性電極40が製造される。
【0066】
上述の
図7に、長期安定性試験の結果例を示す。
図7には、実施形態2の変形例に係る電極の測定結果が示されている。上述の実施形態2ではスラリーIまたはスラリーIIを用いているが、
図7に示すの変形例では、スラリーIまたはスラリーIIに代えて、スラリーIIにさらにK
2FeFe(PB)を加えたスラリーを用いている。このような変形例においても、内部構造がK
2FeFeおよびKTPを含むという点は実施形態2と共通しているため、同様の結果を示すと考えられる。
【0067】
実施形態2の変形例に係る電極は、0日目から2日目で20mVの大きな電位低下を示したが、2日目から6日目の電位変動は5mV程度に落ち着いた。実施形態2の変形例に係る電極は、作製直後、固体電解質層からインサーション材料層へとカリウムイオンが供給されることで電極電位が低下し、数日かけて平衡状態になることで電極電位が安定化したと考えられる。
【0068】
以上説明するように、実施形態2に係る全固体型カリウムイオン選択性電極によれば、カリウムイオン選択性電極の安定性をより高めることができる。
【0069】
図16に、自然電位測定の結果例を示す。電極のカリウムイオンに対する応答性を調査するために、カリウムイオン濃度の異なる水溶液中における自然電位を測定した。なおE
0はカリウムイオン活量0.01における検量線の切片を表す。
【0070】
図16において、第1行(比較例1)は、白金電極に直接K
+-ISMを形成したものである。第2行(比較例2)は、白金電極に、KTPを含みK
2FeFeを含まないインサーション材料層を形成し、その上にK
+-ISMを形成したものである。第3行(比較例3)は、白金電極に、KTPおよびABを含みK
2FeFeを含まないインサーション材料層を形成し、その上にK
+-ISMを形成したものである。
【0071】
第4行は、実施形態2の別の変形例に係るものである。実施形態2ではインサーション材料層2がスラリーIVによって形成され、したがってK2FeFeおよびABを含むがKTPを含まない。第4行の変形例では、スラリーIVにさらにKTPを加えてインサーション材料層2を形成した構成を用いた。第5行は、実施形態2においてスラリーIIを用いた場合の例である。
【0072】
本実施形態に係る例(第4行および第5行)と、比較例1~3とを比較しても、感度および検出限界はほぼ変化していない。したがって、実施形態2に係る電極を用いても感度および検出限界は実質的に悪化しないと言える。
【0073】
[その他の実施形態]
内部構造におけるKxFeFeおよびKTPの配置または含有形態は、実施形態1および2ならびにこれらの変形例において示したものに限らない。内部構造が全体としてKxFeFeおよびKTPを含む限り、その具体的構成は任意に設計可能である。たとえば、KxFeFeを含みKTPを含まない層または領域、KxFeFeを含まずKTPを含む層または領域、KxFeFeおよびKTPの双方を含む層または領域、等を任意の組み合わせで用いることができる。また、これらの層または領域において、導電成分または他の成分を任意に追加することができる。
【0074】
[参考実施形態]
以下、参考までに、インサーション材料層2にKTPを含むことの効果について説明する。参考実施形態では、インサーション材料層2はK2FeFeを含まない。
【0075】
図17に、インサーション材料の電流・電圧特性を示す。本実施形態に係る例として、ステンレス(SUS)にインサーション材料としてスラリーIIを塗布したものを用いた。また、比較例1として、ステンレスに何も塗布しないものを用い、比較例2として、ステンレスにABを塗布したものを用いた。
【0076】
図17の横軸は電位(vs.Ag/AgCl電極)を表し、縦軸は電流を表す。水の電位窓内でKTPがレドックス不活性であることが証明された。0mV以下で見られる還元電流は不可逆であり、炭素表面官能基の還元分解等と考えられる。これら以外に大きな電流値が得られていないので、レドックス反応を有さないと考えられる。
【0077】
図17の右上のインセット図に、グラフの一部拡大図を示す。ABを加えることにより、二重層容量(表面積)に起因する電流値が増大していることが示された。
【0078】
図18に、電極を各濃度のKCl水溶液に浸漬した際の電位の時間応答性を示す。本実施形態に係る例としてスラリーIおよびスラリーIIによるイオン選択性電極を用いた。比較例1では、インサーション材料層を設けず、比較例2では、インサーション材料層としてABを用いた。
【0079】
本実施形態に係る2つの例および比較例2では、インサーション材料層から得られる電位安定性に起因して、より迅速な応答が示された。
【0080】
図19に、自然電位測定の結果例を示す。電極のカリウムイオンに対する応答性を調査するために、カリウムイオン濃度の異なる水溶液中における自然電位を測定した。用いた電極は
図18の場合と同じである。グラフの横軸はカリウムイオン濃度の対数を表し、縦軸は電位を表す。なおE
0は活量0.01における検量線の切片を表す。
【0081】
本実施形態に係る例(スラリーIおよびスラリーII)と、比較例1および2とを比較しても、感度および検出限界はほぼ変化していない。したがって、KTPを用いても感度および検出限界は実質的に悪化しないと言える。
【0082】
図20に、
図19に示す自然電位測定の再現性データを示す。比較例1、本実施形態のスラリーIを用いた場合、本実施形態のスラリーIIを用いた場合のそれぞれについて、同一構造の電極を2個(それぞれ#1および#2として示す)作製し、それぞれで自然電位測定を行った。
【0083】
図21に、クロノポテンショメトリーによる分極試験の結果例を示す。用いた電極は
図18の場合と同じである。試験は次の構成で行った。
作用極…カリウムイオン選択性電極
対極…Pt線
参照極…シングルジャンクション型Ag/AgCl(飽和KCl)
電解液…10
-2M KCl水溶液
印加電流…±1nA
測定温度…室温
【0084】
図21において、横軸は時間を表し、縦軸は電位を表す。時刻300sにおいて電流の向きを反転させた。
【0085】
比較例1では、±1nAの印加電流に対して300mV以上の電位変化が生じた。一方、比較例2の電位変化は7mV程度に抑えられた。そしてスラリーIを用いた電極では150mV程度の電位変化が生じた一方、スラリーIIを用いた電極の電位変化は4mV以下へと低減した。このように、ABの添加により分極が低減した。
【0086】
図22に、交流インピーダンス測定試験の結果例としてのナイキストプロットを示す。用いた電極は
図18の場合と同じである。
図22の横軸はインピーダンスの実部を表し、縦軸は虚部を表す。試験は次の構成で行った。
作用極…カリウムイオン選択性電極
対極…Pt線
参照極…シングルジャンクション型Ag/AgCl(飽和KCl)
電解液…10
-2M KCl水溶液
振幅…100mV
周波数…100kHz~10mHz
測定温度…室温
【0087】
比較例1の場合は約32×105Ωの電極抵抗であったのに対して、比較例2の抵抗は約10×105Ωを示した。この結果から、ABを挿入することで二重層容量が増加し電極抵抗が低減することが分かった。
【0088】
そしてスラリーIを用いた電極の場合、電極抵抗が約10×105Ωを示した。KTPを含むスラリーIを用いた電極の抵抗が比較例2の抵抗と同等であるのにも関わらず、分極試験結果に大きな違いが生じたことから、Pt/KTP界面は電子伝達ができないブロッキング界面になっていると推察される。
【0089】
そして、絶縁性のKTPに導電材を添加したスラリーIIを用いた電極の場合は電極抵抗が5×105Ω以下に低減し、最も小さい抵抗値を示した。これらの結果から、KTPに導電材を添加することで合材層の二重層容量が増加し、Pt/KTP-AB界面での電子伝達が起きやすくなり、電極抵抗が大幅に低下したと考えられる。
【符号の説明】
【0090】
1…カリウムイオン感応膜
2…インサーション材料層(内部構造)
3…白金電極(導体)
4…銅配線
5…エポキシ樹脂
6…中間層(内部構造)
10…イオン選択性電極(全固体型カリウムイオン選択性電極)
11…参照電極
12…被検液
13…電圧測定装置
20…イオン選択性電極(全固体型カリウムイオン選択性電極)
21…基板
22…接続部
23…導線
24…保護膜
30…電極装置
40…イオン選択性電極(全固体型カリウムイオン選択性電極)