(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032112
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】偏光フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240305BHJP
C08F 16/06 20060101ALI20240305BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240305BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G02B5/30
C08F16/06
C08J5/18 CEX
C08J7/00 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135575
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】山口 真央
(72)【発明者】
【氏名】田邊 裕史
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4F073
4J100
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AB11
2H149AB13
2H149BA02
2H149BA12
2H149FA03W
2H149FA12Z
2H149FA58W
2H149FD23
2H149FD25
2H149FD43
4F071AA29
4F071AF06Y
4F071AH19
4F071BB02
4F071BC01
4F073BA17
4F073BB01
4F073CA45
4J100AD02P
4J100AG76Q
4J100CA03
4J100DA36
4J100DA62
4J100HA11
4J100HC09
4J100HC29
4J100HC71
4J100HE05
4J100HE12
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】長期にわたって高温耐久性に優れる偏光フィルム及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】架橋されたポリビニルアルコールを含む偏光フィルムであり、前記偏光フィルムの表面の水接触角が60°以上である、偏光フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたポリビニルアルコールを含む偏光フィルムであり、前記偏光フィルムの表面の水接触角が60°以上である、偏光フィルム。
【請求項2】
前記架橋されたポリビニルアルコールが側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールに由来するポリビニルアルコールである、請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和基が下記一般式(I)で表される、請求項2に記載の偏光フィルム。
【化1】
(式(I)中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、及びカルボキシメチル基からなる群より選ばれるいずれかであり、Xは酸素原子またはN(R
4)であり、R
4は水素原子または炭素数1~3の炭化水素基である。*は主鎖との結合位置を表す。)
【請求項4】
前記側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールの重合度が1,000~10,000であり、前記ポリビニルアルコールの全構造単位を100モル%として、前記式(I)で表されるエチレン性不飽和基を0.05~8モル%含有し、前記ポリビニルアルコールの含有量が30~100重量%であるポリビニルアルコールフィルムからなる、請求項2に記載の偏光フィルム。
【請求項5】
前記偏光フィルム表面の紫外線照射処理前後の水接触角の差が3°以上である、請求項1~4のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項6】
光重合開始剤を含有する水溶液に前記ポリビニルアルコールからなるフィルムを含浸して紫外線を照射する処理を含む、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過及び遮蔽機能を有する偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。多くの偏光板は、偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護フィルムが貼り合わされた構造を有している。偏光板を構成する偏光フィルムとしては、ポリビニルアルコールフィルム(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)を一軸延伸して配向させた延伸フィルムにヨウ素系色素(I3
-やI5
-等)や二色性有機染料といった二色性色素が吸着しているものが主流となっている。このような偏光フィルムは、二色性色素を予め含有させたPVAフィルムを一軸延伸させる、PVAフィルムの一軸延伸と同時に二色性色素を吸着させる、又はPVAフィルムを一軸延伸した後に二色性色素を吸着させることにより製造される。
【0003】
LCDは、電卓及び腕時計などの小型機器、ノートパソコン、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、タブレット端末、屋内外で用いられる計測機器などに用いられる。近年、車載用の画像表示装置や屋外で使用される用途が拡大し、従来品以上に耐久性、特に高温環境下における耐熱性に優れた偏光フィルムが求められている。
【0004】
偏光フィルムは、熱や紫外線等に長期間晒されると、脱水反応によりポリエン化が進行し、変色することが知られている。これは偏光フィルムの保護層として一般的に使用されるトリアセチルセルロース(TAC)から生じる酢酸が、脱水反応の触媒として作用するためである。
【0005】
偏光フィルムのポリエン化を抑制する対策には種々の提案がある。特許文献1には、偏光フィルムの厚みと粘着剤層の総厚みとの比率を一定の範囲内で調整することが開示されている。また、特許文献2には、酸性を示さない粘着性化合物にカルボジイミド化合物を配合した粘着剤組成物を使用することが開示されている。さらに、特許文献3には、PVAフィルムに酸を捕捉する機能を付与することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-025764号公報
【特許文献2】特開2020-180229号公報
【特許文献3】国際公開第2020/184587号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1~3に記載の方法では、ポリエン化が抑制される傾向にはあるものの、近年必要とされている105℃以上の高温環境下での耐久試験では、十分なポリエン化抑制効果がないという問題があった。また、これらの対策では、PVAそのものの改良によりポリエン化を抑制するものではなかった。
【0008】
以上の事情を鑑み、本発明の課題は長期にわたって高温耐久性に優れる偏光フィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、架橋されたポリビニルアルコールを含み、特定の水接触角を有する偏光フィルムはポリエン化が抑制されることを見出し、当該知見に基づいて、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]である。
[1]架橋されたポリビニルアルコールを含む偏光フィルムであり、前記偏光フィルムの表面の水接触角が60°以上である、偏光フィルム。
[2]前記架橋されたポリビニルアルコールが側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールに由来するポリビニルアルコールである、[1]に記載の偏光フィルム。
[3]前記エチレン性不飽和基が下記一般式(I)で表される、[2]に記載の偏光フィルム。
[4]前記側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールの重合度が1,000~10,000であり、前記ポリビニルアルコールの全構造単位を100モル%として、前記式(I)で表されるエチレン性不飽和基を0.05~8モル%含有し、前記ポリビニルアルコールの含有量が30~100重量%であるポリビニルアルコールフィルムからなる、[2]に記載の偏光フィルム。
[5]前記偏光フィルム表面の紫外線照射処理前後の水接触角の差が3°以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[6]光重合開始剤を含有する水溶液に前記ポリビニルアルコールからなるフィルムを含浸して紫外線を照射する処理を含む、[1]に記載の偏光フィルムの製造方法。
【0011】
【0012】
式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、及びカルボキシメチル基からなる群より選ばれるいずれかであり、Xは酸素原子またはN(R4)であり、R4は水素原子または炭素数1~3の炭化水素基である。*は主鎖との結合位置を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期にわたって高温耐久性に優れる偏光フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0015】
本発明の偏光フィルムは、架橋されたポリビニルアルコールを含む偏光フィルムであり、前記偏光フィルムの表面の水接触角が60°以上である偏光フィルムである。
【0016】
ポリビニルアルコールのポリエン化は主に、偏光子が高温下に長期間曝された場合、偏光子中に含まれる酸が触媒となり、ポリビニルアルコールの脱水反応が起こることで発生すると推測される。
本発明の偏光フィルムは、表面付近に架橋構造を持つことで、偏光フィルムの表面付近のPVA鎖の運動性が低下するとともに、偏光フィルムの表面付近に存在する染料の運動性も低下するため、TAC由来の酢酸や染料由来の酸による脱水反応が起こりにくく、ポリエン化が抑制されると推測される。また、偏光フィルム表面が比較的疎水性であることも脱水反応を抑制する上で有利である。
なお、本発明における架橋構造とは、ポリビニルアルコール間で形成された共有結合からなる架橋構造であり、偏光子用途で用いられるポリビニルアルコール-ホウ酸間で形成された水素結合からなる架橋構造とは区別される。ただし、本発明の偏光フィルムにおいて、ポリビニルアルコール間の架橋構造とポリビニルアルコール-ホウ酸間の架橋構造は共存しても構わない。
【0017】
[架橋可能なポリビニルアルコール]
本発明の偏光フィルムは、架橋されたポリビニルアルコールを含む。偏光フィルムが架橋されたポリビニルアルコールを含むためには、架橋可能なポリビニルアルコールを用いることが必要である。本発明に用いられる架橋可能なポリビニルアルコールとしては、架橋可能な置換基を有するポリビニルアルコールであれば、特に制限されないが、側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
なお、本発明において、主鎖とは高分子化合物の骨格をなす分子鎖を表し、側鎖とはその主鎖に結合している置換基である。本発明において、ポリビニルアルコールが主鎖であり、エチレン性不飽和基は主鎖の置換基である。
【0018】
側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールについて説明する。
【0019】
前記エチレン性不飽和基は、炭素-炭素二重結合を有する基であり、例えば、炭素数2~16のアルケニル基などが挙げられる。
【0020】
前記エチレン性不飽和基は、主鎖と炭素原子以外の原子又は原子団を介して結合してもよい。炭素原子以外の原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が挙げられる。
【0021】
前記エチレン性不飽和基の例示として、例えば、(メタ)アクリル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、マレイル基、マレイミド基、(メタ)アクリルアミド基、アセチルビニル基、ビニルアミド基が挙げられる。これらの基を複数用いても良い。
【0022】
前記エチレン性不飽和基として、紫外線照射による硬化方法を利用でき、かつ硬化性に優れる観点から、前記エチレン性不飽和基は下記一般式(I)で表される基であることが好ましい。
【0023】
【0024】
一般式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、及びカルボキシメチル基からなる群より選ばれるいずれかであり、Xは酸素原子またはN(R4)であり、R4は水素原子または炭素数1~3の炭化水素基である。*は主鎖との結合位置を表す。
【0025】
前記一般式(I)において、良好な硬化性が得られる観点から、R1およびR2は水素原子であることが好ましく、PVAフィルムの安定性の観点から、R3は、メチル基であることが好ましい。また、前記式(I)において、XがN(R4)である場合、R4は炭素数1~3の炭化水素基が好ましい。炭素数1~3の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、およびイソプロピル基が挙げられる。なお、硬化性の観点から、Xは酸素原子であることが好ましい。
【0026】
前記一般式(I)で表される基は、ポリビニルアルコールの主鎖にある炭素原子と結合していてもよく、ポリビニルアルコールに含まれる炭素原子又は酸素原子と連結基を介して結合していてもよい。連結基としては置換基を有してもよい炭素数2~18のアルキレン基が挙げられる。また、アセタール構造を連結基としてもよい。
【0027】
前記一般式(I)で表される基を側鎖に含むポリビニルアルコールとしては、例えば、以下の単位を有するポリビニルアルコールが挙げられる。
【0028】
【0029】
本発明において、硬化性と高温耐久性の観点から、ポリビニルアルコールが式(II-3)で表される単位を有するポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、架橋可能なポリビニルアルコールの全構造単位を100モル%としたとき、前記式(I)で表されるエチレン性不飽和基の含有量は、硬化性の観点から下限として好ましくは0.05モル%以上であり、より好ましくは1モル%以上であり、さらに好ましくは2モル%以上である。水溶性の観点から上限として好ましくは8モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下であり、さらに好ましくは3モル%以下である。
【0031】
側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールの製造方法としては、例えばポリビニルアルコールに対して、構造内にエチレン性不飽和基を有する化合物(例えばカルボン酸を有する化合物)を反応させることにより、前記式(I)で表される部分構造を側鎖に導入することが出来る。当該反応の具体的な例としては、ポリビニルアルコールとアクリル酸またはメタクリル酸、4-ペンテン酸、10―ウンデセン酸との反応;ポリビニルアルコールと無水アクリル酸または無水メタクリル酸との反応;ポリビニルアルコールと塩化アクリロイルまたは塩化メタクリロイルとの反応が挙げられる。
なお、側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールの製造方法は、例えば特開2019-143009号公報に開示されている。
【0032】
架橋可能なポリビニルアルコールの重合度は、1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましく、1,700以上であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度を前記下限以上とすることで、PVAフィルムの柔軟性を向上させることができる。一方、ポリビニルアルコールの重合度は、10,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましく、5,000以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度を前記上限以下とすることで、ポリビニルアルコールの製造コストの上昇や製膜時における不良発生を抑制することができる。なお、ポリビニルアルコールの重合度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0033】
架橋可能なポリビニルアルコールのけん化度は、得られる偏光フィルムの耐湿熱性が良好になることから、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましく、99.3モル%以上であることが特に好ましい。なお、PVAのけん化度とは、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合(モル%)をいう。けん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0034】
[PVAフィルム]
本発明に用いるPVAフィルムは、前記した架橋可能なポリビニルアルコールに加え、必要に応じて、架橋可能なポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコール、可塑剤、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0035】
架橋可能なポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコールとは、架橋可能な置換基を有さないポリビニルアルコールである。
【0036】
架橋可能なポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコールとしては、例えば、ビニルエステルの1種又は2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるポリビニルアルコールが挙げられる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0037】
架橋可能なポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコールとして、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前記したビニルエステルとエチレンとを共重合したエチレン変性ポリビニルアルコールを用いてもよい。エチレン変性ポリビニルアルコールを用いる場合、エチレン変性ポリビニルアルコールの変性度の下限は0.01モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましく、また、エチレン変性ポリビニルアルコールの変性度の上限は、15モル%以下であることが好ましく、8モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
架橋可能なポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコールを用いる場合、架橋可能なポリビニルアルコールは全重量に対し、30~100重量%が好ましい。架橋可能なポリビニルアルコールが全重量に対し30重量%以下であった場合、硬化性基が少なくなりすぎ、PVA間の架橋構造が形成されにくくなるため望ましくない。
【0039】
本発明に用いるPVAフィルムにおいて、フィルム中のポリビニルアルコールの総量は必ずしも限定されないが、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。また、架橋可能なポリビニルアルコールと架橋可能なポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコールは、それぞれ複数用いてもよい。
【0040】
本発明に用いるPVAフィルムは、可塑剤を含有してもよい。可塑剤を含有することにより、PVAフィルムの取り扱い性や延伸性の向上を図ることができるためである。可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコール等が挙げられる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、PVAフィルムの表面へブリードアウトし難い等の理由から、可塑剤としては、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。
【0041】
PVAフィルムに含まれる可塑剤の含有量は、フィルム中のポリビニルアルコール100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、4質量部以上であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量を前記下限以上とすることで、PVAフィルムの延伸性が向上する。一方、可塑剤の含有量は、フィルム中のポリビニルアルコール100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量を前記上限以下とすることで、PVAフィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVAフィルムの取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0042】
本発明に用いるPVAフィルムは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含むことにより、PVAフィルムの取り扱い性や、製造時におけるPVAフィルムの製膜装置からの剥離性を向上させることができるためである。界面活性剤としては、特に制限されず、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。
【0043】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型界面活性剤;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型界面活性剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型界面活性剤;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型界面活性剤;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
前記界面活性剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。界面活性剤としては、PVAフィルムの製膜時における表面異常の低減効果に優れること等から、ノニオン系界面活性剤が好ましく、アルカノールアミド型界面活性剤がより好ましく、脂肪族カルボン酸(例えば、炭素数8~30の飽和または不飽和脂肪族カルボン酸等)のジアルカノールアミド(例えば、ジエタノールアミド等)がさらに好ましい。
【0046】
PVAフィルムに含まれる界面活性剤の含有量は、フィルム中のポリビニルアルコール100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましい。一方、界面活性剤の含有量は、フィルム中のポリビニルアルコール100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましく、0.3質量部以下であることが特に好ましい。界面活性剤の含有量が前記範囲であると、製造時におけるPVAフィルムの製膜装置からの剥離性が良好になるとともに、PVAフィルム間での膠着(以下「ブロッキング」と称することもある)が発生するのを防ぐことができる。また、界面活性剤がPVAフィルムの表面にブリードアウトしたり、界面活性剤の凝集によってPVAフィルムの外観が悪化したりするのを防ぐことができる。
【0047】
本発明に用いるPVAフィルムは、水溶性高分子、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物等の成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。ポリビニルアルコール、界面活性剤、可塑剤、ポリビニルアルコール以外のその他の成分の質量の合計値がPVAフィルムの全質量に占める割合は、60~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。
【0048】
PVAフィルムの平均厚さの上限は特に制限されないが、例えば100μmであることが好ましく、80μmであることがより好ましく、60μmであることがさらに好ましく、50μmであることが特に好ましい。PVAフィルムの厚みが100μm以下であることにより、取扱性、延伸加工性などを高めることができる。一方、偏光フィルムをより円滑に製造することができることから、下限としては10μmであることが好ましく、20μmであることがより好ましい。
【0049】
PVAフィルムの形状に特に制限はないが、偏光フィルムを生産性良く連続的に製造することができることから、長尺のフィルムであることが好ましい。当該長尺のフィルムの長さは特に制限されず、製造される偏光フィルムの用途などに応じて適宜設定することができ、例えば、5m以上、20,000m以下の範囲内にすることができる。当該長尺のフィルムの幅に特に制限はなく、例えば50cm以上とすることができるが、近年幅広の偏光フィルムが求められていることから1m以上であることが好ましく、2m以上であることがより好ましく、4m以上であることが更に好ましい。当該長尺のフィルムの幅の上限に特に制限はないが、当該幅があまりに広すぎると、実用化されている装置で偏光フィルムを製造する場合に、均一に延伸することが困難になる傾向があることから、PVAフィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
【0050】
PVAフィルムの形状に特に制限はなく、単層フィルムであってもよく、多層フィルム(積層体)であってもよいが、積層(コート等)作業の煩雑さ・コストなどの観点から、単層フィルムであることが好ましい。
【0051】
PVAフィルムは、通常、延伸されていないフィルムである。PVAフィルムが延伸されていないフィルムであることで、偏光フィルム等の光学フィルムの製造用フィルム等として好適に用いることができる。
【0052】
本発明に用いるPVAフィルムの軟化点は、偏光フィルムの生産性や偏光性能の観点などから、60℃以上であることが好ましい。PVAフィルムの軟化点は、偏光フィルムの生産性や偏光性能の観点などから、80℃以下であることが好ましい。
【0053】
PVAフィルムの軟化点はPVAフィルムのサンプルを25℃の蒸留水中に配置し、5℃/分の昇温速度で昇温した際の熱水変形温度として求めることができる。この軟化点は、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。なお、前記PVAフィルムのサンプルとしては、代表位置としてPVAフィルムの幅方向の中央部から採取すればよい。
【0054】
[PVAフィルムの製造方法]
本発明で用いるPVAフィルムの製造方法は特に限定されず、製膜後のフィルムの厚みおよび幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができ、例えば、PVAフィルムを構成する前記したポリビニルアルコール、必要に応じて、前記可塑剤、界面活性剤および他の成分のうちの1種または2種以上が液体媒体中に溶解した製膜原液を用いて製造することができる。当該製膜原液が可塑剤、界面活性剤および他の成分のうちの少なくとも1種を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0055】
前記した製膜原液を用いてPVAフィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、キャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられ、キャスト製膜法、押出製膜法が好ましい。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でも、厚みおよび幅が均一で物性の良好なPVAフィルムが得られることからキャスト製膜法、押出製膜法がより好ましい。PVAフィルムには必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0056】
[偏光フィルム]
本発明の偏光フィルムは、前記した架橋されたポリビニルアルコールを含む偏光フィルムであり、偏光フィルム表面の水接触角は60°以上である偏光フィルムである。水接触角が60°以上となった場合、偏光フィルム表層に十分な架橋構造が形成され、ポリビニルアルコールのポリエン化が抑制され、長期にわたって高温耐久性に優れた偏光フィルムになる。
【0057】
前記水接触角とは、フィルム表面に水を接触させた際に、その水とフィルムとの間になす角度のことである。一般的にフィルム表面の疎水性が高いほど、水接触角の値は大きくなることが知られている。
【0058】
本発明の偏光フィルムの表面の水接触角を60°以上に調整する方法としては、必ずしも限定されないが、後述する側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールなどの架橋可能なポリビニルアルコールを含むPVAフィルムを用いて偏光フィルムを作成すると共に、PVAフィルムに開始剤を含侵させて紫外線照射する事によりフィルム表面を架橋させる方法を採用することにより、偏光フィルムの表面の水接触角を調整することできる。また、偏光フィルム表面の紫外線照射処理前後の水接触角の差が3°以上あれば、特に耐熱性に優れる。
【0059】
[偏光フィルムの製造方法]
本発明の偏光フィルムの製造方法について説明する。本発明の偏光フィルムの製造方法を採用することにより、本発明の偏光フィルムを効率的に製造することができる。
【0060】
本発明の偏光フィルムの製造方法は、光重合開始剤を含有する水溶液に前記ポリビニルアルコールからなるフィルムを含浸して紫外線を照射する処理を含む、偏光フィルムの製造方法である。
【0061】
本発明の偏光フィルムの製造方法は、染色処理工程、延伸処理工程、開始剤含浸処理工程及び紫外線照射処理工程をこの順番で行う方法が好ましく、染色処理工程、架橋処理工程、延伸処理工程、開始剤含浸処理工程、乾燥処理工程及び紫外線照射処理工程をこの順番で行う方法がより好ましく、膨潤処理工程、染色処理工程、架橋処理工程、延伸処理工程、開始剤含浸処理工程、乾燥処理工程及び紫外線照射処理工程をこの順番で行う方法がさらに好ましい。なお、前記した光重合開始剤を含有する水溶液に前記ポリビニルアルコールからなるフィルムを含浸して紫外線を照射する処理とは、開始剤含浸処理工程と紫外線照射処理工程に対応する。また、本発明の偏光フィルムの製造方法において、1種類の処理を複数回行っても構わない。また、複数の処理を1つの浴中で同時に行っても構わない。以下、各工程について詳細に説明する。
【0062】
膨潤処理は、PVAフィルムを水中に浸漬することにより行うことができる。水中に浸漬する際の水の温度は、20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。水中に浸漬する際の水の温度は、50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましい。また、水中に浸漬する時間としては、例えば、0.1分間以上であることが好ましく、0.5分間以上であることがより好ましい。水中に浸漬する時間としては、例えば、5分間以下であることが好ましく、3分間以下であることがより好ましい。なお、水中に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0063】
染色処理は、染色の時期として、延伸処理前、延伸処理時、延伸処理後のいずれの段階であってもよいが、延伸処理前が好ましい。染色は二色性色素を用いて行うことができる。前記二色性色素としては、ヨウ素系色素、二色性有機染料などが挙げられる。
【0064】
前記ヨウ素系色素としては、例えばI3
-、I5
-等が挙げられる。これらのヨウ素系色素は、例えばヨウ素(I2)とヨウ化カリウムとを接触させることにより得ることができるため、PVAフィルムを染色浴としてヨウ素-ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行う。
【0065】
前記二色性有機染料としては、例えばダイレクトブラック 17、19、154;ダイレクトブラウン 44、106、195、210、223;ダイレクトレッド 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット 9、12、51、98;ダイレクトグリーン 1、85;ダイレクトイエロー 8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ 26、39、106、107等が挙げられる。これらは、2種以上併用してもよく、その配合割合は特に限定されず配合量を任意に設定できる。したがって、前記の二色性有機染料を組み合わせることにより、色相をニュートラルグレーにすることができる。
【0066】
染色浴における前記二色性色素を含む水溶液中における二色性色素の濃度は、用いる二色性色素の種類等に応じ適宜設定でき、例えば二色性有機染料の濃度は0.001質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以下であることが好ましい。また、染色浴の温度は20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。染色浴の温度は55℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましい。
【0067】
架橋処理は、架橋剤を含む水溶液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋処理を行うと、PVAフィルムにポリビニルアルコール-ホウ酸架橋構造が導入され、比較的高い温度で一軸延伸を行うことができる。使用される架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種又は2種以上を使用することができる。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。架橋剤を含む水溶液における架橋剤の濃度は15質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。架橋剤を含む水溶液はヨウ化カリウム等の助剤を含有してもよい。架橋剤を含む水溶液の温度は20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。架橋剤を含む水溶液の温度は50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましい。
【0068】
延伸処理は、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、前記した染色浴中で行うこともできる。また乾式延伸法の場合は、空気中で行うことができる。これらの中でも、湿式延伸法が好ましく、ホウ酸を含む水溶液中で一軸延伸するのがより好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は6.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01質量%以上であることが好ましい。ヨウ化カリウムの濃度は10質量%以下が好ましい。
【0069】
湿式延伸法において、一軸延伸における延伸温度は、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、45℃以上であることがさらに好ましい。一軸延伸における延伸温度は、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましい。
【0070】
一軸延伸における延伸倍率は、4倍以上であることが好ましく、4.5倍以上であることがより好ましく、5倍以上であることが特に好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、延伸倍率は8倍以下であることが好ましい。
【0071】
開始剤含浸処理は、開始剤を含む水溶液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができる。開始剤含浸処理を行い、そのあとに後述の紫外線照射処理を行うことで、PVAフィルム表層に架橋を形成することができる。使用される開始剤としては、特に限定されないが、例えば2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンなどのプロピオフェノン系化合物;4’-フェノキシ-2,2-ジクロロアセトフェノン、4’-t-ブチル-2,2,2-トリクロロアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4’-ドデシルフェニル)-1-プロパノン、1-[4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノンなどのアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンジルジメチルケタールなどのベンゾイン系化合物;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、2,2’-ジクロロベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン[4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン]、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物;9,10-フェナントレンキノン、カンファーキノン(2,3-ボルナンジオン)、2-エチルアントラキノンなどのキノン系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド;ベンジルなどが挙げられる。開始剤を含む水溶液における開始剤の濃度は、一般に、0.04質量%以上が好ましく、0.06質量%以上がより好ましい。開始剤を含む水溶液における開始剤の濃度は、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。開始剤含浸浴の温度は、15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。開始剤含浸浴の温度は、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0072】
開始剤含浸浴中にホウ素化合物を添加してもよい。開始剤含浸浴におけるホウ素化合物の濃度は、一般に、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。開始剤含浸浴におけるホウ素化合物の濃度は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。また、必要に応じて、開始剤含浸浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。
【0073】
乾燥処理は、30℃以上で行うことが好ましく、50℃以上で行うことがより好ましい。乾燥処理は、150℃以下で行うことが好ましく、130℃以下で行うことがより好ましい。前記範囲内の温度で乾燥することで寸法安定性に優れる偏光フィルムが得られやすい。
【0074】
紫外線照射処理はPVAフィルムに紫外線を照射して行う。紫外線照射装置は商用の装置を用いることができる。紫外線照射装置の使用するランプとしては、400nm以下の波長域の光を発する高圧水銀ランプ、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、LED等を用いることができる。紫外線の積算光量に特に制限はないが、10mJ/cm2以上であることが好ましく、50mJ/cm2以上であることがより好ましい。紫外線の積算光量は20,000mJ/cm2以下であることが好ましく、5,000mJ/cm2以下であることがより好ましい。紫外線の積算光量が少なすぎると、架橋可能なポリビニルアルコールの硬化性が不十分である。一方、紫外線の積算光量が多すぎると、PVAフィルムや染料が劣化する。また、適切な紫外線を照射することで、偏光フィルム表面の紫外線照射処理前後の水接触角の差が3°以上の偏光フィルムが得やすくなる。
【実施例0075】
以下に本発明を具体的に説明するが、以下の実施例により何ら限定されるものではない。実施例、及び比較例における各評価は、以下に示す方法に従って行った。
【0076】
<水接触角測定>
各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向に4cm、幅方向に1cmの長方形のフィルム片を2枚採取した。両面テープが貼られた金属プレートにカットしたフィルム片を貼り付けて測定サンプルとした。測定サンプルを23℃38%環境下で16時間調湿した。協和界面科学株式会社製接触角測定試験機(Drop Master500)を用いて、23℃50%環境下で、水平に置かれた測定サンプル上に2μLの水滴を静置し、1秒後の水滴の形状から、水滴のフィルム片に接している面の半径r(mm)、およびフィルム片表面から水滴の頂点までの高さh(mm)を測定し、下記式(1)により水接触角θ(°)を求めた。
θ = 2tan-1(h/r) (1)
なお、測定は10回実施し、その平均値をそのフィルムの水接触角とした。
【0077】
<偏光フィルムの吸光度測定>
各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向に3cm、幅方向に1.5cmの長方形のフィルム片を採取した。積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、450nmの波長における当該偏光フィルム片の吸光度を測定した。
【0078】
<耐熱試験>
各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向に4cm、幅方向に3cmの長方形のフィルム片を採取した。前述の方法により、得られたフィルム片の吸光度(A)を測定した。その後、得られたフィルム片を金属枠で挟み試験サンプルとした。乾燥機を用いて当該試験用サンプルを105℃、500時間保持した。その後、前述の方法により、サンプルの吸光度(B)を測定した。
【0079】
<ポリエン化評価>
耐熱性試験後のサンプルの吸光度(B)から耐熱性試験前のサンプルの吸光度(A)を差し引いた値を算出した。
【0080】
[製造例1]側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコール
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、およびパラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール(平均重合度2400、けん化度99.9モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で6時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコールを回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、側鎖にエチレン性不飽和基を有するポリビニルアルコールを得た。
【0081】
[実施例1]
(PVAフィルムの製造)
製造例1のポリビニルアルコール100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み、ポリビニルアルコールの含有率が4質量%である水溶液を製膜原液として用いた。これをガラス板に固定したPETフィルム(厚み100μm)上に流延し、25℃暗室内で乾燥し、さらに熱風乾燥機中で120℃10分間熱処理をし、厚みが30μmのPVAフィルムを製造した。
【0082】
(偏光フィルムの製造及び評価)
得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ9cmのサンプルをカットした。このサンプルを、液温30℃の水中に1分間浸漬している間に元の長さの1.3倍に長さ方向に一軸延伸(1段目延伸)し膨潤させた(膨潤処理)。次いで、液温32℃のダイレクトブルー15溶液(染色浴:ダイレクトブルー15濃度が0.004質量%、硫酸ナトリウム濃度が0.2質量%、トリポリリン酸ナトリウム濃度が0.2質量%)に5分間浸漬している間に1.8倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸(2段目延伸)しながら染色した(染色処理)。次いで、液温32℃のホウ酸水溶液(架橋浴:ホウ酸濃度が2.0質量%)に1分間浸漬している間に1.1倍(全体で2.7倍)に長さ方向に一軸延伸(3段目延伸)しながら架橋した(架橋処理)。続いて、液温50℃のホウ酸水溶液(延伸浴:ホウ酸濃度が3.9質量%)に浸漬している間に1.9倍(全体で5.0倍)に長さ方向に一軸延伸(4段目延伸)した(延伸処理)。続いて、開始剤としてフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム(東京化成工業株式会社製)を用いて液温25℃の開始剤水溶液(開始剤含浸浴:開始剤濃度0.09質量%、ホウ酸濃度1.5質量%)に延伸せずに5分間浸漬した(開始剤含浸処理)。続いて、長さ方向に寸法変化が起こらないように両端を固定して70℃の乾燥機で3分間乾燥した(乾燥処理)。さらに、長さ方向に寸法変化が起こらないように両端を固定して、ユアサ製実験用コンベアUV照射機(メタルハライドランプ)を使用して、ランプ出力を120W/cm、照射量120mJ/cm2を8回繰り返し、積算照射量が960mJ/cm2となるように紫外線照射を行い、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムに対して、前記した方法で偏光フィルムの吸光度と水接触角を評価した。続いて耐熱試験を実施し、ポリ塩化評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
製膜原液に用いるポリビニルアルコールについて、製造例1のポリビニルアルコール100質量部の代わりに、製造例1のポリビニルアルコール50質量部とポリビニルアルコール(A)(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、重合度2,400、けん化度99.9モル%)50質量部の混合樹脂に変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルム及び偏光フィルムを製造し、実施例1と同様に測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
製膜原液に用いるポリビニルアルコールについて、製造例1のポリビニルアルコール100質量部の代わりに、ポリビニルアルコール(A)(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、重合度2,400、けん化度99.9モル%)、開始剤含浸浴の開始剤濃度を0質量%、ホウ酸濃度を1.5質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、PVAフィルム、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムに対して、実施例1と同様に測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
製膜原液について、開始剤を1質量部添加し、開始剤含浸浴の開始剤濃度を0質量%、ホウ酸濃度を1.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルム、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムに対して、実施例1と同様に測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
60°以上の水接触角を有する実施例1,2は、ポリエン化評価(B-A)の値が小さく、耐熱性に優れることが分かる。一方、製膜原液に変性樹脂を含まない比較例1や、製膜原液に変性樹脂と開始剤を含み、開始剤含浸浴液が開始剤を含まない比較例2は水接触角が60°未満となり、ポリエン化評価(B-A)の値が大きく、耐熱性に劣ることが分かる。