(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031278
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを配合した高い隠ぺい性を有する塗料
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20240229BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240229BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240229BHJP
【FI】
C01F11/18 A
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134733
(22)【出願日】2022-08-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の成果報告書データベースのURL:https://seika.nedo.go.jp/pmg/PMG01C/PMG01CG01 ウェブサイトの掲載日:2022年(令和4年)6月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度~令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発/カルシウム含有廃棄物からのCa抽出およびCO2鉱物固定化技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】大泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
【テーマコード(参考)】
4G076
4J038
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB28
4G076AC04
4G076BA13
4G076BC02
4G076BD01
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA40
4G076DA15
4J038HA286
4J038KA08
4J038MA14
4J038NA01
(57)【要約】
【課題】
高い白色度を有し、隠ぺい性の高い炭酸カルシウムを合成することができる、塗料用炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを含む高い隠ぺい性を有する塗料を提供する。
【解決手段】
本発明の高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウムは、粒度の平均粒径(D50)が2~20μmで、粒度分布のD10が1~13μmで、粒度分布のD90が3~30μmであって、立方体状の形状を有する、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度の平均粒径(D50)が2~20μmで、粒度分布のD10が1~13μmで、粒度分布のD90が3~30μmであって、立方体状の形状を有していることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム。
【請求項2】
請求項1記載の炭酸カルシウムにおいて、更に、色彩色差計にて測定した色彩値は、L*が95.0~99.9、a*が-1.0~1.0、b*が-1.0~1.0であることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の炭酸カルシウムは、更に、X線解析法(XRD)にて測定した結晶系がカルサイトであることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の塗料用炭酸カルシウムを配合した塗料であることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを配合した高い隠ぺい性を有する塗料に関し、特に、各種塗料等の充填材(フィラー)に用いることができる高い隠ぺい性を有する炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを配合した高い隠ぺい性を有する塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、樹脂、ゴム、紙、塗料、化粧品原料等の充填材として、炭酸カルシウムや酸化チタンが幅広い産業分野で利用されており、各種物性値の改善に利用されている。特に、屈折率が小さい炭酸カルシウムは主として「体質顔料」として、屈折率が¥大きい酸化チタンは主として「白色顔料」として、塗料の充填剤として用いられている。
炭酸カルシウムとしては、高純度な天然石灰石を粉砕して、粒度調整のために分級等を行って調製する重質炭酸カルシウムがある。
また、炭酸カルシウムを一度焼成して、石灰とした後、水と反応させて消石灰に消化した後、炭酸ガスと反応させて再度炭酸カルシウムとし、回収、乾燥、解砕、分級した軽質炭酸カルシウムがある。
【0003】
しかし、粉砕した炭酸カルシウムである石灰石(重質炭酸カルシウム)では、隠ぺい力が高くなく、隠ぺい性が十分ではないという問題がある。
また充填材として酸化チタンは炭酸カルシウムと比較して高価であり、更に樹脂等に充填した場合、塗布面が太陽光に晒されると劣化する等の問題がある。
【0004】
特開2008-156204号公報(特許文献1)には、微粒子凝集体状軽質炭酸カルシウムを製造する方法であって、生石灰を湿式消化することにより石灰乳を得る工程(1)と、水酸化カルシウムを水に懸濁して得られた水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを吹き込み、炭酸化率20%以下に炭酸化し膠質粒子状水酸化カルシウム懸濁液を得る工程(2)と、工程(1)で得た石灰乳に、工程(2)で得た膠質粒子状水酸化カルシウム懸濁液を添加し、炭酸ガスを吹き込み、炭酸化率100%まで反応させる工程(3)とを含むことを特徴とする微粒子凝集体状軽質炭酸カルシウムの製造方法が開示されており、これにより、BET比表面積が10~25m2/g以下、窒素吸着法による0~1000Åの細孔容積が0.05cm3/g以上であって全細孔容積に占める250Å以下の細孔容積の割合が25%以上、流動パラフィンによる吸油量が100cc/100g以上である微粒子凝集体状軽質炭酸カルシウムが得られることが記載されている。また更に、得られた炭酸カルシウムを印刷用紙の填料として用いた場合には、印刷用紙に優れたインク吸収性、不透明度(特に印刷後不透明度)を与えることができることが記載されている。
【0005】
また、特開2012-207346号公報(特許文献2)には、隠ぺい性を有する塗工層を提供することができる炭酸カルシウムスラリーを提供すること、および炭酸カルシウムを含有する塗工層を備えた隠ぺい性を有する塗工紙を提供することを目的として、平均粒径が0.5~1.5μmであり、勾配係数(D30/D70)(式中、DXはこの径に対する粒子のX重量%がより微細な等価球径を示す)が40以上である炭酸カルシウムスラリーと、前記炭酸カルシウムを塗工層に備える塗工紙が開示されている。
【0006】
更に、特開2002-233851号公報(特許文献3)には、焼成灰を利用して、白色度が高く、低摩耗性の軽質炭酸カルシウム被覆粒子およびそれを利用した紙を提供することを目的として、焼成灰を、平均粒子径が3μm以下となるように粉砕し、粉砕後の焼成灰粒子を水酸化カルシウム含有水性懸濁液中に混合し、前記水性懸濁液に二酸化炭素または二酸化炭素含有ガスを通し、前記焼成灰粒子の周囲を軽質炭酸カルシウムで被覆し、このようにして製造した軽質炭酸カルシウム被覆粒子を、充填材含有紙の充填材として或いは塗工紙用顔料として用いることが開示されている。
【0007】
しかし、上記従来の炭酸カルシウムでは、塗料に配合した場合であっても、隠ぺい性が十分ではなく、より隠ぺい性が高い炭酸カルシウムが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-96975号公報
【特許文献2】特開2021-79377号公報
【特許文献3】特開2002-233851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、不純物をほとんど含まず高い純度及び高い白色度を有する、隠ぺい性に優れた、塗料用の炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを配合した高い隠ぺい性を有する塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の塗料用炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを配合した高い隠ぺい性を有する塗料は、以下の技術的特徴を有する。
(1)本発明の高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウムは、粒度の平均粒径(D50)が2~20μmで、粒度分布のD10が1~13μmで、粒度分布のD90が3~30μmであって、立方体状の形状を有していることを特徴とする。
【0011】
(2)上記(1)に記載の炭酸カルシウムにおいて、更に、色彩色差計にて測定した白色度色彩値がL*が95.0~99.9、a*が-1.0~1.0、b*が-1.0~1.0であることを特徴とする。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載の炭酸カルシウムは、更に、X線解析法(XRD)にて測定した結晶系がカルサイトであることを特徴とする。
【0013】
(4)本発明の高い隠ぺい性を有する塗料は、上記いずれかの塗料用炭酸カルシウムを配合した塗料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗料用炭酸カルシウムは、立方体状を有し、粒度分布がシャープで狭く、純度が高く、高い白色度を有し、塗料用の充填材として用いた場合には、優れた隠ぺい性を発揮することが可能となる。特に、原料であるカルシウム含有廃棄物に重金属やマグネシウムが含まれていても、本発明の炭酸カルシウムは、重金属やマグネシウムが除去される結果、白色度の高い立方体状の炭酸カルシウムとすることができる。
したがって、本発明の塗料用炭酸カルシウムを、各種塗料に配合することで、高い隠ぺい性を塗料に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の塗料用炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムの形状を示す電子顕微鏡写真図である。
【
図2】本発明の塗料用炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムの粒度分布を示す図である。
【
図3】本発明の塗料用炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムのX線解析により得られた図である。
【
図4】本発明により得られた炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムの粒子の色を示す図である。
【
図5】本発明の炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムを配合した塗料の隠ぺい率を測定するための一例の写真図である。
【
図6】本発明の炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムを配合した塗料の隠ぺい率を測定するための他の一例の写真図である。
【
図7】本発明の塗料用炭酸カルシウム及び他の炭酸カルシウムを配合した塗料を塗布した際に含まれる各炭酸カルシウムの状態を示す電子顕微鏡写真図である。
【
図8】本発明の塗料用炭酸カルシウムを製造するための製造方法の一例のフロー図である。
【
図9】
図8を概略化し、二酸化炭素を固定して炭酸アルカリを生成する工程を組み入れた一例の図である。
【
図10】塗料用炭酸カルシウムを製造するにあたり、炭酸カルシウム生成工程のpHを変動させた場合に得られた炭酸カルシウムの形状を示す電子顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の塗料用炭酸カルシウムについて、図面を参照しながら以下に説明する。
本発明の高い隠ぺい性を有する炭酸カルシウムは、粒度の平均粒径(D50)が2~20μmで、粒度分布のD10が1~13μmで、粒度分布のD90が3~30μmであって、立方体状の形状を有している、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウムである。
【0017】
本発明の炭酸カルシウムは立方体状の形状を有しているものであり、本発明の塗料用炭酸カルシウムの形状を電子顕微鏡で観察した写真図を
図1に示す。また比較のために、市販の重質炭酸カルシウム(重炭)と軽質炭酸カルシウム(軽炭(1))の形状についての電子顕微鏡写真図も
図1に示す。
図1に示すように、本発明の炭酸カルシウムは、粒径のばらつきがほとんどない立方体状の形状を有しているものであり、他方、重炭酸カルシウムは、大きい粒子と小さい粒子が混在しており、また軽質炭酸カルシウムは、一次粒子は小さいが二次凝集している。
【0018】
また、本発明の塗料用炭酸カルシウムの粒度分布は、粒度の平均粒径(D50)が2~20μm、好ましくは4~16μm、より好ましくは6~10μmで、粒度分布のD10が1~13μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは4~7μmで、粒度分布のD90が3~30μm、好ましくは6~20μm、より好ましくは10~15μmである。
図1の本発明の塗料用炭酸カルシウムの粒度分布を、
図2に示す。なお、比較のために、
図1の市販の重質炭酸カルシウム、及び、軽質炭酸カルシウムの粒度分布も
図2に示す。
なお、粒度分布は、粒度径分布測定装置(MT-3000、マイクロトラック・ベル社製)により測定したものであり、メディアン径(平均粒径)であるD50は、粒度分布の母集団の半分がこの値より下にある直径という意味であり、同様にD90は母集団の90%がこの値より下にある直径、D10は母集団の10%がこの値よりも下にある直径で定義されるものである。
【0019】
図2より、本発明の塗料用炭酸カルシウムは、上記数値範囲内の粒度分布を有し、その形状はシャープで狭いことが明らかである。他方、市販の重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムは粒度分布が広く、粒度にばらつきがあることがわかる。
【0020】
図2の本発明の炭酸カルシウムと、市販の重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムをXRD(X’PertPro MPD、マルバーン・パナリティカル社製)で測定し、その結果を
図3に示す。
この結果より、本発明の炭酸カルシウム及び重炭酸カルシウムの結晶系はカルサイトであるが、軽質炭酸カルシウムは、水酸化カルシウムが混在している。
【0021】
好ましくは、本発明の塗料用炭酸カルシウムは、色彩色差計にて測定した色彩値が、L
*が95.0~99.9、a
*が-1.0~1.0、b*が-1.0~1.0であり、白色度に優れたものである。
本発明の炭酸カルシウム(例:SOC-CR-001)と、市販の重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムを、コニカミノルタ製の色彩色差計(CR-400/410)で白色度の測定を実施した。その状態及び結果を
図4及び表1に示す。
【0022】
【0023】
好ましくは、本発明の炭酸カルシウムは、各種塗料に隠ぺい用の充填剤として配合して、高い隠ぺい性を有する塗料を得ることが可能である。
塗料としては、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、シリコン系塗料、ラジカル系塗料、フッ素系塗料、光触媒系塗料、無機系塗料等、市場で入手し得る各種塗料が例示できる。
【0024】
一例として、本発明の塗料用炭酸カルシウム(
図5中、SOC-CR-001として表示)を、水性アクリルエマルジョン(ライオンボンドA、住友大阪セメント社製)と質量比5:6で配合して、均一になるまで練り混ぜ、JIS 5600-4-1に準拠して、隠ぺい率試験紙(隣接して白部と黒部が印刷され、且つ、ワニスが塗布されていて、溶剤又は水で希釈された塗料で容易にぬれるが浸透されないもの)に同じ膜厚で塗膜を形成した(50~100μmの範囲の同一の膜厚)(
図5)。隠ぺい率試験紙の白部と黒部上の三刺激値を色彩光度計(CR-400/410、コニカミノルタ製)で測定し、隠ぺい率を求めた結果を表2に示す。
なお、比較のために、
図1の市販の重質炭酸カルシウム(
図5中、重炭 特級)を、本発明の炭酸カルシウムに代えて、同様に実施し、その結果も以下の表2に示す。
【0025】
【0026】
また、他の一例として、本発明の炭酸カルシウム(
図6中、SOC-CR-002)を、水性アクリルエマルジョン(ライオンボンドA、住友大阪セメント社製)と質量比7:6で配合して、均一になるまで練り混ぜ、JIS5600-4-1に準拠して、隠ぺい率試験紙(隣接して白部と黒部が印刷され、且つ、ワニスが塗布されていて、溶剤又は水で希釈された塗料で容易にぬれるが浸透されないもの)に同じ膜厚で塗膜を形成した(50~100μmの範囲の同一の膜厚)(
図6)。隠ぺい率試験紙の白部と黒部上の三刺激値を色彩光度計(CR-400/410、コニカミノルタ製)で測定し、隠ぺい率を求めた結果を表3に示す。
なお、比較のために、
図1の市販の軽質炭酸カルシウム(
図6中、軽炭(1))を、本発明の炭酸カルシウムに代えて、同様に実施し、その結果も以下の表3に示す。
【0027】
【0028】
図4及び表1より、本発明の炭酸カルシウムの白色度は、比較した重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムより優れており、また
図5及び表2、
図6及び表3より、塗料に配合した本発明の塗料用炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムを塗料に配合した場合よりも優れた高隠ぺい性を有することがわかる。
【0029】
また、
図6の塗布した塗膜の状態を電子顕微鏡写真で観察すると、
図7のような状態であり、本発明の塗料用炭酸カルシウムが配合された塗膜では、均一な立法体状の炭酸カルシウムの粒子が塗膜内に並んで、高い隠ぺい性を保持している。他方、軽質炭酸カルシムを配合した塗料を塗布した塗膜では、含まれる炭酸カルシウムの粒径にばらつきがあり、不規則に並んでいることがわかる。
また、上記軽質炭酸カルシウム(軽炭(1))に代えて、市販の他の軽質炭酸カルシウム(軽炭(2):球状炭酸カルシウム)を配合した塗膜では、
図7に示すように、球状粒子間の隙間(アクリル樹脂部分)が多くなっている。
したがって、本発明の塗料用炭酸カルシウムは、塗料に充填剤として配合した場合に、優れた隠ぺい性を有するものである。
【0030】
本発明の塗料用炭酸カルシウムの上記結果を以下の表4にまとめて示す。
【0031】
【0032】
これらの結果より、本発明の炭酸カルシウムは、立方体状の均一な形態を有し、粒度分布がシャープで狭く、純度が高いために高い白色度を有し、充填材として用いた場合には、優れた隠ぺい性を有することが可能となる炭酸カルシウムである。
【0033】
上記本発明の塗料用炭酸カルシウムを調製する方法の一例を以下に説明する。
本発明の塗料用炭酸カルシウムは、カルシウムイオンを含有する水溶液と、炭酸アルカリを含む水溶液とを混合し、該混合液のpHを11.5~13として、立方体状の炭酸カルシウムを製造することで、高い隠ぺい性を有する本発明の塗料用炭酸カルシウムを製造することができる。
【0034】
上記カルシウムイオンを含有する水溶液は、カルシウムイオンを含有する水溶液であれば特に限定されないが、例えば、カルシウム含有廃棄物を用いて、該カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させて得られたカルシウムイオンを含む水溶液を例示することができる。
【0035】
本発明の炭酸カルシウムを製造する一例を、例えば
図8及び
図9を用いて説明する。
図8及び
図9は、本発明の塗料用炭酸カルシウムを製造する方法の一例を示すものであり、カルシウムイオンを含む水溶液と、炭酸アルカリ、例えば炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを混合してpHを11.5~13、望ましくは12~12.5に調整し、塗料用の炭酸カルシウムを調製する工程を有する、塗料用の炭酸カルシウムの製造方法を模式的に例示する図である。
【0036】
特に
図8は一例として、例えば、カルシウム(Ca)含有廃棄物から炭酸カルシウムを製造する方法を示すものであり、該方法は、、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程を備える。好ましくは、次いで、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離し、特にMg成分に関してはpHを11.5~12.5に調整して分離する分離工程とを備え、不純物を分離し、その後、カルシウムイオンを含む水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを混合してpHを11.5~13、好ましくは12~12.5に調整し、炭酸カルシウムを調製する工程とを有する、炭酸カルシウムの製造方法の一例を模式的に例示する図である。
なお、
図8及び
図9中、二重線矢印は固体の流れ、一重線矢印は液体の流れ、点線はガスの流れを示す。
【0037】
使用されるカルシウムイオンを含む水溶液を調製するためのカルシウム材料は、カルシウムを含む材料であれば特限定されないが、例えばカルシウム(Ca)含有廃棄物を用いることができ、一般ごみや産廃ごみなどの焼却灰、火力発電所等から排出されるフライアッシュ、スラグ、廃コンクリート、生コンスラッジ、バイオ灰などが例示できる。
【0038】
Ca含有廃棄物は、粒度を1000μm以下、より好ましくは500μm以下で、100μm以上の範囲に調整される。これにより、Caを抽出し易くすることが可能となる。
【0039】
Ca溶解工程では、粒度調整したCa含有廃棄物に塩酸水を添加して、好ましくは、水素イオン濃度指数をpH2.5未満の範囲になるようにする。
この際に、必要に応じて洗浄水を添加してもよい。洗浄は、固液分離の際、固形分に含まれる液体を清水と置換するために実施されるものである。
Ca含有廃棄物からのCa抽出に要する反応時間としては、120分以下、より好ましくは30分以上、60分以下である。また、多段階で、特に多段向流で溶解抽出を行うことも可能である。
【0040】
Caを抽出する際の塩酸を含む水溶液の温度は、常温以上が好ましく、より好ましくは20℃以上、70℃以下の範囲である。
【0041】
Ca溶解工程で、残渣と水溶液に分離し、当該残渣は、例えば、セメント製造設備において、セメント原料として使用することが可能である。
【0042】
Ca溶解工程で得られたCaイオンを含有する水溶液は、Ca以外の不純物イオンを含んでおり、分離工程では、水素イオン濃度指数を調整することで、不純物イオンを分離することができる。
Ca溶解工程から得られたCaイオンを含有する水溶液のpHを、例えば、pH5~6に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、Caイオンを含有する水溶液中に含まれるSiやAlイオンを、水酸化物として除去することが可能である。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加して、固形分を洗浄することも可能である。これらのゲルはセメント原料として利用することができる。
【0043】
次いで、SiやAlイオンを除去した後のCaイオン含有水溶液のpHを、例えばpH7~10に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、カルシウム含有廃棄物由来のPbやCrイオンなどの重金属を分離することができる。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加することも可能であり、かかる洗浄により、固形分を洗浄する。
【0044】
なお、重金属を除去する前に、必要に応じて、Caイオン含有水溶液に凝集剤を添加することも可能である。例えば、高分子凝集剤または無機凝集剤があげられる。無機凝集剤としては、ポリ硫酸第二鉄、等の鉄塩、または硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、等のアルミ塩がある。高分子凝集剤としては、アニオン、ノニオン、カチオン性等のpHおよび粒子性状により適したものを用いればよく、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリアクリル酸エステル系等を例示できる。
【0045】
さらに、前記重金属イオンが除去されたCaイオン含有水溶液のpHを11.5~12.5に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、カルシウム含有廃棄物由来の水溶液中に含有されるMgイオンを、ゲルとして除去することが可能となる。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加することも可能であり、かかる洗浄により、固形分を洗浄する。
【0046】
Caイオン含有水溶液から、上記不要な不純物を分離除去した水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加して、混合液のpHを11.5~13、好ましくは12~12.5とする。これにより、高純度の立方体状の炭酸カルシウムが製造され、炭酸カルシウムと、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウム水溶液とに分離されることで、炭酸カルシウムを回収する。実際に、熱分析装置(TG)を用いて、550℃~800℃の重量減少から炭酸カルシウムの純度を計算すると、95.7%の値が得られた。
【0047】
かかる方法により、炭酸マグネシウムなどの不純物を含まない、純度の高い、立方体状の、粒度分布が狭い均一な炭酸カルシウムが得られ、このようにして得られた炭酸カルシウムは、各種塗料に配合されて高い隠ぺい性を有する塗料とすることができる。また、他に、プラスチック、紙などの充填材(フィラー)や化粧品原料などに利用されて、高隠ぺい性が所望される各種分野に適用することが可能となる。
【0048】
図9は、
図8を概略化し、二酸化炭素を固定して炭酸アルカリ(K
2CO
3/Na
2CO
3)を生成する工程を組み込んだ図である。
カルシウムイオンを含む水溶液を調製するための一例としてのCa溶解工程で使用する塩酸水は、特に塩酸水であれば限定されないが、例えば、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液をバイポーラ膜電気透析(BMED)処理(BMED処理手段)により生成する塩酸水を用いることも例示することができる(図示せず)。
また、この塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、
図8の炭酸カルシウム生成工程で生成される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液も使用可能である。
【0049】
また、
図9に示すように、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、二酸化炭素を吸収し、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成させる。
この炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液は、
図8の炭酸カルシウム回収工程に適用して、炭酸カルシウムの製造に用いる。
当該二酸化炭素は、例えば、火力発電設備などの燃焼排ガスや、セメント製造設備での排ガスに含まれている二酸化炭素を使用することができ、また、大気中の二酸化炭素を直接吸収させて利用することも可能である。
【0050】
また、上記本発明の炭酸カルシウムを製造する一例の方法中、炭酸カルシウム生成工程のpH11.5~13の代わりに、pH3、6、9とそれぞれ変化させた場合に得られる炭酸カルシウムの電子顕微鏡で観察し、その結果を
図10として示す。
【0051】
図10より、本発明の炭酸カルシウムを製造するにあたり、上記工程中のpHを11.5~13のpH範囲外にすると調製される炭酸カルシウムは、立方体状のカルサイトだけではなく球状のバテライトを有することとなり、本発明の炭酸カルシウムを得るには、pHが11.5~13となることが望ましいことがわかる。
【0052】
このようにして得られた本発明の塗料用炭酸カルシムを、各種市場で入手し得る塗料に配合することが可能であり、その配合方法は、均一に塗料中に混合できる方法であれば、特に限定されず、任意の公知の混合方法を適用することができ、これにより高い隠ぺい性を有する塗料を製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明の炭酸カルシウムは、粒度分布がせまく粒度にばらつきが少なく、均一な立方体状の形状を有し、塗料に充填剤として配合することで、高い隠ぺい性を有し、各種の合成樹脂塗料の充填材として有効に適用することが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度の平均粒径(D50)が2~20μmで、粒度分布のD10が1~13μmで、粒度分布のD90が3~30μmであって、Si、Al、Mg及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも1種が分離されたカルシウム含有廃棄物由来の立方体状の形状を有している炭酸カルシウムであることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム。
【請求項2】
請求項1記載の炭酸カルシウムにおいて、更に、色彩色差計にて測定した色彩値は、L*が95.0~99.9、a*が-1.0~1.0、b*が-1.0~1.0であることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の炭酸カルシウムは、更に、X線解析法(XRD)にて測定した結晶系がカルサイトであることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の塗料用炭酸カルシウムを配合した塗料であることを特徴とする、高い隠ぺい性を有する塗料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の塗料用炭酸カルシウム及び当該炭酸カルシウムを配合した高い隠ぺい性を有する塗料は、以下の技術的特徴を有する。
(1)本発明の高い隠ぺい性を有する塗料用炭酸カルシウムは、粒度の平均粒径(D50)が2~20μmで、粒度分布のD10が1~13μmで、粒度分布のD90が3~30μmであって、Si、Al、Mg及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも1種が分離されたカルシウム廃棄物由来の立方体状の形状を有している炭酸カルシウムであることを特徴とする。