(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033690
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】薬品用容器
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240306BHJP
B65D 8/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
B65D8/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137439
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508129090
【氏名又は名称】ジェレスト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】福井 浩
【テーマコード(参考)】
3E061
5F157
【Fターム(参考)】
3E061AA16
3E061AB05
3E061AC09
5F157BD52
5F157DB03
5F157DB12
5F157DC82
5F157DC90
(57)【要約】
【課題】半導体製造用の薬品用容器において、容器の薬品に接する面が化学的、物理的変化に対して安定しており、薬品の初期段階における純度を長期にわたって保持することのできる、優れた品質の容器を提供する。
【解決手段】薬品を収容するための凹部が設けられた金属製の容器本体1と、前記凹部の内面を被覆するDLC層3、4からなる被覆層5を備え、前記被覆層5の厚みが10~5000nmに設定されている、半導体製造用の薬品用容器である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造に用いられる薬品を収容するための容器であって、前記薬品を収容するための凹部が設けられた金属製の容器本体と、前記凹部の内面を被覆するDLC層とを備え、前記DLC層の厚みが10~5000nmに設定されている薬品用容器。
【請求項2】
前記DLC層が、互いに水素原子含有量の異なる少なくとも2層を有する、請求項1記載の薬品用容器。
【請求項3】
前記容器本体が、鉄、銅、アルミニウム、またはこれら金属の合金で形成されている、請求項1または2記載の薬品用容器。
【請求項4】
前記容器本体が、オーステナイト系ステンレスで形成されている、請求項1または2記載の薬品用容器。
【請求項5】
前記容器本体が、SUS316またはSUS304で形成されている、請求項1または2記載の薬品用容器。
【請求項6】
前記容器本体に設けられた凹部の、前記DLC層で被覆される内面の表面粗さRaが、0.1μm以下である、請求項1または2記載の薬品用容器。
【請求項7】
前記容器本体の、DLC層で被覆された凹部内に5.0質量%の塩化ナトリウム水溶液を充填し、25℃で250時間静置した後の、前記凹部内面における腐食減量が0.5mg/m2・hr以下である、請求項1または2記載の薬品用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程で使用する各種の薬品、とりわけ超純度であることが要求されるレジストや洗浄溶剤等の薬品を、その純度を損なうことなく保存し、あるいは移送するのに適した薬品用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程においては、層形成や層のパターニング、洗浄等の各種の工程において、多種多様な高純度の薬品が用いられているが、それらの薬品を移送する際や、容器内で保存している際に、容器自身が薬品に溶出したり、腐食によって脱落したりして薬品に異物として混入する場合がある。また、容器に生じる帯電によって外部の粉塵が付着して容器開閉時に容器内に侵入することによって薬品を汚染する場合もある。
【0003】
このような、高純度薬品への異物の混入は、半導体製品の製造工程において致命的になり、複数からなるすべての工程において、不良品の対象となりかねない。このため、このような薬品用容器としては、例えば遮光性、ガスバリア性、耐薬品性、保存安定性、耐引火性、耐熱性、帯電防止性等の、要求される性能に応じて、ガラス、プラスチック、金属等の、適宜の材質のものが選択され、容器内における薬品の純度保持が重要な課題となっている。
【0004】
また、最近は、遮光性、ガスバリア性、耐熱性等に優れる金属製容器の内面(薬品と接する面)を、フッ素系樹脂等でコーティングすることにより、金属自身の腐食や溶出を防止する技術が提案されている(例えば下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属製容器の内面をフッ素系樹脂等でコーティングしたものは、コーティング層の硬度が金属に比べて低いため、耐スクラッチ性に劣り、層の損傷によって削られた樹脂が異物となる可能性があるという問題がある。また、コーティング層は撥水性が高いため、使用後の洗浄において各種溶剤等で洗浄しても内部に除去すべき薬品が残留するおそれがあるという問題もある。さらには、コーティング層が帯電しやすいため静電気によって外部の粉塵を寄せつけやすいという問題もある。
【0007】
このため、このような問題を生じることのない、薬品の純度をより安定して保持することのできる優れた容器の開発が望まれているが、そのようなものは未だ実現していないのが実情である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、半導体製造工程で用いられる薬品用容器において、容器の薬品に接する面が化学的、物理的変化に対して安定しており、薬品の初期段階における純度を長期にわたって保持することのできる、優れた品質の容器の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み、容器のうち、金属製の薬品収容用の凹部内を、DLC層で被覆することにより、優れた効果を奏することを見いだし、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 半導体製造に用いられる薬品を収容するための容器であって、前記薬品を収容するための凹部が設けられた金属製の容器本体と、前記凹部の内面を被覆するDLC層とを備え、前記DLC層の厚みが10~5000nmに設定されている薬品用容器。
[2] 前記DLC層が、互いに水素原子含有量の異なる少なくとも2層を有する、[1]記載の薬品用容器。
[3] 前記容器本体が、鉄、銅、アルミニウム、またはこれら金属の合金で形成されている、[1]または[2]記載の薬品用容器。
[4] 前記容器本体が、オーステナイト系ステンレスで形成されている、[1]~[3]のいずれかに記載の薬品用容器。
[5] 前記容器本体が、SUS316またはSUS304で形成されている、[1]~[4]のいずれかに記載の薬品用容器。
[6] 前記容器本体に設けられた凹部の、前記DLC層で被覆される内面の表面粗さRaが、0.1μm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の薬品用容器。
[7] 前記容器本体の、DLC層で被覆された凹部内に5.0質量%の塩化ナトリウム水溶液を充填し、25℃で250時間静置した後の、前記凹部内面における腐食減量が0.5mg/m2・hr以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の薬品用容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薬品用容器によれば、金属製の容器本体における薬品収容用の凹部内面が、所定厚みのDLC層によって被覆されており、このDLC層が、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性、耐ピンホール性に優れ、しかも洗浄しやすく、帯電しにくいことから、凹部に収容された薬品が異物で汚染されることがなく、長期の保存や移送によっても、高い純度を保持することができる。
したがって、この薬品用容器を用いて半導体製造用の薬品を取り扱うことにより、優れた品質の半導体製品を、安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】は、本発明の一実施形態である薬品用容器を示す分解斜視図である。
【
図2】は、
図1のA-A’断面を部分的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
なお、本発明において「Y~Z」(Y,Zは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「Y以上Z以下」の意と共に、「好ましくはYより大きい」または「好ましくはZより小さい」の意も包含する。
また、「Y以上」(Yは任意の数字)または「Z以下」(Zは任意の数字)と表現した場合、「Yより大きいことが好ましい」または「Z未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
さらに、本発明において、「yおよび/またはz(y,zは任意の構成または成分)」とは、yのみ、zのみ、yおよびz、という3通りの組合せを意味するものである。
【0014】
本発明の一実施形態として、例えば、
図1に示すような、有底円筒状の容器本体1と、その上面開口を密閉するための蓋体2とを備えた、半導体製造用の薬品用容器を示すことができる。
【0015】
上記容器本体1、蓋体2は、金属で形成されており、上記容器本体1の内側の凹部内が、薬品を収容するための空間になっている。そして、上記容器本体1の凹部内面は、
図1のA-A’断面である
図2に模式的に示すように、第1のDLC層3と第2のDLC層4からなる被覆層5で被覆されている。これが、本実施形態の最大の特徴である。
【0016】
また、上記蓋体2には、容器内に薬品を注入するための薬品注入配管や脱液配管、圧力調整配管、液面レベルセンサ等を接続するための複数の穴6や、電極取り付け用の穴7等が所定の配置が設けられており、上記蓋体2に、これらの配管を接続し、電極を取り付けた状態で、半導体製造ライン上に配置される自動薬品供給システムに組み込まれるようになっている。
【0017】
なお、本実施形態の薬品用容器において、半導体製造に関連する薬品として想定される薬品は、液体、粉体、スラリー等、流動性を有するものであって、例えば、以下に示すような、各種の薬品が挙げられる。
(1)洗浄関連薬品:
イソプロパノール、過酸化水素水、硝酸、ふっ酸、塩酸、アンモニア等。
(2)エッチング関連薬品
アルミニウムエッチング液、パラジウムエッチング液、シリコンエッチング液等。
(3)ホトリソ関連薬品
レジスト、現像液、シンナー類等。
(4)CMP(化学的機械的液体研磨剤:Chemical Mechanical P
lanarization)関連薬品
CMPスラリー等。
【0018】
<容器本体>
本実施形態の容器本体1について、詳細に説明する。
上記容器本体1に用いられる金属としては、鉄、銅、アルミニウム、またはこれらの金属同士、あるいはこれらと他の金属を組み合わせてなる合金が挙げられる。なかでも、鉄をベースとする合金である、オーステナイト系ステンレスを用いることが、後述のように、この面を平滑に仕上げる上で好適である。そして、上記オーステナイト系ステンレスのなかでも、特に、SUS316、SUS304を用いることが、とりわけこの面を平滑に仕上げる上で好適である。
【0019】
そして、上記容器本体1の周壁や底壁の厚みは、薬品用容器全体の大きさや形状に応じて適宜に設定されるが、その内面は、DLC層からなる被覆層5と強固に密着させるために、できるかぎり平滑であることが好ましく、例えば、上記内面の表面粗さRaが、0.1μm以下、なかでも、0.08μm以下であることが好適である。
なお、上記表面粗さRaは、JIS-B 0601に定められる高さ方向のパラメータ(算術平均粗さ)であり、例えば電解研磨、バフ研磨等の研磨仕上げを行うことによって達成することができる。
【0020】
<DLC層からなる被覆層>
上記容器本体1の内面を被覆する被覆層5は、DLC(Diamond-Like Carbon)によって形成される層であり、単層であっても、2層以上を積層した多層であってもよいが、本実施形態では、第1のDLC層3と第2のDLC層4の2層で構成されている。
すなわち、上記被覆層5は、金属製の容器本体1と薬品との間に介在することにより、凹部内面を、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性、耐ピンホール性等に優れ、しかも洗浄しやすく、帯電しにくい面とするものであるが、DLC層単層の場合、DLCの種類と、容器本体1の内面を構成する金属の種類との組み合わせによっては、密着性が十分に確保できないおそれがあることから、本実施形態のように、容器本体1の内面に接する側に、金属との密着性に優れたDLCからなる層(第1のDLC層3)を設け、その層に重ねて、薬品の純度を保持するための諸特性に優れたDLCからなる層(第2のDLC層4)を形成することが好適である。また、本実施形態では、第1のDLC層3と第2のDLC層4の2層構造であるが、2層よりも多くのDLC層を重ねることによって、各DLC層の複合的な効果を発揮させるようにすることもできる。
【0021】
本実施形態における第1のDLC層3としては、比較的柔軟で金属面への密着性に優れた、グラファイト(黒鉛)に近い性質を備えたDLCを用いることが好ましい。具体的には、水素原子含有量が20~40%の水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C:H)であることが好ましく、なかでも、水素原子含有量が25~35%のta-C:Hがとりわけ好適である。そして、その柔軟性に注目すれば、Hv硬度が2000~4000の範囲にあるものが好適である。
【0022】
上記第1のDLC層3の厚みは、容器本体1の全体の大きさや壁の厚みにもよるが、通常、5~2000nmであることが好ましく、より好ましくは10~2000nmであり、なかでも、500~2000nmであることが特に好ましい。すなわち、第1のDLC層3が薄すぎると被覆層5全体の、容器本体1の内面表面粗さへの追従性が低下するおそれがあり、上記範囲内である場合に、効率よく効果が得られる傾向がある。
【0023】
また、第2のDLC層4としては、比較的硬く金属面への密着性がやや劣るものの、耐摩耗性や耐腐食性、耐ピンホール性等に優れた、ダイヤモンドに近い性質を備えたDLCを用いることが好ましい。具体的には、水素原子含有量が10%以下のta-C:Hであるか、水素原子を全く含有しないか含有しても5%以下のモルファスカーボン(a-C)であることが好ましい。そして、その硬さに注目すれば、Hv硬度が4000~7000の範囲にあるものが好適である。また、耐摩耗性の見地からすれば、その表面における動摩擦係数μが0.15以下であるものが好ましく、0.1以下であるものがより好ましい。
【0024】
さらに、上記第2のDLC層4は、体積抵抗率が1018Ω・cm以上のフッ素樹脂等の絶縁体に対して、表面に静電気を生じさせにくい物性であることが好ましく、そのためには、体積抵抗率が1010Ω・cm以下であることが好ましい。そして、表面の撥水性が低い方が洗浄しやすいことを考慮すれば、その表面における撥水性(水との接触角)が50~80°であることが好適である(ちなみに、フッ素樹脂の接触角は100°以上)。
【0025】
上記第2のDLC層4の厚みも、第1のDLC層3の厚みと同じく、通常、5~2000nmであることが好ましく、より好ましくは10~2000nmであり、なかでも、500~2000nmであることが特に好ましい。すなわち、第2のDLC層4が薄すぎると、DLCによる薬品の純度保持という優れた効果が十分に発揮されないおそれがあり、厚みが上記範囲内である場合に、効率よく効果が得られる傾向がある。
【0026】
そして、上記被覆層5が単層の場合、あるいは2層以上の多層である場合のどちらであっても、被覆層5の厚みは、10~5000nmの範囲に設定される。そして、好ましくは100~4000nm、より好ましくは1000~4000nmである。被覆層5の厚みが薄すぎると、すでに述べたとおり、DLCの特性が十分に発揮されないおそれがあり、厚みが上記範囲内である場合に、効率よく効果が得られる傾向がある。そして、被覆層5が多層である場合は、その最も表面に表れる層(薬品と接触する層)が、上記第2のDLC層4と同様の特性を備えたDLC層であることが望ましい。
【0027】
上記被覆層5の形成は、公知の成膜方法から、DLCの種類に応じた成膜方法を適宜選択して行うことができる。具体的には、以下のような成膜方法が挙げられる。なお、本実施形態のように、DLCの種類を変えて2層以上のDLC層を積層する場合であって、どちらのDLC層についても成膜方法が共通する場合には、単一の装置を用いて成膜材料を切り替えて連続的に成膜を行うことができる。
(1)CVD法(Chemical Vapor Deposition)
・熱CVD法
・プラズマCVD法(高周波、マイクロ波、直流等)
(2)PVD法(Physical Vapor Deposition)
・イオンプレーティング(直流励起、高周波励起)
・スパッタリング法(2極スパッタ、マグネトロンスパッタ、ECRスパッタ)
・レーザーアブレーション法
・イオンビームデポジション
・イオン注入法
【0028】
<蓋体>
つぎに、本実施形態の蓋体2について、詳細に説明する。
上記蓋体2に用いられる金属としては、上記容器本体1に用いられる金属と同様のものが好適に用いられる。但し、必ずしも両者の材質が同一である必要はない。
【0029】
上記蓋体2の下面(容器本体1の上面開口に対峙する面)には、上記容器本体1側に設けられた、第1のDLC層3と第2のDLC層4からなる被覆層5と同様の被覆層を設けることが、容器内の薬品の純度を保持する上で好ましい。ただし、蓋体2に設ける被覆層と容器本体1に設ける被覆層5とは、必ずしも同一である必要はない。
また、容器の構造上、蓋体2の下面に薬品が全く接触しない場合は、必ずしも蓋体2の下面に被覆層を設ける必要はない。
【0030】
本実施形態の薬品用容器によれば、容器本体1の少なくとも薬品を収容する凹部内面が、DLC層3、4からなる被覆層5で被覆されており、耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性、耐ピンホール性等に優れ、しかも洗浄しやすく、フッ素系樹脂コーティング面等に比べて帯電しにくい面になっている。したがって、半導体製造用の薬品を、この容器で長期間保存したり移送したりする間に、容器本体1側の金属が薬品に溶出したり、剥がれたり、帯電して異物を混入させたりすることがない。
【0031】
ちなみに、本実施形態の薬品用容器において、下記の方法で測定される「塩水に対する腐食減量」が、通常、0.5mg/m2・hr以下、特に好ましくは、0.4mg/m2・hr以下となることからも、本実施形態の薬品用容器が、薬品の純度保持に優れた性能を示すことが裏付けられる。
【0032】
上記「塩水に対する腐食減量」は、薬品用容器の、薬品を収容するための凹部内に、5.0質量%の塩化ナトリウム水溶液(塩水)を充填し、25℃で250時間静置した後、精密天秤によって測定される薬品用容器の試験前後の重量変化を、凹部内面の総面積で除することにより求められる値(mg/m2・hr)である。
【0033】
また、本実施形態の薬品容器によれば、容器本体1の凹部内が洗浄しやすいため、容器内を短時間で清浄にすることができ、薬品の交換作業等の取り扱いが容易である。しかも、容器内が帯電しにくいため、蓋体2の開閉時等において外部からの塵等が容器内に入り込みにくいという利点も有する。
【0034】
これらのことから、本実施形態の薬品用容器を用いて半導体製造工程における薬品供給を行うと、薬品の純度低下による不良品の発生を回避することができ、高い歩留りで高品質の半導体を製造することができる。
【0035】
なお、本実施形態において、前述のとおり、蓋体2の下面に被覆層を設けることができるが、さらに、蓋体2に各種配管や液面レベルセンサ、電極を取り付けるための穴6、7等の内周面に対しても、蓋体2の下面と同様にして、DLCからなる被覆層を設けることができる。上記被覆層を設けておくと、穴6等の内周面が平滑になるため、配管や電極を取り付けたり取り外したりする際に、金属屑が生じず、また外部の塵等を引き寄せにくくなるため、さらに好適である。
【0036】
また、本発明の薬品用容器において、容器本体の形状、蓋体の形状は、上記の実施形態における形状である必要はなく、半導体製造用途に用いられるものであれば、どのような形状であっても差し支えない。少なくとも容器の、薬品を収容する凹部の内面が、特定厚みのDLC層で被覆されていればよい。
【0037】
例えば、蓋体に相当する部材が薬品供給設備の一部に組み込まれており、容器本体のみを単体で取り扱う場合には、容器本体単体が、本発明の「薬品用容器」である。また、容器本体が、例えば外容器と内容器の2つの部材で構成されていような場合においては、薬品を収容する凹部が設けられた内容器が、本発明の「薬品用容器」である。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
図1、
図2に示す、蓋体と容器本体からなる容器を、SUS304を用いて作製する。容器本体の外形は、直径140mm×高さ110mmで、底壁の厚みは13mm、周壁の厚みは9mmである。また、薬品収容用凹部の内容積は1200mLである。そして、上記凹部の内面は、耐水研磨紙(♯1200)とバフ研磨(アルミナ0.05μm)で研磨し、アセトンで脱脂処理を行うことにより、表面粗さRa0.02μm以下に仕上げられる。
【0040】
この容器本体の凹部内面と、蓋体の下面および配管や液面レベルセンサを取り付けるための穴(
図1の6、7を参照)の内周面に対して、プラズマCVD法により、第1のDLC層と第2のDLC層をこの順で形成して、被覆層付きの薬品用容器を得る。層の詳細は下記のとおりである。
(1)第1のDLC層(金属面に接する側)
DLCの種類:ta-C:H(水素原子含有量30%、Hv硬度2000)
層の厚み :1000nm
(2)第2のDLC層(薬品に接する側)
DLCの種類:a-C(水素原子を含有せず、Hv硬度6000、層表面の動摩擦係数(μ)0.1、体積抵抗率10
9Ω・cm、撥水性[水との接触角]80°)
層の厚み :500nm
【0041】
<実施例2>
容器の材質を、SUS316に変える。それ以外は実施例1と同様にして、被覆層付きの薬品用容器を得る。
【0042】
<比較例1>
容器本体の凹部内面に対して、フッ素系樹脂による樹脂コーティングを行う(フッ素系樹脂層の厚み200nm)。蓋体の下面と穴の内周面には、被覆層を設けず、金属の生地のままとする。それ以外は実施例1と同様にして、被覆層付きの薬品用容器を得る。
【0043】
これらの実施例品、比較例品に対して、下記の項目についての評価を対比する。
【0044】
<洗浄性評価>
上記比較例1の容器では、フッ素系樹脂の樹脂コーティングに小さな傷が入った部分に着色異物を発見し、洗浄水で洗い落そうとする場合、撥水して困難である。異物を取り除くには、異物をアセトン等の溶剤で溶解するよりほかない。
これに対して、実施例1、2の容器は、内面がDLC層で被覆されているため、アセトン等の溶剤と水の混合溶剤で容易に異物を洗浄することが可能である。
【0045】
<耐摩耗性評価>
薬品を入れ替える際の容器洗浄時に実施されるガスケット交換と液面レベルセンサの抜き差しの際の容器の耐摩耗性を評価する。
容器本体と蓋体とを洗浄後、蓋体の、液面レベルセンサを取り付ける穴に、新しいガスケット(フッ素樹脂製)を設置し、液面レベルセンサを差し込む。このガスケット交換と液面レベルセンサの抜き差しを100回繰り返した後、その穴の内周面を目視で観察すると、比較例1の蓋体の、穴の内周面には目視できる細かい傷が観察される。一方、実施例1、2の容器の蓋体の、穴の内周面は、目視で初回と同じく傷等のない、きれいな面のままである。
【0046】
上記のとおり、DLC層からなる被覆層を設けた実施例1、2品は、DLC層がフッ素系樹脂によるコーティング層に比べて親水性である(水に対する接触角がより小さい)ため、易洗浄性に優れている。
一方、比較例1品は、被覆層であるフッ素系樹脂層の撥水性がDLC層に比べて高いため、薬品が凹部内に残留しやすく、実施例1、2品に比べて洗浄しにくいことが推察される。
また、実施例1、2品では、ガスケットの交換や液面レベルセンサの抜き差しを繰り返しても、DLC層が硬く、低摩擦性であり耐摩耗性に優れていることから、穴の内周面に傷が付かず、未使用時のきれいな面が維持されることがわかる。したがって、容器内の液体が、このような傷から生じる異物や、ガスケット、センサ類をとりまくプラスチック類由来の破片等の異物で汚染されることがないと推察される。一方、DLC層の被覆がない比較例1品では、容器内の液体が異物で汚染される可能性があると推察される。
本発明の薬品用容器によれば、凹部に収容された薬品が異物で汚染されることがなく、長期の保存や移送によっても、薬品の当初純度を保持することができる。したがって、この薬品用容器は、優れた品質の半導体製品を、安定して提供することに有用である。