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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024032680
(43)【公開日】2024-03-12
(54)【発明の名称】うつ症状のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
A61B10/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136961
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022135675
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】萩原 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】竹内 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】明和 政子
(72)【発明者】
【氏名】松永 倫子
(57)【要約】
【課題】身体面の評価からうつ病のリスク対象者を選択するための、簡便なうつ症状のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】漢方における気虚、気鬱、血虚、お血および水滞にそれぞれ該当する身体症状に関する質問を行い、回答の合計点数を指標にうつ症状を判定することを特徴とする、うつ症状のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
うつ症状のスクリーニング方法であって、漢方における気虚、気鬱、血虚、お血および水滞にそれぞれ該当する身体症状に関する質問を行い、回答の合計点数を指標にうつ症状を判定することを特徴とする方法。
【請求項2】
気虚に該当する身体症状が、疲れやすさ、食後の眠気、手足のだるさ、脱力感、食欲不振、下痢、および風邪症状のいずれか一つを含み、
気鬱に該当する身体症状が、喉のつかえ、残尿感、胸部や腹部の張り、イライラする、情緒不安定、胃腸不安定、および月経周期の乱れのいずれか一つを含み、
血虚に該当する身体症状が、身体の冷え、抜け毛、皮膚の乾燥、貧血、顔色が悪い、疲れ目、および陰部の違和感のいずれか一つを含み、
お血に該当する身体症状が、肩こり、痔、肌のくすみ、目の下のクマ、肌のシミ、肌荒れ、およびそばかすのいずれか一つを含み、
水滞に該当する身体症状が、頭痛、めまい、立ちくらみ、むくみ、肌の代謝低下、および吐き気のいずれか一つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
気虚に該当する身体症状に関する質問が、疲れやすさ、食後の眠気、および手足のだるさのいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、
気鬱に該当する身体症状に関する質問が、喉のつかえ、残尿感、および腹部の張りのいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、
血虚に該当する身体症状に関する質問が、身体の冷え、抜け毛、皮膚の乾燥、および陰部の違和感のいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、
お血に該当する身体症状に関する質問が、目の下のクマ、肌のシミ、肌荒れ、および痔のいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、
水滞に該当する身体症状に関する質問が、頭痛、めまい、立ちくらみ、およびむくみのいずれか一つの身体症状に関する質問を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
被験者に以下の質問を行うことを特徴とする請求項3に記載の方法:
気虚に関する質問
1.疲れやすいですか?
2.食後に眠たくなりますか?
3.手足のだるさがありますか?
気鬱に関する質問
4.喉がつかえる感じがありますか?
5.残尿感がありますか?
6.お腹がはる感じがありますか?
血虚に関する質問
7.冷えを感じますか?
8.髪の毛がぬけやすいですか?
9.肌が乾燥していますか?
10.陰部に違和感はありますか?
お血に関する質問
11.目の下にクマができますか?
12.肌にシミができやすいですか?
13.肌が荒れやすい(赤くなったり、湿疹ができたり)ですか?
14.痔がありますか?
水滞に関する質問
15.頭痛がありますか?
16.めまい、立ちくらみがありますか?
17.むくみますか?
【請求項5】
前記各質問に対して「はい」、「ときどき」および「いいえ」のいずれかで回答し、以下の回答をした被験者をうつ症状があると判定する、請求項4に記載の方法:
・「はい」が5回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が1回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が3回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が5回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が7回以上、または
・「ときどき」が9回以上。
【請求項6】
被験者が未成年者の母親である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
被験者が小学校入学前の子供の母親である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
さらに、月経再開に関する質問を追加する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項4に記載の各質問に対して「はい」、「ときどき」および「いいえ」のいずれかで回答し、月経再開に関する質問に対して「月経再開有り」または「月経再開無し」で回答し、以下の回答をした被験者をうつ症状があると判定する、請求項8に記載の方法:
(1)「月経再開有り」と回答し、かつ
・「はい」が7回以上、
・「はい」が6回「ときどき」が1回以上、
・「はい」が5回「ときどき」が3回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が5回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が7回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が9回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が11回以上、または
・「ときどき」が13回以上;
(2)「月経再開無し」と回答し、かつ
・「はい」が5回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が2回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が4回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が6回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が8回以上、または
・「ときどき」が10回以上。
【請求項10】
産後1年以内の女性を被検者とし、産後うつ症状のスクリーニング方法である、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うつ症状のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メンタルヘルスに対して社会の関心が急速に高まっており,「メンタルヘルス」や「セルフケア」の重要性に関する認知は非常に高くなっている。実際、日本のうつ病患者は増加傾向であり、経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は、新型コロナウイルス流行後の2020年には17.3%であり、2013年調査の7.9%から約2倍に増加している。自殺の原因としてもうつ病は関与しており、早急に取り組むべき課題である。
【0003】
うつ病は予防、早期発見、早期治療が重要であるが、うつ患者の受診率は2割程度と低く(非特許文献1)、スクリーニングによる受診勧告をしても7割が受診拒否をしたという報告もある(非特許文献2)。すなわち、メンタルヘルス対策が、適切な受療行動に結びついていない現状がある。
【0004】
従来のうつ評価尺度では、精神症状に関する直接的な質問が多く含まれており、患者自身が負の感情表出を避ける傾向にあったり、検査時の測定環境や検者との関係が影響したりするため誤差が大きいことが指摘されている。また、うつ患者が身体不調を理由に受診することもあり、最初に受診する科は精神科以外であることが多い。そのため、非専門医でも簡便に判定できるような身体症状を指標としたうつ評価尺度の開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Psychiatry Clin Neurosci. 2005;59(4):441-452. doi: 10.1111/j.1440-1819.2005.01397.x.
【非特許文献2】Cancer. 2005 May 1;103(9):1949-1956. doi: 10.1002/cncr.20992.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、身体面の評価からうつ病のリスク対象者を選択するための、簡便なうつ症状のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]うつ症状のスクリーニング方法であって、漢方における気虚、気鬱、血虚、お血および水滞にそれぞれ該当する身体症状に関する質問を行い、回答の合計点数を指標にうつ症状を判定することを特徴とする方法。
[2]気虚に該当する身体症状が、疲れやすさ、食後の眠気、手足のだるさ、脱力感、食欲不振、下痢、および風邪症状のいずれか一つを含み、気鬱に該当する身体症状が、喉のつかえ、残尿感、胸部や腹部の張り、イライラする、情緒不安定、胃腸不安定、および月経周期の乱れのいずれか一つを含み、血虚に該当する身体症状が、身体の冷え、抜け毛、皮膚の乾燥、貧血、顔色が悪い、疲れ目、および陰部の違和感のいずれか一つを含み、お血に該当する身体症状が、肩こり、痔、肌のくすみ、目の下のクマ、肌のシミ、肌荒れ、およびそばかすのいずれか一つを含み、水滞に該当する身体症状が、頭痛、めまい、立ちくらみ、むくみ、肌の代謝低下、吐き気のいずれか一つを含む、前記[1]に記載の方法。
[3]気虚に該当する身体症状に関する質問が、疲れやすさ、食後の眠気、および手足のだるさのいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、気鬱に該当する身体症状に関する質問が、喉のつかえ、残尿感、および腹部の張りのいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、血虚に該当する身体症状に関する質問が、身体の冷え、抜け毛、皮膚の乾燥、および陰部の違和感のいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、お血に該当する身体症状に関する質問が、目の下のクマ、肌のシミ、肌荒れ、および痔のいずれか一つの身体症状に関する質問を含み、水滞に該当する身体症状に関する質問が、頭痛、めまい、立ちくらみ、およびむくみのいずれか一つの身体症状に関する質問を含む、前記[1]または [2]に記載の方法。
[4]被験者に以下の質問を行うことを特徴とする前記[3]に記載の方法:
気虚に関する質問
1.疲れやすいですか?
2.食後に眠たくなりますか?
3.手足のだるさがありますか?
気鬱に関する質問
4.喉がつかえる感じがありますか?
5.残尿感がありますか?
6.お腹がはる感じがありますか?
血虚に関する質問
7.冷えを感じますか?
8.髪の毛がぬけやすいですか?
9.肌が乾燥していますか?
10.陰部に違和感はありますか?
お血に関する質問
11.目の下にクマができますか?
12.肌にシミができやすいですか?
13.肌が荒れやすい(赤くなったり、湿疹ができたり)ですか?
14.痔がありますか?
水滞に関する質問
15.頭痛がありますか?
16.めまい、立ちくらみがありますか?
17.むくみますか?
[5]前記各質問に対して「はい」、「ときどき」および「いいえ」のいずれかで回答し、以下の回答をした被験者をうつ症状があると判定する、前記[4]に記載の方法:
・「はい」が5回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が1回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が3回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が5回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が7回以上、または
・「ときどき」が9回以上。
[6]被験者が未成年者の母親である、前記[4]に記載の方法。
[7]被験者が小学校入学前の子供の母親である、前記[6]に記載の方法。
[8]さらに、月経再開に関する質問を追加する、前記[7]に記載の方法。
[9]請求項4に記載の各質問に対して「はい」、「ときどき」および「いいえ」のいずれかで回答し、月経再開に関する質問に対して「月経再開有り」または「月経再開無し」で回答し、以下の回答をした被験者をうつ症状があると判定する、前記[8]に記載の方法:
(1)「月経再開有り」と回答し、かつ
・「はい」が7回以上、
・「はい」が6回「ときどき」が1回以上、
・「はい」が5回「ときどき」が3回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が5回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が7回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が9回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が11回以上、または
・「ときどき」が13回以上;
(2)「月経再開無し」と回答し、かつ
・「はい」が5回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が2回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が4回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が6回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が8回以上、または
・「ときどき」が10回以上。
[10]産後1年以内の女性を被検者とし、産後うつ症状のスクリーニング方法である、前記[8]または[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、身体面の評価からうつ病のリスク対象者を選択するための、簡便なうつ症状のスクリーニング方法を提供することができる。本発明のスクリーニング方法を用いれば、精神科以外の非専門医でも簡便にうつ病のリスク対象者を選択することができる。また、本発明のスクリーニング方法は、自己記入式スクリーニングとして、うつ症状のセルフチェックに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1におけるMDPSスコアとBDI-IIスコアについて単変量回帰分析を行った結果を示す図であり、(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。
図2】実施例1における母親用MDPS(MDPS-M)のスコアの分布を示す図であり、(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。
図3】母親用MDPS(MDPS-M)のROC曲線を示す図であり、(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。
図4】実施例1における母親用MDPS(MDPS-M)のカットオフ値を9/10とした場合の、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性適中率(positive predictive value)、陰性適中率(negative predictive value)を示す図であり、(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。
図5】実施例1における、母親用MDPS(MDPS-M)のキャリブレーションプロットの結果を示す図であり、(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。
図6】(A)は実施例2におけるMDPSのROC曲線を示す図であり、(B)はMDPSのカットオフ値を9点(8/9)とした場合の、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性適中率(positive predictive value)、陰性適中率(negative predictive value)を示す図である。
図7】実施例3におけるMDPSスコアとCES-Dスコアについて単変量回帰分析を行った結果を示す図である。
図8】実施例3におけるMDPSスコアとPSSスコアについて単変量回帰分析を行った結果を示す図である。
図9】(A)は実施例3におけるMDPSのROC曲線を示す図であり、(B)はMDPSのカットオフ値を10点(9/10)とした場合の、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、うつ症状のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、漢方における気虚、気鬱、血虚、お血および水滞にそれぞれ該当する身体症状に関する質問を行い、回答の合計点数を指標にうつ症状を判定することを特徴とする。本発明のスクリーニング方法は、うつ病のリスク対象者を選択する方法と称してもよい。
【0011】
漢方では、体は「気・血・水(き・けつ・すい)」という3つの要素で構成されており、これら3つのバランスが崩れたり偏ったりすることで不調が起きると考えられている。「気(き)」とは、身体を巡り身体機能や精神機能を維持する源となるエネルギーを指す。「気虚(ききょ)」とは、そのエネルギーが不足している状態をいう。「気鬱(きうつ)」とは、本来順調に身体を流れる気の流れが滞っている状態をいう。「血(けつ)」とは、血液およびそこに含まれているホルモン、栄養素やたんぱく質など諸々の体の構成要素を指す。「血虚(けっきょ)」は血液およびそこに含まれているホルモン、栄養素やたんぱく質など諸々の体の構成要素が不足している状態をいう。「お血(おけつ)」とは「血」の流れに障害をきたした結果、肝斑、出血班、目の下のクマや、手足の細絡が出現し、治療の抵抗性や症状の回復の遅れを示す状態をいう。「水(すい)」とは、汗、唾液、リンパ液などの血以外の組織や循環系の水分を指す。「水滞(すいたい)」とは、「水」の流れが滞ることにより、手足の浮腫や頭痛などが生じる状態をいう。
【0012】
気虚に該当する身体症状としては、例えば、疲れやすさ、食後の眠気、手足のだるさ、脱力感、食欲不振、下痢、風邪をひきやすい等が挙げられる。気鬱に該当する身体症状としては、例えば、イライラする、情緒不安定、胃腸が不安定、月経周期の乱れ、残尿感、喉のつかえ、胸部や腹部の張り等が挙げられる。血虚に該当する身体症状としては、例えば、身体の冷え、貧血、皮膚の乾燥、顔色が悪い、疲れ目、抜け毛、陰部の違和感等が挙げられる。お血に該当する身体症状としては、例えば、肩こり、痔、目の下のクマ、肌のシミ、肌荒れ、肌のくすみ、そばかす、傷やあざが治り難い等が挙げられる。水滞に該当する身体症状としては、例えば、頭痛、むくみ、肌の代謝の低下、めまい、立ちくらみ、吐き気等が挙げられる。
【0013】
本発明のスクリーニング方法において、気虚に該当する身体症状に関する質問は、疲れやすさ、食後の眠気、および手足のだるさのいずれか一つの身体症状に関する質問を含むことが好ましい。気鬱に該当する身体症状に関する質問は、喉のつかえ、残尿感、および腹部の張りのいずれか一つの身体症状に関する質問を含むことが好ましい。血虚に該当する身体症状に関する質問は、身体の冷え、抜け毛、皮膚の乾燥、および陰部の違和感のいずれか一つの身体症状に関する質問を含むことが好ましい。お血に該当する身体症状に関する質問は、目の下のクマ、肌のシミ、肌荒れ、および痔のいずれか一つの身体症状に関する質問を含むことが好ましい。水滞に該当する身体症状に関する質問は、頭痛、めまい、立ちくらみ、およびむくみのいずれか一つの身体症状に関する質問を含むことが好ましい。
【0014】
本発明のスクリーニング方法は、被験者に以下の表1に記載の質問を行うスクリーニング方法であってもよい。被検者の性別は特に限定されず、男性であってもよく、女性であってもよい。被検者の年齢は特に限定されないが、好ましくは成人である。
【表1】
【0015】
本発明のスクリーニング方法は、被験者に上記表1に記載の質問を行い、その回答によってうつ症状を判定することができる。例えば、以下の回答をした被験者をうつ症状があると判定してもよい。
・「はい」が5回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が1回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が3回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が5回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が7回以上、または
・「ときどき」が9回以上。
【0016】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、上記表1の各質問の回答に点数を付け、その合計点数を算出することにより、うつ症状を判定してもよい。例えば、はい(2点)、ときどき(1点)、いいえ(0点)とした場合、17項目の質問に対する回答の合計点数が9点以上または10点以上の被験者をうつ症状があるまたはうつ病のリスク対象者であると判定することができる。
【0017】
被験者は女性であってもよい。被験者が女性である場合、女性は子育て中の母親であってもよく、未成年者を育てている母親であってもよい。未成年者は、中学生以下であってもよく、小学生以下であってもよく、小学校入学前の子供(未就学児)であってもよい。
【0018】
被験者が未就学児の母親である場合、上記表1の17項目の質問以外に、月経再開に関する質問を追加することが好ましい。月経再開に関する質問を追加した場合、例えば、以下の回答をした被験者をうつ症状があると判定してもよい。
(1)「月経再開有り」と回答し、かつ
・「はい」が7回以上、
・「はい」が6回「ときどき」が1回以上、
・「はい」が5回「ときどき」が3回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が5回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が7回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が9回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が11回以上、または
・「ときどき」が13回以上;
(2)「月経再開無し」と回答し、かつ
・「はい」が5回以上、
・「はい」が4回「ときどき」が2回以上、
・「はい」が3回「ときどき」が4回以上、
・「はい」が2回「ときどき」が6回以上、
・「はい」が1回「ときどき」が8回以上、または
・「ときどき」が10回以上。
【0019】
例えば、上記表1の17項目の質問の回答に、はい(2点)、ときどき(1点)、いいえ(0点)の点数を付け、月経再開有り(-3点)、月経再開無し(0点)の点数を付けた場合、これらの点数を加算した合計点数が10点以上の場合に、被検者はうつ症状があるまたはうつ病のリスク対象者であると判定することができる。
【0020】
被験者が産後1年以内の女性である場合、本発明のスクリーニング方法により、産後うつ症状を判定することができる。例えば、上記表1の17項目の質問の回答に、はい(2点)、ときどき(1点)、いいえ(0点)の点数を付け、月経再開有り(-3点)、月経再開無し(0点)の点数を付けた場合、合計点数が10点以上の被検者は産後うつ症状があるまたは産後うつ病のリスク対象者であると判定することができる。
【0021】
本発明のスクリーニング方法は、うつ症状を有する患者またはうつ症状の発症を自覚していない患者が、身体不調を理由に精神科以外の診療科を受診する場合に、非専門医は被検者がうつ病のリスク対象者であるか否かを簡便に判定することができる点で、非常に有用である。また、体調不良者が本発明のスクリーニング方法を自己記入式スクリーニングとして自分自身で行うことにより、うつ症状の存在に気付き、精神科受診の動機を与える点で、非常に有用である。
【0022】
従来のスクリーニング方法は、感情に力点が置かれていたので、静かな検査環境や検査相手の共感性に影響されたが、本発明のスクリーニング方法は身体症状を指標とするので、患者の検査時の生活環境、育児サポートの有無、共感性のある人物の有無等に影響されない点で非常に有用である。
【実施例0023】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1:身体的側面からうつ症状を推測する多次元身体尺度(Multidimensional Physical Scale: MDPS)の開発〕
1-1 被検者
未就学児の母親である日本人産後女性1448人を全国で募集し、最終的に1297人のデータを収集した。有効回答が得られた1135人のデータを解析に使用した。ホールドアウト法を採用し、ランダムに抽出した70%のデータを学習用コホート(development cohort)とし、残りの30%を検証用コホート(validation cohort)とした。本研究は、大阪大学医学部施設審査委員会および京都大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を受け,UMINシステム(UMIN000043945)に登録されたものである。被験者に対して研究概要を説明する集団説明会を開催し、書面でのインフォームドコンセントを得た。
【0025】
1-2 うつ病の評価
うつ病の評価は、うつ病症状の重症度を評価するBDI-II(Beck Depression Inventory-Second Edition、ベック抑うつ質問票)を用い、全ての被験者から回答を得た。BDI-IIはDSM-IVの診断基準に基づいており、日本語で検証・標準化されている(Kojima et al., Psychiatry Res. 2002 Jul 31;110(3):291-299.)。BDI-II日本語版は、21項目で構成されており、各項目0~3の4段階の得点で回答を評価し、合計得点から重症度を判別する。14点以上を軽症うつと診断した。
【0026】
1-3 うつ病スクリーニングのための多次元身体尺度(MDPS)
本発明者が作成した17項目の質問からなるMDPS(表1参照)について、全ての被検者から回答を得た。加えて、出産経験、月経再開の有無についても回答を得た。
【0027】
1-4 統計解析
連続変数は平均値±標準偏差(SD)または中央値(四分位範囲)でまとめ、カテゴリー変数は度数およびパーセンテージで示した。BDI-IIにより軽症以上のうつ(14点以上)と診断されるリスク群の検出を目的変数とし、MDPS17項目、5つのサブスケール、MDPSの合計点数をそれぞれ説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。加えて、先行研究にて産後うつとの関連が示唆されている年齢、出産歴、ホルモンバランスを調整因子として、変数減少法を利用してMDPSの合計点数を含むモデルを作成した。最終モデルでスコアの重み付けを行い、MDPSの合計点数を用いた簡便なスクリーニング指標としてMDPS for mothers(MDPS-M)を設定した。
【0028】
1-5 結果
(1)被験者の特徴
被験者の特徴を表2に示す。学習用コホートは785例、検証用コホートは350例であった。学習用コホートでは平均年齢は34.3±4.8歳、平均生後月数は22.8±11.9か月であった。BDI-IIによると、212例(27.0%)がうつ病に分類され、その内訳は、119例(15.2%)が軽症うつ病、70例(8.9%)は中等症うつ病、23例(2.9%)は重症うつ病であった。検証用コホートでは、平均年齢は34.1±4.8歳、平均生後月数は23.6±12.8か月であった。BDI-IIによると、109例(31.2%)がうつ病に分類され、その内訳は、65例(18.6%)が軽症うつ病、36例(10.3%)は中等症うつ病、8例(2.3%)は重症うつ病であった。
【0029】
【表2】
【0030】
(2)MDPSスコアとBDI-IIスコアの相関
学習用コホートおよび検証用コホートにおけるMDPSスコアとBDI-IIスコアについて、それぞれ単変量回帰分析を行った。結果を図1に示す。(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。学習用コホートのβ値は0.49(p<0.01)、検証用コホートのβ値は0.53(p<0.01)であり、どちらも有意な正の相関が認められた。
【0031】
(3)多重ロジスティック回帰分析
学習用コホートにおいて、BDI-IIスコア(うつ判定)と、MDPSの17の質問項目、5つのサブスケール[気虚(PAI)、気鬱(SDI)、血虚(HAI)、お血(MDI)、水滞(MRI)]、および合計点数との関係を多重ロジスティック回帰分析によって検討した。
17の質問項目については、質問MDPS1(p<0.01)と質問MDPS3(p<0.01)において有意な相関が認められた(表3)。5つのサブスケールについては、気虚(PAI、p<0.01)、気鬱(SDI、p<0.01)および血虚(HAI、p=0.02)において有意な相関が認められた(表4)。合計点数については、有意な相関が認められた(p<0.01)。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
(4)母親用MDPS(MDPS-M)
独立変数として、MDPSの合計点数、年齢、出産経験、月経再開の有無を特定した。Backward stepwise selection法を用いて変数を減らし、MDPSの合計点数と月経再開の有無を選択した。最終モデルのβ回帰係数に基づき、各因子に整数倍の重み付けを行い、月経再開を0~3点、MDPSの合計点数を0~34点とした(表5)。この2つのスコアの単純合計(最低点:-3、最高点:34)により、MDPS-Mが計算された。
【0035】
【表5】
【0036】
スコアの分布を図2に示す。(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。学習用コホートにおいて、BDI-IIスコア14以上(軽症うつ病以上)と14未満(うつ症状なし)で、MDPS-Mのスコア分布は明らかに異なっていた。同様のMDPS-Mのスコア分布が、検証用コホートでも確認された。
【0037】
MDPS-MのROC曲線を図3に示す。(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。学習用コホートにおいて、曲線下面積(AUC)は0.74であり、95%信頼区間は0.70-0.78であった。検証用コホートにおいても学習用コホートとほぼ同じ結果(AUC:0.74、95%信頼区間:0.68-0.79)が得られた。臨床的意義のあるカットオフ値は、感度80%以上が望ましいとし、MDPS-Mのカットオフ値を9/10と決定した。
【0038】
MDPS-Mのカットオフ値を9/10とした場合の、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性適中率(positive predictive value)、陰性適中率(negative predictive value)を図4に示す。(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。学習用コホートの感度は84.9%、特異度は45.7%、陽性適中率は36.7%、陰性適中率は89.2%であった。検証用コホートにおいても学習用コホートとほぼ同じ結果(感度:84.4%、特異度:44.8%、陽性適中率:40.9%、陰性適中率:86.4%)が得られた。
【0039】
キャリブレーションプロットの結果を図5に示す。(A)は学習用コホートの結果、(B)は検証用コホートの結果である。学習用コホートでは、予測されたリスクは実際のうつ病のリスクとよく一致し、Calibration in the largeは0.00、Calibration slopeは1.00であった。検証用コホートは、予測されたリスクは実際のうつ病のリスクとよく一致し、Calibration in the largeは0.00、Calibration slopeは1.00であった。
【0040】
上記のとおり、MDPS-Mの検証用コホートの結果は、MDPS-Mの学習用コホートの結果とほぼ同じであった。
【0041】
〔実施例2:身体的側面からうつ症状を推測する多次元身体尺度(MDPS)の開発〕
2-1 被験者および方法
43人の成人男女(男性38人、女性5人、平均年齢25.5±4.8)を被検者とした。17項目の質問からなるMDPS(表1参照)について、全ての被検者から回答を得た。うつ病の評価は、CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale, LS Radloff, Applied Psychological Measurement. 1977; 1 :385-401)を用いて行った。CES-Dは20項目の自己評価尺度であり、各回答には0点から3点の4段階の得点が与えられ、16点以上をうつと診断した。
【0042】
2-2 結果
被検者のデータに基づいて、CES-D16点以上をうつハイリスク群と検出することを目的変数として、ROC曲線を描いた(図6(A))。感度80%以上となるMDPSのカットオフ値として9点(8/9)が妥当であると考えられた。MDPSのカットオフ値を9点(8/9)とした場合の感度(Sensitivity)は80.0%、、特異度(Specificity)は91.0%、陽性適中率(positive predictive value)は72.7%、陰性適中率(negative predictive value)は93.8%であった(図6(B))。
【0043】
〔実施例3:身体的側面からうつ症状を推測する多次元身体尺度(MDPS)の開発〕
3-1 被検者および方法
男性108名(平均42.8歳±15.9歳、20~79歳)および女性231名(平均48.0±13.0歳、18~78歳)を被検者とした。17項目の質問からなるMDPS(表1参照)について、全ての被検者から回答を得た。うつ病の評価は、CES-Dを用いて行った。CES-Dは20項目の自己評価尺度であり、各回答には0点から3点の4段階の得点が与えられ、16点以上をうつと診断した。さらに、知覚ストレス尺度であるPSS(Perceived Stress Scale, Cohen 1986 American Psychologist, 41, 716-718)および生活習慣・社会経済状態に関する自己記入式の質問票への回答を得た。PSSは14項目の自己評価尺度であり、各回答には0点から4点の5段階の得点が与えられる。
【0044】
3-2 結果
(1)MDPSスコアとCES-Dスコアの相関
MDPSスコアとCES-Dスコアについて、単変量回帰分析を行った結果を図7に示す。(A)は男性の結果、(B)は女性の結果である。男性のβ値は0.63(p<0.001)、女性のβ値は0.39(p<0.001)であり、男女とも有意な正の相関が認められた。
【0045】
(2)MDPSスコアとPSSスコアの相関
MDPSスコアとPSSスコアについて、単変量回帰分析を行った結果を図8に示す。(A)は男性の結果、(B)は女性の結果である。男性のβ値は0.39(p<0.001)、女性のβ値は0.31(p<0.001)であり、男女とも有意な正の相関が認められた。
【0046】
被検者のデータに基づいて、CES-D16点以上をうつハイリスク群と検出することを目的変数として、ROC曲線を描いた(図9(A))。感度80%以上となるMDPSのカットオフ値として10点(9/10)が妥当であると考えられた。MDPSのカットオフ値を9点(8/9)とした場合の感度(Sensitivity)は83.8%、、特異度(Specificity)は49.1%であった(図9(B))。
【0047】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
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図9