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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033324
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ワイヤソーの測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20240306BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240306BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240306BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B24B27/06 D
H01L21/304 611W
B24B49/12
B28D5/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136845
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】利根 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一彦
【テーマコード(参考)】
3C034
3C069
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA17
3C034BB75
3C034BB93
3C034CA11
3C034CA22
3C034CB11
3C034CB13
3C034DD07
3C034DD10
3C069AA01
3C069BA06
3C069CA04
3C069CB01
3C069EA02
3C158AA05
3C158AA14
3C158AA16
3C158AB04
3C158AC02
3C158AC04
3C158BA07
3C158CA01
3C158CA05
3C158CB01
3C158DA03
5F057AA19
5F057BA01
5F057BB03
5F057CA02
5F057GB02
5F057GB31
(57)【要約】
【課題】カメラの撮影画像を用いてワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することが可能なワイヤソーの測定装置及び測定方法を提供する。
【解決手段】本発明によるワイヤソーの測定装置20は、ワークをスライスするワイヤ列3Aの上方に設けられた昇降装置7に取り付けられるベースプレート21と、ベースプレート21に取り付けられワイヤ列3Aを撮影するカメラ22と、カメラ22をワイヤ列3Aと平行な方向にスライド可能に支持するスライド機構24と、カメラ22の撮影画像に写り込む位置に設けられ、ワイヤ列3Aの平行度の基準となる基準線を撮影画像内に定義する基準部材25とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをスライスするワイヤソーのワイヤ列の平行度を測定するための測定装置であって、
前記ワイヤ列の上方に設けられた昇降装置に取り付けられるベースプレートと、
前記ベースプレートに取り付けられ前記ワイヤ列を撮影するカメラと、
前記カメラを前記ワイヤ列と平行な方向にスライド可能に支持するスライド機構と、
前記カメラの撮影画像に写り込む位置に設けられ、前記ワイヤ列の平行度の基準となる基準線を前記撮影画像内に定義する基準部材とを備えることを特徴とするワイヤソーの測定装置。
【請求項2】
前記カメラは、前記ワイヤ列の一方の端部寄りの第1撮影領域で前記ワイヤ列及び前記基準部材を含む第1画像を撮影すると共に、前記ワイヤ列の他方の端部寄りの第2撮影領域で前記ワイヤ列及び前記基準部材を含む第2画像を撮影する、請求項1に記載のワイヤソーの測定装置。
【請求項3】
前記カメラの撮影画像を処理する画像処理装置をさらに備え、
前記画像処理装置は、
前記第1画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第1線間距離を算出し、
前記第2画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第2線間距離を算出する、請求項2に記載のワイヤソーの測定装置。
【請求項4】
前記画像処理装置は、
前記第1線間距離と前記第2線間距離との差である線間距離差を前記ワイヤソーの平行度指標として算出する、請求項3に記載のワイヤソーの測定装置。
【請求項5】
前記画像処理装置はディスプレイを含み、
前記ディスプレイは、前記第1画像、前記第2画像、前記第1線間距離の値、前記第2線間距離の値、及び前記線間距離差の値を表示する、請求項4に記載のワイヤソーの測定装置。
【請求項6】
前記基準部材は超硬合金である、請求項1に記載のワイヤソーの測定装置。
【請求項7】
ワークをスライスするワイヤソーのワイヤ列の平行度を測定するための測定方法であって、
前記ワイヤ列の上方に、当該ワイヤ列の平行度の基準となる基準線を定義する基準部材と、前記ワイヤ列を前記基準部材と共に撮影するカメラをそれぞれ設置し、
前記ワイヤ列の一方の端部寄りの第1撮影領域で前記基準部材が写り込んだ第1画像を撮影し、
前記ワイヤ列の他方の端部寄りの第2撮影領域で前記基準部材が写り込んだ第2画像を撮影し、
前記第1画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第1線間距離を算出し、
前記第2画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第2線間距離を算出し、
前記第1線間距離と前記第2線間距離との差である線間距離差を前記ワイヤソーの平行度指標として求めることを特徴とするワイヤソーの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーのワイヤ列の調整に用いられる測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハは、チョクラルスキー法によって融液から引き上げられた単結晶インゴットを円柱状に加工した後、スライス、ラッピング、ポリシング等の各工程を経ることで完成する。単結晶インゴットのスライス工程では、インゴットの円周面にスライス台を接着し、スライス台の上面にワークプレートを接着する。そしてインゴットはワークプレートを介してワイヤソーに取り付けられ、スライス台と一緒にスライスされる。
【0003】
単結晶インゴットの結晶方位には多少のばらつきがあり、インゴットの中心軸線と必ずしも一致しない。そのため、インゴットの中心軸線の向きに合わせてワークプレートを接着し、ワイヤソーに取り付けてスライスすると、インゴットから切り出されたウェーハの切断面は結晶格子面と一致せず、これによりウェーハの特性がばらつくという問題がある。この問題を解消する方法の一つとして、ワイヤソーへの単結晶インゴットの装着前に、結晶方位を調整する外段取り方式が一般的である(特許文献1参照)。外段取り方式は、インゴットをワークプレートへスライス台を介して接着固定する際に、スライス台上でインゴットをインゴットの中心軸回りに回転させて結晶方位を調整し、次いでインゴットのワークプレートへの貼り付け角度を変えることで結晶方位を調整する方法である。
【0004】
ワイヤソーにおけるワイヤの位置調整方法に関し、例えば特許文献2には、ワイヤの左右両側の位置に距離センサを設け、距離センサによってワイヤ間隔やワークに対するワイヤ全体の相対変位を直接検出し、ワイヤ間隔を適正に保つようにガイドローラを調節することが記載されている。
【0005】
また特許文献3には、ワーク支持部にクランプ金具を介してワーク用治具を着脱可能な構成を有するワイヤソーにおいて、ワーク用治具に代えて測定用治具を設けることが記載されている。測定用治具にはワイヤソーのメインローラ間のワイヤの位置を検出するためのカメラが設けられ、カメラによるワイヤの位置に基づいてワーク支持部の位置を調節し、これによりクランプ金具がワイヤに対して所定位置に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-24145号公報
【特許文献2】特開平9-109143号公報
【特許文献3】特開2012-183615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の従来の測定用治具は、カメラの撮影画像からワイヤの位置を検出することができるが、ワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することが難しかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、カメラの撮影画像を用いてワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することが可能なワイヤソーの測定装置及び測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によるワイヤソーの測定装置は、ワークをスライスするワイヤ列の上方に設けられた昇降装置に取り付けられるベースプレートと、前記ベースプレート上に設けられ、前記ワイヤ列を撮影するカメラと、前記カメラを前記ワイヤ列と平行な方向にスライド可能に支持するスライド機構と、前記カメラの撮影画像に写り込む位置に設けられ、前記ワイヤ列の平行度の基準となる基準線を前記撮影画像内に定義する基準部材とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、カメラの撮影画像に写る基準部材とワイヤとの位置関係からワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することができる。
【0011】
本発明において、前記カメラは、前記ワイヤ列の一方の端部寄りの第1撮影領域で前記ワイヤ列及び前記基準部材を含む第1画像を撮影すると共に、前記ワイヤ列の他方の端部寄りの第2撮影領域で前記ワイヤ列及び前記基準部材を含む第2画像を撮影することが好ましい。これにより、ワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測して平行度の適否を判断することができる。
【0012】
本発明によるワイヤソーの測定装置は、前記カメラの撮影画像を処理する画像処理装置をさらに備え、前記画像処理装置は、前記第1画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第1線間距離を算出し、前記第2画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第2線間距離を算出することが好ましい。第1及び第2線間距離を求めることにより、ワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に求めることができる。
【0013】
前記画像処理装置は、前記第1線間距離と前記第2線間距離との差である線間距離差を前記ワイヤソーの平行度指標として算出することが好ましい。線間距離差を前記ワイヤソーの平行度指標として求めることにより、ワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に求めることができる。
【0014】
前記画像処理装置は、ディスプレイを含み、前記ディスプレイは、前記第1画像、前記第2画像、前記第1線間距離の値、前記第2線間距離の値、及び前記線間距離差の値を表示することが好ましい。これにより、ワイヤ列の平行度の適否を簡単に評価することができる。
【0015】
前記基準部材は超硬合金であることが好ましい。これにより、ワイヤ列に対する基準線の信頼性を高めることができる。
【0016】
また、本発明によるワイヤソーの測定方法は、ワークをスライスするワイヤソーのワイヤ列の上方に、当該ワイヤ列の平行度の基準となる基準線を定義する基準部材と、前記ワイヤ列を前記基準部材と共に撮影するカメラをそれぞれ設置し、前記ワイヤ列の一方の端部寄りの第1撮影領域で前記基準部材が写り込んだ第1画像を撮影し、前記ワイヤ列の他方の端部寄りの第2撮影領域で前記基準部材が写り込んだ第2画像を撮影し、前記第1画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第1線間距離を算出し、前記第2画像を処理して前記基準線から直近のワイヤまでの第2線間距離を算出し、前記第1線間距離と前記第2線間距離との差である線間距離差を前記ワイヤソーの平行度指標として求めることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、カメラの撮影画像に写る基準部材とワイヤとの位置関係からワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カメラの撮影画像を用いてワイヤ列の平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することが可能なワイヤソーの測定装置及び測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施の形態によるワイヤソーの構成の一例を示す略斜視図である。
図2図2は、ワークとワークプレートとの関係を示す略斜視図である。
図3図3(a)及び(b)は、ワイヤ列の平行度を説明するための模式図である。
図4図4は、測定装置が取り付けられたワイヤソーの構成を示す略側面図である。
図5図5は、測定装置が取り付けられたワイヤソーの構成を示す略正面図である。
図6図6(a)及び(b)は、ワイヤ列の平行度を測定する際のカメラの位置を説明するための図であって、図6(a)は第1撮影領域を撮影する際のカメラの位置、図6(b)は第2撮影領域を撮影する際のカメラの位置をそれぞれ示している。
図7図7(a)及び(b)は、ワイヤ列の平行度の測定方法を説明するための模式図であって、図7(a)は第1撮影領域の撮影画像、図7(b)は第2撮影領域の撮影画像をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態によるワイヤソーの構成の一例を示す略斜視図である。
【0022】
図1に示すように、ワイヤソー1は、2つの溝付きガイドローラ2a,2bと、ガイドローラ2a,2bに多重に巻き掛けられた1本のワイヤ3と、走行するワイヤ3に加工液(スラリー)を供給するノズルユニット4a,4bと、被加工物であるワーク10を昇降させる昇降装置7とを備えている。
【0023】
ワーク10は例えば単結晶シリコンであり、シリコンインゴットを所定の長さに分割して得られる円柱状のシリコンブロックである。単結晶シリコンは大口径インゴットの量産が可能であり、大口径インゴットのスライス加工にはワイヤソーが特に好適である。単結晶シリコンインゴットの直径は200mm以上であることが好ましく、300mm以上であることが特に好ましい。
【0024】
本実施形態におけるワイヤソー1は遊離砥粒方式であり、高速走行するワイヤ3に対して砥粒を分散させた加工液(スラリー)を供給しながら切削する。一方のワイヤリール5aに巻回されたワイヤ3は、繰り出しローラ6aを経由してガイドローラ2a,2bの順に繰り返し巻き掛けられた後、巻き取りローラ6bを経由して他方のワイヤリール5bに巻き取られる。
【0025】
遊離砥粒方式では、ワイヤ3の走行方向を途中で反転(交播運動)させながら少しずつワイヤ3を繰り出すバック・アンド・フォース方式が採られる。そのため、ガイドローラ2a,2bを交互に正転及び逆転させることによりワイヤ3を走行させる。なお、ダイヤモンド砥粒が固着されたダイヤモンド砥粒ワイヤで切削する固定砥粒方式を採用してもよい。
【0026】
ノズルユニット4a,4bはガイドローラ2a,2bの回転軸方向に沿って配置されており、ガイドローラ2a,2b間に架け渡されたワイヤ列3Aに対して加工液(スラリー)がかかるように複数のノズル孔を有している。ノズルユニット4a,4bは、ワーク10から見てワイヤ3の進行方向の手前に配置される必要があるが、ワイヤ3は双方向に進行することから、2つのノズルユニット4a,4bがワーク10の両側にそれぞれ配置されている。
【0027】
ワーク10はガイドローラ2a,2b間に架け渡されたワイヤ列3Aの上方に配置されており、スライス台9及びワークプレート8を介して昇降装置7に固定されている。昇降装置7を降下させることによってワーク10は走行するワイヤ列3Aに押し当てられて切断される。
【0028】
ワーク10を正しく切断するためにはワーク10の中心軸線を水平に維持する必要がある。また、ウェーハの切断面が所定の結晶格子面を有するためには、ワーク10の結晶方位がワイヤ列3Aと直交する方向を向くように結晶方位合わせを行う必要がある。結晶方位合わせは、ワーク10を円周方向に所定角度回転させて結晶方位を水平にすること、及びワーク10を水平方向に所定角度回転させて結晶方位をワイヤ列3Aと直交させることにより行われる。結晶位置合わせは、インゴットをワークプレートへスライス台を介して接着固定する際に、スライス台上でインゴットをインゴットの中心軸回りに回転させて結晶方位を調整し、次いでインゴットのワークプレートへの貼り付け角度を変えることで結晶方位を調整する方法である外段取り方式が一般的である。
【0029】
図2は、ワーク10とワークプレート8との関係を示す略斜視図である。
【0030】
図2に示すように、中心軸線が水平となるように置かれた円柱状のワーク10の上部の円周面には、スライス台9が接着剤により取り付けられる。スライス台9はワーク10と一緒に切断可能なカーボン等の材料からなる。スライス台9の下面にはワーク10の円周面にはまり合う湾曲面が形成され、ワーク10との密着性が高められている。さらに、スライス台9の上面にはワークプレート8が取り付けられる。
【0031】
図示のように、ワーク10の結晶格子面の法線、つまり結晶方位12はワーク10の中心軸線13に対して傾斜している。通常、ワーク10の中心軸線13に対する結晶方位12の傾斜角度βは最大で±3°程度である。また、任意の向きで置かれたワーク10の結晶方位12は必ずしも水平ではなく、水平面に対して傾斜角度γを有している。
【0032】
本実施形態の接着方法は、ワークプレート8の取付軸線8aをワーク10の結晶方位12と平行に設定して接着するものである。ここで、ワークプレート8の取付軸線8aとは、ワークプレート8の長手方向に延びる仮想軸線を言い、ワークプレート8の長手方向と平行な左右両側の側面8b,8cは取付軸線8aと平行である。ワークプレート8の取付面8dは取付軸線8aを含む平面であり、通常は水平に設定される。ワイヤソー1においては、この取付軸線8aがワイヤ列3Aと直交するようにワーク10が設置される。ワーク10の結晶方位12をワークプレート8の取付軸線8aと平行にするためには、結晶方位12が水平となるようにワーク10を回転角度αで回転させた後、さらに水平方向に角度βで回転させる必要がある。回転角度αは、sinα=sinγ/sinβの関係から求めることができる。
【0033】
このようにして、ワーク10は、スライス台9を介してワークプレート8の下面に接着固定される。ワークプレート8は、ワイヤ列3Aの上方に配置された昇降装置7のクランプユニット7Aに取り付けられる。したがって、ワーク10はワイヤ列3Aの上方に設置される。
【0034】
ガイドローラ2a,2bはワイヤ3と共に消耗品であり、適宜交換される。ガイドローラ2a,2bを交換してワイヤ3を張り直したときには、ワイヤ列3Aの平行度の測定が行われる。ワイヤ列3Aは、ワーク10のスライス方向(X方向)と平行に張り渡される。
【0035】
図3(a)及び(b)は、ワイヤ列3Aの平行度を説明するための模式図である。
【0036】
図3(a)及び(b)に示すように、ワイヤ列3Aは、Y軸と平行な回転軸を有するガイドローラ2a,2b間に架け渡されており、X軸方向に延在している。ここで、図3(a)に示すように、X軸に対するワイヤ列3Aの平行度が高い場合には、ワーク10を正確にスライスできる。しかし、図3(b)に示すように、X軸に対するワイヤ列3Aの平行度が悪い(傾斜角θが大きい)場合には、ワーク10を正確にスライスできず、ウェーハの面方位に傾斜が発生する。そのため、ワイヤ列3Aの平行度を正確に測定して誤差を調整する必要があり、平行度の測定時にはワーク10の代わりに測定装置が昇降装置7に取り付けられる。
【0037】
図4及び図5は、測定装置が取り付けられたワイヤソー1の構成を示す概略図であって、図4は側面図、図5は正面図である。
【0038】
図4及び図5に示すように、測定装置20は、昇降装置7のクランプユニット7Aに取り付け可能なベースプレート21と、ベースプレート21に取り付けられワイヤ列3Aを撮影するカメラ22と、水平方向を向いたカメラ22の撮影方向を下向きに変更するミラー23と、カメラ22をワイヤ列3Aの走行方向(X方向)にスライドさせるスライド機構24と、カメラ22の撮影領域内に設置され、ワイヤ列3Aの平行度の基準となるX方向の基準線をカメラ22の撮影画像内に定義する基準部材25とを備えている。
【0039】
カメラ22は画像処理装置としてのコンピュータ30に接続されており、ワイヤ列3A及び基準部材25が映り込んだカメラ22の撮影画像はコンピュータ30に送られる。コンピュータ30は例えばパーソナルコンピュータであり、PC本体、ディスプレイ31、キーボード、マウスなどの周知の構成を有する。コンピュータ30は、ワイヤソー1の動作を制御するコンピュータと同じものであってもよく、別のものであってもよい。
【0040】
スライド機構24はベースプレート21に固定されており、カメラ22はスライド機構24を介してベースプレート21に取り付けられている。図5中の矢印D2で示すように、カメラ22はスライド機構24によってX方向に移動可能である。そのため、X方向の任意の位置でワイヤ列3Aを撮影することができ、ワイヤ列3Aの長さ(ガイドローラ2a,2b間の距離)が異なる様々なタイプ(サイズ)のワイヤソーに適用することができる。
【0041】
基準部材25はX方向に細長い略長方形の平板であり、ベースプレート21から下方に伸びるアーム26の下端部に固定されている。基準部材25の長辺はX方向と平行であり、長辺のエッジライン25e(図6(a)及び(b)参照)がワイヤ列3Aの平行度の基準線として使用される。基準部材25の変形を防止して基準線の信頼性を高めるため、基準部材25の材料はタングステン等を主成分とした超硬合金であることが好ましい。これにより、基準部材25の変形を防止して基準線の信頼性を高めることができる。
【0042】
図6(a)及び(b)は、ワイヤ列3Aの平行度を測定する際のカメラ22の位置を説明するための図であって、図6(a)は第1撮影領域を撮影する際のカメラ22の位置、図6(b)は第2撮影領域を撮影する際のカメラ22の位置をそれぞれ示している。
【0043】
図6(a)及び(b)に示すように、ワイヤ列3Aの平行度の測定時には、測定装置20を用いて、ワイヤ列3Aの一方の端部寄りに設定された第1撮影領域R1と、他方の端部寄りに設定された第2撮影領域R2をそれぞれ撮影する。例えば、図6(a)に示すように、一方のガイドローラ2aの近くまでカメラ22を移動させた後、第1撮影領域R1の撮影を行う。その後、図6(b)に示すように、他方のガイドローラ2bの近くまでカメラ22を移動させた後、第2撮影領域R2の撮影を行う。
【0044】
図7(a)及び(b)は、ワイヤ列3Aの平行度の測定方法を説明するための模式図であって、図7(a)は第1撮影領域R1の撮影画像(第1画像)、図7(b)は第2撮影領域R2の撮影画像(第2画像)をそれぞれ示している。
【0045】
図7(a)及び(b)に示すように、ワイヤ列3Aの平行度の評価では、第1撮影領域R1と第2撮影領域R2の各々において、基準部材25によって定義される基準線Lから直近のワイヤ3までの線間距離d1、d2をそれぞれ求める。平行度が悪いワイヤ列3Aであってもそれを拡大して見たときには、ワイヤ列3Aは基準線Lと平行であるが、線間距離d1と線間距離d2が異なる。そこで、第1撮影領域R1における第1線間距離d1と第2撮影領域R2における第2線間距離d2との差Δd=|d1-d2|を求め、この線間距離差Δdをワイヤ列3Aの平行度の評価指標とする。そして、得られた線間距離差Δdが例えば60μm以下(Δd≦60μm)の場合には再調整が不要、60μmよりも大きい(Δd>60μm)場合には再調整が必要と判定する。
【0046】
カメラ22の撮影画像はコンピュータ30に送られる。コンピュータ30にはカメラ22の撮影画像を処理するアプリケーションプログラムがインストールされており、当該アプリケーションプログラムは第1撮影領域R1及び第2撮影領域R2で撮影された画像を処理して線間距離差Δdを自動計算し、計算結果は撮影画像と共にディスプレイ31に表示される。すなわち、コンピュータ30のディスプレイ31には、第1撮影領域R1の撮影画像(第1画像61)及び第2撮影領域R2の撮影画像(第2画像62)と共に、第1線間距離d1、第2線間距離d2、線間距離差Δdの各値が表示される。
【0047】
ワイヤ列3Aの平行度の再調整は、ガイドローラ2a,2bのどちらか一方の軸方向(Y方向)の位置をずらすことにより行うことができる。例えば図3(b)に示すように、ガイドローラ2bを矢印D1の方向にオフセットすることにより、ワイヤ列3Aの平行度が高められる。図4に示すように、ガイドローラ2a,2bの各々はスピンドル軸40に軸支されており、スピンドル軸40は固定ナット(不図示)によってワイヤソーの装置筐体50に固定されている。そのため、ガイドローラ2a又は2bの軸方向の位置を調整する場合には、まずワイヤソーのカバーを取り外した後、スピンドル軸40の固定ナットを緩め、スピンドル軸40の前側に設けられた回転調整機構を調整する。回転調整機構を回転させるとスピンドル軸40が軸方向にわずかに移動するので、線間距離差Δdが例えば±60μm以内に収まるように、計測結果に基づいてスピンドル軸40を調整する。その後、固定ナットを締めてスピンドル軸40を再び固定する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によるワイヤソー1の測定装置20は、ワイヤ列3Aを真上から撮影するカメラ22と、カメラ22をワイヤ列3Aの延在方向(X方向)に沿って移動させるスライド機構24と、カメラ22の撮影画像に写り込む位置に設けられ、ワイヤ列3Aの平行度の基準となる基準線Lを撮影画像内に定義する基準部材25とを備え、カメラ22は、ワイヤ列3Aの一方の端部寄りの第1撮影領域R1でワイヤ列3A及び基準部材25を含む第1画像61を撮影すると共に、ワイヤ列3Aの他方の端部寄りの第2撮影領域R2でワイヤ列3A及び基準部材25を含む第2画像62を撮影し、第1画像61を処理して基準線Lから直近のワイヤまでの第1線間距離d1を算出し、第2画像62を処理して基準線Lから直近のワイヤまでの第2線間距離d2し、線間距離差Δd=|d1-d2|をワイヤ列3Aの平行度指標として算出するので、ワイヤ列3Aの平行度を簡単かつ高精度に計測してその適否を判断することができる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0050】
例えば、上記実施形態においては、ワーク10が単結晶シリコンである場合を例に挙げたが、本発明は単結晶シリコンに限定されず、ワイヤソーを用いてスライス加工される種々のワークを対象とすることができる。
【0051】
また上記実施形態においては、3つのガイドローラ2a,2bにワイヤ3を掛け渡す2軸タイプのワイヤソーを例に挙げたが、本発明はこのような構成に限定されず、3つのガイドローラ間にワイヤ3を掛け渡す3軸タイプであってもよく、あるいは4つ以上のガイドローラ間にワイヤ3を掛け渡す構成であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 ワイヤソー
2a,2b ガイドローラ
3 ワイヤ
3A ワイヤ列
4a,4b ノズルユニット
5a,5b ワイヤリール
6a 繰り出しローラ
6b 巻き取りローラ
7 昇降装置
7A クランプユニット
8 ワークプレート
8a 取付軸線
8b,8c ワークプレートの側面
8d ワークプレートの取付面
9 スライス台
10 ワーク
12 結晶方位
13 中心軸線
20 測定装置
21 ベースプレート
22 カメラ
23 ミラー
24 スライド機構
25 基準部材
25e エッジライン
26 アーム
30 コンピュータ
31 ディスプレイ
40 スピンドル軸
50 装置筐体
61 第1画像
62 第2画像
L 基準線
d1 線間距離(第1線間距離)
d1 線間距離(第2線間距離)
Δd 線間距離差
α 回転角度
β 傾斜角度
γ 傾斜角度
θ 傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7