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特開2024-31955半導体用処理液および半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031955
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】半導体用処理液および半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240229BHJP
   C11D 7/08 20060101ALI20240229BHJP
   C11D 7/18 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
C11D7/08
C11D7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136308
(22)【出願日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2022135113
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022203683
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康平
【テーマコード(参考)】
4H003
5F157
【Fターム(参考)】
4H003DA09
4H003DA12
4H003DB03
4H003DC02
4H003EA03
4H003EA04
4H003EA20
4H003FA04
5F157AA42
5F157AA76
5F157AA99
5F157BC12
5F157BC13
5F157BE12
5F157BE23
5F157BE45
5F157BE48
5F157DB03
5F157DB45
5F157DB57
(57)【要約】
【課題】半導体ウエハに含まれる樹脂、特にエーテル結合を有する樹脂を基板から除去するに際し、基板のSiの腐食を抑制することができ、かつ、高い剥離速度を確保することができる半導体用処理液の製造方法、およびそれを用いた半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】エーテル結合を有する樹脂の処理に用いる半導体用処理液の製造方法であって、リン酸含有溶液を100℃以上400℃以下に加熱し、加熱溶液を得る加熱工程、前記加熱溶液を5℃以上95℃以下に冷却し、冷却溶液を得る冷却工程、並びに、過酸化水素水および硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1種と、前記冷却溶液とを混合する混合工程、を含むことを特徴とする、半導体用処理液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル結合を有する樹脂の処理に用いる半導体用処理液の製造方法であって、
リン酸含有溶液を100℃以上400℃以下に加熱し、加熱溶液を得る加熱工程、
前記加熱溶液を5℃以上95℃以下に冷却し、冷却溶液を得る冷却工程、並びに、
過酸化水素水および硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1種と、前記冷却溶液とを混合する混合工程、
を含むことを特徴とする、半導体用処理液の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸含有溶液中のリン酸の濃度が0.1質量%以上95質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
【請求項3】
前記加熱溶液がピロリン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
【請求項4】
前記加熱溶液中の水の濃度が0質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
【請求項5】
前記エーテル結合を有する樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
【請求項6】
前記過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が0.001質量%以上90質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
【請求項7】
前記硝酸水溶液中の硝酸の濃度が0.001質量%以上90質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
【請求項8】
半導体素子の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の半導体用処理液の製造方法により得られた半導体用処理液を用いて、エーテル結合を有する樹脂を半導体用基板から剥離する剥離工程を含み、
前記剥離工程が20℃以上400℃以下で行われることを特徴とする、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーテル結合を有する樹脂の処理に用いる半導体用処理液の製造方法、およびそれを用いた半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の高性能化及び高集積化が進んでいる。また、半導体には、様々な用途で各種樹脂が使用されている。半導体における樹脂の使用例としては、例えば、半導体封止用にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が使用されており、導電性接着剤用に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が使用されている。
【0003】
これらの樹脂を用いて、半導体素子を形成する場合、成形後の樹脂を加工および除去する工程が含まれるが、これらの樹脂は耐薬品性が高いものが多く、樹脂の半導体基板からの除去技術の重要性が上がっている。例えば、熱硬化後のエポキシ樹脂は、3次元網目構造を有し、耐薬品性に優れている。エポキシ樹脂の耐薬品性は主に硬化剤によって変わり、代表的な硬化剤としてはアミンや酸無水物による硬化が一般的であるが、これらを化学的手法で除去する場合、アミン硬化型ではC-N結合を、酸無水物硬化型ではエステル結合を攻撃することによる除去が考えられる。
【0004】
特許文献1には、アルカリ金属化合物とモノアルコール類とを含むことを特徴とする炭素材料/酸無水物硬化エポキシ樹脂複合材料の処理液及びそれを用いた分離方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、エポキシ樹脂硬化物分解触媒と有機溶媒とを含むことを特徴とする無機物/エポキシ樹脂硬化物との複合材料の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-255899号公報
【特許文献2】特開2007-297641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エポキシ樹脂の中では、酸によって架橋して、エステル結合などの化学的活性が高い結合を含まず、エーテル結合による3次元構造が広がっている種類がある。特許文献1には、アルカリ金属化合物とモノアルコール類とを含む処理液が提案されている。該発明において処理対象のエポキシ樹脂は酸無水物硬化型のエポキシ樹脂であり、その分解作用は、エステル交換と加アルコール分解によるものと考えられる。そのため、エステルによる架橋が存在しないエーテル結合を有するエポキシ樹脂の場合、除去効率が大きく低減することが、本発明者の検討によって明らかになった。
【0008】
また、特許文献2には、エポキシ樹脂硬化物分解触媒を用いて、エーテル結合を開裂する手法が提案されている。該発明において処理対象のエポキシ樹脂硬化物は、ハロゲン原子を含むことが好ましいとされている。そこで、エーテル基が結合しているベンゼン環のオルト位がハロゲン原子で置換されていない、通常のエーテル結合を有するエポキシ樹脂に使用すると、除去効率が大きく低減することが明らかになった。加えて、半導体素子に使用する場合、エポキシ樹脂がシリコンウエハ同士の接着剤に用いられることがあるが、
Siは、塩基性条件下で反応して腐食するため、特許文献2に記載の処理液を用いた場合、用いるエポキシ樹脂硬化物分解触媒によっては、Si基板が荒れることが、本発明者の検討によって明らかになった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、半導体ウエハに含まれる樹脂、特にエーテル結合を有する樹脂を基板から除去するに際し、基板のSiの腐食を抑制することができ、かつ、高い剥離速度を確保することができる半導体用処理液(以下、処理液とも記載)の製造方法、およびそれを用いた半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、リン酸を加熱してから、過酸化水素水および硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1種を混合した処理液を用いることで、エーテル結合を有する樹脂を半導体用基板から効率よく剥離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
【0012】
項1 エーテル結合を有する樹脂の処理に用いる半導体用処理液の製造方法であって、
リン酸含有溶液を100℃以上400℃以下に加熱し、加熱溶液を得る加熱工程、
前記加熱溶液を5℃以上95℃以下に冷却し、冷却溶液を得る冷却工程、並びに、
過酸化水素水および硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1種と、前記冷却溶液とを混合する混合工程、
を含むことを特徴とする、半導体用処理液の製造方法。
項2 前記リン酸含有溶液中のリン酸の濃度が0.1質量%以上95質量%以下であることを特徴とする、項1に記載の半導体用処理液の製造方法。
項3 前記加熱溶液がピロリン酸を含むことを特徴とする、項1または2に記載の半導体用処理液の製造方法。
項4 前記加熱溶液中の水の濃度が0質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、項1~3のいずれか一項に記載の半導体用処理液の製造方法。
項5 前記エーテル結合を有する樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする、項1~4のいずれか一項に記載の半導体用処理液の製造方法。
項6 前記過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が0.001質量%以上90質量%以下であることを特徴とする、項1~5のいずれか一項に記載の半導体用処理液の製造方法。
項7 前記硝酸水溶液中の硝酸の濃度が0.001質量%以上90質量%以下であることを特徴とする、項1~6のいずれか一項に記載の半導体用処理液の製造方法。
項8 半導体素子の製造方法であって、
項1~7のいずれか一項に記載の半導体用処理液の製造方法により得られた半導体用処理液を用いて、エーテル結合を有する樹脂を半導体用基板から剥離する剥離工程を含み、
前記剥離工程が20℃以上400℃以下で行われることを特徴とする、半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エーテル結合を有する樹脂の処理に際し、基板のSiの腐食を抑制することができ、かつ、高い剥離速度を確保することができる半導体用処理液を製造することができる。そのため、本製造方法により製造された処理液は、エーテル結合を有する樹脂を半導体用基板から効率よく剥離するために、好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「濃度」とは、溶液に対する各成分の含有量を意味する。そのため、「濃度」は、溶液に対する溶質の含有量だけでなく、溶液に対する水などの溶媒の含有量も表現することができる。
【0015】
(半導体用処理液)
本発明の実施形態において、エーテル結合を有する樹脂の処理に用いる半導体用処理液(以下、処理液とも記載)とは、半導体用基板から、エーテル結合を有する樹脂を剥離させる薬液や、エーテル結合を有する樹脂を溶解させる薬液を指し、リン酸と水を含み、さらに、過酸化水素および硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする。これらの処理液を製造するための方法の一実施形態は、リン酸含有溶液を加熱して加熱溶液を得る加熱工程、該加熱溶液を冷却して冷却溶液を得る工程、並びに、過酸化水素水および硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1種と該冷却溶液とを混合する工程を含む。この実施形態を第1の実施形態とも称する。
本明細書では、過酸化水素および硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を「過酸化水素および/又は硝酸」とも称し、過酸化水素水および硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1種を「過酸化水素水および/又は硝酸水溶液」とも称し、活性酸素種および窒素酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を「活性酸素種および/又は窒素酸化物」とも称する。
【0016】
本発明者は、リン酸、および水を含有し、さらに過酸化水素および/又は硝酸を含有する処理液で、エーテル結合を有する樹脂を介して他の部材と接着している半導体用基板を処理する、具体的には、例えば、処理液とエーテル結合を有する樹脂を接触させることにより、他の部材と基板との剥離が容易となることを見出した。この理由は未解明の点を含むが、後述する活性酸素種および/又は窒素酸化物や、過リン酸が関与しているためであると考えられる。これら活性酸素種および/又は窒素酸化物や、過リン酸が、エーテル結合を有する樹脂のエーテル結合に作用し、エーテル結合を開裂させ、リン酸に由来するリン酸基が結合して、エーテル結合を有する樹脂の3次元構造を分解して、リン酸中で溶解、混和していくと推定される。よって、上記の処理液を用いることにより、剥離の際に、基板のSiの腐食を抑制することができ、かつ、高い剥離速度を確保することができる。
さらに、本発明者は、処理液の製造方法を検討し、上記の3つの成分を単に混合するだけでなく、リン酸含有溶液を加熱する処理、また、次に混合させる過酸化水素水および/又は硝酸水溶液との混合を効率よく行うために溶液を冷却する処理、また、溶液と、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液とを混合する処理を行うことにより、効率的に上記の処理液を製造することができることを見出した。
【0017】
(リン酸)
本実施形態の製造方法で用いるリン酸含有溶液は、化学式HPOで表わされるオルトリン酸;オルトリン酸を脱水縮合したピロリン酸(H)、もしくはトリリン酸(H10)等のポリリン酸;トリメタリン酸(H)、もしくはハイポリリン酸(HPO等のメタリン酸;モノ過リン酸(HPO)、もしくはジ過リン酸(H)等の過リン酸;これらのリン酸の塩;これらのリン酸のイオン;五酸化二リン(P);または十酸化四リン(P10)等を含む溶液等、特に限定されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、オルトリン酸、ピロリン酸等のポリリン酸、過リン酸、五酸化二リン、または十酸化四リンを含む溶液であることが好ましい。また、これらのリン酸は解離した状態で含まれていてもよい。また、リン酸含有溶液に含まれるリン酸は、単独1種で含まれていてもよく、2種以上で含まれていてもよい。例えば、オルトリン酸とピロリン酸のように、複数種のリン酸が含まれること
で、エーテル結合を有する樹脂を効率よく除去できることがある。
【0018】
本実施形態で用いるリン酸含有溶液中のリン酸の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の一部または全部を基板から剥離し、除去できる濃度であればよい。上記のリン酸の濃度は、半導体素子に含まれる樹脂の種類、耐薬品性、存在量、存在部位、官能基の種類、およびガラス転移温度といった樹脂特性、並びに剥離などの処理の条件などを考慮して適宜調整することができる。上記のリン酸の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.1質量%以上95質量%以下が好ましく、20質量%以上95質量%以下がより好ましく、30質量%以上95質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上90質量%以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0019】
本実施形態で用いるリン酸含有溶液は水が含まれていてもよい。しかし、水分の含有量が増加してしまうことで、処理液の昇温効率が低下してしまうため、リン酸含有溶液中の水の濃度は、5質量%以上99.9質量%以下が好ましく、5質量%以上80質量%以下がより好ましく、5質量%以上70質量%以下がさらに好ましく、経済性および粘度の観点から、10質量%以上50質量%以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0020】
上記、処理液の製造に用いるリン酸含有溶液は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理、又は各種精製処理などによって、金属イオン、有機不純物、または/およびパーティクル粒子などが除去されたものであることが好ましい。
【0021】
(リン酸含有溶液を加熱する工程)
本実施形態に係る製造方法は、リン酸含有溶液を加熱し、加熱溶液を得る工程(以下、加熱工程とも記載)を含む。
【0022】
加熱工程における加熱温度は、リン酸含有溶液中の水分を除去したり、ピロリン酸等の縮合リン酸を一部生成したりすることができる温度であればよく、リン酸の濃度、種類、量、および処理時間などを考慮して適宜調整することができる。該加熱温度は、具体的に、リン酸含有溶液中の水分の除去効率の観点から、100℃以上400℃以下が好ましく、100℃以上350℃以下がより好ましく、100℃以上300℃以下がさらに好ましく、120℃以上250℃以下が特に好ましく、取扱上の安全性の観点から150℃以上250℃以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0023】
加熱工程における加熱時間は、リン酸含有溶液中の水分を除去したり、ピロリン酸等の縮合リン酸を一部生成したりすることができる時間であればよく、リン酸の濃度、種類、量、および処理温度などを考慮して適宜調整することができる。リン酸含有溶液中の水分の除去効率の観点から、0.01時間以上100時間以下が好ましく、0.1時間以上50時間以下がより好ましく、0.1時間以上30時間以下がさらに好ましく、経済性の観点から0.1時間以上20時間以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、リン酸含有溶液中の水分を効率良く除去したり、ピロリン酸等の縮合リン酸を効率良く生成したりすることができる。
【0024】
加熱工程における加熱処理の雰囲気は、特に限定されず、大気中でもよく、窒素、またはアルゴン等の不活性気体中でもよい。また、加熱処理は、常圧下、減圧下、または加圧下のいずれの環境で処理を行ってもよい。処理を行う際の安全性の観点から、常圧下で処理したり、水分の除去効率の観点から、減圧下で処理したりすることが好ましい。
【0025】
加熱工程において加熱の処理を行う設備や容器は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。しかし、加熱工程で揮発した水の混入を避けるために、開放系で処理することが好ましい。
また、容器の材質としては、パーティクル増加、および金属量増加を防ぐため、処理液と接触する面が樹脂またはガラスで形成された容器を使用することが好ましい。このような樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂(軟質もしくは硬質塩化ビニル樹脂)、ナイロン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、もしくはポリプロピレン)、またはフッ素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、成型のしやすさ、耐薬品性、および不純物の溶出が少ないことを考慮すると、フッ素系樹脂がより好ましい。このようなフッ素系樹脂としては、フッ素原子を含有する樹脂であれば、特に限定されず、公知のフッ素系樹脂を用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、またはパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)の環化重合体等が挙げられる。これらの中でも、容器自体の入手のしやすさ、および生産性等を考慮すると、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を使用することが特に好ましい。また、必要に応じて、遮光した設備で行ってもよい。
【0026】
本発明の別の実施形態として、加熱工程の代わりに、加熱処理とは別の処理で、リン酸含有溶液中の水分を除去する工程を含んでいてもよい。このような方法としては、例えば、硫酸または塩化カルシウムのような脱水剤をリン酸含有溶液中に添加する方法や、PまたはP10といった固体をリン酸含有溶液中に添加して加水分解させる方法等が挙げられる。また、これらの方法は、上記の実施形態において、加熱工程と組み合わせて行ってもよい。加熱工程と合わせて行うことで、リン酸含有溶液中の水分を再現性良く除去したりできる場合がある。
【0027】
(加熱後リン酸)
加熱工程で得られたリン酸(以下、加熱後リン酸)を含む加熱溶液は、オルトリン酸;ピロリン酸、もしくはトリリン酸等のポリリン酸;トリメタリン酸、もしくはハイポリリン酸等のメタリン酸;モノ過リン酸、もしくはジ過リン酸等の過リン酸;これらのリン酸の塩;これらのリン酸のイオン;五酸化二リン;または十酸化四リン(P10)等を含む溶液等、特に限定されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、オルトリン酸、ピロリン酸等のポリリン酸、過リン酸、五酸化二リン、または十酸化四リンを含む溶液であることが好ましい。また、加熱溶液に含まれる加熱後リン酸は解離していてもよい。
【0028】
加熱溶液は、ピロリン酸等の縮合リン酸を含ませることにより、後に過酸化水素水および/又は硝酸水溶液を混合した際に、過リン酸が生じやすくなる。結果として、活性酸素種および/又は窒素酸化物を発生させやすくなると考えられ、エーテル結合を開裂させる作用が強くなるために、剥離効果を向上させることができると推定される。
ピロリン酸等のポリリン酸は、加熱によるオルトリン酸の脱水反応により生じる物質でもある。よって、リン酸含有溶液に含まれるリン酸がオルトリン酸である場合、加熱工程における加熱処理によって、その一部がピロリン酸等のポリリン酸に変化し得る。
加熱溶液中のピロリン酸等の縮合リン酸の濃度は特段制限されず、縮合リン酸が存在する場合には、本項の加熱工程の条件で生成し得る濃度で存在していることが好ましい。
【0029】
加熱溶液には、用いられる原料としてのリン酸に含まれる水等に由来する水が含まれていてもよい。しかし、水分の含有量が増加してしまうことで、処理液の昇温効率が低下してしまうため、加熱溶液中の水の濃度は、0質量%以上20質量%以下が好ましく、0質
量%以上15質量%以下がより好ましく、0質量%以上12質量%以下がさらに好ましく、経済性および粘度の観点から、0.01質量%以上10質量%以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0030】
(加熱溶液を冷却する工程)
本実施形態に係る製造方法は、加熱溶液を冷却する工程(以下、冷却工程とも記載)を含む。冷却工程における冷却処理後の液(冷却溶液)の温度は、安全に過酸化水素水および/又は硝酸水溶液を混合できる温度であればよく、混合する過酸化水素水および/又は硝酸水溶液の量、濃度、不純物含有量、および加熱溶液の量などを考慮して適宜調整することができる。冷却溶液の温度は、液の冷却効率の観点から、5℃以上95℃以下が好ましく、7℃以上95℃以下がより好ましく、10℃以上95℃以下がさらに好ましく、取扱上の安全性の観点から10℃以上90℃以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0031】
冷却工程における冷却時間は、加熱溶液の温度を十分に冷却できる時間であればよく、加熱後リン酸の濃度、種類、および加熱溶液の量、並びに処理温度などを考慮して適宜調整することができる。冷却時間は、加熱後リン酸の冷却効率の観点から、0.01時間以上100時間以下が好ましく、0.1時間以上50時間以下がより好ましく、0.1時間以上30時間以下がさらに好ましく、経済性の観点から0.1時間以上20時間以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0032】
冷却工程における冷却処理の雰囲気は、特に限定されず、大気中でもよく、窒素、またはアルゴン等の不活性気体中でもよい。また、冷却処理は、常圧下、減圧下または加圧下のいずれの環境で処理を行ってもよい。処理を行う際の安全性の観点から、常圧下で処理することが好ましい。
【0033】
冷却工程において冷却の処理を行う設備や容器は、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、また、自然冷却(自然放置)で冷却させることもできる。また、容器の材質としては、パーティクル増加、および金属量増加を防ぐため、処理液と接触する面が樹脂またはガラスで形成された容器を使用することが好ましい。このような樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂(軟質もしくは硬質塩化ビニル樹脂)、ナイロン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、もしくはポリプロピレン)、またはフッ素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、成型のしやすさ、耐薬品性、および不純物の溶出が少ないことを考慮すると、フッ素系樹脂がより好ましい。このようなフッ素系樹脂としては、フッ素原子を含有する樹脂であれば、特に限定されず、公知のフッ素系樹脂を用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、またはパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)の環化重合体等が挙げられる。これらの中でも、容器自体の入手のしやすさ、および生産性等を考慮すると、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を使用することが特に好ましい。また、必要に応じて、遮光した設備で行ってもよい。
【0034】
(冷却後リン酸)
冷却工程で得られたリン酸(以下、冷却後リン酸とも記載)を含む冷却溶液は、オルトリン酸;ピロリン酸、もしくはトリリン酸等のポリリン酸;トリメタリン酸、もしくはハイポリリン酸等のメタリン酸;モノ過リン酸、もしくはジ過リン酸等の過リン酸;これらのリン酸の塩;これらのリン酸のイオン;五酸化二リン;または十酸化四リン(P10)等を含む溶液等、特に限定されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、オルトリン酸、ピロリン酸等のポリリン酸、過リン酸、五酸化二リン、または十酸化四リンを含む溶液であることが好ましい。また、冷却溶液に含まれる冷却後リン酸は解離していてもよい。
【0035】
(過酸化水素水および/又は硝酸水溶液を混合する工程)
本実施形態に係る製造方法は、リン酸含有溶液の冷却溶液と、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液とを混合して混合液を得る工程(以下、混合工程とも記載)を含む。この混合液は、処理液として扱ってよい。混合工程における混合の方法は特に限定されず、冷却溶液と過酸化水素水および/又は硝酸水溶液が接触されればよい。一例を挙げれば、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液を冷却溶液に添加すればよく、また、冷却溶液を過酸化水素水および/又は硝酸水溶液に添加してもよい。また、必要に応じて撹拌、および加熱等を行ってもよい。
【0036】
混合工程における混合処理の温度は、安全に過酸化水素水および/又は硝酸水溶液を混合できる温度であればよく、混合する過酸化水素水および/又は硝酸水溶液の量、濃度、不純物含有量、ならびに冷却溶液の量および温度などを考慮して適宜調整することができる。この温度は、上記の冷却工程と近い温度で行うことができる観点から、0.1℃以上200℃以下が好ましく、1℃以上150℃以下がより好ましく、3℃以上120℃以下がさらに好ましく、取扱上の安全性の観点から5℃以上100℃以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0037】
混合工程における混合処理の雰囲気は、特に限定されず、大気中でもよく、窒素、またはアルゴン等の不活性気体中でもよい。また、混合処理は、常圧下、減圧下または加圧下のいずれの環境で処理を行ってもよい。処理を行う際の安全性の観点から、常圧下で処理することが好ましい。
【0038】
混合工程における混合を行う設備や容器は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。また、容器の材質としては、パーティクル増加、および金属量増加を防ぐため、処理液と接触する面が樹脂またはガラスで形成された容器を使用することが好ましい。このような樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂(軟質もしくは硬質塩化ビニル樹脂)、ナイロン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、もしくはポリプロピレン)、またはフッ素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、成型のしやすさ、耐薬品性、および不純物の溶出が少ないことを考慮すると、フッ素系樹脂がより好ましい。このようなフッ素系樹脂としては、フッ素原子を含有する樹脂であれば、特に限定されず、公知のフッ素系樹脂を用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、またはパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)の環化重合体等が挙げられる。これらの中でも、容器自体の入手のしやすさ、および生産性等を考慮すると、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を使用することが特に好ましい。また、必要に応じて、遮光した設備で行ってもよい。
【0039】
(過酸化水素水)
本実施形態に係る製造方法で用いられ得る過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の一部または全部を基板から剥離し、除去できる濃度範囲であればよく、半導体素子に含まれる樹脂の種類、存在量、存在部位、および官能基の種類、ならびに剥離効率、および取扱上の安全性等を考慮して適宜調整することができる。該過酸化水素の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.001質量%以上
90質量%以下が好ましく、1質量%以上70質量%以下がより好ましく、10質量%以上50質量%以下がさらに好ましく、経済性および取扱上の安全性の観点から、20質量%以上50質量%以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0040】
リン酸含有溶液の冷却溶液と過酸化水素水との混合液(処理液)において、混合液中の過酸化水素の濃度は特段制限されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.001質量%以上50質量%以下が好ましく、0.01質量%以上30質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上20質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
また、リン酸含有溶液の冷却溶液と過酸化水素水との混合液(処理液)において、過酸化水素に対する水の比率(水/過酸化水素)は、質量基準で、0.00001以上9.000以下が好ましく、0.0001以上2.540以下がより好ましく、0.001以上1.050以下がさらに好ましく、経済性および取扱上の安全性の観点から、0.010以上0.400以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、エーテル結合を有する樹脂を、効率よく除去することができる。
【0041】
(硝酸水溶液)
本実施形態に係る製造方法で用いられ得る硝酸水溶液中の硝酸の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の一部または全部を基板から剥離し、除去できる濃度範囲であればよく、半導体素子に含まれる樹脂の種類、存在量、存在部位、および官能基の種類、ならびに剥離効率、および取扱上の安全性等を考慮して適宜調整することができる。該硝酸の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.001質量%以上90質量%以下が好ましく、1質量%以上90質量%以下がより好ましく、10質量%以上90質量%以下がさらに好ましく、経済性および取扱上の安全性の観点から、20質量%以上80質量%以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0042】
リン酸含有溶液の冷却溶液と硝酸水溶液との混合液(処理液)において、混合液中の硝酸の濃度は特段制限されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.001質量%以上50質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上20質量%以下が特に好ましく、0.3質量%以上15質量%以下が殊更特に好ましい。
また、リン酸含有溶液の冷却溶液と硝酸水溶液との混合液(処理液)において、硝酸に対する水の比率(水/硝酸)は、質量基準で、0.0001以上5.000以下が好ましく、0.001以上2.500以下がより好ましく、0.010以上2.250以下がさらに好ましく、経済性および取扱上の安全性の観点から、0.100以上1.500以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、エーテル結合を有する樹脂を、効率よく除去することができる。
【0043】
(活性化剤)
処理液には、過酸化水素および/又は硝酸を活性化する活性化剤を添加してもよい。活性化剤を添加することで、過酸化水素および/又は硝酸が活性化して、基板から対象物を剥離する速度が速くなる場合がある。又は、過酸化水素および/もしくは硝酸と活性化剤が反応することで、新たな化学種が系中に発生して、基板から対象物を剥離する速度が速くなる場合がある。
【0044】
過酸化水素の活性化剤としては、酸、またはラジカル発生剤等の活性化剤を使用することができる。このような酸としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、硝酸、亜硝酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、バナジン酸、タングステン酸、モ
リブデン酸、クロム酸、四酸化オスミウム、または二酸化セレン等が挙げられる。また、ラジカル発生剤としては、例えば、尿素、またはアミン等が挙げられる。
【0045】
これらの活性化剤が含まれることで、本実施形態の処理液に、過酸、ラジカル、過酸化物、または活性酸素種が発生し、基板から対象物を剥離する速度が速くなる場合がある。
【0046】
一方、過酸化水素の活性化剤の例としてフェントン試薬が挙げられるが、このフェントン試薬は、後述するように半導体ウエハ上に残留した場合、半導体素子の歩留まり低下等を及ぼす。このようなフェントン試薬としては、例えば、鉄イオン、銅イオン、または銀イオン等が挙げられる。
【0047】
硝酸の活性化剤としては、酸、または過酸化水素等の活性化剤を使用することができる。このような酸としては、例えば、硫酸、臭化水素酸、無水酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、またはトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
これらの活性化剤が含まれることで、本実施形態の処理液に、過酸、ラジカル、または窒素酸化物が発生し、基板から対象物を剥離する速度が速くなる場合がある。
【0048】
上記の製造方法により製造された処理液には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で、従来から半導体用処理液に用いられているその他の添加剤を添加してもよい。例えば、その他の添加剤として、金属防食剤、有機溶媒、触媒、錯化剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、安定化剤、可溶化剤、または析出防止剤などを加えることができる。これらの添加剤は単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0049】
(安定化剤)
処理液には、過酸化水素の分解を抑制するために、安定化剤を加えてもよい。このような安定化剤を例示すると、尿酸、バルビツール酸、馬尿酸、シアヌル酸、もしくはアセトアニリド等のアミド系化合物、炭酸アルカリ金属塩、または炭酸水素アルカリ金属塩等が挙げられる。
【0050】
上記のリン酸に由来して、また、処理液の製造上の都合などにより、本実施形態の処理液には、リン酸類縁物質等が含まれていてもよい。このようなリン酸類縁物質には、例えば、リン酸エステル、ホスフィン、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、又はホスフィン酸等が挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、リン酸二水素フェニル、リン酸二水素ベンジル、リン酸二水素エチル、もしくはリン酸二水素メチル等のリン酸モノエステル;リン酸ジフェニルやリン酸ジベンジル、リン酸ジエチル、もしくはリン酸ジメチル等のリン酸ジエステル;または、リン酸トリフェニル、リン酸トリベンジル、もしくはリン酸トリエチルやリン酸トリメチル等のリン酸トリエステル等が挙げられる。
【0051】
上述したリン酸、過酸化水素、硝酸、および添加剤等に由来して、また、処理液の製造上の都合などにより、処理液には、アルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオン等が含まれていてもよい。しかし、これらアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオン等は、半導体ウエハ上に残留した場合、半導体素子の歩留まり低下等を及ぼす。
さらに、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、モリブデン、またはタングステン等の金属イオン等が処理液に含まれることで、過酸化水素の分解等を引き起こす場合がある。又はこれらの金属イオンが硝酸によって酸化され、パーティクル源となる場合がある。そのため、処理液中における金属の含有量としては、具体的には、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、ニ
ッケル、コバルト、銅、銀、カドミウム、バリウム、錫、亜鉛、モリブデン、タングステン及び鉛から選択されるいずれの金属も質量基準で1ppb以下であることが好ましく、0.5ppb以下であることがより好ましく、0.2ppb以下であることがさらに好ましく、0.1ppb以下であることが最も好ましい。
また、上記金属の中で鉄、銅、マンガン、クロム、および亜鉛から選択されるいずれか一つの金属は、質量基準で、0.01ppt以上1ppb以下であることが好ましく、0.01ppt以上0.5ppb以下であることがより好ましく、0.01ppt以上0.2ppb以下であることがさらに好ましく、0.01ppt以上0.1ppb以下であることが最も好ましい。
さらに上記にて、処理液に含まれてもよい金属としてイオン性メタルを取り上げたが、これに限らず、非イオン性メタル(粒子性メタル)が含まれていてもよく、その濃度は上記の範囲である事が好ましい。
【0052】
処理液の製造上の都合などにより、処理液には、水素または酸素等の気体が含まれていてもよい。
【0053】
リン酸、並びに過酸化水素水および/又は硝酸水溶液等に由来して、また、処理液の製造上の都合などにより、処理液には、活性酸素種および/もしくは窒素酸化物、または過リン酸等の過酸が含まれていてもよい。このような活性酸素種としては、例えば、ペルヒドロキシアニオン(O)やペルオキシドアニオン(・O 2-)等の求核性化学種;ヒドロキソニウムカチオン(OH)等の求電子性化学種;ペルヒドロキシラジカル(・HO)やヒドロキシラジカル(・OH)、もしくはスーパーオキシドアニオンラジカル(・O )等のラジカル;または一重項酸素等が挙げられる。このような窒素酸化物としては、例えば、ニトロソニウムイオン(NO)、ニトロニウムイオン(NO )、硝酸イオン(NO )、亜硝酸イオン(NO )、次亜硝酸イオン(NO)、二酸化窒素(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、または五酸化二窒素(N)等が挙げられる。
【0054】
混合液中のリン酸の濃度は特段制限されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、20質量%以上99質量%以下が好ましく、40質量%以上97質量%以下がより好ましく、60質量%以上97質量%以下がさらに好ましく、70質量%以上97質量%以下が特に好ましい。
混合液中の水の濃度は特段制限されないが、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.2質量%以上60質量%以下が好ましく、0.2質量%以上40質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、0.2質量%以上23質量%以下が特に好ましい。
【0055】
(半導体処理液の製造方法に係る第2の実施形態)
半導体処理液の製造方法の別の実施形態は、リン酸含有溶液と、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液とを混合する工程、および該混合液を加熱する工程を含む。以下、この実施形態を第2の実施形態とも称する。この方法によっても、リン酸および水を含有し、さらに、過酸化水素および/又は硝酸を含有する処理液を製造することができる。過酸化水素を用いる場合、濃度によって異なるが、過酸化水素は高温にて分解してしまうため、加熱する温度は過酸化水素が混合液中で存在し得る温度の範囲とする制限が課される。一方で、第1の実施形態では、過酸化水素水との混合前に加熱処理を行うため、このような制限は課されない。また、硝酸を用いる場合においても、硝酸は水よりも沸点が低いため、又は、濃度によっては、水に対して共沸化合物となるため、加熱によって水分を除去することはできない。これらの観点から、第1の実施形態の方が、第2の実施形態よりも効率的に処理液を製造することができる。
【0056】
第2の実施形態で用いるリン酸含有溶液、過酸化水素水、および硝酸水溶液等の各材料は、第1の実施形態で説明したものと同様の材料を用いることができる。
【0057】
(リン酸含有溶液と、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液とを混合する工程)
第2の実施形態に係る製造方法は、リン酸含有溶液と、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液とを混合して混合液を得る工程(以下、第2の実施形態に係る混合工程とも記載)を含む。
第2の実施形態に係る混合工程における混合の方法は特に限定されず、リン酸含有液中のリン酸と過酸化水素水および/又は硝酸水溶液が接触されればよい。一例を挙げれば、過酸化水素水および/又は硝酸水溶液をリン酸含有液に添加すればよく、また、リン酸含有溶液を過酸化水素水および/又は硝酸水溶液に添加してもよい。また、必要に応じて撹拌、および加熱等を行ってもよい。
【0058】
混合液中のリン酸の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、10質量%以上99質量%以下が好ましく、20質量%以上99質量%以下がより好ましく、30質量%以上97質量%以下がさらに好ましく、40質量%以上97質量%以下が特に好ましい。
過酸化水素を用いる場合、混合液中の過酸化水素の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.001質量%以上70質量%以下が好ましく、0.001質量%以上50質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
硝酸を用いる場合、混合液中の硝酸の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.001質量%以上70質量%以下が好ましく、0.001質量%以上50質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
混合液中の水の濃度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.1質量%以上90質量%以下が好ましく、0.1質量%以上70質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上45質量%以下がさらに好ましく、0.2質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
【0059】
上記の条件以外の第2の実施形態に係る混合工程の条件は、上述した第1の実施形態における混合工程における条件を同様に適用することができる。
【0060】
(混合液を加熱する工程)
第2の実施形態に係る製造方法は、上記の第2の実施形態に係る混合工程で得られた混合液を加熱して加熱溶液を得る工程(以下、第2の実施形態に係る加熱工程とも記載)を含む。
【0061】
第2の実施形態に係る加熱工程における加熱温度は、リン酸含有溶液中の水分を除去したり、ピロリン酸等の縮合リン酸を一部生成したりすることができる温度であればよく、リン酸の濃度、種類、量、および処理時間、並びに過酸化水素の分解温度又は硝酸の沸点などを考慮して適宜調整することができる。該加熱温度は、具体的に、リン酸含有溶液中の水分の除去効率の観点から、20℃以上400℃以下が好ましく、50℃以上250℃以下がより好ましく、60℃以上250℃以下がさらに好ましく、80℃以上200℃以下が特に好ましく、取扱上の安全性の観点から80℃以上150℃以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、処理液を効率よく製造することができる。
【0062】
上記の条件以外の第2の実施形態に係る加熱工程の条件は、上述した第1の実施形態における加熱工程における条件を同様に適用することができる。
また、加熱工程で得られた溶液の条件は、第1の実施形態において得られた混合液と同
じ条件を適用することができる。
【0063】
(その他の工程)
第2の実施形態に係る製造方法は、上記の第2の実施形態に係る混合工程および加熱工程以外の工程を有していてもよく、例えば、上記の第2の実施形態に係る加熱工程で得られた加熱溶液を冷却する冷却工程が挙げられる。この冷却工程では、上記の第1の実施形態に係る冷却工程と同様の条件を適用することができる。
【0064】
(半導体素子の製造方法)
本発明の別の実施形態は、半導体素子の製造方法である。以下、半導体素子の製造方法について説明する。
上述した処理液において、リン酸中で過酸化水素および/又は硝酸が触媒として作用することで、エーテル結合を有する樹脂のエーテル結合を開裂し、樹脂を剥離、溶解することが可能となる。そのため、上述した処理液を半導体製造工程における樹脂の加工工程、樹脂の剥離工程、樹脂の除去工程、残渣除去工程、洗浄工程等で好適に用いることができる。
本実施形態に係る半導体素子の製造方法の一態様は、上記の加熱工程、冷却工程、および混合工程を含む。上述した処理液は半導体素子の製造方法にそのまま用いることができる。また、状況に応じて、別の実施形態として、加熱工程の後、混合する過酸化水素水および/又は硝酸水溶液の濃度が十分に低い場合には、冷却工程を行わずに混合工程を行う実施形態として、半導体製造工程に用いてもよい。なお、半導体素子の製造方法は、ウエハ作製工程、酸化膜形成工程、トランジスタ形成工程、配線形成工程およびCMP工程から選択される1以上の工程など、半導体素子の製造方法に用いられる公知の工程を含んでもよい。
【0065】
(処理液の再利用)
本実施形態の処理液を用いて、半導体素子の製造を行った後、使用済み液の再利用を行ってもよい。ここで、使用済み液とは、例えば半導体ウエハの製造において少なくとも1回、樹脂の除去工程等の処理に用いた処理液のことである。また、使用済み液の再利用において、使用済み液を循環して再利用を行ってもよいし、使用済み液に過酸化水素および/又は硝酸を新たに添加して再利用を行ってもよいし、使用済み液中のリン酸を濃縮して水分を減らして再利用を行ってもよい。
【0066】
本実施形態に係る半導体素子の製造方法の一態様として、樹脂の剥離工程で上述した処理液を用いる態様について説明する。この態様における半導体素子の製造方法は、上記の製造方法によって得られた処理液を用いて、エーテル結合を有する樹脂を半導体用基板から剥離する工程(以下、剥離工程とも記載)を含む。
剥離工程とは、上記処理液を用いて、半導体用基板から、エーテル結合を有する樹脂を一部、または全部剥離させる事を指す。この剥離工程は、例えば、半導体用基板と樹脂の間の接着層を剥がしたり、樹脂層から樹脂を一部剥がしたりする態様などを包含する。また、基板とエーテル結合を有する樹脂との界面だけでなく、樹脂分子内のエーテル結合にも作用するため、エーテル結合を開裂させて樹脂を溶解させることもできる。
【0067】
剥離工程における剥離処理を行う温度は、エーテル結合を有する樹脂の一部または全部を基板から剥離できる温度であればよく、樹脂の種類、耐薬品性、存在量、存在部位、および官能基の種類、ならびに樹脂特性などを考慮して適宜調整することができる。この温度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、20℃以上400℃以下が好ましく、50℃以上400℃以下がより好ましく、50℃以上350℃以下がさらに好ましく、50℃以上250℃以下が特に好ましく、取扱上の安全性の観点から50℃以上150℃以下が最も好ましい。
【0068】
剥離工程における剥離処理を行う時間は、エーテル結合を有する樹脂の一部または全部を基板から剥離し、除去できる時間であればよく、半導体素子に含まれる樹脂の種類、耐薬品性、存在量、存在部位、および官能基の種類、および樹脂特性、ならびに剥離剤、溶剤、および処理液の種類などを考慮して適宜調整することができる。この時間は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、0.1分以上100時間以下が好ましく、0.1分以上50時間以下がより好ましく、0.1分以上20時間以下がさらに好ましく、経済性の観点から0.1分以上15時間以下が最も好ましい。
【0069】
剥離工程における剥離処理を行う雰囲気は、特に限定されず、大気中でもよく、窒素、またはアルゴン等の不活性気体中でもよい。また、剥離処理は、常圧下、減圧下または加圧下のいずれの環境で処理を行ってもよい。処理を行う際の安全性の観点から、常圧下で処理することが好ましい。
【0070】
剥離工程における処理液の使用方法は特に限定されず、処理液に対象物を浸漬することで行ってもよいし、枚葉式洗浄機またはスプレー等で処理液を対象物に吹き付けてもよい。また、高温で処理する場合等に、処理液の揮発を防ぐために、処理時に冷却器等を取り付けたり、還流下で処理を行ったりしてもよい。
【0071】
(エーテル結合を有する樹脂を膨潤させる工程)
剥離工程において、エーテル結合を有する樹脂を基板から剥離することを促進させる目的で、剥離工程の前処理又は中間処理として、加熱した有機溶媒にエーテル結合を有する樹脂を浸漬させて、エーテル結合を有する樹脂の体積変化を引き起こす工程(以下、膨潤工程とも記載)を取り入れることが出来る。これらの膨潤工程を設けることで、エーテル結合を有する樹脂と基板の間の接着力を低下させることが可能で、エーテル結合を有する樹脂を基板から剥離する効率が上がり、製造にかかる時間を削減できたり、より緩和な条件でも基板からの剥離が可能となる。
【0072】
膨潤工程で用いる有機溶媒としては、後の剥離処理等の処理で水などの極性溶媒が用いられることから、極性溶媒を用いることが好ましい。溶媒は一種類であってもよいし、複数種であってもよい。これらの極性溶媒としては、例えば、水、アルコール、ケトン、ニトリル、エーテル、エステル、カルボン酸、含硫黄化合物、または含窒素化合物等の極性溶媒が挙げられる。
アルコールの極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、ドデカノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、サリチルアルコール、アニシルアルコール、アニスアルコール、フェネチルアルコール、2-メチルフェネチルアルコール、4-メチルフェネチルアルコール、2-メチルベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、2-エチルベンジルアルコール、4-エチルベンジルアルコール、2-メトキシフェネチルアルコール、4-メトキシベンジルアルコール、4-エトキシベンジルアルコール、バニリルアルコール、ベラトリルアルコール、シンナミルアルコール、ベンズヒドロール、トリチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、またはグリセリン等である。
ケトンの極性溶媒としては、例えば、アセトン等である。
ニトリルの極性溶媒としては、例えば、アセトニトリル、またはプロパンニトリル等である。
エーテルの極性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン等である。
エステルの極性溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、または炭酸プロピレン等である。
カルボン酸の極性溶媒としては、例えば、ギ酸、または酢酸等である。
含硫黄化合物の極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、またはスルホラン等である。
含窒素化合物の極性溶媒としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチル尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、またはアセトアミド、ニトロメタン等である。
これらの溶媒の中でも、沸点が高く高温で膨潤できることから、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、サリチルアルコール、アニシルアルコール、アニスアルコール、フェネチルアルコール、バニリルアルコール、ベラトリルアルコール、シンナミルアルコール、ベンズヒドロール、トリチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、またはN-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
さらに、低価格な高純度品が入手しやすいという観点から、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、またはN-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。
さらに、半導体用の高純度品が入手しやすいという観点からベンジルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、またはN-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
さらに、エーテル結合を有する樹脂の基板からの剥離を促進させることから、ジメチルスルホキシドが最も好ましい。
【0073】
上記、膨潤工程を含む場合の膨潤処理の温度は、エーテル結合を有する樹脂と基板の間の接着力を低下させられる温度であればよく、半導体素子に含まれる樹脂の種類、耐薬品性、存在量、存在部位、および官能基の種類、ならびに樹脂のガラス転移温度等の樹脂特性、ならびに有機溶媒の種類などを考慮して適宜調整することができる。この温度は、エーテル結合を有する樹脂の除去効率の観点から、20℃以上400℃以下が好ましく、20℃以上300℃以下がより好ましく、50℃以上250℃以下がさらに好ましく、取扱上の安全性の観点から50℃以上200℃以下が最も好ましい。上記範囲内であれば、エーテル結合を有する樹脂と基板の間の接着力を低下させることができ、後の剥離工程においてエーテル結合を有する樹脂を、効率よく除去することができる。
【0074】
(処理対象物、基板)
上述の処理液の処理対象物は、基板に付着したエーテル結合を有する樹脂である。エーテル結合を有する樹脂は、基板に化学結合や物理的結合を介して付着されていてもよいし、接着層等を介して付着されていてもよい。また、エーテル結合を有する樹脂の一部または全部が処理対象である。上記、基板は、Si(シリコン)、Si化合物、セラミック、ヒ素、リン、金属、または金属化合物等が挙げられ、半導体用基板としては、SiまたはSi化合物が特に好ましい。
【0075】
Si化合物としては、特に限定されず、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、ガラスシ
リカ、石英、水晶、炭化ケイ素、窒化ケイ素、マイカ、粘土、またはケイ酸カルシウム等が挙げられる。また、金属としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、ガリウム、クロム、コバルト、ニッケル、亜鉛、白金、ゲルマニウム、タンタル、またはサマリウム等が挙げられる。また、金属化合物としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、フェライト、チタニア、マグネシア、または水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0076】
(エーテル結合を有する樹脂)
エーテル結合を有する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂、クレゾール樹脂、キシレノール樹脂、p-t-ブチルフェノール樹脂、p-フェニルフェノール樹脂、レゾルシン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリチオエーテルサルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、またはエチルセルロースなどが挙げられる。これらの中でも、耐薬品性、耐湿性、耐熱性、半導体用途に好適に用いられることから、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、クレゾール樹脂、またはエポキシ樹脂が好ましく、耐薬品性、耐湿性、耐熱性等からエポキシ樹脂が最も好ましい。
以下、エーテル結合を有する樹脂として、エポキシ樹脂を用いる場合を例に、具体的に説明する。
【0077】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、硬化前のエポキシ樹脂とその硬化剤を反応させて得ることができ、この他にも架橋剤、硬化促進剤、触媒、エラストマー、または難燃剤などを添加してもよい。また、硬化前のエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロモ化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラックグリシジルエーテル、多価アルコールのポリグリシジルエーテル、多塩基酸のポリグリシジルエーテル、またはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、例えば、電気特性、接着性、および耐薬品性等の点で優れる。
【0078】
(硬化剤)
上記の硬化剤としては、特に限定されず、例えば、酸無水物、アミン化合物、フェノール化合物、イソシアネート化合物、有機リン化合物、潜在性硬化剤、カチオン重合型硬化剤、アニオン重合型硬化剤、または金属有機誘導体等が挙げられる。
酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメット酸、またはナジック酸無水物等が挙げられる。
アミン化合物としては、ヘキサメチレンテトラアミン、ポリアミドアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、またはメタフェニレンジアミン等が挙げられる。
フェノール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノールA型ノボラック、ビスフェノールF型ノボラック、ナフタレンジオール、フェノールアラルキル、ビフェノール型ノボラック、フェノールノボラック、またはこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体、もしくは重縮合物が挙げられる。
有機リン化合物としては、例えば、ヘキサメチルリン酸トリアミド、またはトリフェニルホスフィン等が挙げられる。
潜在性硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、またはケチミン等が挙げられる。
カチオン重合型硬化剤としては、例えば、三フッ化ホウ素-アミン錯体等が挙げられる。
アニオン重合型硬化剤としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙
げられる。
金属有機誘導体等としては、例えば、ナフテン酸亜鉛、またはステアリン酸亜鉛等が挙げられる。
これらの硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
本発明における硬化促進剤としては、イミダゾール化合物、第三級アミン化合物、第四級アンモニウム塩、有機リン化合物等が挙げられる。硬化促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
(添加剤)
エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の樹脂特性を向上させる目的で、各種添加剤を含んでもよい。用いられる添加剤としては、無機充填剤、乳化剤、発泡剤、安定剤、可塑剤、滑材、難燃助剤、帯電防止剤、着色剤、帯電性付与剤、または反応希釈剤等が挙げられる。
【0081】
無機充填剤としては、特に限定されず、例えば、炭酸塩、硫酸塩、ケイ素化合物、チタン酸化合物、ホウ素化合物、水酸化物、酸化物、窒化物、または炭素系充填剤等が挙げられる。
炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウム等が挙げられる。
硫酸塩としては、例えば、硫酸バリウム、または硫酸カルシウム等が挙げられる。
ケイ素化合物としては、例えば、タルク、マイカ、カオリンクレイ、ウラストナイト、セピオライト、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、ガラス、シリカ、クレー、または雲母等が挙げられる。
チタン酸化合物としては、例えば、チタン酸カリウム等が挙げられる。
ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸アルミニウム等が挙げられる。
水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、または水酸化カルシウム等が挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、または酸化マグネシウム等が挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化ホウ素、または窒化アルミニウム等が挙げられる。
炭素系充填剤としては、カーボンブラック、黒鉛、またはカーボンファイバー等が挙げられる。
【0082】
処理対象物であるエーテル結合を有する樹脂の大きさは、特に限定されず、処理装置や半導体素子の規模に合わせて処理可能な大きさであればよい。
【実施例0083】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0084】
(エーテル結合を有する樹脂を含む基板)
エーテル結合を有する樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)1001」、硬化剤として、フェノール化合物(三菱ケミカル株式会社製「jERキュア(登録商標)170」、硬化促進剤として、イミダゾールをそれぞれ用いて、これらを混合してエポキシ樹脂組成物を調製した。この際、エポキシ樹脂と硬化剤の配合比はエポキシ当量/水酸基当量=1となるように、また、硬化剤と硬化促進剤の配合比は質量比で(硬化剤/硬化促進剤)=(100/1)となるように、調整した。
次に、得られたエポキシ樹脂組成物にシリコンウエハを含浸し、乾燥機中で150℃、30分間加熱して硬化させ、樹脂の厚みが約0.5~1.0mmのエポキシ樹脂を含む基板を得た。得られた基板を、それぞれ10mm×20mmに切断し、試験片とした。
【0085】
(水の濃度の評価)
加熱溶液中の水の濃度は、水分測定装置(三菱化学アナリテック製、CA-200)を用いて、以下の条件で評価した。
測定方法:カールフィッシャー滴定容量法
滴定剤:アクアミクロンSS-Z 3mg(三菱ケミカル製)
脱水溶剤:アクアミクロンGEX(三菱ケミカル製)
試料量:約50mg
【0086】
(剥離速度の評価)
得られた試験片を、表1に記載の所定の時間で処理液に浸漬した前後の剥離量を以下の方法で評価した。
デジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、VHX-8000)を用いて、Si基板上のエポキシ樹脂を観察し、処理液に浸漬した前後のエポキシ樹脂の厚みの差を計算して剥離量を評価した。
この剥離量を、処理時間で割ることで、剥離速度[μm/min]を評価した。なお、処理の前後で、厚みに変化が無い場合の剥離速度は0μm/minとなる。
【0087】
(処理液によるSi基板の平滑性の評価)
得られた試験片を、表1に記載の所定の時間、処理液に浸漬した後のSi基板平滑性は以下のようにして評価した。
電界放射型走査電子顕微鏡(JSM-7800F Prime、日本電子社製)を用いて、Si基板表面を観察し、表面荒れの有無を確認し、下記の基準で評価した。評価Aが許容レベルであり、評価BおよびCが不可レベルである。
A:表面荒れはみられない。
B:表面荒れがみられる。
C:表面荒れがみられ、かつ浸漬前と比較してSi基板の表面積に変化がみられる。
Si基板の表面荒れがみられないこと、およびSi基板の変化が小さいことは、Siの腐食が少ないことを表す。
【0088】
<実施例1~14>
三ツ口フラスコの内に回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に窒素ガスボンベに接続されたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)を接続し、残りの一つの開口部に三角フラスコに接続されたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)を接続した。
上記の三ツ口フラスコに、リン酸含有溶液(85質量%;残りの15質量%は水、富士フイルム和光社製のリン酸)を加え、表1の加熱工程に記載された温度まで昇温し、加熱工程に記載された時間だけ該温度で維持し、加熱溶液を得た。その後、表1の冷却工程に記載された時間をかけて、冷却工程に記載された温度まで加熱溶液を冷却して冷却溶液を得た後、表1の処理液過酸化水素濃度に記載された濃度になるように、過酸化水素水(30質量%;残りの70質量%は水、富士フイルム和光社製)を加え、処理液を得た。なお、表1中の水濃度は、加熱溶液中の水の濃度であり、上記の(水の濃度の評価)によって評価した。
別の三ツ口フラスコの内に回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に窒素ガスボンベに接続されたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)を接続し、残りの一つの開口部はジムロート式冷却管(AsOne社製、型番4-421-04)に接続した。
この三ツ口フラスコに上記の処理液を加え、表1の剥離工程に記載された温度まで昇温
させた後に、上記、試験片を三ツ口フラスコに投入し、表1の剥離工程に記載された時間だけ浸漬させた。その後、実施例1~9および実施例13~14では容器を100℃まで自然冷却させた後に、試験片を取り出した。また、実施例10~12では、容器を冷却せずに、試験片を取り出した。その後、上記の(剥離速度の評価)の項で説明した方法によって剥離速度を評価し、上記の(処理液によるSi基板の平滑性の評価)の項で説明した方法によってSi基板平滑性を評価し、表1に示した。
【0089】
<実施例15>
実施例1~14と同様にして、三ツ口フラスコにリン酸(85質量%;残りの15質量%は水、富士フイルム和光社製)を加え、リン酸の濃度が50質量%となるように、水を加えて、リン酸含有溶液を得たこと以外は、実施例1~14と同様にして、表1に記載した条件で、上記の(剥離速度の評価)の項で説明した方法によって剥離速度を評価し、上記の(処理液によるSi基板の平滑性の評価)の項で説明した方法によってSi平滑性を評価し、表1に示した。
【0090】
【表1】
【0091】
<実施例16~23>
実施例16~23の処理液は、実施例1~14と同様にして、冷却溶液を得た後、処理液中の硝酸濃度が表2に記載された濃度になるように、硝酸水溶液(70質量%;残りの30質量%は水、富士フイルム和光社製の硝酸)を加えることにより得られた。該処理液について、実施例1~14と同様にして、表2に記載した条件で、上記の(剥離速度の評価)の項で説明した方法によって剥離速度を評価し、上記の(処理液によるSi基板の平滑性の評価)の項で説明した方法によってSi平滑性を評価し、表2に示した。
【0092】
【表2】
【0093】
<比較例1~6>
比較例1~6は、表3に記載した組成で各原料の混合物を25℃で製造し、表3に記載した条件で、上記の(剥離速度の評価)の項で説明した方法によって剥離速度を評価し、上記の(処理液によるSi基板の平滑性の評価)の項で説明した方法によってSi基板平滑性を評価し、表3に示した。なお、比較例1では、過酸化水素水(30質量%;残りの70質量%は水、富士フイルム和光社製)を用い、比較例2では、リン酸(85質量%;残りの15質量%は水、富士フイルム和光社製)とN-メチルピロリドン(富士フイルム和光社製)を用い、比較例3では、ベンジルアルコール(富士フイルム和光社製)とリン酸カリウム(富士フイルム和光社製)を用い、比較例4では、水酸化カリウム(富士フイルム和光社製)とN-メチルピロリドン(富士フイルム和光社製)を用いた。比較例5では、リン酸(85質量%;残りの15質量%は水、富士フイルム和光社製)を用いた。比較例6では、硝酸(70質量%;残りの30質量%は水、富士フイルム和光社製)を用いた。
【0094】
【表3】
【0095】
表1~3から、本実施形態に係る製造方法で製造した処理液を用いることにより、エーテル結合を有する樹脂を基板から除去するに際し、基板のSiの腐食を抑制することができ、かつ、高い剥離速度を確保することができることが分かった。