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特開2024-33225包装用多層フィルム、これを用いる包装材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033225
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】包装用多層フィルム、これを用いる包装材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240306BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240306BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B65D65/40 D
B32B27/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136699
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】アウリア アウェルロース
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD13
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB90
3E086CA01
4F100AA18A
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK64A
4F100AK66A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA23A
4F100CA30A
4F100CB03A
4F100EH20
4F100GB15
4F100GB23
4F100JB09A
4F100JC00A
4F100JD04
4F100JL12A
4F100JL16
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌及び防カビ性能を発揮することができ、かつモノマテリアル化によりリサイクル容易な多層フィルムと、これを用いる包装材を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、シール層を含む多層フィルムであって、前記シール層が水可溶性の抗菌剤を含み、前記多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満であり、前記多層フィルムの水蒸気透過度が9.0g/m/24時間以下であることを特徴とする多層フィルムにより、上記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール層を含む多層フィルムであって、
前記シール層が水可溶性の抗菌剤を含み、
前記多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満であり、
前記多層フィルムの水蒸気透過度が9.0g/m/24時間以下であることを特徴とする、多層フィルム。
【請求項2】
前記多層フィルムが中間層と最外層を有し、前記中間層又は前記最外層が、プロピレン単独重合体樹脂を含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記シール層の厚みと前記抗菌剤の粒子径の比率が、シール層の厚み:抗菌剤の粒子径=1:7~8:1である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記シール層の厚みが14μm以下である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の多層フィルムを有する包装材。
【請求項6】
食品包装用である、請求項5に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等を包装する包装材に関するものであって、内容物に比較的水分が少なくても高い抗菌性及び防カビ性と、モノマテリアル(単一素材)化を両立し、食品の可食期間延長を達成できかつリサイクル可能な多層フィルム及び当該多層フィルムからなる包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、賞味期限又は消費期限の切れた食品や鮮度の低下した青果物の廃棄が、フードロスとして問題になっている。また、家庭では食品包装を開封後に再封して残った食品を保存する場合があるが、そういった食品にはカビが生えることがあり、カビの生えた食品は廃棄されてしまう。そのため、食品の鮮度及び衛生性を保ち、食品の可食期間を延ばすための包装材の需要が高まっている。
【0003】
食品の可食期間を延ばす包装材として、抗菌剤を含むフィルムが検討されている。食品包装材に抗菌剤を添加する場合、抗菌剤には内部に収容する食品や人体に接触しても問題のない安全性が求められる。
【0004】
抗菌剤を含むフィルムとして、特許文献1が知られている。特許文献1の抗菌フィルムは、無機系抗菌剤を含むシーラント層と、隣接する支持層とを含み、金属イオン抽出量を特定した樹脂フィルムである。
【0005】
一方、食品用包装フィルムにおいて、リサイクルを促進して環境負荷を低減するため、モノマテリアル(単一素材)化が進んでいる。従来の異素材の多層ラミネート構成(例えば、延伸ポリエチレンテレフタレートOPET/無延伸ポリプロピレンCPPの多層フィルム)に対し、モノマテリアル化に対応するためには、延伸ポリプロピレンOPP/無延伸ポリプロピレンCPPのような多層フィルムが求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の抗菌フィルムは、水分の比較的少ない食品に対する抗菌性について検討がなされていなかった。加えて、その他の層を複数積層することを前提としており、モノマテリアル化がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-030406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情を鑑み、本発明の課題は、水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌及び防カビ性能を発揮することができ、かつモノマテリアル化によりリサイクル容易な多層フィルムと、これを用いる包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シール層を含む多層フィルムであって、前記シール層が水可溶性の抗菌剤を含み、前記多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満であり、前記多層フィルムの水蒸気透過度が9.0g/m/24時間以下であることを特徴とする多層フィルムにより、上記課題を解決する。
【0010】
また、本発明は、上記の多層フィルムを有する包装材、及び食品包装用の包装材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層フィルム及びこれを用いた包装材は、水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌性及び防カビ性を発揮し、食品の可食期間延長を達成することができる。また、モノマテリアル化によりリサイクル性に優れ、環境負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の多層フィルムとこれを用いてなる包装材を構成する各部分について詳述する。
【0013】
<シール層>
本発明の多層フィルムは、シール層を含む。当該シール層は、本発明の多層フィルムの一方の面の表面層を構成し、内部に収容する食品等に直接接触する層である。
また、当該シール層は水可溶性の抗菌剤を含み、抗菌効果を有する。
【0014】
本発明の多層フィルムのシール層は、モノマテリアル化のため、プロピレン系樹脂を含むことが好ましいが、当該多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満となるのであれば、プロピレン系樹脂以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。
【0015】
上記プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体や、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、メタロセン触媒系ポリプロピレン等のプロピレンとその他のα-オレフィン共重合体が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。当該プロピレン単独重合体としては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタックチックポリプロピレンを挙げることができるが、この内ではアイソタクチックポリプロピレンが好ましい。
【0016】
上記その他のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-ペンテン-1、4-メチル-ヘキセン-1等が挙げられ、これらの2種以上を同時に共重合したものであっても良い。共重合形式としてはランダム共重合、ブロック共重合のいずれもでも使用できる。中でも、プロピレン-エチレンランダム共重合体であることが好ましい。
また、共重合体における当該その他のα-オレフィンの含有率としては、2.0~23モル%が好ましく、より好ましくは2.5~15モル%である。
【0017】
上記メタロセン触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せ等のメタロセン触媒系等の種々のメタロセン触媒が挙げられる。また、メタロセン触媒に代表されるシングルサイト触媒は活性点が均一であるため、活性点が不均一なマルチサイト触媒と比較して、得られる樹脂の分子量分布がシャープになるため、フィルムに成膜した際に低分子量成分の析出が少なく、シール強度の安定性や耐ブロッキング適性に優れた物性の樹脂が得られるので好ましい。
【0018】
上記プロピレン系樹脂は、MFR(230℃における)が0.5~30.0g/10分で、融点が120~168℃であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃における)が2.0~15.0g/10分で、融点が125~162℃のものである。MFR及び融点が当該範囲であれば、ヒートシール時のフィルムの収縮が少なく、更にフィルムの成膜性も向上する。
【0019】
上記プロピレン系樹脂を本発明に使用するシール層に用いた場合には、フィルムの耐熱性が向上する。また、中でも、シール層にプロピレンとその他のα-オレフィン共重合体を使用することが好ましく、ヒートシール強度を高くすることができるため、特に重量物の包装材として好適に用いることが出来る。シール層を構成する全成分のうち、当該プロピレンとその他のα-オレフィン共重合体の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。
【0020】
上記その他の樹脂としては、熱可塑性樹脂を使用することができ、特に限定されない。中でも、ポリエチレン系樹脂及び環状オレフィン系樹脂が好ましい。当該ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂が挙げられる。
【0021】
上記低密度ポリエチレン系樹脂としては、密度が0.900~0.940g/cmのポリエチレン系樹脂であればよく、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリエチレン樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー等が挙げられる。これらの中でも易引き裂き性と耐ピンホール性とのバランスが良好なことから低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0022】
上記低密度ポリエチレンとしては、高圧ラジカル重合法で得られる分岐状低密度ポリエチレンであれば良く、好ましくは高圧ラジカル重合法によりエチレンを単独重合した分岐状低密度ポリエチレンである。
【0023】
上記線状低密度ポリエチレンとしては、シングルサイト触媒を用いた低圧ラジカル重合法により、エチレン単量体を主成分として、これにコモノマーとしてブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン等のα-オレフィンを共重合したものである。LLDPE中のコモノマー含有率としては、0.5~10モル%の範囲であることが好ましく、1~7モル%の範囲であることがより好ましい。なお、コモノマーとしてブテン-1を用いた場合、透明性、耐衝撃性、易引き裂き性等が向上するので好ましく、このとき該ブテン単量体の含有率は、1~5モル%の範囲であることが最も好ましい。
【0024】
上記低密度ポリエチレン系樹脂の密度は前述の通り0.900~0.945g/cmであるが、0.905~0.935g/cmの範囲であることがより好ましい。密度がこの範囲であれば、適度な剛性を有し、耐ピンホール性等の機械強度も優れ、フィルム成膜性、押出適性が向上する。また、融点は95~120℃の範囲であることが好ましく、100~130℃がより好ましい。融点がこの範囲であれば、加工安定性が向上する。また、当該低密度ポリエチレン系樹脂のMFR(190℃、21.18N)は2~35g/10分であることが好ましく、2~20g/10分であることがより好ましく、3~10g/10分であることがさらに好ましい。MFRがこの範囲であれば、フィルムの押出成形性が向上する。
【0025】
上記の低密度ポリエチレン系樹脂は機械強度が弱いため、他のポリオレフィン系樹脂と比べて比較的もろく引き裂き性が良好になる。また接着性樹脂等を使用することなく、中間層以外のその他の層との層間接着強度も保持でき、柔軟性も有しているため、耐ピンホール性も良好となる。さらに、耐ピンホール性を向上させる場合は線状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0026】
上記高密度ポリエチレン系樹脂は、密度0.950g/cm以上のポリエチレンであればよく、中でも密度0.955g/cm以上のポリエチレンであることが好ましい。当該高密度ポリエチレン系樹脂は、易引き裂き性、包装適性向上効果を付与することができる。
【0027】
また、上記高密度ポリエチレン系樹脂としては、一般にフィルム成形等の押出成形で用いられる高密度ポリエチレン(HDPE)、例えばMFR(190℃)が5~20g/10分の流動性の良好な高密度ポリエチレンであることが、上記低密度ポリエチレン系樹脂と共に溶融混練して押出成形した場合に比較的分散が良好になり、表面が平滑で透明性の良いフィルムが得られることから好ましい。
【0028】
上記環状オレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」と称する場合がある)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のオレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」と称する場合がある)等が挙げられる。COP及びCOCの水素添加物が特に好ましい。また、当該環状オレフィン系樹脂の質量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは7,000~300,000である。
【0029】
上記ノルボルネン系重合体と原料となるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を有する脂環族系単量体である。このようなノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデテトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、ジメタノテトラヒドロフルオレン、フェニルノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、メトキシカルボニルテトラシクロドデセン等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0030】
上記ノルボルネン系共重合体(COC)は、上記ノルボルネン系単量体と共重合可能なオレフィンとを共重合したものであり、このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数2~20個を有するオレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン;1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。これらのオレフィンは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。
【0031】
また、上記ノルボルネン系共重合体(COC)中のノルボルネン系単量体の含有比率は、40~90モル%が好ましく、より好ましくは50~80モル%である。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引き裂き性、加工安定性が向上する。
【0032】
上記環状オレフィン系樹脂として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、チコナ(TICONA)社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。
【0033】
上記環状オレフィン系樹脂を使用することで、多層フィルムに水蒸気バリア性を付与し、抗菌性を向上することができる。
【0034】
<水可溶性の抗菌剤>
本発明に使用する水可溶性の抗菌剤は、23℃の蒸留水100gに対する溶解量が、150mg以上である抗菌剤を指す。水可溶性の抗菌剤としては種々の抗菌剤を使用できるが、貝殻あるいは卵殻を焼成した後水和して得られる水酸化カルシウムを含む抗菌剤や、溶解性ガラスに抗菌性のある金属イオンを担持したガラス系抗菌剤等が好ましい。また、水可溶性の抗菌剤は複数種を併用することもできる。
【0035】
上記水酸化カルシウムを含む抗菌剤を使用する場合、当該抗菌剤に含まれる水酸化カルシウムは、当該抗菌剤全体に対して40質量%以上であることが好ましい。当該抗菌剤に含まれる水酸化カルシウムの比率が当該比率であると、十分な抗菌効果を発揮することができる。
材料として用いられる当該貝殻は、ホタテ貝殻、アワビ貝殻、サザエ貝殻、ホッキ貝殻、ウニ貝殻等や、珊瑚殻等が挙げられ、これらは天然であっても養殖であってもよい。中でも、貝殻組成が均一である点及び供給量が多い等の点から、ホタテ貝殻を使用することが好ましい。
【0036】
上記水酸化カルシウムを含む抗菌剤の製造は、当業者に既知の方法により実施することができる。例えば、貝殻を特殊電気炉等により850~1200℃で高温焼成し、貝殻に含まれる炭酸カルシウムを酸化カルシウムに変換した後、水和させることで、水酸化カルシウムを含む抗菌剤を製造することができる。また、市販の抗菌剤を使用することもできる。市販の水酸化カルシウムを含む抗菌剤としては、スカロープレミアム、スカロープレミアムS、スカロープレミアムHK、スカロープレミアムR(全てWM株式会社製)、ホタテ貝殻焼成パウダー(ユニセラ株式会社)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
上記ガラス系抗菌剤を使用する場合、溶解性ガラスによる網目構造中に、抗菌性をもつ金属イオンが担持されているものであることが好ましい。このような金属担持溶解性ガラスは、水分の存在下において金属イオンをごく少量ずつ徐放する。徐放された金属イオンはプラスに帯電しており、このイオンがマイナスに帯電している細菌や黴菌を引き寄せ、細菌や黴菌の表面の電気バランスを崩すことにより抗菌効果を発揮することができる。また、溶解性ガラスによる網目構造は非常に強固なため、化学的・物理的に安定性が高く、あらゆる樹脂での練り込みに使用することができる。溶解性ガラスに担持される抗菌性金属イオンとしては、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン等が挙げられ、抗菌力が高い点で銀が好ましい。
【0038】
上記ガラス系抗菌剤の製造は、当業者に既知の方法により実施することができる。例えば、ガラス粉末の水懸濁液に、上記抗菌性金属イオンを含む水溶液を加え、イオン交換反応によりガラス粉末中に前記金属を存在させる方法で実施することができる。
上記ガラス系抗菌剤としては、市販品を使用することもできる。市販のガラス系抗菌剤としては、イオンピュアWPA(銀系抗菌剤)、イオンピュアIPI(銀系抗菌剤)、イオンピュアWZ(亜鉛系抗菌剤)(すべて石塚硝子株式会社製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明に使用する抗菌剤の配合量は、本発明に使用するシール層全質量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~15質量%であることがより好ましく、0.5~10質量%であることが特に好ましい。当該シール層にこの範囲で当該抗菌剤を使用することで、優れた抗菌効果と本発明の多層フィルムの透明性を両立することができる。
【0040】
(抗菌剤の粒子径)
本発明に使用する抗菌剤の粒子径は、当該抗菌剤の製造過程で、種々の粉砕機により粉砕処理を行ったり、粉末を分級したりすることで調整することができる。当該抗菌剤の粒子径の好ましい範囲としては、0.1~1000μmであることが好ましく、0.5~100μmであることがより好ましく、2~20μm以上であることが特に好ましい。粒子径が好ましい範囲であれば当該抗菌剤をマスターバッチ化する際にメッシュ詰まりを起こしづらく、樹脂に混合する際には均一に分散させることができ、また多層フィルム化した時に透明性を維持しやすくなる。
【0041】
上記抗菌剤の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定器(日機装株式会社製 マイクロトラック MT-3300EXII)によって測定した値である。具体的な測定方法としては、当該抗菌剤の粒子を水槽中のIPA溶媒に分散させ、前述の装置を用いて、光の回折散乱強度分布を測定及び解析し、粒子径及び体積基準の粒子分布を測定することにより算出できる、D50の値を、抗菌剤の粒子径とする。
【0042】
(シール層の厚みと抗菌剤の粒子径の比率)
本発明に使用するシール層の厚みと本発明に使用する抗菌剤の粒子径の比率は、シール層の厚み:抗菌剤の粒子径=1:7~8:1であることが好ましく、1:2~2:1であることが特に好ましい。当該シール層の厚みと当該抗菌剤の粒子径の比率が好ましい範囲であるとき、本発明の多層フィルムが良好な抗菌効果を発揮する理由は定かでないが、発明者は次のように推測している。すなわち、当該シール層の厚みより当該抗菌剤の粒子径の方が大きいため、当該シール層中の当該抗菌剤が当該シール層から突出し、当該多層フィルムの当該シール層側表面に突出した抗菌剤が分布することになる。その結果、少量の抗菌剤で高い抗菌効果を得ることができる。
【0043】
本発明に使用する抗菌剤をフィルムに添加するために、予め樹脂と混合した抗菌剤マスターバッチを製造しておくことが好ましい。当該樹脂は、シール層に用いられる樹脂であることが、当該抗菌剤マスターバッチとシール層に用いられる樹脂を混合しやすくなるため好ましい。
また、当該抗菌剤マスターバッチとのシール層に用いられる樹脂との混合方法は、特に限定されず、従来公知の方法で混合することができる。例えば、ドライブレンドでもよいし、メルトブレンドでもよい。なかでもメルトブレンドが好ましく具体的には、例えば当該抗菌剤マスターバッチを、押出機等の溶融混練装置に当該抗菌剤と当該樹脂をメルトブレンドにてコンパウンドし、ペレット化して製造することが好ましい。また、抗菌剤マスターバッチは、市販の抗菌剤マスターバッチを使用してもよい。市販の抗菌剤マスターバッチとしては、スカロープレミアム抗菌剤PPマスターバッチ(WM株式会社)、スカロープレミアム抗菌剤PEマスターバッチ(WM株式会社)等が挙げられる。
【0044】
(最外層)
本発明の多層フィルムは、シール層の他に、当該シール層ではない他方の表面層として、最外層を含んでいることが好ましい。
当該最外層で用いる樹脂としては、プロピレン系樹脂が好ましい。当該プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとその他のα-オレフィン共重合体が挙げられる。当該プロピレン単独重合体としては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタックチックポリプロピレンを挙げることができるが、この内ではアイソタクチックポリプロピレンが好ましい。
【0045】
上記その他のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-ペンテン-1、4-メチル-ヘキセン-1等が挙げられ、これらの2種以上を同時に共重合したものであっても良い。共重合形式としてはランダム共重合、ブロック共重合のいずれもでも使用できる。中でも、プロピレン-エチレンランダム共重合体であることが好ましい。
また、共重合体における当該その他のα-オレフィンの含有率としては、2.0~23モル%が好ましく、より好ましくは2.5~15モル%である。
【0046】
上記最外層に用いる樹脂として、プロピレン単独重合体を用いると、水蒸気バリア性を発揮するため抗菌効果を高めることができ好ましい。一方、当該最外層に用いる樹脂として、プロピレン-エチレンランダム共重合体を用いると、本発明の多層フィルムの衝撃強度等のフィルム特性が担保され、ラミネート性を向上することができ好ましい。
【0047】
上記最外層に用いる樹脂としては上記プロピレン系樹脂を50質量%以上含むことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、また多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満となる範囲で、上記プロピレン系樹脂以外のその他の樹脂を併用しても良い。その他の樹脂としては、上記シール層に用いることのできるその他の樹脂と同様のものを挙げることができる。
【0048】
(中間層)
本発明の多層フィルムは、シール層の他に、当該シール層と上記最外層の間に位置する中間層を含んでいてもよい。当該中間層は一層のみであってもよいし、複数あってもよい。当該中間層は、リサイクル性向上ため、プロピレン系樹脂を含むことが好ましいが、当該多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満となるのであれば、プロピレン系樹脂以外のその他の樹脂で構成されていても良いし、プロピレン系樹脂とその他の樹脂を併用した層であってもよい。
【0049】
上記プロピレン系樹脂としては、上記シール層に用いることのできるプロピレン系樹脂と同様のものを挙げることができる。
【0050】
上記中間層の樹脂成分としては、上記プロピレン単独重合体を使用することが好ましい。当該中間層に当該プロピレン単独重合体を使用することにより、水蒸気バリア性を発揮して抗菌効果を高めることができる。
【0051】
上記中間層の樹脂成分として、環状オレフィン系樹脂を使用してもよい。当該中間層に環状オレフィン系樹脂を使用する場合は、リサイクル性向上のため、当該多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂でない異成分である環状オレフィン系樹脂が25質量%未満となるように、中間層の厚み比率を調整することができる。
【0052】
本発明の多層フィルムの上記各層には、必要に応じて、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、造核剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分を本発明の目的を損なわない範囲で、かつ多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満となる範囲で、添加することができる。特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため、当該多層フィルムの表面となる最外層及びシール層の摩擦係数は1.5以下、中でも1.0以下であることが好ましいので、当該最外層及び当該シール層には、滑剤やアンチブロッキング剤を適宜添加することが好ましい。
【0053】
<多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、シール層を含み、前記シール層に水可溶性の抗菌剤を含み、前記多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満であり、多層フィルムの水蒸気透過度が9.0g/m/24時間以下である。
【0054】
<多層フィルムに含まれる成分>
本発明の多層フィルムは、当該多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満である。当該多層フィルムに含まれる成分とは、樹脂成分だけでなく、添加剤成分も含む。また、本発明の多層フィルムを接着剤によるラミネートで構成する場合は、接着剤成分も含む。
また、当該プロピレン系樹脂でない異成分とは、上記プロピレン系樹脂として挙げた樹脂以外の成分を指す。多層フィルムに対して当該異成分が25質量%未満である場合、リサイクル性が向上し、環境負荷低減につながる。当該プロピレン系樹脂でない異成分は、多層フィルムに含まれる成分の20質量%未満であることが好ましく、15質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であると、本発明の多層フィルムを使用した包装材がモノマテリアルとなりやすいためさらに好ましい。
なお、「包装材がモノマテリアルとなる」とは、当該包装材を構成する全成分のうち、90質量%以上が同じ成分、例えばプロピレン系樹脂で構成されていることを指す。当該包装材は、後述するように、本発明の多層フィルムを用いたラミネートフィルムを袋にしたものであってもよいし、本発明の多層フィルム単体を袋にしたものであってもよいし、当該ラミネートフィルムや当該多層フィルムと容器との組み合わせであってもよいし、当該ラミネートフィルムや当該多層フィルムとは別のフィルムとを袋にしたものであってもよい。
本発明の多層フィルムを単体で使用する場合は、多層フィルムを構成する全成分のうち、90質量%以上が同じ成分で構成されていることにより、モノマテリアルの包装材となる。一方、本発明の多層フィルムを用いたラミネートフィルムを使用する場合は、当該ラミネートフィルムを構成する全成分のうち90質量%以上が同じ成分で構成されていればモノマテリアルの包装材となるから、本発明の多層フィルム自体はモノマテリアルの定義に含まれなくてもよい。本発明の多層フィルムは当該多層フィルムに含まれる成分のうち、プロピレン系樹脂が75質量%以上であり、プロピレン系樹脂でない異成分が25質量%未満であるため、ラミネートフィルムにすることで容易にモノマテリアルとすることができる。
モノマテリアルの包装材は、異成分がわずかであるため再利用が容易となり、環境負荷を低減することができる。
【0055】
本発明の多層フィルムは、中間層又は最外層に、プロピレン単独重合体樹脂を含むことが好ましい。中間層又は最外層に、プロピレン単独重合体樹脂を含むことにより、モノマテリアル化を達成しつつ、当該多層フィルムに対し水蒸気バリア性を付与し水蒸気透過度を低くすることができるため、抗菌性が向上する。
【0056】
また、ラミネート適性とリサイクル性と抗菌性向上効果を両立するため、中間層にプロピレン単独重合体を含み、最外層にプロピレン-エチレンランダム共重合体を含むことがより好ましく、中間層にプロピレン単独重合体を51質量%以上含み、最外層にプロピレン-エチレンランダム共重合体を51質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0057】
本発明の多層フィルムは、中間層又は最外層に、環状ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。中間層又は最外層に、環状ポリオレフィン樹脂を含むことにより、当該多層フィルムに対し水蒸気バリア性を付与し水蒸気透過度を低くすることができるため、抗菌性が向上する。
【0058】
<多層フィルムの水蒸気透過度>
本発明の多層フィルムの水蒸気透過度とは、水蒸気透過度計(システックイリノイ社製、LyssyL80-5000)を用いて、JIS K7129Aに準じて、40℃、90%RH、測定時間24時間の条件で測定した測定結果である。この場合の単位は、「g/m/24時間」である。
【0059】
本発明の多層フィルムの水蒸気透過度は、9.0g/m/24時間以下であることが好ましい。当該水蒸気透過度が低いと、抗菌効果が高まる。その理由は定かでないが、当該水蒸気透過度が低いと、内容物から発散する水蒸気が本発明の包装体外部に逃げにくくなり、当該内容物から発散する水蒸気が無駄なく上記水可溶性の抗菌剤と反応し又は金属イオンを溶出し、抗菌性が高まると推測している。
【0060】
(多層フィルムの層構成)
本発明の多層フィルムは、シール層を含む。また、本発明の多層フィルムにおいて、当該シール層に含まれる抗菌剤が隣接する層へ移行することを防ぐため、当該シール層に隣接する層は、当該シール層と結晶化度の異なる樹脂を主成分とする層であることが好ましい。中でも、水蒸気透過度の観点から、当該シール層に隣接する層が、プロピレン単独重合体又は環状ポリオレフィン樹脂を含む中間層であることが好ましい。なお、結晶化度とは、高分子中の結晶領域が占める割合であり、樹脂のDSC測定による融解熱量を完全結晶体の融解熱量で割った値である。示差走査熱量測定(DSC)によって測定される融解熱量は、昇温1回目の融解熱量であり、例えば、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7020)を用いて以下の手順で測定することができる。
まず、対象試料である超音波シール用多層フィルムの約5.0mgをアルミニウム製の試料容器に入れ、試料容器をホルダーユニットに載せ、電気炉中にセットする。次いで、窒素雰囲気下、30℃から昇温速度10℃/minにて200℃まで加熱(昇温1回目)し、示差走査熱量計を用いてDSC曲線を計測する。
得られたDSC曲線から、示差走査熱量計の解析プログラムを用いて、1回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、対象試料の昇温1回目における融解熱量[mJ/mg]を求めることができる。
完全結晶体の融解熱量の値は207[mJ/mg]であり、樹脂のDSC測定による融解熱量を完全結晶体の融解熱量(207[mJ/mg])で割った値を計算することで、結晶化度を計算できる。
【0061】
当該多層フィルムの層構成としては、最外層/中間層/シール層、最外層/中間層/中間層/シール層等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、最外層/中間層/シール層と積層したものであることが好ましい。
【0062】
前述の通り、当該シール層の厚みと、本発明に使用する水可溶性の抗菌剤の粒子径との比率は、1:7~8:1であることが好ましい。当該抗菌剤の粒子径の特に好ましい範囲は2~20μmであるから、当該シール層の厚みは、2.5~14μmであることが好ましい。特に、シール層の厚みが14μm以下であることが、当該抗菌剤がシール層から突出しやすくなり、抗菌効果が高くなるため好ましい。
【0063】
上記シール層の厚み比率は、本発明の多層フィルムの全厚の8~40%であることが好ましい。
上記最外層の厚み比率は、フィルムの剛性・包装適正・透明性・表面光沢及び横方向の引き裂き容易性の観点から、本発明の多層フィルムの全厚の25~80%であることが好ましく、より好ましくは30~75%である。
当該中間層の厚み比率は、本発明の多層フィルムの全厚の5~40%の範囲であることが好ましく、より好ましくは7~30%である。当該多層フィルムの全厚に対する中間層の厚さの比率がこの範囲であれば、透明性、引き裂き性、耐ピンホール性、ヒートシール性が向上する。
【0064】
さらに、本発明の多層フィルムは、フィルムの厚さが15~90μmのものが好ましく、より好ましくは20~80μmである。フィルムの厚さがこの範囲であれば、安定したシール強度、包装機械適性、優れた耐ピンホール性能、易引き裂き性能等が得られる。
【0065】
(多層フィルムの製造方法)
本発明の多層フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、最外層、中間層、シール層に用いる各樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で最外層/中間層/シール層の順で積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られるので好ましい。また、相分離やゲルの発生を抑制するため、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
【0066】
また、上記樹脂混合物を各層に積層する場合、ドライブレンドした当該樹脂混合物を直接、共押出機により押出すことで積層させることができる。あるいは、当該樹脂混合物を事前に単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダーミキサー等の溶融混練装置を用いてメルトブレンドしたものをペレット化し、共押出機を用いて押出すことで積層させることもできる。
【0067】
本発明の多層フィルムは、上記の製造方法によって、実質的に無延伸の多層フィルムとして得られるため、真空成形による深絞り成形等の二次成形も可能となる。
【0068】
また、本発明に使用するシール層とその他の一層又は複数層をラミネートにより貼り合わせて本発明の多層フィルムとしてもよい。ラミネート方法としては公知の方法を実施でき、溶剤型接着剤を用いたドライラミネートや、押出ラミネート等が挙げられる。接着剤を使用する場合は、接着剤も本発明の多層フィルムに含まれるプロピレン系樹脂でない異成分に該当するが、当該接着剤が揮発する溶剤成分を含む場合、当該溶剤成分は当該異成分に該当しない。
【0069】
上記ラミネートに用いる接着剤としては、公知の接着剤を使用することができるが、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との2液硬化型接着剤であることが好ましい。2液硬化型接着剤は、溶剤型又は無溶剤型のいずれの形態であってもよい。なお本明細書において「溶剤型」の接着剤とは、接着剤を基材に塗工した後に、オーブン等で加熱して塗膜中の有機溶剤を揮発させた後に他の基材と貼り合せる方法、いわゆるドライラミネート法に用いられる形態をいう。また「無溶剤型」の接着剤とは、接着剤を基材に塗工した後に、オーブン等で加熱して溶剤を揮発させる工程を経ずに他の基材と貼り合せる方法、いわゆるノンソルベントラミネート法に用いられる接着剤の形態を指す。
【0070】
本発明の多層フィルムは、印刷インキとの接着性、ラミネート適性を向上させるため、上記最外層に表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理、あるいはサンドブラスト等の表面凹凸処理を挙げることができるが、好ましくはコロナ処理である。
【0071】
<包装材>
本発明の多層フィルムは、包装材として使用することができる。また、本発明の多層フィルムを用いたラミネートフィルムも、包装材として使用することができる。
【0072】
(ラミネートフィルム)
本発明の多層フィルムは、その他の基材をラミネ-トして使用することもできる。当該その他の基材は、表面樹脂層(A)側にラミネートすることが好ましい。当該その他の基材は特に限定されず、普通紙、コート紙といった紙基材や、未延伸フィルム及び延伸フィルムといったプラスチックフィルムでもよいし、不織布等であってもよいが、モノマテリアル化によりリサイクル性を向上させるため、プロピレン系樹脂フィルムであることが好ましい。
【0073】
ラミネート方法としては公知の方法を実施でき、接着剤を用いたドライラミネートや、押出ラミネート等が挙げられる。当該ラミネートに用いる接着剤としては、公知の接着剤を使用することができるが、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との2液硬化型接着剤であることが好ましい。2液硬化型接着剤は、溶剤型又は無溶剤型のいずれの形態であってもよい。
また、当該接着剤の乾燥後の質量は、0.1~10g/mであることが好ましく、1~6g/mであることがより好ましく、2~5g/mであることがさらに好ましいが、モノマテリアル包装材とするため、接着剤は少ない方がより好ましい。
【0074】
上記ラミネートフィルムの構成としては、特に限定されないが、例えば、
(1)本発明の多層フィルム/接着剤層/その他の基材層
(2)本発明の多層フィルム/接着剤層/印刷層/その他の基材層
(3)本発明の多層フィルム/接着剤層/その他の基材層/印刷層/接着剤層/その他の基材層
(4)本発明の多層フィルム/接着剤層/第一の印刷層/第二の印刷層/その他の基材層
(5)本発明の多層フィルム/印刷層
(6)本発明の多層フィルム/第一の印刷層/第二の印刷層
等が挙げられる。
【0075】
(印刷層)
本発明の多層フィルムを用いた包装材は、美粧性、内容物に関する様々な情報、及び機能性を付与するために、インキにより所望の図柄を形成した印刷層をさらに設けてもよい。当該インキは特に限定されず、汎用の溶剤含有インキであっても良いし、水性のインキであってもよいし、活性エネルギー線硬化型インキであっても良いし、各種のインクジェットインキであってもよい。モノマテリアルを達成するため、印刷層のインキ量は少ない方が好ましい。
【0076】
印刷方法は特に限定されず、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等により印刷することができる。
グラビア印刷に用いられるシリンダーは、彫刻タイプ、腐食タイプ等公知のものが用いられる。グラビア印刷方式やフレキソ印刷方式から形成される印刷インキの膜厚は、例えば10μm以下、好ましくは5μm以下である。
【0077】
また、本発明の多層フィルムを用いた包装材は、1層の印刷層のみならず、複数の印刷層を有していてもよい。例えば、本発明の多層フィルムに少なくとも第一の印刷層と第二の印刷層とをこの順に有する積層体や、当該多層フィルムに少なくとも第一の印刷層と第二の印刷層と第三の印刷層をこの順に有する積層体を作製することができる。具体的には、例えば着色剤を含有する印刷インキより形成された第一の印刷層と、着色剤として白色顔料を含有するリキッドインキにより形成された第二の白印刷層、及び第三の白印刷層とをこの順に有する印刷物とすることができる。第一の印刷層は着色剤による絵柄を形成させることができ、白色顔料を含有するリキッドインキにより形成された第二の白印刷層、及び第三の印刷層は、絵柄の背景として使用することができる。第二又は第三の印刷層をオーバープリントニスとする場合は、着色剤を含まなくてもよい。
【0078】
本発明の多層フィルムへの印刷は、いわゆる表刷りであってもよいし、裏刷りであってもよい。
【0079】
(包装材)
本発明の多層フィルムからなる包装材としては、食品、薬品、工業部品、雑貨、雑誌等の用途に用いる包装袋、包装容器等が挙げられる。本発明の効果を活かすために、内容物は食品であることが好ましく、中でも水分の比較的少ない食品であることが特に好ましい。当該水分の比較的少ない食品とは、水分活性値(Aw)が0.95以下の食品を指し、例えば餅、食パン、魚肉練り製品、米、菓子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の多層フィルムは、水分活性値(Aw)が0.95以下の食品であっても、好適な抗菌機能を発揮することができる。
【0080】
上記包装袋は、本発明の多層フィルムのシール層同士を重ねてシール、あるいは最外層とシール層とを重ね合わせてシールすることにより形成した包装袋であることが好ましい。例えば当該多層フィルム2枚を所望とする包装袋の大きさに切り出して、それらを重ねて3辺をシールして袋状にした後、シールをしていない1辺から内容物を充填しシールして密封することで包装袋として用いることができる。さらには自動包装機によりロール状のフィルムを円筒形に端部をシールした後、上下をシールすることにより包装袋を形成することも可能である。
【0081】
また、本発明の多層フィルムは、本発明に使用するシール層とシール可能な別のフィルムを重ねてシールすることにより包装袋・容器を形成することも可能である。その際、当該別のフィルムとしては、比較的機械強度の弱いLDPE、EVA等のフィルムを用いることができる。また、LDPE、EVA等のフィルムと、比較的引き裂き性の良い延伸フィルム、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(OPET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)等とを貼り合わせたラミネートフィルムも用いることができる。中でも、モノマテリアルの包装材とするため、OPPやCPP等のプロピレン系フィルムと貼り合わせることが好ましい。
【0082】
(シール方法)
本発明の多層フィルムのシール層は、ヒートシール性を持つ。そのため、本発明の多層フィルム及び本発明の多層フィルムを用いたラミネートフィルムは、ヒートシールにより包装体を形成することができる。当該多層フィルム又はラミネートフィルムのヒートシール強度は、使用態様に応じて適宜調整すればよいが、例えば、本発明の多層フィルムのシール層面を重ね合わせ、温度140℃、圧力0.2MPaで、1.0秒間ヒートシールした後、15mm幅の試験片を切り取り、23℃、50%RHの恒温室において引張速度300mm/分の条件で180度方向に剥離した際の最大荷重が4N/15mm以上であることが好ましく、6N/15mm以上であることがより好ましい。また、当該最大荷重の上限は、20N/15mm未満であることが好ましく、15N/15mm未満であることがより好ましい。当該剥離強度とすることで多層フィルムの剥離や脱落が生じにくく、かつ、開封時の易開封性が特に好適となる。
また、本発明の多層フィルム及び本発明の多層フィルムを用いたラミネートフィルムは、ヒートシール以外にも、超音波によるシールも適用可能である。超音波によりシールする方法としては、特に制限はなく目的に応じて、公知の超音波シール方法や、公知の超音波シール装置を用いた方法等を適宜選択することができる。
【0083】
本発明の多層フィルムを用いた包装材には、初期の引き裂き強度を弱め、開封性を向上するため、シール部にVノッチ、Iノッチ、ミシン目、微多孔等の任意の引き裂き開始部を形成することが好ましい。
【実施例0084】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0085】
<抗菌剤の粒子径測定>
抗菌剤の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定器(日機装株式会社製マイクロトラックMT-3300EXII)によって測定した値とした。具体的な測定方法として、抗菌剤の粒子を水槽中のIPA溶媒に分散させ、上記の装置を用いて、光の回折散乱強度分布を測定及び解析し、粒子径及び体積基準の粒子分布を測定することにより算出できる、D50の値を、抗菌剤の粒子径とした。この測定方法によれば、イオンピュアWPA(石塚硝子株式会社製)の粒子径は3.6μm、スカロープレミアムS(WM株式会社製)の粒子径は5.4μm、ノバロンAG1100(東亞合成株式会社製)の粒子径は1.9μmである。
【0086】
<抗菌剤の水可溶性評価>
200mLのガラスビーカーに、23℃の蒸留水を100g計りとった。このビーカーの中に、各種抗菌剤を150mg添加し、水をはった超音波洗浄装置により10分間攪拌を行った。その後、攪拌を止めて60分間静置し、ビーカー内の分散液を目視で観察した。相分離が発生するものを水可溶性でないと判断した。
評価の結果、イオンピュアWPA(石塚硝子株式会社製)及びスカロープレミアムS(WM株式会社製)は水可溶性であり、ノバロンAG1100(東亞合成株式会社製)水可溶性でなかった。
【0087】
<抗菌剤マスターバッチの製造>
単軸押出機(スクリュー径40mm)の溶融混練装置に各種抗菌剤とプロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR7.0g/10分)を、特定の抗菌剤濃度となるように入れ、220℃の温度でメルトブレンドしてコンパウンドしてペレット化し、各種抗菌剤PPマスターバッチを得た。
【0088】
<多層フィルムの製造>
(実施例1)
最外層用樹脂として、プロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR7.0g/10分)(以下、COPPと称する。)を用いた。また、中間層用樹脂として、プロピレン単独重合体(密度0.900g/cm、MFR8.0g/10分)(以下、HOPPと称する。)を用いた。また、シール層用樹脂として、COPP95質量部と、イオンピュアWPA抗菌剤PPマスターバッチ(COPPとのコンパウンド品、抗菌剤粒子径3.6μm、抗菌剤濃度10質量%)5質量部との樹脂混合物を用いた。これらの樹脂をそれぞれ、最外層用押出機(口径50mm)、中間層用押出機(口径50mm)、シール層用押出機(口径50mm)に供給して200~230℃で溶融し、その溶融した樹脂をフィードブロックを有するTダイ・チルロール法の共押出多層フィルム製造装置(フィードブロック及びTダイ温度:250℃)にそれぞれ供給して共溶融押出を行って、フィルムの層構成が最外層/中間層/シール層の3層構成で、各層の厚みが24μm/8μm/8μm(合計40μm)である実施例1の多層フィルムを得た。シール層に含まれる抗菌剤の濃度は、0.5質量%である。
【0089】
(実施例2~9)
使用した成分及びその比率を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~10の多層フィルムを得た。
【0090】
実施例1におけるシール層の組成を、COPP60質量部とスカロープレミアム抗菌剤PPマスターバッチ(COPPとのコンパウンド品、抗菌剤平均粒子径5.4μm、抗菌剤濃度:20質量%)40質量部との混合物に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例10の多層フィルムを得た。
【0091】
(比較例1・3)
使用した成分及びその比率を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1及び比較例3の多層フィルムを得た。
【0092】
(比較例2)
実施例1におけるシール層の組成をCOPP80質量部とノバロンAG1100抗菌剤PPマスターバッチ(COPPとのコンパウンド品、抗菌剤平均粒子径1.9μm、抗菌剤濃度:10質量%)20質量部との混合物に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の多層フィルムを得た。
【0093】
<シール強度の測定>
実施例及び比較例にて得られた多層フィルムのシール層面を重ね合わせて、温度130℃~150℃(10℃刻み)、圧力0.2MPaで、1.0秒間ヒートシールした後、幅15mmにカットし、23℃、50%RHの恒温室において引張試験機(株式会社エー・アンド・ディー製)を用いて、300mm/分間の速度で90度剥離することによりシール強度を測定した。
【0094】
<衝撃強度の測定>
実施例及び比較例にて得られた多層フィルムを、23℃下に調整した恒温室内で4時間静置した。その後、テスター産業製BU-302型フィルムインパクトテスターを用いて、振り子の先端に1.0インチのヘッドを取り付け、フィルムインパクト法による衝撃強度を測定した。
【0095】
<水蒸気透過度の測定>
実施例1~10及び比較例1~3で作製した多層フィルムについて、水蒸気透過度計(システックイリノイ社製、LyssyL80-5000)を用いて、JIS K7129 Aに準じて、40℃、90%RH、測定時間24時間の条件で水蒸気透過度を測定した。測定結果は表1及び表2に示した。
【0096】
(包装袋の作成)
実施例1~10及び比較例1~3で作製した多層フィルムをA4サイズに切り出して半分に折り、長辺の一辺を残して残りの二つの短辺を0.2MPa、1秒、120℃の条件でヒートシールすることで、包装袋を作製した。包装袋は多層フィルム1種につき2つ作製し、N=2での試験とした。
市販の食パン(6枚入り)を開封して速やかにニトリル手袋着用のもと取り出し、当該包装袋1点につき食パン一枚を入れ、空き部分であった長辺をインパルスシールでシールした。実施例1~10及び比較例1~3の多層フィルムにより作製した食パン入りの包装袋(N=2につき、合計28点)をトレーに置き、23℃55%の恒温恒湿室で保管した。
【0097】
<カビ増殖面積の算出>
上記食パン入りの包装袋を封止してから12日後に目視観察し、各面(表と裏)の写真を撮影し、画像解析ソフト(GIMP)を用いて、カビ繁殖領域であるカビ範囲を選択し、ヒストグラムダイアログで総ピクセル数を算出することで、予め算出した食パン全面積に対するカビ範囲の割合を数値化した。
N=2の算術平均値を計算し、評価結果をカビ増殖面積として、表1及び表2に示した。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】

【0100】
使用した原料は下記の通りである。
COPP:プロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR7.0g/10分)
HOPP:プロピレン単独重合体(密度0.900g/cm、MFR8.0g/10分)
COC:環状オレフィン系樹脂のノルボルネン系共重合体(密度1.010g/cm、MFR12.0g/10分)
イオンピュアWPA:石塚硝子株式会社製、粒子径3.6μm
スカロープレミアム:WM株式会社製、粒子径5.4μm
ノバロンAG1100:東亞合成株式会社製、粒子径1.9μm
【0101】
上記表から明らかなとおり、実施例1~10の本発明の多層フィルムは、水可溶性の抗菌剤を含み、水蒸気透過度が9g/m/24時間以下であり、水分の比較的少ないパンに対してもカビ繁殖抑制効果が高いことが分かった。また、モノマテリアル化が可能であり、リサイクル容易であった。
一方、抗菌剤を含まない比較例1は、水蒸気透過度は低いものの、カビ繁殖抑制効果が見られなかった。また、シール層に水可溶性でない抗菌剤であるノバロンAG1100を含む比較例2は、カビ繁殖抑制効果が見られなかった。さらに、シール層に水可溶性の抗菌剤を含むが水蒸気透過度の高い比較例3は、カビ繁殖抑制効果を発揮できなかった。
【0102】
<抗菌効果の確認>
実施例1~3及び比較例1~2の多層フィルムについて、JIS Z 2801「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じて、試験菌「Escherichia coli(NBRC 3972、大腸菌)」及び「Staphylococcus aureus(NBRC 12732、黄色ブドウ球菌)」について試験を行い(ただし、n=1で実施)、抗菌性の評価を行った。
その結果、実施例1~3の多層フィルムは、十分な抗菌効果が認められた。一方、比較例1~2の多層フィルムは、抗菌効果が認められなかった。