(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033548
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】放射線治療システム、動き追跡装置、および動き追跡方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137185
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 凌峰
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝明
(72)【発明者】
【氏名】藤高 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 菊男
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE01
4C082AJ07
4C082AJ08
4C082AJ14
4C082AN02
4C082AP08
(57)【要約】
【課題】放射線を高精度で腫瘍に照射するための技術を提供する。
【解決手段】動き追跡装置は、患者の医用画像から、特定領域における、標的と、標的の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲートとの動きに関する情報である動き情報を抽出する医用画像抽出器と、動き情報に基づいて、標的と組織とサロゲートとの動きの相関関係を表す動きモデルを構築する動きモデル生成器と、患者に治療放射線を照射する治療中にサロゲートの動きを測定する動き検出器と、動きモデルとサロゲートの動きとに基づいて標的および組織の現在または将来の位置を推定する動き推定器と、予め定められた補正プロトコルに従って、治療中に、推定された標的および組織の位置を補正する動きモデル補正器と、を有する。治療制御装置は、推定された標的および組織の現在または将来の位置に基づいて、患者の標的に治療放射線を照射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の医用画像から、前記患者の特定領域における、治療放射線を照射する標的と、前記標的の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲートとの動きに関する情報である動き情報を抽出する医用画像抽出器と、前記動き情報に基づいて、前記標的と前記組織と前記サロゲートとの動きの相関関係を表す動きモデルを構築する動きモデル生成器と、前記患者に前記治療放射線を照射する治療中に前記サロゲートの動きを測定する動き検出器と、前記動きモデルと前記サロゲートの動きとに基づいて前記標的および前記組織の現在または将来の位置を推定する動き推定器と、予め定められた補正プロトコルに従って、前記治療中に、推定された前記標的および前記組織の位置を補正する動きモデル補正器と、を有する動き追跡装置と、
推定された前記標的および前記組織の現在または将来の位置に基づいて、前記患者の前記標的に前記治療放射線を照射するように構成された治療制御装置と、
を有する放射線治療システム。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記医用画像抽出器は、
前記標的、前記組織、および前記サロゲートの医用画像を第1のモダリティと第2のモダリティを含む複数のモダリティで取得し、
第1のモダリティの医用画像を第2のモダリティの医用画像に対してレジストレーションを行い、
レジストレーションされた第1のモダリティの医用画像を前記第2のモダリティの医用画像に結合し、
結合された医用画像から前記動き情報を抽出する、
放射線治療システム。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動きモデルは、前記特定領域における各ボクセルについての各位相における所定の呼吸相に対する動きを表す変形ベクトルを主成分分析により近似したベクトルで示すモデルである、
放射線治療システム。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き検出器は、前記患者の実時間医用画像を取得し、前記実時間医用画像から前記サロゲートの位置、速度、および/または加速度を取得する、
放射線治療システム。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き推定器は、前記特定領域内の各位置の参照すべき時刻における各ボクセルの相対位置を記述したベクトル場を生成し、前記ベクトル場を使用して、前記標的、前記組織の前記参照すべき時刻における位置を計算する、
放射線治療システム。
【請求項6】
請求項5に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き推定器は、取得された前記サロゲートの位置、速度、および/または加速度に基づいて前記サロゲートの動きを予測し、前記予測された前記サロゲートの動きを前記動きモデルに適用して、前記標的および前記組織の動きを予測する、
放射線治療システム。
【請求項7】
請求項6に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き推定器は、前記標的および前記組織の動きの予測に基づいて、前記特定領域の前記標的および前記組織の位置を記述するボリューム画像を合成する、
放射線治療システム。
【請求項8】
請求項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記補正プロトコルは、前記動き推定器により推定された前記標的および前記組織の位置に基づく合成医用画像と、前記医用画像抽出器で取得された実時間医用画像とを比較することにより、前記動きモデルの精度を特定し、前記精度が所定の閾値以下であれば、前記合成医用画像と前記実時間医用画像の差分に基づいて、前記動き推定器で推定された前記標的および前記組織の位置を補正することである、
放射線治療システム。
【請求項9】
患者の医用画像から、前記患者の特定領域における、治療放射線を照射する標的と、前記標的の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲートとの動きに関する情報である動き情報を抽出する医用画像抽出器と、
前記動き情報に基づいて、前記標的と前記組織と前記サロゲートとの動きの相関関係を表す動きモデルを構築する動きモデル生成器と、
前記患者に前記治療放射線を照射する治療中に前記サロゲートの動きを測定する動き検出器と、
前記動きモデルと前記サロゲートの動きとに基づいて前記標的および前記組織の現在または将来の位置を推定する動き推定器と、
予め定められた補正プロトコルに従って、前記治療中に、推定された前記標的および前記組織の位置を補正する動きモデル補正器と、
を有する動き追跡装置。
【請求項10】
患者の医用画像から、前記患者の特定領域における、治療放射線を照射する標的と、前記標的の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲートとの動きに関する情報である動き情報を抽出し、
前記動き情報に基づいて、前記標的と前記組織と前記サロゲートとの動きの相関関係を表す動きモデルを構築し、
前記患者に前記治療放射線を照射する治療中に前記サロゲートの動きを測定し、
前記動きモデルと前記サロゲートの動きとに基づいて前記標的および前記組織の現在または将来の位置を推定し、
予め定められた補正プロトコルに従って、前記治療中に、推定された前記標的および前記組織の位置を補正する、
動き追跡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は放射線治療に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療においては、高エネルギー電磁波や粒子などの電離放射線(以下、単に放射線ともいう)による治療ビームを腫瘍などの標的に向けて照射し、癌細胞を破壊する。そのため、標的に正確に治療ビームを照射することが重要である。しかし、患者が呼吸することにより身体が動いて標的の位置が変動し、治療ビームの照射精度に影響を及ぼす可能性がある。照射精度の低下は、健康な身体組織への過大照射(overdosage)あるいは標的への過小照射(underdosage)の原因となる。したがって、放射線治療における誤差や不確実性を低減するためには、身体の動きに対する管理が重要である。
【0003】
一般的に使用される動きの管理手法として、ブレスホールド(息止め法)、ゲーティング、モーショントラッキング(動体追跡法)などがある。息止め法については、すべての患者が処置の間、呼吸を止められるわけではないので、患者へ適用できる可能性は限定的である。ゲーティングでは、呼吸に伴う標的の動きに合わせて治療ビームがオンとオフで切り替わる。ゲーティングは、治療中にリアルタイムで標的の動きを追跡する動体追跡法と併用することができる。
【0004】
動体追跡法によりリアルタイムで標的の動きを追跡する1つの方法として、患者の体表面に外部マーカーを配置し、その外部マーカーを用いて標的の動きを追跡する方法がある。外部マーカーと標的の動きは、相関モデルにより関連づけられる。しかし、外部マーカーの動きは、標的の動きと常に変わらず相関しているわけではない。したがって、相関モデルは頻繁に更新する必要がある。また、外部マーカーによる標的の追跡精度の低下がしばしば起こる。
【0005】
動体追跡法によりリアルタイムで標的の動きを追跡する他の方法として、金属物質を体内に外科的に移植した内部指標マーカーを用いる方法がある。内部指標マーカーは、標的の動きをより正確に追跡することを可能にする。しかし、内部指標マーカーに基づく動体追跡では、高コントラストの画像を得るに体内に高密度の金属物質を移植する必要があり、以下のようなデメリットがある。第1に、内部指標マーカーには侵襲性があり、患者に対して(気胸などの)潜在的なリスクをもたらす。第2に、患者の体内で内部指標マーカーが移動し、追跡精度に影響を与える可能性がある。第3に、内部指標マーカーは、医用画像にアーチファクトを生じさせる可能性がある。
【0006】
一方、マーカーを用いず非侵襲的に、かつ、標的の動きを正確に追跡するための追跡手法が提案されている。通常、治療中に撮影される透視デジタルX線画像(Digital Radiography:DR)を使用して標的の位置を特定する。
【0007】
特許文献1および特許文献2には、デジタル再構成画像(digitally reconstructed radiographs:DRR)とDRとを照合することによって、マーカーを用いずに標的を追跡する方法が開示されている。
【0008】
特許文献1および特許文献2の双方には、DR上の標的よりも画像上でランドマークとして認識しやすい特徴的な部位であるサロゲートの使用についても言及されている。特許文献1には、変換パラメータを使用してサロゲートの運動から標的の運動を得る方法が記載されている。特許文献2には、機械学習を用いてサロゲートと標的との間の相関関係を作成し、その相関関係を利用する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、四次元CT画像(4DCT)を用いる手法が開示されている。最初に4DCTの画像に基づいて数学的モデルを構築する。次に、4DCTから生成されたDRRとDRともにその数学的モデルを用いて、標的の位置を特定する。この手法では、標的のほぼリアルタイムの位置が特定される。線量分布は、数学的モデルから取得することができる。
【0010】
また、非特許文献1に開示されている手法では、4DCT画像とMRI画像の両方を使用して動きモデルが構築される。複数のモダリティの医用画像を使用することで、より詳細な情報を動きモデルに組み込むことができる。サロゲートの動きを動きモデルに入力することで、ボリューム画像をほぼリアルタイムで合成できる。その合成されたボリューム画像を基に線量計算を実行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-144000号公報
【特許文献2】特開2021-166730号公報
【特許文献3】特許5134957号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Noemi Garau, Riccardo Via, Giorgia Meschini, Danny Lee, Paul Keal, Marco Riboldi, Guido Baroni and Chiara Paganelli, ” A ROI-based global motion model established on 4DCT and 2D cine-MRI data for MRI-guidance in radiation therapy,” Physics in Medicine and Biology, vol.64, no.4, pp.045002, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般に、マーカーレス追跡方法は、DRに依存して腫瘍の動きを直接追跡するものである。しかし、肝臓や膵臓などの身体の特定の部位の腫瘍については、DRのような画像上から腫瘍を直接見つけるために必要な良好なコントラスト画像を得ることは困難である。これにより、マーカーレス追跡の可用性が制限される。
【0014】
特許文献1および特許文献2の手法は、サロゲートを使用することによって、この問題を解決することを目指している。しかし、特許文献1で使用される変換パラメータは、DRR画像中の腫瘍とサロゲートとの間の関係に依存して治療中に変化し、腫瘍の位置を特定する精度が低下する可能性がある。また、特許文献2で使用される機械学習は一般に広範な訓練データを必要とし、得られるサロゲートと標的との相関関係は使用された訓練データセットに敏感なものとなる。
【0015】
また、粒子線治療(Particle Beam Therapy:PBT)においては、体内の粒子線通過領域内で解剖学的変化が起こると、粒子線の体内での飛程が変化する。そのため、腫瘍の周囲にある組織の動きが、粒子線の照射される範囲に大きく影響する可能性がある。しかし、特許文献1および特許文献2の手法では、高い精度を得るために重要である腫瘍の周囲にある組織の動きに関する情報を得ることができない。
【0016】
特許文献3および非特許文献1の手法はいずれも、標的のほぼリアルタイムの動きの推定を可能にするために、医療用断層撮影画像から構築された数学的な動きモデルを使用している。これらの方法は、腫瘍の周辺組織の動きに関する情報を取得することを可能にする。しかし、動きモデルは、医療用断層撮影画像が撮影された時点で確立した腫瘍とサロゲートとの相関関係を基に作成される。一方、腫瘍とサロゲートとの相関関係は、治療中にも変化する可能性がある。そのため、医療用断層撮影画像が撮影された時点の相関関係に基づく動きモデルではリアルタイムな動体の追跡において誤差が生じる可能性がある。
【0017】
更に上述した全ての方法には、レイテンシに起因する誤差の可能性がある。レイテンシは、DR画像が撮影される時刻と、推定された腫瘍位置に治療用ビームが送達される時刻との時間差である。このレイテンシが長すぎると、特に腫瘍が急速に動いている場合に追跡精度が大幅に低下する可能性がある。
【0018】
本開示に含まれるひとつの目的は、標的への治療放射線の照射の精度を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示のひとつの態様による放射線治療システムは、患者の医用画像から、患者の特定領域における、治療放射線を照射する標的と、標的の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲートとの動きに関する情報である動き情報を抽出する医用画像抽出器と、動き情報に基づいて、標的と組織とサロゲートとの動きの相関関係を表す動きモデルを構築する動きモデル生成器と、患者に治療放射線を照射する治療中にサロゲートの動きを測定する動き検出器と、動きモデルとサロゲートの動きとに基づいて標的および組織の現在または将来の位置を推定する動き推定器と、予め定められた補正プロトコルに従って、治療中に、推定された標的および組織の位置を補正する動きモデル補正器と、を有する動き追跡装置と、推定された標的および組織の現在または将来の位置に基づいて、患者の標的に治療放射線を照射するように構成された治療制御装置と、を有する。
【発明の効果】
【0020】
本開示のひとつの態様によれば、標的への治療放射線の照射の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】粒子線治療システムの一例を示す概念図である。
【
図3】粒子線治療システムが実行する全体処理の概略フローチャートである。
【
図4】動きモデルを構築する処理のフローチャートである。
【
図5】動きモデルを用いて推定結果を得る処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態による粒子線治療システムの一例を示す概念図である。
【0024】
粒子線治療システムは、治療プラットフォーム32に載置された患者43の腫瘍を標的40として、標的40に対して粒子線の治療ビームを照射するシステムである。粒子線治療システムは、動き追跡装置10、治療制御装置16、加速器20、ビーム搬送システム21、ガントリー22、一対のX線源30、およびX線画像検出器31を有する。
【0025】
動き追跡装置10は、標的40を含む関心領域(ROI:Region Of Interest)42における標的40とその周辺の組織とサロゲート41とについて、それらの動きを追跡し、将来の時刻における位置を推定し、推定結果を出力する装置である。サロゲート41は、画像上での特定が比較的容易な特徴的な部位である。
【0026】
図2は、患者を撮像する様子を示す図である。
図2には、
図1に示した回転軸23の方向から見た治療プラットフォーム32が示されている。
【0027】
X線源30a、30bは、患者43の身体を通過する撮像用のX線を患者のROI42に向けて放射する。X線画像検出器31a、31bは、X線源30a、30bから放射され、患者43のROI42を通過した撮像用のX線を検出し、デジタル放射線画像を作成する。デジタル放射線画像は、動き追跡装置10に送られ、動きを追跡する処理に利用される。
【0028】
治療制御装置16は、予め作成された治療計画と、動き追跡装置10による推定結果である標的および組織の現在または将来の位置とに基づいて、標的40に治療ビームを照射するように、加速器20、ビーム搬送システム21、およびガントリー22を制御する。
【0029】
加速器20は、荷電粒子を適切なエネルギーとなるまで加速し、治療放射線として出力する。加速器20から出力された治療放射線はビーム搬送システム21によってガントリー22に搬送される。ガントリー22は、ビーム搬送システム21によって搬送された治療放射線を治療ビームとして患者43に照射する。ガントリー22は、回転軸23を軸として患者43の周りを回転し、標的40である患者43の腫瘍に向けて様々な角度から治療ビームを照射することができる。
【0030】
動き追跡装置10は、ソフトウェアプログラムをプロセッサによって実行することにより動作するコンピュータであり、プロセッサがソフトウェアプログラムを実行することにより、
図1および
図2に示された、医用画像抽出器11、動きモデル生成器12、動き検出器13、動き推定器14、および動きモデル補正器15が実現される。
【0031】
医用画像抽出器11は、実際に患者43への治療放射線の照射を行う治療の前に予め不図示の医用画像サーバから患者43のデジタル放射線画像である医用画像を取得する。ここでの医用画像はCT(Computed Tomography)画像、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像、およびCBCT(Cone Beam CT)画像を意味する。医用画像抽出器11は、患者43の医用画像から、患者43の関心領域42における、治療放射線を照射する標的40と、その標的40の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲート41との動きに関する情報である動き情報を抽出する。
【0032】
動きモデル生成器12は、医用画像抽出器11により抽出された動き情報に基づいて、関心領域42における標的40と組織とサロゲート41との動きの相関関係を表す動きモデルを構築する。
【0033】
動き検出器13は、実際の治療中に、X線源30a、30bおよびX線画像検出器31a、31bにより得られる医用画像からサロゲート41の動きを測定する。
【0034】
動き推定器14は、動きモデル生成器12により生成された動きモデルと、動き検出器13により測定されたサロゲート41の動きとに基づいて、標的40およびその周辺の組織の現在または将来の位置を推定する。
【0035】
動きモデル補正器15は、予め定められた補正プロトコルに従って、治療中に、動き推定器14により推定された標的40およびその周辺の組織の位置を補正する。補正された標的40およびその周辺の組織の位置を示す推定結果は治療制御装置16に提供される。
【0036】
図3は、粒子線治療システムが実行する全体処理の概略フローチャートである。
【0037】
ステップ301では、医用画像抽出器11が、標的40、ROI42内の組織、およびサロゲート41の動き情報が医用画像から抽出される。ステップ302では、動きモデル生成器12が、ステップ301で抽出された動き情報を用いて動きモデルを構築する。ステップ301-302は治療前に行われる処理である。ステップ303以降は治療中に行われる処理である。ステップ303では、動き検出器13が、治療中に、DR画像を取得し、サロゲート41の位置、速度、および加速度の動き情報を取得する。ステップ304では、動き推定器14が、ステップ303で得られたサロゲート41の動き情報を、ステップ302で構築された動きモデルに適用し、標的40およびROI42における組織の位置を推定する。ステップ305では、動き推定器14が、ROI42のボリューム画像を合成する。このボリューム画像は線量の計算に使用することができる。
【0038】
ステップ306では、動きモデル補正器15が、ボリューム画像を使用して動きモデルの精度が許容できる程度に高いか否か判定する。動きモデルの精度が許容できる場合、動きモデル補正器15は、動き推定器14によるステップ304での推定結果を治療制御装置16に提供する。治療制御装置16は、提供された推定結果に基づいて標的40への治療ビームの照射を行う。動きモデルの精度が許容できない場合、動きモデル補正器15は、ステップ307にて、動き推定器14による推定結果を所定の補正プロトコルに従って補正し、治療制御装置16に提供する。
【0039】
図4は、動きモデルを構築する処理のフローチャートである。本処理は、
図3に示した全体処理におけるステップ301-302に対応する処理である。
【0040】
ステップ401では、医用画像抽出器11が、治療計画の段階で患者43の4DCT画像およびMRI画像の両方のモダリティの医用画像を取得する。4DCT画像は、治療計画のための重要な構造情報というだけでなく、患者43の呼吸運動に関する情報も提供する。MRI画像は、腫瘍の輪郭を改善し、軟部組織の優れたコントラストのために、身体の組織を検知するための補足的な構造情報を提供する。
【0041】
治療日には、通常、治療計画が行われる日とは異なるinter-fractional motion(治療期間中の身体状態の変化による身体組織の運動)が起こり、それが治療の精度に影響を与える可能性がある。4DCBCT画像は、治療当日に構造情報を得るために撮影される。
【0042】
ステップ402では、医用画像抽出器11は、inter-fractional motionの変化を考慮して、治療当日に撮影された4DCBCT画像に、以前に取得した4DCT画像をレジストレーションし、4DCT(補正済)が画像を生成する。
【0043】
ステップ403では、医用画像抽出器11は、以前に取得したMRI画像を4DCT(補正済)画像にレジストレーションし、4DCT+MRI(補正済)画像を生成する。4DCT+MRI(補正済)画像は、4DCTとMRIの両方からの情報を含むだけでなく、治療当日の患者43の状態を示す4DCBCT画像による補正をも含んだものとなる。
【0044】
ステップ404では、医用画像抽出器11は、4DCT+MRI(補正済)画像に、完全呼気時の位相(T50)の画像を基準位相の画像として用いて非剛体画像レジストレーション(DIR)を行う。すなわち、T50以外の呼吸位相の画像はすべて、このT50の呼吸位相に合わせるように非剛体画像レジストレーションされる。このレジストレーションにより、呼吸の間に身体のさまざまな部分がどのように動くかを定量的に記述した変形ベクトル場(Deformation vector field:DVF)が生成される。変形ベクトル場における各ボクセルの変形ベクトルは、当該ボクセルが各位相において基準となる呼吸位相に対してどのように動くかを表す。
【0045】
画像におけるボクセルの数が膨大であるため、すべてのボクセルについて個々に運動方程式を立てることは現実的ではない。そこで、ステップ405では、動きモデル生成器12は、主成分分析(Principal component analysis:PCA)を用いて、標的とROIでの組織の動きを近似的に説明する動きモデルを構築する。
【0046】
まず、動きモデル生成器12は、異なる呼吸相に対するROIの各ボクセルの変位ベクトルdjをDIR結果であるDVFから、式(1)に示すようにして抽出する。
【0047】
【数1】
ここで、u
m,jは、時間jにおけるボクセルmの変位ベクトルである(0<j<J、Jは、呼吸相の時間フレーム数)。Mは、ボクセルの総数である。
【0048】
次に、動きモデル生成器12は、式(2)に示す行列Dを構築する。
【0049】
【数2】
DD
Tは、動きに対応するデータの共分散行列を表す。したがって、主成分分析の原則によれば、DD
Tの固有ベクトルを最大の固有値(主ベクトル)とともに使用して、動きの主成分を表すことができる。各画像(M≒10
6)には何百万ものボクセルがあるので、DがM×J行列である固有ベクトルの共分散行列DD
Tを直接計算することは現実的ではない。そこで、XをD
TDの固有ベクトルとして、D
TDX=λXを満たす固有値λを取得する。
【0050】
【数3】
したがって、DXは共分散行列DD
Tの固有ベクトルであり、λはDD
TとD
TDの固有値である。行列D
TDは、J×J行列である。その固有ベクトルXは容易に計算することができる。
【0051】
主ベクトルが得られた後は、任意の時刻tの任意のボクセルの変位ベクトルdの近似を次の式(4)ように表すことができる。
【0052】
【数4】
ここで、e
kはj
k番目の主成分ベクトルである。w
kは、e
kのための未知の重みパラメータである。Kは使用される主成分ベクトルの総数である。重みパラメータw
kは、横隔膜運動などのサロゲートの動きを基に決定することができる。上記の方程式(4)は、2つの独立した方程式に分けることができ、行列表記で式(5)、(6)のように表すことができる。
【0053】
【数5】
ここでsは、サロゲートの変位ベクトルによって形成されるK×1行列であり、uは、ROIにおける他のすべてのボクセルの変位ベクトルによって形成されるJ×1行列である。E
sは、K個のサロゲートのK個の主成分ベクトルによって形成されるK×K行列である。K個のサロゲート座標はE
sが可逆になるように利用される。E
uはJ個のボクセルのK個の主ベクトルによって形成されるJ×K行列である。Wは、各主成分ベクトルに対する重みパラメータによって形成されるK×1行列である。Wを式(7)のように除去できる。
【0054】
【数6】
したがって、ROIにおける他のすべてのボクセルの動きとサロゲートの動きとを結びつける関係が得られる。式(7)は、時刻tにおけるサロゲートの変位を測定することにより、時間tにおける他のボクセルの変位ベクトルを推定できることを示している。サロゲートの将来の動きs(t’)から、ROIにおける他のボクセルu(t’)の将来の動きを予測することができる。
【0055】
図5は、動きモデルを用いて推定結果を得る処理のフローチャートである。本処理は、
図3に示したステップ303~308の処理に対応する処理である。
【0056】
ステップ501において、動き検出器13は、将来の時刻t’におけるサロゲートの動きを予測する。これは、例えば、将来の時刻t’におけるサロゲートの動き過去の時刻に取得されたサロゲートの速度および加速度を利用することによって算出することができる。ステップ502において、動き推定器14は、予測されたサロゲートの動きを動きモデルに入力する。
【0057】
ステップ503において、動き推定器14は、時刻t’における標的と組織の位置を取得することができる。このとき、時刻t’におけるROIのボリューム画像も動きモデルの出力から合成される。治療ビームが通過する領域の水等価厚(Water Equivalent Thickness:WET)がほぼリアルタイムで合成されたROIのボリューム画像を使用して計算することができる。ステップ504では、動き推定器14は、将来の時刻の合成されたボリューム画像から、デジタル再構成画像(DRR)を取得する。
【0058】
ステップ505では、動きモデル補正器15は、現在の時刻tにおいて、現在の時刻tについて以前に取得されたDRR画像と、現時点でのDR画像とを比較する。ステップ506において、動きモデル補正器15は、DRR(t)画像とDR(t)画像との一致の度合いを示すマッチングスコアを算出する。
【0059】
ステップ507では、動きモデル補正器15は、算出されたスコアを所定の閾値と比較することにより動きモデルを補正する必要があるか否か判断する。補正が必要な場合はステップ508に進み、補正が必要ない場合はステップ511に進む。ステップ508において、動きモデル補正器15は、DRR(t)画像とDR(t)画像との差異を用いて動きモデルを補正する。このような差異により、撮像角度毎の2つの2D DVFを得ることができる。
【0060】
ステップ509において、動きモデル補正器15は、撮像座標系と処置室座標系との間の変換パラメータを介して、2つの2D DVFを1つの3D DVF、すなわち3D DVF(補正用)に変換する。ステップ510では、動きモデル補正器15は、3D DVF(補正用)を用いて、将来の時刻t’におけるROIの予測される標的の位置とボリューム画像とを補正する。
【0061】
時刻t’と時刻tの間の間隔を短くすれば、より正確な補正が可能となる。時刻t’と時刻tの間の間隔が無視できるほど短い場合、リアルタイムと見なすことができる。ステップ511において、治療制御装置16は、時刻t’における合成された標的の位置およびボリューム画像に応じて標的に治療用放射線を照射する。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べてきたが、本発明は、これらの実施形態だけに限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内において、これらの実施形態を組み合わせて使用したり、一部の構成を変更したりしてもよい。
【0063】
また、上述した実施形態には以下に示す事項が含まれる。ただし、本実施形態に含まれる事項が以下に示すもののみに限定されることはない。
【0064】
(事項1)
放射線治療システムは、
患者の医用画像から、前記患者の特定領域における、治療放射線を照射する標的と、前記標的の周囲の組織と、特徴的な部位であるサロゲートとの動きに関する情報である動き情報を抽出する医用画像抽出器と、前記動き情報に基づいて、前記標的と前記組織と前記サロゲートとの動きの相関関係を表す動きモデルを構築する動きモデル生成器と、前記患者に前記治療放射線を照射する治療中に前記サロゲートの動きを測定する動き検出器と、前記動きモデルと前記サロゲートの動きとに基づいて前記標的および前記組織の現在または将来の位置を推定する動き推定器と、予め定められた補正プロトコルに従って、前記治療中に、推定された前記標的および前記組織の位置を補正する動きモデル補正器と、を有する動き追跡装置と、
推定された前記標的および前記組織の現在または将来の位置に基づいて、前記患者の前記標的に前記治療放射線を照射するように構成された治療制御装置と、
を有する。
【0065】
本事項によれば、治療中に推定および補正された将来の動きに基づいて、標的へ治療放射線を照射することができるので、標的へ治療放射線を正確に照射する精度を向上することができる。
【0066】
(事項2)
事項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記医用画像抽出器は、
前記標的、前記組織、および前記サロゲートの医用画像を第1のモダリティと第2のモダリティを含む複数のモダリティで取得し、
第1のモダリティの医用画像を第2のモダリティの医用画像に対してレジストレーションを行い、
レジストレーションされた第1のモダリティの医用画像を前記第2のモダリティの医用画像に結合し、
結合された医用画像から前記動き情報を抽出する。
【0067】
本事項によれば、複数のモダリティの画像を結合した医用画像から標的、組織、およびサロゲートの動き情報を抽出するので、精度の高い動きモデルを構築することができる。
【0068】
(事項3)
事項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動きモデルは、前記特定領域における各ボクセルについての各位相における所定の呼吸相に対する動きを表す変形ベクトルを主成分分析により近似したベクトルで示すモデルである。
【0069】
本事項によれば、膨大なボクセルの複雑な動きを主成分分析により容易に演算可能な動きモデルに表すことができる。
【0070】
(事項4)
事項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き検出器は、前記患者の実時間医用画像を取得し、前記実時間医用画像から前記サロゲートの位置、速度、および/または加速度を取得する。
【0071】
(事項5)
事項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き推定器は、前記特定領域内の各位置の参照すべき時刻における各ボクセルの相対位置を記述したベクトル場を生成し、前記ベクトル場を使用して、前記標的、前記組織の前記参照すべき時刻における位置を計算する。
【0072】
(事項6)
事項5に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き推定器は、取得された前記サロゲートの位置、速度、および/または加速度に基づいて前記サロゲートの動きを予測し、前記予測された前記サロゲートの動きを前記動きモデルに適用して、前記標的および前記組織の動きを予測する。
【0073】
(事項7)
事項6に記載の放射線治療システムにおいて、
前記動き推定器は、前記標的および前記組織の動きの予測に基づいて、前記特定領域の前記標的および前記組織の位置を記述するボリューム画像を合成する。
【0074】
(事項8)
事項1に記載の放射線治療システムにおいて、
前記補正プロトコルは、前記動き推定器により推定された前記標的および前記組織の位置に基づく合成医用画像と、前記医用画像抽出器で取得された実時間医用画像とを比較することにより、前記動きモデルの精度を特定し、前記精度が所定の閾値以下であれば、前記合成医用画像と前記実時間医用画像の差分に基づいて、前記動き推定器で推定された前記標的および前記組織の位置を補正することである。
【符号の説明】
【0075】
10…動き追跡装置、11…医用画像抽出器、12…動きモデル生成器、13…動き検出器、14…動き推定器、15…動きモデル補正器、16…治療制御装置、20…加速器、21…ビーム搬送システム、22…ガントリー、23…回転軸、30…X線源、31…X線画像検出器、32…治療プラットフォーム、40…標的、41…サロゲート、42…関心領域(ROI)、43…患者