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特開2024-31808シート搬送装置、自動原稿搬送装置および画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031808
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】シート搬送装置、自動原稿搬送装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 7/02 20060101AFI20240229BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B65H7/02
G03G21/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098059
(22)【出願日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022133652
(32)【優先日】2022-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐輔
【テーマコード(参考)】
2H270
3F048
【Fターム(参考)】
2H270KA54
2H270LC22
2H270LD01
2H270NE08
2H270RB09
2H270ZC03
2H270ZC04
3F048AA01
3F048AA08
3F048AB01
3F048AB02
3F048BA08
3F048BB02
3F048BB09
3F048CA04
3F048CB04
3F048CC02
3F048DA04
3F048DA06
3F048DC00
3F048DC12
3F048EA02
3F048EB02
3F048EB08
3F048EB23
3F048EB29
(57)【要約】
【課題】搬送異常の誤判定を抑制することができるシート搬送装置、自動原稿搬送装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】コントローラのROMには、搬送中の先行原稿がない場合の指標データ(逆行列R-1と閾値Th)と、搬送中の先行原稿が有る場合の指標データ(逆行列R-1と閾値Th)とが格納されている。コントローラは、搬送条件として搬送中の原稿枚数を把握し、搬送中の原稿枚数が2枚以上のときは、搬送中の先行原稿が有る場合の指標データを選択し、搬送中の原稿枚数が1枚のときは、搬送中の先行原稿がない場合の指標データを選択する(S5~S7)。そして、選択した指標データ(逆行列R-1と閾値Th)を用いて、搬送異常が発生するか否かの搬送異常判定を行う(S8)。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを搬送する搬送部材と、
シート搬送時の動作音を集音する集音部と、
前記集音部が集音した前記動作音の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量に基づいて、搬送異常が発生するか否かを判定する搬送異常判定部とを備えるシート搬送装置において、
搬送異常が発生するか否かを判定するための指標となる複数の指標データから、前記シートの搬送条件に対応する指標データを選択する指標データ選択部を備え、
前記搬送異常判定部は、前記指標データ選択部が選択した指標データを用いて、搬送異常が発生するか否かを判定することを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシート搬送装置において、
前記シートの搬送条件は、搬送異常判定対象のシート以外の搬送中のシート枚数であることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項3】
請求項2に記載のシート搬送装置において、
前記シートの搬送条件は、搬送異常判定対象のシート以外に、搬送中のシートがあるか否かであることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項4】
請求項1に記載のシート搬送装置において、
前記シートの搬送条件は、連続シート搬送動作における搬送異常判定対象のシートの搬送の順番であることを特徴するシート搬送装置。
【請求項5】
請求項4に記載のシート搬送装置において、
連続シート搬送において、最初に搬送するシートの搬送速度を、2番目以降のシートの搬送速度よりも速くする制御を実施するものであり、
前記シートの搬送条件は、前記連続シート搬送動作における最初に搬送するシートであるか否かであることを特徴するシート搬送装置。
【請求項6】
請求項1に記載のシート搬送装置において、
前記シートの搬送条件は、前記シートの搬送速度であることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項7】
請求項1に記載のシート搬送装置において、
前記搬送異常判定部が、搬送異常の発生を判定したときは、シートの搬送動作を停止することを特徴とするシート搬送装置。
【請求項8】
請求項1に記載のシート搬送装置において、
前記動作音が、シートトレイに載置されたシートを給送する給送ローラの動作音であることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項9】
請求項1に記載のシート搬送装置において、
前記動作音が、シートトレイに載置されたシートが給送されるシートの搬送音であることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項10】
原稿シートを搬送する原稿シート搬送部を備え、
前記原稿シート搬送部によって原稿シートを画像読取部へ搬送する自動原稿搬送装置において、
前記原稿シート搬送部として、請求項1に記載のシート搬送装置を用いたことを特徴とする自動原稿搬送装置。
【請求項11】
シート搬送部によって搬送されるシートに画像を形成する画像形成装置において、
前記シート搬送部として請求項1に記載のシート搬送装置を備える、または、請求項9に記載の自動原稿搬送装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート搬送装置、自動原稿搬送装置および画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シートを搬送する搬送部材と、シート搬送時の動作音を集音する集音部と、集音部が集音した動作音の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、特徴量に基づいて、搬送異常が発生するか否かを判定する搬送異常判定部とを備えるシート搬送装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、上記シート搬送装置として、搬送異常の発生を未然に抑制する目的で、集音部が集音した動作音の特徴を定量的に表現した特徴量を、サポートベクターマシンに与え、指標データとしての機械学習モデルを用いて、特徴量を正常搬送、原稿変形、給紙スリップの3クラスのいずれかに分類するものが記載されている。そして、サポートベクターマシンにより特徴量がシートスリップおよび原稿変形に分類したときは搬送異常とし、シートスリップに分類したときは、搬送部材の加熱を実施し、原稿変形に分類したときは、給紙カバーを開くものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、集音部が集音した正常搬送時の動作音がシート搬送条件によって異り、ひとつの指標データでは、誤判定が発生するおそれがあり、搬送異常の誤判定の抑制が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、シートを搬送する搬送部材と、シート搬送時の動作音を集音する集音部と、前記集音部が集音した前記動作音の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、前記特徴量に基づいて、搬送異常が発生するか否かを判定する搬送異常判定部とを備えるシート搬送装置において、搬送異常が発生するか否かを判定するための指標となる複数の指標データから、前記シートの搬送条件に対応する指標データを選択する指標データ選択部を備え、前記搬送異常判定部は、前記指標データ選択部が選択した指標データを用いて、搬送異常が発生するか否かを判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、搬送異常の誤判定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る複写機を示す概略構成図。
図2】同複写機における画像形成部の内部構成の一部を拡大して示す部分拡大構成図。
図3】同画像形成部における4つのプロセスユニットからなるタンデム部の一部を示す部分拡大図。
図4】同複写機のスキャナ及びADFを示す斜視図。
図5】同ADFの要部構成をスキャナの上部とともに示す拡大構成図。
図6】同ADF及び同スキャナの電気回路の一部を示すブロック図。
図7】搬送条件として搬送中の原稿枚数に基づいて、用いる指標データを選択する原稿搬送異常判定処理のフローチャート。
図8】搬送条件として連続原稿搬送の搬送順に基づいて、用いる指標データを選択する原稿搬送異常判定処理のフローチャート。
図9】搬送条件として原稿搬送速度に基づいて、用いる指標データを選択する原稿搬送異常判定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、画像形成装置である電子写真方式の複写機(以下、単に複写機という)に適用した実施形態について説明する。
まず、実施形態に係る複写機の基本的な構成について説明する。図1は、実施形態に係る複写機を示す概略構成図である。この複写機は、画像形成部1と、白紙供給装置40と、原稿読取装置50とを備えている。原稿読取装置50は、画像形成部1の上に固定されたスキャナ150と、これに支持される原稿搬送装置たるADF51とを有している。
【0009】
白紙供給装置40は、ペーパーバンク41内に多段に配設された2つの給紙カセット42、給紙カセット42から転写紙を送り出す送出ローラ43、送り出された転写紙を分離して給紙路44に供給する分離ローラ45等を有している。また、画像形成部1の給紙路37に転写紙を搬送する複数の搬送ローラ47等も有している。そして、給紙カセット内の転写紙を画像形成部1内の給紙路37内に給紙する。
【0010】
図2は、画像形成部1の内部構成の一部を拡大して示す部分拡大構成図である。画像形成手段としての画像形成部1は、光書込装置2、K,Y,M,C色のトナー像を形成する4つのプロセスユニット3K,Y,M,C、転写ユニット24を備えている。また、紙搬送ユニット28、レジストローラ対33、定着装置34、スイッチバック装置36、給紙路37等を備えている。そして、光書込装置2内に配設されたレーザーダイオードやLED等の光源を駆動して、ドラム状の4つの感光体4K,Y,M,Cに向けてレーザー光Lを照射する。この照射により、感光体4K,Y,M,Cの表面には静電潜像が形成され、この潜像は所定の現像プロセスを経由してトナー像に現像される。なお、符号の後に付されたK,Y,M,Cという添字は、ブラック,イエロー,マゼンタ,シアン用の仕様であることを示している。
【0011】
プロセスユニット3K,Y,M,Cは、それぞれ、感光体4とその周囲に配設される各種装置とを1つのユニットとして共通の支持体に支持するものであり、画像形成部1本体に対して着脱可能になっている。ブラック用のプロセスユニット3Kを例にすると、これは、感光体4Kの他、これの表面に形成された静電潜像をブラックトナー像に現像するための現像装置6Kを有している。また、後述するK用の1次転写ニップを通過した後の感光体4K表面に付着している転写残トナーをクリーニングするドラムクリーニング装置15なども有している。本複写機では、4つのプロセスユニット3K,Y,M,Cを、後述する中間転写ベルト25に対してその無端移動方向に沿って並べるように対向配設した、いわゆるタンデム型の構成になっている。
【0012】
図3は、4つのプロセスユニット3K,Y,M,Cからなるタンデム部の一部を示す部分拡大図である。なお、4つのプロセスユニット3K,Y,M,Cは、それぞれ使用するトナーの色が異なる他はほぼ同様の構成になっているので、同図においては各符号に付すK,Y,M,Cという添字を省略している。同図に示すように、プロセスユニット3は、感光体4の周りに、帯電装置5、現像装置6、ドラムクリーニング装置15、除電ランプ22等を有している。
【0013】
感光体4としては、アルミニウム等の素管に、感光性を有する有機感光材の塗布による感光層を形成したドラム状のものを用いている。但し、無端ベルト状のものを用いても良い。
【0014】
現像装置6は、磁性キャリアと非磁性トナーとを含有する二成分現像剤を用いて潜像を現像するようになっている。内部に収容している二成分現像剤を攪拌しながら搬送して現像スリーブ12に供給する攪拌部7と、現像スリーブ12に担持された二成分現像剤中のトナーを感光体4に転移させるための現像部11とを有している。
【0015】
攪拌部7は、現像部11よりも低い位置に設けられており、互いに平行配設された2本の搬送スクリュウ8、これらスクリュウ間に設けられた仕切り板、現像ケース9の底面に設けられたトナー濃度センサー10などを有している。
【0016】
現像部11は、現像ケース9の開口を通して感光体4に対向する現像スリーブ12、これの内部に回転不能に設けられたマグネットローラ13、現像スリーブ12に先端を接近させるドクタブレード14などを有している。現像スリーブ12は、非磁性の回転可能な筒状になっている。マグネットローラ13は、ドクタブレード14との対向位置からスリーブの回転方向に向けて順次並ぶ複数の磁極を有している。これら磁極は、それぞれスリーブ上の二成分現像剤に対して回転方向の所定位置で磁力を作用させる。これにより、攪拌部7から送られてくる二成分現像剤を現像スリーブ12表面に引き寄せて担持させるとともに、スリーブ表面上で磁力線に沿った磁気ブラシを形成する。
【0017】
磁気ブラシは、現像スリーブ12の回転に伴ってドクタブレード14との対向位置を通過する際に適正な層厚に規制されてから、感光体4に対向する現像領域に搬送される。そして、現像スリーブ12に印加される現像バイアスと、感光体4の静電潜像との電位差によってトナーを静電潜像上に転移させて現像に寄与する。更に、現像スリーブ12の回転に伴って再び現像部11内に戻り、マグネットローラ13の磁極間に形成される反発磁界の影響によってスリーブ表面から離脱した後、攪拌部7内に戻される。攪拌部7内には、トナー濃度センサー10による検知結果に基づいて、二成分現像剤に適量のトナーが補給される。なお、現像装置6として、二成分現像剤を用いるものの代わりに、磁性キャリアを含まない一成分現像剤を用いるものを採用してもよい。
【0018】
ドラムクリーニング装置15としては、ポリウレタンゴム製のクリーニングブレード16を感光体4に押し当てる方式のものを用いているが、他の方式のものを用いてもよい。クリーニング性を高める目的で、本例では、外周面を感光体4に接触させる接触導電性のファーブラシ17を、図中矢印方向に回転自在に有する方式のものを採用している。このファーブラシ17は、固形潤滑剤から潤滑剤を掻き取って微粉末にしながら感光体4表面に塗布する役割も兼ねている。ファーブラシ17にバイアスを印加する金属製の電界ローラ18を図中矢示方向に回転自在に設け、これにスクレーパ19の先端を押し当てている。ファーブラシ17に付着したトナーは、ファーブラシ17に対してカウンタ方向に接触して回転しながらバイアスが印加される電界ローラ18に転位する。そして、スクレーパ19によって電界ローラ18から掻き取られた後、回収スクリュウ20上に落下する。回収スクリュウ20は、回収トナーをドラムクリーニング装置15における図紙面と直交する方向の端部に向けて搬送して、外部のリサイクル搬送装置21に受け渡す。リサイクル搬送装置21は、受け渡されたトナーを現像装置6に送ってリサイクルする。
【0019】
除電ランプ22は、光照射によって感光体4を除電する。除電された感光体4の表面は、帯電装置5によって一様に帯電せしめられた後、光書込装置2による光書込処理がなされる。なお、帯電装置5としては、帯電バイアスが印加される帯電ローラを感光体4に当接させながら回転させるものを用いている。感光体4に対して非接触で帯電処理を行うスコロトロンチャージャ等を用いてもよい。
【0020】
先に示した図2において、4つのプロセスユニット3K,Y,M,Cの感光体4K,Y,M,Cには、これまで説明してきたプロセスによってK,Y,M,Cトナー像が形成される。
【0021】
4つのプロセスユニット3K,Y,M,Cの下方には、転写ユニット24が配設されている。この転写ユニット24は、複数のローラによって張架した中間転写ベルト25を、感光体4K,Y,M,Cに当接させながら図中時計回り方向に無端移動させる。これにより、感光体4K,Y,M,Cと中間転写ベルト25とが当接するK,Y,M,C用の1次転写ニップが形成されている。K,Y,M,C用の1次転写ニップの近傍では、ベルトループ内側に配設された1次転写ローラ26K,Y,M,Cによって中間転写ベルト25を感光体4K,Y,M,Cに向けて押圧している。これら1次転写ローラ26K,Y,M,Cには、それぞれ電源によって1次転写バイアスが印加されている。これにより、K,Y,M,C用の1次転写ニップには、感光体4K,Y,M,C上のトナー像を中間転写ベルト25に向けて静電移動させる1次転写電界が形成されている。図中時計回り方向の無端移動に伴ってK,Y,M,C用の1次転写ニップを順次通過していく中間転写ベルト25のおもて面には、各1次転写ニップでトナー像が順次重ね合わせて1次転写される。この重ね合わせの1次転写により、中間転写ベルト25のおもて面には4色重ね合わせトナー像(以下、4色トナー像という)が形成される。
【0022】
転写ユニット24の図中下方には、駆動ローラ30と2次転写ローラ31との間に、無端状の紙搬送ベルト29を掛け渡して無端移動させる紙搬送ユニット28が設けられている。そして、自らの2次転写ローラ31と、転写ユニット24の下部張架ローラ27との間に、中間転写ベルト25及び紙搬送ベルト29を挟み込んでいる。これにより、中間転写ベルト25のおもて面と、紙搬送ベルト29のおもて面とが当接する2次転写ニップが形成されている。2次転写ローラ31には電源によって2次転写バイアスが印加されている。一方、転写ユニット24の下部張架ローラ27は接地されている。これにより、2次転写ニップに2次転写電界が形成されている。
【0023】
この2次転写ニップの図中右側方には、レジストローラ対33が配設されており、ローラ間に挟み込んだ転写紙を中間転写ベルト25上の4色トナー像に同期させ得るタイミングで2次転写ニップに送り出す。2次転写ニップ内では、中間転写ベルト25上の4色トナー像が2次転写電界やニップ圧の影響によって転写紙に一括2次転写され、転写紙の白色と相まってフルカラー画像となる。2次転写ニップを通過した転写紙は、中間転写ベルト25から離間して、紙搬送ベルト29のおもて面に保持されながら、その無端移動に伴って定着装置34へと搬送される。
【0024】
2次転写ニップを通過した中間転写ベルト25の表面には、2次転写ニップで転写紙に転写されなかった転写残トナーが付着している。この転写残トナーは、中間転写ベルト25に当接するベルトクリーニング装置によって掻き取り除去される。
【0025】
定着装置34に搬送された転写紙は、定着装置34内における加圧や加熱によってフルカラー画像が定着させしめられた後、定着装置34から排紙ローラ対35に送られた後、機外へと排出される。
【0026】
先に示した図1において、紙搬送ユニット28および定着装置34の下には、スイッチバック装置36が配設されている。これにより、片面に対する画像定着処理を終えた転写紙が、切換爪で転写紙の進路を転写紙反転装置側に切り換えられ、そこで反転されて再び2次転写ニップに進入する。そして、もう片面にも画像の2次転写処理と定着処理とが施された後、排紙トレイ上に排紙される。
【0027】
画像形成部1の上に固定されたスキャナ150は、第1面読取手段としての第1面固定読取部151や、第1面読取手段としての移動読取部152を有している。
【0028】
第1面読取手段としての移動読取部152は、原稿MSに接触するようにスキャナ150のケーシング上壁に固定された第2コンタクトガラス155(図4参照)の直下に配設されており、光源や、反射ミラーなどからなる光学系を図中左右方向に移動させることができる。そして、光学系を図中左側から右側に移動させていく過程で、光源から発した光を第2コンタクトガラス上に載置された原稿MSで反射させた後、複数の反射ミラーを経由させて、スキャナ本体に固定された画像読取センサー153で受光する。
【0029】
第1面読取手段としての第1面固定読取部151は、原稿MSに接触するようにスキャナ150のケーシング上壁に固定された第1コンタクトガラス154(図4参照)の直下に配設されている。そして、後述するADF51によって搬送される原稿MSが第1コンタクトガラス上を通過する際に、光源から発した光を原稿面で順次反射させながら、複数の反射ミラーを経由させて画像読取センサー153で受光する。これにより、光源や反射ミラー等からなる光学系を移動させることなく、原稿MSの第1面を走査する。
【0030】
また、スキャナ150は、原稿MSの第2面を読み取る密着型イメージセンサー95(図5参照)も有している。この密着型イメージセンサー95については後述する。
【0031】
スキャナ150の上に配設されたADF51は、本体カバー52に、読取前の原稿MSを載置するための原稿載置台53、原稿MSを搬送するための搬送ユニット、読取後の原稿MSをスタックするための原稿スタック台55などを保持している。図4に示すように、スキャナ150に固定された蝶番159によって上下方向に揺動可能に支持されている。そして、その揺動によって開閉扉のような動きをとり、開かれた状態でスキャナ150の上面の第1コンタクトガラス154や第2コンタクトガラス155を露出させる。原稿束の片隅を綴じた本などの片綴じ原稿の場合には、原稿MSを1枚ずつ分離することができないため、ADF51による搬送を行うことができない。そこで、片綴じ原稿の場合には、ADF51を図4に示すように開いた後、読み取らせたいページが見開かれた片綴じ原稿を下向きにして第2コンタクトガラス155上に載せた後、ADF51を閉じる。そして、スキャナ150の図1に示した移動読取部152によってそのページの画像を読み取らせる。
【0032】
一方、互いに独立した複数の原稿MSを単に積み重ねた原稿束の場合には、その原稿MSをADF51によって1枚ずつ自動搬送しながら、スキャナ150内の第1面固定読取部151やADF51内の密着型イメージセンサー95に順次読み取らせていくことができる。この場合、原稿束を原稿載置台53上にセットした後、本体操作部902(図6参照)のコピースタートボタン158(図4参照)を押す。すると、ADF51が、原稿載置台53上に載置された原稿束の原稿MSを上から順に送り、それを反転させながら原稿スタック台55に向けて搬送する。この搬送の過程で、原稿MSを反転させた直後にスキャナ150の第1面固定読取部151の真上に通す。このとき、原稿MSの第1面の画像がスキャナ150の第1面固定読取部151によって読み取られる。
【0033】
図5は、ADF51の要部構成をスキャナ150の上部とともに示す拡大構成図である。また、図6は、ADF51及びスキャナ150の電気回路の一部を示すブロック図である。図5に示すように、ADF51は、原稿セット部A、分離搬送部B、レジスト部C、ターン部D、第1読取搬送部E、第2読取搬送部F、排紙部G、スタック部H等を備えている。
【0034】
図6に示すように、ADF51は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等からなるコントローラ904を有しており、これによって各種の機器やセンサーを制御することができる。このコントローラ904には、レジストセンサー65、原稿セットセンサー63、排紙センサー61、突き当てセンサー72、原稿幅センサー73、読取入口センサー67、長さセンサー57,58などが接続されている。また、給紙モータ191、搬送モータ192、プルアウトクラッチ193、排紙クラッチ194、ピックアップモータ56なども接続されている。また、集音部としての集音マイク201なども接続されている。
【0035】
集音マイク201は、原稿MSの搬送時の音を取り込むものである。図5に示すように、本実施形態では、集音マイク201は、開閉可能な給紙カバー98の内周面に取り付けられており、給紙ローラであるピックアップローラ80に対して原稿搬送の上流側の原稿載置台53に載置される原稿の上方に配置されている。本実施形態では、原稿給紙時の動作音を集音するのが目的であるため、給紙時に駆動される原稿搬送の最上流にあるピックアップローラ80の上流側の周囲に配置し集音している。
なお、集音マイク201の配置位置は、これに限らず、給紙/分離動作の動作音を遮断する部材のない良好に集音できるピックアップローラ80と給紙ベルト84との間の箇所に適宜、配置してもよい。また、給紙カバー98の内周面に集音マイク201を取り付けることで、外部からの雑音を給紙カバー98により遮蔽でき、集音マイク201が外部からの雑音を拾い難くなっている。また、集音マイク201の給紙カバー98の内周面への取り付けは、その間にゴム状の振動部材を取付け給紙カバー98からの振動による雑音を拾い難くしてもよい。
また、給送ローラたるピックアップローラ80の駆動系の音等を含む原稿給紙動作(ピックアップローラ80の駆動)に伴い発生する音を原稿給紙時の動作音として集音しているが、バンドパスフィルタ等を用いて駆動系の音等を除去するなどして、原稿給紙動作(ピックアップローラ80の駆動)に伴い発生する音のうち、ピックアップローラ80のシート給送によるシートの音、例えば、給送されるシートとの摩擦やシートの変形により生じるシートの搬送音のみを動作音として集音しても良い。
【0036】
図6に示すように、スキャナ150は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等からなる読取制御部903を有している。これにより、スキャナ150内部の各種機器やセンサーを制御することができる。また、読取制御部903は、I/FによってADF51のコントローラ904と接続されており、読取制御部903は、コントローラ904を介して、ADF51内の各種機器やセンサーを間接的に制御することもできる。
【0037】
図5において、原稿セット部Aは、原稿MSの束がセットされる原稿載置台53等を有している。また、分離搬送部Bは、セットされた原稿MSの束から原稿MSを一枚ずつ分離して給送するものである。また、レジスト部Cは、給送された原稿MSに一時的に突き当たって原稿MSを整合した後に送り出すものである。また、ターン部Dは、C字状に湾曲する湾曲搬送部を有しており、この湾曲搬送部内で原稿MSを折り返しながらその上下を反転させるものである。また、第1読取搬送部Eは、第1コンタクトガラス154の上で原稿MSを搬送しながら、第1コンタクトガラス154の下方で図1のようにスキャナ150の内部に配設されている第1面固定読取部151に原稿MSの第1面を読み取らせるものである。また、第2読取搬送部Fは、密着型イメージセンサー95の下で原稿MSを搬送しながら、原稿MSの第2面を密着型イメージセンサー95に読み取らせるものである。また、排紙部Gは、両面の画像が読み取られた原稿MSをスタック部Hに向けて排出するものである。また、スタック部Hは、原稿スタック台55の上に原稿MSをスタックするものである。
【0038】
原稿MSは、原稿MSの束の厚みに応じて図中矢印a、b方向に揺動可能なシートトレイたる可動原稿テーブル54の上に原稿先端部が載せられるとともに、原稿後端側が原稿載置台53の上に載せられた状態でセットされる。このとき、原稿載置台53上において、その幅方向(図紙面に直交する方向)の両端に対してそれぞれサイドガイドが突き当てられることで、幅方向における位置が調整される。このようにしてセットされる原稿MSは、可動原稿テーブル54の上方で揺動可能に配設されたレバー部材62を押し上げる。すると、それに伴って原稿セットセンサー63が原稿MSのセットを検知して、検知信号をコントローラ904(図6参照)に送信する。そして、この検知信号は、コントローラ904からI/Fを介して読取制御部903に送られる。
【0039】
原稿載置台53には、原稿MSの搬送方向の長さを検知する反射型フォトセンサー又はアクチュエーター・タイプのセンサーからなる第1長さセンサー57、第2長さセンサー58が保持されている。これら長さセンサーにより、原稿MSの搬送方向の長さが検知される。
【0040】
可動原稿テーブル54の上に載置された原稿MSの束の上方には、カム機構によって上下方向(図中矢印c,d方向)に移動可能に支持されるピックアップローラ80が配設されている。このカム機構は、ピックアップモータ56によって駆動することで、ピックアップローラ80を上下移動させることが可能である。ピックアップローラ80が上昇移動すると、それに伴って可動原稿テーブル54が図中矢印a方向に揺動して、ピックアップローラ80が原稿MSの束における一番上の原稿MSに当接する。更に可動原稿テーブル54が上昇すると、やがてテーブル上昇センサー59によって可動原稿テーブル54の上限までの上昇が検知される。これにより、ピックアップモータ56が停止するとともに、可動原稿テーブル54の上昇が停止する。
【0041】
複写機の本体に設けられたテンキーやディスプレイ等からなる本体操作部902(図6参照)に対しては、操作者によって両面読取モードか、あるいは片面読取モードかを示す読取モード設定のためのキー操作や、コピースタートキーの押下操作などが行われる。即ち、本体操作部902は、両面読取モードであるのか、あるいは片面読取モードであるのかの情報を取得するモード情報取得手段として機能している。また、読取モードには、薄紙を読み取るための薄紙モードや、異なるサイズの原稿MSを混載・搬送する混載モードもあり、操作者の本体操作部902に対するキー操作によって、薄紙モード、混載モードの設定を行うことができる。薄紙モードや混載モードでは、通常の読取モードよりも原稿MSの搬送速度を全体に遅くして原稿MSを搬送する。
【0042】
コピースタートキーが押下されると、本体制御部901からI/Fを介してADF51のコントローラ904に原稿給紙信号が送信される。すると、ピックアップローラ80が給紙モータ191の正転によって回転駆動して、可動原稿テーブル54上の原稿MSを可動原稿テーブル54上から送り出す。
【0043】
両面読取モードか、片面読取モードかの設定に際しては、可動原稿テーブル54上に載置された全ての原稿MSについて一括して両面、片面の設定を行うことが可能である。また、1枚目及び10枚目の原稿MSについては両面読取モードに設定する一方で、その他の原稿MSについては片面読取モードに設定するなどといった具合に、個々の原稿MSについてそれぞれ個別に読取モードを設定することも可能である。
【0044】
ピックアップローラ80によって送り出された原稿MSは、分離搬送部Bに進入して、給紙ベルト84との当接位置に送り込まれる。この給紙ベルト84は、駆動ローラ82と従動ローラ83とによって張架されており、給紙モータ191の正転に伴う駆動ローラ82の回転によって図中時計回り方向に無端移動せしめられる。この給紙ベルト84の下部張架面には、給紙モータ191の正転によって図中時計回りに回転駆動される分離ローラ85が当接している。当接部においては、給紙ベルト84の表面が給紙方向に移動する。これに対し、分離ローラ85は、給紙ベルト84に所定の圧力で当接しており、給紙ベルト84に直接当接している際、あるいは当接部に原稿MSが1枚だけ挟み込まれている際には、ベルト又は原稿MSに連れ回る。但し、当接部に複数枚の原稿MSが挟み込まれた際には、連れ回り力がトルクリミッターのトルクよりも低くなることから、連れ回り方向とは逆の図中時計回りに回転駆動する。これにより、最上位よりも下の原稿MSには、分離ローラ85によって給紙とは反対方向の移動力が付与されて、数枚の原稿MSから最上位の原稿MSだけが分離される。
【0045】
給紙ベルト84や分離ローラ85などの搬送部材の働きによって1枚に分離された原稿MSは、レジスト部Cに進入する。そして、突き当てセンサー72の直下を通過する際にその先端が検知される。このとき、給紙モータ191の駆動力を受けているピックアップローラ80がまだ回転駆動しているが、可動原稿テーブル54の下降によって原稿MSから離間するため、原稿MSは給紙ベルト84の無端移動力のみによって搬送される。そして、突き当てセンサー72によって原稿MSの先端が検知されたタイミングから所定時間だけ給紙ベルト84の無端移動が継続する。その後、原稿MSの先端が搬送部材たるプルアウト従動ローラ86とこれに当接しながら回転駆動する搬送部材たるプルアウト駆動ローラ87との当接部に突き当たる。原稿MSの先端が両ローラの当接部に突き当たった状態で、原稿MSの後端側が給紙方向に向けて送られることで、原稿MSは所定量だけ撓んだ状態になりながら、先端が当接部に位置決めされる。これにより、原稿MSのスキュー(傾き)が補正されて、原稿MSは給紙方向に沿った姿勢になる。
【0046】
プルアウト駆動ローラ87は、原稿MSのスキューを補正する役割の他に、スキューが補正された原稿MSを原稿搬送方向下流側の搬送部材である中間ローラ対66まで搬送する役割を担っている。ピックアップローラ80と給紙ベルト84を張架する駆動ローラ82とプルアウト駆動ローラ87と中間ローラ対66の駆動ローラは、ワンウェイクラッチを介して給紙モータ191に接続されている。プルアウト駆動ローラ87と中間ローラ対66の駆動ローラに接続されてワンウェイクラッチは、給紙モータ191の逆転時に駆動力を伝達し、駆動ローラ82に接続されたワンウェイクラッチは、給紙モータ191の正転時に駆動力を伝達する。そのため、給紙モータ191が逆転すると、プルアウト駆動ローラ87と、中間ローラ対66の駆動ローラとが回転を開始するとともに、給紙ベルト84の無端移動が停止する。また、このとき、ピックアップローラ80の回転も停止される。
【0047】
プルアウト駆動ローラ87から送り出された原稿MSは、原稿幅センサー73の直下を通過する。原稿幅センサー73は、反射型フォトセンサー等からなる紙検知部を複数有しており、これら紙検知部は原稿幅方向(図紙面に直交する方向)に並んでいる。どの紙検知部が原稿MSを検知するのかに基づいて、原稿MSの幅方向のサイズが検知される。また、原稿MSの搬送方向の長さは、原稿MSの先端が突き当てセンサー72によって検知されてから、原稿MSの後端が突き当てセンサー72によって検知されなくなるまでのタイミングに基づいて検知される。
【0048】
原稿幅センサー73によって幅方向のサイズが検知された原稿MSの先端は、ターン部Dに進入して、中間ローラ対66のローラ間の当接部に挟み込まれる。この中間ローラ対66による原稿MSの搬送速度は、後述する第1読取搬送部Eでの原稿MSの搬送速度よりも高速に設定されている。これにより、原稿MSを第1読取搬送部Eに送り込むまでの時間の短縮化が図られている。
【0049】
ターン部D内を搬送される原稿MSの先端は、原稿先端が読取入口センサー67との対向位置を通過する。これによって原稿MSの先端が読取入口センサー67によって検知されると、その先端が搬送方向下流側の搬送部材である読取入口ローラ対(89と90との対)の位置まで搬送されるまでの間に、中間ローラ対66による原稿搬送速度が減速される。また、搬送モータ192の回転駆動の開始に伴って、読取入口ローラ対(89,90)における一方のローラ、読取出口ローラ対92における一方のローラ、第2読取出口ローラ対93における一方のローラがそれぞれ回転駆動を開始する。
【0050】
ターン部D内においては、原稿MSが中間ローラ対66と読取入口ローラ対(89、90)との間の湾曲搬送路で搬送される間に上下面が逆転されるとともに、搬送方向が折り返される。そして、読取入口ローラ対(89、90)のローラ間のニップを通過した原稿MSの先端は、レジストセンサー65の直下を通過する。このとき原稿MSの先端がレジストセンサー65によって検知されると、所定の搬送距離をかけながら原稿搬送速度が減速されていき、第1読取搬送部Eの手前で原稿MSの搬送が一時停止される。また、読取制御部903にI/Fを介して一時停止信号が送信される。
【0051】
一時停止信号を受けた読取制御部903が読取開始信号を送信すると、コントローラ904の制御により、原稿MSの先端が第1読取搬送部E内に到達するまで、搬送モータ192の回転が再開されて所定の搬送速度まで原稿MSの搬送速度が増速される。そして、原稿MSの先端が第1面固定読取部151による読取位置に到達するタイミングで、コントローラ904から読取制御部903に対して原稿MSの第1面の副走査方向有効画像領域を示すゲート信号が送信される。この送信は、原稿MSの後端が第1面固定読取部151による読取位置を抜け出るまで続けられ、原稿MSの第1面が第1面固定読取部151によって読み取られる。なお、原稿MSの先端が第1面固定読取部151による読取位置に到達するタイミングは、搬送モータ192のパルスカウントに基づいて算出される。
【0052】
第1読取搬送部Eを通過した原稿MSは、後述の読取出口ローラ対92を経由した後、その先端が排紙センサー61によって検知される。片面読取モードが設定されている場合には、後述する密着型イメージセンサー95による原稿MSの第2面の読取が不要である。そこで、排紙センサー61によって原稿MSの先端が検知されると、排紙クラッチ194によって搬送モータ192の駆動力が排紙ローラ対94に繋がれ、排紙ローラ対94における図中下側の排紙ローラが図中時計回り方向に回転駆動される。また、排紙センサー61によって原稿MSの先端が検知されてからの搬送モータ192のパルスカウントに基づいて、原稿MSの後端が排紙ローラ対94のニップを抜け出るタイミングが演算される。そして、この演算結果に基づいて、排紙クラッチ194によって搬送モータ192の駆動力を切って排紙ローラ対94を停止する。
【0053】
一方、両面読取モードが設定されている場合には、排紙センサー61によって原稿MSの先端が検知された後、密着型イメージセンサー95に到達するまでのタイミングが搬送モータ192のパルスカウントに基づいて演算される。そして、そのタイミングでコントローラ904から読取制御部903に対して原稿MSの第2面における副走査方向の有効画像領域を示すゲート信号が送信される。この送信は、原稿MSの後端が密着型イメージセンサー95による読取位置を抜け出るまで続けられ、原稿MSの第2面が密着型イメージセンサー95によって読み取られる。
【0054】
第2面読取手段としての密着型イメージセンサー95(CIS)は、原稿MSに付着している糊状の異物が読取面に付着することによる読取縦すじを防止する目的で、読取面にコーティング処理が施されている。密着型イメージセンサー95との対向位置には、原稿MSを非読取面側(第1面側)から支持する原稿支持手段としての第2読取ローラ96が配設されている。この第2読取ローラ96は、密着型イメージセンサー95による読取位置での原稿MSの浮きを防止するとともに、密着型イメージセンサー95におけるシェーディングデータを取得するための基準白部として機能する役割を担っている。本複写機では、密着型イメージセンサー95との対向位置で原稿MSを支持する原稿支持手段として、第2読取ローラ96を用いたが、ガイド板状のものを用いてもよい。
【0055】
ピックアップローラ80は、原稿MSを給送するとき、給送する原稿MSの真下の原稿または可動原稿テーブル54との摩擦力に抗して原稿MSを搬送するため、原稿MSがピックアップローラ80に対してスリップが生じやすい。またピックアップローラ80と可動原稿テーブル54が上下移動し原稿との接触状態が変化することでもスリップが生じやすい。スリップが生じることで、原稿MSが所定時間内に規定の位置へ搬送されず、用紙ジャムとなるおそれがある。
【0056】
原稿MSがADF内にある程度、搬送された後に搬送異常として用紙ジャムとなった場合は、原稿MSの取り出しが容易でなくなり、原稿MSの取り出し時に原稿MSにしわや破れが生じ、原稿MSにダメージを与えるおそれがある。
【0057】
また、ユーザーの不注意でステイプル針やクリップにより綴じられた複数枚の原稿MSの束を原稿載置台53にセットする場合がある。このような綴じられた原稿MSの束が給送されると、分離ローラ85の給紙ベルト84との当接部である分離部で用紙ジャムとなるおそれがある。また、ステイプル針やクリップなどの金属片により綴じられた複数枚の原稿MSの束の先端が分離部に進入すると、原稿MSの束のうち最上位の原稿は、給紙ベルト84により引き続き搬送される。しかし、2枚以降の原稿は、分離ローラ85により戻される搬送力が付与される。その結果、金属片により綴じられた箇所に大きな応力が加わり、原稿MSに破れや折れやしわなどが発生し、原稿MSにダメージを与えるおそれがある。
【0058】
そのため、本実施形態では、集音マイク201が集音した原稿給紙時の動作音から用紙ジャムが発生するおそれがあるか否かを予測して判定する。そして、用紙ジャムが発生するおそれがある場合は、原稿MSの搬送を停止し、用紙ジャムの発生を未然に防ぎ原稿MSのダメージ発生を予防している。また、停止時には、用紙ジャムが発生するおそれがあることを本体操作部902の表示パネルに表示したり、スピーカーから警告音を発したりしてもよい。
【0059】
本実施形態では、集音マイク201で集音した原稿搬送時の動作音の特徴を定量的に表現した特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて、MT法(Mahalanobis Taguchi法)で原稿搬送の異常判定を行う。MT法は、品質工学等の分野において、多次元情報データによる予測、診断、分析で知られているMT(Mahalanobis Taguchi、マハラノビス・タグチ)システムの一つである。MT法は、マハラノビス距離を利用し、データが正常か異常かの判定を行うことができる手法のひとつであり、簡便かつ比較的精度よく正常/異常の判定を行える手法である。MT法については、例えば、特開2003-141306号公報や、田口玄一「品質工学の数理」(日本規格協会 1999年発行)等に記載されている公知の手法であるため、詳細な説明は省略する。
【0060】
搬送異常の判定に用いる指標データとして、以下のデータがコントローラ904のROMにあらかじめ格納されている。すなわち、マハラノビス距離を求める際に使用する単位空間データセット(基準データセット)の相関行列の逆行列R-1と、算出したマハラノビス距離を正常搬送か搬送異常かに分類するための閾値Thとである。
【0061】
逆行列R-1は、あらかじめ正常に原稿MSが搬送された動作音から得られた特徴量をもとに単位空間データセット(基準データセット)を作成し求められる。算出したマハラノビス距離を正常搬送、搬送異常に分類する閾値Thは、偽陰性率(正常判定の誤判定率)、偽陽性率(搬送異常の誤判定率)が狙い値以下となるマハラノビス距離をあらかじめ求めて設定される。
【0062】
しかしながら、1つの単位空間データセット(基準データセット)から求められた、逆行列R-1と閾値Thとからなる一つ指標データで、搬送異常判定を行う場合、搬送異常判定精度が落ちるおそれがあった。なぜなら、搬送中の原稿MSが2枚以上の場合、集音マイク201が、原稿給紙時の動作音以外に、ピックアップローラ80を抜けた先行原稿の搬送音も拾ってしまう。そのため、搬送中の先行原稿がある場合の正常搬送時の動作音と、搬送中の先行原稿がない場合の正常搬送時の動作音とが大きく異なる。よって、搬送中の先行原稿がある場合の正常搬送時の動作音から得られた特徴量と、搬送中の先行原稿がない場合の正常搬送時の動作音から得られた特徴量とから作成された単位空間データセット(基準データセット)は、ばらつきが大きくなる。その結果、この単位空間データセットに基づいて求められる逆行列R-1や閾値Thの精度が落ち、精度の高い搬送異常の判定を行えない。これにより、正常搬送の誤判定や、搬送異常の誤判定が発生するおそれがある。
【0063】
そこで、本実施形態では、複数の指標データをあらかじめ用意し、搬送条件としての搬送中の原稿枚数に応じた最適な指標データ(逆行列R-1と閾値Th)を用いて、搬送異常判定を行うようにした。以下、図面を用いて、本実施形態の特徴部について、説明する。
【0064】
図7は、コントローラ904によって実施される原稿毎の原稿搬送異常判定処理のフローチャートである。
本実施形態では、読み取りのスループットを稼ぐためにシートとしての原稿MS同士が重ならない程度の間隔を空けつつ連続的に原稿MSの給送動作をおこなうため、原稿搬送路には同時に複数の原稿MSが間隔を空けて存在する。そのため、図7に示す原稿搬送異常判定処理は、同時並行的に実行される。
【0065】
コントローラ904は、本体制御部901から原稿給紙信号を受信したら、コントローラ904のRAM上の「搬送中原稿枚数」カウンタを0にセットする。そして、コントローラ904は、「搬送中原稿枚数」カウンタを1インクリメントして(S1)から、給紙/分離動作を開始する(S2)。最初の一枚目の原稿MSに関しては、カウント値「0」に対して1インクリメントすることなる。続けて搬送される2枚目の原稿MSについては、その時点のカウント値「1」に対して1インクリメントすることなる。この「搬送中原稿枚数」は、後述するように、原稿MSが排紙ローラ対94を抜けるタイミングで、その時点の「搬送中原稿枚数」のカウント値に対して1デクリメントされる。これにより、コントローラ904のRAMに一時記憶されている「搬送中原稿枚数」は、現在ADF51内を搬送中の原稿枚数となる。
【0066】
コントローラ904は、給紙/分離動作開始と同時に集音マイク201により、原稿給紙時の動作音を集音し(S3)、集音された動作音の音信号を、コントローラ904のRAMに一時記憶する。
【0067】
次に、コントローラ904は、このRAMに記憶された動作音の特徴量を算出する(S4)。具体的には、RAMに記憶された動作音の音信号に対し短時間フーリエ変換(STFT)を行い、音信号のパワースペクトルの時間配列を算出する。次に、算出したパワースペクトルの時間配列に対して特徴化処理を行い、動作音の特徴量を算出する。特徴化処理としては所定の周波数帯におけるパワーの時間積分や、連続するフレーム間のSpectral Fluxなどを用いることができる。すなわち、本実施形態では、コントローラ904が、特徴量抽出部として機能する。なお、動作状態判別に用いる動作音の特徴を定量的に表現した特徴量としては、上記に限らず、メル周波数ケプストラム係数等、公知の音の特徴量を用いてもよい。
【0068】
特徴量を算出したら、算出した特徴量に基づいて、搬送異常が発生するか否かの判定を行うが、本実施形態では、搬送中の原稿枚数に基づいて、搬送異常判定に使用する指標データ(逆行列R-1と閾値Th)を選択する。
【0069】
具体的には、コントローラ904は、コントローラ904のRAM上の「搬送中原稿枚数」を確認する。「搬送中原稿枚数」が、2枚以上、すなわち、搬送中の先行原稿がある場合(S5のY)は、搬送中の先行原稿が有る場合の指標データを選択する(S7)。一方、「搬送中原稿枚数」が、2枚未満、すなわち、搬送中の先行原稿がない場合(S5のN)のときは、搬送中の先行原稿がない場合の指標データを選択する(S6)。すなわち、本実施形態では、コントローラ904が、指標データ選択部としての機能を有している。
【0070】
搬送中の先行原稿が有る場合の指標データのひとつである逆行列R-1は、あらかじめ搬送中の先行原稿が有る場合の正常搬送時の動作音の特徴量をもとに作成された単位空間データセット(基準データセット)から求められる。また、搬送中の先行原稿が有る場合の指標データのひとつである閾値Thは、この単位空間データセット(基準データセット)に対して偽陰性率、偽陽性率が狙いの値以下となるマハラノビス距離をあらかじめ求め設定されたものである。
【0071】
搬送中の先行原稿が有る場合の正常搬送時の動作音の特徴量をもとに作成された単位空間データセットには、搬送中の先行原稿がない場合の正常搬送時の動作音の特徴量が含まれていない。よって、単位空間データセット(基準データセット)のばらつきを小さくでき、搬送中の先行原稿が有る場合の搬送異常判定に最適化された逆行列R-1や閾値Thを求めることができる。
【0072】
搬送中の先行原稿がない場合の指標データのひとつである逆行列R-1は、あらかじめ搬送中の先行原稿が無い場合の正常搬送時の動作音の特徴量をもとに作成された単位空間データセット(基準データセット)から求められる。また、搬送中の先行原稿が無い場合の指標データのひとつである閾値Thは、この単位空間データセット(基準データセット)に対して偽陰性率、偽陽性率が狙いの値以下となるマハラノビス距離をあらかじめ求め設定されたものである。
【0073】
搬送中の先行原稿が無い場合の正常搬送時の動作音の特徴量をもとに作成された単位空間データセットには、搬送中の先行原稿が有る場合の正常搬送時の動作音の特徴量が含まれていない。よって、単位空間データセット(基準データセット)のばらつきを小さくでき、搬送中の先行原稿が無い場合の搬送異常判定に最適化された逆行列R-1や閾値Thを求めることができる。
【0074】
搬送異常判定モデルを選択したら、コントローラ904は、動作音の特徴量に基づいて、MT法にて、搬送異常判定を行う(S8)。搬送異常の判定は、原稿セット位置から所定の距離搬送されたタイミングで行われる。所定の距離搬送されたか否かは、給紙モータ191の駆動パルス数や給紙モータ191の駆動開始からの経過時間などを使って判定される。
【0075】
上記「所定の距離」は、原稿載置台53にセットされた原稿MSの先端位置から、分離ローラ85が給紙ベルト84に当接している部分である分離部(分離ニップ)までの距離より短い距離に設定されるのが好ましい。このような距離に設定されることで、原稿MSの先端が分離部に到達する前に搬送異常の判定を行うことができる。これにより、ステイプル針やクリップなどの金属片により綴じられた複数枚の原稿MSの束の先端が分離部に進入する前に、搬送動作の停止を行うことが可能となり、原稿MSにダメージが生じるのを抑制することができる。
【0076】
搬送異常判定は、まず、コントローラ904によって、その時点までに計算した音の特徴量を入力とし、選択した搬送条件に対応した逆行列R-1を用いてマハラノビス距離が算出される。次に、コントローラ904によって、算出したマハラノビス距離が搬送条件に対応する閾値Th以下である否かを判定する。算出したマハラノビス距離が閾値Th以下の場合には正常搬送と判定し、閾値Thより大きい場合は搬送異常と判定する。
【0077】
本実施形態では、搬送中の先行原稿が有るか否かの搬送条件に応じた、指標データ(逆行列R-1と閾値Th)を用いて、搬送異常判定が行われる。これら指標データは、上述したように各搬送条件において正常搬送時の動作音に基づき作成されたものであり各搬送条件における搬送異常判定に対して最適化されたものである。よって、精度よく搬送異常判定を行うことができ、誤判定を良好に抑制することができる。
【0078】
正常搬送と判定した場合は、上述した原稿搬送処理を実行する。すなわち、給紙/分離動作を終了後(S9)、給紙モータ191を逆転させ、プルアウト駆動ローラ87によりスキュー補正した原稿を送り出すプルアウト動作を実行する(S10)。そして、第1読取搬送部Eの手前で原稿MSの搬送を一時停止する一時停止処理を行う(S11)。その後、読取制御部903からの読取開始信号の受信を待ち(S12)、受信後(S12のY)は、原稿MSの搬送を再開し、原稿MSを第1読取搬送部E、第2読取搬送部Fおよび排紙部Gへ順次搬送する読取搬送処理を開始する(13)。
【0079】
そして、排紙センサー61によって原稿MSの先端が検知されたら、排紙モーターのパルスをカウントし、原稿MSの後端が排紙ローラ対94のニップを抜け出るタイミングが演算される。次に、この演算結果に基づいて、排紙クラッチ194の作動が停止されるとともに、「搬送中原稿枚数」カウンタを1デクリメントする(S14)。
一方、搬送異常と判定した場合は、搬送中のすべての原稿MSの搬送動作を停止(S21)し、読み取り動作を終了する。
【0080】
上記では、搬送中の原稿枚数をコントローラ904で把握し、把握した搬送中の原稿枚数に基づいて、指標データ(逆行列R-1と閾値Th)を選択しているが、連続原稿搬送における搬送順序に基づいて、指標データを選択してもよい。最初に搬送される1ページ目の原稿MSについては、搬送中の先行原稿がないが、2ページ目以降は、搬送中の先行原稿があるため、2ページ目以降の原稿MSの給送時に集音マイク201が集音した動作音には、先行原稿の搬送音も拾ってしまう。よって、搬送条件として連続原稿搬送の搬送順に基づいて、用いる指標データを選択してもよい。
【0081】
また、集音マイク201が先行原稿の搬送音をほとんど拾わないなど、先行原稿の搬送音の影響がほとんどないような装置であっても、連続原稿搬送において、以下のような搬送制御を行っているときは、1ページ目の集音マイク201が集音した動作音と、2ページ以降の動作音が異なる場合がある。すなわち、最初に搬送される1ページ目の原稿だけ給紙/分離/突き当て部での搬送速度を速くすることで生産性を稼ぐ搬送制御を行っている場合である。原稿搬送速度が異なると、集音マイク201が集音する動作音の周波数特性が異なってくる。また、動作音の取得を、原稿MSが所定距離搬送されるまで行うようにしている場合は、取得される動作音の時間も異なる。その結果、1ページ目と、2ページ以降とでは、正常搬送時の動作音が異なるのである。よって、1ページ目の正常搬送時の動作音から得られた特徴量と、2ページ以降の正常搬送時の動作音から得られた特徴量とからなる単位空間データセット(基準データセット)は、ばらつきが大きくなる。その結果、上述同様、逆行列R-1や閾値Thなどの指標データの精度が落ちてしまい、精度のよい搬送異常判定が行えないおそれがある。
【0082】
よって、連続原稿搬送において、最初に搬送される1ページ目の原稿MSだけ給紙/分離/突き当て部での搬送速度を速くする制御を行う場合も、搬送条件として連続原稿搬送の搬送順に基づいて、用いる指標データを選択してもよい。また、搬送速度や紙質を搬送条件として、用いる指標データを選択してもよい。
【0083】
図8は、搬送条件として連続原稿搬送の搬送順に基づいて、用いる指標データを選択する原稿搬送異常判定処理のフローチャートである。
連続原稿搬送では、上述したように、複数の原稿が原稿搬送路に存在するため、この図8に示すフローについても、給送される原稿毎に同時並行的に実行される。
【0084】
まず、コントローラ904は、本体制御部901から原稿給紙信号を受信したら、コントローラ904のRAM上の「ページ番号」カウンタを0にセットする。次に、コントローラ904は、「ページ番号」を1インクリメントして(S1)、給紙/分離動作を開始する(S2)。
【0085】
次に、上述と同様にして、集音マイク201により、原稿給紙時の動作音を集音し(S3)、上述と同様にして、動作音の特徴量を算出する(S4)。次に、コントローラ904は、コントローラ904のRAM上の「ページ番号」を確認する。「ページ番号」が、「1」のとき(S5のN)は、1ページ目の原稿用の指標データを選択する(S6)。一方、「ページ番号」が、「2」以上の場合(S5のY)は、2ページ以降の原稿用の指標データを選択する(S6)。
【0086】
1ページ目の原稿用の指標データ(逆行列R-1および閾値Th)は、あらかじめ1ページ目の原稿MSの正常搬送時の動作音の特徴量をもとに作成された単位空間データセット(基準データセット)から求められたものである。この単位空間データセットには、1ページ目の原稿搬送時の動作音とは、周波数等が異なる2ページ目以降の正常搬送時の動作音の特徴量が含まれていない。よって、単位空間データセット(基準データセット)のばらつきを小さくでき、この単位空間データセット(基準データセット)から、1ページ目の原稿搬送に対して最適化された指標データ(逆行列R-1および閾値Th)を求めることができる。
【0087】
2ページ以降の原稿用の指標データは、あらかじめ2ページ以降の原稿MSの正常搬送時の動作音の特徴量をもとに作成された単位空間データセット(基準データセット)から求められたものである。この単位空間データセットには、2ページ目以降の原稿搬送時の動作音とは、周波数等が異なる1ページ目の正常搬送時の動作音の特徴量が含まれていない。よって、単位空間データセット(基準データセット)のばらつきを小さくでき、この単位空間データセット(基準データセット)から、2ページ目以降の原稿MSの搬送異常判定に対して最適化された指標データ(逆行列R-1および閾値Th)を求めることができる。
【0088】
次に、コントローラ904は、その時点までに計算した動作音の特徴量と、選択した搬送条件に対応する指標データとに基づいて、MT法にて、搬送異常判定を行う(S8)。具体的には、上述と同様、その時点までに計算した動作音の特徴量を入力とし、選択した搬送条件に対応した逆行列R-1を用いてマハラノビス距離を算出する。次に、コントローラ904は、算出したマハラノビス距離が搬送条件に対応する閾値Th以下である場合には正常搬送と判定し、閾値Thより大きい場合は搬送異常と判定する。
【0089】
そして、正常搬送と判定した場合は、上述と同様に、原稿搬送処理を実行する(S9~S13)。一方、搬送異常と判定したときは、搬送中のすべての原稿MSの搬送動作を停止(S21)し、読み取り動作を終了する。
【0090】
このように、図8のフローでは、1ページ目の原稿搬送の搬送異常判定に最適化された指標データ(逆行列R-1と閾値Th)と、2ページ以降の原稿搬送の搬送異常判定に最適化された指標データ(逆行列R-1と閾値Th)とを備える。そして、搬送条件として搬送の順に対応する指標データを選択し、その選択した指標データを用いて搬送異常判定を行う。これにより、1ページ目の原稿、2ページ目以降の原稿のいずれに対しても、精度よく搬送異常を行うことができる。
【0091】
また、上述したように、本実施形態では、薄紙を読み取るための薄紙モード、異なるサイズの原稿MSを混載・搬送する混載モードを有している。そして、薄紙モードや混載モードでは、通常の読取モードよりも原稿搬送速度を全体に遅くして原稿MSを搬送している。原稿搬送速度が異なると、動作音の周波数特性や、取得される動作音の時間が異なってくる。従って、原稿搬送速度が互いに異なる正常搬送時の動作音の特徴量からなる単位空間データセット(基準データセット)は、ばらつきが大きくなる。よって、上述同様、逆行列R-1や閾値Thなどの指標データの精度が落ちてしまい、精度のよい搬送異常判定が行えないおそれがある。
【0092】
よって、搬送条件として原稿搬送速度に応じた複数の指標データをコントローラ904のROMに格納し、原稿搬送速度に基づいて、搬送異常判定に用いる指標データを選択してもよい。本実施形態では、原稿搬送速度は、分離部(分離ローラ85と給紙ベルト84との当接部)を通過する際の設定された搬送速度とした。しかし、これは一例であり、例えば、ピックアップローラ80による給送開始から原稿MSが分離部に到達するまでの平均搬送速度等でもよい。
【0093】
図9は、搬送条件として原稿搬送速度に基づいて、用いる指標データを選択する原稿搬送異常判定処理のフローチャートである。
操作者により、コピースタートキーが押下されると、本体制御部901からコントローラ904に原稿給紙信号が送信される。同時に本体制御部901からは薄紙を読み取るための薄紙モードや、混載モードなどの設定情報がコントローラ904に通知される。コントローラ904は、本体制御部901から送られてきた設定情報などから総合的に原稿MSの搬送速度を決定する。
【0094】
その後、決定した搬送速度で給紙/分離動作を開始すると同時に、集音マイク201により、原稿給紙時の動作音を集音し、動作音の特徴量を算出する(S1~S4)。
【0095】
次にコントローラ904は、搬送条件として決定した搬送速度に対応する指標データを選択する(S4~S10)。図9では、読取モード等により設定される原稿搬送速度はA~Dの4つあり、各搬送速度に応じた指標データがコントローラ904のROMに格納されている。各指標データは、対応する搬送速度における正常搬送時の動作音の特徴量からなる単位空間データセット(基準データセット)から求められた逆行列R-1と閾値Thである。逆行列R-1と閾値Thは、ばらつきの少ない単位空間データセット(基準データセット)から求めることができ、対応する搬送速度で搬送される原稿MSの搬送異常判定に対して最適化された逆行列R-1と閾値Thを用いることができる。
【0096】
次に、コントローラ904は、その時点までに計算した動作音の特徴量と、選択した搬送速度に対応する指標データとに基づいて、MT法にて、搬送異常判定を行う(S8)。具体的には、算出した動作音の特徴量を入力とし、選択した搬送速度に対応する指標データの逆行列R-1を用いてマハラノビス距離を算出する。次に、コントローラ904は、算出したマハラノビス距離が搬送条件に対応する閾値Th以下である場合には正常搬送と判定し、閾値Thより大きい場合は搬送異常と判定する。
【0097】
そして、上述と同様に、正常搬送と判定した場合は、原稿搬送処理を実行する(S12~S16)。一方、搬送異常と判定したときは、搬送中のすべての原稿MSの搬送動作を停止(S21)し、読み取り動作を終了する。
【0098】
図9に示すフローでは、搬送条件としての搬送速度毎に最適化された逆行列R-1や閾値Thなどの指標データを用いて、搬送異常判定を行うことができ、精度よく搬送異常の判定を行うことができる。
【0099】
また、例えば、搬送中の先行原稿が有る場合で、各搬送速度に対応する4つの指標データと、搬送中の先行原稿が無い場合で、各搬送速度に対応する4つの指標データとを設ける。そして、搬送中の先行原稿が有るか否かと、決定された搬送速度とに基づいて、対応する指標データを選択するようにしてもよい。これにより、より一層、精度のよい搬送異常判定を行うことができる。
【0100】
なお、本実施形態では、MT法を用いて搬送異常判定を行っているが、サポートベクターマシン等の機械学習により、動作音の特徴量を正常搬送と搬送異常とに分類してもよい。この場合は、コントローラ904のROMに、指標データとして、搬送条件に応じた複数の学習済みモデルが格納される。各学習済みモデルは、対応する搬送条件で原稿搬送したとき動作音の特徴量と正解データ(正常搬送/搬送異常)とに基づいて機械学習させて得られたものであり、各学習済みモデルは、それぞれ、対応する搬送条件に対して最適化されたものになっている。
コントローラ904は、搬送条件に応じた学習済みモデルを選択し、選択した学習済みモデルを用いて、動作音の特徴量を、正常搬送と搬送異常のいずれかに分類し、搬送異常判定を行う。
かかる構成においても、搬送条件に対して最適化された学習済みモデルにより、精度よく搬送異常の判定を行うことができる。
【0101】
上述では、シート搬送装置としてADF51に本発明を適用した例について説明したが、画像形成部1の転写紙を搬送する搬送装置としてのプリンタに本発明を適用することもでき、画像形成装置であるインクジェット方式の複写機に適用することもできる。
【0102】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
原稿MSなどのシートを搬送するピックアップローラ80などの搬送部材と、シート搬送時の動作音を集音する集音マイク201などの集音部と、集音部が集音した動作音の特徴量(本実施形態では、周波数帯におけるパワーの時間積分や、連続するフレーム間のSpectral Fluxなど)を抽出するコントローラ904などの特徴量抽出部と、特徴量に基づいて、搬送異常が発生するか否かを判定するコントローラ904などの搬送異常判定部とを備えるシート搬送装置において、搬送異常が発生するか否かを判定するための指標となる複数の指標データ(本実施形態では、逆行列R-1や、閾値Th)から、シートの搬送条件に対応する指標データを選択するコントローラ904などの指標データ選択部を備え、搬送異常判定部は、指標データ選択部が選択した指標データを用いて、搬送異常が発生するか否かを判定する。
これによれば、シート搬送条件に対応した指標データを用いて、シートの搬送異常が発生するか否かを判定するので、精度の高い搬送異常の判定を行うことができ、誤判定を抑制することができる。
【0103】
(態様2)
態様1において、シートの搬送条件は、搬送異常判定対象のシート以外の搬送中のシート枚数である。
これによれば、図7を用いて説明したように、搬送異常判定対象のシート以外の搬送中のシート枚数に応じた最適な指標データを用いて、搬送異常の判定を行うことができ、精度よく搬送異常の判定を行うことができる。
【0104】
(態様3)
態様2において、原稿MSなどのシートの搬送条件は、搬送異常判定対象のシート以外に、搬送中のシートがあるか否かである。
これによれば、実施形態で説明したように、搬送異常判定対象のシート以外の搬送中のシートの動作音も集音マイク201などの集音部が拾うことで、搬送異常判定対象のシート以外の搬送中のシートが有るか否かで、正常搬送時の動作音が異なってくる。よって、搬送異常判定対象のシート以外の搬送中のシートが有るか否かで搬送異常判定に用いる指標データを変更することで、精度よく搬送異常の判定を行うことができる。
【0105】
(態様4)
態様1において、シートの搬送条件は、連続シート搬送動作における搬送異常判定対象のシートの搬送の順番である。
これによれば、図8を用いて説明したように、シートの搬送の順序に応じた最適な指標データを用いて、搬送異常の判定を行うことができ、精度よく搬送異常の判定を行うことができる。
【0106】
(態様5)
態様4において、連続シート搬送において、最初に搬送するシートの搬送速度を、2番目以降のシートの搬送速度よりも速くする制御を実施するものであり、シート搬送条件は、連続シート搬送動作における最初に搬送するシートであるか否かである。
これによれば、実施形態で説明したように、2番目以降のシートの搬送速度よりも搬送速度が速い最初に搬送するシートの正常搬送時の動作音が、2番目以降のシートの正常搬送時の動作音と異なる。よって、連続シート搬送動作における最初に搬送するシートであるか否かで搬送異常判定に用いる指標データを変更することで、精度よく搬送異常の判定を行うことができる。
【0107】
(態様6)
態様1乃至5いずれかにおいて、シートの搬送条件は、シートの搬送速度である。
これによれば、図9を用いて説明したように、シートの搬送速度に応じた最適な指標データを用いて、搬送異常の判定を行うことができる。
【0108】
(態様7)
態様1乃至6いずれかにおいて、コントローラ904などの搬送異常判定部が、搬送異常が発生すると判定したときは、シートの搬送動作を停止する。
これによれば、実施形態で説明したように、ジャムが発生する前に原稿MSなどのシートの搬送動作を停止することができ、シートにダメージが生じるのを抑制できる。
【0109】
(態様8)
態様1乃至7いずれかにおいて、動作音が、シートトレイに載置されたシートを給送するピックアップローラ80などの給送ローラの動作音である。
これによれば、実施形態で説明したように、シートが分離部に搬送される前に、異常判定部で異常搬送が発生するか否かを判定することが可能となり、ステイプル針で綴じられたシート束が分離部に搬送されて、破れやしわなどシートにダメージが生じるのを予防することができ、シートを保護することが可能となる。
【0110】
(態様9)
態様1乃至8いずれかにおいて、動作音が、シートトレイに載置されたシートが給送されるシートの搬送音である。
これによれば、実施形態で説明したように、シートが分離部に搬送される前に、異常判定部で異常搬送が発生するか否かを判定することが可能となり、ステイプル針で綴じられたシート束が分離部に搬送されて、破れやしわなどシートにダメージが生じるのを予防することができ、シートを保護することが可能となる。
【0111】
(態様10)
原稿MSなどの原稿シートを搬送する原稿シート搬送部を備え、原稿シート搬送部によって原稿シートを画像読取部へ搬送する自動原稿搬送装置において、原稿シート搬送部として、態様1乃至9いずれかのシート搬送装置を用いた。
これよれば、ジャムの発生を抑制できたり、折れ、しわ、破れなどのダメージが原稿シートに生じるのを抑制することができる。
【0112】
(態様11)
シート搬送部によって搬送されるシートに画像を形成する画像形成装置において、シート搬送部として態様1乃至9に記載のシート搬送装置を備える、または、態様9のADF51などの自動原稿搬送装置を備える。
これによれば、シートのダメージや原稿シートのダメージを未然に防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0113】
50 :原稿読取装置
51 :ADF
52 :本体カバー
53 :原稿載置台
54 :可動原稿テーブル
55 :原稿スタック台
56 :ピックアップモータ
80 :ピックアップローラ
84 :給紙ベルト
85 :分離ローラ
86 :プルアウト従動ローラ
87 :プルアウト駆動ローラ
92 :読取出口ローラ対
93 :第2読取出口ローラ対
94 :排紙ローラ対
95 :密着型イメージセンサー
96 :第2読取ローラ
98 :給紙カバー
150 :スキャナ
151 :第1面固定読取部
152 :移動読取部
153 :画像読取センサー
154 :第1コンタクトガラス
155 :第2コンタクトガラス
191 :給紙モータ
192 :搬送モータ
194 :排紙クラッチ
201 :集音マイク
901 :本体制御部
902 :本体操作部
903 :読取制御部
904 :コントローラ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0114】
【特許文献1】特開2021-181376号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9