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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003332
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】基準電圧源回路
(51)【国際特許分類】
   G05F 3/26 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
G05F3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102401
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099818
【弁理士】
【氏名又は名称】安孫子 勉
(72)【発明者】
【氏名】小金 伴弘
【テーマコード(参考)】
5H420
【Fターム(参考)】
5H420NA23
5H420NA27
5H420NB02
5H420NB12
5H420NB22
5H420NB25
5H420NC02
5H420NC23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温時にバイポーラトランジスタに生ずる漏れ電流に起因する出力電圧の変動を抑圧し低減する信頼性及び安定性が高い基準電圧源回路を提供する。
【解決手段】基準電圧源回路において、発生用第1のトランジスタ1のコレクタには、NPNバイポーラトランジスタを用いた抑圧用第1のトランジスタ3のコレクタが、出力用第1のトランジスタ16のドレーンには、NPNバイポーラトランジスタを用いた抑圧用第2のトランジスタ4のコレクタが、夫々接続されており、抑圧用第1のトランジスタ及び第2のトランジスタの各々ベース及びエミッタは、夫々開放状態とされて、発生用第1のトランジスタ1の正規化エミッタ面積比を1、発生用第2のトランジスタと抑圧用第2のトランジスタの夫々の正規化エミッタ面積比を共にm、抑圧用第1のトランジスタのエミッタ面積比をm-1と、夫々設定することで、温度変化に対する基準電圧VBGの変動を抑圧、低減する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NPNバイポーラトランジスタである発生用第1及び第2のトランジスタを有し、バンドギャップ電圧を発生可能に構成されたバンドギャップ電圧発生回路が設けられ、
前記発生用第1及び第2のトランジスタは、ベースが相互に接続される一方、前記発生用第1のトランジスタのエミッタは、グランドに、前記発生用第2のトランジスタのエミッタは、第1の抵抗器を介してグランドに、それぞれ接続され、
前記発生用第1及び第2のトランジスタのコレクタは、第1の負帰還回路に接続されると共に、前記発生用第2のトランジスタのコレクタは、第2の負帰還回路に接続され、
前記第1の負帰還回路は、PチャネルMOSFETを用いた第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタ、及び、NチャネルMOSFETを用いた第1負帰還用第4のトランジスタを有してなり、
前記第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタは、ソースに正電源電圧が印加可能とされる一方、ゲートは、相互に接続されると共に、前記第1負帰還用第1のトランジスタのドレーン、前記第1負帰還用第4のトランジスタのドレーン、及び、出力回路に接続され、前記第1負帰還用第2のトランジスタのドレーンは、前記発生用第1のトランジスタのコレクタに、前記第1負帰還用第3のトランジスタのドレーンは、前記発生用第2のトランジスタのコレクタに、それぞれ接続され、前記第1負帰還用第4のトランジスタのゲートには、前記発生用第1のトランジスタのコレクタが接続され、前記第1負帰還用第4のトランジスタのソースは、グランドに接続され、
前記第2の負帰還回路は、PチャネルMOSFETを用いた第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ、並びに、NチャネルMOSFETを用いた第2負帰還用第3のトランジスタを有してなり、
前記第2負帰還用第1及び第2のトランジスタは、ソースに正電源電圧が印加可能とされる一方、ゲートは、相互に接続されると共に、前記第2負帰還用第1のトランジスタのドレーン、前記第2負帰還用第3のトランジスタのドレーン、及び、前記出力回路に接続され、前記第2負帰還用第3のトランジスタは、ソースがグランドに接続される一方、ゲートには、前記発生用第2のトランジスタのコレクタが接続され、前記第2負帰還用第2のトランジスタのドレーンは、前記発生用第1及び第2のトランジスタのベースに接続されると共に、第2の抵抗器を介してグランドに接続され、
前記出力回路は、PチャネルMOSFETを用いた出力用第1及び第2のトランジスタを有してなり、前記出力用第1及び第2のトランジスタは、ソースに正電源電圧が印加可能とされる一方、前記出力用第1のトランジスタのゲートには、前記第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタのゲートが、前記出力用第2のトランジスタのゲートには、前記第2負帰還用第1及び第2のトランジスタのゲートが、それぞれ接続され、前記出力用第1のトランジスタのドレーンと前記出力用第2のトランジスタのドレーンは、相互に接続されると共に、第3の抵抗器を介してグランドに接続され、
前記発生用第1のトランジスタのコレクタには、NPNバイポーラトランジスタである抑圧用第1のトランジスタのコレクタが接続され、前記抑圧用第1のトランジスタのベース及びエミッタは、開放状態とされ、
前記出力用第1及び第2のトランジスタのドレーンには、NPNバイポーラトランジスタである抑圧用第2のトランジスタのコレクタが接続され、前記抑圧用第2のトランジスタのベース及びエミッタは、開放状態とされ、
前記出力用第1及び第2のトランジスタのドレーンに出力される基準電圧の温度に伴う変動を抑圧可能としてなることを特徴とする基準電圧源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度の電圧出力を可能とする基準電圧源回路に係り、特に、高温下における出力電圧特性の安定化、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ回路で用いられる電圧源の一つである基準電圧源回路としては、いわゆるバッドギャップ電圧を利用して、温度や電源電圧の変動に影響されることなく一定の電圧出力を可能に構成された回路が良く知られている。また、このようにバッドギャップ電圧を利用した基準電圧源回路については、種々の回路が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3617859号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】浅田邦博、永田穣 監訳、P.R.グレイ、他3名共著、「システムLSIのためのアナログ集積回路設計技術(基礎編)(応用編)」、培風館、2004年
【非特許文献2】Banba, Shiga, Umezawa, Miyaba, Tanzawa, Atsumi, Sakui, "A CMOS bandgap reference circuit with sub-1-V operation", IEEE Journal of Solid-State Circuits, May 1999, Vol.34, pp.670-674
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バイポーラトランジスタのバンドギャップ電圧を用いる構成の基準電圧源回路においては、バイポーラトランジスタのコレクタと回路基板の間に形成されるPN接合により、高温の環境下において、コレクタから回路基板へ漏れ電流が発生し、温度上昇と共に指数関数的に増大し、回路構成によっては、出力側へ流れ込むことがあるため、出力電圧の変動を招くという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、高温時にバイポーラトランジスタに生ずる漏れ電流に起因する出力電圧の変動を抑圧、低減し、信頼性、安定性の高い基準電圧源回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る基準電圧源回路は、
NPNバイポーラトランジスタである発生用第1及び第2のトランジスタを有し、バンドギャップ電圧を発生可能に構成されたバンドギャップ電圧発生回路が設けられ、
前記発生用第1及び第2のトランジスタは、ベースが相互に接続される一方、前記発生用第1のトランジスタのエミッタは、グランドに、前記発生用第2のトランジスタのエミッタは、第1の抵抗器を介してグランドに、それぞれ接続され、
前記発生用第1及び第2のトランジスタのコレクタは、第1の負帰還回路に接続されると共に、前記発生用第2のトランジスタのコレクタは、第2の負帰還回路に接続され、
前記第1の負帰還回路は、PチャネルMOSFETを用いた第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタ、及び、NチャネルMOSFETを用いた第1負帰還用第4のトランジスタを有してなり、
前記第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタは、ソースに正電源電圧が印加可能とされる一方、ゲートは、相互に接続されると共に、前記第1負帰還用第1のトランジスタのドレーン、前記第1負帰還用第4のトランジスタのドレーン、及び、出力回路に接続され、前記第1負帰還用第2のトランジスタのドレーンは、前記発生用第1のトランジスタのコレクタに、前記第1負帰還用第3のトランジスタのドレーンは、前記発生用第2のトランジスタのコレクタに、それぞれ接続され、前記第1負帰還用第4のトランジスタのゲートには、前記発生用第1のトランジスタのコレクタが接続され、前記第1負帰還用第4のトランジスタのソースは、グランドに接続され、
前記第2の負帰還回路は、PチャネルMOSFETを用いた第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ、並びに、NチャネルMOSFETを用いた第2負帰還用第3のトランジスタを有してなり、
前記第2負帰還用第1及び第2のトランジスタは、ソースに正電源電圧が印加可能とされる一方、ゲートは、相互に接続されると共に、前記第2負帰還用第1のトランジスタのドレーン、前記第2負帰還用第3のトランジスタのドレーン、及び、前記出力回路に接続され、前記第2負帰還用第3のトランジスタは、ソースがグランドに接続される一方、ゲートには、前記発生用第2のトランジスタのコレクタが接続され、前記第2負帰還用第2のトランジスタのドレーンは、前記発生用第1及び第2のトランジスタのベースに接続されると共に、第2の抵抗器を介してグランドに接続され、
前記出力回路は、PチャネルMOSFETを用いた出力用第1及び第2のトランジスタを有してなり、前記出力用第1及び第2のトランジスタは、ソースに正電源電圧が印加可能とされる一方、前記出力用第1のトランジスタのゲートには、前記第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタのゲートが、前記出力用第2のトランジスタのゲートには、前記第2負帰還用第1及び第2のトランジスタのゲートが、それぞれ接続され、前記出力用第1のトランジスタのドレーンと前記出力用第2のトランジスタのドレーンは、相互に接続されると共に、第3の抵抗器を介してグランドに接続され、
前記発生用第1のトランジスタのコレクタには、NPNバイポーラトランジスタである抑圧用第1のトランジスタのコレクタが接続され、前記抑圧用第1のトランジスタのベース及びエミッタは、開放状態とされ、
前記出力用第1及び第2のトランジスタのドレーンには、NPNバイポーラトランジスタである抑圧用第2のトランジスタのコレクタが接続され、前記抑圧用第2のトランジスタのベース及びエミッタは、開放状態とされ、
前記出力用第1及び第2のトランジスタのドレーンに出力される基準電圧の温度に伴う変動を抑圧可能に構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ベースとエミッタが開放状態とされた抑圧用第1及び第2のトランジスタを設けることにより漏れ電流の相殺を可能としたので、高温時にバイポーラトランジスタに生ずる漏れ電流に起因する出力電圧の変動を抑圧、低減することができ、信頼性、安定性の高い基準電圧源回路を提供することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態における基準電圧源回路の構成例を示す回路図である。
図2】本発明の実施の形態における基準電圧源回路の環境温度変化に対する出力電圧の変化特性例を、従来回路の同様な特性例と共に示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における基準電圧源回路の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
この基準電圧源回路は、バンドギャップ電圧発生回路101と、第1及び第2の負帰還回路102,103と、出力回路104とに大別されて構成されたものとなっている。
【0011】
バンドギャップ電圧発生回路101は、NPNバイポーラトランジスタを用いた発生用第1及び第2のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Qn1」、「Qn2」と表記)1,2を主たる構成要素として構成されている。
発生用第1及び第2のトランジスタ1,2は、ベースが相互に接続されて、その接続点は、後述する第2の負帰還回路103に接続されている。
また、発生用第1及び第2のトランジスタ1,2のコレクタは、後述する第1の負帰還回路102の各出力段に、それぞれ接続されている。一方、発生用第1のトランジスタ1のエミッタは、グランドに直接接続され、発生用第2のトランジスタ2のエミッタは、第1の抵抗器(図1においては「R1」と表記)31を介してグランドに接続されている。
【0012】
第1の負帰還回路102は、第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタ11~13、及び、第1負帰還用第4のトランジスタ21を用いて、次述するようにカレントミラーが構成されたものとなっている。
まず、本発明の実施の形態の第1の負帰還回路102において、第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Mp1」、「Mp2」、「Mp3」と表記)11~13には、PMOS(PチャネルMetal-Oxide Semiconductor)トランジスタ(以下「PMOS」と称する)が用いられている。
また、第1負帰還用第4のトランジスタ(図1においては「Mn1」と表記)21には、NMOS(NチャネルMetal-Oxide Semiconductor)トランジスタ(以下「NMOS」と称する)が用いられている。
【0013】
以下、具体的な回路接続について説明すれば、まず、第1負帰還用第1及び第2のトランジスタ11,12は、ゲートが相互に接続されると共に、第1負帰還用第1のトランジスタ11のドレーン、第1負帰還用第3のトランジスタ13のゲート、及び、第1負帰還用第4のトランジスタ21のドレーンと接続され、その接続点は、さらに、後述する出力回路104の入力段に接続されている。
また、第1負帰還用第1及び第2のトラジスタ11,12のソースは、第1負帰還用第3のトランジスタ13のソースと共に正電源電圧VDDが印加されるようになっている。
【0014】
第1負帰還用第2のトラジスタ12のドレーンは、第1負帰還用第4のトランジスタ21のゲートと共に、発生用第1のトランジスタ1のコレクタに接続されている。そして、第1負帰還用第4のトランジスタ21のソースは、グランドに接続されている。
また、第1負帰還用第3のトラジスタ13のドレーンは、発生用第2のトランジスタ2のコレクタと共に、次述する第2の負帰還回路103の入力段に接続されている。
【0015】
次に、第2の負帰還回路103は、第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ14,15と第2負帰還用第3のトランジスタ22を主たる構成要素として、次述するようにカレントミラーが構成されたものとなっている。
本発明の実施の形態の第2の負帰還回路103において、第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Mp4」、「Mp5」と表記)14,15にはPMOSが、第2負帰還用第3のトランジスタ(図1においては「Mn2」と表記)22には、NMOSが、それぞれ用いられている。
【0016】
以下、具体的な回路接続について説明すれば、まず、第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ14,15は、ゲートが相互に接続されると共に、第2負帰還用第1のトランジスタ14のドレーン、第2負帰還用第3のトランジスタ22のドレーン及び後述する出力回路104の入力段に接続されている。そして、第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ14,15のソースは、共に正電源電圧VDDが印加されるようになっている。
また、第2負帰還用第3のトランジスタ22のゲートには、先の発生用第2のトランジスタ2のコレクタ及び第1負帰還用第3のトランジスタ13のドレーンが接続されている。一方、第2負帰還用第3のトランジスタ22のソースは、グランドに接続されている。
また、第2負帰還用第2のトランジスタ15のドレーンは、先の発生用第1及び第2のトランジスタ1,2のベースに接続されると共に、第2の抵抗器(図1においては「R2」と表記)32を介してグランドに接続されている。
【0017】
出力回路104は、出力用第1及び第2のトランジスタ(図1においては、それぞれ「Mp6」、「Mp7」と表記)16,17を主たる構成要素として、次述するように構成されたものとなっている。
まず、本発明の実施の形態の出力回路104において、出力用第1及び第2のトランジスタ16,17には、PMOSが用いられている。
出力用第1のトランジスタ16のソースは、出力用第2のトランジスタ17のソースと共に正電源電圧VDDが印加されるようになっている。また、出力用第1のトランジスタ16のゲートには、先の第1負帰還用第1乃至第3のトランジスタ11~13のゲートと、第1負帰還用第1のトランジスタ11のドレーン及び第1負帰還用第4のトランジスタ21のドレーンが接続されている。
【0018】
また、出力用第2のトランジスタ17のゲートには、先の第2負帰還用第1及び第2のトランジスタ14,15のゲートと、第2負帰還用第1及び第3のトランジスタ14,22のドレーンが接続されている。
そして、出力用第1のトランジスタ16のドレーンと出力用第2のトランジスタ17のドレーンは、相互に接続されて出力端子40に接続されると共に、出力端子40とグランドとの間には、第3の抵抗器(図1においては「R3」と表記)33が接続されている。
【0019】
また、発生用第1のトランジスタ1のコレクタには、NPNバイポーラトランジスタを用いた抑圧用第1のトランジスタ3のコレクタが接続されており、そのベース及びエミッタは共に開放状態とされている。
また、出力用第1のトランジスタ16のドレーンには、NPNバイポーラトランジスタを用いた抑圧用第2のトランジスタ4のコレクタが接続されており、そのベース及びエミッタは共に開放状態とされている。
この抑圧用第1及び第2のトランジスタ3,4は、後述するような発生用第1及び第2のトランジスタ1,2のコレクタ側に発生する漏れ電流の相殺作用を果たしている。
【0020】
次に、かかる構成における動作について説明する。
まず、NPNバイポーラトランジスタにおいて、コレクタ電流Icとベース・エミッタ間電圧VBE、コレクタ電流Icとベース電流IB、及び、エミッタ電流IEとの間には、通常、下記する式1乃至式3で表される関係が成立する。
【0021】
Ic=χ×Is×exp(VBE/VT)・・・式1
【0022】
Ic=βIB・・・式2
【0023】
Ic+IB=IE・・・式3
【0024】
なお、ここで、χは正規化エミッタ面積比、Isは飽和電流、βは電流増幅率である。
また、VTは熱電圧であり、VT=k×T÷qと表され、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電気素量である。
【0025】
この関係式を、発生用第1及び第2のトランジスタ1,2に適用すると、それぞれのコレクタ電流IcQn1、IcQn2は、下記する式4、式5のように求められる。
【0026】
IcQn1=Is×exp(VBEQn1p/VT)・・・式4
【0027】
IcQn2=m×Is×exp(VBEQn2/VT)・・・式5
【0028】
なお、ここで、VBEQn1は、発生用第1のトランジスタ1のベース・エミッタ間電圧、VBEQn2は、発生用第2のトランジスタ2のベース・エミッタ間電圧、mは、発生用第2のトランジスタ2の正規化エミッタ面積比であって、1より大きい実数とし、発生用第1のトランジスタ1の正規化エミッタ面積比は1である。
【0029】
式4、式5を、それぞれベース・エミッタ間電圧VBEQn1、VBEQn2を表す式に変形すると、下記する式6、式7の如くとなる。
【0030】
VBEQn1=VT×ln(IcQn1/Is)・・・式6
【0031】
VBEQn2=VT×ln(IcQn2/Is)・・・式7
【0032】
一方、第1の負帰還回路102の作用により、発生用第1のトランジスタ1のコレクタ電流IcQn1は、第1負帰還用第2のトランジスタ12のドレーン電流IDSp2と等しくなる。また、同様に、発生用第2のトランジスタ1のコレクタ電流IcQn2は、第1負帰還用第3のトランジスタ13のドレーン電流IDSp3と等しくなる。
【0033】
この場合、第1負帰還用第2のトランジスタ12と第1負帰還用第3のトランジスタ13の(W/L)形状比を、1:1に設定し、上述の式6、式7を用いて、発生用第1のトランジスタ1のベース・エミッタ間電圧VBEQn1と発生用第2のトランジスタ2のベース・エミッタ間電圧VBEQn2との電圧差を求めると、下記する式8のように求められる。なお、ここで、”W”はMOSトランジスタのチャネル幅、”L”はチャネル長である。
【0034】
VBEQn1-VBEQn2=VT×lnm・・・式8
【0035】
この式8で表される電圧は、第1の抵抗器31に印加されるため、第1の抵抗器31に流れる電流、すなわち、発生用第2のトランジスタ2のエミッタ電流IEQn2は、下記する式9のように表される。
【0036】
IEQn2=(VBEQn1-VBEQn2)/R1=(VT/R1)×lnm・・・式9
【0037】
なお、ここで、R1は、第1の抵抗器31の抵抗値とする。
次に、発生用第1のトランジスタ1のベース電流IBQn1、発生用第2のトランジスタ2のベース電流IBQn2、及び、第2の抵抗器32に流れる電流IR2は、第2の負帰還回路103の作用により、それぞれ供給されるようになっており、第2負帰還用第2のトランジスタ15のドレーン電流をIDSp5とすると、下記する式10、式11に表される関係が成立する。
【0038】
IDSp5=IBQn1+IBQn2+IR2・・・式10
【0039】
IBQn1=IBQn2・・・式11
【0040】
第2の抵抗器32の両端には、電圧VBEQn1が発生しているので、第2の抵抗器32に流れる電流IR2は、下記する式12のように表される。
【0041】
IR2=VBEQn1/R2・・・式12
【0042】
なお、ここで、R2は、第2の抵抗器32の抵抗値とする。
また、第1負帰還用第2及び第3のトランジスタ12,13と出力用第1のトランジスタ16の(W/L)形状比を、1:1:1に設定し、かつ、第2負帰還用第2のトランジスタ15と出力用第2のトランジスタ17の(W/L)形状比を、2:1に設定することで、出力用第2のトランジスタ17のドレーン電流IDSp7と、第3の抵抗器33に流れる電流IR3との間には、下記する式13で表される関係が成立する。
【0043】
IR3=IDSp6+IDSp7=IDSp6+IDSp5/2・・・式13
【0044】
なお、ここで、IDSp6は、出力用第1のトランジスタ16のドレーン電流である。
しかして、第3の抵抗器33に発生する電圧VBG(出力電圧)は、先の式3、式9乃至式13により、下記する式14のように表される。
【0045】
VBG=R3×IR3=R3(IDSp6+IDSp5/2)=R3{IDSp3+(IBQn1+IBQn2+IR2)/2}=R3{IcQn2+(2×IBQn2+IR2)/2}=R3{IcQn2+IBQn2+IR2/2}=R3{IEQn2+VBEQn1/(2×R2)}=R3{(VT/R1)×lnm+VBEQn1/(2×R2)}・・・式14
【0046】
一般に良く知られているように、NPNバイポーラトランジスタのベース・エミッタ電圧は、負の温度特性であるのに対して、熱電圧は正の温度特性であるため、第1乃至第3の抵抗器31~33の抵抗値と正規化エミッタ面積比の値として用いたmを調整することで、上述の負と正の温度特性を相殺し、式14に示された電圧VBGを温度に依存しない一定の電圧とすることが可能となる。
【0047】
しかしながら、回路が高温の環境下に晒された状態となった場合、NPNバイポーラトランジスタである発生用第1及び第2のトランジスタ1,2のコレクタとグランドとの間に、図1において点線で示されたような漏れ電流が発生し、温度の上昇に対して指数関数的に増大することが知られている。
この漏れ電流は、第1負帰還用第2及び第3のトランジスタ12,13と、出力用第1のトランジスタ16とで構成されるカレントミラー回路を介して第3の抵抗器33に流入し、本来一定であるべき電圧VBGの上昇を招いてしまう。
【0048】
これに対して、本発明の実施の形態における基準電圧源回路においては、抑圧用第1のトランジスタ3の正規化エミッタ面積比がm-1に設定されることで、発生用第1のトランジスタ1の漏れ電流の大きさと、発生用第2のトランジスタ2の漏れ電流の大きさが等しくなる。
一方、第1負帰還用第2及び第3のトランジスタ12,13と出力用第1のトランジスタ16とで構成されるカレントミラーの作用により、発生用第1のトランジスタ1の漏れ電流と発生用第2のトランジスタ2の漏れ電流は、第3の抵抗器33にミラーされて流れようとするが、正規化エミッタ面積比が先に述べたようにmと設定された抑圧用第2のトランジスタ4により、その漏れ電流が相殺され、電圧VBGは温度に依存することなく一定の電圧に維持されることとなる。
なお、mは、先に述べた発生用第2のトランジスタ2の正規化エミッタ面積比と同じ値である。
【0049】
図2には、本発明の実施の形態における基準電圧源回路の温度変化に対する出力電圧の変化特性のシミュレーション結果が示されており、以下、同図について説明する。
図2において、横軸は基準電圧源回路近傍の雰囲気温度を、縦軸は出力端子40における出力電圧を、それぞれ示している。
同図において、本願発明の実施の形態における基準電圧源回路の温度変化に対する出力電圧の変化特性は、実線の特性線で示されており、温度変化に関わらず出力電圧の変化は殆ど無く、ほぼ平坦な特性であることが確認できる。
これに対して、図2において、点線の特性線は、従来回路の同様な特性を示しており、従来回路の場合、100℃を超える温度環境下において、温度上昇と共に出力電圧が増大し、出力特性が悪化するものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
高温時にバイポーラトランジスタに生ずる漏れ電流に起因する出力電圧の変動を抑圧、低減が所望される基準電圧源回路に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…発生用第1のトランジスタ
2…発生用第2のトランジスタ
3…抑圧用第1のトランジスタ
4…抑圧用第2のトランジスタ
101…バンドギャップ電圧発生回路
102…第1の負帰還回路
103…第2の負帰還回路
104…出力回路
図1
図2