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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032078
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】異種金属部材の重ね溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/323 20140101AFI20240305BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240305BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20240305BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/21 G
B23K26/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135518
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】大河原 崚
(72)【発明者】
【氏名】松田 和也
(72)【発明者】
【氏名】中尾 政之
(72)【発明者】
【氏名】垣内 栄作
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA87
4E168BA88
4E168BA89
4E168DA32
4E168DA40
(57)【要約】
【課題】溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成を抑制し、溶接部のせん断強度の低下を抑制可能な異種金属部材の重ね溶接方法を提供すること。
【解決手段】表面にニッケルめっき膜11が形成された銅を主成分とする第1の金属部材10のニッケルめっき膜11上に、アルミニウムを主成分とする第2の金属部材20を重ね合わせ、第2の金属部材20の上方からレーザビームLBを照射する異種金属部材の重ね溶接方法である。レーザビームLBの照射によって第2の金属部材20が溶融した溶融池30aが、ニッケルめっき膜11には到達するが、第1の金属部材10には到達しないように、レーザビームLBの照射エネルギ密度を設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にニッケルめっき膜が形成された銅を主成分とする第1の金属部材の前記ニッケルめっき膜上に、アルミニウムを主成分とする第2の金属部材を重ね合わせ、前記第2の金属部材の上方からレーザビームを照射する異種金属部材の重ね溶接方法であって、
前記レーザビームの照射によって前記第2の金属部材が溶融した溶融池が、前記ニッケルめっき膜には到達するが、前記第1の金属部材には到達しないように、前記レーザビームの照射エネルギ密度を設定する、
異種金属部材の重ね溶接方法。
【請求項2】
前記ニッケルめっき膜が、無電解ニッケルめっき膜である、
請求項1に記載の異種金属部材の重ね溶接方法。
【請求項3】
前記レーザビームが、熱伝導型溶接用レーザビームである、
請求項1又は2に記載の異種金属部材の重ね溶接方法。
【請求項4】
前記照射エネルギ密度を設定する前に、
前記第1の金属部材に形成された前記ニッケルめっき膜上に、前記第2の金属部材を重ね合わせ、前記第2の金属部材の上方からレーザビームを照射した際の熱伝導解析シミュレーションを実施し、
前記熱伝導解析シミュレーションの結果に基づいて、前記第2の金属部材と前記ニッケルめっき膜との界面における温度は前記ニッケルめっき膜の融点よりも高く、前記第1の金属部材と前記ニッケルめっき膜との界面における温度は前記ニッケルめっき膜の融点よりも低くなるように、設定する前記照射エネルギ密度を決定する、
請求項1又は2に記載の異種金属部材の重ね溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異種金属部材の重ね溶接方法に関し、特にレーザビームを照射して異種金属部材を溶接する異種金属部材の重ね溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、二次電池、キャパシタ(コンデンサ)等では、アルミニウムやその合金からなる端子や電極等と、銅やその合金からなる端子や電極等を電気的に接続するために溶接する場合がある。このような異種金属部材の溶接では、溶接部に硬くて脆いCu-Al系の金属間化合物(IMC:Intermetallic Compound)が形成され、溶接部のせん断強度が低下する問題が発生し得る。
【0003】
特許文献1には、表面にニッケルめっき膜が形成された銅板上にアルミニウム板を載置して、アルミニウム板上からレーザビームを照射する異種金属部材の重ね溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-211981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、異種金属部材の重ね溶接方法に関し、以下の問題点を見出した。
表面にニッケルめっき膜が形成された銅板上にアルミニウム板を載置して、アルミニウム板上からレーザビームを照射した場合でも、溶接部にCu-Al系の金属間化合物が形成され、溶接部のせん断強度が低下する問題は発生し得る。なお、Cu-Al系の金属間化合物IMCとしては、主にCuAl、CuAl、CuAlが知られており、いずれも硬くて脆い。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成を抑制し、溶接部のせん断強度の低下を抑制可能な異種金属部材の重ね溶接方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る異種金属部材の重ね溶接方法は、
表面にニッケルめっき膜が形成された銅を主成分とする第1の金属部材の前記ニッケルめっき膜上に、アルミニウムを主成分とする第2の金属部材を重ね合わせ、前記第2の金属部材の上方からレーザビームを照射する異種金属部材の重ね溶接方法であって、
前記レーザビームの照射によって前記第2の金属部材が溶融した溶融池が、前記ニッケルめっき膜には到達するが、前記第1の金属部材には到達しないように、前記レーザビームの照射エネルギ密度を設定するものである。
【0008】
本発明の一態様に係る異種金属部材の重ね溶接方法では、レーザビームの照射によってアルミニウムを主成分とする第2の金属部材が溶融した溶融池が、ニッケルめっき膜には到達するが、銅を主成分とする第1の金属部材には到達しないように、レーザビームの照射エネルギ密度を設定する。
このような構成により、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成を抑制し、溶接部のせん断強度の低下を抑制できる。
【0009】
前記ニッケルめっき膜が、無電解ニッケルめっき膜でもよい。ニッケルめっき膜の融点が銅の融点よりも低いため、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成をより抑制できる。
【0010】
前記レーザビームが、熱伝導型溶接用レーザビームでもよい。溶融池が広く浅く形成されるため、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成を抑制し易い。
【0011】
前記照射エネルギ密度を設定する前に、前記第1の金属部材に形成された前記ニッケルめっき膜上に、前記第2の金属部材を重ね合わせ、前記第2の金属部材の上方からレーザビームを照射した際の熱伝導解析シミュレーションを実施し、前記熱伝導解析シミュレーションの結果に基づいて、前記第2の金属部材と前記ニッケルめっき膜との界面における温度は前記ニッケルめっき膜の融点よりも高く、前記第1の金属部材と前記ニッケルめっき膜との界面における温度は前記ニッケルめっき膜の融点よりも低くなるように、設定する前記照射エネルギ密度を決定してもよい。熱伝導解析シミュレーションを実施することによって、実際に溶接する際に設定する照射エネルギ密度を効率良く決定できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成を抑制し、溶接部のせん断強度の低下を抑制可能な異種金属部材の重ね溶接方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法及び当該溶接方法を用いて溶接された重ね溶接継手を示す断面図である。
図2】レーザビームLBの照射エネルギ密度の決定方法を示すフローチャートである。
図3】照射エネルギ密度が異なる2種類の試験片における溶接部の断面観察結果を示す。
図4】溶接した試験片の形状を示す模式的斜視図である。
図5】複数の照射エネルギ密度において断面観察結果と熱伝導解析結果とが適合した例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0015】
(第1の実施形態)
<重ね溶接継手の構成>
まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法を用いて溶接された重ね溶接継手について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法及び当該溶接方法を用いて溶接された重ね溶接継手を示す断面図である。より詳細には、図1の上側は、第1の実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法を示す断面図であり、図1の下側は、当該溶接方法を用いて溶接された重ね溶接継手を示す断面図である。
【0016】
なお、当然のことながら、図1及びその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正向きが鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0017】
図1の下側に示すように、重ね溶接継手は、溶接部30によって溶接された金属部材10、20から構成されている。金属部材10、20は、例えば、二次電池、キャパシタ(コンデンサ)等における端子や電極等の部材である。
【0018】
金属部材10は、銅(Cu)を主成分とする金属材料からなり、例えば板状部材である。なお、純銅の融点は1085℃である。
金属部材10の表面には、ニッケル(Ni)めっき膜11が形成されている。ニッケルめっき膜11は、例えば無電解めっき膜である。なお、無電解ニッケルめっき膜11は、例えば10質量%程度のリン(P)を含有するため、その融点は890℃程度であり、純ニッケルの融点(1455℃)よりも大幅に低い。無電解ニッケルめっき膜の融点は、銅の融点よりも低いため、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成をより抑制できる。
金属部材20は、アルミニウム(Al)を主成分とする金属材料からなり、例えば板状部材である。なお、純アルミニウムの融点は660℃である。
【0019】
図1の上側に示すように、本実施形態に係る溶接方法では、アルミニウムを主成分とする低融点の金属部材20の上方から熱伝導溶接用のレーザビームLBを照射して、金属部材20が溶融した溶融池30aを形成する。この溶融池30aが、金属部材10上に形成されたニッケルめっき膜11に接触し、ニッケルめっき膜11が溶融する。
【0020】
ここで、図1の上側に示すように、レーザビームLBの照射によって金属部材20が溶融した溶融池30aは、ニッケルめっき膜11には到達するが、金属部材10には到達しない。
そして、図1の下側に示すように、溶融池30aが凝固することによって、溶接部30が形成され、金属部材10と金属部材20とが溶接される。
【0021】
上述の通り、アルミニウムを主成分とする溶融池30aが、ニッケルめっき膜11には到達するが、銅を主成分とする金属部材10には到達しない。そのため、溶接部30とニッケルめっき膜11との界面近傍には、Ni-Al系金属間化合物が形成され、Cu-Al系の金属間化合物は形成されない。
すなわち、本実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法を用いて溶接された重ね溶接継手では、溶接部30におけるCu-Al系の金属間化合物の形成が抑制され、溶接部30のせん断強度の低下も抑制される。
【0022】
<異種金属部材の重ね溶接方法>
次に、図1を参照して、本実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法について説明する。本実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法は、銅を主成分とする金属部材10上にアルミニウムを主成分とする金属部材20を重ね合わせてレーザ溶接する異種金属部材の重ね溶接方法である。
【0023】
まず、レーザビームLBを照射する前に、銅を主成分とする金属部材(第1の金属部材)10上に、アルミニウムを主成分とする金属部材(第2の金属部材)20を重ね合わせる。ここで、金属部材10の表面には、ニッケルめっき膜11が形成されており、当該ニッケルめっき膜11上に金属部材20を重ね合わせる。
【0024】
次に、図1の上側に示すように、金属部材20の上方から熱伝導溶接用のレーザビームLBを照射する。図1に示すように、レーザビームLBを照射することによって、アルミニウムを主成分とする金属部材20が溶融した溶融池30aが形成される。
【0025】
ここで、熱伝導型溶接用のレーザビームLBとは、キーホールが形成されない程度の比較的低いエネルギ密度を有するレーザビームLBである。
一般的に、照射エネルギ密度E[J/mm]は、レーザ出力P[W]、走査速度v[mm/s]、スポット径d[mm]を用いて、次式(1)により表すことができる。
E=P/(v×d)・・・式(1)
そのため、照射エネルギ密度Eは、レーザ出力Pを大きくするか、走査速度vを遅くするか、スポット径dを小さくすることによって、大きくなる。
【0026】
次に、図1の上側に示すように、この溶融池30aが、金属部材10上に形成されたニッケルめっき膜11に接触することによって、ニッケルめっき膜11が溶融する。ここで、レーザビームLBの照射によって金属部材20が溶融した溶融池30aは、ニッケルめっき膜11には到達するが、金属部材10には到達しない。
【0027】
すなわち、溶融池30aが、ニッケルめっき膜11には到達するが、金属部材10には到達しないように、レーザビームLBの照射エネルギ密度を設定する。換言すると、ニッケルめっき膜11と金属部材20との界面の温度は、ニッケルめっき膜11の融点より高く、ニッケルめっき膜11と金属部材10との界面の温度は、ニッケルめっき膜11の融点より低くなるように、レーザビームLBの照射エネルギ密度を設定する。
【0028】
ここで、熱伝導型溶接用のレーザビームLBを使用することによって、溶融池が広く浅く形成されるため、このように制御し易くなる。すなわち、熱伝導型溶接用のレーザビームLBを使用することによって、溶接部におけるCu-Al系の金属間化合物の形成を抑制し易くなる。
【0029】
最後に、図1の下側に示すように、溶融池30aが凝固することによって、溶接部30が形成され、金属部材10と金属部材20とが溶接される。
上述の通り、アルミニウムを主成分とする溶融池30aが、ニッケルめっき膜11には到達するが、銅を主成分とする金属部材10には到達しない。そのため、溶接部30とニッケルめっき膜11との界面近傍には、Ni-Al系金属間化合物が形成され、Cu-Al系の金属間化合物は形成されない。すなわち、溶接部30におけるCu-Al系の金属間化合物の形成が抑制され、溶接部30のせん断強度の低下も抑制される。
【0030】
以上に説明した通り、本実施形態に係る溶接方法では、金属部材20が溶融した溶融池30aが、金属部材10上に形成されたニッケルめっき膜11に接触することによって、ニッケルめっき膜11が溶融し、金属部材10と金属部材20とが溶接される。ここで、アルミニウムを主成分とする溶融池30aは、ニッケルめっき膜11には到達するが、銅を主成分とする金属部材10には到達しない。そのため、本実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法を用いることによって、溶接部30におけるCu-Al系の金属間化合物の形成が抑制され、溶接部30のせん断強度の低下も抑制される。
【0031】
<照射エネルギ密度の決定方法>
次に、図2を参照して、レーザビームLBの照射エネルギ密度の決定方法について説明する。図2は、レーザビームLBの照射エネルギ密度の決定方法を示すフローチャートである。
【0032】
まず、図2に示すように、銅板(金属部材10)の試験片に形成されたニッケルめっき膜11上に、アルミニウム板(金属部材20)の試験片を重ね合わせ、レーザビームLBを照射して、試験的に溶接した上、溶接部の断面を観察する(ステップST1)。例えば、仮設定した複数の照射エネルギ密度で溶接された各試験片の溶接部の断面について、走査型電子顕微鏡を用いた組織観察と共に、エネルギ分散型X線分光法を用いた元素分析を行う。
【0033】
ここで、図3を参照し、試験片における溶接部の断面観察結果の一例について説明する。図3は、照射エネルギ密度が異なる2種類の試験片における溶接部の断面観察結果を示す。具体的には、式(1)における走査速度vを変化させることによって、照射エネルギ密度Eを変化させた。図3には、走査速度v=7mm/s及び走査速度v=5mm/sの場合のAl、Ni、Cuの元素マッピング分析結果(上段)と元素ライン分析結果(下段)とが示されている。
【0034】
なお、式(1)から分かるように、図3の左側に示す走査速度v=7mm/sの場合よりも図3の右側に示す走査速度v=5mm/sの場合の方が、照射エネルギ密度Eは大きい。
また、図3の下段に示すライン分析箇所は、図3の上段に示すマッピング分析結果おいて、白抜き矢印で示されている。図3の下段に示すライン分析結果のグラフにおいて、横軸は距離(μm)、縦軸は各元素の濃度(質量%)を示している。
【0035】
式(1)を構成するパラメータについては、レーザ出力P=500W、スポット径d=0.15mmで共通である。
ここで、図4は、溶接した試験片の形状を示す模式的斜視図である。図4に示すように、銅板(金属部材10)の試験片の厚さt10=1.0mm、ニッケルめっき膜11の厚さt11=10μm、アルミニウム板(金属部材20)の試験片の厚さt20=0.3mmで共通である。
なお、後述するように、図4に示した試験片を用いて引張試験を行い、溶接部30のせん断強度を測定した。
【0036】
図3の左側に示すように、走査速度v=7mm/sの場合、上段に示すマッピング分析結果から、溶融池30a(すなわち凝固後の溶接部30)が、ニッケルめっき膜11を貫通せず、銅板(金属部材10)には到達していないことが分かる。下段に示すライン分析結果から、Ni-Al系金属間化合物が形成されているため、溶融池30aがニッケルめっき膜11には到達していることが分かる。また、溶融池30aが、銅板(金属部材10)に到達していないため、Cu-Al系金属間化合物は形成されていない。
【0037】
他方、図3の右側に示すように、走査速度v=5mm/sの場合、上段に示すマッピング分析結果から、溶融池30aが、ニッケルめっき膜11を貫通し、銅板(金属部材10)に到達していることが分かる。下段に示すライン分析結果から、ニッケルめっき膜11が消失すると共に、Cu-Al系金属間化合物が形成されていることが分かる。
【0038】
図2に戻って説明を続ける。
図2に示すように、金属部材10の試験片に形成されたニッケルめっき膜11上に、金属部材20の試験片を重ね合わせ、レーザビームLBを照射した際の熱伝導解析シミュレーションを実施する(ステップST2)。例えば、ニッケルめっき膜11付き金属部材10の試験片及び金属部材20の試験片をモデル化すると共に、各部材について熱伝導率等の材料定数を設定する。そして、レーザ吸収率を適宜設定し、ステップST1において仮設定した複数の照射エネルギ密度でレーザビームLBを照射した際の熱伝導解析シミュレーションを実施する。
【0039】
当該熱伝導解析シミュレーションに用いる解析手法としては、特に限定されないが、例えば非定常熱伝導三次元モデルを挙げることができる。また、当該熱伝導解析シミュレーションには、例えば市販の熱伝導解析プログラムを使用できる。市販の熱伝導解析プログラムとしては、例えばAbaqus(登録商標)を挙げることができる。
【0040】
次に、図2に示すように、各照射エネルギ密度におけるステップST1での溶接部の断面観察結果とステップST2での熱伝導解析結果とが、適合しているか否か判定する(ステップST3)。
【0041】
溶接部の断面観察結果と熱伝導解析結果とが、適合していないと判定した場合(ステップST3NO)、ステップST2に戻り、レーザ吸収率を再設定し、熱伝導解析シミュレーションを再度実施する。すなわち、溶接部の断面観察結果と熱伝導解析結果とが、適合していると判定するまで、ステップST2を繰り返す。
【0042】
ここで、図5を参照し、適切なレーザ吸収率を設定することによって、断面観察結果と熱伝導解析結果とが適合した例について説明する。図5は、複数の照射エネルギ密度において断面観察結果と熱伝導解析結果とが適合した例を示す表である。図5に示す例では、式(1)における走査速度vを変化させることによって、照射エネルギ密度Eを変化させた。
【0043】
図5には、図3に示した走査速度v=7mm/s及び走査速度v=5mm/sの場合に加え、走査速度v=9mm/s及び走査速度v=3mm/sの場合のAl、Ni、Cuの元素マッピング分析結果(上段)と熱伝導解析結果(下段)とが示されている。図5の下段に示す熱伝導解析結果では、Cu融点1085℃以上の領域、無電解Niめっき膜融点890℃以上(1085℃未満)の領域、Al融点660℃以上(890℃未満)の領域に色分けされている。
【0044】
式(1)から分かるように、図5において走査速度vが小さい程、照射エネルギ密度は大きい。
上述の通り、式(1)を構成するパラメータについては、レーザ出力P=500W、スポット径d=0.15mmで共通である。また、図4に示すように、銅板(金属部材10)の試験片の厚さt10=1.0mm、ニッケルめっき膜11の厚さt11=10μm、アルミニウム板(金属部材20)の試験片の厚さt20=0.3mmで共通である。
【0045】
なお、図5に示した走査速度v=7mm/s及び走査速度v=5mm/sの場合の元素マッピング分析結果(上段)は、図3に示したものと共通である。
なお、図5の最下段には、図4に示した試験片を用いた引張試験によって得られた溶接部30のせん断強度τ[MPa]も示されている。溶接部30のせん断強度τ[MPa]については後述する。
【0046】
図5に示すように、走査速度v=9mm/s及びv=7mm/sの場合、上段に示すマッピング分析結果から、溶融池30a(すなわち凝固後の溶接部30)が、ニッケルめっき膜11を貫通せず、銅板(金属部材10)には到達していないことが分かる。下段に示す熱伝導解析結果から、アルミニウム板(金属部材20)とニッケルめっき膜11との界面における温度はニッケルめっき膜11の融点よりも高くなっていることが分かる。他方、銅板(金属部材10)とニッケルめっき膜11との界面における温度はニッケルめっき膜11の融点よりも低くなっていることが分かる。
【0047】
他方、図5に示すように、走査速度v=5mm/s及びv=3mm/sの場合、上段に示すマッピング分析結果から、溶融池30aが、ニッケルめっき膜11を貫通し、銅板に到達していることが分かる。下段に示す熱伝導解析結果から、銅板(金属部材10)とニッケルめっき膜11との界面における温度もニッケルめっき膜11の融点以上になっていることが分かる。
このように、適切なレーザ吸収率を設定した熱伝導解析シミュレーションによって、溶融池30a(すなわち凝固後の溶接部30)の状態を精度良く予測できる。
【0048】
図2に戻って説明を続ける。
図2に示すように、溶接部の断面観察結果と熱伝導解析結果とが、適合していると判定した場合(ステップST3YES)、熱伝導解析におけるレーザ吸収率を現在設定されているレーザ吸収率に決定し、照射エネルギ密度を最大値に設定する(ステップST4)。照射エネルギ密度の最大値は、例えば、溶接に用いるレーザ照射装置が発揮できる照射エネルギ密度の最大値である。
【0049】
そして、熱伝導解析シミュレーションを実施し(ステップST5)、熱伝導解析結果において、金属部材10とニッケルめっき膜11との界面における温度が、ニッケルめっき膜11の融点未満か否か判定する(ステップST6)。
【0050】
金属部材10とニッケルめっき膜11との界面における温度が、ニッケルめっき膜11の融点以上である場合(ステップST6NO)、図1に示す溶融池30aが、ニッケルめっき膜11を貫通し、金属部材10に到達することを意味する。そのため、照射エネルギ密度を下げ(ステップST7)、ステップST5に戻り、再度熱伝導解析シミュレーションを実施する。
【0051】
他方、金属部材10とニッケルめっき膜11との界面における温度が、ニッケルめっき膜11の融点未満である場合(ステップST6YES)、図1に示す溶融池30aが、ニッケルめっき膜11を貫通せずに、金属部材10に到達しないことを意味する。そのため、溶接する際に設定する照射エネルギ密度を、熱伝導解析シミュレーションにおいて現在設定されている照射エネルギ密度に決定する(ステップST8)。
【0052】
なお、金属部材20とニッケルめっき膜11との界面における温度は、図1に示す溶融池30aが、ニッケルめっき膜11に到達するように、ニッケルめっき膜11の融点よりも高い必要がある。
【0053】
このように、本実施形態に係る異種金属部材の重ね溶接方法では、熱伝導解析シミュレーションの結果に基づいて、溶接する際に設定する照射エネルギ密度を決定する。具体的には、金属部材20とニッケルめっき膜11との界面における温度はニッケルめっき膜11の融点よりも高く、金属部材10とニッケルめっき膜11との界面における温度はニッケルめっき膜11の融点よりも低くなるように、照射エネルギ密度を決定する。
【0054】
<溶接部30のせん断強度>
次に、図5を参照して、溶接部30のせん断強度τの測定結果について説明する。
図5の最下段に示すように、走査速度v=9mm/sの場合、溶接部30のせん断強度τは、102MPaであった。マッピング分析結果に示すように、溶融池30a(すなわち凝固後の溶接部30)が、ニッケルめっき膜11を貫通せず、銅板には到達していない。
図5には示されていないが、走査速度v=8mm/sの場合、溶接部30のせん断強度τは、112MPaであった。
【0055】
図5の最下段に示すように、走査速度v=7mm/sの場合、溶接部30のせん断強度τは、122MPaであった。マッピング分析結果に示すように、溶融池30aが、ニッケルめっき膜11を貫通せず、銅板には到達していない。
図5には示されていないが、走査速度v=6mm/sの場合、溶接部30のせん断強度τは、107MPaであった。なお、走査速度v=6mm/sの場合のせん断強度τはバラツキが大きく、溶融池30aがニッケルめっき膜11を貫通している虞がある。
【0056】
図5の最下段に示すように、走査速度v=5mm/s及びv=3mm/sの場合、溶接部30のせん断強度τは、測定できなかった。
【0057】
図5及び上記に示す溶接部30のせん断強度τの測定結果から、溶融池30aが、ニッケルめっき膜11には到達するが、第1の金属部材10には到達しないように、照射エネルギ密度を設定することによって、優れたせん断強度τが得られることが分かった。
また、溶融池30aがニッケルめっき膜11には到達するが第1の金属部材10には到達しない照射エネルギ密度の範囲内(走査速度v=7~9mm/s)では、照射エネルギ密度が大きい程、高いせん断強度τが得られた。具体的には、走査速度v=7mm/sの場合に、溶接部30のせん断強度τがピーク値122MPaを示した。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 金属部材(銅板)
11 ニッケルめっき膜
20 金属部材(アルミニウム板)
30 溶接部
30a 溶融池
LB レーザビーム
図1
図2
図3
図4
図5