IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小林製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-組織老化抑制剤及び老化細胞除去剤 図1
  • 特開-組織老化抑制剤及び老化細胞除去剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031630
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】組織老化抑制剤及び老化細胞除去剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/185 20060101AFI20240229BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K31/185
A61P1/02
A61P43/00 105
A61Q11/00
A61K8/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135299
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】萩野 輝
【テーマコード(参考)】
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC791
4C083CC41
4C083EE31
4C083FF01
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA09
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA77
4C206NA14
4C206ZA67
4C206ZB21
4C206ZC52
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、新たなセノリティック剤(老化細胞除去剤)を提供することである。
【解決手段】アズレン誘導体にはセノリシス作用があるため、老化細胞除去剤及び葬式老化抑制剤の有効成分として有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズレン誘導体を含む、老化細胞除去剤。
【請求項2】
上記老化細胞が、上皮組織又は口腔粘膜の細胞である、請求項1に記載の老化細胞除去剤。
【請求項3】
請求項1に記載の老化細胞除去剤を含む、口腔用組成物。
【請求項4】
アズレン誘導体を含む、組織老化抑制剤。
【請求項5】
前記組織が、上皮組織又は口腔粘膜である、請求項4に記載の組織老化抑制剤。
【請求項6】
前記組織が口腔粘膜であり、前記口腔粘膜の収縮に用いられる、請求項4に記載の組織老化抑制剤。
【請求項7】
請求項4に記載の組織老化抑制剤を含む、口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織老化抑制剤及び老化細胞除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従前の老化研究において、老化の基本概念は細胞老化の不可逆性にあると考えられてきた。老化細胞は、炎症性サイトカイン分泌が細胞老化関連分泌形質(SASP)を介して慢性炎症の原因となることが判明している。
【0003】
一方で、近年では、老化の基本概念に関する考え方が見直され、老化を制御するという生理学的概念が指摘されている。その中で、老化細胞を選択的に除去すること(セノリシス)することで、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善し、健康寿命を延命することが示唆されている。
【0004】
老化細胞の選択的な細胞死を誘導する作用を有する薬剤は、セノリティック剤とも呼ばれている。セノリティック剤の具体例としては、cl-2 ファミリータンパク質の阻害剤であるABT-263(Navitoclax)やABT-737(非特許文献1,2)、フラボノイドであるケルセチンと抗がん剤であるダサチニブとの組み合わせ(非特許文献3)等が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yosef R. et al., Nat. Commun., 7, 11190(2016).
【非特許文献2】Chang J. et al., Nat. Med., 22, 78-83(2016).
【非特許文献3】Zhu Y. et al., Aging Cell, 14, 644-658(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在見いだされているセノリティック剤は副作用の懸念があり、ヒトに対してマウス実験のような予防的投与は現実的ではない。このため、セノリシス効果を有する有効成分として、より汎用的な成分を使用することが望まれる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、新たなセノリティック剤(老化細胞除去剤)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、アズレン誘導体にセノリシス作用があることを見出した。本発明は、この知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. アズレン誘導体を含む、老化細胞除去剤。
項2. 上記老化細胞が、上皮組織又は口腔粘膜の細胞である、項1に記載の老化細胞除去剤。
項3. 項1又は2に記載の老化細胞除去剤を含む、口腔用組成物。
項4. アズレン誘導体を含む、組織老化抑制剤。
項5. 前記組織が、上皮組織又は口腔粘膜である、項4に記載の組織老化抑制剤。
項6. 前記組織が口腔粘膜であり、前記口腔粘膜の収縮に用いられる、項4に記載の組織老化抑制剤。
項7. 項4又は5に記載の組織老化抑制剤を含む、口腔用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医薬組成物によれば、新たなセノリティック剤(老化細胞除去剤)、及びそのセノリシス作用を利用した組織老化抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の老化細胞除去剤による効果を示す。
図2】本発明の組織老化抑制剤による効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.老化細胞除去剤
本発明の老化細胞除去剤は、アズレン誘導体を有効成分として含む。以下、本発明の老化細胞除去剤について詳述する。
【0013】
本発明で用いられるアズレン誘導体とは、アズレン骨格に1又は複数の置換基が結合している化合物及びその塩である。当該置換基の具体例としては、薬学的又は香粧学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば酸性官能基が挙げられ、具体的には、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0014】
アズレン骨格に1又は複数の酸性官能基が結合している化合物の具体例としては、アズレンスルホン酸(グアイアズレンスルホン酸)、ジメチルイソプロピルアズレン(グアイアズレン)、ジメチルエチルアズレン(カマアズレン)、1,4-ジメチル-7-エチルアズレン-3-スルホン酸(カマアズレンスルホン酸)等が挙げられる。
【0015】
アズレン誘導体が塩の形態である場合、その塩の種類については、薬学的又は香粧学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等のカルボン酸塩;メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等の有機スルホン酸塩;メチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、ピロリジン塩、トリピリジン塩、ピコリン塩等の有機アミン塩;塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩等が挙げられる。
【0016】
これらのアズレン誘導体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
これらのアズレン誘導体の中でも、セノリシス効果をより高める観点から、好ましくはアズレン骨格に1又は複数の酸性官能基が結合している化合物及びその塩が挙げられ、より好ましくは、アズレンスルホン酸及びその塩が挙げられ、さらに好ましくはアズレンスルホン酸アルカリ金属塩が挙げられ、一層好ましくはアズレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0018】
本発明の老化細胞除去剤において、アズレン誘導体の含有量については特に制限されず、使用するアズレン誘導体の種類、付与すべきセノリシス効果の程度、医薬組成物の製剤形態や用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.001~10重量%が挙げられる。セノリシス効果をより高める観点から、アズレン誘導体の含有量として、好ましくは0.004~10重量%、より好ましくは0.008~10重量%、さらに好ましくは0.014~10重量%、一層好ましくは0.018~10重量%、0.018~5重量%、0.018~1重量%、0.018~0.5重量%、又は0.018~0.1重量%が挙げられる。
【0019】
その他の成分
本発明の老化細胞除去剤は、前述する成分の他に、必要に応じて、他の薬理成分を含有していてもよい。このような薬理成分としては、例えば、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、殺菌剤、抗炎症剤、皮膚保護剤、血行促進成分、ビタミン類、ムコ多糖類等が挙げられる。
【0020】
また、本発明の老化細胞除去剤は、所望の製剤形態にするために、必要に応じて、前述する成分以外の基材や添加剤が含まれていてもよい。このような基剤や添加剤については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、水、低級1価アルコール、多価アルコール、天然油脂、炭化水素油、エステル油、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸、脂肪酸エステル、高級1価アルコール、コレステロール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチル、シリコーンオイル;界面活性剤;清涼化剤、防腐剤、着香剤、着色剤、粘稠剤、pH調整剤、湿潤剤、安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、粘着剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、保存剤等が挙げられる。
【0021】
製剤形態
本発明の老化細胞除去剤の剤型については、特に制限されず、液状、半固形状(ゲル状、軟膏状、ペースト状等)、固形状等のいずれであってもよいが、好ましくは水性製剤である液状、半固形状、又は固形状が挙げられ、より好ましくは液状又は固形状が挙げられる。
【0022】
また、本発明の老化細胞除去剤は、外用医薬品又は内服用医薬品のいずれであってもよい。外用医薬品としては、粘膜適用外用剤及び皮膚適用外用剤が挙げられ、好ましくは、粘膜適用外用剤が挙げられる。粘膜適用外用剤としては、口腔粘膜適用外用剤及び他の粘膜適用外用剤(例えば坐剤及び膣剤)が挙げられ、好ましくは口腔粘膜適用外用剤が挙げられる。具体的には、皮膚適用外用剤としては、ジェル剤、クリーム剤、ローション剤、乳液剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤等が挙げられ、粘膜適用外用剤としては、ジェル剤、クリーム剤、ローション剤、乳液剤、液剤、軟膏剤、ペースト剤、ゼリー剤、固形剤等が挙げられる。液剤としては、水性製剤が挙げられる。固形剤としては、飴剤、ドロップ剤、トローチ剤、タブレット剤、チュアブル剤、グミ剤、可食性フィルム剤等が挙げられる。これらの製剤形態への調製は、第十七改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、製剤形態に応じた添加剤を用いて製剤化することにより行うことができる。
【0023】
これらの製剤形態の中でも、好ましくは、水性製剤である液状の外用剤、固形状、ペースト状、又は液状の粘膜適用外用剤が挙げられ、より好ましくは、ペースト状又は液体状の口腔用組成物が挙げられ、さらに好ましくは、練歯磨剤、液体歯磨剤が挙げられる。
【0024】
用途
本発明の老化細胞除去剤は、老化細胞を選択的に除去する目的、すなわちセノリシスの目的で用いられる。当該老化細胞としては、例えば、上皮組織、口腔粘膜の細胞が挙げられ、好ましくは口腔粘膜の細胞が挙げられる。このため、本発明の老化細胞除去剤は、口腔用組成物に配合されて製剤されることが好ましい。
【0025】
2.組織老化抑制剤
上述の通り、アズレン誘導体にはセノリシス作用があるため、組織老化抑制剤の有効成分としても有用である。従って、本発明は、アズレン誘導体を含む組織老化抑制剤も提供する。
【0026】
本発明の組織老化抑制剤において、老化抑制対象となる組織としては、例えば、上皮組織、口腔粘膜が挙げられ、好ましくは口腔粘膜が挙げられ、より好ましくは歯茎組織が挙げられる。本発明の組織老化抑制剤が口腔粘膜に用いられる場合、セノリシスによりコラーゲン等の結合組織中の老化細胞を除去することで、当該結合組織を収縮(引き締め)させる目的で用いることが好ましい。このため、本発明の組織老化抑制剤は、口腔用組成物に配合されて製剤されることが好ましい。
【0027】
本発明の組織老化抑制剤において、使用される成分の種類及び配合量、並びに製剤形態等については、前記「1.老化細胞除去剤」の欄に記載の通りである。
【実施例0028】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
試験例1
(1)試験方法
1. 培養した正常ヒト歯肉線維芽細胞(HGF-1)を200 ng/ml doxorubicinで処理することで、細胞老化を誘導し、HGF-1の老化細胞(以下において、単に「老化細胞」とも記載する。)を得た。
2. 別途、老化誘導処理していないHGF-1細胞(以下において、単に「非老化細胞」とも記載する。)を用意した。
3. 老化細胞及び非老化細胞それぞれに、0.005重量%、0.01重量%、0.02重量%又は0.04重量%のアズレンスルホン酸ナトリウムを添加し,5日間培養した。
4. 培養後の細胞をMTT染色することで、細胞生存を評価した。結果を図1に示す。
【0030】
(2)結果
図1に示す通り、アズレンスルホン酸ナトリウムで処理された老化細胞は、アズレンスルホン酸ナトリウムで処理された非老化細胞に比べ、細胞生存率が低下していた。つまり、アズレンスルホン酸ナトリウムは、老化細胞を選択的に死滅(除去)するセノリシス作用があることが確認できた。
【0031】
試験例2
(1)試験方法
1. 培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を200 ng/ml doxorubicinで処理することで細胞老化を誘導し、老化誘導したNB1RGBを得た。
2. 老化誘導したNB1RGBをコラーゲンゲルで包埋し,3日間培養し、老化組織モデルを得た。
3. 別途、老化誘導処理していないNB1RGBをコラーゲンゲルで包埋し,3日間培養し、非老化組織モデルを得た。
4. 培養後,コラーゲンゲルをディッシュからリリースすると同時に、0.02重量%又は0.04重量%アズレンスルホン酸ナトリウムを添加し,コラーゲンの収縮を観察した。結果を図2に示す。図中、老化又は非老化組織モデルの外縁を破線で示す。
【0032】
(2)結果
図2に示す通り、非老化組織モデルでは収縮が認められ、老化組織モデルでは収縮が認められなかったことに対し、アズレンスルホン酸ナトリウムで処理された老化組織モデルでは収縮が回復したことが認められた。つまり、老化組織モデルを構成するコラーゲンゲル中の老化細胞が選択的に除去された結果、老化組織モデル全体において組織収縮能に優れた非老化細胞が支配的となったことで、老化組織モデルが非老化組織モデルに近似した収縮態様を示したことが判った。なお、NB1RGBは、口腔粘膜細胞のモデルとしても汎用される。従って、本試験例により、アズレンスルホン酸ナトリウムが口腔粘膜の結合組織の収縮(例えば歯茎の引き締め)を介して組織老化を抑制できることが合理的に推認できる。
図1
図2