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特開2024-33175濃縮装置、バイオリアクター、培養装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033175
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】濃縮装置、バイオリアクター、培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136610
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】松田 和佳奈
(72)【発明者】
【氏名】松田 博行
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DB19
(57)【要約】
【課題】フィルターを用いなくても、細胞が付着した足場材を含む懸濁液を濃縮することが可能な濃縮装置、バイオリアクター、培養装置を提供する。
【解決手段】細胞が付着した足場材と、分散媒とを含む懸濁液21が懸濁液導入口12を介して導入される容器11と、懸濁液21よりも足場材の濃度が低下した上清液23を容器11から排出する上清液排出口13とを備え、上清液23は、容器11中で、懸濁液21中の足場材が沈降して得られ、懸濁液21よりも足場材の濃度が高い濃縮液24を得るための装置である濃縮装置10である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が付着した足場材と、分散媒とを含む懸濁液が懸濁液導入口を介して導入される容器と、
前記懸濁液よりも前記足場材の濃度が低下した上清液を前記容器から排出する上清液排出口とを備え、
前記上清液は、前記容器中で、前記懸濁液中の前記足場材が沈降して得られ、
前記懸濁液よりも前記足場材の濃度が高い濃縮液を得るための装置であることを特徴とする濃縮装置。
【請求項2】
前記懸濁液を、フィルターを介さずに濃縮する、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項3】
前記容器の底部に、前記濃縮液を前記容器から排出する濃縮液排出口を備える、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項4】
前記容器の前記上清液排出口よりも上方に位置する吸排気口と、前記容器に吸気される空気をろ過するフィルターとを備える、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項5】
濁度センサと、前記濁度センサを用いて前記懸濁液の濁度を検知して、前記上清液の排出の開始を制御する制御部とを有する、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項6】
液面センサと、前記液面センサを用いて前記懸濁液の液面の位置を検知して、前記上清液の排出の停止を制御する制御部とを有する、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項7】
前記容器が内袋と外殻とを備え、前記内袋が前記外殻に収容されている、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項8】
前記容器が可撓性容器を含み、前記可撓性容器を可動板で挟み込むことにより、前記可撓性容器の容積を減少させるか又は前記可撓性容器中の液面を上昇させることができる、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項9】
前記容器が可撓性容器を含み、前記可撓性容器を可動板で挟み込むことにより、前記懸濁液を撹拌することができる、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の濃縮装置を備えるバイオリアクター。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の濃縮装置を備える培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮装置、バイオリアクター、培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
接着性細胞は、単独で浮遊している状態での培養は困難であるため、足場材に接着した状態の方が細胞へのストレスが少なく、安定して培養が可能である。そのため、接着性細胞の培養や、接着性細胞を用いたバイオ医薬品製造においては、マイクロキャリア等の足場材に細胞を接着(付着)させた状態で培養や医薬品製造が行われる。
【0003】
足場材を用いた接着性細胞の場合は、培養後に足場材から細胞を剥離することがあり、培養液の容積が大きいと、大量の剥離剤が必要となること、処理に時間を要することなどから、なるべく減容した状態で処理することが望ましい。バイオ医薬品製造においても、細胞を剥離し継代する場合や次工程に細胞を送る場合は、培地濃度への影響を小さくするため、なるべく濃縮することが望ましい。特許文献1~2には、細胞を濃縮する方法として、細胞が通過できないフィルターを通して、培地などの液体を抜き取る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-195330号公報
【特許文献2】特表2022-519726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
商用生産設備の培養装置やバイオリアクターは、大型であることが多い。大量の液体をろ過すると、作業時間が長くなるため細胞にストレスがかかることや、フィルターの目詰まりが起こりやすく、フィルターの交換や逆洗が必要になり、作業効率が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フィルターを用いなくても、細胞が付着した足場材を含む懸濁液を濃縮することが可能な濃縮装置、バイオリアクター、培養装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を含む。
第1の態様は、細胞が付着した足場材と、分散媒とを含む懸濁液が懸濁液導入口を介して導入される容器と、前記懸濁液よりも前記足場材の濃度が低下した上清液を前記容器から排出する上清液排出口とを備え、前記上清液は、前記容器中で、前記懸濁液中の前記足場材が沈降して得られ、前記懸濁液よりも前記足場材の濃度が高い濃縮液を得るための装置であることを特徴とする濃縮装置である。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記懸濁液を、フィルターを介さずに濃縮する。
第3の態様は、第1または第2の態様において、前記容器の底部に、前記濃縮液を前記容器から排出する濃縮液排出口を備える。
第4の態様は、第1~3のいずれか1の態様において、前記容器の前記上清液排出口よりも上方に位置する吸排気口と、前記容器に吸気される空気をろ過するフィルターとを備える。
【0009】
第5の態様は、第1~4のいずれか1の態様において、濁度センサと、前記濁度センサを用いて前記懸濁液の濁度を検知して、前記上清液の排出の開始を制御する制御部とを有する。
第6の態様は、第1~5のいずれか1の態様において、液面センサと、前記液面センサを用いて前記懸濁液の液面の位置を検知して、前記上清液の排出の停止を制御する制御部とを有する。
【0010】
第7の態様は、第1~6のいずれか1の態様において、前記容器が内袋と外殻とを備え、前記内袋が前記外殻に収容されている。
第8の態様は、第1~7のいずれか1の態様において、前記容器が可撓性容器を含み、前記可撓性容器を可動板で挟み込むことにより、前記可撓性容器の容積を減少させるか又は前記可撓性容器中の液面を上昇させることができる。これにより、前記上清液の液相の厚さを厚くしてより濃縮しやすくすることができる。
第9の態様は、第1~8のいずれか1の態様において、前記容器が可撓性容器を含み、前記可撓性容器を可動板で挟み込むことにより、前記懸濁液を撹拌することができる。
【0011】
第10の態様は、第1~9のいずれか1の態様の濃縮装置を備えるバイオリアクターである。
第11の態様は、第1~9のいずれか1の態様の濃縮装置を備える培養装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィルターを用いなくても、細胞が付着した足場材を含む懸濁液を濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の濃縮装置を示す模式図である。
図2】第2実施形態の濃縮装置を示す模式図である。
図3】第3実施形態の濃縮装置を示す模式図である。
図4】濃縮装置に設けられる制御部の一例を示すブロック図である。
図5】制御部の制御フローの第1例を示すフロー図である。
図6】制御部の制御フローの第2例を示すフロー図である。
図7】制御部の制御フローの第3例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0015】
図1に、第1実施形態の濃縮装置10を示す。濃縮装置10は、細胞が付着した足場材と、分散媒とを含む懸濁液21を濃縮する。以下の説明では「細胞が付着した足場材」を「濃縮対象粒子」という場合がある。
【0016】
濃縮装置10は、懸濁液21が懸濁液導入口12を介して導入される容器11と、濃縮対象粒子が沈降して得られる上清液23を容器11から排出する上清液排出口13と、濃縮対象粒子が濃縮された濃縮液24を容器11から排出する濃縮液排出口14と、を備える。
【0017】
容器11は、濃縮装置10が懸濁液21の処理に用いる濃縮用容器である。上清液23は、懸濁液21よりも濃縮対象粒子(足場材)の濃度が低下した液である。濃縮液24は、懸濁液21よりも濃縮対象粒子(足場材)の濃度が高い液である。図を簡潔にするため、容器11中においては、懸濁液21、上清液23、濃縮液24の存在位置等の図示を省略している。ここで、懸濁液21の濃度とは、懸濁液導入口12を介して容器11に導入される懸濁液21の初期濃度である。
【0018】
本体容器22は、濃縮対象粒子を含む懸濁液21が貯留または生産される容器である。本体容器22は、例えば細胞培養などに用いられる培養装置であってもよく、例えばバイオ医薬品製造などに用いられるバイオリアクターであってもよい。濃縮装置10は、培養装置やバイオリアクターに付属する装置であってもよい。
【0019】
足場材としては特に限定されないが、マイクロキャリアのように懸濁液21中で浮遊可能な足場材が好ましい。ナノファイバー等の繊維状足場材でもよく、マイクロビーズ等の粒子状足場材でもよい。足場材の材質としては、多糖類、蛋白質、合成樹脂、ガラス等が挙げられる。
【0020】
細胞としては、特に限定されないが、多細胞生物の細胞でもよく、単細胞生物の細胞でもよい。具体例としては、菌類、細菌類、ウイルス、酵母、藻類、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などが挙げられる。培養細胞が、CHO細胞、HeLa細胞、COS細胞等の細胞株でもよく、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞、神経幹細胞等の幹細胞でもよく、分化させた組織細胞などであってもよい。
【0021】
容器11は、懸濁液導入口12、上清液排出口13および濃縮液排出口14の間が、フィルターを介することなく連通されている。これにより、懸濁液21の上部に生じる上清液23と、懸濁液21の下部に生じる濃縮液24との間が、フィルターを介さずに、連続した液相として接した状態になる。なお、上清液23と濃縮液24との間に、濃縮対象粒子(足場材)の濃度が懸濁液21と同等である液相が層状に形成されてもよい。
【0022】
濃縮対象粒子は、懸濁液21中の媒質(液相)より高比重であることが好ましい。例えば足場材を水より高比重としてもよい。
【0023】
図1の懸濁液導入口12に沿う矢印は、本体容器22から容器11へ向かう懸濁液21の方向を表す。図示例の懸濁液導入口12は、容器11の上部に接続されている。懸濁液導入口12は、容器11に形成された開口部でもよく、開口部に接続したポートおよび/または流路でもよく、バルブV1(図4参照)を有してもよい。懸濁液導入口12がバルブV1を有する場合、容器11に懸濁液21を導入するか否か、あるいは導入量の制御を容易にすることができる。
【0024】
図1の上清液排出口13に沿う矢印は、容器11から排出される上清液23の方向を表す。図示例の上清液排出口13は、懸濁液導入口12の下方で容器11に接続されている。上清液排出口13は、容器11に形成された開口部でもよく、開口部に接続したポートおよび/または流路でもよく、バルブV2(図4参照)を有してもよい。上清液排出口13がバルブV2を有する場合、容器11から上清液23を排出するか否か、あるいは排出量の制御を容易にすることができる。
【0025】
図1の濃縮液排出口14に沿う矢印は、容器11から排出される濃縮液24の方向を表す。図示例の濃縮液排出口14は、上清液排出口13の下方で、容器11の底部に接続されている。濃縮液排出口14は、容器11に形成された開口部でもよく、開口部に接続したポートおよび/または流路でもよく、バルブV3(図4参照)を有してもよい。濃縮液排出口14がバルブV3を有する場合、容器11から濃縮液24を排出するか否か、あるいは排出量の制御を容易にすることができる。
【0026】
懸濁液導入口12から導入された懸濁液21は、濃縮対象粒子を沈降させることにより、上清液排出口13の高さでは濃縮対象粒子の濃度が低下し、濃縮液排出口14の高さでは濃縮対象粒子の濃度が上昇する。特に図示しないが、濃縮液排出口14を省略して、濃縮対象粒子を含む濃縮物を容器11の底部に沈殿させてもよい。
【0027】
容器11は、縦長の容器であることが好ましい。例えば、水平方向の最大寸法に比べて、高さ方向の寸法を2倍以上としてもよい。容器11の高さは特に限定されないが、水平方向の最大寸法の数倍から10倍程度としてもよく、数十倍から100倍程度としてもよい。
【0028】
容器11の形状は特に限定されないが、円柱状、円錐状、角柱状、角錐状などが挙げられる。円錐状や角錐状のようにテーパを設ける場合は、下部の断面形状より上部の断面形状を大きくしてもよく、上部の断面形状より下部の断面形状を大きくしてもよい。
【0029】
容器11の材質としては、特に限定されないが、樹脂、ゴム、エラストマー、金属、ガラス等が挙げられる。懸濁液導入口12、上清液排出口13、濃縮液排出口14に用いられる各流路の構成は特に限定されず、フレキシブルなチューブ、ホース等でもよく、硬質のパイプ等でもよい。
【0030】
容器11や本体容器22等の各種容器を、流路と接続する箇所、あるいは、流路の途中で直列または並列にチューブ等の流路を接続する箇所などでは、ポート、コネクタ等の接続器具を用いてもよい。無菌接続が可能な無菌接続ポート、無菌コネクタ等を用いることが好ましい。
【0031】
上清液排出口13から上清液23を排出することにより、懸濁液21中の濃縮対象粒子を濃縮することができる。上清液23は、例えば懸濁液21中の液相を主体とする液体であり、培地を含んでもよい。懸濁液21が濃縮された後で、濃縮液排出口14から濃縮液24を排出することにより、濃縮対象粒子を含む濃縮液24を得ることができる。
【0032】
図示例の濃縮装置10は、容器11の上清液排出口13よりも上方に位置する吸排気口17と、容器11に吸気される空気をろ過するフィルター18とを備えている。フィルター18は、空気中の細菌等を除去することができる。フィルター18は、吸排気口17に設置されてもよく、吸排気口17よりも容器11側に設置されてもよい。
【0033】
吸排気口17から容器11に吸気される気体は、空気とは異なる組成であってもよい。密閉条件で処理を行う場合は、吸排気口17およびフィルター18を省略することもできる。吸排気口17は、吸気および排気が可能な双方向の流路であってもよく、吸気のみが可能な一方向の流路(吸気口)であってもよい。
【0034】
図示例の濃縮装置10は、濁度センサ16を備えている。濁度センサ16から懸濁液21に向かう矢印は、濁度センサ16の作用を模式的に表す。濁度センサ16が容器11の外側に配置されていてもよい。懸濁液21で検知された濁度が低下したとき、濁度センサ16の高さにおいて濃縮対象粒子が沈降し、懸濁液21の濃度が低下したことが分かる。
【0035】
濁度センサ16を用いて懸濁液21の濁度を検知することにより、上清液の排出を開始する時期を制御することができる。例えば、濁度が所定の基準値より高いときは上清液の排出を停止し、濁度が低下したときに上清液の排出を開始してもよい。濁度の基準値は、所定の高さにおいて濃縮対象粒子が沈降した程度に基づいて設定してもよい。
【0036】
濁度センサ16は、上清液排出口13より下方の高さに設置されてもよく、上清液排出口13と同程度の高さに設置されてもよい。濁度センサ16が1箇所に設置されてもよく、2箇所以上に設置されてもよい。
【0037】
前記濁度センサ16としては、特に制限されないが、吸光度測定方式、キャパシタ電極方式、光電管方式、撮像解析方式などが挙げられる。
【0038】
第1実施形態の濃縮装置10は、液面センサ15を備えてもよい。図示例の濃縮装置10は、第1液面センサ15Aおよび第2液面センサ15Bを備えている。特に図示しないが、濃縮装置10が他の液面センサ15を有してもよい。
【0039】
第1液面センサ15Aは、容器11の上清液排出口13付近に配置された液面センサ15である。第2液面センサ15Bは、容器11の上部に配置された液面センサ15である。単に「液面センサ15」という場合は、第1液面センサ15Aおよび/または第2液面センサ15Bのいずれをも包含し得る。
【0040】
液面センサ15から懸濁液21に向かう矢印は、液面センサ15の作用を模式的に表す。液面センサ15としては、濃縮装置10の外部に設置されても懸濁液21の液面を検知できる方式が好ましく、例えば、静電容量式、光吸収式、光屈折式、インピーダンス測定式、光反射式、超音波反射式、撮像解析式、重量測定式等が挙げられる。
【0041】
静電容量式では、液体と気体との誘電率の差を利用して液面を検出してもよい。光吸収式では、液体と気体との光吸収性の差を利用して液面を検出してもよい。光屈折式では、液体と気体との屈折率の差を利用して液面してもよい。静電容量式の液面センサ15を用いる場合は、濃縮装置10の材質が非金属や電気絶縁体であれば、透明でも不透明でもよい。光吸収式や光屈折式の液面センサ15を用いる場合は、濃縮装置10の材質が透明性の高いことが好ましい。
【0042】
第1液面センサ15Aを用いて、容器11中における懸濁液21またはその上部に分離した上清液23の液面の位置を検知することにより、上清液23の排出を停止する時期を制御することができる。例えば、液面が所定の基準値より高いときは上清液23の排出を継続し、液面が低下したときに上清液23の排出を停止してもよい。液面の基準値は、上清液23の排出が終了したかに基づいて設定してもよい。図示例の第1液面センサ15Aは、上清液排出口13より少し下方の高さに設置されている。第1液面センサ15Aが1箇所に設置されてもよく、2箇所以上に設置されてもよい。
【0043】
第2液面センサ15Bは、上清液排出口13より上方の高さに設置されてもよく、上清液排出口13と同程度の高さに設置されてもよい。例えば、第2液面センサ15Bが懸濁液導入口12の近傍に設置されることにより、懸濁液21の導入が過剰になることを抑制することができる。例えば、第2液面センサ15Bが液面を検知したときは、懸濁液21の導入を停止または減速してもよい。第2液面センサ15Bが1箇所に設置されてもよく、2箇所以上に設置されてもよい。
【0044】
次に、第2実施形態について説明する。図2に、第2実施形態の濃縮装置20を示す。この濃縮装置20は、第1実施形態の濃縮装置10と同様に、濃縮対象粒子として、細胞が付着した足場材を含む懸濁液21を濃縮する。第2実施形態が第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0045】
濃縮装置20では、容器11が内袋25と外殻26とを備え、内袋25が外殻26に収容されている。内袋25は可撓性容器である。内袋25には、懸濁液導入口12、上清液排出口13、濃縮液排出口14が接続され、これらの間がフィルターを介することなく連通されている。つまり、懸濁液21と接する箇所に関しては、内袋25が第1実施形態の容器11と同等の機能を有する。
【0046】
可撓性容器の材質は特に限定されないが、例えば熱可塑性樹脂のフィルムまたはシートを用いてもよい。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ナイロン等のポリアミドなどが挙げられる。
【0047】
外殻26は、内袋25よりも硬質の容器である。外殻26は、内袋25が懸濁液21と接する箇所において、内袋25の形状を維持する機能を有する。特に図示しないが、第1実施形態の濃縮装置10において、容器11が内袋25と外殻26とを備えてもよい。外殻26の材質としては、特に限定されないが、樹脂、ゴム、エラストマー、金属、ガラス等が挙げられる。
【0048】
さらに第2実施形態の濃縮装置20は、容器11に可動板27を備える。内袋25は可動板27で挟み込まれている。可動板27は、外殻26の内側に収容されている。
【0049】
内袋25を可動板27で挟み込むことにより、上清液23の排出量に応じて内袋25の容積を減少させ、上清液23の排出量が増加しても、懸濁液21の液面を上昇させ、または液面の下降を抑制することにより、液面が上清液排出口13より高い位置にある状態を維持することができる。これにより、懸濁液21をより高度に濃縮することができる。図示例の濃縮装置20では可動板27を内袋25の側面に設置しているが、内袋25の底部に可動板27を設置してもよい。
【0050】
図示例の濃縮装置20では、緩衝液等の洗浄液28を容器11の内袋25に導入することができる。洗浄液28としては、例えば緩衝液が挙げられる。図2の洗浄液28が容器11に向かう矢印は、洗浄液28の流れを表す。必要に応じて容器11に洗浄液28を導入してもよく、洗浄液28を停止してもよい。容器11に洗浄液28を導入するか否か、あるいはその量を制御するため、開閉バルブ(図示せず)を設けてもよい。
【0051】
容器11が撹拌手段を備えていると、容器11に含まれる濃縮対象粒子を洗浄液28で洗浄することができる。第2実施形態の濃縮装置20では、内袋25を可動板27で挟み込むことにより、内袋25を動かし、懸濁液21を撹拌することができる。
【0052】
第1実施形態の濃縮装置10のように、可動板27を備えない容器11に洗浄液28を導入する場合は、容器11の外側から振とうさせて懸濁液21を撹拌してもよく、容器11の内側に撹拌装置を設けて懸濁液21を撹拌してもよい。撹拌装置としては、撹拌翼、撹拌子等が挙げられる。
【0053】
懸濁液21が細胞培養に由来する場合は、洗浄により、細胞が排出した乳酸などの代謝物や、培地、添加剤などをよりきれいに除去することができる。懸濁液21がバイオ医薬品製造に由来する場合は、洗浄により、細胞が産生した医薬品などの回収率を向上させることができる。
【0054】
特に図示しないが、容器11の外殻26や可動板27に、ジャケットやラバーヒーターなどの保温機構を設置してもよい。これにより、濃縮作業中の温度低下などを防ぐことができる。第1実施形態の濃縮装置10のように、容器11が外殻26および可動板27を備えない場合は、容器11の外側に保温機構を設置してもよい。
【0055】
次に、第3実施形態について説明する。図3は、第3実施形態の濃縮装置30を示す。第3実施形態が第1または第2実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0056】
第2実施形態で内袋25と外殻26を備える容器11を用いているのに対し、第3実施形態では、外殻26を省略し、内袋25に相当する構成の可撓性容器31を用いている。また、第3実施形態では、可撓性容器31の底部に沈降した濃縮物32を滞留させている。特に図示しないが、可撓性容器31の底部に濃縮液排出口14を接続してもよい。
【0057】
第3実施形態では、第1実施形態の容器11に対するのと同様な方法で、可撓性容器31に対し、液面センサ15および濁度センサ16を用いることができる。第3実施形態の液面センサ15は、上述した第1液面センサ15Aおよび/または第2液面センサ15Bであってもよい。また、第3実施形態では、第2実施形態の内袋25に対するのと同様な方法で、可撓性容器31に対し、可動板27を用いることができる。
【0058】
実施形態の濃縮装置10,20,30は、細胞培養やバイオ医薬品製造に用いることができる。バイオ医薬品としては、特に限定されないが、タンパク質、核酸、酵素、ホルモン、ワクチン、抗体、細胞等が挙げられる。
【0059】
実施形態の細胞培養方法においては、細胞培養後に、細胞が付着した足場材を含む懸濁液を濃縮することにより、濃縮した状態で足場材から細胞を剥離させる処理が可能になる。足場材を剥離した後の培養細胞は、製品として用いることができる。
【0060】
実施形態のバイオ医薬品製造方法においては、バイオ医薬品を製品として得た後、細胞の少なくとも一部を再利用する際に、細胞が付着した足場材を含む懸濁液を濃縮することにより、次の培地濃度への影響を小さくすることができる。細胞が付着した足場材を含む濃縮液24は、本体容器22に導入して、バイオ医薬品の製造に用いてもよい。
【0061】
図4に、濃縮装置10,20,30に用いられる制御部40の概略的なシステム構成の一例を示すブロック図を示す。第1液面センサ15A、第2液面センサ15B、濁度センサ16、懸濁液導入口12のバルブV1、上清液排出口13のバルブV2、濃縮液排出口14のバルブV3は、例えば、コンピュータなどの制御部40に接続されている。
【0062】
制御部40は、例えば、プロセッサ41、内部メモリ42、ストレージデバイス43、入出力インターフェイス44(入出力I/F)、通信インターフェイス45(通信I/F)、表示部46等を有する。
【0063】
プロセッサ41としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などが挙げられる。
内部メモリ42としては、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などが挙げられる。
ストレージデバイス43としては、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などが挙げられる。
【0064】
入出力インターフェイス44(入出力I/F)は、周辺機器を接続するための各種装置である。
通信インターフェイス45(通信I/F)は、第1液面センサ15A、第2液面センサ15B、濁度センサ16、バルブV1,V2,V3等や濃縮装置10,20,30外部の機器に付属する通信装置と通信を行う各種装置である。
【0065】
制御部40は、例えば、プロセッサ41が内部メモリ42を利用しながら、ストレージデバイス43や内部メモリ42などに格納されたプログラムを実行することで各機能を実現することができる。
制御部40は、種々の測定値、演算値、入力値、出力値などを表示するための液晶ディスプレイや有機ELなどの表示部46を有している。
【0066】
図5に、制御部40の制御フローの第1例を示す。
【0067】
第1例の第1工程S11は、懸濁液21を懸濁液導入口12から容器11に導入する工程(懸濁液導入工程)である。このとき、懸濁液導入口12のバルブV1は、閉じた状態から開けた状態に変更される。上清液排出口13のバルブV2は閉じた状態とされている。容器11が濃縮液排出口14を有する場合は、濃縮液排出口14のバルブV3は閉じた状態とされている。容器11が濃縮液排出口14を有しない場合は、バルブV3を省略してもよい。
【0068】
第1例の第2工程S12は、第1工程S11に続いて、容器11中で懸濁液21を静置する工程(懸濁液静置工程)である。このとき、懸濁液導入口12のバルブV1は、開けた状態から閉じた状態に変更されてもよい。
【0069】
第1例の第3工程S13は、第2工程S12に続いて、濁度センサ16を用いて容器11中の濁度を検出し、濁度センサ16の濁度が分散媒の濁度と同じになったかを制御部40で判断する工程(濁度検出による制御工程)である。分散媒の濁度は、上清液23の濁度として想定される値に設定されてもよい。
【0070】
第3工程S13において、濁度センサ16の濁度が分散媒の濁度と同じになった場合は、第4工程S14に進む。濁度センサ16の濁度が分散媒の濁度と同じになっていない場合は、第2工程S12に戻り、懸濁液21の静置を継続する。
【0071】
第1例の第4工程S14は、上清液排出口13を開けて容器11からの上清液23の排出を開始する工程(上清液排出開始工程)である。このとき、上清液排出口13のバルブV2は、閉じた状態から開けた状態に変更される。
【0072】
特に図示しないが、第3工程S13から第2工程S12を継続するか第4工程S14に進むかの判断基準は、適宜変更することができる。濁度センサ16の濁度が分散媒の濁度以下になった場合に、第4工程S14に進み、濁度センサ16の濁度が分散媒の濁度を超えている場合に、第2工程S12を継続してもよい。
【0073】
分散媒の濁度とは異なる基準値を設定し、濁度センサ16の濁度が基準値以下になった場合に、第4工程S14に進み、濁度センサ16の濁度が基準値を超えている場合に、第2工程S12を継続してもよい。濁度センサ16の濁度が基準値未満になった場合に、第4工程S14に進み、濁度センサ16の濁度が基準値以上の場合に、第2工程S12を継続してもよい。これらの基準値は、誤差範囲内あるいは許容範囲内で、分散媒の濁度より高い濁度に設定されてもよい。
【0074】
図6に、制御部40の制御フローの第2例を示す。
【0075】
第2例の第1工程S21は、上清液排出口13を開けて容器11からの上清液23の排出を開始する工程(上清液排出開始工程)である。この工程は、上述した第1例の第4工程S14と同様であってもよい。このとき、上清液排出口13のバルブV2は、閉じた状態から開けた状態に変更される。
【0076】
第2例の第2工程S22は、第1工程S21に続いて、容器11中で懸濁液21、上清液23および濃縮液24を静置する工程(静置工程)である。このとき、上清液排出口13のバルブV2は、開けた状態のまま維持される。このため、第2工程S22では、上清液23の排出は、継続される(上清液排出継続工程)。
【0077】
第2例の第3工程S23は、第2工程S22に続いて、第1液面センサ15Aを用いて容器11中の液面の高さを検出し、第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さになったかを制御部40で判断する工程(液面検出による制御工程)である。
【0078】
第3工程S23において、第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さになった場合は、第4工程S24に進む。第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さになっていない場合は、第2工程S22に戻り、上清液23および濃縮液24の静置を継続する。制御の基準となる所定の高さは、誤差範囲内あるいは許容範囲内で、上清液排出口13の位置より高い、適宜の高さに設定されてもよい。
【0079】
第2例の第4工程S24は、上清液排出口13を閉じて上清液23の排出を停止する工程(上清液排出停止工程)である。このとき、上清液排出口13のバルブV2は、開けた状態から閉じた状態に変更される。
【0080】
特に図示しないが、第3工程S23から第2工程S22を継続するか第4工程S24に進むかの判断基準は、適宜変更することができる。第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さ以下になった場合に、第4工程S24に進み、第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さより高い場合に、第2工程S22を継続してもよい。第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さ未満になった場合に、第4工程S24に進み、第1液面センサ15Aが検出した液面の高さが所定の高さ以上の場合に、第2工程S22を継続してもよい。
【0081】
図7に、制御部40の制御フローの第3例を示す。
【0082】
第3例の第1工程S31は、懸濁液21を懸濁液導入口12から容器11に導入する工程(懸濁液導入工程)である。この工程は、上述した第1例の第1工程S11と同様であってもよい。
【0083】
第3例の第2工程S32は、第1工程S11に続いて、容器11が懸濁液21でいっぱいになったかを制御部40で判断する工程(懸濁液導入に対する制御工程)である。
【0084】
第2工程S32において、容器11が懸濁液21でいっぱいになった場合は、第3工程S33に進む。容器11が懸濁液21でいっぱいになっていない場合は、第1工程S31に戻り、懸濁液21の導入を継続する。
【0085】
第3例の第3工程S33は、懸濁液導入口12を閉じて、容器11への懸濁液21の導入を停止する工程(懸濁液導入停止工程)である。このとき、懸濁液導入口12のバルブV1は、開けた状態から閉じた状態に変更される。
【0086】
特に図示しないが、第2工程S32から第1工程S31を継続するか第3工程S33に進むかの判断基準は、適宜変更することができる。例えば、容器11が満量になるより低い高さで、懸濁液21の導入を停止してもよい。より具体的には、容器11の所定の高さに第2液面センサ15Bを設け、第2液面センサ15Bが懸濁液21の液面を検出したときに、懸濁液21の導入を停止してもよい。
【0087】
第3工程S33において、懸濁液導入口12に流量計(図示せず)を設け、容器11に懸濁液21を導入した量により、容器11中に懸濁液21が導入された量を検知することも考えられる。例えば、空の容器11に対して、容量に応じた懸濁液21を導入する場合は、容器11の容量以下で適宜の量の懸濁液21を導入してもよい。
【0088】
さらに別の方法として、懸濁液導入口12、上清液排出口13および濃縮液排出口14に流量計(図示せず)を設け、容器11の液量の増減を推定してもよい。より具体的には、懸濁液21の導入量に応じて容器11中の液量が増加し、上清液23または濃縮液24の排出量に応じて容器11中の液量が減少したと推定することで、容器11中の液面の高さを求めることも考えられる。
【0089】
第3例の第4工程S34は、第3工程S33に続いて、容器11中で懸濁液21を静置する工程(懸濁液静置工程)である。この工程は、上述した第1例の第2工程S12と同様であってもよい。
【0090】
第3例の第5工程S35は、第4工程S34に続いて、濁度センサ16の濁度は、分散媒の濁度と同じになったかを制御部40で判断する工程(濁度検出による制御工程)である。この工程は、上述した第1例の第3工程S13と同様であってもよい。
【0091】
第3例の第6工程S36は、第5工程S35に続いて、上清液排出口13を開けて容器11からの上清液23の排出を開始する工程(上清液排出開始工程)である。この工程は、上述した第1例の第4工程S14または第2例の第1工程S21と同様であってもよい。
【0092】
第3例の第7工程S37は、第6工程S36に続いて、容器11中の液面は、所定の位置以下に下がったかを制御部40で判断する工程(液面検出による制御工程)である。この工程は、上述した第2例の第3工程S23と同様であってもよい。
【0093】
第3例の第8工程S38は、第7工程S37に続いて、上清液排出口13を閉じて上清液23の排出を停止する工程(上清液排出停止工程)である。この工程は、上述した第2例の第4工程S24と同様であってもよい。
【0094】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、各実施形態における構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【符号の説明】
【0095】
V1,V2,V3…バルブ、10,20,30…濃縮装置、11…容器、12…懸濁液導入口、13…上清液排出口、14…濃縮液排出口、15…液面センサ、15A…第1液面センサ、15B…第2液面センサ、16…濁度センサ、17…吸排気口、18…フィルター、21…懸濁液、22…本体容器、23…上清液、24…濃縮液、25…内袋、26…外殻、27…可動板、28…洗浄液、31…可撓性容器、32…濃縮物、40…制御部、41…プロセッサ、42…内部メモリ、43…ストレージデバイス、44…入出力インターフェイス、45…通信インターフェイス、46…表示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7