(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033624
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】耐熱性が向上した配列制御型ポリエステル合成酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 9/10 20060101AFI20240306BHJP
C12P 7/625 20220101ALI20240306BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20240306BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12P7/625
C12P7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137309
(22)【出願日】2022-08-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「配列制御技術に基づく生分解性エラストマーの生合成」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】松本 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 宏矢
(72)【発明者】
【氏名】中野 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 創平
(72)【発明者】
【氏名】小塚 康平
(72)【発明者】
【氏名】古川 翔子
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC04
4B050DD01
4B050LL05
4B064AD83
4B064CA02
4B064CA19
4B064DA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PhaCARと同等の幅広い基質認識能と配列制御性を有し、かつ、耐熱性を有している新規なポリエステル合成酵素を提供すること。
【解決手段】複数のアミノ酸配列から選ばれた特定のアミノ酸配列、または前記複数のアミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、耐熱性のポリエステル合成酵素等が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、耐熱性のポリエステル合成酵素。
【請求項2】
2種以上のヒドロキシカルボン酸のモノマーを共重合することができる、請求項1記載のポリエステル合成酵素。
【請求項3】
前記2種以上のヒドロキシカルボン酸のモノマーが、2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸および2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含む場合に、ブロック共重合体を合成する、請求項2記載のポリエステル合成酵素。
【請求項4】
請求項1記載のポリエステル合成酵素、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を発現する微生物を、少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはその代謝前駆体を含む培地中で培養することを含む、ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記培地が2種以上のヒドロキシカルボン酸および/またはその代謝前駆体を含み、前記2種以上のヒドロキシカルボン酸をモノマーユニットとして含む共重合体が製造される、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記2種以上のヒドロキシカルボン酸が、2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸および2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含み、前記共重合体が、前記2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸をモノマーユニットとして含むセグメントと、前記2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含まないセグメントとを含むブロック共重合体である、請求項5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が向上した新規な配列制御型ポリエステル合成酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxyalkanoate,PHA)は、産業利用されている微生物産生ポリエステルである。現在使用されているPHAは、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、および4-ヒドロキシ酪酸の単独重合体またはランダム共重合体である。
【0003】
近年の研究において、Pseudomonas sp. 61-3由来クラス2型のPHA合成酵素の進化工学的改変により得られたPhaC1PsSTQKを用いて、2-ヒドロキシ酪酸などの2位に水酸基を有する非天然ユニットの重合が可能となった(非特許文献1)。さらに、2つのクラス1型のPHA合成酵素 Aeromonas caviae由来のPhaCAcおよびRalstonia eutropha由来のPhaCReをキメラ化させて作成したPhaCARを用いることにより、2-ヒドロキシ酪酸などの2位に水酸基を有する非天然ユニットが重合体中に取り込み可能であることが分かった(非特許文献2)。さらにPhaCARは、モノマー配列を制御する機能を有し、該酵素を発現する組換え大腸菌を用いて、2-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシ酪酸の混合物から、これら二種のモノマーのブロック共重合体を自発的に合成できることが報告された(非特許文献2)。PhaCARの基質特異性の探索により、本酵素がグリコール酸や6-ヒドロキシヘキサン酸などの長主鎖モノマーを取り込み可能な極めて幅広い基質認識能を持つことが明らかとなった(特許文献1、非特許文献3)。またさらに、配列制御性の研究から、PhaCARによりブロック共重合体が合成されるのは、モノマーの片方が2位に水酸基を有する構造を持つ場合であることが明らかとなった(非特許文献3)。
【0004】
しかしながら、ほとんどのPHA合成酵素は熱安定性に乏しく、PhaCARも30℃を超えると著しくポリマー生産性が低下する。耐熱性PHA合成酵素としては、55℃までの耐熱性を有するPseudomonas sp. SG4502由来のクラス2型酵素が知られており、該酵素にPhaC1PsSTQKと同じ変異を導入した変異酵素を用いて、乳酸と3-ヒドロキシ酪酸とのブロック共重合体がin vitro合成により得られたとの報告がある(非特許文献4)。しかしながら、ブロック共重合体の合成量はわずかであり、ブロック構造が十分検証されておらず、また、in vivo合成については検証されていない。
【0005】
したがって、現在のところ、PhaCARがブロック共重合体を生合成可能な唯一の酵素である。今までに、PhaCARと同等の幅広い基質認識能と配列制御性を有し、かつ、耐熱性を有しているPHA合成酵素は取得されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2021/172559号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Taguchi et al. PNAS 2008 105:17323
【非特許文献2】Matsumoto et al. Biomacromol 2018 19:662
【非特許文献3】Satoh et al. Microb Cell Fact (2022) 21:84
【非特許文献4】Tajima et al. Appl Microbiol Biotechnol 2012 94:365-376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、PhaCARと同等の幅広い基質認識能と配列制御性を有し、かつ、耐熱性を有している新規なポリエステル合成酵素を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Aeromonas caviae由来のPHA合成酵素PhaCAcと、Ralstonia eutropha(Cupriavidus necator)由来のPHA合成酵素PhaCReの2つのクラス1型酵素をキメラ化(それぞれ一部分を融合)させて作成されたPhaCARが、PHA合成酵素の中で例外的に幅広い基質特異性と配列制御性を持つ有用な酵素であることに着目し、PhaCAcとPhaCReの中間的構造を持つ(すなわち、両酵素に相同性を有する)酵素であれば、PhaCARと同様の機能を発揮できるのではないか、と着想した。そこで、鋭意研究した結果、本発明者らは、PhaCARと同等の幅広い基質認識能と配列制御性を有し、かつ、40℃以上でも活性を保持する耐熱性を有する人工ポリエステル合成酵素を取得することに成功した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
[1]配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、耐熱性のポリエステル合成酵素;
[2]2種以上のヒドロキシカルボン酸のモノマーを共重合することができる、[1]記載のポリエステル合成酵素;
[3]前記2種以上のヒドロキシカルボン酸のモノマーが、2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸および2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含む場合に、ブロック共重合体を合成する、[2]記載のポリエステル合成酵素;
[4][1]記載のポリエステル合成酵素、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を発現する微生物を、少なくとも1種のヒドロキシカルボン酸および/またはその代謝前駆体を含む培地中で培養することを含む、ポリエステルの製造方法;
[5]前記培地が2種以上のヒドロキシカルボン酸および/またはその代謝前駆体を含み、前記2種以上のヒドロキシカルボン酸をモノマーユニットとして含む共重合体が製造される、[4]記載の製造方法;
[6]前記2種以上のヒドロキシカルボン酸が、2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸および2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含み、前記共重合体が、前記2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸をモノマーユニットとして含むセグメントと、前記2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含まないセグメントとを含むブロック共重合体である、[5]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PhaCARと同等の幅広い基質特異性と配列制御性とを有し、かつ、40℃以上でも活性を保持する耐熱性の人工ポリエステル合成酵素が提供される。本発明のポリエステル合成酵素は、熱安定性に優れており、培養温度40℃においても良好なポリマー生産を示す。また、本発明のポリエステル合成酵素は、PhaCARと同様に、ホモポリマーはもちろん、2種以上のヒドロキシカルボン酸を基質として用いることにより共重合体を製造することができ、特に、2位にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸と2位以外にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含む2種以上のヒドロキシカルボン酸を基質として用いることによりブロック共重合体を製造することができる。したがって、本発明によれば、従来弱点とされていた乏しい熱安定性を改善した、新たな配列制御型ポリエステル合成酵素が提供される。
【0012】
2位にヒドロキシ基を有するモノマーから構成されるポリマーは、例えばポリ乳酸やポリグリコール酸のように、ガラス転移温度が室温よりも高いポリマーが多い(ポリ乳酸およびポリグリコール酸の場合、それぞれ60℃および46℃)。これはポリエステルの分子鎖の運動性が低い(分子が固い)ことを意味しており、30℃付近の温度で効率よく重合することは困難である。原理的には、合成温度を上昇されれば重合効率が改善すると予想されるが、今まで知られていたほとんどのPHA合成酵素は熱安定性に乏しかった。本発明のポリエステル合成酵素は、熱安定性であるため、高温での重合が可能であり、2位にヒドロキシ基を有するモノマーを含むポリマーでも効率よく合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】人工設計ポリエステル合成酵素の系統樹を示す。
【
図2】人工設計ポリエステル合成酵素によるP(3HB)合成結果を示す。図中、「NC」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図3】人工設計ポリエステル合成酵素によるP(GL-co-3HB)合成結果を示す。図中、「NC」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図4】人工設計ポリエステル合成酵素によるP(LA-co-3HB)合成結果を示す。図中、「NC」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図5】人工設計ポリエステル合成酵素によるP(2HB-co-3HB)合成結果を示す。図中、「pUC18」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図6】人工設計ポリエステル合成酵素FcPhaC4によって合成されたP(GL-co-3HB)のNMRスペクトルを示す。
【
図7】人工設計ポリエステル合成酵素FcPha5WPによって合成されたP(LA-co-3HB)のNMRスペクトルを示す。
【
図8】人工設計ポリエステル合成酵素FcPhaC5Reによって合成されたP(2HB-co-3HB)のNMRスペクトルを示す。
【
図9】人工設計ポリエステル合成酵素によるP(6HHx-co-3HB)合成結果を示す。図中、「pUC18」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図10】人工設計ポリエステル合成酵素によるP(3HHx-co-3HB)合成結果を示す。図中、「pUC18」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図11】人工設計ポリエステル合成酵素FcPhaC4によって合成されたP(6HHx-co-3HB)のNMRスペクトルを示す。
【
図12】人工設計ポリエステル合成酵素FcPhaC5WPによって合成されたP(3HHx-co-3HB)のNMRスペクトルを示す。
【
図13】人工設計ポリエステル合成酵素の熱処理後の相対活性を示す。横軸は処理温度を示す。
【
図14】高温培養によるP(GL-co-3HB)の生合成の結果を示す。
【
図15】高温培養によって合成されたP(GL-co-3HB)におけるGL分率の結果を示す。
【
図16】高温培養後の菌体乾燥重量を示す。横軸は培養温度を示す。各温度につき、左から、FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC3、FcPhaC4、FcPhaC5Re、FcPhaC5WP、PhaCAR、OYV、NCを導入した株を示す。なお、「NC」は、ポリエステル合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【
図17】高温培養後の乾燥菌体重量あたりのポリマー生産量を示す。各酵素遺伝子を導入した株のバーは、左から、培養温度30℃、35℃、37℃、40℃、45℃の生産量を示す。なお、「NC」は、PHA合成系遺伝子群を含まないプラスミドを導入した株を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.用語
当該分野において、ポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxyalkanoate,PHA)とは、慣例的に、ヒドロキシカルボン酸(hydroxycarboxylate)をモノマーユニットとして含む脂肪族ポリエステルを言う。本願明細書において使用される場合も、「PHA」なる語は慣例にしたがった意味を有する。したがって、本願明細書において用いる場合、PHA(ポリマーまたはポリエステルと称する場合もある)を構成するヒドロキシカルボン酸は、脂肪族鎖式飽和のヒドロキシアルカン酸に限定されず、その主鎖または側鎖に不飽和結合や環状構造を含んでいてもよい。
【0015】
2.ポリエステル合成酵素
本発明者らは、データベース上に存在する多数のPHA合成酵素PhaCのアミノ酸配列情報から、天然型PhaCReに相同性を有する配列を探索し、フルコンセンサス設計法と総称される人工タンパク質配列設計法(例えば、Hayashi et al. J Biosci Bioeng 2022 133(4):309-315参照)を用いて、PhaCReと配列相同性を有する多数の酵素のコンセンサス配列を計算し、かつ天然型PhaCAc配列とも相同性を有するアミノ酸配列を設計した。モチーフ検索と構造安定化を取り入れた独自のアルゴリズムにより、機能性の人工タンパク質配列が得られる可能性を高めた。このようにして設計されたタンパク質をコードする遺伝子を作成し、大腸菌内で発現させてポリマー合成能を調べた。その結果、設計した人工タンパク質の中から、PhaCARと同等の幅広い基質特異性と配列制御性を示す、6種の新規な人工ポリエステル合成酵素が得られた。さらに熱安定性を調べたところ、これら6種の人工ポリエステル合成酵素は、熱安定性に優れており、培養温度40℃においても良好なポリマー生産することが分かった。
【0016】
本願明細書において、上記6種の人工ポリエステル合成酵素をそれぞれ、FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC3、FcPhaC4、FcPhaC5WP、およびFcPhaC5Reと称する。FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC3、FcPhaC4、FcPhaC5WP、およびFcPhaC5Reのアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6に示される。したがって、本発明の一の態様は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むPHA合成酵素を提供する。好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリエステル合成酵素が提供される。
【0017】
FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC3、FcPhaC4、FcPhaC5WP、およびFcPhaC5Reはさらに、それぞれ、ポリエステル合成活性を保持する範囲において、上記のアミノ酸配列中に1以上の変異を有していてもよい。かかる変異体酵素の例として、限定するものではないが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。上記変異体酵素のさらなる例として、限定するものではないが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1~数個、例えば1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、あるいは1個または2個のアミノ酸残基の変異を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1~15個、例えば1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、あるいは1個または2個のアミノ酸残基の変異を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドが提供される。上記「変異」には、1以上のアミノ酸残基の置換、挿入、付加、および/または欠失が含まれる。また、アミノ酸配列の同一性は、当該分野においていずれかの既知の方法によって配列アライメントすることによって決定すればよい。例えば、限定するものではないが、BLASTプログラムなどの既知の方法を用いることができる。
【0018】
FcPhaC1の上記変異体酵素は、例えば、配列番号1のアミノ酸配列において、「T210、I221、L253、I264」を保持する。FcPhaC2の上記変異体酵素は、例えば、配列番号2のアミノ酸配列において、「S181、L192、L224、I235」を保持する。FcPhaC3の上記変異体酵素は、例えば、配列番号3のアミノ酸配列において、「S184、V195、L227、I238」を保持する。FcPhaC4の上記変異体酵素は、例えば、配列番号4のアミノ酸配列において、「T193、L204、L236、I247」を保持する。FcPhaC5WPの上記変異体酵素は、例えば、配列番号5のアミノ酸配列において、「T201、V212、L243、I255」を保持する。FcPhaC5Reの上記変異体酵素は、例えば、配列番号6のアミノ酸配列において、「T198、V209、L240、I252」を保持する。上記の4つの位置のアミノ酸残基からなる5種類のアミノ酸モチーフは、本発明における人工タンパク質アミノ酸配列の設計において重要なモチーフである。したがって、上記変異体酵素において、これらのアミノ酸モチーフ配列が維持されることが好ましい。上記の4つのアミノ酸位置は、上記6種のアミノ酸配列間での対応する位置である。対応するアミノ酸位置は、例えば、配列アライメントなどにより、当業者であれば容易に決定することができる。
【0019】
上記変異体酵素は、例えば、PhaCARのアミノ酸配列(配列番号7)の121位、149位、314位、323位、430位、454位、および509位からなる群から選択される1以上の位置に対応するアミノ酸位置に変異を有していてもよい。PhaCARにおける上記のアミノ酸位置は、PhaCARにおいて「優良変異点」として知られている位置であり、当該位置に変異を有することにより酵素の機能が上がることが知られている。したがって、本発明のポリエステル合成酵素においても、上記PhaCARにおける「優良変異点」に対応する位置に変異を有することにより、酵素機能が向上することが予測される。対応するアミノ酸位置は、例えば、配列アライメントなどにより、当業者であれば容易に決定することができる。FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC3、FcPhaC4、FcPhaC5WP、およびFcPhaC5Reのアミノ酸配列上における、PhaCARのアミノ酸配列(配列番号7)の121位、149位、314位、323位、430位、454位、および509位に対応する位置は、それぞれ、配列番号1のアミノ酸配列における109位、161位、330位、339位、441位、465位、および520位、配列番号2のアミノ酸配列における109位、136位、301位、310位、412位、436位、および495位、配列番号3のアミノ酸配列における112位、130位、304位、313位、416位、440位、および498位、配列番号4のアミノ酸配列における121位、148位、313位、322位、424位、448位、および503位、配列番号5のアミノ酸配列における129位、156位、321位、330位、432位、456位、および511位、ならびに配列番号6のアミノ酸配列における126位、153位、318位、327位、429位、453位、および508位である。上記変異は、好ましくは置換である。したがって、PhaCARのアミノ酸配列(配列番号7)の121位、149位、314位、323位、430位、454位、および509位に対応する位置における変異の好ましい例として、それぞれ、上記121位に対応する位置におけるアミノ酸残基のヒスチジン以外のアミノ酸残基への置換、例えばチロシンへの置換、上記149位に対応する位置におけるアミノ酸残基のアスパラギン以外のアミノ酸残基への置換、例えばアスパラギン酸への置換、上記314位に対応する位置におけるアミノ酸残基のフェニルアラニン以外のアミノ酸残基への置換、例えばロイシンへの置換、上記323位に対応する位置におけるアミノ酸残基のスレオニン以外のアミノ酸残基への置換、例えばイソロイシンへの置換、上記430位に対応する位置におけるアミノ酸残基のグリシン以外のアミノ酸残基への置換、例えばセリンへの置換、上記454位に対応する位置におけるアミノ酸残基のバリン以外のアミノ酸残基への置換、例えばアスパラギン酸への置換、および上記509位に対応する位置におけるアミノ酸残基のイソロイシン以外のアミノ酸残基への置換、例えばバリンへの置換が挙げられる。
【0020】
上記の6種の新規人工ポリエステル合成酵素およびその変異体を総称して、本願明細書においては「本発明のポリエステル合成酵素」または「本発明の酵素」という。
【0021】
本発明のポリエステル合成酵素は、耐熱性である。本願明細書において、「耐熱性」とは、酵素が30℃を超える温度下においてもポリエステル合成活性を保持する程度をいう。ここで、「ポリエステル合成活性を保持する」とは、既知のPHA合成酵素の一般的な至適温度、例えば30℃での本発明の酵素のポリエステル合成活性と比べて、約30%以上、好ましくは約40%以上、より好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上、またさらに好ましくは約70%以上、またさらに好ましくは約80%以上、またさらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは100%以上のポリエステル合成活性を有することをいう。より高温でより長時間より高い割合で活性が保持される酵素の方が、耐熱性が高いと言える。本発明のポリエステル合成酵素は、in vitro酵素活性試験において40℃以上でも30分間以上ポリエステル合成活性を保持する。また、組換え大腸菌を用いたポリマー生合成条件では、本発明のポリエステル合成酵素は、むしろ高温培養条件で、30℃と同等またはより高いポリマー生産性を示した。
【0022】
ポリエステル合成活性は、in vitroまたはin vivoのどちらで測定してもよい。in vitroで測定する場合、ポリエステル合成活性は試験するポリエステル合成酵素が基質と反応する速度により決定される。反応速度の測定は常法により行えばよい。例えば、粗酵素抽出液を各種温度で一定時間(例えば、10~30分間)維持した後、CoAチオエステル化させた基質ヒドロキシカルボン酸と30℃で一定時間(例えば、10~30分間)反応させ、生成した遊離CoAをエルマン試薬を用いて黄色色素に変換し、この色素の量を412nmの吸光度で定量することにより、反応速度を測定する。in vivoで測定する場合、例えば、酵素をコードする遺伝子を人為的に発現させた微生物(例えば、大腸菌)を作製し、基質となるヒドロキシカルボン酸またはその代謝前駆体を含有する培地中、各種温度で一定時間(例えば、24~48時間)培養後、生産したポリエステルを抽出し、その量を測定する。ポリエステルの合成量は活性と完全に比例しないものの、ポリエステル合成活性が著しく低い場合はポリエステルの合成量も少なくなることから、ポリエステル合成酵素の活性を大まかに評価することができる。本目的のためには、多くのPHA合成酵素の至適反応温度である30℃で微生物が培養される。ポリエステル合成酵素が高温で活性を保持する場合は、より高い温度で培養することが可能となる。
【0023】
生産されたポリエステル量の測定は、例えば、得られたポリエステルを硫酸・メタノールで処理してモノマーのメチルエステル体に変換した後、このメチルエステルをガスクロマトグラフィーで定量することによって行うことができる。
【0024】
本発明のポリエステル合成酵素は、1種または2種以上のヒドロキシカルボン酸を基質とする。本発明のポリエステル合成酵素の基質となるヒドロキシカルボン酸は、2位または2位以外の位置にヒドロキシ基を有する。前記ヒドロキシカルボン酸は、2個以上のヒドロキシ基を有していてもよい。前記「2位以外の位置」としては、ヒドロキシカルボン酸の鎖長にもよるが、例えば、3位、4位、5位、6位などが挙げられる。前記ヒドロキシカルボン酸が2個以上のヒドロキシ基を有する場合、2位および2位以外の位置にヒドロキシ基を有していてもよく、または2位以外の複数の位置にヒドロキシ基を有していてもよい。
【0025】
本発明のポリエステル合成酵素の基質となるヒドロキシカルボン酸の例として、限定するものではないが、炭素数2~14個のヒドロキシカルボン酸、好ましくは炭素数2~12個のヒドロキシカルボン酸、例えば、炭素数2~5個のヒドロキシカルボン酸、または炭素数6~12個のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸は、側鎖を有していてもよく、主鎖または側鎖に不飽和結合を含んでいてもよい。ヒドロキシカルボン酸はまた、主鎖の末端または側鎖に環状構造を含んでいてもよい。ヒドロキシカルボン酸はまた、主鎖の末端または側鎖にいずれかの官能基を有していてもよい。
【0026】
本発明のポリエステル合成酵素の基質となるヒドロキシカルボン酸のさらなる例として、限定するものではないが、炭素数2~12個の2-ヒドロキシカルボン酸、炭素数3~12個の3-ヒドロキシカルボン酸、炭素数4~12個の4-ヒドロキシカルボン酸、炭素数5~12個の5-ヒドロキシカルボン酸、炭素数6~12個の6-ヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、例えば、炭素数2~12個の2-ヒドロキシアルカン酸、炭素数3~12個の3-ヒドロキシアルカン酸、炭素数4~12個の4-ヒドロキシアルカン酸、炭素数5~12個の5-ヒドロキシアルカン酸、炭素数6~12個の6-ヒドロキシアルカン酸等が挙げられる。また、さらなる具体例として、限定するものではないが、2-ヒドロキシ酢酸(グリコール酸、GL)、2-ヒドロキシプロピオン酸(乳酸、LA)、2-ヒドロキシ酪酸(2HB)、2-ヒドロキシペンタン酸(2-ヒドロキシ吉草酸)、2-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸(3HP)、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)、3-ヒドロキシペンタン酸(3-ヒドロキシ吉草酸、3HV)、3-ヒドロキシヘキサン酸(3HHx)、4-ヒドロキシ-2-メチル酪酸(4H2MB)、4-ヒドロキシ酪酸、2,4-ジヒドロキシ酪酸(24DHB)、5-ヒドロキシペンタン酸(5-ヒドロキシ吉草酸、5HV)、6-ヒドロキシヘキサン酸(6HHx)等が挙げられる。2-ヒドロキシカルボン酸の具体例として、さらに、アミノ酸から誘導される、すなわち、アミノ酸のアミノ基がヒドロキシ基に置換されて得られる2-ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。かかるアミノ酸から誘導される2-ヒドロキシカルボン酸の例として、限定するものではないが、ロイシン、イソロイシン、バリン、またはフェニルアラニンにおいてアミノ基がヒドロキシ基に置換された2-ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0027】
本発明のポリエステル合成酵素は、選択される基質の種類およびその組み合わせによって様々なポリエステルを合成することができる。例えば、1種類のヒドロキシカルボン酸を基質とする場合、単独重合体が合成される。また、例えば、2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸および2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含む2種以上のヒドロキシカルボン酸を基質とする場合、本発明のポリエステル合成酵素により、ブロック共重合体が合成される。2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含む2種以上のヒドロキシカルボン酸を基質とする場合、本発明のポリエステル合成酵素により、ランダム共重合体が合成される。前記2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸には、2位と2位以外の1以上の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸も包含される。かくして、本発明の酵素は、配列制御性のポリエステル合成酵素である。
【0028】
3.ポリエステル
本発明のポリエステル合成酵素は、1種または2種以上のヒドロキシカルボン酸を基質とすることができ、モノマーユニットとして2個以上のヒドロキシカルボン酸がエステル結合によって重合された、単独重合体(ホモポリマー)または共重合体(コポリマー)が合成される。上記したように、選択される基質の種類およびその組み合わせによって様々なポリエステルが合成される。
【0029】
共重合体には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、およびグラジエント共重合体が包含される。共重合体は、2種類以上モノマーユニットを含み、例えば、2種、3種、または4種以上のモノマーユニットを含んでいてもよい。ランダム共重合体は、2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸である2種以上のモノマーユニットから構成される。ブロック共重合体を構成するモノマーユニットの少なくとも1種は、2位にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸である。
【0030】
ブロック共重合体には、1種のモノマーからなるホモ重合セグメントと別の1種のモノマーからなるホモ重合セグメントを含む共重合体、ホモ重合セグメントと共重合セグメントを含む共重合体、2種以上の共重合セグメントからなる共重合体がある。前記共重合セグメントは、ランダム構造、ブロック構造、またはグラジエント構造を有していてもよく、それぞれ、ランダム共重合セグメント、ブロック共重合セグメント、またはグラジエント共重合セグメントと呼ぶ。したがって、ブロック共重合体は、ランダム共重合セグメント、ブロック共重合セグメント、およびグラジエント共重合セグメントから選ばれる1種または2種以上のセグメントを含んでいてもよい。本願明細書において、「セグメント」とは、ブロック共重合体における各ブロックを構成する構成単位である。1種類のモノマーから構成される単位を「ホモ重合セグメント」、2種類以上のモノマーから構成される単位を「共重合セグメント」と呼ぶ。ランダム共重合セグメントに含まれる全てのモノマーは、2位以外の位置にヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸であり、ランダム共重合セグメントは2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸を含まない。ブロック共重合セグメントに含まれる少なくとも1種のモノマーは、2位のみにヒドロキシ基を有するヒドロキシカルボン酸である。ブロック共重合体におけるモノマーの配列は、選択される基質の種類およびその組み合わせ、ポリエステル合成酵素の種類によって決定される。
【0031】
前記重合体の重合度は、基質の種類等の様々な因子に依存し、限定されないが、モノマーユニット数として、例えば1000以上、好ましくは5000以上、さらに好ましくは10000以上が挙げられる。重合度は高ければ高いほど好ましいが、一例として、1000~10000程度であってもよい。
【0032】
合成された重合体の構造、モノマー組成および配列、平均分子量等は、例えば、核磁気共鳴(NMR)法、ガスクロマトグラフィー、示差走査熱量測定(DSC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析することができる。
【0033】
4.ポリエステルの製造方法
本発明のポリエステル合成酵素、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を発現している微生物を、前記ヒドロキシカルボン酸またはその代謝前駆体を含む培地中で培養することにより、前記微生物においてポリエステルを製造させることができる。
【0034】
本願明細書において、「CoA転移酵素」とは、前記ヒドロキシカルボン酸にCoA(補酵素A)を転移させる反応を触媒する酵素である。例えば、限定するものではないが、プロピオニル-CoA転移酵素(PCT、propionyl-CoA transferase)、2H4MV-CoA転移酵素(HadA)等が挙げられる。PCTは一般に、炭素数5個以下の短鎖ヒドロキシカルボン酸を対応するCoAチオエステルに変換することが知られている。本願明細書において、「CoA化酵素」とは、前記ヒドロキシカルボン酸にCoA(補酵素A)を結合させる反応を触媒する酵素である。例えば、限定するものではないが、炭素数6~12個の中鎖3-ヒドロキシアルカン酸CoAライゲース(AlkK)が挙げられる。AlkKは、中鎖3-ヒドロキシカルボン酸または4個以上の炭素からなる主鎖を有するヒドロキシカルボン酸と、CoAとの縮合を触媒することが知られている。したがって、例えば、炭素数5個以下のヒドロキシカルボン酸を基質とする場合は、好ましくはPCTが用いられる。例えば、炭素数6個以上のヒドロキシカルボン酸または炭素数4個以上の主鎖を有するヒドロキシカルボン酸を基質とする場合は、好ましくはAlkKが用いられる。
【0035】
PCTは、EC:2.8.3.1に分類される酵素である。本願明細書において使用される場合、PCTの由来はいずれであってもよい。例えば、大腸菌での発現を容易にするという観点から、メガスフェラ(Megasphaera)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、または大腸菌(Escherichia)属細菌由来のPCTが好ましく、メガスフェラ属細菌由来のPCTがより好ましく、Megasphaera elsdenii由来のPCTがさらに好ましい。当業者であれば、公知のデータベース等における遺伝子(ヌクレオチド配列)情報を利用して、当該分野における既知の方法により、同種若しくは他の細菌等からその相同遺伝子を同定することが可能である。かかる相同遺伝子によってコードされるポリペプチドも、PCTとして利用することができる。PCTはまた、その触媒活性を保持する限り、野生型アミノ酸配列に対して1以上のアミノ酸変異を含む変異型酵素であってもよい。アミノ酸変異には、1以上のアミノ酸の置換、欠失、付加、および/または挿入が包含される。アミノ酸変異の数は、限定するものではないが、好ましくは1~15個、例えば1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、あるいは1個または2個であってもよい。前記PCTの変異型酵素はまた、その触媒活性を保持する限り、野生型アミノ酸配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。PCTの変異体または相同体が触媒活性を有するか否かは、例えば、当該分野で既知の方法によってそれらの触媒活性を測定して判定することができる。
【0036】
AlkKは、EC:6.2.1.3に分類される酵素である。本願明細書において使用される場合、AlkKの由来はいずれであってもよい。例えば、限定するものではないが、シュードモナス細菌、例えば、Pseudomonas oleovoransまたはPseudomonas putida由来のものが挙げられる。当業者であれば、公知のデータベース等における遺伝子(ヌクレオチド配列)情報を利用して、当該分野における既知の方法により、同種若しくは他の細菌等からその相同遺伝子を同定することが可能である。かかる相同遺伝子によってコードされるポリペプチドも、AlkKとして利用することができる。AlkKはまた、その触媒活性を有する限り、野生型アミノ酸配列に対して1以上のアミノ酸変異を含む変異型酵素であってもよい。アミノ酸変異には、1以上のアミノ酸の置換、欠失、付加、および/または挿入が包含される。アミノ酸変異の数は、限定するものではないが、好ましくは1~15個、例えば1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、あるいは1個または2個であってもよい。前記AlkKの変異型酵素はまた、その触媒活性を保持する限り、野生型アミノ酸配列に対して、少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。AlkKの変異体または相同体が触媒活性を有するか否かは、当該分野で既知の方法により確認することができる。例えば、当該酵素の反応によって生じたアシルCoAを、アシルCoAオキシダーゼによって特異的に酸化し、ここで生じた過酸化水素を、ペルオキシダーゼの存在下で、4-アミノアンチピリンと、3-メチル-N-エチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン又はフェノールとにより発色させて検出する方法を用いて判定してもよい。
【0037】
本発明のポリエステル合成酵素、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を発現する微生物は、前記酵素をコードする核酸、例えばDNAを宿主微生物に導入して発現させることによって得ることができる。2種以上のポリエステル合成酵素または2種以上のCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を1の宿主微生物中で発現させてもよい。前記酵素をコードする核酸の宿主微生物への導入は、当該分野で既知の方法によって行えばよく、例えば、相同組換えによる宿主染色体への導入であってもよい。
【0038】
前記宿主微生物としては、ポリエステル合成酵素、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を機能的に発現できる微生物であればいずれであってもよく、特に限定されない。生来的にCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を発現している微生物であってもよい。CoA転移酵素および/またはCoA化酵素を生来的に発現している微生物を宿主として用いる場合は、ポリエステル合成酵素をコードする核酸のみを宿主微生物に導入することもできるが、通常は、ポリエステル合成酵素をコードする核酸、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素をコードする核酸を微生物に導入することが好ましい。
【0039】
宿主微生物の例としては、限定するものではないが、大腸菌(Escherichia coli)、水素細菌(Cupriavidus necator)、コリネ型細菌、酵母、ラルストニア属細菌、シュードモナス属細菌等が挙げられる。これら微生物の中で、ポリマー生産性とその生産安定性の観点からは水素細菌が好ましく、糖質原料の効率的利用と多様な構造のポリマー合成の観点からは大腸菌がより好ましく使用される。大腸菌の菌株は特に限定されないが、一例として、E.coli JM109株が挙げられる。
【0040】
前記微生物において目的の酵素を発現させるために、前記酵素をコードする核酸(例えばDNA)は、ベクターに組み込まれた形態で宿主微生物中に導入してもよい。前記酵素をコードする核酸のベクターへの挿入は、遺伝子工学の分野で慣用されている公知の技術を用いて行うことができる。
【0041】
前記ベクターは、自己複製ベクターであってもよく(すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない)、または宿主細胞に導入されたとき、その宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。かかるベクターとしては、当該分野で既知のベクターを用いることができ、例えば、限定するものではないが、プラスミドベクター、ファージベクター等が挙げられる。宿主に適したベクターを使用すればよく、各宿主に適した多くのベクターが知られており、市販のベクターまたは既知のベクター、またはこれらを改変したベクターを用いるこができる。
【0042】
前記酵素をコードする核酸は、好ましくは、ベクター中において、各タンパク質の転写翻訳を調節することのできるプロモーターの下流に挿入される。プロモーターとしては、宿主中で遺伝子の転写を調節できるものであればいずれであってもよく、好ましくは、宿主細胞と同種または異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御するものが用いられる。大腸菌を宿主として用いる場合のプロモーターの例として、限定するものではないが、lacプロモーター、trpプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター、カプリアビダス・ネカトールのphbオペロンのプロモーター領域等が挙げられる。水素細菌を宿主として用いる場合のプロモーターの例として、限定するものではないが、当該細菌由来のphaC1遺伝子プロモーター、当該細菌由来のphaP1遺伝子プロモーター等が挙げられる。コリネ型細菌を宿主として用いる場合のプロモーターの例として、限定するものではないが、コリネバクテリウム・グルタミカム由来の細胞表層タンパク質遺伝子プロモーターが挙げられる。酵母を宿主として用いる場合のプロモーターの例として、限定するものではないが、gal1プロモーター、gal10プロモーターが挙げられる。シュードモナス属細菌を宿主として用いる場合、例えば、phaC1Ps遺伝子上流またはphbCABReオペロン上流のプロモーターを含む領域を用いることができる。
【0043】
ベクターはさらに、ターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、リボゾーム結合配列(SD配列)等の発現制御配列、または発現を誘導する配列を含んでいてもよい。発現誘導配列の例としては、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により、下流に配置された遺伝子の発現を誘導することのできるラクトースオペロンが挙げられる。
【0044】
ベクターはさらに、選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子は、形質転換された微生物細胞の選択の方法に応じて適宜選択されてよく、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子(栄養要求性を相補する遺伝子)、ルシフェラーゼ等の化学発光に関する遺伝子、GFP等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0045】
本発明のポリエステル合成酵素をコードする核酸、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素をコードする核酸は、1のベクター中に挿入されていてもよく、または別個のベクター中に挿入されていてもよい。また、2種以上の本発明のポリエステル合成酵素を用いる場合、当該2種以上の酵素をコードする核酸は1のベクター中に挿入されていてもよく、1種ずつ別々のベクター中に挿入されていてもよい。2種以上のCoA転移酵素を用いる場合、当該2種以上の酵素をコードする核酸は1のベクター中に挿入されていてもよく、1種ずつ別々のベクター中に挿入されていてもよい。2種以上のCoA転移酵素を用いる場合、当該2種以上の酵素をコードする核酸は1のベクター中に挿入されていてもよく、1種ずつ別々のベクター中に挿入されていてもよい。CoA転移酵素およびCoA化酵素の両方を用いる場合、当該2種の酵素をコードするそれぞれの核酸は1のベクター中に挿入されていてもよく、1種ずつ別々のベクター中に挿入されていてもよい。一つのベクターに複数種の核酸が挿入される場合、これらの核酸はオペロンを形成することが好ましい。ここで「オペロン」とは、同一のプロモーターの制御下に転写される1又は複数の遺伝子から構成される核酸配列単位である。
【0046】
前記酵素をコードする核酸、または当該核酸が挿入されているベクターは、公知の手法によって前記宿主微生物中に導入すればよい。かかる導入方法としては、例えば、限定するものではないが、塩化カルシウム法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法、カルシウムイオンを用いる方法等が挙げられる。
【0047】
かくして得られた本発明のポリエステル合成酵素、およびCoA転移酵素および/またはCoA化酵素を発現する微生物を、前記ヒドロキシカルボン酸またはその代謝前駆体を含む培地中で培養する。前記培地(以下、「ポリエステル生産用培地」という)は、前記ヒドロキシカルボン酸またはその代謝前駆体のほかに、炭素源をはじめ、微生物の生育に必要な栄養源を含む。炭素源以外の栄養源としては、例えば、窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源が挙げられる。
【0048】
前記栄養源は、前記微生物が資化可能であればいずれであってもよい。例えば、炭素源として、限定するものではないが、グルコース、フルクトース、スクロース等の糖類;パーム油、パーム核油、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油等の油脂やその分画油類;ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリンスチン酸等の脂肪酸やそれらの誘導体等が挙げられる。窒素源としては、例えば、アンモニア;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。その他の有機栄養源としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸;ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。ポリエステル生産用培地中における各栄養源の濃度は、前記微生物が十分に生育または維持される濃度であればよく、当業者によって適宜決定される。
【0049】
前記栄養源を含む培地として、前記宿主微生物の生育または維持に適した既知組成の培地または市販の培地を用いることができ、かかる培地に前記ヒドロキシカルボン酸またはその代謝前駆体を加えることにより、ポリエステル生産用培地を調製してもよい。前記宿主微生物の生育に適した既知組成の培地または市販の培地としては、例えば、限定するものではないが、大腸菌等の培養のために、LB培地(10g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウムを含有)、水素細菌、Pseudomonas putidaの培養のために、窒素源制限無機塩培地(例えば、9g/L Na2HPO4,1.5g/L KH2PO4,0.5g/L NH4Cl,0.2mg/L MgSO4,微量元素を含有)、リン源制限無機塩培地(例えば、グルコース 1g/L,KNO3 0.5g/L,MgSO4(7H2O) 0.2g/L,CaC12 0.1g/L,NaC1 0.1g/L、8.0mg K2HPO4、2.0mg KH2PO4を含有、pH7)等が挙げられる。
【0050】
ポリエステル生産用培地に含まれるヒドロキシカルボン酸は、R体であってもよく、またはラセミ体であってもよい。好ましくはR体のヒドロキシカルボン酸が使用される。ヒドロキシカルボン酸は、これ以外の成分を含む培地のpHを調整(中和等)した後で加えてもよい。また、ヒドロキシカルボン酸は、塩の形態であってもよい。かかる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。ポリエステル生産用培地中におけるヒドロキシカルボン酸の濃度は、所望のポリエステルの合成に適した濃度であればよく、当業者によって適宜決定すればよい。例えば、限定するものではないが、1~20g/L程度、例えば1~10g/L程度であってもよい。
【0051】
ヒドロキシカルボン酸を生合成することができる微生物を前記宿主微生物として使用する場合は、ヒドロキシカルボン酸の代わりに、それらの代謝前駆体(代謝の出発物質等)を用いることができる。かかる代謝前駆体としては、微生物における代謝経路によって所望のヒドロキシカルボン酸に最終的に変換され得る物質であればよく、特に限定されない。例えば、2-ヒドロキシ酪酸に変換するために、グルコース、スレオニン、2-ケト酪酸等を使用することができる。例えば、3-ヒドロキシ酪酸に変換するために、グルコース、ピルビン酸等を使用することができる。例えば、3-ヒドロキシ吉草酸に変換するために、2-ヒドロキシ酪酸、2-オキソ酪酸、スレオニン、プロピオン酸等を使用することができる。
【0052】
培養温度は、前記微生物が生育可能な範囲、かつ、各酵素活性が発揮される範囲であればよく、特に限定されない。例えば、25~50℃、好ましくは30~48℃、特に好ましくは30℃~45℃、例えば30℃超~43℃、32℃~42℃、または35℃~40℃、例えば37℃または40℃付近で培養してもよい。また、前記微生物の種類によって、好気的条件または嫌気的条件は適宜選択し得るが、重合体合成がより促進され易いという観点から、好気的条件が好ましい。培養時間は、所望の重合体の生産量等に応じて適宜調整することができる。例えば、12時間~1週間、好ましくは1~3日培養してもよい。前記微生物を高温で培養すれば、ガラス転移温度が高いポリエステルの効率のよい生産が可能になると考えられる。
【0053】
前記微生物を培養して得られる培養物から、合成された重合体を回収する。本願明細書において、「培養物」には、微生物を培地で培養することによって得られる、増殖した当該微生物、該微生物の分泌産物および代謝産物等を含有する培地、それらの希釈物、濃縮物が包含される。培養物からの重合体の回収方法としては、特に限定されないが、例えば、当該分野で既知の方法を用いることができる。例えば、培養終了後、培地から遠心分離処理等で微生物を分離し、微生物を蒸留水及びメタノール等により洗浄し、乾燥(例えば、凍結乾燥)させ、得られた乾燥菌体を、クロロホルム等の有機溶剤を用いて加熱処理することによって、重合体を抽出してもよい。かくして、重合体を含有する有機溶剤溶液が得られ、該溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、ろ液にメタノールまたはヘキサン等の貧溶媒を加えて重合体を沈殿させてもよい。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させて重合体を回収することができる。
【0054】
5.in vitroでのポリエステル製造方法
前記ヒドロキシカルボン酸のCoAチオエステルを用いて、本発明のポリエステル合成酵素により前記ヒドロキシカルボン酸の重合体を製造することができる。したがって、少なくとも1種のヒドロキシアルカン酸CoAチオエステルを本発明のポリエステル合成酵素の存在下で反応させることを含む、ポリエステルの製造方法が提供される。
【0055】
前記ヒドロキシカルボン酸のCoAチオエステルと本発明のポリエステル合成酵素の反応は、例えば、25~50℃、好ましくは30~48℃、特に好ましくは30℃~45℃、例えば30℃超~43℃、32℃~42℃、または35℃~40℃、例えば37℃または40℃付近の温度で行うことができる。反応時間は、所望の重合体の生産量等を考慮して、当業者が適宜決定すればよい。例えば、30分~1時間であってもよい。使用するポリエステル合成酵素およびヒドロキシカルボン酸CoAチオエステルの量もまた、同様に、当業者が適宜決定することができる。
【実施例0056】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1:ポリエステル合成酵素の設計
データベース上に存在する多数のPHA合成酵素PhaCのアミノ酸配列情報から、天然型PhaC
Reに相同性を有する配列を探索し、フルコンセンサス設計法により、PhaC
Reと配列相同性を有する多数の酵素のコンセンサス配列を計算し、かつ天然型PhaC
Ac配列とも相同性を有するアミノ酸配列を設計した。設計は以下の手順で実施した。まず、PhaC
Re(天然型)を鋳型配列とし、Blastpを用いてデータベースよりホモログ配列を4956個(相同性40%以上)取得した。取得した配列の中で90%以上の相同性があるもの、PhaC
Reと比べて3%以上長い、あるいは短い配列を除去して、2093配列を配列ライブラリとした。配列ライブラリを独自のソフトウェアで解析し、分類に重要なアミノ酸残基として198位、209位、241位、および252位を同定した。このアミノ酸残基の組み合わせがTILI、SLLI、SVLI、TLLI、およびTVLIとなっている配列をライブラリから分類したところ、それぞれ49配列(分類1)、24配列(分類2)、25配列(分類3)、54配列(分類4)、および80配列(分類5)を取得できた。分類後の配列をマルチプルシーケンスアラインメントソフトウェア「MAFFT」を用いて解析した後、その出力結果を用いて完全コンセンサス設計を行なった。N末端の相同性が低く設計が不可能であった。独自のソフトウェアで解析し、分類1から5までの配列データの中から、最もコンセンサス残基に近い天然由来の配列をそれぞれ選抜し、N末端の代表配列とした。前記設計した完全コンセンサス配列に対し、分類群1から5の代表配列におけるN末端100残基を移植して、それぞれ、FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC3、FcPhaC4、FcPhaC5WPと命名した。さらに、FcPhaC5のN末端にPhaC
ReのN末100残基を移植した、FcPhaC5Reを設計した。設計した各ポリエステル合成酵素のアミノ酸配列をそれぞれ、配列番号1~6に示す。系統樹解析から分かるように、設計された6種の配列は、PhaC
AcとPhaC
Reの両方に相同性を有する(
図1)。
【0058】
【0059】
【0060】
実施例2:ポリエステル合成酵素を用いるポリマーP(3HB)の合成
実施例1で設計した6種のポリペプチド(以下、「FcPhaCシリーズ」ともいう)のポリマー合成能を調べた。簡単に言うと、実施例1で設計されたアミノ酸配列に基づいてDNAを化学合成し(配列番号8~13)、各設計タンパク質をコードする遺伝子を構築した。これを、モノマー供給系酵素であるPCT遺伝子(配列番号14)およびAlkK遺伝子(配列番号15)と共に、プラスミドベクターを用いて塩化カルシウム法により大腸菌JM109株に導入した。プラスミドベクターは、pBluescript KS+に由来するpBS PRephaCARpct alkK(H. Tomita et al., Bioscience Biotechnology and Biochemistry, Vol.86, Issue 2, February 2022, pp. 217-223; DOI : 10.1093/bbb/zbab198)のphaCARを各種FcPhaCで置き換えることによって調製した。pBS PRephaCARpct alkKは、Ralstonia eutropha由来phbオペロンプロモータの下流に、PhaCAR、pct、AlkK遺伝子が挿入されている。対照として、前記新規酵素遺伝子の代わりに、天然のPHA合成酵素OYVの遺伝子(NCBI Accession No. OYV33691.1の配列に基づき設計)または既知のキメラPHA合成酵素PhaCARの遺伝子を上記プラスミドベクターに挿入して、またはpBS PRephaCARpct alkKを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌JM109株に導入した。得られた形質転換株を、ポリマー前駆体として2.5g/Lの3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムおよび2%グルコースを含むLB培地100mL中、30℃で48時間振盪培養してポリマー生産を行った。培養後の菌体を凍結乾燥し、蓄積されたポリマーをクロロホルム抽出した。ポリマーの重量を電子天秤によって測定した。
【0061】
得られた重合体ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)[以下、P(3HB)ともいう]の重量に基づいて、ポリマー生産性を求めた。ポリマー生産性は、菌体培養液1Lあたりのポリマー生産量(g/L)として表す。結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、試験した全てにおいてポリマーが合成されたことから、実施例1で設計した6種全てのポリペプチドが高い頻度で機能的であることが示された。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
実施例3:ポリエステル合成酵素を用いるポリマーP(GL-co-3HB)、P(LA-co-3HB)、P(2HB-co-3HB)の合成
実施例1で設計した6種の酵素の基質特異性を評価するため、2位のみにヒドロキシ基を有するグリコール酸(GL)、乳酸(LA)、および2-ヒドロキシ酪酸(2HB)について、それぞれを培地に添加して3HBとの共重合体を合成した。簡単に言うと、実施例2と同様にして、各種ポリエステル合成酵素を発現させた大腸菌JM109株を作製し、グリコール酸(GL)ナトリウム5.0g/L、乳酸(LA)ナトリウム10g/L、および2-ヒドロキシ酪酸(2HB)ナトリウム2.5g/Lのいずれかと、2.5g/Lの3HBとを含むLB培地100mL中、30℃で48時間振盪培養した。実施例2と同様にして、合成されたポリマーを回収し、重量を測定した。さらに、1H NMR分析に付して、各ポリマー中のGL分率、LA分率、および2HB分率を求めた。
【0069】
ポリマー生産量の結果を
図3~
図5に示し、各ポリマーにおけるGL、LAおよび2HB分率の結果を表3~5に示す。また、NMR解析データの一部を
図6~8に示す。
【0070】
【0071】
【表4】
LA分率=0の条件では、得られたポリマーはP(3HB)である。
【0072】
【表5】
2HB分率=0の条件では、得られたポリマーはP(3HB)である。
【0073】
いずれの条件でも、人工設計ポリエステル合成酵素はPhaC
ARと同様に共重合体を合成可能であった(
図3~5)。とくにFcPhaC4は、PhaC
ARよりもGL分率が高く(表3)、2HB分率も高かった(表5)。さらに、得られたポリマーの
1H NMR解析から、FcPhaCシリーズにより合成されたP(GL-co-3HB)、P(LA-co-3HB)、およびP(2HB-co-3HB)は、PhaC
AR同様に、ブロック構造を有していることが分かった(例えば、
図6~8)。P(GL-co-3HB)は、3HBのホモ重合セグメントと、3HBとGLとのランダム共重合セグメントとから構成されるブロック共重合体[P(3HB)-block-P(3HB-ran-GL)]であった。P(LA-co-3HB)は、LAのホモ重合セグメントと3HBのホモ重合セグメントとから構成されるブロック共重合体であった。P(2HB-co-3HB)は、2HBのホモ重合セグメントと3HBのホモ重合セグメントとから構成されるブロック共重合体であった。以上より、FcPhaCシリーズは、基質特異性および配列制御性については、PhaC
ARと似た機能を有することが明らかとなった。
【0074】
実施例4:ポリエステル合成酵素を用いるポリマーP(6HHx-co-3HB)、P(3HHx-co-3HB)の合成
実施例3と同じ方法で、大腸菌JM109株形質転換体を用いてポリマー合成を行った。但し、培地中には、2.5g/Lの6-ヒドロキシヘキサン酸(6HHx)または1.0g/Lの3-ヒドロキシヘキサン酸(3HHx)のナトリウム塩と、2.5g/Lの3HBのナトリウム塩とを加えた。
【0075】
ポリマー生産量の結果を
図9および10に示し、各ポリマーにおける6HHxおよび3HHx分率の結果を表6および表7に示す。また、NMR解析データの一部を
図11および12に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
いずれの条件でも、人工設計ポリエステル合成酵素はPhaC
ARと同様に共重合体を合成可能であった(
図9および10)。特に、FcPhaC1、FcPhaC2、FcPhaC4、FcPhaC5Re、FcPhaC5WPは、PhaC
ARよりも6HHx分率が高く(表6)、3HHx分率も高かった(表7)。さらに、得られたポリマーの
1H NMR解析から、FcPhaCシリーズにより合成されたP(6HHx-co-3HB)、およびP(3HHx-co-3HB)は、PhaC
AR同様に、ランダム構造を有していることが分かった(例えば
図11および12)。以上より、FcPhaCシリーズは、基質特異性および配列制御性については、PhaC
ARと似た機能を有することが明らかとなった。
【0079】
実施例5:ポリエステル合成酵素のin vitroでの耐熱性試験
実施例1で設計されたFcPhaCシリーズ酵素の熱安定性を調べた。実施例2で作製した各酵素を発現する組換え大腸菌から粗抽出液を得、所定の温度(30℃、40℃、50℃、または60℃)で30分保持した後、3HB-CoAに対する活性を測定し、30℃で処理した場合の活性を1として相対活性を求めた。活性の評価方法として、一定時間後の反応生成物である遊離CoAの濃度を、1mM エルマン試薬による発色と、412nmによる吸光度測定により計測した。
【0080】
結果を
図13に示す。PhaC
ARが50℃の熱処理で完全に失活したのに対し、FcPhaC3を除く本発明のPHA合成酵素は50℃以上の熱処理後でも活性を保持し、なかでもFcPhaC1、FcPhaC4、FcPhaC5Re、およびFcPhaC5WPは60℃で処理後も活性を保持していた。したがって、本発明のPHA合成酵素では耐熱性が上昇していることが明確に示された。
【0081】
実施例6:ポリエステル合成酵素のin vivoでの耐熱性試験
実施例1で設計されたFcPhaCシリーズ酵素の熱安定性を、in vivoポリマー合成系において調べた。簡単に言うと、実施例3と同じ方法でP(GL-co-3HB)の生合成を行った。但し、培養温度条件は、30℃、35℃、37℃、40℃、45℃とした。さらに、培養後の菌体の乾燥重量を求め、乾燥重量(CDW)あたりのポリマー合成量を求めた。
【0082】
結果を
図14~
図17に示す。PhaC
ARが温度上昇に伴いポリマー生産性およびGL分率が急激に低下するのに対して、FcPhaCシリーズでは、GL分率の低下が無く、ポリマー生産量も37~40℃が至適であり、PhaC
ARよりも熱安定性が高いことが明確に示された(
図14~17)。45℃で培養した場合は、菌体重量が著しく低下した(
図16)。したがって、45℃におけるポリマー生産量が非常に小さくなったのは、宿主とした大腸菌の至適生育温度を越えているためであることが分かった。