(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032048
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】膀胱機能障害を有する生体に対する低出力体外衝撃波による治療装置及びこれに使用する衝撃波照射プログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 7/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
A61N7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135480
(22)【出願日】2022-08-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイト上での抄録集の公開 学会名:第29回日本排尿機能学会 公開日:2022年8月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「骨盤臓器脱及び下部尿路疾患の網羅的情報に基づいた選別化と個別化治療戦略」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】宮里 実
(72)【発明者】
【氏名】大城 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】上條 中庸
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ33
4C160JJ50
(57)【要約】
【課題】本発明は、不可逆的変化であり、薬物療法にも抵抗性がある加齢による膀胱・尿道機能障害であっても、低出力体外衝撃波を照射することで、膀胱・尿道組織の再生を促すことができる低出力体外衝撃波照射装置及びこれに使用する照射プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置は、0.12mJ/mm
2の低出力衝撃波を、2Hz(1秒間に2回)、200発/回の条件で、膀胱を含む骨盤全体に照射することで、過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した膀胱の機能を改善させることを特徴とする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置において、
0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回の条件で、
膀胱を含む骨盤全体に照射することで、
過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した膀胱の機能を改善させる
ことを特徴とする低出力体外衝撃波照射装置。
【請求項2】
生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置において、
0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回、9回(3回/週)の条件で、
膀胱を含む骨盤全体に照射することで、
加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した尿道の機能を改善させ、膀胱尿道協調運動を再生させる
ことを特徴とする低出力体外衝撃波照射装置。
【請求項3】
生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置に使用する照射プログラムであって、
当該照射装置に対し、
0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を、
過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した状態を対象とする治療モードが選択された場合には、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回の条件で、
加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した状態を対象とする治療モードが選択された場合には、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回、9回(3回/週)の条件で、
膀胱を含む骨盤全体に照射する手順を実行させる
ことを特徴とする照射プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱機能障害を有する生体、具体的には、膀胱を含む骨盤全体に低出力体外衝撃波を照射することで、膀胱筋組織の再生を促す低出力体外衝撃波による治療装置及びこれに使用する衝撃波照射プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体外から照射する衝撃波を医療に用いる研究は、例えば、尿路系結石に対する砕石治療法をはじめ、ガン組織などの治療対象物を破壊することで行う治療方法も含め、これまで数多く行われてきた。
近年では、衝撃波による組織再生、神経再構築の作用を利用して、多くの領域で臨床応用まで行われるようになり、それに伴い、生体外から照射する衝撃波による治療装置が医療機器として承認されるなど、現在では、衝撃波による治療装置は、様々な治療に利用されるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、生体内の対象治療物に集束する衝撃波を発生する衝撃波発生手段を備えた衝撃波治療装置において、前記治療物への照射に際して、所定照射量毎に衝撃波の集束位置を異ならせるよう制御する制御手段を有する衝撃波治療装置が開示されている。
この衝撃波治療装置によれば、生体内の対象治療物が呼吸などで動くことがあっても、治療の途中で衝撃波の集束位置を変更でき、様々な治療対象物に対して、治療効果を確認しながら治療を行うことができるため、治療効率の向上を図ることができる。
【0004】
しかし、生体外から照射する衝撃波による生体の作用機序については、未だ十分に解明されていない。
特に、加齢による膀胱機能障害は、外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失するが、これは不可逆的変化であり(非特許文献1)、薬物療法にも抵抗性がある。
そのため、現在までに、低侵襲の有効な治療法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Oshiro T et al. Changes in urethral smooth muscle and external urethral sphincter function with age in rats, Physiol Rep. 2021 Jan;8(24):e14643.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、不可逆的変化であり、薬物療法にも抵抗性がある加齢による膀胱・尿道機能障害であっても、低出力体外衝撃波を照射することで、膀胱・尿道組織の再生を促すことができる低出力体外衝撃波による治療装置及びこれに使用する衝撃波照射プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の
生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置は、
0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回の条件で、
膀胱を含む骨盤全体に照射することで、
過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した膀胱の機能を改善させる
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の
生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置は、
0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回、9回(3回/週)の条件で、
膀胱を含む骨盤全体に照射することで、
加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した尿道の機能を改善させ、膀胱尿道協調運動を再生させる
ことを特徴とする。
【0010】
本発明の、
生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置に使用する照射プログラムは、
当該照射装置に対し、
0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を、
過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した状態を対象とする治療モードが選択された場合には、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回の条件で、
加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した状態を対象とする治療モードが選択された場合には、
2Hz(1秒間に2回)、200発/回、9回(3回/週)の条件で、
膀胱を含む骨盤全体に、それぞれ照射する手順を実行させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置は、尿路結石の結石破砕に使用する衝撃波の1/10程度(0.12mJ/mm2)の低出力衝撃波を、生体の体表から照射するもので、生体側に照射時の痛みや副作用は無い。
この低出力衝撃波を、生体の体表から、一定の条件で照射するだけで、薬物療法にも抵抗性がある加齢による膀胱・尿道機能障害であっても、機能を改善させる効果が認められる。
【0012】
本発明にかかる生体内の治療対象に集束する低出力衝撃波を照射する低出力体外衝撃波照射装置に使用する照射プログラムは、このような薬物療法にも抵抗性がある加齢による膀胱・尿道機能障害であっても、機能を改善させる効果を得られるように、生体の状態に合わせて照射条件を変更するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ラットに低出力体外衝撃波を照射する位置を示した図
【
図2】低出力体外衝撃波の照射と効果測定の実験スケジュールを示した図
【
図3】低出力体外衝撃波を単数回照射したラット(急性モデル)の膀胱内圧の測定結果を示した図
【
図4】低出力体外衝撃波を単数回照射したラット(急性モデル)の膀胱基線圧、膀胱最大収縮圧、膀胱収縮間隔の各測定結果を非照射ラット(急性モデル)と比較した図
【
図5】低出力体外衝撃波を単数回照射したラット(慢性モデル)の膀胱内圧及び尿道還流圧の測定結果を示した図
【
図6】低出力体外衝撃波を単数回照射したラット(慢性モデル)の膀胱基線圧、膀胱最大収縮圧、尿道基線圧、尿道弛緩圧の各測定結果を非照射ラット(慢性モデル)と比較した図
【
図7】低出力体外衝撃波を複数回照射したラット(慢性モデル)の膀胱内圧及び尿道還流圧の測定結果を示した図
【
図8】低出力体外衝撃波を複数回照射したラット(慢性モデル)の膀胱基線圧、膀胱最大収縮圧、尿道基線圧、尿道弛緩圧の各測定結果を非照射ラット(慢性モデル)と比較した図
【
図9】低出力体外衝撃波を複数回照射したラット(慢性モデル)の膀胱内圧、尿道内圧、外尿道括約筋筋電位の各測定結果を非照射ラット(慢性モデル)と比較した筋電図
【
図10】
図9におけるアクティブフェーズ(AP)とサイレントフェーズ(SP)の継続時間及びSPに対するAPの割合を非照射ラット(慢性モデル)と比較した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
実験には、19~20月齢の雌のSDラット(老齢モデル、日本クレア株式会社)を使用した。
また、ラットは、急性モデル(過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した状態)と、慢性モデル(加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した状態)を使用した。
各モデルのラットに、動物用麻酔イソフルランによる吸入麻酔をかけたあと、下腹部を剃毛してエコー用ゼリーを塗り、ラットの下腹部に4cmの厚さのゲルパッドを乗せた上から、外尿道口から15mm頭側に体外衝撃波アプリケーターのプローブの先端(直径5mm)を位置させ、膀胱を含む骨盤全体に照射した(
図1)。
低出力体外衝撃波の照射による効果測定は、最後の照射日から3週間後に行った(
図2)。
【0015】
最初に、次の照射条件(単数回照射)に設定した低出力体外衝撃波照射装置を使用して、低出力体外衝撃波を照射した。
各モデルのラットの膀胱内圧と尿道内圧を測定したところ、急性モデルでは、膀胱の機能改善を確認できたが(
図3及び4)、慢性モデルでは、膀胱及び尿道のいずれも機能改善を確認できなかった(
図5及び6)。
【0016】
〈単数回照射〉
照射強度:0.12mJ/mm2
照射頻度:2Hz(1秒間に2回)
照射発数:200発/回
照射回数:1回
【0017】
慢性モデルで機能改善を確認できなかったのは、加齢が原因で外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した状態では、衝撃波を照射しても、膀胱筋組織の再生が起こらなかったためであると考えられたため、照射回数を多くしても、同様の結果になることが予想された。
【0018】
しかしながら、次の照射条件(複数回照射)に設定した低出力体外衝撃波照射装置を使用して、慢性モデルのラットに低出力体外衝撃波を照射したところ、慢性モデルでも、尿道の機能改善と膀胱尿道協調運動が再生されることを確認できた(
図7乃至10)。
なお、
図9及び10のアクティブフェーズ(AP)は、尿道が収縮活動しているフェーズを意味し、サイレントフェーズ(SP)は、尿道の収縮活動がないフェーズを意味する。
SPに対するAPの割合が照射によって改善しているということは、尿道が尿を押し出す機能、尿切れが改善していることを意味する。
【0019】
〈複数回照射〉
照射強度:0.12mJ/mm2
照射頻度:2Hz(1秒間に2回)
照射発数:200発/回
照射期間:3週間
照射回数:9回(3回/週)
【0020】
低出力体外衝撃波照射装置は、上記した照射条件(単数回照射及び複数回照射)を、照射する治療対象の状態(過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した状態、または、加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した状態)によって選択できる照射プログラムの実行により、照射することができる。
この照射プログラムは、治療対象が、過活動膀胱や間質性膀胱炎を発症した状態であれば、2Hz(1秒間に2回)、200発/回の条件で、加齢による外尿道括約筋が萎縮し、膀胱尿道協調運動が消失した状態であれば、2Hz(1秒間に2回)、200発/回、9回(3回/週)の条件で、それぞれ、膀胱を含む骨盤全体に、0.12mJ/mm2の低出力衝撃波を照射する手順を、低出力体外衝撃波照射装置に実行させる。
低出力体外衝撃波を照射する治療対象の状態の見極めは、低出力体外衝撃波照射装置の操作者によって行い、例えば、予め選択できる2つのモードに設定しておくことで、操作者が、そのうちの1のモードを選択するだけで、いずれか1の照射条件により照射できるようにすることができる。
【0021】
以上の低出力体外衝撃波照射装置及び当該装置に対するプログラムの実行によって照射される低出力体外衝撃波により、薬物療法にも抵抗性がある加齢による膀胱・尿道機能障害であっても、膀胱及び尿道の機能を改善させる効果を得られる。