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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031740
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】夕方不調改善薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/076 20060101AFI20240229BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K36/076
A61K36/284
A61K36/54
A61K36/484
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022200587
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 圭太
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AA02
4C088AB26
4C088AB33
4C088AB60
4C088AC01
4C088BA08
4C088CA05
4C088MA07
4C088NA14
4C088ZA01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、夕方不調を改善できる漢方薬を提供することである。
【解決手段】苓桂朮甘湯エキスは、夕方不調改善薬の有効成分となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苓桂朮甘湯エキスを含有する、夕方不調改善薬。
【請求項2】
女性に対して適用される、請求項1に記載の夕方不調改善薬。
【請求項3】
20歳代~30歳代の人に対して適用される、請求項1に記載の夕方不調改善薬。
【請求項4】
16~18時における不調を改善するために用いられる、請求項1に記載の夕方不調改善薬。
【請求項5】
うつ病でない人に対して適用される、請求項1に記載の夕方不調改善薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夕方不調改善薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスの多い現代社会において、うつ病等のなどの精神疾患の罹患者数が増加したことに伴い、治療薬として、抗うつ薬、SSRI、SNRI、NaSSA等、治療選択肢が拡大した。さらに、これらの西洋薬により危惧される様々な副作用を回避する観点から、治療選択肢として漢方薬が採用されることもある。
【0003】
うつ病に対して用いられる漢方薬は、柴胡剤類(柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴朴湯)、気剤(半夏厚朴湯、厚朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯、香蘇散)、人参湯類(六君子湯、補中益気湯、帰脾湯、加味帰脾湯)、駆お血剤(桃核承気湯、桂枝茯苓丸、通導散、加味逍遙散)、及びその他の漢方薬(黄連解毒湯、釣藤散、柴朴湯、甘麦大棗湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、苓桂朮甘湯)等、多岐にわたっており、それらは患者の症状に合わせて適用される(非特許文献1)。
【0004】
ここで、人間の体質にはヒバリ型とフクロウ型とに大別されることが知られており(非特許文献2)、フクロウ型は、朝起きが苦手で、朝食が入らず、午前中は集中力及び活動力が出ないが、午後から夜にかけて明るく元気になるという特徴がある。苓桂朮甘湯は、うつ病の中でもフクロウ型(非特許文献1、非特許文献3、非特許文献4)と呼ばれる体質の人に対して適用される点で、他の漢方薬とは異なる明確且つ独特の適用基準がある(非特許文献1、非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
一方で、夕方に症状が悪化する不安抑うつ又は自律神経失調状態である「夕方悪化」という症状があり、補中益気湯又は加味帰脾湯を適用した例が知られている(非特許文献5)。また、夕方悪化の症状に対して、補中益気湯又は加味帰脾湯の他、状態に応じて、八味地黄丸、六君子湯の使用も示唆されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】精神科領域における漢方治療の可能性、Phil 漢方 2018; 70: 3-8. 医中誌
【非特許文献2】山本巌:東医雑録(1)、燎原書店、1980,p690-716
【非特許文献3】笠原 嘉: うつ状態の臨床的分類試案(笠原・木村案)再論. 精神経誌 81: 786-790, 1979
【非特許文献4】恵紙英昭、福富稔明:フクロウ型体質と苓桂朮甘湯、精神科、2012;20(2):196-200
【非特許文献5】原田 智子:夕方に症状が悪化する不安抑うつ・自律神経失調状態に対する補剤使用の勧め、Phil 漢方 2018; 70:24-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
夕方に不調を感じる人に有効と考えられる漢方薬の選択肢は未だわずかである。従って、夕方不調を改善できる新たな漢方薬が望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、夕方不調を改善できる漢方薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、苓桂朮甘湯が、夕方不調を改善できることを新たに見出した。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 苓桂朮甘湯エキスを含有する、夕方不調改善薬。
項2. 女性に対して適用される、項1に記載の夕方不調改善薬。
項3. 20歳代~30歳代の人に対して適用される、項1又は2に記載の夕方不調改善薬。
項4. 16~18時における不調を改善するために用いられる、項1~3のいずれかに記載の夕方不調改善薬。
項5. うつ病でない人に対して適用される、項1~4のいずれかに記載の夕方不調改善薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、夕方不調を改善できる漢方薬が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の夕方不調改善薬は、苓桂朮甘湯エキスを含有し、夕方不調の改善に用いられることを特徴とする。以下、本開示の夕方不調改善薬について詳述する。本明細書において、2つの数値と「~」とにより示される数値範囲は、当該2つの数値を下限値及び上限値として含むものとする。例えば、2~15重量%との表記は、2重量%以上15重量%以下を意味する。
【0013】
苓桂朮甘湯エキス
苓桂朮甘湯の漢方処方としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、具体的には、ブクリョウ、ビャクジュツ(ソウジュツも可)、ケイヒ、及びカンゾウからなる混合生薬が挙げられ、好ましくは、ブクリョウ、ソウジュツ、ケイヒ、及びカンゾウからなる混合生薬が挙げられる。また、苓桂朮甘湯には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている混合生薬(漢方処方)が包含される。
【0014】
また、苓桂朮甘湯を構成する各生薬の分量としては、ブクリョウ2~6重量部、好ましくは3~6重量部;ビャクジュツ(ソウジュツも可)1~4重量部、好ましくは2~3.5重量部;ケイヒ1~4重量部、好ましくは2~4重量部;カンゾウ0.5~3重量部、好ましくは1~2重量部が挙げられる。
【0015】
本開示で使用される苓桂朮甘湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、ブクリョウ6重量部、ビャクジュツ(好ましくはソウジュツ)3重量部、ケイヒ4重量部、及びカンゾウ2重量部が挙げられる。
【0016】
苓桂朮甘湯のエキスの形態としては、軟エキス等の液状のエキス、及び固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0017】
苓桂朮甘湯の液状のエキスは、苓桂朮甘湯処方に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。また、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。
【0018】
苓桂朮甘湯のエキスの製造において、抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノールが挙げられる。苓桂朮甘湯の抽出処理としては、特に限定されないが、例えば、苓桂朮甘湯に含まれる生薬の総重量(乾燥重量換算)に対して、5~15倍量程度の抽出溶媒で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたものを、苓桂朮甘湯の液状エキスとして得る方法が挙げられる。また、この液状エキスを乾燥処理に供することにより、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末が得られる。乾燥処理としては、特に限定されず、公知の方法を用いればよく、例えば、スプレードライ法、及びエキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0019】
本開示において苓桂朮甘湯としてエキスを使用する場合、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されたものを使用してもよい。
【0020】
本開示の夕方不調改善薬において、苓桂朮甘湯エキスの含有量としては、本開示の効果を奏する限り特に限定されないが、苓桂朮甘湯エキスの乾燥エキス末量換算で、通常5~100重量%、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、更に好ましくは30~70重量%が挙げられる。なお、本開示において、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末量換算とは、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり苓桂朮甘湯の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0021】
その他の成分
本開示の夕方不調改善薬は、苓桂朮甘湯エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤及び/又は基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、夕方不調改善薬の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0022】
また、本開示の夕方不調改善薬は、苓桂朮甘湯エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分及び/又は薬理成分を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。このような栄養成分及び薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス(苓桂朮甘湯エキス以外)、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分及び/又は薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、夕方不調改善薬の製剤形態等に応じて適宜設定される。好ましくは、本開示の夕方不調改善剤は、苓桂朮甘湯エキスの他に、栄養成分及び薬理成分を含有しない。
【0023】
製剤形態
本開示の夕方不調改善薬の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性及び携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0024】
本開示の夕方不調改善薬を前記製剤形態に調製するには、苓桂朮甘湯エキス、並びに必要に応じて添加される添加剤、基剤、栄養成分及び/又は薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0025】
用途
本開示の夕方不調改善薬は、夕方不調の改善を目的として用いられる。夕方不調は、少なくとも16時~18時を含む夕方の時間帯(具体的には、15時~19時、好ましくは16時~19時、より好ましくは16時~18時)に現れる心身の不調である。好ましくは、夕方不調は、夕方の時間帯における自律神経バランスの乱れに付随して現れる。
【0026】
本開示の夕方不調改善薬の適用対象は、1日の中で少なくとも夕方の時間帯に不調を訴える人であればよく、当該適用対象において、他の時間帯における不調の訴えは、あってもよいし、なくてもよい。
【0027】
本開示の夕方不調改善薬の適用対象は、1日を、(a)0時以降6時経過前、(b)6時以降12時経過前、(c)12時以降16時経過前、(d)16時以降18時経過前、(e)18時以降20時経過前、及び(f)20時以降~0時経過前の6つの時間帯に区切った場合、(d)の時間帯における不調が大きい対象であることが好ましい。より具体的には、本開示の夕方不調改善薬の適用対象において、前記の6つの時間帯で不調の大きさを対比した場合、不調が最も大きい時間帯、2番目に大きい時間帯、及び3番目に大きい時間帯のいずれかに、(d)の時間帯が該当することが好ましい。
【0028】
本開示の夕方不調改善薬は、特に好ましくは、(d)の時間帯における不調を改善する目的で用いられる。
【0029】
夕方不調の具体的な症状としては、立ちくらみ(立ち上がる動作に付随して起こる、ふらつき、頭痛、めまい、気分不良、かすみ目等の不快症状)、頭痛、めまい、気分不良(気持ち悪さ)、のぼせ、動悸、だるさ、疲れやすさ等が挙げられる。但し、本明細書において、これらの夕方不調の症状のうち、頭痛、めまい、気分不良(気持ち悪さ)、のぼせ、動悸、だるさについては、立ちくらみによる症状を除く。これらの夕方不調の症状のうち、改善効果をより一層高める観点から、好ましくは、立ちくらみ、頭痛、めまい、だるさ、疲れやすさが挙げられる。
【0030】
本開示の夕方不調改善薬の適用対象は、夕方不調の改善効果をより一層高める観点から、好ましくは女性、又は20歳代~30歳代の男女が挙げられ、より好ましくは、20歳代~30歳代の女性、さらに好ましくは20歳代の女性が挙げられる。
【0031】
用量・用法
本開示の夕方不調改善薬は経口投与によって使用される。本開示の夕方不調改善薬の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質、症状の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、苓桂朮甘湯エキスの乾燥エキス末量換算で0.5~3.0g程度、好ましくは0.7~1.5g程度となる量で、1日1~3回の頻度で服用すればよい。
【0032】
服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよい。本開示の夕方不調改善薬の継続服用期間としては、例えば5日以上が挙げられ、夕方不調の改善効果をより一層効果的に得る観点から、好ましくは6日以上、より好ましくは7日以上が挙げられる。継続服用期間の上限としては特に限定されないが、例えば1か月以下、3週間以下、又は2週間以下が挙げられる。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
苓桂朮甘湯エキス錠剤の製造
原料生薬を、ブクリョウ6重量部、ソウジュツ3重量部、ケイヒ4重量部、及びカンゾウ2重量部の割合で用い、これらを刻んだ後、水12倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、苓桂朮甘湯エキス末を得た。得られた苓桂朮甘湯エキス末は、原料生薬混合物15g当たり1.5gであった。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。さらに、得られた苓桂朮甘湯エキス末を用い、1日当たりの苓桂朮甘湯エキス末の服用量が0.75gとなるように錠剤を製造した。
【0035】
試験例
夕方不調を訴える20歳代~50歳代の男女5名を被験対象とした。これらの被験対象は、15時~19時の夕方の時間帯に不調があり、より具体的には、1日を、(a)0時以降6時経過前、(b)6時以降12時経過前、(c)12時以降16時経過前、(d)16時以降18時経過前、(e)18時以降20時経過前、及び(f)20時以降~0時経過前の6つの時間帯に区切った場合、(d)の時間帯に比較的不調が大きく、具体的には、不調が最も大きい時間帯、2番目に大きい時間帯、及び3番目に大きい時間帯のいずれかに、(d)の時間帯が該当していた。これらの被験対象による夕方不調の具体的な症状としては、立ちくらみ、疲れやすさ、並びに、頭痛、めまい、気分不良(気持ち悪さ)、のぼせ、動悸、だるさ等であった。また、これらの被験対象は、ICD-10、DSM-5等の客観的な操作的診断に基づくうつ病には該当していなかった。
【0036】
被験者に、苓桂朮甘湯の錠剤を、苓桂朮甘湯エキスの乾燥エキス換算量で0.75g/日となる用量で、7日間、1日2回に分けて、食前又は食間に服用させた。自律神経のバランスは、心拍変動(HRV)を測定できるアプリ(Garmin Connect Mobile)をスマートフォンにダウンロードし、スマートウォッチ「vivosmart5」(GARMIN社製)を装着することでモニタリングを行った。服用前と服用7日目とにおいて、1日に亘り心拍変動(HRV)を測定することによって、ストレススコアを記録した。ストレススコアが低いほど自律神経のバランスが良いことを示す。1日を(a)~(f)の時間帯に区切り、各時間帯におけるストレススコアの平均値を導出した。また、服用後のストレススコアの平均値を、服用前のストレススコアの平均値で除した値を、改善指数として導出した。改善指数が小さい程、改善効果が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す通り、苓桂朮甘湯エキスを服用することにより、少なくとも(d)の時間帯における夕方不調が効果的に改善された。(d)の時間帯における夕方不調の改善効果は、被験者の中でも20歳代~30歳代の男女でより高く、女性(20歳代~30歳代)において顕著であり、特に、20歳代の女性で各段顕著であった。
【0039】
また、被験者へのヒアリングの結果、苓桂朮甘湯エキスを服用することで、夕方不調の具体的な症状のうち、特に、立ちくらみ、頭痛、めまい、だるさ、疲れやすさについての改善効果が高いことが判った。