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特開2024-32568咀嚼運動判定方法、食品判定方法、及び咀嚼運動評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032568
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】咀嚼運動判定方法、食品判定方法、及び咀嚼運動評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
A61B5/11 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136289
(22)【出願日】2022-08-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年8月31日に第23回日本感性工学会大会講演要旨集,第1P01-06-06頁にて発表。 (2)令和3年9月2日に第23回日本感性工学会大会にて発表。 (3)令和4年1月21日にhttps://ken.ieice.org/ken/paper/20220303XC82/及びhttps://ken.ieice.org/ken/program/index.php?tgs_regid=50c2d760f3b53750d0f4dfe617b31e465ca56de300ccf88abb05ce054a1445b4にて発表。 (4)令和4年2月23日に電子情報通信学会技術研究報告,vol.121,no.389,第21-24頁にて発表。 (5)令和4年3月3日に電子情報通信学会MEとバイオサイバネティックス研究会にて発表。
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外山 義雄
(72)【発明者】
【氏名】崎山 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】野澤 昭雄
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB08
4C038VB34
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】咀嚼が意識的又は無意識的に行われているか否かを判定する。
【解決手段】対象人物が咀嚼する咀嚼間隔の時系列データを取得する取得工程と、前記時系列データのゆらぎの波形を解析し、回帰直線の勾配を算出する解析工程と、前記勾配が1/fゆらぎを示すか否かに応じて、記対象人物の咀嚼状態を判定する判定工程とを、コンピュータに実行させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象人物が咀嚼する咀嚼間隔の時系列データを取得する取得工程と、
前記時系列データのゆらぎの波形を解析し、回帰直線の勾配を算出する解析工程と、
前記勾配が1/fゆらぎを示すか否かに応じて、前記対象人物の咀嚼状態を判定する判定工程とを、
コンピュータに実行させる咀嚼運動判定方法。
【請求項2】
前記判定工程において、前記勾配が1/fゆらぎを示さない場合、前記対象人物の咀嚼は意識的に行われていると判定する、
請求項1記載の咀嚼運動判定方法。
【請求項3】
前記取得工程は、
前記対象人物の咀嚼を所定時間撮影した画像データを取得する撮影工程と、
前記画像データから前記対象人物の顔を検出し、前記検出した顔から複数の顔特徴点を検出する検出工程と、
前記顔特徴点の単位時間における移動量に基づき、前記咀嚼の状態を判定し、前記時系列データを取得するデータ取得工程と、を有する
請求項1記載の咀嚼運動判定方法。
【請求項4】
前記取得工程は、
前記対象人物の咀嚼時に、前記対象人物の咬筋の活動量を、表面筋電位を測定することで取得する測定工程と、
前記活動量に基づき、前記咀嚼の状態を判定し、前記時系列データを取得するデータ取得工程と、を有する
請求項1記載の咀嚼運動判定方法。
【請求項5】
前記判定工程は、前記勾配が1/fゆらぎを示す場合、前記対象人物の咀嚼は無意識的に行われていると判定する
請求項1乃至2記載の咀嚼運動判定方法。
【請求項6】
対象人物が食品を咀嚼する咀嚼間隔の時系列データを取得する取得工程と、
前記時系列データのゆらぎの波形を解析し、回帰直線の勾配を算出する解析工程と、
前記勾配が1/fゆらぎを示すか否かに応じて、前記食品を、意識的又は無意識的に咀嚼が行われる食品であるか否かを判定する判定工程とを、
コンピュータに実行させる食品判定方法。
【請求項7】
対象人物が咀嚼以外の課題がない状態で咀嚼を行ったときの咀嚼間隔の第1時系列データと、前記対象人物が咀嚼以外の課題がある状態で咀嚼を行ったときの咀嚼間隔の第2時系列データを取得する取得工程と、
前記第1時系列データと前記第2時系列データそれぞれのゆらぎの波形を解析し、前記第1時系列データの回帰直線の第1勾配と、前記第2時系列データの回帰直線の第2勾配と、を算出する解析工程と、
前記第1勾配と前記第2勾配のそれぞれを1/fゆらぎにおける勾配と比較し、咀嚼における意識状態を評価する評価工程とを、
コンピュータに実行させる咀嚼運動評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼運動判定方法、食品判定方法、及び咀嚼運動評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、咀嚼に関する研究が注目されている。咀嚼の効果としては、例えば、ストレスの軽減、記憶力の向上、及び病気の予防などが知られている。特に、意識的、継続的な咀嚼は、高齢者の短期記憶に対して長期的な影響を及ぼすという、研究結果も存在する。
【0003】
咀嚼の評価に関する技術は、以下に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-33494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、咀嚼が意識的に行われているか否かは、例えば、自己申告により判定されるなど、客観的に判定することが困難であった。
【0006】
そこで、一開示は、咀嚼が意識的又は無意識的に行われているか否かを判定する咀嚼運動判定方法、食品判定方法、及び咀嚼運動評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対象人物が咀嚼する咀嚼間隔の時系列データを取得する取得工程と、前記時系列データのゆらぎの波形を解析し、回帰直線の勾配を算出する解析工程と、前記勾配が1/fゆらぎを示すか否かに応じて、前記対象人物の咀嚼状態を判定する判定工程とを、コンピュータに実行させる咀嚼運動判定方法、に関するものである。
【0008】
また、本発明は、前記判定工程において、前記勾配が1/fゆらぎを示さない場合、前記対象人物の咀嚼は意識的に行われていると判定する、咀嚼運動判定方法、に関するものである。
【0009】
また、本発明は、前記取得工程が、前記対象人物の咀嚼を所定時間撮影した画像データを取得する撮影工程と、前記画像データから前記対象人物の顔を検出し、前記検出した顔から複数の顔特徴点を検出する検出工程と、前記顔特徴点の単位時間における移動量に基づき、前記咀嚼の状態を判定し、前記時系列データを取得するデータ取得工程と、を有する咀嚼運動判定方法、に関するものである。
【0010】
また、本発明は、前記取得工程が、前記対象人物の咀嚼時に、前記対象人物の咬筋の活動量を、表面筋電位を測定することで取得する測定工程と、前記活動量に基づき、前記咀嚼の状態を判定し、前記時系列データを取得するデータ取得工程と、を有する咀嚼運動判定方法、に関するものである。
【0011】
また、本発明は、前記判定工程が、前記勾配が1/fゆらぎを示す場合、前記対象人物の咀嚼は無意識的に行われていると判定する咀嚼運動判定方法、に関するものである。
【0012】
また、本発明は、対象人物が食品を咀嚼する咀嚼間隔の時系列データを取得する取得工程と、前記時系列データのゆらぎの波形を解析し、回帰直線の勾配を算出する解析工程と、前記勾配が1/fゆらぎを示すか否かに応じて、前記食品を、意識的又は無意識的に咀嚼が行われる食品であるか否かを判定する判定工程とを、コンピュータに実行させる食品判定方法、に関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、対象人物が咀嚼以外の課題がない状態で咀嚼を行ったときの咀嚼間隔の第1時系列データと、前記対象人物が咀嚼以外の課題がある状態で咀嚼を行ったときの咀嚼間隔の第2時系列データを取得する取得工程と、前記第1時系列データと前記第2時系列データそれぞれのゆらぎの波形を解析し、前記第1時系列データの回帰直線の第1勾配と、前記第2時系列データの回帰直線の第2勾配と、を算出する解析工程と、前記第1勾配と前記第2勾配のそれぞれを1/fゆらぎにおける勾配と比較し、咀嚼における意識状態を評価する評価工程とを、コンピュータに実行させる咀嚼運動評価方法、に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
一開示は、咀嚼が意識的又は無意識的に行われているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、咀嚼運動判定処理の処理フローチャートの例を示す図である。
図2図2は、画像データによる咀嚼間隔取得処理S1001の処理フローチャートの例を示す図である。
図3図3は、動画における、あるフレームの画像データと、顔特徴点の例を示す図である。
図4図4は、鼻の中点と下顎の移動量の差異データの例を示す図である。
図5図5は、咬筋の表面筋電位計測による咀嚼間隔取得処理S1002の処理フローチャートの例を示す図である。
図6図6は、咬筋活動量のデータの例を示す図である。
図7図7は、パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理S1011の処理フローチャートの例を示す図である。
図8図8は、トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012の処理フローチャートの例を示す図である。
図9図9は、シングル課題実行時及びデュアル課題実行時における、単位時間ごとのβのグラフの例を示す図である。
図10図10は、シングル課題実行時及びデュアル課題実行時における、単位時間ごとのαのグラフの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態について説明する。
【0017】
<咀嚼運動判定処理について>
身体運動の制御は、例えば、歩行や立位制御などの身体的制御(感覚の反射によるフィードフォワード運動制御)と、認知的制御(視覚などの認知情報のフィードバック運動制御)に大別される。身体的制御における運動周期は、不規則的で1/fゆらぎを示し、認知的制御における運動周期は、固有周波特性を表し、規則的であり、1/fゆらぎを示さないことが知られている。
【0018】
1/fゆらぎは、パワースペクトルが周波数f(frequency)に反比例するゆらぎである。1/fゆらぎは、例えば、小川のせせらぎや鳥の鳴き声など、自然界においても現れる。
【0019】
第1の実施の形態における咀嚼運動判定処理は、咀嚼運動における咀嚼間隔をゆらぎ解析し、1/fゆらぎを示すか否かによって、意識的に咀嚼運動をしていたか、無意識的に咀嚼運動をしていたかを判定する。
【0020】
なお、意識的及び無意識的な咀嚼運動と、咀嚼間隔のゆらぎ解析の結果との関係は、以下の実施例において説明する。
【0021】
図1は、咀嚼運動判定処理の処理フローチャートの例を示す図である。咀嚼運動判定処理S10は、人物の咀嚼間隔のデータに基づき、咀嚼が意識的又は無意識的に行われているか否かを判定する処理である。
【0022】
咀嚼運動判定処理S10は、例えば、コンピュータ(またはプロセッサ)が、咀嚼運動判定プログラムを実行することで、実現される。以降、コンピュータが咀嚼運動判定処理S10を行うものとして、咀嚼運動判定処理S10について説明を行う。
【0023】
コンピュータは、咀嚼運動判定処理S10において、咀嚼間隔の時系列データの取得を行う(S100)。処理S100は、例えば、データを取得する取得工程である。咀嚼間隔とは、あるタイミングで行った咀嚼から、次のタイミングで行った咀嚼までの時間を示す。咀嚼間隔は、例えば、歯を合わせて最も強く噛みこんだタイミングから、歯を合わせて最も強く噛みこんだ次のタイミングまでの時間である。また、咀嚼間隔は、例えば、上の歯と下の歯の間が最も広く離れたタイミングから、次に上の歯と下の歯の間が最も広く離れたタイミングまでの時間であってもよい。コンピュータは、例えば数秒間、数十秒間、又は数分間における、対象人物の咀嚼間隔の時系列データを取得する。
【0024】
咀嚼間隔時系列データ取得処理S100は、例えば、以下の処理で実現する。各処理の詳細については、後述する。
【0025】
・画像データによる咀嚼間隔取得処理S1001
・咬筋の表面筋電位計測による咀嚼間隔取得処理S1002
次に、コンピュータは、咀嚼運動判定処理S10において、咀嚼間隔の時系列データのゆらぎの波形を解析し、回帰直線の勾配を算出する、ゆらぎ解析を行う(S101)。処理S101は、例えば、ゆらぎ解析を行う解析工程である。
【0026】
ゆらぎ解析処理S101は、例えば、以下の処理で実現する。各処理の詳細については、後述する。
【0027】
・パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理S1011
・トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012
コンピュータは、各ゆらぎ解析処理において、回帰直線の勾配を時系列で算出する。
【0028】
次に、コンピュータは、算出した回帰直線の勾配が1/fゆらぎを示すか否かを判定する(S102)。処理S102は、例えば、判定を行う判定工程である。コンピュータは、算出した回帰直線の勾配が、1/fゆらぎを示さない場合(S102のNo)、意識的な咀嚼運動である(当該時間においては意識的に咀嚼運動を行っていた)と判定し(S103)、処理を終了する。一方、コンピュータは、算出した回帰直線の勾配が、1/fゆらぎを示す場合(S102のYes)、無意識的な咀嚼運動である(当該時間においては無意識的に咀嚼運動を行っていた)と判定し(S104)、処理を終了する。
【0029】
これにより、コンピュータは、咀嚼間隔の時系列データの取得対象となった人物が、データ取得時において、意識的に咀嚼をしていたか、無意識的に咀嚼をしていたかを判定することができる。
【0030】
<1.咀嚼間隔時系列データ取得処理S100について>
咀嚼間隔時系列データ取得処理S100の、2つの処理例について説明する。なお、咀嚼間隔時系列データ取得処理S100は、対象人物の咀嚼間隔を取得できる処理であればよく、以降に説明する2つの例に限られない。
【0031】
<1.1 画像データによる咀嚼間隔取得処理S1001>
画像データによる咀嚼間隔取得処理S1001について説明する。図2は、画像データによる咀嚼間隔取得処理S1001の処理フローチャートの例を示す図である。コンピュータは、対象人物が咀嚼を行っている画像データを撮影(撮影工程)する(S1001-1)。撮影は、例えば、カメラやビデオによって行われる。画像データは、例えば、フレーム単位で処理が可能な動画データである。また、画像データは、例えば、時間的に連続した連続静止画であってもよい。
【0032】
次に、コンピュータは、画像データから、人物の顔を検出し、顔特徴点を抽出(検出工程)する(S1001-2)。顔特徴点は、顔の特徴的な部分(ポイント)であり、複数抽出される。
【0033】
図3は、動画における、あるフレームの画像データと、顔特徴点の例を示す図である。図3において、顔内に丸くプロットされた点は、顔特徴点の例を示す。顔特徴点としては、例えば、目、口、鼻、頬や顎を含む輪郭、眉毛などの特徴を有する点が抽出される。例えば、顔特徴点P1は、鼻の中心付近を示す特徴点である。また、例えば、顔特徴点P2は、下顎付近を示す特徴点である。
【0034】
図2の処理フローチャートに戻り、コンピュータは、顔特徴点ごとの移動量を算出する(S1001-3)。移動量は、動画データであれば、あるフレームから次のフレームにおける移動量である。また、移動量は、連続静止画であれば、ある静止画から次に撮影された静止画における移動量である。移動量は、例えば、ピクセル(pixel)数で算出される。
【0035】
次に、コンピュータは、下顎の移動量から鼻の中点の移動量を減じた数値を算出する(S1001-4)。下顎は、咀嚼時に動く部位である。一方、鼻の中点は、咀嚼してもほとんど動かない部位である。そこで、コンピュータは、下顎の移動量から鼻の中点の移動量を減じる(差異を算出する)ことで、鼻の中点を軸とした相対的な下顎の移動量を算出し、咀嚼の状態を推定することができる。なお、鼻の中点の移動量は、顔特徴点P1の移動量であってもよいし、顔特徴点P1及び周辺の顔特徴点の移動量などを考慮し、算出されてもよい。下顎の移動量は、顔特徴点P2の移動量であってもよいし、顔特徴点P2及び周辺の特徴点の移動量などを考慮し、算出されてもよい。
【0036】
次に、コンピュータは、算出した差異のピーク値を検出する(S1001-5)。ピーク値は、例えば、1回の咀嚼時間内で最大(ピーク)の値であり、上の歯と下の歯の間隔が離れているときに検出されると想定できる。なお、コンピュータは、ピーク値の算出において、咀嚼ではない小さい部位の動きをピーク値と誤認識しないよう、所定の閾値を設け、閾値より小さい値はピーク値としないようにしてもよい。
【0037】
次に、コンピュータは、ピーク値とピーク値の時間間隔を算出し(S1001-6)、処理を終了する。ピーク値とピーク値の時間間隔は、例えば、間隔T1であり、1回の咀嚼時間とみなすことができる。
【0038】
図4は、鼻の中点と下顎の移動量の差異データの例を示す図である。図4のグラフは、縦軸が移動量(例えばピクセル数)であり、横軸がフレーム数である。期間T1は、ピーク値とピーク値の間隔であり、咀嚼間隔である。なお、図4は、動画データによる例である。コンピュータは、例えば、フレーム数を時間に変更し、時系列データ(データ取得工程)を作成する。
【0039】
<1.2 咬筋の表面筋電位計測による咀嚼間隔取得処理S1002>
咬筋の表面筋電位計測による咀嚼間隔取得処理S1002について説明する。図5は、咬筋の表面筋電位計測による咀嚼間隔取得処理S1002の処理フローチャートの例を示す図である。
【0040】
コンピュータは、対象人物の左右の咬筋の活動量を計測し、EMG(表面筋電位)の時系列データを取得する(S1002-1)。EMGの値(絶対値)は、筋肉の活動量が多い(強く力がかかる)ほど、大きくなる。
【0041】
コンピュータは、測定した左右のEMGのそれぞれを、絶対値に変換する(S1002-2)。コンピュータは、咀嚼区間におけるEMGに対し、その最大値をベースラインとした除算規格化を行う(S1002-3)。
【0042】
コンピュータは、最大筋電位の所定割合(例えば、10%)以上のEMGを、咀嚼時のEMGとして抽出する(S1002-4)。これは、咀嚼以外の動作(ノイズデータ)を除去するために実施される。
【0043】
コンピュータは、除算規格化した左右のEMGを合算し、所定値(例えば、0.1)以上の合算値を抽出する(S1002-5)。これは、極端に低い合算値(ノイズデータ)を除去するために実施される。
【0044】
そして、コンピュータは、抽出した合算値の、あるピーク値から次のピーク値までの時間を1回の咀嚼とみなし、咀嚼間隔の時系列データを算出し(S1002-6)、処理を終了する。
【0045】
図6は、咬筋活動量のデータの例を示す図である。図6のグラフは、縦軸が除算規格化したEMGの左右の和であり、横軸が経過時間である。図6Bは、図6Aの一部領域A1を拡大した図である。コンピュータは、あるピーク値から次のピーク値までの期間T2を、咀嚼間隔として取得する。
【0046】
<2.ゆらぎ解析処理S101について>
ゆらぎ解析処理S101の、2つの処理例について説明する。なお、ゆらぎ解析処理S101は、咀嚼間隔の時系列データのゆらぎを解析できればよく、以降に説明する2つの例に限られない。なお、ゆらぎ解析は、例えば、より短時間での実行を可能とするため、AI(Artificial Intelligence)に実行させてもよい。ゆらぎ解析に使用されるAIは、例えば、咀嚼間隔時系列データの一部から、直接的にゆらぎ係数を推定できるニューラルネットワークモデルで構成される。
【0047】
<2.1 パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理S1011>
図7は、パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理S1011の処理フローチャートの例を示す図である。パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理S1011は、咀嚼間隔の時系列データのパワースペクトル密度を算出し、グラフ化したグラフの勾配により、ゆらぎを評価する処理である。
【0048】
コンピュータは、咀嚼間隔の時系列データの線形補間を実施する(S1011-1)。コンユ―たは、高速フーリエ変換行い、パワースペクトル密度を算出する(S1011-2)。コンピュータは、算出したパワースペクトル密度を縦軸、周波数を横軸とした両対数グラフで表現する(S1011-3)。そして、コンピュータは、例えば、0.01Hzから0.3Hzの周波数において、最小二乗法を用いて回帰直線の勾配を算出する(S1011-4)。コンピュータは、算出した勾配をβとして取得し、処理を終了する。
【0049】
コンピュータは、ゆらぎの波形の特徴量としてβを評価する。βは、例えば、0に近似する場合、ホワイトノイズを示し、-1に近似する場合、1/fゆらぎを示し、-2に近似する場合、ブラウンノイズを示すものとする。コンピュータは、βが-1に近似する場合、咀嚼間隔の時系列データが1/fゆらぎを示すものとみなし、対象人物が無意識的な咀嚼運動を行っていたと判定する。
【0050】
<2.2 トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012>
図8は、トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012の処理フローチャートの例を示す図である。トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012は、トレンド(例えば平均値)を除去し、ゆらぎを評価する処理である。トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012は、例えば、DFA(Detrended Fluctuation Analysis)と呼ばれる。
【0051】
コンピュータは、咀嚼間隔の時間の平均値を算出し、元の咀嚼間隔の時系列データの全ての要素から、算出した平均値を減算する(S1012-1)。コンピュータは、1番目からi(iは2以上の整数)番目までのデータの積分値を算出し、i番目のデータとする(S1012-2)、第2の時系列データを生成する。そして、コンピュータは、第2の時系列データを長さn(nは4以上の整数)に区切り、その区間において最小二乗法により回帰直線を算出する(S1012-3)。コンピュータは、算出した回帰直線の二乗平均を算出する(S1012-4)。そして、コンピュータは、回帰直線の勾配を算出し(S1012-5)、算出した勾配をαとして取得し、処理を終了する。
【0052】
コンピュータは、ゆらぎの波形の特徴量としてαを評価する。αは、例えば、0.5に近似する場合、ホワイトノイズを示し、1に近似する場合、1/fゆらぎを示し、1.5に近似する場合、ブラウンノイズを示すものとする。コンピュータは、αが1に近似する場合、咀嚼間隔の時系列データが1/fゆらぎを示すものとみなし、対象人物が無意識的な咀嚼運動を行っていたと判定する。
【0053】
<3.判定処理S102について>
判定処理S102について説明する。上述した2つのゆらぎ解析処理S101それぞれでゆらぎ解析を行った場合について説明する。コンピュータは、判定処理S102において、対象人物の咀嚼状態を判定する。咀嚼状態は、例えば、対象人物の咀嚼における意識状態を示すもので、意識的に咀嚼を行っているか、あるいは無意識的に咀嚼を行っているか示す。また、言い換えれば、判定処理S102は、ゆらぎ解析処理S101の結果(回帰直線の勾配)が1/fゆらぎを示すか否かを判定し、判定結果に応じて、対象人物の咀嚼状態を判定する処理である。なお、判定処理S102は、以下の説明において、咀嚼状態が意識的であるか無意識的であるかを判定しているが、例えば、意識的かそれ以外か、又は無意識的かそれ以外か、という判定であってもよい。
【0054】
<3.1 パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理S1011でゆらぎ解析を行った場合>
コンピュータは、βが-1に近似する場合、咀嚼間隔の時系列データが1/fゆらぎを示すと判定する。コンピュータは、例えば、βが-0.9より小さく、-1.1より大きい(-0.9>β>-1.1)場合、1/fゆらぎを示すと判定する。
【0055】
図9は、シングル課題実行時及びデュアル課題実行時における、単位時間ごとのβのグラフの例を示す図である。シングル課題の実行は、例えば、対象人物が咀嚼動作のみを行うことである。対して、デュアル課題の実行は、対象人物が咀嚼動作に加え、もう一つ以上の動作を並行して行うことである。
【0056】
図9は、シングル課題として、ガムの咀嚼のみを行い、デュアル課題として、ガムの咀嚼に加え、計算問題を実施した場合の、βの値を示す。図9によると、シングル課題の場合のβは、-1.2~-1.3の間の値を示す。コンピュータは、シングル課題の場合の咀嚼間隔の時系列データのβが所定範囲(-0.9>β>-1.1)外であるため、1/fゆらぎを示さず(図1の判定処理S102のNo)、意識的な咀嚼運動であると判定する(図1の処理S103)。
【0057】
一方、図9によると、デュアル課題の場合のβは、-1.0近辺の値を示す。コンピュータは、デュアル課題の場合の咀嚼間隔の時系列データのβが所定範囲(-0.9>β>-1.1)内であるため、1/fゆらぎを示し(図1の判定処理S102のYes)、無意識的な咀嚼運動であると判定する(図1の処理S104)。
【0058】
このように、シングル課題とデュアル課題の咀嚼データを取得し、トレンド除去ゆらぎ解析を行い、それぞれを比較した評価(評価工程)を行うと、デュアル課題の咀嚼データのほうが、1/fゆらぎに近い勾配を示すことがわかる。すなわち、シングル課題の咀嚼データは、1/fゆらぎを示さず、意識的な咀嚼運動であることを示し、デュアル課題の咀嚼データは、1/fゆらぎを示し、無意識的な咀嚼運動であることを示すことがわかる。
【0059】
<3.2 トレンド除去ゆらぎ解析処理S1012でゆらぎ解析を行った場合>
コンピュータは、αが1に近似する場合、咀嚼間隔の時系列データが1/fゆらぎを示すと判定する。コンピュータは、例えば、αが0.95より大きく、1.05より小さい(1.05>α>0.95)場合、1/fゆらぎを示すと判定する。
【0060】
図10は、シングル課題実行時及びデュアル課題実行時における、単位時間ごとのαのグラフの例を示す図である。
【0061】
図10によると、シングル課題の場合のαは、1.1付近の値を示す。コンピュータは、シングル課題の場合の咀嚼間隔の時系列データのαが所定範囲(1.05>α>0.95)外であるため、1/fゆらぎを示さず(図1の判定処理S102のNo)、意識的な咀嚼運動であると判定する(図1の処理S103)。
【0062】
一方、図10によると、デュアル課題の場合のαは、1.0近辺の値を示す。コンピュータは、デュアル課題の場合の咀嚼間隔の時系列データのαが所定範囲(1.05>α>0.95)内であるため、1/fゆらぎを示し(図1の判定処理S102のYes)、無意識的な咀嚼運動であると判定する(図1の処理S104)。
【0063】
このように、シングル課題とデュアル課題の咀嚼データを取得し、トレンド除去ゆらぎ解析を行い、それぞれを比較した評価(評価工程)を行うと、デュアル課題の咀嚼データのほうが、1/fゆらぎに近い勾配を示すことがわかる。すなわち、シングル課題の咀嚼データは、1/fゆらぎを示さず、意識的な咀嚼運動であることを示し、デュアル課題の咀嚼データは、1/fゆらぎを示し、無意識的な咀嚼運動であることを示すことがわかる。
【0064】
第1の実施の形態において、シングル課題とデュアル課題の咀嚼データを評価した結果、どちらの咀嚼データにおいても、シングル課題の咀嚼データは、1/fゆらぎを示さず、デュアル課題の咀嚼データは、1/fゆらぎを示すことがわかる。この特性を利用し、コンピュータは、咀嚼運動判定処理S10において、咀嚼の状態(意識的であるか、又は無意識的であるか)を、高い精度で判定することができる。
【0065】
[その他の実施の形態]
咀嚼運動判定処理は、例えば、食品の評価に使用されてもよい。例えば、高齢者は、意識的な咀嚼を行うことで、短期的な記憶力が向上し、生活の質が向上することが示唆される研究が報告されている。人物の咀嚼における意識状態は、食品の様々な要素(硬さ、味、弾力性、大きさなど)の差異によって、変化することが予想される。研究者は、第1の実施の形態における咀嚼運動判定処理を用いて食品を評価することで、より意識的な咀嚼、又はより無意識的な咀嚼を意図した食品や食材を開発することができる。例えば、高齢者の意識的な咀嚼を促す食品の開発や、リラックス効果を意図した無意識的な咀嚼を促す食品の開発が想定される。
【0066】
具体的には、コンピュータは、複数の食品についての咀嚼間隔の時系列データを取得し、それぞれの時系列データのゆらぎ解析を行い、回帰直線の勾配が1/fゆらぎを示さない食品を、意識的に咀嚼する食品として抽出(抽出工程)する。なお、咀嚼間隔の時系列データは、例えば、デュアル課題におけるデータが好ましい。
【符号の説明】
【0067】
S10 :咀嚼運動判定処理
S100 :咀嚼間隔時系列データ取得処理
S1001 :画像データによる咀嚼間隔取得処理
S1002 :咬筋の表面筋電位計測による咀嚼間隔取得処理
S101 :ゆらぎ解析処理
S1011 :パワースペクトル密度によるゆらぎ解析処理
S1012 :トレンド除去ゆらぎ解析処理
P1 :顔特徴点
P2 :顔特徴点
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
図9
図10