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特開2024-33556ヘッドフォン用の圧電振動板の駆動回路と、この駆動回路を備えたヘッドフォンの駆動ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033556
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ヘッドフォン用の圧電振動板の駆動回路と、この駆動回路を備えたヘッドフォンの駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20240306BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H04R17/00
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137198
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】520148208
【氏名又は名称】クレバ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 大
(72)【発明者】
【氏名】金井 文彦
(72)【発明者】
【氏名】金井 大介
(72)【発明者】
【氏名】森山 信宏
(72)【発明者】
【氏名】宮原 信弘
【テーマコード(参考)】
5D004
5D220
【Fターム(参考)】
5D004AA02
5D004BB03
5D004CC02
5D004DD01
5D004FF01
5D220AA50
5D220AB04
(57)【要約】
【課題】 湾曲させた圧電振動板を備えたヘッドフォンにおいて、低音を強調させる。
【解決手段】 駆動回路(300)は、ヘッドフォンで用いられ、使用者の耳から離れる方向に凸となるように湾曲した圧電振動板(220)を振動させて音を発生させる。駆動回路(300)は、低電圧電源(301)の電圧を昇圧するDC/DCコンバータ(400)と、DC/DCコンバータ(400)による昇圧後の電圧を用いて圧電振動板(220)を駆動するアンプ回路(500)とを有する。アンプ回路(500)は、圧電振動板(220)を駆動する駆動信号に対してローパス処理を行うアナログフィルタ(501,502)を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドフォンで用いられ、使用者の耳から離れる方向に凸となるように湾曲した圧電振動板を振動させて音を発生させる駆動回路であって、
低電圧電源の電圧を昇圧するDC/DCコンバータと、
前記DC/DCコンバータによる昇圧後の電圧を用いて前記圧電振動板を駆動するアンプ回路と、を有し、
前記アンプ回路は、前記圧電振動板を駆動する駆動信号に対してローパス処理を行うアナログフィルタを有することを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
前記圧電振動板に接続された可変抵抗器を有しており、
前記可変抵抗器は、前記圧電振動板及び前記可変抵抗器によって形成されるローパス特性のカットオフ周波数を変更することを特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記アナログフィルタは、オペアンプの負帰還回路であることを特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記圧電振動板は、基体と、前記基体の表面に塗布された電極とを有し、
前記電極がPEDOT/PSSであることを特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の駆動回路が実装された回路基板と、
前記圧電振動板を湾曲状態で支持するベースと、
前記ベースとともに前記圧電振動板を挟んで保持する押さえ部材とを有し、
前記押さえ部材は、前記圧電振動板の側とは反対側において、前記回路基板を支持する支柱を有することを特徴とするヘッドフォンの駆動ユニット。
【請求項6】
前記圧電振動板は、前記回路基板に実装されたコネクタに電気的に接続されるリードを有することを特徴とする請求項5に記載のヘッドフォンの駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドフォンで用いられる圧電振動板を駆動する駆動回路と、この駆動回路を備えたヘッドフォンの駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の高分子圧電形電気音響変換器では、ドーム状に形成されたフレームの中央部に開口を設けるとともに、このフレームに沿うように圧電体(圧電振動板)を取り付け、輻射音圧を摘出する側に圧電体の凹面側を向けている。これにより、圧電体から出力される音声を聴取点に集中させて、出力音圧を大きくできるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭60-144397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘッドフォンにおいて、特許文献1のように湾曲させた圧電体(圧電振動板)を用いた場合には、一定電圧の振幅で圧電体を駆動すると、周波数に応じて音圧が変化してしまう。具体的には、所定周波数よりも低い周波数帯域(低域)では音圧が平坦となり、所定周波数よりも高い周波数帯域(高域)では、周波数が高いほど音圧が上昇する。このような音圧の周波数特性では、低域での音圧が高域での音圧よりも低くなり、低音が強調されにくい。
【0005】
本願発明の目的は、特許文献1のように湾曲させた圧電振動板を備えたヘッドフォンにおいて、低音を強調することができる駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1の発明は、ヘッドフォンで用いられ、使用者の耳から離れる方向に凸となるように湾曲した圧電振動板を振動させて音を発生させる駆動回路である。この駆動回路は、低電圧電源の電圧を昇圧するDC/DCコンバータと、DC/DCコンバータによる昇圧後の電圧を用いて圧電振動板を駆動するアンプ回路と、を有する。アンプ回路は、圧電振動板を駆動する駆動信号に対してローパス処理を行うアナログフィルタを有する。
【0007】
駆動回路は、圧電振動板に接続された可変抵抗器を有する。この可変抵抗器は、圧電振動板及び可変抵抗器によって形成されるローパス特性のカットオフ周波数を変更する。アナログフィルタとしては、オペアンプの負帰還回路を用いることができる。圧電振動板は、基体と、基体の表面に塗布された電極とで構成することができる。ここで、電極としては、PEDOT/PSSを用いることができる。
【0008】
本願第2の発明であるヘッドフォンの駆動ユニットは、回路基板と、ベースと、押さえ部材とを有する。回路基板には、本願第1の発明である駆動回路が実装されている。ベースは、圧電振動板を湾曲状態で支持する。押さえ部材は、ベースとともに圧電振動板を挟んで保持する。また、押さえ部材は、圧電振動板の側とは反対側において、回路基板を支持する支柱を有する。
【0009】
圧電振動板には、回路基板に実装されたコネクタに電気的に接続されるリードを設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アナログフィルタによるローパス処理により、高周波数帯域での音圧レベルに対して、低周波数帯域での音圧レベルを強調することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ヘッドフォンのユニットの外装を構成する部品を示す概略図である。
図2】ユニットの内部に収容される駆動ユニットを示す分解斜視図である。
図3】圧電振動板に電圧を印加する構造(変形例)を示す概略図である。
図4】圧電振動板の駆動回路の構成を示す図である。
図5】DC/DCコンバータの回路構成を示す図である。
図6】アンプ回路の回路構成を示す図である。
図7】低域強調回路の回路構成を示す図である。
図8A】ローパス特性による補正を行わないときの音圧の周波数特性を示す図である。
図8B】アンプ回路のローパス特性を示す図である。
図8C】ローパス特性による補正を行ったときの音圧の周波数特性を示す図である。
図9】カットオフ周波数が互いに異なるローパス特性を示す図である。
図10】互いに異なるカットオフ周波数を有するローパス特性による補正を行ったときの音圧の周波数特性を示す図である。
図11】BLT接続で用いられるアンプ回路の回路構成を示す図である。
図12】変形例であるアンプ回路の回路構成を示す図である。
図13】変形例である外部機器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本実施形態である駆動回路を備えたヘッドフォンの構造について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、ヘッドフォンの一部であるユニットの外装を構成する部品を示す概略図である。ユニット100は、使用者の片耳に装着されるものであり、左耳及び右耳のそれぞれに対して用いられる。左耳用及び右耳用の2つのユニット100は、ヘッドバンド(不図示)に接続される。
【0013】
ユニット100は、耳を覆った状態で頭部に接触するイヤーパッド101と、カバー102を有する。イヤーパッド101の内側には、音を通過させるイヤーパッドクロス101aが設けられている。カバー102は、イヤーパッド101に固定され、カバー102及びイヤーパッド101によって囲まれたスペースには、後述する駆動ユニット200が配置される。
【0014】
次に、駆動ユニット200の構造について、図2を用いて説明する。図2は、駆動ユニット200を構成する部品の分解斜視図である。駆動ユニット200は、ベース210と、圧電素子で構成された圧電振動板220と、振動板押さえ部材230とを有する。以下、ベース210、圧電振動板220及び振動板押さえ部材230のそれぞれについて、詳細に説明する。
【0015】
ベース210の中央には、ベース210を貫通する複数の開口部211が形成されており、圧電振動板220から発生した音は、開口部211を通過してイヤーパッド101に向かう。複数の開口部211が形成された領域の縁には、一対の振動板装着部212が設けられており、振動板装着部212は、複数の開口部211が形成された領域から上方に突出している。振動板装着部212の上端は円弧状に形成されており、この上端に沿って圧電振動板220が取り付けられる。複数の開口部211が形成された領域は、圧電振動板220及びイヤーパッド101の間に位置することになり、イヤーパッド101からの外力が圧電振動板220に作用することを防止し、圧電振動板220を保護することができる。
【0016】
圧電振動板220の一端部には一対のリード221が設けられており、各リード221は、上方に折り曲げられている。一対のリード221は、圧電振動板220を振動させるための駆動信号を圧電振動板220に入力するために用いられ、後述する導電性材料(電極)にそれぞれ接続されている。各リード221の先端部には、絶縁フィルム222が貼り付けられている。
【0017】
圧電振動板220は、平板状の基体の表面(両面)に導電性材料(電極)を塗布したものであり、電極に電圧を印加することによって振動する。基体の材料としては、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、P(VDF-TrFE)、P(VDF-TFE)、ポリ乳酸、発砲ポリオレフィンを用いることができる。また、導電性材料(電極)としては、例えば、導電性カーボンブラック、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸)を用いることができる。
【0018】
PEDOT/PSSは、導電性カーボンブラックよりも比重が小さいため、圧電振動板220を軽量化することができるとともに、圧電振動板220から出力される音を高音圧化することができる。また、基体の材料としてPVDFなどを用いた場合には、基体及び電極の両方が有機材料で形成されることになるため、圧電振動板220を軽量化することができるとともに、圧電振動板220の軽量化に伴い、音質や音響的性能を向上させやすくなる。
【0019】
圧電振動板220を振動板装着部212に取り付けることにより、圧電振動板220は湾曲した状態となる。ここで、ヘッドフォン(ユニット100)を使用者の頭部に装着したときには、使用者の耳から離れる方向に凸となるように圧電振動板220が湾曲することになり、湾曲状態の圧電振動板220の凹面側が使用者の耳と対向する。湾曲状態の圧電振動板220を振動させることにより、曲面波(音波)を発生させることができ、平板状の圧電振動板220を振動させる場合と比べて、音圧を高めることができる。湾曲状態の圧電振動板220から発生する曲面波は収束するが、この収束点が耳の鼓膜よりも奥となるように圧電振動板220の曲率半径を設定すれば、音圧を高めたまま、曲面波を鼓膜まで到達させることができる。
【0020】
振動板押さえ部材230は、圧電振動板220と接触する押さえ部231を有しており、押さえ部231は、湾曲状態の圧電振動板220に沿った形状、言い換えれば、振動板装着部212の上端に沿った形状に形成されている。これにより、圧電振動板220は、押さえ部231及び振動板装着部212によって挟まれて保持される。押さえ部231には、押さえ部231を貫通する複数の開口部232が形成されている。
【0021】
押さえ部231の上面には、4つの支柱233が設けられており、支柱233の上端部には回路基板234が固定されている。支柱233を用いることにより、湾曲状態の押さえ部231に対して平板状の回路基板234を配置することができる。回路基板234には、一対のコネクタ234aが固定されており、コネクタ234aには、圧電振動板220のリード221の先端部(絶縁フィルム222が貼り付けられた部分)が挿入される。また、回路基板234には、圧電振動板220を振動させる駆動回路が実装される。この駆動回路の構成については、後述する。
【0022】
本実施形態では、押さえ部231及び振動板装着部212によって圧電振動板220を挟んで保持しているが、これに限るものではない。具体的には、押さえ部231を省略し、圧電振動板220を振動板装着部212に固定することができる。例えば、接着剤を用いて、圧電振動板220を振動板装着部212に固定することができる。この場合において、振動板押さえ部材230は、圧電振動板220の上方において、回路基板234を支持する機能を有するだけでよい。
【0023】
また、本実施形態では、圧電振動板220に設けられた一対のリード221を用いて、圧電振動板220の一対(両面)の電極に電圧を印加するようにしているが、これに限るものではない。すなわち、圧電振動板220の一対(両面)の電極に電圧を印加することができる配線構造であればよい。
【0024】
例えば、図3に示すように、圧電振動板220に1つのリード223を設けておき、リード223の上面及び下面を圧電振動板220の一対の電極にそれぞれ電気的及び物理的に接続させる。ここで、リード223の上面及び下面は互いに絶縁されている。リード223の上面には、コンタクトプローブ241が接触する。また、リード223の下面には、導電板242(金属板やプリント基板など)が物理的に固定されているとともに、リード223の下面及び導電板242が電気的に接続されている。導電板242には、コンタクトプローブ243が接触する。これにより、コンタクトプローブ241,243を介して、圧電振動板220の一対の電極に電圧を印加することができる。
【0025】
次に、圧電振動板220を振動させる駆動回路の構成について、図4を用いて説明する。
【0026】
圧電振動板220を振動させる駆動回路300は、バッテリ301と、DC/DCコンバータ400と、アンプ回路500とを有する。バッテリ301としては、各種の低電圧直流電源(一次電池や二次電池)を用いることができる。DC/DCコンバータ400は、バッテリ301の出力電圧を昇圧し、昇圧後の直流電圧(正の高電圧+Vh及び負の高電圧-Vh)をアンプ回路500に出力する。また、DC/DCコンバータ400は、バッテリ301の出力電圧を安定化させた動作電圧Vccをアンプ回路500に出力する。アンプ回路500は、オーディオ信号の入力を受けて、圧電振動板220を振動させるための駆動信号を生成する。この駆動信号は、圧電振動板220に入力される。
【0027】
なお、本実施形態では、バッテリ301を内蔵するようにしているが、バッテリ301に相当する低電圧電源として、ユニット100の外部に設けられた外部電源を用いることができる。例えば、ユニット100にUSB(Universal Serial Bus)インターフェースを設けておき、USBに含まれるVBUSから供給される電源(5V)を外部電源として用いることができる。
【0028】
次に、DC/DCコンバータ400の回路構成について、図5を用いて説明する。
【0029】
DC/DCコンバータ400は、フライバック式コンバータであり、トランス401を有する。トランス401は、一次側巻線401a及び二次側巻線401bを有する。一次側巻線401aの一端はバッテリ301に接続されており、一次側巻線401aの他端はフライバックコントローラ402に接続されている。二次側巻線401bの一端は正の電源ラインPL及び負の電源ラインNLに接続されており、二次側巻線401bの他端は接地されている。バッテリ301及び一次側巻線401aを接続する接続ラインには、コンデンサC1の一端が接続されている。フライバックコントローラ402のスイッチング動作によって、バッテリ301から一次側巻線401aに電流が流れ、一次側巻線401aから二次側巻線401bに電力が伝えられる。これにより、バッテリ301の電圧を昇圧することができる。
【0030】
正の電源ラインPLには正の高電圧+Vhが出力される。正の電源ラインPLにはコンデンサC2が設けられており、コンデンサC2の一端は、トランス401の二次側巻線401bに接続されており、コンデンサC2の他端は、ダイオードD1のカソードとダイオードD2のアノードの接続点に接続されている。ダイオードD1のアノードは接地されており、ダイオードD2のカソードにはコンデンサC3の一端が接続されている。コンデンサC3は、正の電源ラインPLにおけるノイズを低減する。
【0031】
負の電源ラインNLには負の高電圧-Vhが出力される。負の電源ラインNLにはコンデンサC4が設けられており、コンデンサC4の一端は、トランス401の二次側巻線401bに接続されており、コンデンサC4の他端は、ダイオードD3のカソードとダイオードD4のアノードの接続点に接続されている。ダイオードD4のカソードは接地されており、ダイオードD3のアノードにはコンデンサC5の一端が接続されている。コンデンサC5は、負の電源ラインNLにおけるノイズを低減する。
【0032】
正の電源ラインPL及びフライバックコントローラ402にはフィードバック回路が接続されており、フィードバック回路は、並列に接続されたコンデンサC6及び抵抗素子R1を有する。これにより、フライバックコントローラ402は、正の電源ラインPLの出力電圧に基づいて、トランス401のスイッチング動作を制御(フィードバック制御)することができる。なお、抵抗素子R1及びフライバックコントローラ402を接続する接続ラインには、コンデンサC7の一端と、抵抗素子R2の一端が接続されている。
【0033】
トランス401の一次側巻線401a及びフライバックコントローラ402を接続する接続ラインには、ショットキーバリアダイオードSBDのアノードが接続されており、ショットキーバリアダイオードSBDのカソードはリニアレギュレータ403の入力端子に接続されている。リニアレギュレータ403の出力端子には動作電源ラインOLが接続されており、リニアレギュレータ403の出力端子からは動作電圧Vccが出力される。なお、ショットキーバリアダイオードSBD及びリニアレギュレータ403を接続する接続ラインには、コンデンサC8の一端が接続されており、動作電源ラインOLにはコンデンサC9の一端が接続されている。
【0034】
DC/DCコンバータ400を用いることにより、バッテリ301の出力電圧(低電圧)を昇圧した高電圧(例えば、100V以上)を、アンプ回路500を介して圧電振動板220に印加することができる。ここで、フライバックコントローラ402のスイッチング周波数を高周波化(数百kHz~数MHz)することにより、トランス401を小型化することができ、DC/DCコンバータ400をユニット100に内蔵しても、ユニット100が大型化することを抑制できる。また、DC/DCコンバータ400の出力電圧(高電圧)は、アンプ回路500を介して圧電振動板220に印加されるため、トランス401による音の歪が発生することを抑制できる。
【0035】
なお、本実施形態では、DC/DCコンバータ400によってバッテリ301の出力電圧を昇圧しているが、これに限るものではない。例えば、ユニット100にUSB(Universal Serial Bus)インターフェースを設けておき、USBに含まれるVBUSから供給される電圧(5V)をDC/DCコンバータ400によって昇圧することができる。また、本実施形態では、バッテリ301の出力をリニアレギュレータ403に供給して動作電圧Vccを生成しているが、これに限るものではない。例えば、上述したVBUSから供給される電圧(5V)をリニアレギュレータ403に供給することにより、動作電圧Vccを生成することができる。
【0036】
次に、アンプ回路500の回路構成について、図6を用いて説明する。
【0037】
オペアンプ501は動作電圧Vccを受けて動作し、オペアンプ501の反転入力端子には低域強調回路502の出力信号が入力され、オペアンプ501の非反転入力端子にはオーディオ信号が入力される。オペアンプ501の出力端子は、電圧-電流変換回路503に接続されている。低域強調回路502はフィードバック回路を有しており、低域強調回路502を用いることにより、オペアンプ501の負帰還回路を構成している。これにより、ローパス特性を有するアナログフィルタが構成され、カットオフ周波数よりも高い周波数帯域において、圧電振動板220から発生する音圧を減衰させることができる。
【0038】
図7には、低域強調回路502の回路構成(一例)を示す。コンデンサC10及び抵抗素子R3が直列に接続されているとともに、コンデンサC11及び抵抗素子R4が直列に接続されている。また、コンデンサC10及び抵抗素子R3と、コンデンサC11及び抵抗素子R4と、抵抗素子R5とは並列に接続されている。コンデンサC11及び抵抗素子R4の接続点にはコンデンサC12の一端が接続されており、コンデンサC12の他端には出力ラインL1が接続されている。コンデンサC10,C11には、入力ラインL2が接続されており、抵抗素子R5は、出力ラインL1及び入力ラインL2に接続されている。
【0039】
図6に示すように、電圧-電流変換回路503は、正の電源ラインPL及び負の電源ラインNLに接続されている。電圧-電流変換回路503及び正の電源ラインPLの間には、直列に接続された抵抗素子R6とダイオードD5が設けられており、電圧-電流変換回路503及び負の電源ラインNLの間には、直列に接続された抵抗素子R7とダイオードD6が設けられている。ここで、ダイオードD5のアノードは抵抗素子R6に接続され、ダイオードD5のカソードは電圧-電流変換回路503に接続されている。また、ダイオードD6のアノードは電圧-電流変換回路503に接続され、ダイオードD6のカソードは抵抗素子R7に接続されている。
【0040】
ダイオードD5及び電圧-電流変換回路503の接続点には、トランジスタ(PNP型)Tr1のベースが接続されており、ダイオードD6及び電圧-電流変換回路503の接続点には、トランジスタ(NPN型)Tr2のベースが接続されている。トランジスタTr1のコレクタは、抵抗素子R8を介して正の電源ラインPLに接続されており、トランジスタTr1のコレクタは、トランジスタTr2のコレクタに接続されている。トランジスタTr2のエミッタは、抵抗素子R9を介して負の電源ラインNLに接続されている。トランジスタTr1,Tr2によってプッシュプル回路が構成されており、抵抗素子R8,R9は、プッシュプル回路の貫通電流を抑制するために設けられている。
【0041】
電圧-電流変換回路503への入力信号に応じて、トランジスタTr1がオンになったり、トランジスタTr2がオンになったりする。トランジスタTr1がオンであり、トランジスタTr2がオフであるとき、正の電源ラインPLからトランジスタTr1を介して、圧電振動板220に電流が流れる。一方、トランジスタTr1がオフであり、トランジスタTr2がオンであるとき、圧電振動板220からトランジスタTr2を介して負の電源ラインNLに電流が流れる。
【0042】
トランジスタTr1,Tr2の接続点には、低域強調回路502の入力ラインL2が接続されており、フィードバック回路を構成している。低域強調回路502を用いたオペアンプ501の負帰還回路は、ローパス特性を有しているため、正の電源ラインPLから圧電振動板220に出力される駆動信号のうち、高周波数帯域での成分を減衰させることにより、低周波数帯域での成分を強調させる。
【0043】
トランジスタTr1,Tr2の接続点には、アーティキュレーション調整回路504の一端が接続されている。アーティキュレーション調整回路504の他端は圧電振動板220に接続されている。アーティキュレーション調整回路504は、圧電振動板220から出力される音について、後述するように高域での音圧レベルを調整してアーティキュレーションを調整する。アーティキュレーションとは、音楽の演奏方法において、音の形を整え、音と音との繋がりに様々な強弱や表情を付けることで旋律などを区分することである。
【0044】
アーティキュレーション調整回路504は、直列に接続された抵抗素子R10及び可変抵抗器R11で構成されている。圧電振動板220は圧電素子であって静電容量を有するため、圧電振動板220に抵抗素子R10を接続することにより、ローパス特性を持たせることができる。また、可変抵抗器R11を用いることにより、ローパス特性のカットオフ周波数を変更することができる。
【0045】
ヘッドフォンのユニット100には、使用者によって操作される操作部(不図示)が設けられており、この操作部を操作して可変抵抗器R11の抵抗値を変更することにより、アンプ回路500におけるローパス特性のカットオフ周波数を変更することができる。例えば、操作部(ツマミ)を回転させたり、スライドさせたりすることにより、可変抵抗器R11の抵抗値を変更することができる。
【0046】
図8Aは、ローパス特性による補正を行わないときの音圧の周波数特性を示し、図8Bは、アンプ回路500のローパス特性を示し、図8Cは、ローパス特性による補正を行ったときの音圧の周波数特性を示す。図8A図8Cの横軸は周波数(対数)であり、図8A,8Bの縦軸は音圧、図8Bの縦軸は電圧ゲインである。
【0047】
図8Aに示す周波数特性では、所定周波数よりも低い周波数帯域(低周波数帯域)において音圧レベルが一定となり、所定周波数よりも高い周波数帯域(高周波数帯域)において、周波数が高いほど、音圧レベルが高くなる。また、低周波数帯域よりも低い周波数では、ヘッドフォンのイヤーパッド101及び頭部の間に形成される隙間から圧力が漏れることにより、音圧レベルが低下する。
【0048】
図8Aに示す周波数特性では、高周波数帯域での音圧レベルが低周波数帯域での音圧レベルよりも高くなりすぎるため、本実施形態では、アンプ回路500のローパス特性を用いた補正によって、高周波数帯域での音圧レベルを低下させている。言い換えれば、低周波数帯域での音圧レベルを強調するようにしている。
【0049】
図8Bに示すローパス特性によれば、カットオフ周波数fcよりも低い周波数帯域では電圧ゲインが一定であり、カットオフ周波数fcよりも高い周波数帯域では、周波数が高いほど電圧ゲインが低下する。したがって、図8Aに示す周波数特性において、低周波数帯域及び高周波数帯域の境界に位置する周波数をカットオフ周波数fcとして設定すれば、低周波数帯域及び高周波数帯域での音圧レベルを揃えることができ、図8Cに示す周波数特性を得ることができる。これにより、高周波数帯域での音圧に対して、低周波数帯域での音圧を強調させることができる。
【0050】
圧電振動板220を用いたヘッドフォンでは、圧電振動板220を用いたスピーカと比べて、音圧の周波数特性が異なる。ヘッドフォンでは、圧電振動板220から出力された音がイヤーパッド101によって囲まれた密閉空間を伝搬するのに対して、スピーカでは、圧電振動板220から出力された音が自由空間を伝搬する。このような音の伝搬の違いにより、音圧の周波数特性が異なる。
【0051】
スピーカにおける音圧の周波数特性では、音圧が平坦となる周波数帯域が存在せず、周波数が高いほど、音圧レベルが高くなる。このため、ローパス特性を用いて音圧の周波数特性を補正しても、低域の音圧を強調させることはできない。一方、ヘッドフォンにおける音圧の周波数特性では、図8Aに示すように、低周波数帯域において音圧レベルが一定となるため、ローパス特性を用いて音圧の周波数特性を補正することにより、低域の音圧を強調させることができる。
【0052】
一方、アーティキュレーション調整回路504において、可変抵抗器R11の抵抗値を変更してローパス特性のカットオフ周波数fcを変更することにより、図9に示すように、電圧ゲインの周波数特性を変更することができる。これにより、図10に示すように、高周波数帯域において、音圧レベルを一定としながら、音圧レベルを変更することができる。具体的には、カットオフ周波数fcを高くするほど、高周波数帯域での音圧レベルを上げることができる。言い換えれば、カットオフ周波数fcを低くするほど、高周波数帯域での音圧レベルを下げることができる。
【0053】
音声の子音、拍手の音、砂利を踏む音などには高周波成分が多く含まれているため、音声の内容を正確に聞き取ったり、音による気配を察知したりする場合などには、上述したようにカットオフ周波数fcを高くして高周波数帯域での音圧レベルを上げることができる。また、音量が異なる場合において、高周波数帯域での音圧レベルを変更することにより、使用者の嗜好に合った音域に調整することができる。ここで、図10に示すように、高周波数帯域での音圧レベルは平坦であるため、ヘッドフォンの使用者に違和感を与えることを抑制できる。
【0054】
なお、圧電振動板220に対しては、図6に示すアンプ回路500をシングルアンプとして接続することもできるし、図6に示すアンプ回路500と図11に示すアンプ回路600をBTL(Bridged Transless)接続することもできる。ここで、図11に示すアンプ回路600において、図6に示すアンプ回路500と同様の機能を有するものについては、図6と同一の符号を用い、詳細な説明は省略する。図11に示すアンプ回路600では、図6に示すアンプ回路500に含まれるアーティキュレーション調整回路504を省略している。
【0055】
図6に示すアンプ回路500及び図11に示すアンプ回路600を用いた場合、アンプ回路500のトランジスタTr1とアンプ回路600のトランジスタTr2をオンにすることにより、正の電源ラインPLから圧電振動板220に電圧を印加することができる。また、アンプ回路600のトランジスタTr2とアンプ回路500のトランジスタTr2をオンにすることにより、正の電源ラインPLから圧電振動板220に電圧を印加することができる。BTL接続を採用することにより、シングルアンプと比べて、電源ラインPL,NLに供給する高電圧Vhを低くすることができる。
【0056】
本実施形態では、オペアンプ501の負帰還回路によってローパス特性を有するアナログフィルタを構成しているが、これに限るものではない。具体的には、図12に示すアンプ回路700において、オーディオ信号をアナログフィルタ701に入力し、アナログフィルタ701の出力信号をオペアンプ501の非反転入力端子に入力することができる。ここで、オペアンプ501の反転入力端子は、入力ラインL2に設けられた2つの抵抗素子R12,R13の接続点に接続されている。このような回路構成であっても、本実施形態と同様の効果(低周波数帯域での音圧強調)を得ることができる。なお、図12において、図6に示すアンプ回路500と同様の機能を有するものについては、図6と同一の符号を用い、詳細な説明は省略する。
【0057】
一方、本実施形態では、圧電振動板220を振動させる駆動回路をヘッドフォンのユニット100に内蔵しているが、これに限るものではない。具体的には、駆動回路をユニット100の外部に設けることもでき、例えば、図13に示す外部ユニット800を用いることができる。
【0058】
外部ユニット800の内部には、圧電振動板220を振動させる駆動回路(具体的には、図4に示すDC/DCコンバータ400やアンプ回路500)を設けることができる。また、外部ユニット800には、上述したアンプ回路500のローパス特性のカットオフ周波数(言い換えれば、可変抵抗器R11の抵抗値)を変更するために操作されるツマミ801を設けることができる。図13に示す例では、ツマミ801を回転させることにより、カットオフ周波数を変更することができる。
【0059】
外部ユニット800には、ヘッドフォンのユニット100(具体的には、圧電振動板220)に接続される第1ケーブル802と、一端にUSBコネクタ803が設けられた第2ケーブル804とが接続されている。USBコネクタ803は、オーディオ信号を出力する音響機器(PCなど)に接続される。
【符号の説明】
【0060】
100:ユニット、101:イヤーパッド、102:カバー、200:駆動ユニット、
210:ベース、212:振動板装着部、220:圧電振動板、221:リード、
230:振動板押さえ部材、231:押さえ部、234:回路基板、300:駆動回路、
301:バッテリ、400:DC/DCコンバータ、401:トランス、
402:フライバックコントローラ、403:リニアレギュレータ、
500:アンプ回路、501:オペアンプ、502:低域強調回路、
503:電圧-電流変換回路、504:アーティキュレーション調整回路、
600:アンプ回路、700:アンプ回路、800:外部ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13