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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032352
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】加熱装置、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240305BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G15/20 510
G03G15/20 515
H05B3/00 310E
H05B3/00 335
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135961
(22)【出願日】2022-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 保
【テーマコード(参考)】
2H033
3K058
【Fターム(参考)】
2H033AA18
2H033BA11
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB08
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB29
2H033BB30
3K058AA42
3K058BA18
3K058CA23
3K058CA70
3K058CE13
3K058CE19
3K058GA06
(57)【要約】
【課題】赤外線温度検知手段の検知誤差を定量的に把握する指標を提示する。
【解決手段】互いに接触してニップ部Nを形成する一対の回転体21,22と、一対の回転体21,22の少なくとも一方を加熱する加熱源23と、回転体21の外周面に対向して非接触に配置され、回転体21から発する赤外線により温度を検知する赤外線温度検知手段26と、を備える加熱装置において、回転体21の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)の二乗和平方根クロマ(C)が、所定値C1以下となる下記式(15)の関係を満たすように設定される。
【数15】

【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、
前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源と、
前記回転体の外周面に対向して非接触に配置され、前記回転体から発する赤外線により温度を検知する赤外線温度検知手段と、
を備える加熱装置において、
前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)の二乗和平方根クロマ(C)が、所定値C1以下となる下記式(12)の関係を満たすように設定されることを特徴とする加熱装置。
【数12】
【請求項2】
前記所定値C1は、前記回転体に接触して温度を検知する接触式温度検知手段による検知温度と前記赤外線温度検知手段による検知温度との差が2℃以内となるように設定される請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記所定値C1は、2に設定される請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、
前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源と、
前記回転体の外周面に対向して非接触に配置され、前記回転体から発する赤外線により温度を検知する赤外線温度検知手段と、
を備える加熱装置において、
前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)が、前記回転体に接触して温度を検知する接触式温度検知手段による検知温度と前記赤外線温度検知手段による検知温度との差が2℃以内となるような前記彩度(a,b)の平均値(a0,b0)を中心とし、前記彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)をn倍した倍数nσ及びnσのうち小さい方を短軸半径とし大きい方を長軸半径とする楕円の領域内に含まれる下記式(13)の関係を満たすように設定されることを特徴とする加熱装置。
【数13】
【請求項5】
前記標準偏差(σ,σ)のn倍を、3倍以上とする請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)が、前記回転体に接触して温度を検知する接触式温度検知手段による検知温度と前記赤外線温度検知手段による検知温度との差が2℃以内となるような前記彩度(a,b)の平均値(a0,b0)を中心とし、所定値C2を半径とする円の領域内に含まれる下記式(14)の関係を満たすように設定される請求項4に記載の加熱装置。
【数14】
【請求項7】
前記所定値C2を、前記彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)を示すσ及びσのうちの小さい方の3倍以上とする請求項6に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記回転体は、ローラ又はベルトにより構成され、
前記ローラ又は前記ベルトは、内周面側から外周面側に向かって、基材、中間層、表層を有し、
前記基材は、金属材料又は樹脂材料により構成され、
前記中間層は、接着層又は弾性層により構成され、
前記表層は、フッ素樹脂により構成される請求項1又は4に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記基材の内周面は黒色であり、
前記中間層は前記加熱源から放射される赤外線を吸収する材料により構成され、
前記表層は前記加熱源から放射される赤外線を前記中間層よりも吸収せずに透過させる材料により構成される請求項8に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記回転体は、ベルトにより構成され、
前記加熱源は、前記ベルトの内側に配置される面状又は板状のヒータにより構成される請求項1又は4に記載の加熱装置。
【請求項11】
請求項1又は4に記載の加熱装置を用いて未定着画像をシートに定着させることを特徴とする定着装置。
【請求項12】
請求項1又は4に記載の加熱装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタなどの画像形成装置に搭載される加熱装置の一例として、シートを加熱してシート上の画像を定着させる定着装置が知られている。
【0003】
一般的に、定着装置は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、一対の回転体のうちの少なくとも一方を加熱する加熱源を備えている。未定着画像を担持するシートが回転体同士の間(ニップ部)へ搬送されると、シートが加熱及び加圧され、画像がシートに定着される。
【0004】
また、定着装置は、回転体の温度を検知する温度検知手段を備えている。温度検知手段によって検知される温度に基づいて加熱源の発熱が制御されることにより、回転体の温度が適切に維持される。
【0005】
温度検知手段としては、回転体に接触して温度を検知する接触式の温度検知手段と、回転体に対して非接触で温度を検知する非接触式の温度検知手段がある。非接触式の温度検知手段は、回転体の表面が温度検知手段の接触により傷付く虞が無いため、定着装置において多く採用されている。しかしながら、非接触式の温度検知手段は、接触式の温度検知手段に比べて、実際の温度に対する検知温度の誤差が大きい問題がある。
【0006】
上記問題に対して、下記特許文献1(特開2003-323072号公報)においては、検知温度の誤差の原因が、温度センサ(赤外線センサ)によって検知される赤外線量のノイズ成分であるとして、ノイズ成分を少なくし、検知精度を向上させる技術が提案されている。詳しくは、赤外線放射率が高い放射層を回転体に設け、その放射層から放射される赤外線量を赤外線センサによって検知することにより、検知される赤外線量のうちのノイズ成分の割合を少なくし、検知精度を向上させている。
【0007】
このように、特許文献1においては、温度検知手段の検知誤差を低減する方法について提案されている。しかしながら、検知誤差を予測して温度制御を精度良く行うには、検知誤差を一定の範囲内に抑えることが求められるところ、特許文献1において、検知誤差を定量的に把握する指標については何ら検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の事情から、本発明においては、検知誤差を定量的に把握する指標を提示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源と、前記回転体の外周面に対向して非接触に配置され、前記回転体から発する赤外線により温度を検知する赤外線温度検知手段と、を備える加熱装置において、前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)の二乗和平方根クロマ(C)が、所定値C1以下となる下記式(1)の関係を満たすように設定されることを特徴とする。
【数1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検知誤差を定量的に把握できる指標により、検知誤差を一定の範囲内に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
図3】定着ローラにおける赤外線の吸収及び反射の様子を模式的に示す断面図である。
図4】黒色の接着層を有する定着ローラと非黒色の接着層を有する定着ローラにおける赤外線の吸収及び反射の様子を比較して示す断面図である。
図5】温度検知誤差を調べる試験装置の概略構成図である。
図6】接着層が黒色である場合の温度検知誤差を示すグラフである。
図7】接着層が非黒色である場合の温度検知誤差を示すグラフである。
図8】定着ローラの色特性と温度検知誤差との関係を示す表である。
図9】三次元色空間を示す図である。
図10】濃度(ID)と温度検知誤差との関係示すグラフである。
図11】明度(L)と温度検知誤差との関係を示すグラフである。
図12】色相角(h)と温度検知誤差との関係を示すグラフである。
図13】クロマ(C)と温度検知誤差との関係を示すグラフである。
図14】放射率(ε)と温度検知誤差との関係を示すグラフである。
図15】クロマ(C)と放射率(ε)との関係を示すグラフである。
図16】彩度(a,b)を設定する範囲を示す図である。
図17】検知誤差が2℃以下となる彩度(a,b)の平均値avg±3σを示す領域とクロマ(C)が2以下となる領域との関係を示す図である。
図18】彩度(a,b)を設定する範囲の他の例を示す図である。
図19】彩度(a,b)を設定する範囲のさらに別の例を示す図である。
図20】定着ベルトを備える定着装置の一例を示す図である。
図21】定着ベルトの断面図である。
図22】ヒータの平面図である。
図23】ヒータに給電部材としてのコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
図24】他の定着装置の構成を示す図である。
図25】別の定着装置の構成を示す図である。
図26】さらに別の定着装置の構成を示す図である。
図27】上記実施形態とは異なる画像形成装置の構成を示す図である。
図28図27に示される定着装置の構成を示す図である。
図29図28に示されるヒータの平面図である。
図30図28に示されるヒータ及びヒータホルダの斜視図である。
図31図28に示されるヒータに対するコネクタの取付方法を示す図である。
図32図27に示される定着装置が備える温度センサとサーモスタットの配置を示す図である。
図33図31に示されるフランジの溝部を示す図である。
図34】上記とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図35図34に示されるヒータ、第1高熱伝導部材、ヒータホルダの斜視図である。
図36】第1高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
図37】第1高熱伝導部材の配置の他の例を示すヒータの平面図である。
図38】第1高熱伝導部材の配置のさらに別の例を示すヒータの平面図である。
図39】拡大分割領域を示すヒータの平面図である。
図40】上記とは異なる別の定着装置の構成を示す図である。
図41図40に示されるヒータ、第1高熱伝導部材、第2高熱伝導部材、ヒータホルダの斜視図である。
図42】第1高熱伝導部材及び第2高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
図43】第1高熱伝導部材及び第2高熱伝導部材の配置の他の例を示すヒータの平面図である。
図44】第2高熱伝導部材の配置のさらに別の例を示すヒータの平面図である。
図45】上記とは異なるさらに別の定着装置の構成を示す図である。
図46】グラフェンの原子結晶構造を示す図である。
図47】グラファイトの原子結晶構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。ここで、本明細書中における「画像形成装置」には、プリンタ、複写機、ファクシミリ、印刷機、又は、これらのうちの二つ以上を組み合わせた複合機などが含まれる。また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字及び図形などの意味を持つ画像を形成するだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を形成することも意味する。まず、図1を参照して、本実施形態に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態に係る画像形成装置100は、用紙などのシート状の記録媒体に画像を形成する画像形成部200と、記録媒体に画像を定着させる定着部300と、記録媒体を画像形成部200へ供給する記録媒体供給部400と、記録媒体を装置外へ排出する記録媒体排出部500を備えている。
【0015】
画像形成部200には、作像ユニットとしての4つのプロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkと、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkが備える感光体2に静電潜像を形成する露光装置6と、記録媒体に画像を転写する転写装置8が設けられている。
【0016】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色のトナー(現像剤)を収容している以外、基本的に同じ構成である。具体的に、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体としての感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電部材3と、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する現像装置4と、感光体2の表面を清掃するクリーニング部材5を備えている。
【0017】
転写装置8は、中間転写ベルト11と、一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13を備えている。中間転写ベルト11は、無端状のベルト部材であり、複数の支持ローラによって張架されている。一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11の内側に4つ設けられている。各一次転写ローラ12が中間転写ベルト11を介して各感光体2に接触することにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に一次転写ニップが形成されている。二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11の外周面に接触し、二次転写ニップを形成している。
【0018】
定着部300においては、定着装置20が設けられている。定着装置20は、定着ローラ21と加圧ローラ22などを備えている。定着ローラ21と加圧ローラ22は、それぞれの外周面において互いに接触し、ニップ部(定着ニップ)を形成する。
【0019】
記録媒体供給部400には、記録媒体としての用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15が設けられている。以下、「記録媒体」を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は、紙(用紙)だけでなくOHPシート又は布帛、金属シート、プラスチックフィルム、あるいは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。また、「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙及びアート紙など)、トレーシングペーパなども含まれる。
【0020】
記録媒体排出部500には、用紙Pを画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙Pを載置する排紙トレイ18が設けられている。
【0021】
次に、図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0022】
印刷動作が開始されると、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2及び転写装置8の中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が、回転を開始し、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触することにより静止し、用紙Pに転写される画像が形成されるまで用紙Pの搬送が一旦停止される。
【0023】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、まず、帯電部材3によって、感光体2の表面を均一な高電位に帯電させる。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が、各感光体2の表面(帯電面)に露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4がトナーを供給し、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。なお、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkのいずれか一つを使用して単色画像を形成したり、いずれか2つ又は3つのプロセスユニットを用いて2色又は3色の画像を形成したりすることもできる。また、感光体2から中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後は、クリーニング部材5によって各感光体2上の残留トナーなどが除去される。
【0024】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。その後、用紙Pは、定着装置20へと搬送され、定着ローラ21と加圧ローラ22によって用紙P上のトナー画像が加熱及び加圧されることにより、トナー画像が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、記録媒体排出部500へ搬送され、排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出される。これにより、一連の印刷動作が終了する。
【0025】
続いて、図2に基づき、本実施形態に係る定着装置の構成について詳しく説明する。
【0026】
図2に示されるように、本実施形態に係る定着装置20は、定着ローラ21及び加圧ローラ22のほか、ハロゲンヒータ23と、入口ガイド24と、出口ガイド25と、温度センサ26を備えている。
【0027】
定着ローラ21は、用紙Pの未定着画像担持面に接触し、用紙Pに画像(未定着トナーT)を定着させる定着部材として機能する回転体(第1回転体)である。定着ローラ21は、例えば、外径が30mmで厚みが0.7mmのアルミニウム製の基材を有している。基材の材料は、アルミニウム以外に、鉄などの他の金属材料であってもよい。基材の外周面には、耐久性及び離型性を確保するための表層として、例えば、厚みが5~50μmで、PFA又はPTFEなどのフッ素系樹脂から成る離型層が設けられている。また、基材と離型層(表層)との間に、中間層として、ゴムなどから成る弾性層が設けられていてもよい。
【0028】
加圧ローラ22は、定着ローラ21に対向して配置される回転体(第2回転体)である。また、加圧ローラ22は、定着ローラ21に加圧されてニップ部Nを形成する加圧部材でもある。加圧ローラ22は、バネなどの付勢部材によって定着ローラ21の外周面に加圧される。これにより、定着ローラ21と加圧ローラ22との間(接触箇所)に、ニップ部Nが形成される。加圧ローラ22は、例えば、外径が30mmであり、中実の鉄製芯金と、芯金の外周面に設けられた弾性層と、弾性層の外周面に設けられた離型層を有している。弾性層は、例えば、厚みが10mmで、シリコーンゴムなどにより形成されている。離型層は、例えば、厚みが30μm程度で、PFA又はPTFEなどのフッ素系樹脂により形成されている。
【0029】
定着ローラ21の内側には、ハロゲンヒータ23が配置されている。ハロゲンヒータ23は、通電により赤外線を放射し、その赤外線の輻射熱により加熱対象物を加熱する加熱源である。ハロゲンヒータ23から赤外線が放射されると、定着ローラ21が輻射熱により加熱される。また、ハロゲンヒータ23以外に、カーボンヒータ又はセラミックヒータなどの他の輻射熱式のヒータを用いてもよい。
【0030】
入口ガイド24は、用紙Pをニップ部Nへ案内するために、ニップ部Nよりも用紙搬送方向の上流側に配置される上流側ガイド部材である。図2に示されるように、未定着トナーを担持する用紙Pが、入口ガイド24によってニップ部Nへ案内されると、図2中の矢印方向へ回転する定着ローラ21と加圧ローラ22によって用紙Pが搬送され、用紙Pがニップ部Nを通過する。このとき、用紙P上の未定着トナーが加熱及び加圧されることにより、未定着トナー(画像)が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、ニップ部Nから排出され、ニップ部Nよりも用紙搬送方向の下流側に配置される出口ガイド(下流側ガイド部材)25によって下流側へ案内される。
【0031】
ハロゲンヒータ23の出力は、温度センサ26によって検知される定着ローラ21の表面温度に基づいて制御される。温度センサ26は、定着ローラ21の外周面に対向して非接触に配置され、定着ローラ21から放射される赤外線を検知するサーモパイルなどの赤外線温度検知手段である。
【0032】
ところで、非接触式の温度検知手段である赤外線温度検知手段は、接触式の温度検知手段に比べて、検知温度の誤差が大きいことが知られている。このような検知誤差があっても、その誤差範囲が2℃以内であれば、定着ローラの温度制御をある程度精度良く行うことが可能である。しかしながら、実際は同じ赤外線温度検知手段を用いても、検知対象である定着ローラの構成が異なれば、検知誤差にばらつきが生じる。このため、温度制御を精度良く行うには、赤外線温度検知手段の性能のほか、定着ローラの構成を検討する必要がある。以下、定着ローラの構成の違いにより、検知誤差にばらつきが生じるメカニズムについて説明する。
【0033】
一般的に、定着ローラの内周面には、加熱源から放射される赤外線を効率良く吸収するため、黒色塗装が施されていることが多い。図3に示されるように、本実施形態に係る定着ローラ21も、金属製の基材21aの内周面に、赤外線吸収層としての黒色塗料層21dが設けられている。黒色塗料層21dとしては、例えば、銅、クロム、マンガンなどの複合酸化物から成る黒色顔料が用いられる。また、基材21aの外周面には、中間層である接着層21bを介して離型層(表層)21cが設けられている。
【0034】
図3中の矢印にて示されるように、加熱源から放射される赤外線Lは、定着ローラ21の黒色塗料層21dを介して基材21aに入射する。このとき、黒色塗料層21dにおいては、赤外線Lの反射が少ないため効率良く赤外線が吸収される。そして、赤外線Lは、基材21aから接着層21bを通って離型層21cから放射される。
【0035】
ここで、離型層21cは、接着層21bよりも赤外線を吸収せず、赤外線を透過させる材料(例えばPFA又はPFAにカーボンを分散させた材料など)により構成されることが多い。一方、接着層21bは、離型層21cよりは赤外線を吸収する黒色又は茶色などの材料により構成される。従って、離型層21cが(カーボンが分散しない)PFAなどの透明な材料により構成される場合は、定着ローラをその外周面側から見ると、定着ローラの色は接着層21bの色の影響で黒色又は茶色などに見える。
【0036】
また、接着層21bの色は、定着ローラの赤外線放射特性に影響を与えることが分かっている。その理由は、接着層21bの色に応じて、接着層21bにおける赤外線吸収量(又は赤外線反射量)が異なるため、定着ローラの外周面から放射される赤外線量に差が生じるからである。
【0037】
すなわち、図4(a)に示されるように、接着層21bの色が黒色である場合は、接着層21bにおける赤外線Lの反射(反射光La)が少なく、透明の離型層21cから放射される赤外線Lbの量が多くなる。一方、図4(b)に示されるように、離型層21cが同じ透明の材料であっても、接着層21bの色が茶色などの非黒色である場合は、接着層21bにおける赤外線Lの反射(反射光La)が多くなるため、離型層21cから放射される赤外線Lbの量が少なくなる傾向にある。このように、接着層21bの色が黒色の場合と非黒色の場合とでは、離型層21cから放射される赤外線量が異なるため、その赤外線量を検知する赤外線温度検知手段の検知温度にも違いが生じる。このことを確認するため、本発明者らは次のような試験を行った。
【0038】
図5は、温度検知誤差を調べる試験装置の概略構成図である。
【0039】
図5に示される試験装置は、定着ローラ21の温度を検知する温度検知手段として、非接触式のサーモパイル9のほか、接触式の熱電対10を備えている。サーモパイル9は、赤外線温度検知手段であり、定着ローラ21の外周面に対して非接触に配置されている。一方、熱電対10は、定着ローラ21の外周面に接触するように配置されている。
【0040】
サーモパイル9は、定着ローラ21から放射される赤外線を受光すると、サーモパイル9の熱電対集合体による出力電圧V1と、サーモパイル9の雰囲気温度検知サーミスタの出力電圧V2が、センサインターフェース回路30を介してディジタル変換回路31へ送られる。そして、各出力電圧V1,V2は、ディジタル変換回路31によってディジタル化され、演算回路32へ送られる。演算回路32においては、ディジタル化された出力電圧V1,V2と、放射率設定部33により設定された定着ローラの放射率とに基づき、サーモパイル検知温度(Ts)が算出される。
【0041】
一方、接触式の熱電対10においては、熱電効果により発生した出力電圧V3が、センサインターフェース回路38を介してディジタル変換回路39へ送られる。そして、出力電圧V3は、ディジタル変換回路39によってディジタル化され、熱電対検知温度(T)として出力される。
【0042】
接触式の熱電対10によって検知される熱電対検知温度(T)は、非接触式のサーモパイル9によって検知されるサーモパイル検知温度(Ts)に比べて、定着ローラ21の実際の温度に近い値である。従って、本試験においては、熱電対検知温度(T)とサーモパイル検知温度(Ts)との温度差(|T-Ts|)をサーモパイルの検知誤差とし、上記試験装置を用いて接着層の色が異なる定着ローラの表面温度を検知した。その結果を、図6及び図7に示す。
【0043】
図6は、定着ローラの接着層が黒色である場合の結果を示し、図7は、定着ローラの接着層が茶色(非黒色)である場合の結果を示す。なお、いずれの定着ローラにおいても、基材はアルミニウム製、離型層は透明のPFA製であり、基材の内周面には黒色塗装が施されている。
【0044】
図6に示されるように、接着層が黒色である場合は、熱電対検知温度(T)とサーモパイル検知温度(Ts)との温度差が比較的小さく、具体的には温度差が1℃以下となった。これに対して、図7に示されるように、接着層が茶色である場合は、熱電対検知温度(T)とサーモパイル検知温度(Ts)との温度差が大きくなり、温度差は14℃~17℃となった。このように、接着層が茶色である場合の検知誤差が、接着層が黒色である場合の検知誤差に比べて大きくなったのは、上述のように、茶色の接着層において、赤外線の反射(反射光)が多くなり、定着ローラ(離型層)から放射される赤外線が少なくなったからと考えられる(図4(b)参照)。
【0045】
また、定着ローラから放射される赤外線の量は、定着ローラの放射率により表すこともできる。放射率とは、物体が熱放射により発する光のエネルギーを、同温の黒体が発する光のエネルギーを1としたときの比で表した値である。定着ローラが黒体である場合は、定着ローラの放射率が「1」となる。
【0046】
ここで、定着ローラの放射率(ε)と、定着ローラの実際の温度(T)と、サーモパイルの検知温度(Ts)の間には、下記式(2)の関係が成立する(計測自動制御学会温度計測部会編:温度計測‐基礎と応用‐、コロナ社、P284-P285(2018-2)参照)。
【0047】
【数2】
【0048】
上記式(2)によれば、定着ローラが黒体である場合、定着ローラの放射率(ε)が「1」となるので(ε=1)、T=Tsとなり、サーモパイルの検知温度(Ts)と実際の温度(T)が完全に一致する。一方、定着ローラが非黒体である場合は、定着ローラの放射率(ε)が「1」未満となるので(ε<1)、T>Tsとなり、サーモパイルの検知温度(Ts)が実際の温度(T)よりも低くなる。
【0049】
従って、定着ローラが黒体であれば、定着ローラの放射率(ε)が「1」となり、サーモパイルの検知温度(Ts)と実際の温度(T)が理論上一致するので、サーモパイルの検知誤差を「0」にすることができる。しかしながら、本発明者らが調べた結果、定着ローラの見かけの色が黒色であっても、サーモパイルの検知誤差が大きくなる場合があることがわかった。
【0050】
図8に、定着ローラの色特性と検知誤差との関係を調べた試験結果を示す。
【0051】
本試験においては、定着ローラの構成材料、焼成条件、及び見かけの色が異なる複数のサンプルを用意し、図5に示される試験装置によってサンプルごとのサーモパイルの検知誤差を測定した。検知誤差は、定着装置に通紙せずに定着ローラの温度を所定の目標温度に維持しながら待機する待機時と、定着ローラの温度が待機状態よりも高い目標温度に維持されて通紙を行う印刷時において行った。図8の表においては、待機時及び印刷時におけるそれぞれの熱電対検知温度(T)とサーモパイル検知温度(Ts)との温度差(T-Ts)をサーモパイルの検知誤差として示しているほか、待機時及び印刷時の中で最も大きい検知誤差の絶対値(|T-Ts|)も示している。なお、各サンプルの離型層材料、接着層材料、及び焼成条件については、詳しい内容の説明を省略し、図8においてアルファベットと数字の組み合わせにより簡略化して示している(離型層材料:A1~A5、接着層材料:B1~B5、焼成条件:C1~C19)。
【0052】
また、本試験においては、定着ローラの色特性である、濃度(ID)、明度(L)、彩度(a,b)を、サンプルごとに測定した。これらの色特性の測定は、定着ローラ単体を非加熱の常温下で平面上に固定し、定着ローラ外周面の軸方向中央位置の色特性をエックスライト社製の分光測色計「X-rite eXact」を用いてに測定することにより行った。
【0053】
ここで、明度(L)及び彩度(a,b)は、図9に示される三次元色空間(CIELAB色空間)により表される色特性である。明度(L)は、その値が大きいほど明るい色であることを示す。彩度(a,b)は、互いに直交する二軸の色座標により表されるパラメータであり、aの値が+の値であれば赤方向、-の値であれば緑方向の色であることを示し、bの値が+の値であれば黄方向、-の値であれば青方向の色であることを示す。また、aとbがいずれも「0」(色座標上の原点)である場合は、無彩色である。反対に、彩度(a,b)が「0」から遠ざかるほどあざやかな色となる。
【0054】
また、図8の表においては、彩度(a,b)を示すパラメータとして、色座標上のa及びbの値のほか、二乗和平方根クロマ(C)と色相角(h)のそれぞれの値も示している。
【0055】
二乗和平方根クロマ(C)(以下、単に「クロマ(C)」という。)は、彩度(a,b)の二乗和平方根(色座標上の原点からの距離)であり、下記式(3)により表される。クロマ(C)の値が大きい場合は、原点から離れたあざやかな色を示し、クロマ(C)の値が小さい場合は、原点に近いくすんだ色を示す。
【0056】
【数3】
【0057】
色相角(h)は、図9に示される+a方向(赤方向)の軸を0°として、そこから彩度(a,b)の位置までの反時計方向の角度であり、下記式(4)により表される。例えば、色相角(h)が90°の場合は、+b方向(黄方向)の色であることを示す。
【0058】
【数4】
【0059】
図8に示される試験結果によれば、表中の太枠にて囲まれたサンプルNo.10、11、12、22においては、目視による接着層の見かけの色が黒色であるにもかかわらず、サーモパイルの最大検知誤差が許容誤差の2℃を超え、他の接着層が黒色であるサンプルの検知誤差よりも大きくなった。この結果から、接着層の見かけの色が同じ黒色であっても、それだけでは検知誤差の大きさを定量的に判断するのは難しいといえる。そこで、本発明者らは、検知誤差の大きさを定量的に判断できるようにするため、定着ローラの色特性である、濃度(ID)、明度(L)、クロマ(C)及び色相角(h)が、検知誤差を定量的に把握する指標となり得るか否かを検討した。
【0060】
図10は、上記各サンプルのデータから濃度(ID)と検知誤差に着目して作成したグラフである。
【0061】
図10において、●印は、接着層が黒色で検知誤差が2℃以下となったサンプル、×印は、接着層が黒色であるにもかかわらず検知誤差が2℃より大きくなったサンプル、◆印は、接着層が非黒色で検知誤差が2℃より大きくなったサンプルを示す。なお、後述の図11図14及び図17における各印も同じ内容のサンプルのデータを示す。
【0062】
図10のグラフによれば、検知誤差が2℃以下となったサンプル(●印)は、いずれも濃度(ID)が1.5以上である。しかしながら、濃度(ID)が1.5以上となるものには、検知誤差が2℃以下となるサンプル(●印)のほか、検知誤差が2℃を超えるサンプル(×印、◆印)も含まれる。従って、濃度(ID)と検知誤差との関係からは、検知誤差が2℃以下となったサンプルとそれ以外のサンプルとを識別可能な閾値を得ることはできない。このため、濃度(ID)は、検知誤差を定量的に把握する指標として用いることは難しい。
【0063】
次に、図11に、明度(L)と検知誤差との関係を示す。
【0064】
図11に示される明度(L)と検知誤差との関係においては、検知誤差が2℃以下となったサンプル(●印)は、いずれも明度(L)が20以下である。しかしながら、明度(L)が20以下となるものには、検知誤差が2℃を超えるサンプル(×印、◆印)も含まれる。従って、明度(L)と検知誤差との関係からも、検知誤差が2℃以下となるサンプルとそれ以外のサンプルとを識別可能な閾値を得ることはできない。このため、明度(L)も、検知誤差を定量的に把握する指標として用いることは難しいといえる。
【0065】
続いて、図12に、色相角(h)と検知誤差との関係を示す。
【0066】
図12に示される色相角(h)と検知誤差との関係においては、検知誤差が2℃以下となったサンプル(●印)は、いずれも色相角(h)が50°以上又は-50°以下となる。しかしながら、色相角(h)が50°以上となるものには、検知誤差が2℃を超えるサンプル(×印、◆印)も含まれるため、色相角(h)と検知誤差との関係からも、検知誤差が2℃以下となるサンプルとそれ以外のサンプルとを識別可能な閾値を得ることはできない。このため、色相角(h)も、検知誤差を定量的に把握する指標として用いることは難しいといえる。
【0067】
続いて、図13に、クロマ(C)と検知誤差との関係を示す。
【0068】
図13に示されるクロマ(C)と検知誤差との関係においては、検知誤差が2℃以下となったサンプル(●印)は、いずれもクロマ(C)が2以下となる。さらに、この関係において、クロマ(C)が2以下となるものには、検知誤差が2℃を超えるサンプル(×印、◆印)は含まれない。従って、クロマ(C)は、検知誤差が2℃以下となるサンプルとそれ以外のサンプルとを識別可能な閾値として用いることができるといえる。
【0069】
さらに、本発明者らは、クロマ(C)と定着ローラの放射率(ε)の間に相関関係があるか否かを調べた。
【0070】
相関関係の調査においては、まず、上記サンプルの中から適宜選択された定着ローラを定着装置に搭載し、定着ローラを例えば170℃などの一定温度に維持したまま空転させ、赤外線温度計により定着ローラの温度を測定した。そして、斯かる温度測定を、異なる放射率の設定の下、5回行った。そして、同時に接触式の熱電対によって定着ローラの温度を測定し、その接触式の熱電対の温度をT、赤外線温度計の検知温度をTs、放射率をεとして、上記式(2)を用いて最小二乗法により係数(c)を算出した。
【0071】
次に、上記定着ローラを備える定着装置を画像形成装置に搭載し、図5に示される試験装置を用いて待機時及び印刷時における定着ローラの温度を検知した。そして、そのとき得られた熱電対検知温度(T)とサーモパイル検知温度(Ts)、及び上記係数(c)から、式(2)を変形させた下記式(5)を用いて、定着ローラの放射率(ε)を算出した。算出された係数(c)及び放射率(ε)は、図8の表に示される通りである。
【0072】
【数5】
【0073】
図14は、図8の表に基づき放射率(ε)とサーモパイルの検知誤差との関係をまとめたグラフである。
【0074】
図14に示されるように、接着層が黒色で検知誤差が2℃以下となった定着ローラ(●印)は、放射率(ε)が0.989以上となり、接着層が黒色であるにもかかわらず検知誤差が2℃より大きくなった定着ローラ(×印)は、放射率(ε)が0.985となった。また、接着層が非黒色で検知誤差が2℃より大きくなった定着ローラ(◆印)は、放射率(ε)が0.92以上0.978以下となった。すなわち、放射率(ε)が「1」に近いほど、サーモパイルの検知誤差が小さくなった。
【0075】
また、図15は、図8の表に基づきクロマ(C)と放射率(ε)との関係をまとめたグラフである。
【0076】
図15から、放射率(ε)が「1」に近く、特に0.989以上の場合は、クロマ(C)が2以下となることが分かる。言い換えれば、クロマ(C)が2以下であれば、放射率(ε)が「1」に近くなる。このように、クロマ(C)と放射率(ε)との間には相関関係があり、クロマ(C)を2以下にすれば、放射率(ε)が「1」に近くなって、サーモパイルの検知誤差を2℃以下にすることができる。
【0077】
従って、上記各試験により得られた知見から、本発明においては、サーモパイルの検知誤差を定量的に把握する指標として、定着ローラの外周面側から測定される彩度(a,b)の二乗和平方根であるクロマ(C)を用いることを提案する。
【0078】
具体的には、クロマ(C)が、所定値C1以下となる下記式(6)の関係を満たすように設定されることにより、検知誤差が一定値以下となる定着ローラを提供できる。すなわち、定着ローラの外周面側から測定された彩度(a,b)を、図16に示される色座標上の原点(0,0)を中心とする半径C1の円内に含まれるように設定すれば、検知誤差を一定の範囲内に抑えることができるようになる。
【0079】
【数6】
【0080】
特に、上記式(6)において所定値C1が「2」である場合は、クロマ(C)が2以下となるように設定されるので、サーモパイルの検知誤差を2℃以下にすることができる。この場合、定着ローラの温度制御を精度良く行うことが可能となる。
【0081】
ここで、図8の表に示される各サンプルのデータのうち、サーモパイルの検知誤差が2℃以下となる定着ローラの彩度(a,b)を抽出し、これらのデータ平均値avg±3σを算出すると、図17に示される楕円となる。なお、この場合、検知誤差が2℃以下となる定着ローラの彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)は、σ=0.2683、σ=0.7568である。
【0082】
検知誤差が2℃以下となる定着ローラの彩度(a,b)のデータ分布が正規分布となる場合は、統計学上、99.7%以上のデータがデータ平均値avg±3σによって示される範囲内に含まれる。すなわち、検知誤差が2℃以下となる彩度(a,b)のデータのほとんど(正規分布の場合は99.7%以上)は、図17に示される楕円内に含まれることになる。また、図17において、破線にて示される円は、クロマ(C)が2となる領域である。図17に示されるように、クロマ(C)が2となる円内の領域は、検知誤差が2℃以下となるデータのほとんどを含む楕円内の領域を包含しているため、上記のように、定着ローラの彩度(a,b)を、クロマ(C)が2以下となるように設定することにより、サーモパイルの検知誤差が2℃以下となるような定着ローラを提供できるようになる。
【0083】
また、定着ローラの外周面側から測定された彩度(a,b)が、図17に示される楕円内の領域に含まれるように設定されれば、サーモパイルの検知誤差を2℃以下にすることができる。実際に、図8の表に示されるデータを用いた場合、それぞれの標準偏差(σ,σ)にばらつきがあるため、データ平均値avg±3σによって示される範囲は、図18に示されるような原点(0,0)からずれた位置(a0,b0)を中心とする楕円となる。この場合、色座標上の点(-0.3217,-0.3745)を中心とする楕円となる。すなわち、図18に示される楕円は、サーモパイルの検知誤差が2℃以内となるような彩度(a,b)の平均値(a0,b0)を中心とし、その彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)をn倍した倍数nσ及びnσのうち小さい方を短軸半径とし大きい方を長軸半径とする楕円として表される。従って、定着ローラの彩度(a,b)が図18に示される楕円内の領域を示す下記式(7)の関係を満たすように設定されることにより、サーモパイルの検知誤差を2℃以内に抑えることができるようになる。
【0084】
【数7】
【0085】
また、定着ローラの彩度(a,b)が上記式(7)の関係を満たすような値に設定されることにより、定着ローラの色が無彩色(a=b=0)から多少ずれた色であっても、サーモパイルの検知誤差を一定の範囲内に抑えることができる。また、式(7)中の「n」を「3」以上とすれば、検知誤差が2℃以下となる彩度(a,b)のデータのほとんど(正規分布の場合は99.7%以上)が含まれる範囲内に、定着ローラの彩度(a,b)が設定されるので、検知誤差が2℃以下となる定着ローラをより確実に提供できるようになる。
【0086】
また、図19に示される例のように、原点(0,0)からずれた位置(a0,b0)を中心とする半径C2の円を基準に、定着ローラの彩度(a,b)を設定してもよい。この半径C2の円は、図18に示される上記楕円の中心と同じ位置(a0,b0)を中心とし、当該楕円の短径を半径C2とする円である。すなわち、半径C2の円は、サーモパイルの検知誤差が2℃以内となるような彩度(a,b)の平均値(a0,b0)を中心とし、彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)を示すσ及びσのうちの小さい方のn倍を半径とする円である。従って、定着ローラの外周面側から測定された彩度(a,b)が、図19に示される円内の領域を示す下記式(8)の関係を満たす値に設定されることにより、定着ローラの色が無彩色(a=b=0)から多少ずれた色であっても、サーモパイルの検知誤差を一定の範囲内に抑えることができるようになる。
【0087】
【数8】
【0088】
上記式(8)における所定値C2(円の半径)は、彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)を示すσ及びσのうち、小さい方のn倍の値(nσ又はnσ)として表されるが、nを3倍以上とすれば、検知誤差が2℃以下となる彩度(a,b)のデータのほとんど(正規分布の場合は99.7%以上)が含まれる範囲内に、定着ローラの彩度(a,b)を設定できる。この場合、検知誤差が2℃以下となる定着ローラをより確実に提供できるようになる。
【0089】
以上のように、本発明においては、定着ローラの外周面側からその彩度(a,b)を測定し、測定された彩度(a,b)が上記式(6)、式(7)、式(8)のいずれかの関係を満たすようにすれば、サーモパイルの検知誤差が一定値以下となる定着ローラを提供することができる。これにより、定着ローラの温度制御が行いやすくなり、温度制御の精度を向上させることが可能である。また、定着ローラの彩度(a,b)を測定することによりサーモパイルの検知誤差を定量的に把握することができるので、定着ローラが所定の条件を満たすか否かの品質検査を行うことができる。しかも、定着ローラの彩度(a,b)の測定は、定着ローラが常温状態(非加熱状態)である場合に行うことができるので、定着ローラの品質検査を容易に行える。すなわち、本発明によれば、サーモパイルの検知誤差を定量的に把握するために、定着ローラを加熱してその放射率(ε)を調べなくてもよいので、検査作業を簡素化でき、品質検査を容易に行える。
【0090】
上記実施形態においては、定着ローラの彩度(a,b)が所定の条件を満たすように設定する場合を例に説明したが、本発明は、定着ローラを備える定着装置に限らず、無端状の定着ベルトを備える定着装置にも適用可能である。以下、定着ベルトを備える定着装置の例について、いくつか説明する。
【0091】
図20は、定着ベルトを備える定着装置の一例を示す図である。
【0092】
図20に示される定着装置40は、定着ベルト41と、加圧ローラ42と、ヒータ43と、ヒータホルダ44と、ステー45と、温度センサ46を備えている。
【0093】
定着ベルト41は、用紙Pの未定着トナー担持面に接触して未定着トナー(未定着画像)を用紙Pに定着する回転体(第1回転体又は定着部材)であり、可撓性を有する無端状のベルトにより構成される。定着ベルト41の直径は、例えば15~120mmになるように設定される。
【0094】
図21に示されるように、定着ベルト41は、例えば、内周面側から外周面側に向かって順に、基材410、弾性層411、離型層412が積層され、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。基材410は、層厚が30~50μmであって、ニッケル、ステンレスなどの金属材料、あるいはポリイミドなどの樹脂材料により形成される。中間層である弾性層411は、層厚が100~300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料により形成されている。定着ベルト41が弾性層411を有していることにより、ニップ部における定着ベルト41表面の微小な凹凸が形成されなくなるため、用紙P上のトナー画像に熱が均一に伝わりやすくなる。表層である離型層412は、層厚が10~50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)などの材料により形成されている。定着ベルト41が、離型層412を有していることにより、トナー(トナー画像)に対する離型性(剥離性)が確保される。
【0095】
図20に示されるように、加圧ローラ42は、定着ベルト41の外周面に対向して配置される回転体(第2回転体又は対向部材)である。加圧ローラ42は、定着ベルト41を介してヒータ43に接触し定着ベルト41との間にニップ部Nを形成する。加圧ローラ42としては、図2に示される加圧ローラ22と同じような構成のローラが用いられる。
【0096】
加圧ローラ42が図20に示される矢印方向に回転駆動すると、その駆動力が定着ベルト41に伝達されることにより、定着ベルト41が従動回転する。そして、未定着画像を担持する用紙Pが、定着ベルト41と加圧ローラ42との間(ニップ部N)に搬送されると、ヒータ43によって加熱される定着ベルト41と加圧ローラ42によって用紙P上のトナー画像が加熱及び加圧され、画像が用紙Pに定着される。
【0097】
ヒータ43は、面状又は板状の加熱源である。ヒータ43は、定着ベルト41の長手方向(用紙搬送方向に交差する用紙幅方向)に渡って長手状に延在するように内周面に接触し、定着ベルト41をその内側から加熱する。具体的に、ヒータ43は、基材55と、基材55上に設けられた抵抗発熱体56と、抵抗発熱体56を覆う絶縁層57などを有している。
【0098】
図20に示される例においては、抵抗発熱体56が、基材55の加圧ローラ22側(ニップ部N側)の面に設けられているが、これとは反対側の面に設けられていてもよい。その場合、各抵抗発熱体56の熱が基材55を介して定着ベルト41に伝達されるため、基材55は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料によって構成されることが好ましい。
【0099】
ヒータホルダ44は、定着ベルト41の内側に配置され、ヒータ43を保持する加熱源保持部材である。ヒータホルダ44は、ヒータ43の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料によって構成されることが好ましい。例えば、ヒータホルダ44が、LCP又はPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂によって構成される場合は、ヒータホルダ44の耐熱性を確保しつつ、ヒータ43からヒータホルダ44への伝熱が抑制されるので、定着ベルト41を効率的に加熱できる。
【0100】
図20に示される例においては、ヒータホルダ44が、定着ベルト41を内側からガイドするガイド部440を有している。ガイド部440は、定着ベルト41の内周面に倣って円弧状の断面形状を有し、定着ベルト41の回転方向(図20中の矢印方向)におけるヒータ43の上流側及び下流側にそれぞれ配置されている。なお、ガイド部440は、ヒータホルダ44と一体に構成される場合に限らず、別体に構成されてもよい。
【0101】
ステー45は、ヒータホルダ44を支持する支持部材である。ステー45によってヒータホルダ44の加圧ローラ42側の面とは反対の面が定着ベルト41の長手方向に渡って支持されることにより、ヒータホルダ44が加圧ローラ42の加圧力によって撓むのが抑制され、定着ベルト41と加圧ローラ42との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。ステー45は、その剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料によって構成されることが好ましい。
【0102】
温度センサ46は、定着ベルト41の外周面に対向して非接触に配置される非接触式センサであり、定着ベルト41から放射される赤外線を検知する赤外線温度検知手段である。温度センサ46によって検知された温度は画像形成装置に搭載されるCPUなどの制御部に送られ、検知された温度に基づいて制御部がヒータ43の発熱量を制御することにより、定着ベルト41の温度が画像を定着可能な温度(定着温度)に維持される。
【0103】
図22は、上記ヒータ43の平面図である。
【0104】
図22に示されるように、ヒータ43は、一方向(図22中の矢印X方向)に伸びる板状の基材55を有している。基材55は、その長手方向Xが定着ベルト41の長手方向又は加圧ローラ42の軸方向を向くように配置される。基材55の表面には、2つの抵抗発熱体56が、基材55の長手方向Xへ伸び、基材55の短手方向Yに並んで配置されている。なお、この「短手方向」とは、基材55の抵抗発熱体56が設けられる面に沿って長手方向Xとは直交する方向を意味し、用紙が搬送される用紙搬送方向と同じ方向である。
【0105】
図22に示されるように、基材55の長手方向Xの一端側には、一対の電極部58が設けられている。各電極部58は、給電線59を介して各抵抗発熱体56に接続されている。また、各抵抗発熱体56の電極部58に接続される端とは反対側の端は、別の給電線59を介して互いに接続されている。各抵抗発熱体56及び各給電線59は、絶縁性を確保するため、絶縁層57によって覆われている。これに対し、各電極部58は、後述の給電端子としてのコネクタが接続できるように、絶縁層57によって覆われておらず露出している。
【0106】
基材55は、アルミナ又は窒化アルミなどのセラミック、ガラス、マイカ、ポリイミドなどの耐熱性と絶縁性に優れる材料によって構成される。また、基材55は、ステンレス(SUS)、鉄又はアルミニウムなどの金属材料(導電性材料)の上に絶縁層を形成したものであってもよい。特に、基材55の材料が、アルミニウム、銅、銀、グラファイト、グラフェンなどの高熱伝導材料である場合は、ヒータ43の均熱性が向上し、画像品質を高めることができる。絶縁層57は、アルミナ又は窒化アルミなどのセラミック、ガラス、マイカ、ポリイミドなどの耐熱性と絶縁性に優れる材料によって構成される。抵抗発熱体56は、例えば、銀パラジウム(AgPd)及びガラス粉末などを調合したペーストを基材55の表面にスクリーン印刷などにより塗工し、その後、基材55を焼成することによって形成される。また、抵抗発熱体56の材料として、銀合金(AgPt)又は酸化ルテニウム(RuO)などの抵抗材料を用いることも可能である。また、電極部58及び給電線59は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷するなどにより形成される。
【0107】
図23は、ヒータ43に給電部材としてのコネクタ50が接続された状態を示す斜視図である。
【0108】
図23に示されるように、コネクタ50は、樹脂製のハウジング51と、ハウジング51に設けられた複数のコンタクト端子52と、各コンタクト端子52に接続された給電用のハーネス53を有している。各コンタクト端子52は、板バネなどの弾性変形可能な部材によって構成されている。
【0109】
図23に示されるように、コネクタ50は、ヒータ43及びヒータホルダ44を一緒に挟むようにして取り付けられる。これにより、ヒータ43及びヒータホルダ44は、コネクタ50によって一緒に保持される。また、この状態において、コネクタ50の各コンタクト端子52の先端(接触部52a)が、それぞれ対応する電極部58に弾性的に接触(圧接)することにより、各コンタクト端子52と各電極部58とが電気的に接続される。これにより、コネクタ50を介して画像形成装置本体の電源からヒータ43(各抵抗発熱体56)へ給電可能な状態となる。
【0110】
上記のような定着ベルト41を備える定着装置40においても、定着ベルト41の色特性によって非接触式の温度センサ46による検知誤差にばらつきが発生する。このため、斯かる定着装置40においても本発明を適用することが好ましい。すなわち、外周面側から測定される定着ベルトの彩度(a,b)が、上記式(6)、式(7)、式(8)のいずれかの関係を満たすように、定着ベルトを構成すれば、検知誤差を一定値以下にすることができ、定着ベルトの温度制御が行いやすくなる。
【0111】
続いて、本発明を適用可能な他の定着装置の構成について説明する。なお、以下に説明する定着装置の構成において、図20図23に示される上記定着装置40と同じ構成又は同じ機能を有する部材については、同じ符号を付すことにより適宜説明を省略する。
【0112】
図24に示される例においては、ヒータ43によって定着ベルト41を加熱する加熱用のニップ部N1と、用紙Pを通過させる定着用のニップ部N2が、それぞれ別の位置に形成されている。具体的に、この例においては、定着ベルト41の内側に、ヒータ43のほかニップ形成部材68が配置され、ヒータ43とニップ形成部材68に対してそれぞれ加圧ローラ69,70が定着ベルト41を介して押し当てられることにより、加熱用のニップ部N1と定着用のニップ部N2が形成されている。この場合、加熱用のニップ部N1において定着ベルト41が加熱され、定着用のニップ部N2において定着ベルト41の熱が用紙Pへ付与されることにより、未定着画像が用紙Pに定着される。
【0113】
続いて、図25に示される例は、図24に示される例において、ヒータ43側の加圧ローラ69が省略され、ヒータ43が定着ベルト41の曲率に合わせて円弧状に形成された例である。それ以外は、図24に示される構成と同じである。この場合、ヒータ43が円弧状に形成されていることにより、定着ベルト41とヒータ43とのベルト回転方向の接触長さを確保し、定着ベルト41を効率良く加熱できる。
【0114】
続いて、図26に示される例は、一対の回転体としてのベルト71,72の間に、別の回転体としてのローラ73が配置された例である。この例においては、図26における左側のベルト71内にヒータ43が配置され、右側のベルト72内にニップ形成部材74が配置されている。ヒータ43が左側のベルト71を介してローラ73に接触し、ニップ形成部材74が右側のベルト72を介してローラ73に接触することにより、加熱用のニップ部N1と定着用のニップ部N2が形成されている。この場合、ヒータ43は、左側のベルト71を介してローラ73を加熱する。
【0115】
また、本発明に係る画像形成装置は、図1に示されるカラー画像形成装置に限らず、図27に示されるような構成の画像形成装置にも適用可能である。以下、図27に示される画像形成装置の構成について説明する。
【0116】
図27に示される画像形成装置100は、感光体ドラムなどから成る画像形成手段80と、一対のタイミングローラ81などから成る用紙搬送部と、給紙装置82と、定着装置83と、排紙装置84と、読取部85を備えている。給紙装置82は複数の給紙トレイを備え、それぞれの給紙トレイが異なるサイズの用紙を収容する。
【0117】
読取部85は原稿Qの画像を読み取る。読取部85は、読み取った画像から画像データを生成する。給紙装置82は、複数の用紙Pを収容し、搬送路へ用紙Pを送り出す。タイミングローラ81は搬送路上の用紙Pを画像形成手段80へ搬送する。
【0118】
画像形成手段80は、用紙Pにトナー画像を形成する。具体的には、画像形成手段80は、感光体ドラムと、帯電ローラと、露光装置と、現像装置と、補給装置と、転写ローラと、クリーニング装置と、除電装置を含む。定着装置83は、トナー画像を加熱及び加圧して、用紙Pにトナー画像を定着させる。トナー画像の定着された用紙Pは、搬送ローラなどにより排紙装置84へ搬送される。排紙装置84は、画像形成装置100の外部に用紙Pを排出する。
【0119】
次に、図28に基づき、上記定着装置83の構成について説明する。
【0120】
図28に示されるように、定着装置83は、定着ベルト41と、加圧ローラ42と、ヒータ43と、ヒータホルダ44と、ステー45と、温度センサ46とを備えている。
【0121】
定着ベルト41と加圧ローラ42との間にニップ部Nが形成される。ニップ部Nのニップ幅は10mm、定着装置83の線速は240mm/sである。
【0122】
定着ベルト41は、ポリイミドの基材と離型層とを備え、弾性層を有していない。離型層は、例えばフッ素樹脂から成る耐熱性のフィルム材によって形成される。定着ベルト41の外径は約24mmである。
【0123】
加圧ローラ42は、芯金と弾性層と離型層とを含む。加圧ローラ42の外径は24~30mmであり、弾性層の厚みは3~4mmである。
【0124】
ヒータ43は、基材と、断熱層と、抵抗発熱体などを含む導体層と、絶縁層とを含み、全体の厚みが1mmに設定される。また、ヒータ43の用紙搬送方向の幅は13mmである。
【0125】
温度センサ46は、定着ベルト41の外周面に対向して非接触に配置される非接触式センサであり、定着ベルト41から放射される赤外線を検知する赤外線温度検知手段である。
【0126】
また、図29に示されるように、ヒータ43の導体層は、複数の抵抗発熱体56と、給電線59と、電極部58A~58Cを備えている。複数の抵抗発熱体56は、ヒータ43の長手方向(矢印X方向)に互いに間隔をあけて配置されている。ここで、各抵抗発熱体56同士の間の部分を、「分割領域」と称すると、図29の拡大図に示されるように、各抵抗発熱体56の間は、それぞれ分割領域Bが形成されている(図29においては、拡大図の範囲のみで分割領域Bを図示しているが、実際は全ての抵抗発熱体56同士の間に分割領域Bが設けられている)。また、図29において、矢印Y方向は、ヒータ43の長手方向Xに交差又は直交する方向(長手交差方向)で、基材55の厚み方向と異なる方向である。また、矢印Y方向は、複数の抵抗発熱体56の配列方向に交差する方向(配列交差方向)、又は、基材55の抵抗発熱体56が設けられた面に沿う方向でヒータ43の短手方向、あるいは、定着装置に通紙される用紙の搬送方向と同じ方向でもある。
【0127】
また、複数の抵抗発熱体56により、中央の発熱部35Bと、これとは独立して発熱可能な両端側の発熱部35A,35Cが構成されている。例えば、3つの電極部58A~58Cのうち、図29の左端の電極部58Aと中央の電極部58Bに通電すると、両端側の発熱部35A,35Cが発熱する。また、両端の電極部58A,58Cに通電すると、中央の発熱部35Bが発熱する。例えば、小サイズ用紙に定着動作を行う場合は、中央の発熱部35Bのみを発熱させ、大サイズ用紙に定着動作を行う場合は、全ての発熱部35A~35Cを発熱させることにより、用紙のサイズに応じた加熱が可能である。
【0128】
また、図30に示されるように、この例におけるヒータホルダ44は、ヒータ43を収容して保持する凹部44aを有している。凹部44aは、ヒータホルダ44のヒータ43側に形成されている。また、凹部44aは、ヒータ43とほぼ同じサイズの矩形(長方形)に形成された面(底面)44fと、その面44fの外郭を形成する4つの辺に沿って面44fと交差するように設けられた4つの壁部(側面)44b,44c,44d,44eにより構成されている。なお、図30において、右側の壁部44eは、図示省略されている。また、ヒータ43の長手方向X(抵抗発熱体56の配列方向)に対して交差する一対(左右)の壁部44d,44eのうち、一方の壁部を省略し、凹部44aがヒータ43の長手方向の一端部において開口するように構成してもよい。
【0129】
図31に示されるように、この例におけるヒータ43及びヒータホルダ44は、コネクタ86によって保持される。コネクタ86は、樹脂製(例えばLCP)のハウジングと、ハウジング内に設けられた複数のコンタクト端子などを有している。
【0130】
コネクタ86は、ヒータ43及びヒータホルダ44に対して、ヒータ43の長手方向X(抵抗発熱体56の配列方向)とは交差する方向に取り付けられる(図31のコネクタ86からの矢印方向参照)。また、コネクタ86は、ヒータ43の長手方向X(抵抗発熱体56の配列方向)におけるいずれか一方の端部側であって、加圧ローラ42の駆動モータが設けられる側とは反対側において、ヒータ43及びヒータホルダ44に取り付けられる。なお、コネクタ86のヒータホルダ44に対する取り付け時に、コネクタ86とヒータホルダ44のうちの一方に設けられた凸部が、他方に設けられた凹部に係合し、凸部が凹部内を相対移動する構成としてもよい。
【0131】
コネクタ86が取り付けられた状態においては、ヒータ43とヒータホルダ44がその表側と裏側からコネクタ86によって挟まれるようにして保持される。この状態において、各コンタクト端子がヒータ43の各電極部に接触(圧接)されることにより、コネクタ86を介して各抵抗発熱体56と画像形成装置に設けられた電源とが電気的に接続される。これにより、電源から各抵抗発熱体56へ電力が供給可能な状態となる。
【0132】
また、図31に示されるフランジ87は、定着ベルト41の長手方向における両端部に設けられ、定着ベルト41の両端部を内側から保持するベルト保持部材である。フランジ87は、ステー45の両端に挿入され、定着装置のフレーム部材である一対の側板に固定される。
【0133】
図32は、通電遮断部材であるサーモスタット88の配置を示す図である。
【0134】
図32に示される例においては、通電遮断部材としてのサーモスタット88が、定着ベルト41の中央Xm側と端部側に配置されている。また、各サーモスタット88は、定着ベルト41の内周面に対向するように配置され、定着ベルト41の内周面の温度又は内周面近傍の雰囲気温度を検知する。サーモスタット88によって検知された温度があらかじめ設定された閾値を超えた場合は、ヒータ43への通電が遮断される。
【0135】
また、図32及び図33に示されるように、定着ベルト41の両端部を保持するフランジ87には、スライド溝87aが設けられている。スライド溝87aは、定着ベルト41の加圧ローラ42に対する接離方向に延在する。スライド溝87aには定着装置の筐体の係合部が係合する。この係合部がスライド溝87a内を相対移動することにより、定着ベルト41は加圧ローラ42に対する接離方向へ移動可能に構成されている。
【0136】
さらに、本発明は、次のような構成の定着装置にも適用可能である。
【0137】
図34に示される定着装置40は、回転体あるいは定着部材としての定着ベルト41と、対向回転体あるいは加圧部材としての加圧ローラ42と、加熱源としてのヒータ43と、加熱源保持部材としてのヒータホルダ44と、支持部材としてのステー45と、定着ベルト41の温度を検知する非接触式の温度センサ46と、第1高熱伝導部材89とを備えている。定着ベルト41は、無端状のベルトから成る。加圧ローラ42は、定着ベルト41の外周面に接触して、定着ベルト41との間にニップ部Nを形成する。ヒータ43は、定着ベルト41を加熱する。ヒータホルダ44は、ヒータ43を保持する。ステー45は、ヒータホルダ44を支持する。温度センサ46は、定着ベルト41から放射される赤外線により温度を検知する。このように、図34に示される定着装置40は、図20に示される定着装置と比べて、第1高熱伝導部材89を備えている以外、基本的に同じ構成である。なお、図34の紙面に直交する方向は、定着ベルト41、加圧ローラ42、ヒータ43、ヒータホルダ44、ステー45、第1高熱伝導部材89の長手方向であり、以下、この方向を単に長手方向と呼ぶ。また、この長手方向は搬送される用紙の幅方向、定着ベルト41のベルト幅方向、そして、加圧ローラ42の軸方向でもある。
【0138】
ここで、図34に示される例におけるヒータ43は、上記図29に示されるヒータと同じように、複数の抵抗発熱体56が、ヒータ43の長手方向に互いに間隔をあけて配置されている。しかしながら、複数の抵抗発熱体56が互いに間隔をあけて配置される構成においては、抵抗発熱体56同士の間隔である分割領域Bにおけるヒータ43の温度が、抵抗発熱体56が配置される部分に比べて低くなる傾向にある。このため、分割領域Bにおいては、定着ベルト41の温度も低くなり、定着ベルト41の温度が長手方向に渡って不均一になる虞がある。
【0139】
そのため、この例においては、分割領域Bにおける温度落ち込みを抑制して、定着ベルト41の長手方向の温度ムラを抑制するために、上記第1高熱伝導部材89を設けている。以下、第1高熱伝導部材89についてより詳細に説明する。
【0140】
図34に示されように、第1高熱伝導部材89は、図の左右方向において、ヒータ43とステー45との間に配置され、特にヒータ43とヒータホルダ44との間に挟まれる。つまり、第1高熱伝導部材89の一方の面は、ヒータ43の基材55の裏面に当接し、第1高熱伝導部材89の他方の面(一方の面とは反対側の面)は、ヒータホルダ44に当接している。
【0141】
ステー45は、ヒータ43などの厚み方向に延在する二つの垂直部45aの当接面45a1をヒータホルダ44に当接させ、ヒータホルダ44、第1高熱伝導部材89、ヒータ43を支持する。長手交差方向(図34の上下方向)において、当接面45a1は抵抗発熱体56が設けられる範囲よりも外側に設けられる。これにより、ヒータ43からステー45への伝熱を抑制でき、ヒータ43が定着ベルト41を効率よく加熱できる。
【0142】
また、図35に示されるように、第1高熱伝導部材89は、一定の厚みを有する板状の部材であり、例えば、その厚みが0.3mm、長手方向方向の長さが222mm、長手交差方向の幅が10mmに設定される。この例においては、第1高熱伝導部材89が単一の板材により構成されるが、複数の部材からなってもよい。なお、図35においては、図34に記載のガイド部440が省略されている。
【0143】
第1高熱伝導部材89は、ヒータホルダ44の凹部44aに嵌め込まれ、その上からヒータ43が取り付けられることで、ヒータホルダ44とヒータ43とに挟み込まれて保持される。本実施形態においては、第1高熱伝導部材89の長手方向の幅がヒータ43の長手方向の幅と略同じに設定されている。第1高熱伝導部材89及びヒータ43は、凹部44aの長手方向と交差する方向に配置される両側壁(長手方向規制部)44d,44eによって、長手方向の移動が規制される。このように、第1高熱伝導部材89の定着装置内における長手方向の位置ずれが規制されることにより、長手方向の狙いの範囲に対して熱伝導効率を向上させることができる。また、第1高熱伝導部材89及びヒータ43は、凹部44aの長手方向に配置される両側壁(配列交差方向規制部)44b,44cによって、長手交差方向の移動も規制されている。
【0144】
第1高熱伝導部材89が配置される長手方向(矢印X方向)の範囲は、図35に示される範囲に限らない。例えば、図36に示されるように、抵抗発熱体56が配置される長手方向の範囲のみに第1高熱伝導部材89が配置されてもよい(図36におけるハッチング部参照)。また、図37に示される例のように、長手方向(矢印X方向)の間隔(分割領域)Bに対応する位置で、その全域のみに第1高熱伝導部材89を配置することもできる。なお、図37においては、便宜上、抵抗発熱体56と第1高熱伝導部材89が図37の上下方向にずらして示されているが、両者は長手交差方向(矢印Y方向)のほぼ同じ位置に配置される。また、第1高熱伝導部材89は、抵抗発熱体56の長手交差方向(矢印Y方向)の一部に渡って配置されてもよいし、図38に示される例のように、第1高熱伝導部材89が抵抗発熱体56の長手交差方向(矢印Y方向)の全体に渡って配置されていてもよい。さらに、図38に示されるように、第1高熱伝導部材89を、長手方向の間隔Bに対応する位置に加えて、その間隔Bを間にはさむ両側の抵抗発熱体56にまたがって配置することもできる。この「第1高熱伝導部材89を両側の抵抗発熱体56にまたがって配置する」とは、第1高熱伝導部材89が両側の抵抗発熱体56と長手方向の位置が少なくとも一部重なることを意味する。また、第1高熱伝導部材89は、ヒータ43の全ての間隔Bに対応する位置に配置されてもよいし、図38に示される例のように、一部の間隔B(この場合1箇所)に対応する位置だけ配置されてもよい。ここで、「第1高熱伝導部材89が間隔Bに対応する位置に配置される」とは、間隔Bと第1高熱伝導部材89の少なくとも一部が長手方向において重なることを意味する。
【0145】
加圧ローラ42の加圧力により、第1高熱伝導部材89はヒータ43とヒータホルダ44との間に挟み込まれてこれらの部材に密着する。第1高熱伝導部材89がヒータ43に接触することにより、ヒータ43の長手方向の熱伝導効率が向上する。そして、第1高熱伝導部材89が、長手方向において、ヒータ43の間隔Bに対応する位置に配置されることにより、間隔Bにおける熱伝導効率を向上させることができ、間隔Bへ伝達される熱量を増やし、間隔Bにおける温度を上昇させることができる。これにより、ヒータ43の長手方向の温度ムラを抑制でき、定着ベルト41の長手方向の温度ムラを抑制できる。その結果、用紙に定着される画像の定着ムラ及び光沢ムラを抑制できる。また、間隔Bにおいて十分な定着性能を確保するために、ヒータ43の発熱量を多くする必要が無くなり、定着装置の省エネ化を実現できる。特に、抵抗発熱体56が配置される長手方向全域に渡って第1高熱伝導部材89が配置される場合は、ヒータ43による主な加熱領域(つまり、通紙される用紙の画像形成領域)全域において、ヒータ43の伝熱効率を向上させ、ヒータ43ひいては定着ベルト41の長手方向の温度ムラを抑制できる。
【0146】
さらに、第1高熱伝導部材89とPTC特性を有する抵抗発熱体56との組み合わせにより、小サイズ用紙通紙時の非通紙領域による過昇温をより効果的に抑制できる。このPTC特性とは、温度が高くなると抵抗値が高くなる(一定電圧をかけた場合に、ヒータ出力が下がる)特性である。すなわち、抵抗発熱体56がPTC特性を有していることにより、非通紙領域における抵抗発熱体56の発熱量を効果的に抑制できると共に、第1高熱伝導部材89によって、温度が上昇した非通紙領域の熱量を通紙領域へ効率的に伝達できるので、これらの相乗効果により非通紙領域による過昇温を効果的に抑制できる。
【0147】
また、間隔Bの周辺においても、間隔Bの発熱量が小さいことによりヒータ43の温度が低くなるため、第1高熱伝導部材89を配置することが好ましい。例えば、図39に示される間隔Bの周辺の領域を含む拡大分割領域Cに対応する位置に、第1高熱伝導部材89を配置することにより、間隔B及びその周辺における長手方向の熱伝達効率を向上させ、ヒータ43の長手方向の温度ムラをより効果的に抑制できる。また、第1高熱伝導部材89が、全ての抵抗発熱体56が配置される領域の長手方向全体に渡って配置されている場合は、ヒータ43(定着ベルト41)の長手方向の温度ムラをより確実に抑制できる。
【0148】
続いて、本発明を適用可能な定着装置のさらに別の例について説明する。
【0149】
図40に示される定着装置40は、ヒータホルダ44と第1高熱伝導部材89との間に第2高熱伝導部材90を有している。第2高熱伝導部材90は、ヒータホルダ44、ステー45、第1高熱伝導部材89などの部材の積層方向(図40における左右方向)において、第1高熱伝導部材89と異なる位置に設けられる。より詳しくは、第2高熱伝導部材90は、第1高熱伝導部材89に重ね合わせされて設けられる。
【0150】
第2高熱伝導部材90は、基材55よりも熱伝導率の高い部材、例えばグラフェン又はグラファイトにより構成される。この例においては、第2高熱伝導部材90が、厚み1mmのグラファイトシートにより構成される。また、第2高熱伝導部材90は、アルミニウム、銅、銀などの板材により構成されてもよい。
【0151】
図41に示されるように、第2高熱伝導部材90は、ヒータホルダ44の凹部44aに複数配置され、各第2高熱伝導部材90同士の間には長手方向の間隔が介在している。ヒータホルダ44の第2高熱伝導部材90が設けられる部分には、その他の部分よりも一段深い窪みが形成されている。第2高熱伝導部材90は、長手方向の両側において、ヒータホルダ44との間に隙間が設けられている。これにより、第2高熱伝導部材90からヒータホルダ44への伝熱が抑制され、ヒータ43によって定着ベルト41が効率的に加熱される。なお、図41においては、図40に記載のガイド部440が省略されている。
【0152】
図42に示されるように、第2高熱伝導部材90(ハッチング部参照)は、長手方向(矢印X方向)において、間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体56の少なくとも一部に重なる位置に配置されている。特に、この例においては、第2高熱伝導部材90が、間隔B全域に渡って配置されている。なお、図42(および後述の図44)においては、第1高熱伝導部材89が、全ての抵抗発熱体56が配置される領域の長手方向全体に渡って配置されている場合を示しているが、第1高熱伝導部材89の配置範囲はこれに限らない。
【0153】
この例のように、第1高熱伝導部材89に加えて、長手方向の間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体56の少なくとも一部に重なる位置に第2高熱伝導部材90が配置されていることにより、間隔Bにおける長手方向の熱伝達効率をより一層向上させ、ヒータ43の長手方向の温度ムラをより効果的に抑制できる。また、最も好ましくは、図43に示されるように、間隔Bに対応する位置でその全域にのみ第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90を設ける。これにより、間隔Bに対応する位置において、その他の領域と比較して特に熱伝達効率を向上させることができる。なお、図43においては、便宜上、抵抗発熱体56と第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90が、図の上下方向にそれぞれずらして示されているが、これらは長手交差方向(矢印Y方向)のほぼ同じ位置に配置される。ただし、これに限るものではなく、第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90は、抵抗発熱体56の長手交差方向の一部に配置されていてもよいし、長手交差方向の全体を覆うようにして配置されていてもよい。
【0154】
また、第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90の両方が上記グラフェンシートにより構成されてもよい。この場合、グラフェンの面に沿う所定の方向、つまり、厚み方向ではなく長手方向に熱伝導率の高い第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90を形成できる。このため、ヒータ43及び定着ベルト41の長手方向の温度ムラを効果的に抑制できる。
【0155】
グラフェンは薄片状の粉体である。グラフェンは、図46に示されるように、炭素原子の平面状の六角形格子構造から成る。グラフェンシートとは、シート状のグラフェンであり、通常、単層である。また、グラフェンシートは、炭素の単一層に不純物を含んでいてもよいし、フラーレン構造を有するものであってもよい。フラーレン構造は、一般的に、同数の炭素原子が5員環および6員環でかご状に縮環した多環体を形成して成る化合物として認識されており、例えば、C60、C70およびC80フラーレン又は3配位の炭素原子を有する他の閉じたかご状構造である。
【0156】
グラフェンシートは、人工物であり、例えば化学気相蒸着(CVD)法により作製され得る。
【0157】
グラフェンシートには市販品を用いることができる。グラフェンシートの大きさ、厚み、あるいは後述するグラファイトシートの層数などは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される。
【0158】
また、グラフェンを多層化したグラファイトは大きな熱伝導異方性を持つ。グラファイトは、図47に示すように、炭素原子の縮合六員環層面が平面状に広がった層を有し、この層が何重にも重なった結晶構造を有する。この結晶構造における炭素原子間は、層内での隣接する炭素原子同士は共有結合をなし、層間の炭素原子同士はファン・デル・ワールス結合をなす。そして、共有結合はファン・デル・ワールス結合に比べてその結合力が大きく、層内での結合と層間での結合とでは大きな異方性を持つ。つまり、第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90をグラファイトにより構成することにより、第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90における長手方向の伝熱効率が厚み方向(つまり、部材の積層方向)に比べて大きくなり、ヒータホルダ44への伝熱を抑制できる。従って、ヒータ43の長手方向の温度ムラを効率よく抑制するとともに、ヒータホルダ44側へ流出する熱を最小限に抑えることができる。また第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90をグラファイトにより構成することにより、700度程度まで酸化しない優れた耐熱性を第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90に持たせることができる。
【0159】
グラファイトシートの物性や寸法は、第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90に求められる機能に応じて適宜変更できる。例えば、高純度のグラファイトあるいは単結晶グラファイトを用いる、あるいは、グラファイトシートの厚みを大きくすることにより、その熱伝導の異方性を高めることができる。また、定着装置を高速化するために、厚みの小さいグラファイトシートを用いて定着装置の熱容量を小さくしてもよい。また、ニップ部N及びヒータ43の幅が大きい場合には、それに合わせて第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90の長手方向の幅を大きくしてもよい。
【0160】
機械的強度を高める観点から、グラファイトシートの層数は11以上であることが好ましい。またグラファイトシートは部分的に単層と多層の部分とを含んでいてもよい。
【0161】
第2高熱伝導部材90は、長手方向において、間隔B(さらに拡大分割領域C)に対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体56の少なくとも一部に重なる位置に設けられればよく、図42の配置に限らない。例えば、図44に示される例のように、第2高熱伝導部材90Aは、長手交差方向(矢印Y方向)において、基材55よりも長手交差方向の両側へ飛び出して設けられていてもよい。また、第2高熱伝導部材90Bは、長手交差方向において、抵抗発熱体56が設けられる範囲に設けられていてもよい。また、第2高熱伝導部材90Cは、間隔Bの一部に設けられていてもよい。
【0162】
また、図45に示される別の例においては、第1高熱伝導部材89とヒータホルダ44との間に厚み方向(図45における左右方向)の隙間が設けられている。つまり、ヒータ43、第1高熱伝導部材89、及び第2高熱伝導部材90が配置されるヒータホルダ44の凹部44a(図41参照)の一部の領域に、断熱層としての逃げ部44gが設けられている。逃げ部44gは、第2高熱伝導部材90(図45においては図示省略)が設けられる部分以外の長手方向の一部の領域に設けられる。また、逃げ部44gは、ヒータホルダ44の凹部44aの深さをその他の部分よりも深くすることにより形成されている。これにより、ヒータホルダ44と第1高熱伝導部材89との接触面積を最小限にとどめることができるので、第1高熱伝導部材89からヒータホルダ44への伝熱が抑制され、ヒータ43によって定着ベルト41を効率的に加熱できるようになる。なお、長手方向の第2高熱伝導部材90が設けられる断面においては、上記図40に示される例のように、第2高熱伝導部材90がヒータホルダ44に当接する。
【0163】
また、この例においては、逃げ部44gが、長手交差方向(図45における上下方向)において、抵抗発熱体56が設けられた範囲全域に渡って設けられている。これにより、第1高熱伝導部材89からヒータホルダ44への伝熱が効果的に抑制され、ヒータ43による定着ベルト41の加熱効率が向上する。なお、断熱層として、逃げ部44gのように空間を設ける構成の他、ヒータホルダ44よりも熱伝導率の低い断熱部材を設ける構成であってもよい。
【0164】
また、この例においては、第2高熱伝導部材90を第1高熱伝導部材89とは異なる部材として設けたが、これに限らない。例えば、第1高熱伝導部材89の間隔Bに対応する部分を、その他の部分よりも厚みを大きくすることにより、第1高熱伝導部材89が第2高熱伝導部材90の機能を兼ねるようにしてもよい。
【0165】
以上、本発明を適用可能な他の定着装置及び画像形成装置の構成について説明したが、斯かる構成の定着装置及び画像形成装置においても本発明を適用することにより、上記実施形態と同様の効果を得られる。
【0166】
また、以上の説明においては、本発明を、加熱装置の一例である定着装置に適用する場合を例に説明した。しかしながら、本発明は、定着装置に限らず、用紙に塗布されたインクなどの液体を乾燥させる乾燥装置、被覆部材としてのフィルムを用紙などのシートの表面に熱圧着させるラミネータ、包材のシール部を熱圧着するヒートシーラーなどの加熱装置にも適用可能である。
【0167】
以上説明した本発明の態様をまとめると、本発明には、少なくとも下記の構成を備える加熱装置、定着装置、画像形成装置が含まれる。
【0168】
[第1の構成]
第1の構成は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源と、前記回転体の外周面に対向して非接触に配置され、前記回転体から発する赤外線により温度を検知する赤外線温度検知手段と、を備える加熱装置において、前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)の二乗和平方根クロマ(C)が、所定値C1以下となる下記式(9)の関係を満たすように設定される加熱装置である。
【数9】
【0169】
[第2の構成]
第2の構成は、前記第1の構成において、前記所定値C1は、前記回転体に接触して温度を検知する接触式温度検知手段による検知温度と前記赤外線温度検知手段による検知温度との差が2℃以内となるように設定される加熱装置である。
【0170】
[第3の構成]
第3の構成は、前記第1の構成において、前記所定値C1は、2に設定される加熱装置である。
【0171】
[第4の構成]
第4の構成は、互いに接触してニップ部を形成する一対の回転体と、前記一対の回転体の少なくとも一方を加熱する加熱源と、前記回転体の外周面に対向して非接触に配置され、前記回転体から発する赤外線により温度を検知する赤外線温度検知手段と、を備える加熱装置において、前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)が、前記回転体に接触して温度を検知する接触式温度検知手段による検知温度と前記赤外線温度検知手段による検知温度との差が2℃以内となるような前記彩度(a,b)の平均値(a0,b0)を中心とし、前記彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)をn倍した倍数nσ及びnσのうち小さい方を短軸半径とし大きい方を長軸半径とする楕円の領域内に含まれる下記式(10)の関係を満たすように設定される加熱装置である。
【数10】
【0172】
[第5の構成]
第5の構成は、前記第4の構成において、前記標準偏差(σ,σ)のn倍を、3倍以上とする加熱装置である。
【0173】
[第6の構成]
第6の構成は、前記第4の構成において、前記回転体の外周面側から測定される色特性である彩度(a,b)が、前記回転体に接触して温度を検知する接触式温度検知手段による検知温度と前記赤外線温度検知手段による検知温度との差が2℃以内となるような前記彩度(a,b)の平均値(a0,b0)を中心とし、所定値C2を半径とする円の領域内に含まれる下記式(11)の関係を満たすように設定される加熱装置である。
【数11】
【0174】
[第7の構成]
第7の構成は、前記第6の構成において、前記所定値C2を、前記彩度(a,b)の標準偏差(σ,σ)を示すσ及びσのうちの小さい方の3倍以上とする加熱装置である。
【0175】
[第8の構成]
第8の構成は、前記第1から第7のいずれかの構成において、前記回転体は、ローラ又はベルトにより構成され、前記ローラ又は前記ベルトは、内周面側から外周面側に向かって、基材、中間層、表層を有し、前記基材は、金属材料又は樹脂材料により構成され、前記中間層は、接着層又は弾性層により構成され、前記表層は、フッ素樹脂により構成される加熱装置である。
【0176】
[第9の構成]
第9の構成は、前記第8の構成において、前記基材の内周面は黒色であり、前記中間層は前記加熱源から放射される赤外線を吸収する材料により構成され、前記表層は前記加熱源から放射される赤外線を前記中間層よりも吸収せずに透過させる材料により構成される加熱装置である。
【0177】
[第10の構成]
第10の構成は、前記第1から第7のいずれかの構成において、前記回転体は、ベルトにより構成され、前記加熱源は、前記ベルトの内側に配置される面状又は板状のヒータにより構成される加熱装置である。
【0178】
[第11の構成]
第11の構成は、前記第1から第10のいずれかの構成の加熱装置を用いて未定着画像をシートに定着させる定着装置である。
【0179】
[第12の構成]
第12の構成は、前記第1から第10のいずれかの構成の加熱装置、又は前記第11の構成の定着装置を備える画像形成装置である。
【符号の説明】
【0180】
20 定着装置(加熱装置)
21 定着ローラ(第1回転体)
22 加圧ローラ(第2回転体)
23 ハロゲンヒータ(加熱源)
26 温度センサ(赤外線温度検知手段)
100 画像形成装置
N ニップ部
P 用紙(シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0181】
【特許文献1】特開2003-323072号公報
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