(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003336
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240105BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240105BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 F
G01N1/28 W
G01N1/28 T
G01N1/28 X
G01N1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102409
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】梁取 大
(72)【発明者】
【氏名】谷池 誠司
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041FA02
2G041FA30
2G041LA08
2G052AA13
2G052AA40
2G052AB27
2G052AC28
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD42
2G052DA12
2G052DA23
2G052DA33
2G052EB01
2G052EB11
2G052FD07
2G052FD09
2G052GA24
2G052JA07
2G052JA11
2G052JA18
(57)【要約】
【課題】半導体ウェーハに含まれる不純物の分析において、半導体ウェーハの不純物濃度を精度良く測定することのできる半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具を提供する。
【解決手段】半導体ウェーハWの主面を除去していない第1の試験片SL1と、前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に所定の深さ除去した第2の試験片SL2とを作成するステップと、前記第1の試験片と前記第2の試験片に対し密閉空間で気相分解を行うステップと、気相分解した前記第1の試験片と前記第2の試験片とを溶液とし、それぞれ液体試料を形成するステップと、前記2つの液体試料に対し、それぞれ質量分析を行うステップと、前記2つの液体試料に対する質量分析の結果の差分から不純物濃度を測定するステップと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方向に同面積で複数形成され、厚さ方向に貫通する第1の開口を備える上部治具と、前記第1の開口の位置に合わせて形成され、厚さ方向に貫通する複数の第2の開口を備える下部治具との間に半導体ウェーハを挟むステップと、
複数の前記第1の開口の一つにエッチング液を入れ、該第1の開口に面する半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に除去するステップと、
複数の有底孔を有する蒸発皿の上に、前記複数の第2の開口の位置を合わせて前記下部治具を配置するステップと、
前記半導体ウェーハを挟んだ前記上部治具と前記下部治具とを前記蒸発皿とともに密閉容器内に配置し、前記密閉容器の底部に試料分解用溶液を入れ、前記密閉容器を加温して前記第1の開口に面する半導体ウェーハを気相分解するステップと、
前記気相分解により前記蒸発皿に回収された試料から形成した、半導体ウェーハの主面がエッチングされていない第1の液体試料と、半導体ウェーハの主面の一部がエッチングにより除去された第2の液体試料とについて質量分析測定を行うステップと、
前記第1、第2の液体試料の測定結果の差分に基づき、エッチングにより除去された半導体ウェーハの表層の不純物分濃度を算出するステップと、
を備えることを特徴とする半導体ウェーハの不純物測定方法。
【請求項2】
面方向に同面積で複数形成され、厚さ方向に貫通する第1の開口を備える上部治具と、前記第1の開口の位置に合わせて形成され、厚さ方向に貫通する複数の第2の開口を備える下部治具との間に半導体ウェーハを挟むステップと、
複数の前記第1の開口の一つにエッチング液を入れ、該第1の開口に面する半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第1の深さだけ除去するステップと、
複数の前記第1の開口の他の一つにエッチング液を入れ、該第1の開口に面する半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第2の深さだけ除去するステップと、
複数の有底孔を有する蒸発皿の上に、前記複数の第2の開口の位置を合わせて前記下部治具を配置するステップと、
前記半導体ウェーハを挟んだ前記上部治具と前記下部治具とを前記蒸発皿とともに密閉容器内に配置し、前記密閉容器の底部に試料分解用溶液を入れ、前記密閉容器を加温して前記第1の開口に面する半導体ウェーハを気相分解するステップと、
前記気相分解により前記蒸発皿に回収された試料から形成した、半導体ウェーハの主面の一部が第1の深さだけ除去された第1の液体試料と、半導体ウェーハの主面の一部が第2の深さだけ除去された第2の液体試料とについて質量分析測定を行うステップと、
前記第1、第2の液体試料の測定結果の差分に基づき、半導体ウェーハの表層の不純物分濃度を算出するステップと、
を備えることを特徴とする半導体ウェーハの不純物測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の半導体ウェーハの不純物測定方法に用いられ、底部に試料分解用溶液が入れられた密閉容器内に配置され、半導体ウェーハの気相分解に用いられる不純物測定用治具であって、
面方向に同面積で複数形成され、厚さ方向に貫通する第1の開口を備える上部治具と、
複数の前記第1の開口の位置に合わせて形成され、厚さ方向に貫通する複数の第2の開口を有し、前記上部治具との間で半導体ウェーハを挟む下部治具と、
前記第2の開口の位置に合わせて形成された複数の有底孔を有する蒸発皿とを備え、
前記上部治具の第1の開口は、前記半導体ウェーハに対し、任意の深さがエッチングされた試料の形成に用いられるとともに、前記試料分解用溶液の揮発による該第1の開口に面する半導体ウェーハの気相分解に用いられ、気相分解された試料が前記蒸発皿の有底孔に回収されることを特徴とする不純物測定用治具。
【請求項4】
半導体ウェーハに含まれる不純物の分析を行う半導体ウェーハの不純物測定方法であって、
前記半導体ウェーハの主面を除去していない第1の試験片と、前記第1の試験片と同面積であって、前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に所定の深さ除去した第2の試験片とを作成するステップと、
前記第1の試験片と前記第2の試験片に対し密閉空間で気相分解を行うステップと、
気相分解した前記第1の試験片と前記第2の試験片とを溶液とし、それぞれ液体試料を形成するステップと、
前記2つの液体試料に対し、それぞれ質量分析を行うステップと、
前記2つの液体試料に対する質量分析の結果の差分から不純物濃度を測定するステップと、
を備えることを特徴とする半導体ウェーハの不純物測定方法。
【請求項5】
半導体ウェーハに含まれる不純物の分析を行う半導体ウェーハの不純物測定方法であって、
前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第1の深さだけ除去した第1の試験片と、前記第1の試験片と同面積であって、前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第2の深さだけ除去した第2の試験片とを作成するステップと、
前記第1の試験片と前記第2の試験片に対し密閉空間で気相分解を行うステップと、
気相分解した前記第1の試験片と前記第2の試験片とを溶液とし、それぞれ液体試料にするステップと、
前記2つの液体試料に対し、それぞれ質量分析を行うステップと、
前記2つの液体試料に対する質量分析の結果の差分から不純物濃度を測定するステップと、
を備えることを特徴とする半導体ウェーハの不純物測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハに含まれる金属不純物の濃度を測定する半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコンウェーハ及び結晶の品質管理において、シリコンウェーハに含まれる金属不純物を原子吸光光度計、ICP発光分析計、またはICP質量分析計にて測定し、分析することが行われている。
例えば、シリコンウェーハに含まれる金属不純物の深さ方向の分析を評価する際には、エッチングにより表層部を除去し、その部分に含まれる金属不純物を測定している。
【0003】
特許文献1(特開平7-333121号公報)には、密閉空間系を構成する密閉収容器内に、珪素質分析試料(シリコンウェーハの試料)を載置した分析試料容器(蒸発皿)及び試料分解用溶液(フッ化水素酸と硝酸の混酸)を、それぞれ接触させることなく隔離状態で収納した後、前記密閉収容器を加温し、珪素質分析試料を分解昇華(気相分解)させ、該分析試料容器内の残存物を回収し、これを分析することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2007-208198号公報)には、半導体基板の主面を、開口を有する保護板でマスクし、前記保護板の開口内にエッチング液で満たし、前記半導体基板の表層をエッチングする第1の工程と、前記エッチング液を回収し(液相分解し)、半導体基板の表層中の不純物を分析する第2の工程とを有する不純物分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-333121号公報
【特許文献2】特開2007-208198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるように密閉容器内において、試料分解用溶液(フッ化水素酸と硝酸の混酸)による試料の気相分解を行う場合、試料の分解残渣は残り難いが、分解残渣が残った場合には、検出感度が低下するという課題があった。
また、特許文献2に開示されるようにエッチング液による液相分解を行う場合、酸薬液に含まれる金属不純物が試料溶液中に残り、検出の精度が悪化するという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情のもとになされたものであり、半導体ウェーハに含まれる不純物の分析において、半導体ウェーハの不純物濃度を精度良く測定することのできる半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法は、面方向に同面積で複数形成され、厚さ方向に貫通する第1の開口を備える上部治具と、前記第1の開口の位置に合わせて形成され、厚さ方向に貫通する複数の第2の開口を備える下部治具との間に半導体ウェーハを挟むステップと、複数の前記第1の開口の一つにエッチング液を入れ、該第1の開口に面する半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に除去するステップと、複数の有底孔を有する蒸発皿の上に、前記複数の第2の開口の位置を合わせて前記下部治具を配置するステップと、前記半導体ウェーハを挟んだ前記上部治具と前記下部治具とを前記蒸発皿とともに密閉容器内に配置し、前記密閉容器の底部に試料分解用溶液を入れ、前記密閉容器を加温して前記第1の開口に面する半導体ウェーハを気相分解するステップと、前記気相分解により前記蒸発皿に回収された試料から形成した、半導体ウェーハの主面がエッチングされていない第1の液体試料と、半導体ウェーハの主面の一部がエッチングにより除去された第2の液体試料とについて質量分析測定を行うステップと、前記第1、第2の液体試料の測定結果の差分に基づき、エッチングにより除去された半導体ウェーハの表層の不純物分濃度を算出するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0009】
或いは、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法は、面方向に同面積で複数形成され、厚さ方向に貫通する第1の開口を備える上部治具と、前記第1の開口の位置に合わせて形成され、厚さ方向に貫通する複数の第2の開口を備える下部治具との間に半導体ウェーハを挟むステップと、複数の前記第1の開口の一つにエッチング液を入れ、該第1の開口に面する半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第1の深さだけ除去するステップと、複数の前記第1の開口の他の一つにエッチング液を入れ、該第1の開口に面する半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第2の深さだけ除去するステップと、複数の有底孔を有する蒸発皿の上に、前記複数の第2の開口の位置を合わせて前記下部治具を配置するステップと、前記半導体ウェーハを挟んだ前記上部治具と前記下部治具とを前記蒸発皿とともに密閉容器内に配置し、前記密閉容器の底部に試料分解用溶液を入れ、前記密閉容器を加温して前記第1の開口に面する半導体ウェーハを気相分解するステップと、前記気相分解により前記蒸発皿に回収された試料から形成した、半導体ウェーハの主面の一部が第1の深さだけ除去された第1の液体試料と、半導体ウェーハの主面の一部が第2の深さだけ除去された第2の液体試料とについて質量分析測定を行うステップと、前記第1、第2の液体試料の測定結果の差分に基づき、半導体ウェーハの表層の不純物分濃度を算出するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0010】
このような方法によれば、半導体ウェーハを劈開する必要がないため、容易に金属不純物の測定を行うことができる。
また、半導体ウェーハを気相分解するため、薬液に含まれる不純物の影響を受けず、液相分解による分析方法と比べて、検出感度を向上することができる。また、密閉空間において気相分解を行うため分解残渣が残りにくく、同一の半導体ウェーハから得た2つの試料に対し、同一処理空間内かつ同一条件下で気相分解するため、精度の高い測定結果を得ることができる。また、エッチングによる除去量を調節することで測定する深さを任意に設定することができる。
【0011】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る不純物測定用治具は、前記半導体ウェーハの不純物測定方法に用いられ、底部に試料分解用溶液が入れられた密閉容器内に配置され、半導体ウェーハの気相分解に用いられる不純物測定用治具であって、面方向に同面積で複数形成され、厚さ方向に貫通する第1の開口を備える上部治具と、複数の前記第1の開口の位置に合わせて形成され、厚さ方向に貫通する複数の第2の開口を有し、前記上部治具との間で半導体ウェーハを挟む下部治具と、前記第2の開口の位置に合わせて形成された複数の有底孔を有する蒸発皿とを備え、前記上部治具の第1の開口は、前記半導体ウェーハに対し、任意の深さがエッチングされた試料の形成に用いられるとともに、前記試料分解用溶液の揮発による該第1の開口に面する半導体ウェーハの気相分解に用いられ、気相分解された試料が前記蒸発皿の有底孔に回収されることに特徴を有する。
【0012】
或いは、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法は、半導体ウェーハに含まれる不純物の分析を行う半導体ウェーハの不純物測定方法であって、前記半導体ウェーハの主面を除去していない第1の試験片と、前記第1の試験片と同面積であって、前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に所定の深さ除去した第2の試験片とを作成するステップと、前記第1の試験片と前記第2の試験片に対し密閉空間で気相分解を行うステップと、気相分解した前記第1の試験片と前記第2の試験片とを溶液とし、それぞれ液体試料を形成するステップと、前記2つの液体試料に対し、それぞれ質量分析を行うステップと、前記2つの液体試料に対する質量分析の結果の差分から不純物濃度を測定するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0013】
このような方法によれば、試験片を気相分解するため、薬液に含まれる不純物の影響を受けず、液相分解による分析方法と比べて、検出感度を向上することができる。また、密閉空間において試験片の気相分解を行うため分解残渣が残りにくく、同一の半導体ウェーハから得た2つの試料に対し、同一処理空間内かつ同一条件下で気相分解するため、精度の高い測定結果を得ることができる。また、エッチングによる除去量を調節することで測定する深さを任意に設定することができる。
【0014】
或いは、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法は、半導体ウェーハに含まれる不純物の分析を行う半導体ウェーハの不純物測定方法であって、前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第1の深さだけ除去した第1の試験片と、前記第1の試験片と同面積であって、前記半導体ウェーハの主面の一部を厚さ方向に第2の深さだけ除去した第2の試験片とを作成するステップと、前記第1の試験片と前記第2の試験片に対し密閉空間で気相分解を行うステップと、気相分解した前記第1の試験片と前記第2の試験片とを溶液とし、それぞれ液体試料にするステップと、前記2つの液体試料に対し、それぞれ質量分析を行うステップと、前記2つの液体試料に対する質量分析の結果の差分から不純物濃度を測定するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0015】
このような方法によれば、2つの試料のエッチング深さを任意の異なる位置にすることにより、任意の深さ範囲における金属不純物の濃度を測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体ウェーハに含まれる不純物の分析において、半導体ウェーハの不純物濃度を精度良く測定することのできる半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法の第1の実施の形態に用いる処理容器の模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第1の実施の形態の流れを示すフローである。
【
図3】
図3は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第2の実施の形態の流れを示すフローである。
【
図4】
図4は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第2の実施の形態を説明するための半導体ウェーハの模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第2の実施の形態において試料の気相分解に用いる処理容器の模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第3の実施の形態の流れを示すフローである。
【
図7】
図7は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第3の実施の形態を説明するための半導体ウェーハの模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、実施例の結果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具について図面を用いながら説明する。ただし、本発明の一例として本実施形態を説明するものであり、本発明はこれに限定されるものではない。また、本実施形態においては、シリコンウェーハを用いて説明するが、シリコンウェーハに限定されず、SiCウェーハやGaNウェーハ等の半導体ウェーハであっても良い。以下に説明する半導体ウェーハの不純物測定方法は、シリコンウェーハの表層部分に含まれる金属不純物を分析するものである。
【0019】
最初に、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法の第1の実施の形態について説明する。本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法の第1の実施の形態では、
図1に示す処理容器20を用いる。
図1に示す処理容器20は、内部空間を有し上方が開口する下側外筒管21と、下方が開口し、下端内周部が下側外筒管21の上端外周部に例えば螺合により嵌合する上側外筒管22とを備える。下側外筒管21の底部中央には、載置台21aが配置されている。
載置台21aの上には、複数の有底孔23aを有する蒸発皿23が載置され、この蒸発皿23の上には、ウェーハ治具30が載置されるように構成されている(蒸発皿23とウェーハ治具30とにより本発明の不純物測定用治具が構成される)。
【0020】
ウェーハ治具30は、下側治具31と上側治具32とからなり、それらの間にシリコンウェーハWを挟み込むように構成されている。また、下側治具31と上側治具32には、蒸発皿23の有底孔23aの位置に合わせて、上下に貫通し、同面積に形成された複数の開口31a(第1の開口)、32a(第2の開口)がそれぞれ形成されている。
【0021】
図2は、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法の第1の実施の形態の流れを示すフローである。
先ず、ウェーハ治具30にシリコンウェーハWを挟み込み、上側治具32の複数の開口32aからフッ化水素酸と硝酸の混酸を滴下し、エッチングを行う。このとき、例えば2つの開口32aからそれぞれフッ化水素酸と硝酸の混酸を入れ(滴下し)、それら2つの各開口32aに対応する領域におけるエッチングの深さは、互いに異なる任意の深さとなるように設定する(
図2のステップSt1)。
【0022】
次いで、
図1に示すようにシリコンウェーハWを挟んだウェーハ治具30を処理容器20内の蒸発皿23上に配置する(
図2のステップSt2)。このとき、ウェーハ治具30の開口31a、32aと、蒸発皿23の有底孔23aの位置を合わせて配置する。
また、下側外筒管21の底部にフッ化水素酸と硝酸の混合液2(試料分解用溶液)を入れ、処理容器20を例えば150℃のホットプレート10上で48時間加熱し、気相分解処理を行う(
図2のステップSt3)。即ち、フッ化水素酸と硝酸の混合液2(HF+HNO
3)が揮発し、HF+HNO
3の気化した気相がウェーハ治具30の開口32aからシリコンウェーハWの上面に接触する。シリコンウェーハWの珪素(Si)質は、ケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)や四フッ化珪素(SiF
4)として昇華する。昇華したケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)や四フッ化珪素(SiF
4)は、フッ化水素酸と硝酸の混合液2(HF+HNO
3)に吸収され、蒸発皿23の複数の有底孔23aには、それぞれ金属不純物が残存する。
【0023】
続けて蒸発皿23を取り出して、150℃のホットプレート上で乾燥するまで加熱し、各有底孔23aに1%硝酸1mlを入れて定容する(
図2のステップSt4)。
そして、各有底孔23aの定容溶液(第1の液体試料、第2の液体試料)をICP-MS等でそれぞれ測定し、例えば任意の2つの有底孔23aの定容溶液の測定値の差から、エッチングの差分に対応するウェーハ表層部分の金属不純物濃度を評価する(
図2のステップSt5)。
【0024】
このように本発明に係る第1の実施の形態によれば、シリコンウェーハWを劈開する必要がないため、容易に金属不純物の測定を行うことができる。また、シリコンウェーハを部分的に気相分解するため、薬液に含まれる不純物の影響を受けず、液相分解による分析方法と比べて、検出感度を向上することができる。また、エッチングによる除去量を調節することで測定深さを任意に設定できる。
【0025】
尚、第1の実施の形態においては、エッチングの深さの互いに異なる領域の気相分解を行い、それら2つの試料の測定値の差から金属不純物濃度を求めるものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、エッチングしていない領域とエッチングした領域の気相分解を行い、それら2つの試料の測定値の差から金属不純物濃度を求めるようにしてもよい。
【0026】
続いて、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法の第2の実施の形態について説明する。
図3は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第2の実施の形態の流れを示すフローである。
図4は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第2の実施の形態を説明するための半導体ウェーハの模式的な断面図である。
【0027】
先ず、
図4(a)に示す厚さTのシリコンウェーハWの主面W1に対し、
図4(b)に示すように一部の領域Ar1をエッチングにより任意の深さy1に形成する(
図3のステップS1)。エッチングには、例えば、フッ化水素酸と硝酸の混酸を用いる。
次に、
図4(c)に示すようにシリコンウェーハWを劈開し、
図4(d)に示すようにエッチングしていない試験片SL1(第1の試験片)と、エッチングした試験片SL2(第2の試験片)とを作成する(
図3のステップS2)。試験片SL1と試験片SL2とは、ウェーハ面方向において同面積である。
【0028】
尚、前記のステップS1とステップS2との順番を逆にしてもよい。即ち、ステップS1のエッチングを行う前に、シリコンウェーハWを劈開して試験片SL1、SL2を取り出し、試験片SL2の主面W1側を例えばフッ化水素酸と硝酸の混酸でエッチングし、任意の深さ部分を除去してもよい。このようにしても、測定したい深さ部分が除去された試験片SL2及び除去されていない試験片SL1を作成することができる。
【0029】
次に、2つの試験片SL1、SL2をそれぞれ
図5の蒸発皿5に入れ、これら蒸発皿5を処理容器1内に配置する(
図3のステップS3)。この処理容器1内の底部に、フッ化水素酸と硝酸の混合液2を入れ、処理容器1を例えば150℃のホットプレート10上で48時間加熱する(
図3のステップS4)。これにより、試験片SL1、SL2を気相分解する。即ち、フッ化水素酸と硝酸の混合液2(HF+HNO
3)が揮発し、HF+HNO
3の気化した気相がシリコンウェーハの試験片SL1、SL2に接する。試験片SL1、SL2の珪素(Si)質は、ケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)や四フッ化珪素(SiF
4)として昇華する。昇華したケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)や四フッ化珪素(SiF
4)は、フッ化水素酸と硝酸の混合液2(HF+HNO
3)に吸収され、蒸発皿5内に金属不純物が残存する。
【0030】
続けて蒸発皿5を150℃のホットプレート上で乾燥するまで加熱し、1%硝酸1mlを入れて定容する(
図3のステップS5)。
そして、試験片SL1と試験片SL2の定容溶液をICP-MS等でそれぞれ質量分析し、試験片SL1と試験片SL2の測定値の差からエッチングにより除去しておいた表層部分の金属不純物濃度を評価する(
図3のステップS6)。
【0031】
このように本発明に係る第2の実施の形態によれば、試験片SL1、SL2を気相分解するため、薬液に含まれる不純物の影響を受けず、液相分解による分析方法と比べて、検出感度を向上することができる。また、密閉空間において試験片SL1、SL2の気相分解を行うため分解残渣が残りにくく、同一のシリコンウェーハWから得た試料SL1、SL2に対し、同一処理空間内かつ同一条件下で気相分解するため、精度の高い測定結果を得ることができる。また、エッチングによる除去量を調節することで測定する深さを任意に設定することができる。
【0032】
尚、前記した不純物測定方法について、劈開作業による汚染を除去するために、劈開後に例えばフッ化水素酸と硝酸の混酸で試験片SL1、SL2を同程度、両面エッチングしても構わない。
【0033】
続いて、本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法の第3の実施の形態について説明する。
図6は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第3の実施の形態の流れを示すフローである。
図7は、本発明の半導体ウェーハの不純物測定方法の第3の実施の形態を説明するための半導体ウェーハの模式的な断面図である。
【0034】
先ず、
図7(a)に示す厚さTのシリコンウェーハWの主面W1に対し、
図7(b)に示すように一部の領域Ar2をエッチングにより任意の深さy3に形成し、領域Ar2とは別の領域Ar3をエッチングにより例えば深さy3より深い深さy4に形成する(
図6のステップSp1)。エッチングには、例えば、フッ化水素酸と硝酸の混酸を用いる。
次に、
図7(c)に示すようにシリコンウェーハWを劈開し、
図7(d)に示すように深さy3だけエッチングした試験片SL3(第1の試験片)と、深さy4だけエッチングした試験片SL4(第2の試験片)とを作成する(
図6のステップSp2)。試験片SL1と試験片SL2とは、ウェーハ面方向において同面積である。
【0035】
尚、前記のステップSp1とステップSp2との順番を逆にしてもよい。即ち、ステップSp1のエッチングを行う前に、シリコンウェーハWを劈開して試験片SL3、SL4を取り出し、試験片SL3の主面W1側を深さy1だけエッチングし、試験片SL4の主面W1側を深さy4だけエッチングしてもよい。このようにしても、測定したい深さ部分が除去された試験片SL3、SL4を作成することができる。
【0036】
次に、2つの試験片SL3、SL4を第1の実施の形態と同様に、それぞれ
図5の蒸発皿5に入れ、これら蒸発皿5を処理容器1内に配置する(
図6のステップSp3)。この処理容器1内の底部に、フッ化水素酸と硝酸の混合液2を入れ、処理容器1を例えば150℃のホットプレート10上で48時間加熱する(
図6のステップSp4)。これにより、試験片SL3、SL4を気相分解する。即ち、フッ化水素酸と硝酸の混合液2(HF+HNO
3)が揮発し、HF+HNO
3の気化した気相がシリコンウェーハの試験片SL3、SL4に接する。試験片SL3、SL4の珪素(Si)質は、ケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)や四フッ化珪素(SiF
4)として昇華する。昇華したケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)や四フッ化珪素(SiF
4)は、フッ化水素酸と硝酸の混合液2(HF+HNO
3)に吸収され、蒸発皿5内に金属不純物が残存する。
【0037】
続けて蒸発皿5を150℃のホットプレート上で乾燥するまで加熱し、1%硝酸1mlを入れて定容する(
図6のステップSp5)。
そして、試験片SL3と試験片SL4の定容溶液をICP-MS等でそれぞれ質量分析し、試験片SL3と試験片SL4の測定値の差からエッチングにより除去しておいた表層部分の金属不純物濃度を評価する(
図6のステップSp6)。
【0038】
このように本発明に係る第3の実施の形態によれば、試料SL3、SL4のエッチング深さを任意の異なる位置にすることにより、任意の深さ範囲における金属不純物の濃度を測定することができる。
また、第2の実施の形態と同様に、試験片SL3、SL4を気相分解するため、薬液に含まれる不純物の影響を受けず、液相分解による分析方法と比べて、検出感度を向上することができる。また、密閉空間内において試験片SL3、SL4を気相分解するため分解残渣が残りにくく、同一のシリコンウェーハWから得た試料SL3、SL4に対し、同一処理空間内かつ同一条件下で気相分解するため、精度の高い測定結果を得ることができる。
【実施例0039】
本発明に係る半導体ウェーハの不純物測定方法及び不純物測定用治具について、実施例に基づきさらに説明する。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、サンプルとなるシリコンウェーハに対し、その主面上の一部に38%フッ酸と68%硝酸を体積比で1:4となるように混合した溶液を3ml滴下し、ウェーハ表層部を2分間エッチングした(計2回実施した)。
その後、シリコンウェーハの劈開を行い、エッチングした部分(厚さ:505μm)の試験片とエッチングしていない部分(厚さ:775μm)の試験片を約1gずつ準備した。
図5に示した処理容器1の各蒸発皿5に両試験片を入れ、また、処理容器1の底部に38%フッ酸150ml、及び68%硝酸50mlからなる混合液を入れた。
次いで、処理容器1を150℃のホットプレート10上で48時間加熱することで気相分解を行った。
その後、蒸発皿5を取り出し、150℃のホットプレート上で乾燥するまで加熱し、1%硝酸1mlを入れて定容した。定容した溶液は、ICP-MSで金属不純物の測定をした。
実施例1の結果を表1に示す。表1では、Fe、Na、Mgの測定結果を示している。
【0041】
【0042】
表1に示すように、エッチングした試験片からは、Feが5.8E11、Naが9.0E10、Mgが1.6E12atoms/cm3検出され、エッチングしていない試験片からは、Feが5.2E11、Naが2.4E11、Mgが2.9E12atoms/cm3検出された。
各試験片の金属不純物濃度及び厚さからエッチングにより除去された部分の金属不純物濃度を次式1により求めたところ、Feが3.9E11atoms/cm3で、Naが5.4E11atoms/cm3、Mgが5.2E12atoms/cm3であった。
【0043】
(式1)
エッチング除去部の金属不純物濃度=
((試験片Aの金属不純物濃度)×(試験片Aの厚さ)-(試験片Bの金属不純物濃度)×(試験片Bの厚さ))/((試験片Aの厚さ)-(試験片Bの厚さ))
【0044】
(実施例2)
実施例2では、サンプルとなるシリコンウェーハを
図1に示したウェーハ治具30で挟み、上側治具32の貫通孔32a一つに38%フッ酸と68%硝酸を体積比で1:4となるように混合した溶液を3ml滴下し、ウェーハ表層部を2分間エッチングした(計2回実施した)。
その後、下側外筒管21の底部に38%フッ酸150ml及び68%硝酸50mlからなる混合液をいれ、混合液に接触しないように蒸発皿23及びウェーハ治具30を設置した。
次いで、処理容器20を150℃ホットプレート10上で48時間加熱することで気相分解を行った。
その後、蒸発皿23を取り出し、150℃のホットプレート上で乾燥するまで加熱し、1%硝酸1mlを入れて定容した。定容した溶液は、ICP-MSで金属不純物の測定をした。
実施例2の結果を表2に示す。表2では、Fe、Na、Mgの測定結果を示している。
【0045】
【0046】
表2に示すように、エッチングした試験片からは、Feが5.8E11、Naが9.0E10、Mgが4.0E10atoms/cm3検出され、エッチングしていない試験片からは、Feが5.2E11、Naが9.0E10、Mgが4.0E10atoms/cm3検出された。
各試験片の金属不純物濃度及び厚さからエッチングにより除去された部分の金属不純物濃度を上記式1により求めたところ、Feが3.9E11atoms/cm3で、Naが9.0E10atoms/cm3、Mgが4.0E10atoms/cm3であった。
【0047】
(比較例1)
比較例1では、サンプルとなるシリコンウェーハに対し、その上に38%フッ酸と68%硝酸を体積比で1:4となるように混合した溶液を3ml滴下し、ウェーハ表層部を2分間エッチングした(計2回実施した)。
エッチング液を回収し、これに20%塩酸を5ml添加した状態で、蒸発皿に投入した。その後、蒸発皿を150℃のホットプレート上で乾燥するまで加熱し、1%硝酸1mlを入れて定容した。
そして、定容した溶液をICP-MSで金属不純物濃度を測定した。この比較例1の結果、Feが1.0E13、Naが1.0E13、Mgが1.0E13atoms/cm3検出された。
【0048】
実施例1、2、及び比較例1の結果を
図8の棒グラフに示す。
図8に示すように実施例1、2に比べ、比較例1では、金属不純物濃度が大きく高い値となった。これは、薬液中に含まれる金属不純物が測定されたものと考えられる。よって、本発明によれば、精度の高い不純物濃度の測定が可能であることを確認した。