(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032148
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】中性子線源位置測定装置および中性子線源位置測定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 3/00 20060101AFI20240305BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20240305BHJP
G01T 1/29 20060101ALI20240305BHJP
G21K 5/02 20060101ALI20240305BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20240305BHJP
G21K 4/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G01T3/00 G
G01T1/36 Z
G01T1/29 Z
G21K5/02 N
G21K1/00 N
G21K4/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135645
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】500216466
【氏名又は名称】住重アテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】上本 龍二
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】日塔 光一
(72)【発明者】
【氏名】上松 幹夫
【テーマコード(参考)】
2G083
2G188
【Fターム(参考)】
2G083AA03
2G083AA10
2G083BB04
2G188AA25
2G188AA27
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB09
2G188CC08
2G188DD09
2G188DD30
2G188DD47
2G188EE37
(57)【要約】
【課題】中性子線源の位置を簡便に測定する。
【解決手段】中性子線源位置測定装置10は、中性子を吸収する閾値反応によってベータ壊変する別の放射性同位元素に変換される金属元素を含有する金属板コンバータ12と、金属板コンバータ12の基準点20の位置を識別するためのマーカと、基準点20を通る基準軸22上において、金属板コンバータ12から中性子線源96側に離れて配置され、閾値反応が生じるエネルギーの中性子吸収係数が金属板コンバータ12よりも大きい材料で構成される中性子吸収体14と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子を吸収する閾値反応によってベータ壊変する別の放射性同位元素に変換される金属元素を含有する金属板コンバータと、
前記金属板コンバータの基準点の位置を識別するためのマーカと、
前記基準点を通る基準軸上において、前記金属板コンバータから中性子線源側に離れて配置され、前記閾値反応が生じるエネルギーの中性子吸収係数が前記金属板コンバータよりも大きい材料で構成される第1中性子吸収体と、を備えることを特徴とする中性子線源位置測定装置。
【請求項2】
前記金属元素は、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ガドリニウム(Gd)、モリブデン(Mo)または金(Au)であることを特徴とする請求項1に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項3】
前記第1中性子吸収体は、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびタングステン(W)の少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項2に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項4】
前記第1中性子吸収体は、前記基準軸上に開口が設けられるリング形状または枠形状を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項5】
前記マーカは、前記金属板コンバータに設けられる貫通孔であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項6】
前記マーカは、前記基準軸上において、前記金属板コンバータの前記中性子線源側の表面に近接して配置され、前記閾値反応が生じるエネルギーの中性子吸収係数が前記金属板コンバータよりも大きい材料で構成される第2中性子吸収体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項7】
前記第2中性子吸収体は、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびタングステン(W)の少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項6に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項8】
前記基準軸上において、前記第1中性子吸収体よりも前記中性子線源側に配置され、前記金属板コンバータと同じ金属元素を含有する複数の金属板コンバータをさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の中性子線源位置測定装置。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載の中性子線源位置測定装置を用いる中性子線源位置測定方法であって、
前記中性子線源からの中性子線を前記第1中性子吸収体ごしに前記金属板コンバータに照射することと、
前記中性子線の照射によって放射化した前記金属板コンバータから放出される放射線の二次元強度分布を画像化して画像データを生成することと、
前記基準軸上における前記金属板コンバータから前記第1中性子吸収体までの距離と、前記第1中性子吸収体のサイズと、前記画像データに含まれる前記第1中性子吸収体の投影像のサイズとを用いて、前記基準軸上における前記中性子線源までの距離を算出することと、
前記画像データに含まれる前記マーカの位置に対する前記第1中性子吸収体の投影像の位置に基づいて、前記基準軸に対する前記中性子線源の位置を算出することと、を備えることを特徴とする中性子線源位置測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線源位置の測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子線を用いて物質内を非破壊で透視する検査手法が知られており、中性子ラジオグラフィ検査(NRT;Neutron Radiography Testing)または中性子イメージングと呼ばれる。中性子イメージングでは、主にX線での検査が難しいとされる原子番号の小さい元素を含む物質の検査に使用され、例えば水素(H)を含む水、油または樹脂、リチウム(Li)や硼素(B)を含む物質などの検査に使用できる。中性子源として、例えば、加速器を用いて加速した陽子線などの粒子線をターゲットに照射して中性子線を発生させる加速器中性子源が利用される。
【0003】
中性子と物質の相互作用の態様は、中性子のエネルギーによって変化するため、検査に用いる中性子線のエネルギー(スペクトル)を適切に調整および測定することが求められる。中性子スペクトルの測定方法として、複数種の金属箔コンバータに中性子線を照射し、中性子線の照射によって放射化した複数種の金属箔コンバータのそれぞれから放出される放射線の強度を転写プレートに転写して測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加速器中性子源の場合、粒子線とターゲットが相互作用する位置が中性子線の発生源となる。加速器中性子源を適切に運用するためには、中性子線の発生源の位置を正確に測定できることが好ましい。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、中性子線源の位置を簡便に測定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の中性子線源位置測定装置は、中性子を吸収する閾値反応によってベータ壊変する別の放射性同位元素に変換される金属元素を含有する金属板コンバータと、金属板コンバータの基準点の位置を識別するためのマーカと、基準点を通る基準軸上において、金属板コンバータから中性子線源側に離れて配置され、閾値反応が生じるエネルギーの中性子吸収係数が金属板コンバータよりも大きい材料で構成される第1中性子吸収体と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、ある態様の中性子線源位置測定装置を用いる中性子線源位置測定方法である。この方法は、中性子線源からの中性子線を第1中性子吸収体ごしに金属板コンバータに照射することと、中性子線の照射によって放射化した金属板コンバータから放出される放射線の二次元強度分布を画像化して画像データを生成することと、基準軸上における金属板コンバータから第1中性子吸収体までの距離と、第1中性子吸収体のサイズと、画像データに含まれる第1中性子吸収体の投影像のサイズとを用いて、基準軸上における中性子線源までの距離を算出することと、画像データに含まれるマーカの位置に対する第1中性子吸収体の投影像の位置に基づいて、基準軸に対する中性子線源の位置を算出することと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中性子線源の位置を簡便に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】加速器中性子源から放出される中性子線を模式的に示す図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る中性子線源位置測定装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図3】金属板コンバータに使用される金属元素の特性を示すテーブルである。
【
図4】金属板コンバータの構成を模式的に示す背面図である。
【
図5】中性子吸収体および支持プレートの構成を模式的に示す正面図である。
【
図6】
図2の中性子線源位置測定装置の構成を模式的に示す背面図である。
【
図7】転写装置の構成を概略的に示す断面図である。
【
図8】金属板コンバータの転写画像の一例を示す図である。
【
図9】中性子源の位置の算出方法を模式的に示す図である。
【
図10】中性子線源位置測定方法の流れを示すフローチャートである。
【
図11】第2の実施の形態に係る中性子線源位置測定装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図12】第3の実施の形態に係る中性子線源位置測定装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図13】
図13(a)~(e)は、複数の金属板コンバータの転写画像の一例を示す図である。
【
図14】中性子線の三次元プロファイルの一例を示すグラフである。
【
図15】中性子線の指向性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0013】
本実施の形態は、中性子源から放出される中性子の空間分布を測定することにより、中性線源の位置を測定する技術に関する。特に、加速器中性子源から放出される高速中性子の空間分布を測定することによって中性子線源の位置を特定する。本明細書における「高速中性子」は、中性子のエネルギーが1MeV以上である高エネルギー中性子を指す。
【0014】
図1は、加速器中性子源90から放出される中性子線NBを模式的に示す図である。加速器中性子源90は、加速器92と、ターゲット94とを備える。加速器92は、ターゲット94に照射される粒子線PBを加速する装置であり、サイクロトロンなどである。粒子線PBは、陽子線やアルファ線などである。加速器92は、例えば10MeV以上に加速された陽子線を生成する。ターゲット94は、粒子線PBの照射による核反応によって高速中性子を生成する。ターゲット94の一例は、金属ベリリウムであるが、リチウムなどの他の材料を用いてもよい。中性子線NBの発生源である中性子線源96は、ターゲット94の内部に位置し、粒子線PBとターゲット94が相互作用して中性子を発生させる箇所に位置する。
【0015】
中性子線源96から放出される中性子線NBは、中性子のエネルギーに応じた指向性を有する。
図1では、エネルギーの異なる中性子線NB1,NB2,NB3の指向角θ1,θ2,θ3を模式的に示す。第1中性子線NB1は、相対的に高エネルギー(例えば10MeV)の高速中性子であり、相対的に小さい第1指向角θ1の範囲内に存在する。第2中性子線NB2は、中程度のエネルギー(例えば5MeV)の高速中性子であり、第1指向角θ1よりも大きい第2指向角θ2の範囲内に存在する。第3中性子線NB3は、相対的に低エネルギー(例えば1MeV)の高速中性子であり、第2指向角θ2よりも大きい第3指向角θ3の範囲内に存在する。
【0016】
このように、中性子線源96から放出される中性子のエネルギーが高くなるほど、指向角θ1~θ3が小さくなる傾向にある。中性子線源96からは1MeV未満の低エネルギーの中性子も放出されうるが、低エネルギーの中性子は中性子線源96から等方的に放出される傾向にある。本実施の形態では、
図1に示されるような指向性を有する高速中性子の発生源である中性子線源96の位置を測定することを目的とする。
【0017】
(第1の実施の形態)
図2は、第1の実施の形態に係る中性子線源位置測定装置10の構成を模式的に示す側面図である。中性子線源位置測定装置10は、金属板コンバータ12と、中性子吸収体14と、固定治具16とを備える。中性子線源位置測定装置10は、位置決めプレート18をさらに備えてもよい。
【0018】
中性子線源位置測定装置10は、位置測定の基準となる基準点20および基準軸22を備える。基準点20は、金属板コンバータ12の任意の位置に設定され、例えば、金属板コンバータ12の中心に設定される。基準軸22は、金属板コンバータ12に直交する軸であり、金属板コンバータ12の厚み方向に延びる。基準軸22は、基準点20を通るように設定される。図面において、基準軸22が延びる方向をz軸とし、基準軸22に直交する二つの方向をx方向およびy方向としている。また、明細書において、z方向を軸方向ということがあり、x方向およびy方向を総称して径方向ということがある。
【0019】
中性子線源位置測定装置10は、基準点20および基準軸22に対する中性子線源96の位置を測定するために用いられる。中性子線源位置測定装置10を用いることにより、基準点20から中性子線源96までの基準軸22に沿った方向(z方向)の距離Lと、基準軸22から中性子線源96までの径方向の距離rとを特定できる。径方向の距離rは、x方向の距離rxおよびy方向の距離ryとして特定できる。
【0020】
金属板コンバータ12は、厚みが均一で平坦な金属板である。金属板コンバータ12は、入射する中性子線NBの二次元強度分布を測定するために用いられる。金属板コンバータ12は、中性子を吸収する閾値反応によって放射化する金属元素を含有する。金属板コンバータ12に中性子線NBが照射されると、照射された中性子のエネルギーに応じた放射性同位元素が金属板コンバータ12の内部に生成される。中性子線NBの照射後に、金属板コンバータ12から放出される放射線の二次元強度分布を測定することで、金属板コンバータ12に照射された中性子線NBの特定のエネルギー領域における二次元強度分布を算出できる。
【0021】
図3は、金属板コンバータ12に使用される金属元素の特性を示す図である。金属板コンバータ12に用いる金属元素として、例えば、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ガドリニウム(Gd)、モリブデン(Mo)または金(Au)を用いることができる。これらの金属元素は、閾値反応によって生成される放射性同位元素がベータ壊変してベータ線を放出するため、放射線の二次元強度分布を高精度で測定しやすい。また、これらの金属元素は、放射性同位元素の半減期が0.1時間以上200時間以下であるため、放射線を測定する上での時間的な利便性が高い。
【0022】
亜鉛(Zn)の場合、様々な天然同位体が存在し、同位体存在割合は、64Znが48.63%、66Znが27.90%、67Znが4.10%、68Znが18.75%、70Znが0.62%である。このうち、64Znは、閾値エネルギー0.9MeVの(n,p)反応により半減期12.7時間でβ-壊変する64Cuが生成される。66Znは、閾値エネルギー1.887MeVの(n,p)反応により半減期5.12分でβ-壊変する66Cuが生成される。66Cuの半減期は0.1時間未満であるため、中性子線NBの照射完了から放射線の測定開始までの準備時間において66Cuの残存量は激減する。そこで、中性子線NBの照射後に30分~1時間程度待ってから放射線を測定することで、実質的に64Cuの寄与のみを測定することができる。したがって、金属板コンバータ12にZn板を用いることで、0.9MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布を測定できる。
【0023】
アルミニウム(Al)の場合、同位体存在割合は、27Alが100%である。27Alは、閾値エネルギー1.896MeVの(n,p)反応により半減期9.458分でβ-壊変する27Mgが生成され、閾値エネルギー3.249MeVの(n,α)反応により半減期14.959時間でβ-壊変する24Naが生成される。中性子線NBの照射直後では、半減期の長い24Naに比べて半減期の短い27Mgが多量に生成される。しかし、中性子線NBの照射後から1~2時間程度経過すると、半減期の短い27Mgの残存量が激減し、半減期の長い24Naの残存量の方が多くなる。例えば、中性子線NBの照射後から1時間程度までの期間に放射線を測定することで、実質的に27Mgの寄与のみを測定でき、その後の期間に放射線を測定することで、実質的に24Naの寄与のみを測定できる。したがって、金属板コンバータ12にAl板を用いることで、1.896MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布と、3.249MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布とを測定できる。
【0024】
マグネシウム(Mg)の場合、同位体存在割合は、24Mgが78.99%、25Mgが10.00%、26Mgが11.01%である。このうち、24Mgは、閾値エネルギー4.931MeVの(n,p)反応により半減期14.96時間でβ-壊変する24Naが生成される。したがって、金属板コンバータ12にMg板を用いることで、4.931MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布を測定できる。
【0025】
ガドリニウム(Gd)の場合、同位体存在割合は、152Gdが0.20%、154Gdが2.18%、155Gdが14.80%、156Gdが20.47%、157Gdが15.65%、158Gdが24.84%、160Gdが21.86%である。このうち、160Gdは、閾値エネルギー7.498MeVの(n,2n)反応により18.479時間でβ-壊変する159Gdが生成される。また、158Gdは、主に1MeV未満の共鳴領域における(n,γ)反応により159Gdが生成される。生成される159Gdは同じ同位体であるため、半減期の違いによる分離はできない。ただし、1MeV未満の低エネルギーの中性子は、ターゲット94から等方的に放出されるため、指向性を有する高速中性子の二次元強度分布の相対的な形状に与える影響は小さい。したがって、金属板コンバータ12にGd板を用いることで、7.498MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布を測定できる。
【0026】
モリブデン(Mo)の場合、同位体存在割合は、92Moが14.84%、94Moが9.25%、95Moが15.92%、96Moが16.68%、97Moが9.55%、98Moが24.13%、100Moが9.63%である。このうち、100Moは、閾値エネルギー8.373MeVの(n,2n)反応により半減期65.94時間でβ-壊変する99Moが生成され、主に1MeV未満の共鳴領域における(n,γ)反応により半減期14.61分でβ-壊変する101Moが生成される。101Moは、99Moに比べて半減期が短いため、半減期は14.61分であるため、中性子線NBの照射後から1時間以上経過してから放射線を測定することで、実質的に99Moの寄与のみを測定できる。また、98Moは、主に1MeV未満の共鳴領域における(n,γ)反応により99Moが生成される。生成される99Moは同じ同位体であるため、半減期の違いによる分離はできない。ただし、1MeV未満の低エネルギーの中性子は、ターゲット94から等方的に放出されるため、指向性を有する高速中性子の二次元強度分布の相対的な形状に与える影響は小さい。したがって、金属板コンバータ12にMo板を用いることで、8.373MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布を測定できる。
【0027】
金(Au)の場合、同位体存在割合は、197Auが100%である。197Auは、閾値エネルギー8.114MeVの(n,2n)反応により半減期6.183日でβ-壊変する196Auが生成される。また、197Auは、主に1MeV未満の共鳴領域における(n,γ)反応により半減期2.695日でβ-壊変する198Auが生成される。197Auの場合、共鳴領域における反応断面積が極めて大きいために196Auに比べて198Auが多量に生成されてしまう。また、198Auの半減期が比較的長いことから、196Auの寄与のみを短時間で分離することが困難である。そこで、金属板コンバータ12にAu板を用いる場合、中性子線NBの入射方向の手前側にAu板で構成されるフィルタを追加し、共鳴領域の中性子をフィルタに吸収させるようにしてもよい。これにより、Au板である金属板コンバータ12には主に高速中性子が入射することとなり、共鳴領域の寄与を分離できる。したがって、金属板コンバータ12にAu板を用いる場合、Au板フィルタを組み合わせることによって、8.114MeV以上のエネルギーを有する中性子の二次元強度分布を測定できる。なお、198Auの半減期の4倍程度(例えば11日)の時間が経過してから放射線を測定することで、実質的に196Auの寄与のみを測定することも可能である。この場合、Au板フィルタを組み合わせなくてもよい。
【0028】
金属板コンバータ12の材料は、価格や扱いやすさといった実用性を考慮すると、Zn、AlまたはMoで構成されることが好ましい。金属板コンバータ12は、使用する金属元素を95%以上または99%以上含有する材料で構成されることが好ましい。一例としてAlを用いる場合、金属板コンバータ12は、Alを99%以上含有するAl板で構成され、0.1mm~5mm程度の厚さを有する。測定対象とする高速中性子の反応断面積は極めて小さいため、金属板コンバータ12の厚みを数mm程度にしたとしても、金属板コンバータ12の透過前後の高速中性子の強度はほとんど変わらない。
【0029】
図2に戻り、中性子吸収体14は、基準点20を通る基準軸22上において、金属板コンバータ12から中性子線源96側に離れて配置される。中性子吸収体14は、中性子線源96から金属板コンバータ12に向かう中性子線NBを吸収して遮蔽することにより、金属板コンバータ12の表面に中性子吸収体14の投影像が形成されるようにする。中性子吸収体14は、厚みが均一な板状部材である。中性子吸収体14は、外径がφ2であり、内径がφ1であるリング形状を有し、中央部に開口42が設けられる。中性子吸収体14は、中性子吸収体14の中心44が基準軸22上に位置するように配置される。中性子吸収体14の径方向(x方向およびy方向)のサイズφ2は、金属板コンバータ12の径方向(x方向およびy方向)サイズよりも小さく、例えば、金属板コンバータ12の径方向のサイズの1/2以下または1/3以下である。
【0030】
中性子吸収体14は、金属板コンバータ12に比べて中性子吸収係数が大きい材料で構成される。中性子吸収体14は、金属板コンバータ12が含有する金属元素の閾値反応が生じるエネルギーにおける中性子吸収係数が金属板コンバータ12よりも大きい材料で構成されることが好ましい。中性子吸収体14の材料として、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)またはタングステン(W)を用いることができる。中性子吸収体14の材料は、Fe,Cu、NiおよびWの少なくとも一つを含む金属材料であってもよいし、これらの少なくとも一つを含む化合物材料であってもよい。中性子吸収体14の厚みは、特に限られないが、例えば、0.1mm~5mm程度である。
【0031】
固定治具16は、金属板コンバータ12および中性子吸収体14を固定し、中性子線源96に対する金属板コンバータ12および中性子吸収体14の配置が変わらないようにする。固定治具16は、支持プレート24と、スペーサ26と、締結部材28とを備える。
【0032】
支持プレート24は、中性子吸収体14を支持し、中性子吸収体14の位置を固定する。支持プレート24は、金属板コンバータ12と同様の厚みが均一で平坦な金属板であり、金属板コンバータ12と同じ材料で構成される。支持プレート24を金属板コンバータ12と同じ材料で構成することにより、支持プレート24の透過前後の高速中性子の強度がほとんど変わらないようにすることができる。その結果、支持プレート24を設けることによる金属板コンバータ12に投影される中性子線強度分布への影響を実質的になくすことができる。中性子吸収体14を支持プレート24に固定する方法は特に限られないが、例えば、樹脂接着剤や両面テープなどを用いて、支持プレート24の中央部に中性子吸収体14を取り付けることができる。
【0033】
スペーサ26は、金属板コンバータ12と支持プレート24の間に配置され、金属板コンバータ12から中性子吸収体14までの距離L1が所定値に維持されるようにする。位置決めプレート18が設けられる場合、スペーサ26は、支持プレート24と位置決めプレート18の間にも配置される。スペーサ26は、金属板コンバータ12、支持プレート24および位置決めプレート18が互いに平行となるようにする。
【0034】
締結部材28は、ボルトやねじなどであり、金属板コンバータ12、支持プレート24および位置決めプレート18と、スペーサ26とを互いに締結して固定する。固定治具16は、例えば締結部材28を取り外すことで、金属板コンバータ12を取り外しできるよう構成される。中性子線NBの照射後、中性子線源位置測定装置10を分解することにより、金属板コンバータ12から放出される放射線の二次元強度分布を高精度で測定できる。
【0035】
位置決めプレート18は、中性子線源位置測定装置10を設置する際の位置決めに用いる目印を有する金属板である。位置決めプレート18は、固定治具16によって金属板コンバータ12および中性子吸収体14に対して固定される。位置決めプレート18は、例えば、金属板コンバータ12および中性子吸収体14よりも中性子線源96側(つまり、中性子線NBの入射方向の手前側)に配置される。位置決めプレート18は、金属板コンバータ12と同様の厚みが均一で平坦な金属板であり、金属板コンバータ12や支持プレート24と同じ材料で構成される。
【0036】
図4は、金属板コンバータ12の構成を模式的に示す背面図である。金属板コンバータ12は、中心孔32と、ノッチ34a,34bと、固定孔36と、罫書線38a,38bとを有する。
【0037】
中心孔32は、金属板コンバータ12の基準点20に設けられる貫通孔であり、基準点20のx方向およびy方向の位置を識別するためのマーカである。ノッチ34a,34bは、金属板コンバータ12の外周の一部箇所に設けられるV字状またはU字状の切り欠きである。ノッチ34a,34bは、金属板コンバータ12のx方向およびy方向の向きを識別するための目印である。固定孔36は、金属板コンバータ12の外周部に設けられる貫通孔であり、固定治具16による固定に用いられる。図示する例では、金属板コンバータ12の外形が正方形であり、正方形の四隅のそれぞれに固定孔36が設けられる。罫書線38a,38bは、x方向およびy方向の中心位置を示す目印である。第1罫書線38aは、中心孔32を通ってy方向に延びる直線として描かれ、第2罫書線38bは、中心孔32を通ってx方向に延びる直線として描かれる。
【0038】
ノッチ34a,34bは、金属板コンバータ12の表面(例えば中性子線NBの入射側)と裏面(例えば中性子線NBの出射側)を識別するためのマークでもある。ノッチ34a,34bは、中心孔32に対して非対称となる複数の位置に設けられる。図示する例の場合、転写結果においてV字状の第1ノッチ34aに対してU字状の第2ノッチ34bが左側にある場合、コンバータの表面(中性子線NBの入射側の面)での転写結果であることが示される。
【0039】
なお、金属板コンバータ12の形状は、
図4に示すものに限られず、長方形や円形などの他の任意の形状であってもよい。金属板コンバータ12は、x方向およびy方向の位置や向きを識別するための目印として、ノッチ34a,34bとは異なる切り欠きまたは貫通孔が設けられてもよい。例えば、二つのノッチ34a,34bを設けるのではなく、例えば、第1ノッチ34aまたは第2ノッチ34bの一方のみが設けられてもよい。その他、金属板コンバータ12の表裏を識別するために中心孔32に対して非対称となる複数の位置に切り欠きや貫通孔を設けてもよい。x方向およびy方向の位置や向きを識別するための目印として固定孔36を用いてもよい。例えば、複数の固定孔36を中心孔32に対して非対称となる位置に設けてもよい。
【0040】
図5は、中性子吸収体14および支持プレート24の構成を模式的に示す正面図であり、中性子線NBの入射側から見たときの構成を示す。支持プレート24は、金属板コンバータ12と同様の形状およびサイズを有する。図示する例において、支持プレート24の外形は正方形であり、正方形の四隅のそれぞれに固定孔40が設けられる。中性子吸収体14は、支持プレート24の中心部に取り付けられる。中性子吸収体14は、外径φ2および内径φ1が同心円となるように形成され、中性子吸収体14の中心44が基準軸22に一致するように支持プレート24に取り付けられる。中性子吸収体14が外径φ2および内径φ1を有する特徴的な形状を有することにより、金属板コンバータ12に形成される中性子吸収体14の投影像のサイズや位置の特定が容易となる。
【0041】
なお、支持プレート24の形状は、
図5に示すものに限られず、長方形や円形などの他の任意の形状であってもよい。また、中性子吸収体14の形状についても、
図5に示すものに限られず、矩形、六角形、八角形などの他の任意の形状であってもよい。中性子吸収体14は、中心部に開口42が設けられた矩形、六角形、八角形などの枠形状を有してもよい。中性子吸収体14は、中心部に開口42が設けられていない形状であってもよい。
【0042】
図6は、
図2の中性子線源位置測定装置10の構成を模式的に示す背面図であり、中性子線NBの入射方向とは反対側から見たときの構成を示す。位置決めプレート18は、x方向およびy方向の中心位置を示す目印である罫書線38c,38dを有する。第3罫書線38cは、中心孔32を通ってy方向に延びる直線として描かれ、第1罫書線38aと重なる位置に設けられる。第4罫書線38dは、中心孔32を通ってx方向に延びる直線として描かれ、第2罫書線38bと重なる位置に設けられる。
【0043】
位置決めプレート18は、金属板コンバータ12および支持プレート24よりもx方向およびy方向のサイズが大きく、金属板コンバータ12および支持プレート24と軸方向に重ならない箇所に罫書線38c,38dが付されている。これにより、罫書線38c,38dが金属板コンバータ12に隠れて見えなくなることを防止できる。
図6の例では、位置決めプレート18の外形が八角形であるが、位置決めプレート18の外形は、円形や菱形などの他の任意の形状であってもよい。また、罫書線38c,38dとは異なる位置決め用の目印が位置決めプレート18に付されてもよい。
【0044】
図2に示されるように、中性子線源位置測定装置10を加速器中性子源90の正面に設置する際、金属板コンバータ12に付される罫書線38a,38bと、位置決めプレート18に付される罫書線38c,38dとを用いて設置位置が調整される。中性子線源位置測定装置10の設置位置として、例えば、加速器中性子源90のターゲット94から放出される中性子線NBの放射方向の延長線上の出口が想定される。通常、中性子線NBを直接目視できないため、設計上の中性子線源の位置および設計上の放射線NBの放射方向と一致するようにレーザ墨出し器から十字レーザを照射し、基準となる座標軸を設定する。つづいて、十字レーザと罫書線38a~38dが一致するように中性子線源位置測定装置10を配置する。例えば、中性子線源位置測定装置10を支持する架台(不図示)を利用することで、十字レーザを基準として三次元位置を調整できる。これにより、設計上の中性子線NBの放射方向の延長線上に中性子線源位置測定装置10を設置できる。
【0045】
つづいて、放射化した金属板コンバータ12から放出される放射線の測定方法について説明する。
図7は、転写装置50の構成を概略的に示す断面図である。転写装置50は、金属板コンバータ12から放出される放射線の二次元強度分布を転写プレート52に転写して画像化するためのカセッテである。転写装置50は、転写プレート52と、緩衝材54と、遮蔽容器56とを備える。
【0046】
転写プレート52は、放射線に反応して放射線強度分布に対応する画像を生成するためのイメージングプレート(IP)である。転写プレート52として、例えば輝尽性蛍光体を用いたものを使用できる。輝尽性蛍光体は、主にベータ線に反応して蛍光し、事後的に読み出し光を照射することで放射線に反応した箇所が再度発光するという記憶機能(光メモリ機能)を有する。その結果、輝尽性を有しない一般的な蛍光体を用いる場合に比べて高感度画像を得ることができ、ダイナミックレンジの大きい画像データを取得できる。また、転写装置50を用いることで、中性子線NBの照射環境と、転写プレート52への転写環境とを分離することができ、中性子線NBの照射環境にて生じる高線量のガンマ線が転写工程に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0047】
放射化された金属板コンバータ12は、その片面が転写プレート52と密着した状態で遮蔽容器56の内部に収容される。例えば、金属板コンバータ12の両面のうち、中性子線NBの入射側となる片面を転写プレート52と密着させる。緩衝材34は、スポンジ状の樹脂部材またはゴム部材であり、転写プレート52を金属板コンバータ12に押し付けるようにする。これにより、転写プレート52と金属板コンバータ12の間に隙間が生じないようにし、転写工程の間、転写プレート52と金属板コンバータ12の相対位置が変わらないようにする。遮蔽容器56は、転写工程の間、容器内部が暗室状態となるように外部からの光を遮蔽する。転写プレート52に転写された放射線強度分布は、専用の読み取り装置(リーダまたはスキャナ)を用いて読み取られ、放射線強度分布に対応した画像データが生成される。
【0048】
図8は、金属板コンバータ12の転写画像の一例を示す図である。
図8の例は、金属板コンバータ12として100mm×100mmのAl板を使用し、中性子吸収体14として厚さ2.3mmのCuリングを使用し、中性子吸収体14から金属板コンバータ12までの距離L1を41.3mmとした場合を示す。Al板コンバータの中心部には3mmφの中心孔32を設けている。中性子線NBの照射後に1.5時間経過してから転写プレート52への転写を開始したため、主に
24Naから放出される放射線が転写されており、3.249MeV以上のエネルギーを有する中性子が測定されている。転写画像は、相対的に黒い(濃い)ほど放射線の強度が高く、中性子量が多いことを示し、相対的に白い(薄い)ほど放射線の強度が低く、中性子量が少ないことを示す。
【0049】
図8の転写画像の中心部には、周囲に比べて相対的に白い(薄い)円形の基準領域60がある。基準領域60は、金属板コンバータ12の中心孔32に相当し、貫通孔が設けられているために放射線強度が局所的に小さくなっている。基準領域60は、基準点20の位置を示すマーカに対応する
【0050】
基準領域60の外側には、相対的に黒い(濃い)領域の外縁を規定する円形の第1エッジ62があり、第1エッジ62の外側には、相対的に薄い(白い)領域の外縁を規定する円形の第2エッジ64がある。第1エッジ62と第2エッジ64の間の領域は、中性子吸収体14の投影像に相当し、中性子吸収体14によって中性子が部分的に遮蔽されているために放射線強度が局所的に小さくなっている。なお、中性子吸収体14は、中性子線を完全に遮蔽することはない。つまり、中性子線源96からの中性子線を中性子吸収体14ごしに金属板コンバータ12に照射すると、中性子吸収体14に入射する中性子線の一部は中性子吸収体14を透過して金属板コンバータ12に到達する。第1エッジ62の内側および第2エッジ64の外側は、中性子吸収体14による中性子の遮蔽がないために放射線強度が局所的に大きくなっている。また、
図8の転写画像のほぼ全体にわたって、径方向外側に向かって徐々に白くなる(薄くなる)円形分布66が見られる。円形分布66は、中性子線源96から金属板コンバータ12に向かう中性子線NBの二次元強度分布を示す。
【0051】
図9は、中性子線源位置の算出方法を模式的に示す図であり、
図8の転写画像から基準領域60、第1エッジ62および第2エッジ64を抜き出したものである。
図8の第1エッジ62のサイズD1または第2エッジ64のサイズD2は、
図2に示される金属板コンバータ12から中性子線源96までの軸方向の距離Lを算出するために用いられる。第1エッジ62は、点光源である中性子線源96からの中性子線NBによって中性子吸収体14の内径φ1を拡大投影した投影像である。同様に、第2エッジ64は、点光源である中性子線源96からの中性子線NBによって中性子吸収体14の外径φ2を拡大投影した投影像である。
【0052】
第1エッジ62および第2エッジ64の拡大率αは、
図2に示される幾何学的な配置から、α=L/L2となる。ここで、距離L2は、中性子吸収体14から中性子線源96までの距離であり、L2=L-L1である。したがって、第1エッジ62について、D1=α・φ1=φ1/(1-L1/L)が成立し、L=L1・D1/(D1-φ1)と表すことができる。同様に、第2エッジ64について、D2=α・φ2が成立し、L=L1・D2(D2-φ2)と表すことができる。距離L1、内径φ1および外径φ2は既知であり、第1エッジ62および第2エッジ64のサイズD1,D2は転写画像から得られるため、これらの数値を用いて、中性子線源96までの距離Lを算出することができる。
【0053】
距離Lは、内径φ1および外径φ2の一方のみから算出できるため、中性子吸収体14がリング形状であることは必須ではなく、中性子吸収体14が開口42のないディスク形状であってもよい。ただし、内径φ1および外径φ2の双方があることで、転写画像に含まれる第1エッジ62および第2エッジ64の一方が不鮮明である場合であっても、他方のサイズを用いて距離Lを算出することができる。
【0054】
また、
図8の転写画像における第1エッジ62および第2エッジ64の中心位置68の座標を用いて、基準軸22から中性子線源96までの径方向の距離rx、ryを算出することができる。第1エッジ62および第2エッジ64の中心位置68は、第1エッジ62または第2エッジ64の円弧上の任意の3点の位置から数学的に求めることができる。中心位置68は、基準領域60(基準点20)を原点とする座標として定義することができ、(dx,dy)と表すことができる。
【0055】
中心位置68は、
図2の中性子線源96と中性子吸収体14の中心44を通る直線上に存在する。そのため、
図2に示される幾何学的な配置から、中性子線源96のxy座標(rx,ry)と中心位置68のxy座標(dx,dy)の大きさの比率は、中性子吸収体14から中性子線源96までの距離L2と中性子吸収体14から金属板コンバータ12までの距離L1を用いて、L2(=L-L1):L1と表すことができる。また、中性子線源96と中心位置68は、基準軸22に対して点対称の位置関係にある。したがって、中性子線源96のxy座標(rx,ry)は、中心位置68のxy座標(dx,dy)を用いて、(rx,ry)=-(L-L1)/L1(dx,dy)と表すことができる。つまり、rx=(1-L/L1)dxとなり、ry=(1-L/L1)dyとなる。
【0056】
このようにして、金属板コンバータ12の転写画像から、中性子線源96の三次元位置を特定するための距離L、x座標rxおよびy座標ryを求めることができる。
【0057】
図10は、中性子線源位置測定方法の流れを示すフローチャートである。まず、測定対象とする中性子線NBに対して中性子線源位置測定装置10を位置決めする(S10)。例えば、加速器中性子源90のターゲット94の位置に基づいてx方向およびy方向の原点を決定し、ターゲット94に照射される粒子線PBの照射方向に基づいてz方向を決定する。具体的には、レーザ墨出し器(レーザセオドライト)などの測量機を用いて基準となる座標軸を決定できる。つづいて、決定した座標軸に基づいて中性子線源位置測定装置10を設置する。例えば、レーザ墨出し器から照射される十字レーザと、金属板コンバータ12に付される罫書線38a,38bと、位置決めプレート18に付される罫書線38c,38dとが一致するように中性子線源位置測定装置10の設置位置を調整する。
【0058】
次に、設置した中性子線源位置測定装置10に測定対象となる中性子線NBを照射する(S12)。中性子線NBの照射により、中性子線源位置測定装置10に含まれる金属板コンバータ12が放射化する。中性子吸収体14によって中性子線NBが部分的に吸収されることにより、中性子吸収体14の投影像が金属板コンバータ12に形成される。中性子線NBの照射後、金属板コンバータ12から放射される放射線を転写プレート52に転写する(S14)。例えば、中性子線源位置測定装置10を分解し、金属板コンバータ12を転写装置50に収容することにより、放射線の二次元強度分布を転写プレート52に転写する。転写完了後、転写プレート52に転写された放射線の二次元強度分布の画像を読み取って画像データを生成する(S16)。
【0059】
つづいて、画像データに含まれる中性子吸収体14の投影像のサイズD1,D2を測定し(S18)、金属板コンバータ12から中性子吸収体14までの距離L1と、中性子吸収体14のサイズφ1,φ2と、中性子吸収体14の投影像のサイズD1,D2とを用いて、金属板コンバータ12から中性子線源96までの距離Lを算出する(S20)。つづいて、画像データに含まれるマーカ(基準領域60)の位置に対する中性子吸収体14の投影像の位置(dx,dy)を測定し(S22)、投影像の位置(dx,dy)を用いて、基準軸22に対する中性子線源96の位置(rx,ry)を算出する(S24)。
【0060】
本実施の形態によれば、中性子線源位置測定装置10を用いて、中性子線源96の三次元位置を特定できる。金属板コンバータ12にAl板を用いる場合、材料が安価であり、S14の転写工程に必要な時間も1日程度であるため、中性子線源96の三次元位置を迅速かつ簡便に得ることができる。
【0061】
(第2の実施の形態)
図11は、第2の実施の形態に係る中性子線源位置測定装置70の構成を模式的に示す側面図である。第2の実施の形態では、基準点20の位置を示すマーカとして、第2中性子吸収体76を用いる点で、上述の実施の形態と相違する。以下、第2の実施の形態について、第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点については適宜省略する。
【0062】
中性子線源位置測定装置70は、金属板コンバータ72と、第1中性子吸収体74と、第2中性子吸収体76と、固定治具78とを備える。中性子線源位置測定装置70は、第1の実施の形態と同様に、基準点20および基準軸22を備える。金属板コンバータ72および第1中性子吸収体74のそれぞれは、第1の実施に係る金属板コンバータ12および中性子吸収体14と同様に構成される。第1中性子吸収体74は、例えば、中央部に開口42を有するリング形状を有し、第1中性子吸収体74の中心44が基準軸22上に位置するように配置される。第1中性子吸収体74は、金属板コンバータ72から距離L1の位置に離れて設けられる。
【0063】
第2中性子吸収体76は、基準点20を通る基準軸22上において、金属板コンバータ72よりも中性子線源96側に配置される。第2中性子吸収体76は、第1中性子吸収体74よりも金属板コンバータ72の近くに配置され、金属板コンバータ72の中性子線源96側の表面80に近接して配置されることが好ましい。第2中性子吸収体76は、中性子線源96から金属板コンバータ72に向かう中性子線NBを吸収して遮蔽することにより、金属板コンバータ72の表面に第2中性子吸収体76の投影像が形成されるようにする。第2中性子吸収体76の投影像は、基準点20の位置を識別するために用いられる。したがって、第2中性子吸収体76は、金属板コンバータ72における基準点20のx方向およびy方向の位置を識別するためのマーカである。
【0064】
第2中性子吸収体76は、厚みが均一な板状部材である。第2中性子吸収体76の径方向(x方向およびy方向)のサイズφ3は、金属板コンバータ72の径方向(x方向およびy方向)サイズよりも小さく、例えば、第1中性子吸収体74の外径φ2よりも小さい。第2中性子吸収体76の径方向のサイズφ3は、第1中性子吸収体74の内径φ1と同程度であってもよいし、第1中性子吸収体74の内径φ1より小さくてもよい。第2中性子吸収体76の径方向のサイズφ3を第1中性子吸収体74の内径φ1以下とすることにより、中性子線源96から見て、第1中性子吸収体74と第2中性子吸収体76が軸方向に重なりにくくなるように配置できる。
【0065】
第2中性子吸収体76は、第1中性子吸収体74と同様、金属板コンバータ12に比べて中性子吸収係数が大きい材料で構成される。第2中性子吸収体76は、金属板コンバータ12が含有する金属元素の閾値反応が生じるエネルギーの中性子吸収係数が金属板コンバータ12よりも大きい材料で構成されることが好ましい。第2中性子吸収体76の材料として、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)またはタングステン(W)を用いることができる。第2中性子吸収体76の材料は、Fe,Cu、NiおよびWの少なくとも一つを含む金属材料であってもよいし、これらの少なくとも一つを含む化合物材料であってもよい。第2中性子吸収体76の材料は、第1中性子吸収体74の材料と同じでもよい。第2中性子吸収体76の厚みは、特に限られないが、例えば、0.1mm~5mm程度である。第2中性子吸収体76の形状も特に限られず、円形、矩形、六角形、八角形、十字形などの任意の形状であってよい。
【0066】
固定治具78は、金属板コンバータ72、第1中性子吸収体74および第2中性子吸収体76を固定し、中性子線源96に対する金属板コンバータ72、第1中性子吸収体74および第2中性子吸収体76の配置が変わらないようにする。固定治具78は、軸方向に延びる基部82と、基部82から径方向に延びて第1中性子吸収体74を支持する第1支持部材84と、基部82から径方向に延びて第2中性子吸収体76を支持する第2支持部材86とを備える。なお、固定治具78の具体的な構成は特に限られず、金属板コンバータ72、第1中性子吸収体74および第2中性子吸収体76の相対位置を固定できるものであれば、固定治具78として任意の構造を採用することができる。
【0067】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の測定方法および測定原理を用いて、中性子線源96の三次元位置を測定することができる。本実施の形態では、基準点20を示すマーカとして、金属板コンバータ12の中心孔32に対応する基準領域60の代わりに、第2中性子吸収体76の投影像の中心位置を用いることができる。第2中性子吸収体76が金属板コンバータ72に近接して配置されるため、第2中性子吸収体76の投影像は、金属板コンバータ72の基準点20にほぼ一致する位置に形成できる。
【0068】
(第3の実施の形態)
図12は、第3の実施の形態に係る中性子線源位置測定装置110の構成を模式的に示す側面図である。第3の実施の形態は、複数の金属板コンバータ112a,112b,112c,112d,112eをさらに備える点で、上述の第1の実施の形態と相違する。以下、第3の実施の形態について、第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点については適宜省略する。
【0069】
中性子線源位置測定装置110は、金属板コンバータ12と、中性子吸収体14と、複数の金属板コンバータ112a~112eと、固定治具116とを備える。中性子線源位置測定装置110は、位置決めプレート18をさらに備えてもよい。
【0070】
複数の金属板コンバータ112a~112eは、中性子吸収体14よりも中性子線源96側に配置される。複数の金属板コンバータ112a~112eは、位置決めプレート18が設けられる場合、位置決めプレート18と中性子吸収体14の間に配置される。複数の金属板コンバータ112a~112eは、入射する中性子線NBの二次元強度分布を測定するために用いられる。
【0071】
複数の金属板コンバータ112a~112eは、基準軸22に直交するように配置され、複数の金属板コンバータ112a~112eの厚み方向が軸方向と一致する。複数の金属板コンバータ112a~112eは、軸方向に互いに重なるように配置される。複数の金属板コンバータ112a~112eは、軸方向(z方向)の位置が互いに異なるように間隔を空けて配置され、例えば、軸方向に等間隔となるように配置される。
【0072】
複数の金属板コンバータ112a~112eは、同じ材料で構成される。複数の金属板コンバータ112a~112eは、金属板コンバータ12と同じ材料で構成することができる。複数の金属板コンバータ112a~112eに用いる金属元素として、例えば、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ガドリニウム(Gd)、モリブデン(Mo)または金(Au)を用いることができる。複数の金属板コンバータ112a~112eの材料を同じとすることで、複数の金属板コンバータ112a~112eの測定条件を同じにし、軸方向の測定位置のみを変えることができる。その結果、特定のエネルギー領域における中性子の二次元強度分布を軸方向の異なる複数の位置で測定可能となり、中性子線NBの三次元プロファイルを得ることができる。
【0073】
図示する例では、5枚の金属板コンバータ112a~112eを追加しているが、追加の金属板コンバータの枚数は5枚に限られず、少なくとも2枚以上あればよく、3枚または4枚であってもよいし、6枚以上であってもよい。言い換えれば、同じ材料を用いた金属板コンバータが少なくとも二以上あればよい。
【0074】
複数の金属板コンバータ112a~112eは、
図4に示す金属板コンバータ12と同様に構成することができる。複数の金属板コンバータ112a~112eのそれぞれは、中心孔32と、ノッチ34a,34bと、固定孔36と、罫書線38a,38bとを有してもよい。
【0075】
固定治具116は、金属板コンバータ12、中性子吸収体14および複数の金属板コンバータ112a~112eを固定し、中性子線源96に対する金属板コンバータ12、中性子吸収体14および複数の金属板コンバータ112a~112eの配置が変わらないようにする。固定治具116は、支持プレート24と、スペーサ26と、締結部材28と、追加のスペーサ126とを備える。追加のスペーサ126は、複数の金属板コンバータ112a~112eの間に配置され、複数の金属板コンバータ112a~112eの間隔を維持する。
【0076】
固定治具116は、例えば締結部材28を取り外すことで、金属板コンバータ12および複数の金属板コンバータ112a~112eを分解して取り外しできるよう構成される。中性子線NBの照射後、中性子線源位置測定装置110を分解することにより、金属板コンバータ12および複数の金属板コンバータ112a~112eのそれぞれから放出される放射線の二次元強度分布を高精度で測定できる。
【0077】
複数の金属板コンバータ112a~112eから放出される二次元強度分布は、
図7の転写装置50を用いて読み出すことができる。金属板コンバータ12および複数の金属板コンバータ112a~112eの放射線強度分布は、一つの転写装置50を用いて同時に転写されてもよい。これにより、金属板コンバータ12および複数の金属板コンバータ112a~112eの転写条件を同一にできる。なお、複数の転写装置50を用いてもよく、金属板コンバータ12および複数の金属板コンバータ12a~12eの放射線強度分布が別々の転写装置50を用いて画像化されてもよい。
【0078】
図13(a)~(e)は、複数の金属板コンバータ112a~112eの転写画像の一例を示す図である。
図13の例は、金属板コンバータ12と同様、複数の金属板コンバータ112a~112eとして100mm×100mmのAl板を使用し、複数の金属板コンバータ122a~212eの軸方向の位置を20mmずつ変えた場合を示す。
図13(a)~(e)は、中性子線源96から金属板コンバータ112a~112eまでの距離の順に並べている。
図13(a)は、中性子線源96に最も近い位置に配置される金属板コンバータ112aの転写画像であり、
図13(e)は、中性子線源96から最も遠い位置に配置される金属板コンバータ112eの転写画像である。
図13(a)~(e)に示されるように、中性子線NBの二次元強度分布を高い空間分解能で画像化できていることが分かる。
【0079】
図14は、中性子線NBの三次元プロファイルを示すグラフである。
図14に示す曲線A~Eは、
図13(a)~(e)に示す転写画像の対角線上の強度分布を示す。
図14では、中心孔32の位置を原点とし、固定孔36の位置における強度値を1として規格化している。また、中心孔32がないと仮定した場合の強度分布(点線)をカーブフィッティングにより求めてピーク値を算出し、ピークの半値における強度分布の全幅(FWHM)を破線により示している。
図14から、中性子線源96から離れるにつれて、中性子量のピーク値が減少し、半値全幅Wa,Wbが広がっていく三次元プロファイルを把握できる。
【0080】
図15は、中性子線NBの指向性を示すグラフであり、複数の金属板コンバータ112a~112eの軸方向の位置に対して、
図14に示す曲線A~Eの半値全幅をプロットしたものである。図示されるように、複数の金属板コンバータ112a~112eのそれぞれを用いて算出された中性子強度分布の半値全幅が直線上に並んでおり、
図1に示されるような中性子線NBの指向性を測定できていることが分かる。
図15に示す近似直線の傾き約0.9であることから、半値全幅に基づく指向角が約43度であることが分かる。
【0081】
本実施の形態によれば、金属板コンバータ12および中性子吸収体14を用いて、中性子線源96の三次元位置を測定するとともに、複数の金属板コンバータ112a~112eを用いて中性子線源96から出力される中性子線NBの三次元プロファイルを高い空間分解能で特定できる。さらに、位置決めプレート18を用いることにより、中性子線源位置測定装置110を中性子線源96に対して設置する際の位置決め精度を高めることができる。その結果、中性子線源96から放出される中性子の空間分布である中性子プロファイルを簡便かつ精密に測定できる。
【0082】
複数の金属板コンバータ112a~112eにAl板を用いる場合、転写工程を2回に分けることで、エネルギー別の三次元プロファイルデータが得られる。例えば、中性子線NBの照射により放射化した複数のAl板コンバータのそれぞれから放出される放射線の二次元強度分布を第1転写プレートに転写して第1画像データを生成する。つづいて、第1転写プレートへの転写後に複数のAl板コンバータのそれぞれから放出される放射線の二次元強度分布を第2転写プレートに転写して第2画像データを生成する。第1画像データに基づいて、1.896MeV以上のエネルギーを有する中性子の三次元プロファイルデータを生成できる。また、第2画像データに基づいて、3.249MeV以上のエネルギーを有する中性子の三次元プロファイルデータを生成できる。
【0083】
複数の金属板コンバータ112a~112eの代わりに、複数種類の金属板コンバータを組み合わせて使用してもよい。第1金属元素(例えばAl)を含有する複数の第1金属板コンバータと、第2金属元素(例えばZn)を含有する複数の第2金属板コンバータと、第3金属元素(例えばMo)を含有する複数の第3金属板コンバータとを用いてもよい。例えば、第1金属板コンバータ、第2金属板コンバータおよび第3金属板コンバータを積層させたコンバータセットを用意し、複数のコンバータセットをスペーサを用いて間隔をあけて配置してもよい。一つのコンバータセットに含まれる複数種類の金属板コンバータは、互いに隣接して配置されてもよいし、スペーサを用いて間隔をあけて配置されてもよい。この場合、複数種類の金属板コンバータを組み合わせることにより、複数のエネルギー領域別に中性子線NBの三次元プロファイルデータを得ることができる。
【0084】
例えば、複数のMo板コンバータから、8.373MeV以上のエネルギーを有する中性子の三次元プロファイルデータが得られる。複数のAl板コンバータから、3.249MeV以上のエネルギーを有する中性子の三次元プロファイルデータと、1.896MeV以上のエネルギーを有する中性子の三次元プロファイルデータとが得られる。また、複数のZn板コンバータから、0.9MeV以上のエネルギーを有する中性子の三次元プロファイルデータが得られる。これにより、
図1のエネルギーが異なる中性子線NB1~NB3のそれぞれに対応するような三次元プロファイルデータが得られ、中性子線NBのより詳細な三次元プロファイルを把握可能となる。
【0085】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0086】
上述の実施の形態では、転写プレート52として輝尽性蛍光体を用いる場合を示したが、他の種類の蛍光体を用いてもよいし、鉛泊増感紙と感光フィルムの組み合わせを用いてもよい。
【0087】
上述の実施の形態では、中性子イメージングのために中性子プロファイルを測定する場合について示した。本実施の形態に係る測定方法は、中性子イメージングへの応用に限られず、中性子線が利用される様々な分野に応用されてもよい。例えば、シリコンウェハに中性子線を照射することでシリコン(Si)をリン(P)に変換してドーピングする中性子ドーピング(NTD)法に用いる中性子線源の評価に用いてもよい。また、医療用の中性子線源を評価するために用いてもよく、例えば、癌組織に取り込まれたホウ素(B)に中性子線を照射することで癌組織を選択的に破壊するホウ素中性子補足療法(BNCT)に用いる中性子線源の評価に用いてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10,70,110…中性子線源位置測定装置、12,72…金属板コンバータ、14…中性子吸収体、20…基準点、22…基準軸、42…開口、74…第1中性子吸収体、76…第2中性子吸収体、90…加速器中性子源、92…加速器、94…ターゲット、96…中性子線源。