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特開2024-31190遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031190
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20240229BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134594
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲也
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR32
4B063QR42
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法は、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を検出する方法であって、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物を含む容器内に、前記検査対象物から検体を採取するステップと、前記ルシフェリン、前記ルシフェラーゼ、前記マグネシウム化合物、前記検体に含まれる前記残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定するステップと、前記発光量が基準値よりも高い場合に、前記残留産物が存在すると判定するステップとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を検出する方法であって、
ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物を含む容器内に、前記検査対象物から検体を採取するステップと、
前記ルシフェリン、前記ルシフェラーゼ、前記マグネシウム化合物、前記検体に含まれる前記残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定するステップと、
前記発光量が基準値よりも高い場合に、前記残留産物が存在すると判定するステップとを含む遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法。
【請求項2】
前記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼ及びルシフェラーゼFM PLUSから選択される、請求項1に記載の遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法。
【請求項3】
前記検体を採取するステップにおいて、前記検体は、前記検査対象物を拭き取ることで採取される、請求項1に記載の遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法に関し、特に検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、刑事裁判において、客観的証拠が重要視されるようになり、犯罪捜査における科学鑑定の果たす役割が大きくなっている。中でもDNA型鑑定は、高い個人識別力を有するため、犯罪を立証する上で非常に有用である。しかし、DNA型鑑定は高感度な鑑定法であることから、コンタミネーションの影響を受けやすく、その発生は誤認逮捕や冤罪といった人権問題に発展するおそれがある。そのため、DNA型鑑定を行うにあたっては厳格な品質管理が求められている。
【0003】
現在、DNA型鑑定施設では、クリーンルーム内での作業や作業エリアの区分け、使用器具の洗浄等コンタミネーションの発生防止策が講じられているが、例えばPCR後の試料を扱う区域(ポストPCRエリア)における遺伝子増幅反応による残留産物の管理は重要とされている。例えばPCRにより、ヒトDNAは数億倍に増幅されるため、極めて微量の遺伝子増幅反応による残留産物でも試料に混入すれば、DNA型として検出され得る。そのため、ポストPCRエリアにおける作業台や使用器具等の洗浄は、コンタミネーションの発生を未然に防ぐ上で非常に重要である。
【0004】
従来、細菌等による汚染の検出については、例えばATPを指標として汚染の検出が行われている。例えば、特許文献1には、ルシフェリン・ルシフェラーゼ発光試薬を用いてATPを汚染指標とした清浄度検査法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-069997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遺伝子増幅反応後の試料を扱う区域における遺伝子増幅反応による残留産物の管理が重要視される一方で、その管理方法は、所定の方法で定期的に洗浄することにとどまっており、食品衛生等の現場で実施されているような例えば特許文献1の方法等を利用した残留物の検出に基づく洗浄法のバリデーションや汚染物のモニタリングは行われていない。その理由として、遺伝子増幅反応による残留産物の迅速、簡便、安価な検出法が確立されていないことが挙げられる。現行の方法では、DNA型鑑定と同じプロセスで遺伝子増幅反応による残留産物の検出が行われているが、1検体あたり5千円を超えるコストがかかり、検出が完了するまでに半日程度を要することから、非常に高価で手間と時間がかかる。これらデメリットが障壁となり、遺伝子増幅反応による残留産物に対する洗浄法のバリデーションや当該残留産物のモニタリングが適時適切に行われていない。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を安価且つ簡便に検出できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、検体から採取した遺伝子増幅反応による残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定し、測定した発光量が基準値よりも高いか否かを比較することにより、検査対象物に存在する当該残留産物を迅速、簡便かつ安価に検出できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
具体的に、本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法は、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を検出する方法であって、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物を含む容器内に、前記検査対象物から検体を採取するステップと、前記ルシフェリン、前記ルシフェラーゼ、前記マグネシウム化合物、前記検体に含まれる前記残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定するステップと、前記発光量が基準値よりも高い場合に、前記残留産物が存在すると判定するステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法は、該残留産物に含まれるdATP(デオキシアデノシン三リン酸)とルシフェリン、ルシフェラーゼ及びマグネシウム化合物との反応により生じる発光を検出することを原理とするものである。本発明に係る方法は、上記の通り、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応を利用するものであり、簡便、安価且つ迅速に行うことができる。
【0011】
本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法において、前記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼ及びルシフェラーゼFM PLUSから選択することができる。
【0012】
本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法において、前記検体を採取するステップにおいて、前記検体は、前記検査対象物を拭き取ることで採取することができる。このため、検体を容易に採取することができ、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出を簡便に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法によると、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、検体から採取した遺伝子増幅反応による残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定し、測定した発光量が基準値よりも高い場合に、検査対象物に当該残留産物が存在すると判定できるため、検査対象物に存在する当該残留産物を迅速、簡便かつ安価に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は実施例におけるルシフェラーゼ溶液の各種核酸に対する発光スペクトルの結果を示す。
図2図2は実施例におけるルシフェラーゼ溶液のGFキット使用により得られる各種溶液に対する発光スペクトルの結果を示す。
図3図3は実施例におけるルシフェラーゼ溶液のYFPキット及びPPFキット使用により得られる各種溶液に対する発光スペクトルの結果を示す。
図4図4は実施例における洗浄前後の作業台から採取される検体の従来法及び本実施例に係る検出方法(発光法)による遺伝子増幅反応による残留産物の検出結果を示す。
図5図5は実施例における洗浄前後のピペットから採取される検体の従来法及び本実施例に係る検出方法(発光法)による遺伝子増幅反応による残留産物の検出結果を示す。
図6図6は実施例における洗浄前後のPCRチューブリテーナーから採取される検体の従来法及び本実施例に係る検出方法(発光法)による遺伝子増幅反応による残留産物の検出結果を示す。
図7図7は応用例における遺伝子増幅反応による残留産物の連続モニタリングの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
≪実施形態1≫
本発明の一実施形態は、遺伝子増幅反応による残留産物に含まれるdATPのルシフェリン・ルシフェラーゼ反応を利用する検出方法である。
【0017】
本実施形態は、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を検出する方法である。特に、本実施形態に係る方法は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物を含む容器内に、検査対象物から検体を採取するステップと、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、検体に含まれる遺伝子増幅反応による残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定するステップと、測定した発光量が基準値よりも高い場合に、当該残留産物が存在すると判定するステップとを含む方法である。
【0018】
本実施形態において、検体は、例えば実験器具、分析機器及び作業台等実験施設の検査対象物から任意の方法で採取することができる。実験器具としては、例えば試験管、ピペット、PCRチューブリテーナー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本実施形態において、検体は、特にポストPCRエリア等の遺伝子増幅反応後の試料を扱う区域内の検査対象物から採取することができる。なお、ポストPCRエリアとは、PCR後の増幅産物を扱う区域を指し、本実施形態においては、作業者が手袋、マスク、白衣等の防護具を着用し、定期的なデコンタミネーションが行われているポストPCRエリアであることが好ましい。
【0019】
本実施形態において、遺伝子増幅反応による残留産物とは、遺伝子増幅反応実験の取り扱いによって得られる物質が残留したものを指す。この遺伝子増幅反応による残留産物は、遺伝子増幅反応を実施した後の反応溶液のみを含むのではなく、遺伝子増幅反応を実施する前のDNA溶液又はRNA溶液を含むものである。本実施形態において、遺伝子増幅反応による残留産物としては、例えば他の実験における遺伝子増幅反応による残留産物等が挙げられる。例えば、実験操作中における遺伝子増幅反応による残留産物溶液の液はね、ピペット操作による飛散、又は微粒子として空気中に飛散する等により、検査対象物に当該残留産物が付着する。遺伝子増幅反応による残留産物中の物質の種類は特に制限されず、2種類以上の物質が混合したものであってもよい。このような遺伝子増幅反応による残留産物は、クロスコンタミネーションの要因となるため、迅速、簡便、安価に検出できるようにすることが望まれている。本実施形態において、遺伝子増幅反応による残留産物は、通常、dNTP(デオキシヌクレオチド三リン酸)を含み、特に、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)を含む。
【0020】
本実施形態において、遺伝子増幅反応は、例えばPCR(polymerase chain reaction)、RT-PCR(reverse transcription-polymerase chain reaction)、LAMP(loop-mediated isothermal amplification)、RT-LAMP(reverse transcription-loop-mediated isothermal amplification)、MDA(multiple strand displacement amplification)、RCA(rolling circle amplification)、及びDOP-PCR(degenerate oligonucleotide-primed PCR)等が挙げられる。これらの遺伝子増幅反応による残留産物は、通常、dNTPを含み、特にdATPを含む。
【0021】
本実施形態において、遺伝子増幅反応による残留産物に対する発光試薬として、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物を少なくとも含む試薬を使用することができる。
【0022】
本実施形態において、ルシフェリンは、例えば以下の化学式で表されるホタルルシフェリン(D-ルシフェリン)を使用することができる。また、ホタルルシフェリンのみに限定されるものではなく、ホタルルシフェリン塩又はホタルルシフェリン誘導体を適宜使用することができるし、ホタルルシフェリン以外の既知のルシフェリンを使用することもできる。
【0023】
【化1】
【0024】
本実施形態において、マグネシウム化合物は、マグネシウムイオン(Mg2+)を含む化合物、例えば酢酸マグネシウム(Mg(CHCOO))等を使用することができる。また、酢酸マグネシウムに限定されるものではなく、その他の既知のマグネシウム化合物を使用することができる。
【0025】
本実施形態において、ルシフェラーゼは、例えばホタルルシフェラーゼを使用することができ、野生型ホタルルシフェラーゼ及び野生型ホタルルシフェラーゼの改変体等を使用することができる。野生型ホタルルシフェラーゼの改変体としては、例えばルシフェラーゼFM PLUS(バイオエネックス社)等を使用することができる。また、当技術分野において野生型ホタルルシフェラーゼの改変体として既知のものは、全て使用することができる。
【0026】
本実施形態において、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)を基質とするルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物の反応は、以下の式で表される。なお、ホタルルシフェラーゼを用いた場合、この反応により極大波長(λmax)が605nmである発光が観察される。下記式において、dAMPはデオキシアデノシン一リン酸を指し、PPiはP 4-を指す。
【0027】
【化2】
【0028】
本実施形態において、容器は、例えば樹脂製容器及びガラス製容器等を使用することができるが、これに制限されるものではない。
【0029】
本実施形態において、容器は、抽出試薬をさらに含むことができる。抽出試薬は、検査対象物から採取した検体に含まれる物質を抽出するための試薬であり、例えば塩化ベンザルコニウム等の界面活性剤の他、滅菌水等を使用することができる。
【0030】
本実施形態において、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物を含む容器内に、検査対象物から検体を採取するステップは、任意の方法で行うことができ、採取道具も適宜使用することができる。例えば採取道具として綿棒を使用する場合は、綿棒の先端部にある綿球部で検査対象物の表面をこすって検体を綿球部に吸着させ、綿球部を容器内に移した後に抽出試薬を添加し、綿球部から検体を抽出することによって採取することができる。また、あらかじめ容器内に含ませた抽出試薬に検体を吸着させた綿球部を浸漬させることで検体の抽出を行うこともできる。なお、綿棒は、乾燥した綿球部のものを使用することができるし、湿潤した綿球部のものを使用することもできる。また、乾燥した綿球部のものを使用する場合は、綿球部を湿らせて使用することもできる。
【0031】
本実施形態において、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、検体に含まれる遺伝子増幅反応による残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定するステップは、発光測定装置を用いて、上記反応により生じる発光の発光量を測定することで行うことができる。発光測定装置は、例えばルミテスターC-1000(キッコーマンバイオケミファ社製)及びSystemSURE Plus(Hygiena社製)等が挙げられ、RLUを単位とする発光量として測定することができる。ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、検体に含まれる遺伝子増幅反応による残留産物のdATP、及び酸素による発光は、605nmを極大波長(λmax)とする発光として観測されるため、当該発光の発光量を測定することで、検体中に遺伝子増幅反応による残留産物が含まれているか否かを判定することができる。一方、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、ATP、及び酸素の反応により生じる発光は、560nmを極大波長(λmax)とする発光として観測されるが(後述する)、作業者が手袋、マスク、白衣等の防護具を着用し、定期的にデコンタミネーションが行われているような遺伝子増幅反応後の試料を扱う区域内の検査対象物は、通常ATPを含まないため、この反応によって遺伝子増幅反応による残留産物の誤検出につながるおそれはない。なお、ATPは、例えば菌、微生物、肉、魚、野菜等の食物、ヒトの汗、唾液などの体液等に含まれている。
【0032】
また、本実施形態において、遺伝子増幅反応による残留産物の存在の有無の判定は、基準値と比較して行うことができる。基準値は適宜設定することができるため特に制限されないが、例えば、dATPを含まない溶液を陰性対照として、検体と同様に測定して得られた値を基準値とし、当該基準値よりも検体に対する測定値が大きければ、遺伝子増幅反応による残留産物が存在すると判定することができる。その他に、過去の測定値に基づいて基準値を予め定めることもできる。そのような場合、例えば1RLUを基準値とすることができる。例えば、測定される発光量が1RLUよりも大きい場合は、検体に遺伝子増幅反応による残留産物が含まれていると判定することができ、一方で、測定される発光量が1RLU以下であれば、検体に当該残留産物が含まれていないと判定することができる。また、2つ以上の基準値を設定することもできる。
【0033】
本実施形態に係る遺伝子増幅反応による残留産物を検出する方法は、例えば検査キットを使用して行うことができる。検査キットは、例えばUltraSnap(Hygiena社製)等のATPふき取り検査キットを用いることができる。
【0034】
本実施形態に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法によると、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、dATPを含む遺伝子増幅反応による残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定し、測定した発光量が基準値よりも高い場合に、検査対象物に当該残留産物が存在すると判定できる。そのため、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を迅速、簡便かつ安価に検出することができる。
【0035】
≪実施形態2≫
本発明の他の一実施形態は、遺伝子増幅反応による残留産物に含まれるdATP及びATPのルシフェリン・ルシフェラーゼ反応を利用する検出方法である。それ以外の内容は上述した実施形態1と同様であり、本実施形態に組み込まれる。
【0036】
本実施形態において、遺伝子増幅反応による残留産物の定義等は上述の通りである。また、本実施形態において、遺伝子増幅反応は、例えばRPA(recombinase polymerase amplification)、HDA(helicase-dependent amplification)、NASBA(nucleic acid sequence-based amplification)、及びTRC(transcription reverse-transcription concerted reaction)等が挙げられる。これらの遺伝子増幅反応による残留産物は、通常、dNTP及びNTPを含み、特にdATP及びATPを含む。
【0037】
本実施形態において、ATP(アデノシン三リン酸)を基質とするルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びマグネシウム化合物の反応は、以下の式で表される。なお、ホタルルシフェラーゼを用いた場合、この反応により極大波長(λmax)が560nmである発光が観察される。下記式において、AMPはアデノシン一リン酸を指し、PPiはP 4-を指す。
【0038】
【化3】
【0039】
本実施形態のように、遺伝子増幅反応による残留産物がdATP及びATPの両方を含む場合、dATPのルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による605nmを極大波長(λmax)とする発光に加えて、ATPのルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による560nmを極大波長(λmax)とする発光も観測される。このため、これらの発光量の合計値が検出される。一方で、作業者が手袋、マスク、白衣等の防護具を着用し、定期的にデコンタミネーションが行われているような遺伝子増幅反応後の試料を扱う区域内における検査対象物は、通常、当該区域外から混入するATPを含まない。このため、上記発光量の合計値と基準値を比較することにより、遺伝子増幅反応後の試料を扱う区域内において遺伝子増幅反応による残留産物が存在するか否かを判定することができる。なお、基準値の設定は適宜行うことができ、上述した通りである。
【0040】
本実施形態に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法によると、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、dATP及びATPを含む遺伝子増幅反応による残留産物、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定し、測定した発光量が基準値よりも高い場合に、検査対象物に当該残留産物が存在すると判定できる。そのため、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物を迅速、簡便かつ安価に検出することができる。
【実施例0041】
以下に、本発明に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法について詳細に説明するための実施例を示す。以下、その方法及び結果について説明する。
【0042】
<材料>
ルシフェラーゼ溶液としてルシフェールHS(キッコーマンバイオケミファ社製)の発光試薬HSを使用した。発光試薬HSは、D-ルシフェリン、ホタルルシフェラーゼ、及び酢酸マグネシウムを含むルシフェラーゼ溶液である。また、高感度ルシフェラーゼ溶液としてルシフェラーゼFM PLUS(バイオエネックス社製)のLUCIFERASE FM プラス凍結乾燥品を使用した。LUCIFERASE FM プラス凍結乾燥品は、D-ルシフェリン、ルシフェラーゼFM PLUS、及び酢酸マグネシウムを含む高感度ルシフェラーゼ溶液である。また、TEバッファーは、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のものを購入して使用した。
【0043】
<キット>
DNA増幅キットとして、GlobalFiler PCR Amplificationキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、以下「GFキット」とも称する)、Yfiler Plus PCR Amplificationキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、以下「YFPキット」とも称する)、及びPowerPlex(登録商標)Fusion System(プロメガ社製、以下「PPFキット」とも称する)を使用した。
【0044】
<ルシフェラーゼ溶液を用いる発光スペクトル測定>
以下、ルシフェラーゼ溶液を用いる、各種核酸の発光スペクトル測定並びに各種キット使用によるPCR増幅産物及びアレリックラダー等の発光スペクトル測定を行った。
【0045】
(ルシフェラーゼ溶液を用いる各種核酸の発光スペクトル測定)
核酸試料としてTEバッファーで調製した5μM dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、5μM dNTP(デオキシヌクレオチド三リン酸)、5μM dCTP(デオキシシチジン三リン酸)・dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)・dTTP(デオキシチミジン三リン酸)混合溶液を、ネガティブコントロールとしてTEバッファーを使用し、各核酸試料100μL及びTEバッファー100μLのそれぞれをルシフェラーゼ溶液100μLと混合し、マルチモードマイクロプレートリーダー(SpectraMax(登録商標)M5、モレキュラーデバイス社製)を用いて、10ms間隔・バンド幅5nmの条件で450nmから700nmの範囲でスペクトルスキャンを行った。測定結果は図1に示している。
【0046】
(ルシフェラーゼ溶液を用いる、各種キット使用によるPCR増幅産物及びアレリックラダーの発光スペクトル測定)
DNA型鑑定で使用されるGFキット、YFPキット、及びPPFキットの各増幅キットを用いてPCR増幅を行った。GFキットでは、ユーザーガイドに従い、キット付属の1ngのヒトDNA及び蒸留水をGeneAmp(登録商標)PCR System 9700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて29サイクルでPCR増幅を行った。YFPキット及びPPFキットでも、ユーザーガイドに従い、各増幅キット付属の1ngのヒトDNAをGeneAmp(登録商標)PCR System 9700でPCR増幅を行った。増幅回数は、YFPキットにおいて30サイクル、PPFキットにおいて28サイクルで行った。続いて、GFキットのPCRを行っていないPCR溶液5μL、ヒトDNA及び蒸留水のPCR反応液各10μL、アレリックラダー3μL、YFPのヒトDNAのPCR反応液1μL、アレリックラダー1μL、PPFのヒトDNAのPCR反応液3μL、アレリックラダー10μLにそれぞれTEバッファーを加えて100μLとした溶液にルシフェラーゼ溶液100μLをそれぞれ加え、マルチモードマイクロプレートリーダーを用いて、10ms間隔・バンド幅5nmの条件で450nmから700nmの範囲でスペクトルスキャンを行った。測定結果は図2~3に示している。
【0047】
<ルシフェラーゼの検出限界の検討>
以下、溶液反応型とふき取り検査用綿棒一体型の試験方法により、各種試料における発光値を測定した。
【0048】
(溶液反応型)
ルシフェラーゼ溶液50μLに、TEバッファーで調製した200nMから2fMの10倍連続希釈系列のdATP50μL、5倍から6.4×10倍までの20倍連続希釈系列のGFキットのPCRを行っていないPCR溶液、ヒトDNA及び蒸留水のPCR反応液、アレリックラダー、YFPキットのヒトDNAのPCR反応液、PPFキットのヒトDNAのPCR反応液各50μLを加え、ルミテスターC-1000(キッコーマンバイオケミファ社製)でそれぞれ発光値を測定した。測定は各サンプルについて3回実施し、平均値及び標準偏差を算出した。測定結果は表1~3に示している。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
(検査用綿棒一体型)
UltraSnap(Hygiena社製)の綿球部に、TEバッファーで調製した1mMから10pMの10倍連続希釈系列のdATP10μL、10倍から10倍までの10倍連続希釈系列のGFキットのPCRを行っていないPCR溶液、ヒトDNA及び蒸留水のPCR反応液、アレリックラダー、YFPキットのヒトDNAのPCR反応液、PPFキットのヒトDNAのPCR反応液各10μLを付着させケースに戻し、綿棒上部のルシフェラーゼ溶液を綿球部に落としてSystemSURE Plus(Hygiena社製)で発光値を測定した。測定は各サンプルについて3回実施し、平均値及び標準偏差を算出した。測定結果は表4~6に示している。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
(ルシフェラーゼ溶液と高感度ルシフェラーゼ溶液のdATP検出限界比較)
ルシフェラーゼ溶液50μLと高感度ルシフェラーゼ溶液50μLに、TEバッファーで調製した10nMから100fMの10倍連続希釈系列のdATP溶液50μLを加え、ルミテスターC-1000で発光値を測定した。測定は各サンプルについて3回実施し、平均値及び標準偏差を算出した。測定結果は表7に示している。
【0057】
【表7】
【0058】
<検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出>
まず、検査対象物を洗浄する前に、検査対象物から検体の採取を行った。具体的に、DNA型鑑定室のポストPCRエリア内の作業後の作業台40×80cmの範囲、ピペットの持ち手部分、PCRチューブリテーナーの上面を、滅菌水で綿球部を湿らせた滅菌綿棒(栄研化学)及びUltraSnapでそれぞれ拭き取った。次に、検査対象物に対して洗浄を行い、検体の採取を行った。具体的に、作業台は2%(v/v)ハイター(花王社製)、DNA AWAY(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、70%(v/v)エタノールを用いて表面を拭き取り洗浄し、ピペットはDNA AWAY、70%(v/v)エタノールを用いて表面を拭き取り洗浄し、PCRチューブリテーナーは2%(v/v)ハイター(花王社製)に一晩浸漬し、水道水で洗い流し、70%(v/v)エタノールに浸漬後、風乾させた。それぞれ洗浄した後の作業台40×80cmの範囲、ピペットの持ち手部分、PCRチューブリテーナーの上面を、滅菌水で綿球部を湿らせた滅菌綿棒及びUltraSnapで再度それぞれ拭き取った。続いて、採取した各検体について遺伝子増幅反応による残留産物の検出を試みた。具体的に、滅菌綿棒は綿球部を切り取り、100μLの滅菌水で浸出させ、浸出液10μLをGFキットで増幅し、各増幅産物1μLに、9.6μLのHi-Diホルムアミド及び0.4μLのGeneScan 600 LIZ(登録商標)サイズスタンダードv2.0を加えて95℃で3分間熱変性し、3500xLジェネティックアナライザーでPOP-4(登録商標)ポリマー及び3500xLジェネティックアナライザー、24本キャピラリーアレイ36cmを用いて、1.2kV、24秒の条件でサンプルインジェクションを行い、泳動電圧13kVで電気泳動を行った(図4~6における「従来法」)。UltraSnapでは綿球部をケースに戻し、綿棒上部のルシフェラーゼ溶液を綿球部に落としてSystemSURE Plusで発光値を測定した(図4~6における「発光法」)。作業台の測定結果は図4、ピペットの測定結果は図5、及びPCRチューブリテーナーの測定結果は図6に示している。
【0059】
<評価>
上記試験で得られた測定結果をもとに、実施例に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法について評価を行った。
【0060】
(ルシフェラーゼ溶液の各種核酸に対する発光スペクトルの評価)
図1に示すように、ルシフェラーゼ溶液を用いる各種核酸に対する発光スペクトルを測定したところ、dATP(5μM dATP)及びdNTP(5μM dNTP)の発光スペクトルはλmaxが605nmを有するピークとして観察された。一方で、dCTP・dGTP・dTTP混合溶液(5μM dCTP,dGTP,dTTP)及びネガティブコントロールのTEバッファー(NC(TE))ではピークが観察されなかった。これらの結果から、ルシフェラーゼ溶液を用いたときに発光する核酸の種類は、dATP及びdNTPであることが分かった。また、ルシフェラーゼ溶液を用いたときのdNTPの発光は、dATPに起因していることも分かった。従って、遺伝子増幅反応による残留産物にdATPが含まれている場合、このdATPのルシフェリン・ルシフェラーゼ反応に起因する発光を利用することで、残留産物の検出が可能であることが示された。
【0061】
(ルシフェラーゼ溶液のGFキット、YFPキット、及びPPFキット使用により得られる各種溶液に対する発光スペクトルの評価)
図2に示すように、ルシフェラーゼ溶液を用いて、GFキットのPCR溶液(5μL GF PCR-)、各種PCR増幅産物(10μL GF NC PCR+、10μL GF PC PCR+)、アレリックラダー(3μL GF Ladder)に対する発光スペクトルを測定したところ、λmaxが600nmから610nmであるピークが観察された。なお、NCはネガティブコントロールを意味し、PCはポジティブコントロールを意味する。また、参考のために、ルシフェラーゼ溶液を用いたときのdATP(5μM dATP)の発光スペクトルも図2中に示している。続いて、図3に示すように、ルシフェラーゼ溶液のYFPキット及びPPFキットのPCR増幅産物(1μL YFP PC PCR+、3μL PPF PC PCR+)並びにアレリックラダー(1μL YFP Ladder、10μL PPF Ladder)に対する発光スペクトルを測定したところ、YFPキットのPCR増幅産物(1μL YFP PC PCR+)及びアレリックラダー(1μL YFP Ladder)、並びにPPFキットのPCR増幅産物(3μL PPF PC PCR+)は、λmaxが600nmから610nmであるピークが観察され、PPFキットのアレリックラダー(10μL PPF Ladder)ではピークが観察されなかった。なお、参考のために、ルシフェラーゼ溶液を用いたときのGFキットのPCR増幅産物(10μL GF PC PCR+)及びアレリックラダー(3μL GF Ladder)の発光スペクトルも図3中に示している。これらの結果から、各種PCR増幅キットにおいて、各PCR反応液及びアレリックラダーは、ルシフェラーゼ溶液を用いることによって基本的に発光スペクトルが観察され、該発光スペクトルはルシフェラーゼ溶液、dATP、及び酸素の反応により生じる発光スペクトルに起因することが推察された。
【0062】
(ホタルルシフェラーゼの検出限界の評価)
表1~3の結果に基づいて、溶液反応型についての検出限界の評価を行った。表1の結果から、ルシフェラーゼ溶液を用いた場合の溶液反応型では、10fmol以上のdATPを検出可能であることが分かった。なお、検出限界はブランクの平均値に3SDを加えたもの(平均値及びSDが共に0の場合は3)として算出している。また、表2の結果から、ルシフェラーゼ溶液は、62.5pL以上のGFキットのPCRを行っていないPCR溶液(PCR混合物)、ヒトDNA及び蒸留水のPCR反応液(1ng 007 DNA、蒸留水)、並びにアレリックラダーを検出可能であることが分かった。また、表3の結果から、3.1pL以上のYFPキットのヒトDNAのPCR反応液(YFP-1ng 007 DNA)及び62.5pL以上のPPFキットのヒトDNAのPCR反応液(PPF-1ng 2800M DNA)を検出可能であることが分かった。
【0063】
表4~6の結果に基づいて、検査用綿棒一体型についての検出限界の評価を行った。表4の結果から、ルシフェラーゼ溶液を用いた場合の検査用綿棒一体型では、1pmol以上のdATPを検出可能であることが分かった。また、表5の結果から、ルシフェラーゼ溶液は、1nL以上のGFキットのPCRを行っていないPCR溶液(PCR混合物)、ヒトDNA及び蒸留水のPCR反応液(1ng 007 DNA、蒸留水)、並びにアレリックラダーを検出可能であることが分かった。また、表6の結果から、1nL以上のYFPキットのヒトDNAのPCR反応液(YFP-1ng 007 DNA)及び1nL以上のPPFキットのヒトDNAのPCR反応液(PPF-1ng 2800M DNA)を検出可能であることが分かった。
【0064】
(ルシフェラーゼ溶液と高感度ルシフェラーゼ溶液のdATP検出限界の評価)
表7の結果から、ルシフェラーゼ溶液は5fmol以上のdATPを検出可能であり(ルシフェラーゼ溶液-dATP)、高感度ルシフェラーゼ溶液は5amol以上のdATPを検出可能であることが分かった(高感度ルシフェラーゼ溶液-dATP)。なお、検出限界はブランクの平均値に3SDを加えたものとして算出している。これらの結果から、高感度ルシフェラーゼ溶液のdATPに対する検出限界は、ルシフェラーゼ溶液と比較して約1000倍程度高いことが分かった。このため、より低濃度の遺伝子増幅反応による残留産物の検出を行いたい場合に特に有効であることが分かった。
【0065】
(検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法としての評価)
図4~6の結果に基づいて、検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法としての評価を行った。まず、従来法(検査対象物から検体採取、DNA抽出・定量、PCR、電気泳動、ピーク解析の順に操作)での遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法を評価した。まず、図4の左上に示すように、ポストPCRエリア内における洗浄前の作業台から採取した検体は、複数のピークが検出されていることから、遺伝子増幅反応による残留産物を含んでいることが分かった。続いて、図4の左下に示すように、作業台を洗浄した後に採取した検体は、目立ったピークが検出されていないことから、遺伝子増幅反応による残留産物を含んでいないことが分かった。従って、上述した作業台の洗浄により、作業台における遺伝子増幅反応による残留産物の除去に成功していることが分かったのであるが、この従来法による検出は、検査対象物から採取した検体に対して、DNA抽出・定量、PCR、電気泳動、ピーク解析の順に操作を行う必要があり、検体に含まれる遺伝子増幅反応による残留産物の検出までに少なくとも半日程度の時間がかかり、手間とコストもかかることが分かった。
【0066】
次に、本実施例に係る検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法を評価した。図4の右側に示すように、本実施例に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法(発光法)は、検査対象物から採取した検体、ルシフェラーゼ溶液、及び酸素の反応により生じる発光の発光値を測定し、この発光値が基準値よりも高い場合に、検体中に遺伝子増幅反応による残留産物が存在すると判定できることが分かった。具体的に図4の右側の例で説明すると、洗浄前の作業台から採取した検体に起因する発光値は、13RLUであり、ここでの基準値1RLUよりも数値が高いため、検体に遺伝子増幅反応による残留産物が存在すると判定した。また、洗浄後の作業台から採取した検体に起因する発光値は0RLUであり、基準値1RLU以下であるため、検体に遺伝子増幅反応による残留産物は存在しないと判定した。この結果は、図4の左側の従来法による遺伝子増幅反応による残留産物の検出結果とも一致しており、本実施例に係る方法により、遺伝子増幅反応による残留産物の検出が可能であることが示された。また、図5~6の結果から、検査対象物としてピペット及びPCRチューブリテーナーを用いた場合でも同様の結果が得られることが分かった。
【0067】
上記の例では、遺伝子増幅反応としてPCRの場合を実証したが、PCR以外の遺伝子増幅反応であるRT-PCR、LAMP、RT-LAMP、MDA、RCA及びDOP-PCRの場合でも本実施例に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出が可能である。さらに、上記以外の他の遺伝子増幅反応であるRPA、HDA、NASBA及びTRCの場合でも本実施例に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出が可能であり、その点について説明する。以下に、各遺伝子増幅反応により得られるDNA溶液又はRNA溶液(反応溶液を含む)に含まれるdATP及びATPの関係を表8に示す。表8中、○は含有することを示し、-は含有しないことを示している。
【0068】
【表8】
【0069】
表8に示すように、PCRにおいて得られるDNA溶液及び反応溶液にdATPが含まれることは上記実施例において実証した通りである。また、表8に示すように、あくまで一例を示すものであるが、RT-PCRのRNA溶液では200μMのdATPを含むこと(非特許文献1)、LAMPのDNA溶液では400μMのdNTPを含むこと(非特許文献2)、RT-LAMPのRNA溶液では1.4mMのdNTPを含むこと(非特許文献3)、MDAのDNA溶液では1mMのdNTPを含むこと(非特許文献4)、RCAのDNA溶液では1mMのdATPを含むこと(非特許文献5)、及びDOP-PCRのDNA溶液では0.2mMのdNTPを含むこと(非特許文献6)がそれぞれ記載されている。従って、遺伝子増幅反応としてRT-PCR、LAMP、RT-LAMP、MDA、RCA及びDOP-PCRを用いる場合でも、上記実施例において実証したPCRの場合と同様に、dATPを指標として遺伝子増幅反応による残留産物を検出できることはいうまでもない。
【0070】
さらに、表8に示すように、あくまで一例を示すものであるが、RPAのDNA溶液では200μMのdNTP及び3mMのATPを含むこと(非特許文献7)、HDAのDNA溶液では20nmolのdNTP及び150nmolのATPを含むこと(非特許文献8)、NASBAのRNA溶液では1mMのdNTP及び4.1mMのNTPを含むこと(非特許文献9)、並びにTRCのRNA溶液では0.38mMのdNTP及び3.1mMのNTPを含むこと(非特許文献10)がそれぞれ記載されている。従って、遺伝子増幅反応としてRPA、HDA、NASBA、TRCを用いる場合でも、dATP及びATPの両方を指標として遺伝子増幅反応による残留産物を検出することが可能である。
【0071】
非特許文献1:Wang C, Gao D, Vaglenov A, Kaltenboeck B. One-step real-time duplex reverse transcription PCRs simultaneously quantify analyte and housekeeping gene mRNAs. Biotechniques 2004, 36, 508-519.(509頁の右欄1-9行目)
非特許文献2:Notomi T, Okayama H, Masubuchi H, Yonekawa T, Watanabe K, Amino N, Hase T. Loop-mediated isothermal amplification of DNA. Nucleic Acids Research 2000, 28(12), e63.(2頁の左欄29-35行目)
非特許文献3:Yoda T, Suzuki Y, Yamazaki K, Sakon N, Kanki M, Aoyama I, Tsukamoto T. Evaluation and application of reverse transcription loop-mediated isothermal amplification for detection of noroviruses. J. Med. Virol. 2007, 79, 326-334.(328頁の右欄28行目-330頁の左欄4行目)
非特許文献4:Dean FB, Hosono S, Fang L, Wu X, Faruqi AF, Bray-Ward P, et al. Comprehensive human genome amplification using multiple displacement amplification. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2002, 99, 5261-5266.(5261頁の右欄30-35行目)
非特許文献5:Liu D, Daubendiek SL, Zillman MA, Ryan K, Kool ET. Rolling circle DNA synthesis: small circular oligonucleotides as efficient templates for DNA polymerases. J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 1587-1594.(1588頁の左欄5-12行目)
非特許文献6:Telenius H, Carter NP, Bebb CE, Nordenskjold M, Ponder BA, Tunnacliffe A. Degenerate oligonucleotide-primed PCR: general amplification of target DNA by a single degenerate primer. Genomics 1992, 13, 718-725.(719頁の左欄20-21行目、720頁の表1)
非特許文献7:Piepenburg O, Williams CH, Stemple DL, Armes NA. DNA detection using recombination proteins. PLoS Biol. 2006, 4, e204.(1118頁の右欄51-56行目)
非特許文献8:Vincent M, Xu Y, Kong H. Helicase-dependent isothermal DNA amplification. EMBO Rep. 2004, 5, 795-800.(799頁の右欄5行目-800頁の左欄4行目)
非特許文献9:Kievits T, van Gemen B, van Strijp D, Schkkink R, Dircks M, Adriaanse H, Malek L, Sooknanan R, Lens P. NASBA isothermal enzymatic in vitro nucleic acid amplification optimized for the diagnosis of HIV-1 infection. J Virol Methods. 1991, 35, 273-286.(276頁の35-40行目)
非特許文献10:Sato A, Sueoka-Aragane N, Saitoh J, Komiya K, Hisatomi T, Tomimasu R, Hayashi S, Sueoka E. Establishment of a new method, transcription-reverse transcription concerted reaction, for detection of plasma hnRNP B1 mRNA, a biomarker of lung cancer. J. Cancer Res. Clin. Oncol. 2008, 134, 1191-1197.(1193頁の左欄21-26行目)
【0072】
以上の結果から、本実施例に係る遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、マグネシウム化合物、検査対象物から採取した検体、及び酸素の反応により生じる発光の発光量を測定し、測定した発光量が基準値よりも高い場合に、検査対象物に遺伝子増幅反応による残留産物が存在すると判定できることが分かり、検査対象物に存在する当該残留産物を迅速、簡便かつ安価に検出できる方法として有用であることが明らかとなった。
【0073】
応用例
応用例は、上記実施例で説明した遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法を利用する、当該残留産物の連続モニタリングの検討を行った。以下、その方法及び結果について説明する。
【0074】
<遺伝子増幅反応による残留産物の連続モニタリング>
DNA型鑑定室のポストPCRエリア内において、最初に、実施例で説明した方法と同様にして作業台、ピペット、及びPCRチューブリテーナーの洗浄(デコンタミネーション)を行い、作業台40×80cmの範囲、ピペットの持ち手部分、及びPCRチューブリテーナーの上面を、UltraSnapでそれぞれ拭き取った。続いて、同エリア内において、PCRサンプルを取り扱った後に、同じ箇所を再度UltraSnapでそれぞれ拭き取った。この一連の操作を各作業日に1回行い、8日間に亘って繰り返し行った。続いて、採取した各検体について遺伝子増幅反応による残留産物の検出を試みた。具体的に、UltraSnapは綿球部をケースに戻し、ルシフェラーゼ溶液を綿棒上部の綿球部に落としてSystemSURE Plusで発光値を測定した。また、各作業日で取り扱ったPCRサンプル数の記録も行った。測定結果は図7に示している。図7のグラフ中の上部に記載した数値はその日に扱ったPCRサンプル数を示しており、1日目で81サンプル、2日目で161サンプル、3日目で115サンプル、4日目で79サンプル、5日目で8サンプル、6日目で58サンプル、7日目で94サンプル、8日目で0サンプルであった。
【0075】
図7に示すように、ポストPCRエリア内においてPCRサンプルを取り扱うことにより、作業台、ピペット、及びPCRチューブリテーナーから採取した検体に起因する発光値は上昇し、遺伝子増幅反応による残留産物の量が増加する傾向にあることが分かった。一方、各検査対象物に対して洗浄を行うことで、各検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の量が大幅に低下することが分かった。また、取り扱ったPCRサンプル数が多い作業日では、各検査対象物に存在する遺伝子増幅反応による残留産物の量が上昇する傾向にあることも分かった。
【0076】
以上の結果から、上記実施例で説明した遺伝子増幅反応による残留産物の検出方法を利用することで、検査対象物に存在する当該残留産物を連続モニタリングできることが分かり、当該残留産物の量を簡便かつ安価に連続モニタリングする方法として有用であることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7