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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033043
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240306BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240306BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240306BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240306BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08J5/24 CFF
H05K1/03 610H
B32B15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136403
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】玉置 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小畑 菜緒
(72)【発明者】
【氏名】河井 潤也
(72)【発明者】
【氏名】亀屋(藤原) 久美子
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB09
4F072AD43
4F072AE01
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH02
4F072AH31
4F072AJ04
4F072AL13
4F100AB01B
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AG00A
4F100AK25A
4F100AK51A
4F100BA02
4F100BA11
4F100CA02A
4F100CA23A
4F100CA30A
4F100DG01A
4F100DG11A
4F100DG12A
4F100DH01A
4F100EJ17
4F100EJ20
4F100EJ42
4F100EJ82
4F100EJ86
4F100GB43
4F100JG04A
4F100JG05
4J002AA001
4J002BK001
4J002CE001
4J002CH071
4J002DE088
4J002DE148
4J002DE238
4J002DG048
4J002DJ018
4J002DJ048
4J002EK007
4J002EU189
4J002EU196
4J002FD018
4J002FD147
4J002FD149
4J002GF00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、硬化物として低誘電正接を有し、かつ硬化後の残存モノマーを低減
することが可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ベース樹脂と、下記式(1)で表される(B)トリアリルイソシア
ヌレート及び(C)連鎖移動性モノマーからなる架橋型硬化剤、を含む樹脂組成物であっ
て、
(A)/(B)+(C)の含有比が90/10~30/70であり、
かつ前記(B)トリアリルイソシアヌレートと、前記(C)連鎖移動性モノマーの含有比
が99/1~1/99であることを特徴とする樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベース樹脂と、下記式(1)で表される(B)トリアリルイソシアヌレート及び
(C)連鎖移動性モノマーからなる架橋型硬化剤、を含む樹脂組成物であって、
(A)/(B)+(C)の含有比が90/10~30/70であり、
かつ前記(B)トリアリルイソシアヌレートと、前記(C)連鎖移動性モノマーの含有
比が99/1~1/99であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記(C)連鎖移動性モノマーが下記式(2)の部分構造を持つ(メタ)アリルモノマ
ーである、請求項1記載の樹脂組成物。
【化2】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を、Xは窒素, 酸素, 炭素原子のいずれかを示す
。)
【請求項3】
前記(C)連鎖移動性モノマーが下記式(3)で表されるトリ(メタ)アリルシアヌレ
ートである請求項2記載の樹脂組成物。
【化3】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を示す。)
【請求項4】
請求項1~3に記載の樹脂組成物と(D)重合開始剤を含む樹脂硬化物。
【請求項5】
フィラーが含まれていることを特徴とする請求項1~3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~3に記載の樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物と繊維性基材とを備えるこ
とを特徴とするプリプレグ。
【請求項7】
請求項1~3に記載の樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔と
を備えることを特徴とする樹脂付き金属箔。
【請求項8】
請求項1~3に記載の樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備えることを特
徴とする金属張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムの標準化プロジェクトである3GPP(登録商標)(ThirdG
eneration PartnershipProject)や、各国の標準化団体な
どによって、次世代無線通信システムとして、第5世代移動通信システム(5G:5th
Generation)の標準化が進められている。
次世代無線通信システムでは、データ伝送速度の高速化や大容量化が実現できるため、
様々なサービスが提供されることが期待されている。
【0003】
5Gでは、従来に比較して高い周波数領域の電波が用いられることから、誤動作が起き
やすい、発熱しやすくなるといった問題があり、材料面からの改良が望まれる。
誤動作を防ぐためには、絶縁性の高い材料であることが必要であり、そのためには、低
誘電率の材料であることが重要である。また、発熱を防ぐためには、電気を流した際の損
失が少ないこと、すなわち低誘電正接の材料であることが重要である。
【0004】
このように5Gの普及に伴って、低誘電率、低誘電正接の積層板用樹脂及びこのような
特性を備えた樹脂を使用したプリプレグ等から得られる積層板、金属箔張積層板等が望ま
れる。低誘電材料を使用した積層板、金属箔張積層板等は電気信号の伝搬速度を早くする
ことができるため、より速いスピードで信号の処理を行うことができるようになる。
【0005】
上述のような背景下、製造プロセスにおいて優れた成型性を有し、製品として高い耐熱
性を付与するため、熱可塑性樹脂に硬化性モノマーを混合した樹脂組成物を用い、成型後
に硬化させる方法が多く報告されている。特に、トリアリルイソシアヌレートは常温で液
状のため、熱可塑性樹脂を含む組成物の加工性を大幅に改善し、かつ低誘電正接、高密着
等の優れた特徴を有している(非特許文献1)。
一方、本願発明者らの検討によるとトリアリルイソシアヌレートに含まれるアリル基は
ラジカル重合反応性が比較的低く、十分高い反応率を得るためには重合開始剤の量を多く
する等、適切な条件を選択する必要があり、未反応のモノマーが高温条件下で揮発し、基
板の膨れや難燃性を悪化に繋がることが懸念されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Polyer Engineering Science,1996,36,1541.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、硬化物として低誘電正接を有し、かつ硬化後の残存モノ
マーを低減することが可能な樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定の構成からなる樹脂組成
物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以
下の[1]~[8]を提供するものである。
[1](A)ベース樹脂と、下記式(1)で表される(B)トリアリルイソシアヌレート
及び(C)連鎖移動性モノマーからなる架橋型硬化剤、を含む樹脂組成物であって、
(A)/(B)+(C)の含有比が90/10~30/70であり、
かつ前記(B)トリアリルイソシアヌレートと、(C)連鎖移動性モノマーの含有比が
99/1~1/99であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
[2]前記(C)連鎖移動性モノマーが下記式(2)の部分構造を持つ(メタ)アリルモ
ノマーである、[1]記載の樹脂組成物。
【化2】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を、Xは窒素, 酸素, 炭素原子のいずれかを示す
。)
[3]前記(C)連鎖移動性モノマーが下記式(3)で表されるトリ(メタ)アリルシア
ヌレートである、[2]記載の樹脂組成物。
【化3】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を示す。)
[4][1]~[3]に記載の樹脂組成物と(D)重合開始剤を含む樹脂硬化物。
[5]フィラーが含まれていることを特徴とする[1]~[3]に記載の樹脂組成物。
[6][1]~[3]に記載の樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物と繊維性基材とを備
えることを特徴とするプリプレグ
[7][1]~[3]に記載の樹脂組成物又は樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金
属箔とを備えることを特徴とする樹脂付き金属箔
[8][1]~[3]に記載の樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備えるこ
とを特徴とする金属張積層板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、硬化物として低誘電正接を有し、かつ硬化後の残存モノマーを
低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本
発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本
発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限
り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより
小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好まし
くはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特に
ことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0011】
<(A)ベース樹脂>
本発明の樹脂組成物における(A)ベース樹脂成分は、特に限定されず、ポリエチレン
、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;シクロオレフィンポリマー;ポリ塩化ビニル、
ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン
化オレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS
)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、水添スチレン系熱可塑性エラストマ
ー(SEBS)等のスチレン系樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン
―ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系樹脂;6ナイロン、66ナイロン、
ポリアミド6T、ポリアミド9T等のポリアミド系樹脂;ポリアセタール;ポリカーボネ
ート;ポリフェニレンエーテル;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレ
ート等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンスルファイド;ポリスルホン、ポリエーテ
ルスルホン等のポリスルホン系樹脂;非晶ポリアリレート、液晶ポリマー等のアリレート
系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン
等のポリエーテルケトン系樹脂;熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル
イミド等のポリイミド系樹脂;ポリメチルメタクリレート;高分子量エポキシ樹脂;及び
これらの2種以上の共重合体等が挙げられ、これらの2種以上の混合物であってもよい。
また、グラスファイバー等の繊維で強化されたものでもよい。
これらのうち、比較的優れた誘電特性を有し、加工性や耐熱性、難燃性に優れる点から
、ポリフェニレンエーテル(PPE)が特に好ましく、低誘電率、低誘電正接を有する点
より、オレフィン系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、ハロゲン化オレフィン
系樹脂、スチレン系樹脂も好ましい。
【0012】
COPは、シクロオレフィンを原料として得られるポリマーであり、例えば、シクロオ
レフィンモノマーを開環重合、付加重合、メタセシス重合等により得ることができる。ま
た、スチレン系樹脂のベンゼン環を水素化して得られるシクロヘキサン側鎖を有する樹脂
も含む。シクロオレフィンポリマーの代表的なものとしては、ノルボルネン系単量体の開
環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加型重合体、ノルボルネン系単
量体とオレフィンとの付加型共重合体、スチレン系樹脂の核水添体等が挙げられる。
【0013】
COPの数平均分子量は、通常、10,000~200,000であり、好ましくは1
5,000~100,000であり、より好ましくは20,000~50,000である
。なお、該数平均分子量は、トルエン溶媒を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグ
ラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算値である。
【0014】
また、COPは市販されており、例えば、日本ゼオン社製ゼオネックス(登録商標)、
JSR社製アートン(登録商標)、三井化学社製アペル(登録商標)、ポリプラスチック
ス社製トパス(登録商標)等をあげることができる。
【0015】
PPEとしては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、
ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチ
ル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニ
レン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2
-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジアリル-1
,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジメトキシ-1,4-フェニレン)エーテ
ル、ポリ(2,6-ジクロロメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ
ブロモメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジフェニル-1,4-フ
ェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジトリル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(
2,6-ジクロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジベンジル-1,4
-フェニレン)エーテル、ポリ(2,5-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル等が
挙げられ、これらの2種以上の共重合体であってもよい。これらのPPEは、1種を単独
で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのPPEの中でも、耐熱性、機械特性に優れることから、ポリ(2,6-ジメチ
ル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エ
ーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテルが好ましく、ポ
リ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,
4-フェニレン)エーテルがより好ましく、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレ
ン)エーテルが更に好ましい。また、アリル基を含む構造を有すると、後述の(B)成分
、(C)成分と反応することができるため好ましい。
【0016】
本実施形態において用いられるPPEは重合性の炭素-炭素不飽和二重結合を有する置
換基により末端変性された変性PPE化合物が好ましい。
前記炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定されないが、具体的
にはp-エテニルベンジル基やm-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニル
ベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられ
る。
【0017】
PPEの重量平均分子量としては、特に限定されない。具体的には500~5,000
であることが好ましく、800~4,000であることがより好ましく、1,000~3
,000であることがさらに好ましい。なお、該重量平均分子量は、COPにおける測定
方法と同様の方法(GPC法)により測定することができ、ポリスチレン換算値である。
PPEの重量平均分子量がこのような範囲内であると比較的低分子量のものであるので
ワニス調製時の溶解性に優れる。前記の変性PPEは末端に不飽和二重結合を有する場合
は(A)成分、(B)成分と反応することができ、硬化物の耐熱性により優れるだけでな
く、電気特性にも優れたものとなる。
【0018】
<(B)トリアリルイソシアヌレート>
本発明の樹脂組成物における(B)トリアリルイソシアヌレートは、下記式(4)で表
される。この化合物は、官能基当たりの分子量が小さいため樹脂組成物の硬化後の耐熱性
が高く、対称で自由度の低い環構造により誘電率特性の点において優れている。トリアリ
ルイソシアヌレートは、一般に市販されており、容易に入手することができる。
【化4】
【0019】
<(C)連鎖移動性モノマー>
連鎖移動性モノマーを併用する理由としては、トリアリルイソシアヌレート単独では剛
直なポリマー鎖が生成し、ゲル化が早く、未反応モノマーが多く残存することが考えられ
る。ここに連鎖移動性モノマーを添加することで、トリアリルイソシアヌレートのポリマ
ーラジカルから連鎖移動反応が起こることでゲル化を遅くすることが可能となり、硬化後
の未反応の残存モノマーの低減に繋がり、結果として加熱時の基板ふくれの抑制や難燃性
の向上、ガラス転移温度の向上及びそれに伴う耐熱性の向上、線膨張係数の抑制に寄与す
ることが考えられる。
【0020】
本発明における(C)連鎖移動性モノマーは重合性の炭素-炭素不飽和二重結合を有す
る官能基を持つモノマーであれば特に限定されず、例えばビニル基、アリル基、メタリル
基、アクリル基、メタクリル基、スチリル基、及びマレイミド基からなる群から選択され
る少なくとも一種の基を含む。具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルシクロヘキサ
ン、トリメタアリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、ジシクロペン
タジエンジメタノールジメタクリレート、フタル酸ジアリル、ジアリルシクロヘキサン-
1,4-ジカルボキシレート、トリアリルベンゼン-1,3,5-ベンゼントリカルボキ
シレート等が挙げられる。特に下記式(5)の部分構造をもつ(メタ)アリルモノマーが
好ましく、中でもC-(メタ)アリル基を持つモノマーは低誘電特性に優れる点から好ま
しく、O-(メタ)アリル基を持つモノマー、N-(メタ)アリル基を持つモノマーはト
リアリルイソシアヌレートとの共重合性が高い点から好ましい。これらの中でも、O-ア
リル基を持つモノマー、N-アリル基を持つモノマーが特に好ましい。
【化5】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を、Xは窒素, 酸素, 炭素原子のいずれかを示す
。)
【0021】
具体的には、トリメタアリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、フ
タル酸ジアリル、ジアリルシクロヘキサン-1,4-ジカルボキシレート、トリアリルベ
ンゼン-1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート等が挙げられる。その中でもトリメ
タアリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレートがより好ましく、トリアリ
ルシアヌレートがさらに好ましい。これらの連鎖移動性モノマーは単独で用いてもよく、
2種以上を併用してもよい。
【化6】
(式中、Rは水素原子もしくはメチル基を示す。)
【0022】
(A)ベース樹脂と、(B)トリアリルイソシアヌレート及び(C)連鎖移動性モノマ
ーからなる架橋型硬化剤の含有比((A)/(B)+(C))は90/10~30/70
であることが好ましく、80/20~35/65であることがより好ましく、70/30
~40/60であることがさらに好ましい。また、(B)トリアリルイソシアヌレートと
(C)連鎖移動性モノマーの含有比が、質量比で99/1~1/99であることが好まし
く、95/5~5/95であることがより好ましく、90/10~10/90であること
がさらに好ましく、80/20~20/80であることが特に好ましく、中でも70/3
0~30/70であることが最も好ましい。
上記含有比を満たすような含有量であれば、硬化物中の未反応モノマー量及び誘電特性
により優れた樹脂組成物となる。
【0023】
<(D)重合開始剤>
本発明の樹脂組成物には、効率的に硬化物を得るために、ラジカル重合開始剤を配合す
ることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、シクロヘキサノ
ンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキ
サイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチ
ルパーオキサイド、ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジ
メチルー2,5-bis(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-tert-アミルパーオ
キサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、tert-ブチ
ルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、などのラジ
カル発生剤が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。好
ましい重合開始剤の市販品としては、ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物(日油(
株)製「パーブチルP」、「パーヘキシン25B」、「パーブチルE」、吉富アルケマ(
株)製「ルペロックスDTA」)を挙げることができる。
【0024】
重合開始剤を配合する場合の含有量は、特に制限されないが、樹脂組成物中の樹脂組成
物全量(固形分)を100重量%とした場合、0.1~3重量%が好ましく、0.15~
2重量%がより好ましく、0.2~0.9重量%がさらに好ましい。この範囲内であると
、誘電正接の上昇を防止することができる。
【0025】
(溶剤)
上記(A)成分~(D)成分の混合に際しては、溶剤を用いることができる。また、本
発明の樹脂組成物は、溶剤で希釈してワニスとして用いることができる。
溶剤としては、(A)成分~(D)成分を溶解し得るものであれば、特に限定されず、
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン
化合物;テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、tertブチルメチルエ
ーテル、ジオキサン、3-メチルテトラヒドロピラン等のエーテル化合物;トルエン、キ
シレン等の芳香族炭化水素化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;N,N
-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のア
ミド化合物;エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類等が
樹脂の溶解性に優れ、比較的沸点が低いため、好ましい。
溶剤は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤の配合量としては、特に制限
されるものではないが、溶剤に対する樹脂組成物の濃度が10~90重量%、好ましくは
30~80重量%、さらに好ましくは50~70重量%である。このような濃度にするこ
とで均一で、成形性の良いワニスを得られやすくなる。
【0026】
(その他成分)
本発明の樹脂組成物には、通常使用される添加剤を用いることができる。具体的には、
重合安定剤、レベリング剤、顔料、染料等を使用してもよい。
これらのその他成分の添加量としては、樹脂組成物の特性に悪影響を及ぼさない程度の
量であればよく、一般的に各々樹脂組成物中0.01~10重量%とすることが好ましい
【0027】
また、本発明の組成物には、フィラーを配合することもできる。フィラーとしてはシリ
カ、溶融シリカ、タルク、アルミナ、水和アルミナ、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、
炭酸カルシウム等の無機微粒子、粉末状エポキシ樹脂、粉末状ポリイミド粒子等の有機微
粒子等が挙げられる。
フィラーを添加する場合のフィラーの添加量としては、樹脂組成物総量中(固形分)5
~70重量%の範囲とすることが好ましく、10~60重量%の範囲とすることがより好
ましく、20~50重量%の範囲であることがさらに好ましい。上記下限値以上であると
、樹脂組成物の流動性が安定し、上記上限値以下であると、当該樹脂組成物から形成され
る硬化物の接着強度が確保され、低誘電率が維持される。
なお、これらのフィラーには予めカップリング処理等の表面処理を施してあってもよい
。また、フィラーの分散はニーダー、ボールミル、ビーズミル、3本ロール等既知の混練
方法によって達成される。
【0028】
<プリプレグ>
本発明の硬化物は、前記樹脂組成物及び溶剤を含むワニスを調製し、該ワニスからプリ
プレグを得、これを積層してプレス加工等することで作製することができる。
より具体的には、本発明の樹脂組成物(ワニス)は、プラスチックフィルムをキャリア
フィルムとして、アプリケーター、コンマコータ、ブレードコータ、リップコータ、ロッ
ドコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファロールコータ等によっ
て均一な厚さに塗布し、加熱・乾燥して溶剤を揮発させ、キャリアフィルムを剥がして樹
脂組成物と、残存溶剤からなるプリプレグとすることができる。
【0029】
プリプレグの形成条件としては特に制限はないが、100℃~170℃で5分~1時間
程度乾燥するのが好ましい。より好ましくは110℃~160℃、さらに好ましくは12
0℃~150℃の温度で5分~30分、より好ましくは10分から20分乾燥することで
さらに残存溶媒を低減することが可能となる。この時の温度は架橋反応を抑制するため、
有機過酸化物の分解が実質的に起こらない温度で行う必要があり、その上限は通常170
℃程度である。上記上限値以下であると、(A)成分の揮発が抑制され、下限値以上であ
ると残存溶媒が耐燃性に悪影響を及ぼすことがない。
また、プリプレグ中の残存溶媒の量としては1重量%以下が好ましく、0.5重量%以
下がより好ましく、0.2重量%以下がさらに好ましい。
【0030】
本実施形態に掛かるプリプレグとしては、硬化前の前記樹脂組成物であってもよいし、
また、一部硬化した前記樹脂組成物を備えるものであってもよいし、繊維質基材を備える
ものであってもよい。具体的には、例えば、前記樹脂組成物の中に繊維質基材が存在する
もの等が挙げられる。
繊維質基材として、具体的には、例えばガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステル
クロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター
紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特
に扁平処理加工をしたガラスクロスが好ましい。
【0031】
<樹脂硬化物>
プリプレグを用いて樹脂硬化物を作製する方法として、例えばプリプレグ10~12枚
が積層され、真空プレス加工することで硬化物が得られる。真空プレス加工の条件として
は、製造する樹脂硬化物の厚みやプリプレグの組成物の種類によって適宜設定することが
できる。例えば1~3MPaの圧力、150~250℃の温度で1~3時間、加熱・加圧
することで得られる。プレス加工は通常減圧下で行われるが、空気雰囲気下または窒素雰
囲気下でも行ってもよい。
【0032】
<金属張積層板>
プリプレグを用いて金属張積層板を作製する方法として、プリプレグを1枚または複数
枚重ね、さらにその上下の両面または片面に銅箔等の金属箔を重ねて加熱プレス成型して
積層一体化することによって、両面金属張積層板または片面張積層板を作製する方法が挙
げられる。また、加熱プレス条件は製造する金属張積層板の厚みやプリプレグの組成物の
種類等により適宜設定することができる。例えば1~3MPaの圧力、150℃~250
℃の温度で1~3時間、加熱プレスすることで得られる。
また、金属張積層板はプリプレグを用いずに製造しても良い。
例えば、金属箔に上記のワニスを塗布・乾燥して作製することができ、また、樹脂フィ
ルムを金属箔に熱圧着することによって作製することもできる。金属箔は特に限定されな
いが、電気的、経済的に銅箔が好ましく、少なくとも片面に粗化面を有する従来配線板用
に使用されている電解銅箔、圧延銅箔、キャリアフィルム付き極薄銅箔を使用することが
できる。
【0033】
樹脂硬化物、または金属張積層板を作製する際の加熱温度は、通常、ラジカル重合開始
剤より架橋反応が誘起される温度以上であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、
好ましくはラジカル重合開始剤の1分間半減期温度以上、より好ましくは1分間半減期温
度より5℃以上高い温度である。
【0034】
本発明における金属張積層板の表面に回路を形成してプリント配線板とすることができ
る。また、本発明の導体層を通常のエッチング法によって配線加工し、本発明の樹脂フィ
ルム(プリプレグ)を介して配線加工した積層板を複数積層し、加熱プレス加工すること
によって一括して多層化することもできる。その後、ドリル加工又はレーザー加工による
スルーホールは又はブラインドビアホールの形成と、メッキ又は導電性ペーストによる層
間配線の形成を経て多層プリント配線板を製造することができる。
【0035】
<硬化物の加熱時の重量減量>
上記のようにして製造される本発明の硬化物は、250℃における加熱時の重量減量が
2重量%以下となることが好ましい。当該重量減量が2重量%以下であることは、可燃性
の揮発分が少ないこと意味し、製造工程上、また安全性の点から好ましい。さらには、1
重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましい。
なお、加熱による重量減量については、250℃乾燥機で1時間加熱し、その重量減少率
から算出できる。
【0036】
<硬化物中の残存モノマー量>
上記のようにして製造される本発明の硬化物中の未反応のトリアリルイソシアヌレート
、及び連鎖移動性モノマーからなる残存モノマー量は、1.5重量%以下であることが好
ましく、1.0重量%以下がより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好まし
い。上記上限値以下であることで、可燃性の揮発分が少ないことを意味し、加熱処理時の
基板の膨れの抑制、難燃性の向上に繋がることが期待される。なお、残存モノマー量につ
いては、樹脂硬化物から未反応の残存モノマーを溶媒で抽出し、ガスクロマトグラフィー
で定量することで算出できる。
【0037】
<比誘電率及び誘電正接>
本発明の樹脂組成物は、周波数10GHzにおける比誘電率(ε)が4.0以下であ
ることが好ましい。より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは3.0以下であ
る。下限は特に限定されないが、実用上は2.0以上である。比誘電率が上記上限値以下
であることで、高周波ノイズによる誤作動を防止することができる。なお、本発明におい
て、比誘電率を誘電率と称することがある。
また、誘電正接(tanδ)は通常0.01以下であり、0.006以下であることが
好ましく、0.005以下であることがより好ましく、0.003以下であることがさら
に好ましい。下限は特に限定されないが、実用上は0.0001以上である。なお、測定
周波数はこれに限定されるものではない。
【0038】
比誘電率及び誘電正接の測定は、本発明の樹脂組成物から形成した、上記樹脂硬化物を
用いて測定できる。洞共振器摂動法により、共振周波数とQ値の変化から比誘電率(ε
)および誘電正接(tanδ)を算出することができる。
【実施例0039】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限
定されるものではない。
本発明で用いた測定方法及び評価方法は次の通りである。
【0040】
(1)重量平均分子量(Mw)の測定
機器:GPC HLC-8321 GPC/HT型(東ソー株式会社製)、
カラム:TSKgel GMH6-HT×2+TSKgel GMH6-HTL×2(何
れも東ソー株式会社製)
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器/内蔵)、
溶媒:トルエン、
温度:40℃、
流速:1.0ml/分、
注入量:10μL、
濃度:1mg/mlトルエン溶液、
校正試料:単分散ポリスチレン、
校正法:ポリスチレン換算。
【0041】
(2)電気特性(誘電率、誘電正接)
各実施例及び比較例の評価基板について、10GHzにおける誘電率および誘電正接は
、エーイーティー社製誘電率測定装置および空洞共振器(TMモード)により測定した。
【0042】
(3)残存モノマー量
各実施例及び比較例の評価基板を約2mm角に裁断し、クロロホルムに一晩浸漬させ残
存モノマーを抽出した。その後、島津製作所GC-2014により評価基板中の残存モノ
マーを定量した。
【0043】
[実施例1]
(1)ワニスの調製
末端変性ポリフェニレンエーテル(SA9000(登録商標)、SABIC(株)製、
数平均分子量1,700)70重量部、架橋型硬化剤としてトリアリルイソシアヌレート
(TAIC(登録商標)、三菱ケミカル(株)製)27重量部及びトリアリルシアヌレー
ト(TAC、東京化成(株)製)3重量部、及び重合開始剤として、ジアルキルパーオキ
サイド系有機過酸化物(パーブチル(登録商標)P、日油(株))0.3重量部を67重
量部のトルエンに配合し、80℃で1時間撹拌して溶解させ、ワニスを調製した。
【0044】
(2)プリプレグの調製
次に、得られたワニスをガラスクロス(Eガラス#2116、日東紡績(株)社製)に
含浸させた後、135℃で10分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。その
際末端変性ポリフェニレンエーテル及び架橋型硬化剤等の、硬化反応により樹脂を構成す
る成分の含有量(レジンコンテント)が約50質量%となるように調製した。
【0045】
(3)評価基板の作成
そして、得られた各プリプレグを4枚重ねて、温度200℃、2時間、圧力3MPaの
条件で加熱加圧することにより評価基板を得た。
【0046】
[実施例2]
トリアリルイソシアヌレート27重量部を21重量部、トリアリルシアヌレート3重量
部を9重量部に変更した以外は実施例1と同様な方法で行った。
【0047】
[実施例3]
トリアリルイソシアヌレート27重量部を15重量部、トリアリルシアヌレート3重量
部を15重量部に変更した以外は実施例1と同様な方法で行った。
【0048】
[実施例4]
トリアリルイソシアヌレート27重量部を9重量部、トリアリルシアヌレート3重量部
を21重量部に変更した以外は実施例1と同様な方法で行った。
【0049】
[実施例5]
トリアリルイソシアヌレート27重量部を15重量部、トリアリルシアヌレート3重量
部を15重量部に変更し、フィラーとしてシリカ粒子(SC2300-SVJ、(株)ア
ドマテックス社製)55部を添加した以外は実施例1と同様な方法で行った。
【0050】
[比較例1]
トリアリルシアヌレートを用いずに、トリアリルイソシアヌレートを30重量部に変更
した以外は実施例1と同様な方法で行った。
【0051】
[比較例2]
トリアリルイソシアヌレートを用いずに、トリアリルシアヌレートを30重量部に変更
した以外は実施例1と同様な方法で行った。
【0052】
上記各評価における結果を表1に示す。
【表1】
【0053】
表1からわかるように、架橋型硬化剤としてトリアリルイソシアヌレートとトリアリル
シアヌレートを併用した場合(実施例1~5)は、架橋型硬化剤としてトリアリルイソシ
アヌレート単独で使用した場合(比較例1)と比較して、残存モノマー量が改善できてい
ることがわかった。
また、実施例1~5は、架橋型硬化剤としてトリアリルシアヌレート単独で使用した場
合(比較例2)と比較して誘電特性、特に誘電正接に優れていていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の樹脂組成物は、例えば高周波帯を利用する電気機器の電子回路基板や基地局用
プリント配線板の絶縁材料として好適である。