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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033892
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】化学蓄熱器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20240306BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F28D20/00 G
F28D20/00 H
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137806
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清人
(57)【要約】
【課題】蓄熱体の耐久性が高い化学蓄熱器およびその製造方法を提供する。
【解決手段】化学蓄熱器1は、蓄熱体2と、蓄熱体2が収容される収容部30を内部に区画する反応容器3と、を備える。収容部30の横幅をL1、縦幅をL2、厚みをA(A<L1≦L2)、L1とL2とを有する面の面積をB(B=L1・L2)、L1とL2との幅比をC(C=L1/L2)、以下の式1で表される形状係数をY、蓄熱体2の真密度比をX(X<0.45)とする。YとXとの間には以下の式2が成立する。
Y=((A/B)・√C)-1 ・・・(式1)
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の化学蓄熱材を含む蓄熱体と、
前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される直方体状の収容部を内部に区画する反応容器と、
を備える化学蓄熱器であって、
前記収容部の横幅をL1、縦幅をL2、厚みをA(A<L1≦L2)、
前記L1と前記L2とを有する面の面積をB(B=L1・L2)、
前記L1と前記L2との幅比をC(C=L1/L2)、
以下の式1で表される前記収容部の形状に関するパラメータである形状係数をY、
前記蓄熱体の真密度比をX、
として、
前記Xは0.45未満であると共に、前記Yと前記Xとの間には以下の式2が成立することを特徴とする化学蓄熱器。
Y=((A/B)・√C)-1 ・・・(式1)
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
【請求項2】
前記Xは0.35以上である請求項1に記載の化学蓄熱器。
【請求項3】
前記化学蓄熱材と反応する反応媒体は水蒸気であり、前記化学蓄熱材はカルシウム系蓄熱材である請求項1または請求項2に記載の化学蓄熱器。
【請求項4】
前記蓄熱体は、粘土鉱物を含む請求項1または請求項2に記載の化学蓄熱器。
【請求項5】
前記反応容器は、前記化学蓄熱材と反応する反応媒体が透過する透過壁と、前記化学蓄熱材と外部との間の伝熱を確保する伝熱壁と、を有する請求項1または請求項2に記載の化学蓄熱器。
【請求項6】
前記化学蓄熱材と反応する反応媒体は水蒸気であり、前記化学蓄熱材はカルシウム系蓄熱材である請求項4に記載の化学蓄熱器。
【請求項7】
前記反応容器は、前記化学蓄熱材と反応する反応媒体が透過する透過壁と、前記化学蓄熱材と外部との間の伝熱を確保する伝熱壁と、を有する請求項4に記載の化学蓄熱器。
【請求項8】
前記化学蓄熱材と反応する反応媒体は水蒸気であり、前記化学蓄熱材はカルシウム系蓄熱材である請求項5に記載の化学蓄熱器。
【請求項9】
前記化学蓄熱材と反応する反応媒体は水蒸気であり、前記化学蓄熱材はカルシウム系蓄熱材である請求項7に記載の化学蓄熱器。
【請求項10】
粒子状の化学蓄熱材と、粘土鉱物と、を含む蓄熱体と、
前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される直方体状の収容部を内部に区画する反応容器と、
を備える化学蓄熱器の製造方法であって、
前記収容部の横幅をL1、縦幅をL2、厚みをA(A<L1≦L2)、
前記L1と前記L2とを有する面の面積をB(B=L1・L2)、
前記L1と前記L2との幅比をC(C=L1/L2)、
以下の式1で表される前記収容部の形状に関するパラメータである形状係数をY、
前記蓄熱体の真密度比をX、
として、
前記化学蓄熱材と前記粘土鉱物とを混合する混合工程と、
直方体状の前記蓄熱体を作製する成形工程と、
前記蓄熱体を焼成する焼成工程と、
前記Yと前記Xとの間に以下の式2が成立するように、前記蓄熱体を前記収容部に収容する収容工程と、
を有することを特徴とする化学蓄熱器の製造方法。
Y=((A/B)・√C)-1 ・・・(式1)
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
【請求項11】
前記Xは0.45未満である請求項10に記載の化学蓄熱器の製造方法。
【請求項12】
前記Xは0.35以上である請求項10または請求項11に記載の化学蓄熱器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学反応熱を利用して可逆的に蓄熱、放熱を行うことができる化学蓄熱器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学蓄熱器は、反応媒体と蓄熱体との化学反応を利用して、可逆的に熱を蓄積、放出することができる。このため、化学蓄熱器は、熱(例えば工場や自動車の排熱など)を有効利用する手段として、検討されている。
【0003】
蓄熱体は、多数の粒子状の化学蓄熱材の成形体である。蓄熱体の体積は、蓄熱、放熱時の化学反応に伴い変化する。例えば、反応媒体が水蒸気、蓄熱体が酸化カルシウム(CaO)の場合、水和反応により酸化カルシウムが水酸化カルシウム(Ca(OH))に変化する際、蓄熱体の体積が膨張する。反対に、脱水反応により水酸化カルシウムが酸化カルシウムに変化する際、蓄熱体の体積が収縮する。このため、蓄熱、放熱を繰り返すと、蓄熱体が崩壊しやすくなる。
【0004】
この点、特許文献1~3の化学蓄熱器によると、反応容器の内面で蓄熱体を拘束している。並びに、蓄熱体の真密度比を高く設定している。具体的には、真密度比を0.45~0.63に設定している。このため、蓄熱、放熱時の体積変化による蓄熱体の崩壊を、抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-197346号公報
【特許文献2】特開2012-197966号公報
【特許文献3】特開2012-197967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3の化学蓄熱器において、蓄熱体の真密度比を低下させると、蓄熱体を構成する粒子状の化学蓄熱材同士の結着性が低下してしまう。このため、蓄熱体が崩壊しやすくなる。したがって、蓄熱、放熱を繰り返すと、蓄熱密度、熱出力が低下してしまう。すなわち、蓄熱体の耐久性が低くなる。
【0007】
そこで、本発明者は、蓄熱体の耐久性に影響を及ぼす因子について鋭意研究を重ねた結果、反応容器の形状(詳しくは、反応容器において蓄熱体を収容する収容部の形状)により、蓄熱体の耐久性の低下を抑制できるとの知見を得た。本開示は、蓄熱体の耐久性が高い化学蓄熱器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本開示の化学蓄熱器は、粒子状の化学蓄熱材を含む蓄熱体と、前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される直方体状の収容部を内部に区画する反応容器と、を備える化学蓄熱器であって、前記収容部の横幅をL1、縦幅をL2、厚みをA(A<L1≦L2)、前記L1と前記L2とを有する面の面積をB(B=L1・L2)、前記L1と前記L2との幅比をC(C=L1/L2)、以下の式1で表される前記収容部の形状に関するパラメータである形状係数をY、前記蓄熱体の真密度比をX、として、前記Xは0.45未満であると共に、前記Yと前記Xとの間には以下の式2が成立することを特徴とする。
Y=((A/B)・√C)-1 ・・・(式1)
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
ここで、「拘束」とは、蓄熱、放熱時の化学反応に伴う蓄熱体の過度の体積変化を、抑制することをいう。例えば、収容部を区画する反応容器の内面を蓄熱体の外面の少なくとも一部に当接させることにより、蓄熱体を拘束し、蓄熱体の過度の膨張、収縮を抑制することをいう。
【0009】
蓄熱体の密度(質量/(寸法から得られる体積))をρ、蓄熱体の真密度をρtとして、蓄熱体の真密度比Xは、以下の式3で表される。
X=ρ/ρt ・・・(式3)
【0010】
本開示の化学蓄熱器によると、収容部に、蓄熱体が、蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で、収容されている。このため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、本開示の化学蓄熱器によると、形状係数Yと真密度比Xとの間に、式2が成立している。このため、蓄熱体の真密度比が0.45未満であるにもかかわらず、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱体の真密度比が0.45未満であるため、つまり蓄熱体を構成する一次粒子間の非充填部の割合(空隙率)が高いため、反応媒体に対する蓄熱体の反応性を高くすることができる。
【0011】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記Xは0.35以上とする方がよい。本構成によると、真密度比Xが0.35未満の場合と比較して、蓄熱体の空隙率が低いため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱密度を高くすることができる。
【0012】
(3-1)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記化学蓄熱材と反応する反応媒体は水蒸気である構成とする方がよい。本構成によると、水蒸気以外の反応媒体を用いる場合(この場合も本開示の化学蓄熱器の概念に含まれる)と比較して、環境に与える影響を小さくすることができる。
【0013】
(3-2)好ましくは、上記(1)ないし(3-1)のいずれかの構成において、前記化学蓄熱材はカルシウム系蓄熱材である構成とする方がよい。本構成によると、カルシウム系蓄熱材以外の化学蓄熱材を用いる場合(この場合も本開示の化学蓄熱器の概念に含まれる)と比較して、資源リスクが小さく、蓄熱密度の高い化学蓄熱器を提供することができる。
【0014】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3-2)のいずれかの構成において、前記蓄熱体は、粘土鉱物を含む構成とする方がよい。本構成によると、多孔性を有する粘土鉱物の骨格中に、化学蓄熱材を、分散状態で担持させることができる。このため、化学蓄熱材の凝集が抑制されることで、耐久性をより向上させることができる。
【0015】
(5-1)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記反応容器は、前記反応容器の少なくとも一壁に、前記化学蓄熱材と反応する反応媒体が透過する透過壁を有する構成とする方がよい。本構成によると、透過壁を介して、反応媒体を流動させることができる。
【0016】
(5-2)好ましくは、上記(1)ないし(5-1)のいずれかの構成において、前記反応容器は、前記反応容器の少なくとも一壁に、前記化学蓄熱材と外部との間の伝熱を確保する伝熱壁を有する構成とする方がよい。本構成によると、伝熱壁を介して、化学蓄熱材と外部との間で、熱の受け渡しを行うことができる。
【0017】
(6)上記課題を解決するため、本開示の化学蓄熱器の製造方法は、粒子状の化学蓄熱材と、粘土鉱物と、を含む蓄熱体と、前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される直方体状の収容部を内部に区画する反応容器と、を備える化学蓄熱器の製造方法であって、前記収容部の横幅をL1、縦幅をL2、厚みをA(A<L1≦L2)、前記L1と前記L2とを有する面の面積をB(B=L1・L2)、前記L1と前記L2との幅比をC(C=L1/L2)、以下の式1で表される前記収容部の形状に関するパラメータである形状係数をY、前記蓄熱体の真密度比をX、として、前記化学蓄熱材と前記粘土鉱物とを混合する混合工程と、直方体状の前記蓄熱体を作製する成形工程と、前記蓄熱体を焼成する焼成工程と、前記Yと前記Xとの間に以下の式2が成立するように、前記蓄熱体を前記収容部に収容する収容工程と、を有することを特徴とする。
Y=((A/B)・√C)-1 ・・・(式1)
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
ここで、「拘束」の定義は、前述の本開示の化学蓄熱器の場合と同様である。また、真密度比Xは、前述の式3により表される。
【0018】
本開示の化学蓄熱器の製造方法によると、収容部に、蓄熱体を、蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で、収容することができる。このため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、本開示の化学蓄熱器の製造方法によると、形状係数Yと真密度比Xとの間に、式2が成立するように、横幅L1、縦幅L2、厚みA、真密度比Xが設定された反応容器、蓄熱体を製造することができる。このため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱体の設計の自由度を高くすることができる。例えば、所望の蓄熱密度、熱出力、耐久性を全て充足する蓄熱体を、簡単に製造することができる。
【0019】
(7)好ましくは、上記(6)の構成において、前記Xは0.45未満である構成とする方がよい。本構成によると、蓄熱体の真密度比が0.45未満に設定されている。このため、蓄熱体の空隙率が高い。したがって、反応媒体に対する蓄熱体の反応性を高くすることができる。
【0020】
(8)好ましくは、上記(6)または(7)の構成において、前記Xは0.35以上である構成とする方がよい。本構成によると、真密度比Xが0.35未満の場合と比較して、蓄熱体の空隙率が低いため、蓄熱密度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示の化学蓄熱器によると、形状係数Yと真密度比Xとの間に、式2が成立している。このため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。本開示の化学蓄熱器の製造方法によると、形状係数Yと真密度比Xとの間に、式2が成立している。このため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱体の設計の自由度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本開示の化学蓄熱器の一実施形態の化学蓄熱器の斜視図である。
図2図2は、同化学蓄熱器の分解斜視図である。
図3図3は、図1のIII-III方向断面図である。
図4図4は、図1のIV-IV方向断面図である。
図5図5は、試験装置の上下方向断面図である。
図6図6は、図5のVI-VI方向断面図である。
図7図7は、同試験装置の透過斜視図である。
図8図8は、同試験装置の分解斜視図である。
図9図9は、化学蓄熱器の分解斜視図である。
図10図10は、水和期間におけるサンプルの温度変化を示すグラフである。
図11図11は、真密度比と形状係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の化学蓄熱器およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0024】
<化学蓄熱器の構成>
まず、本実施形態の化学蓄熱器の構成について説明する。図1に、本実施形態の化学蓄熱器の斜視図を示す。図2に、同化学蓄熱器の分解斜視図を示す。図3に、図1のIII-III方向断面図を示す。図4に、図1のIV-IV方向断面図を示す。
【0025】
化学蓄熱器1は、蓄熱体2と反応容器3とを備えている。蓄熱体2は、多孔性であって、直方体状を呈している。蓄熱体2は、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)と、粘土鉱物(セピオライト)と、を含んでいる。化学蓄熱材は、粒子状を呈している。化学蓄熱材の平均一次粒子径は0.1μm以上10μm以下である。化学蓄熱材は、蓄熱体2の内部に、分散して配置されている。蓄熱体2の真密度比Xは0.4である。すなわち、真密度比Xは、0.35以上0.45未満の範囲に含まれている。真密度比Xの計算方法については後述する。
【0026】
反応容器3は、ステンレス製であって、直方体箱状を呈している。反応容器3は、収容部30と、容器本体31と、透過壁32と、を備えている。容器本体31は、前側に開口する有底角筒状(浅底トレイ状)を呈している。容器本体31の後壁は伝熱壁310である。伝熱壁310を介して、反応容器3の外部と蓄熱体2との間の伝熱が確保されている。
【0027】
透過壁32は、容器本体31の開口を封止している。透過壁32と伝熱壁310とは前後方向に対向している。透過壁32には、多数の透過孔320が全面的に開設されている。透過孔320は、透過壁32を前後方向に貫通している。透過孔320を介して、水蒸気は、反応容器3の外部と収容部30との間を流動可能である。
【0028】
収容部30は、反応容器3の内部空間である。収容部30は、直方体状を呈している。収容部30の寸法について、図3図4に示すように、収容部30の横幅(左右方向幅)L1は150mmである。収容部30の縦幅(上下方向幅)L2は200mmである。収容部30の厚み(前後方向幅)Aは20mmである。すなわち、A<L1≦L2の関係が成立している。収容部30には、蓄熱体2が収容されている。収容部30を区画する反応容器3の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接している。すなわち、蓄熱体2は、収容部30に拘束されている。
【0029】
<化学蓄熱器の動き>
次に、本実施形態の化学蓄熱器の動きについて簡単に説明する。図示しない熱回収源からの熱は、伝熱壁310を介して、収容部30の蓄熱体2を加熱する。蓄熱体2が加熱されると、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)は、以下の脱水反応により、当該熱を蓄積し、酸化カルシウムとなる。なお、Q1は蓄熱量である。
Ca(OH)+Q1→CaO+H
図示しない水蒸気供給源からの水蒸気は、透過壁32を介して、収容部30の蓄熱体2に供給される。当該水蒸気により、化学蓄熱材(酸化カルシウム)は、以下の水和反応により、蓄積しておいた熱を放出し、水酸化カルシウムとなる。なお、Q2は放熱量である。放出された熱は、伝熱壁310を介して、図示しない熱利用先に供給される。
CaO+HO→Ca(OH)+Q2
化学蓄熱器1は、上述のような放熱、蓄熱を可逆的に繰り返すことができる。
【0030】
<収容部の形状と蓄熱体の真密度比との関係>
次に、本実施形態の化学蓄熱器の収容部の形状と蓄熱体の真密度比との関係について説明する。前述の収容部30の横幅L1、収容部30の縦幅L2、収容部30の厚みA(A<L1≦L2)に加えて、横幅L1と縦幅L2とを有する面(つまり収容部30を区画する容器本体31の内面における前面または後面)の面積をB(B=L1・L2)、横幅L1と縦幅L2との幅比をC(C=L1/L2)とすると、形状係数Yは、以下の式1で表される。
Y=((A/B)・√C)-1 ・・・(式1)
本実施形態の化学蓄熱器1の場合、厚みA=20mm、面積B=30000mm、幅比C=0.75となり、これらを式1に代入すると、Y=1732.05mmとなる。
【0031】
本実施形態の化学蓄熱器1によると、形状係数Y(=1732.05mm)と、蓄熱体2の真密度比X(=0.4)と、の間に以下の式2が成立している。
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
なお、蓄熱体2の密度(質量/(寸法から得られる体積))をρ、蓄熱体2の真密度をρtとして、蓄熱体2の真密度比Xは、以下の式3で表される。
X=ρ/ρt ・・・(式3)
【0032】
<化学蓄熱器の製造方法>
次に、本実施形態の化学蓄熱器の製造方法について説明する。本実施形態の化学蓄熱器1の製造方法は、反応容器作製工程と、混合工程と、成形工程と、焼成工程と、収容工程と、を有している。
【0033】
反応容器作製工程においては、上述の式2が成立するように、金属板から、容器本体31、透過壁32を作製する。また、透過壁32に、多数の透過孔320を穿設する。容器本体31の開口を透過壁32で封止した状態において、反応容器3の内部に、所定の寸法(例えば、横幅L1=150mm、縦幅L2=200mm、厚みA=20mm)の収容部30を確保する。
【0034】
混合工程においては、まず、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)の懸濁液を調製する。並びに、粘土鉱物(セピオライト)の懸濁液を調製する。次に、双方の懸濁液を混合し、混合液を調製する。それから、当該混合液を乾燥し、粉砕することにより、粉体(粒子の集合体)状の混合物を作製する。なお、必要に応じて、上記混合液にバインダー(ポリビニルアルコール)を添加する。
【0035】
成形工程においては、乾燥後の混合物をプレス成形し、直方体状の成形体を作製する。この際、成形体の寸法を、前述の収容部30の寸法と略同一になるように調整する。焼成工程においては、成形体を焼成することにより、化学蓄熱材を脱水反応させ、真密度比Xが0.4(設定値)となる蓄熱体2を作製する。すなわち、真密度比Xが設定値となるように、成形工程における成形圧や、焼成工程における焼成条件などを調整している。
【0036】
収容工程においては、容器本体31の開口を介して、脱水状態の蓄熱体2を収容部30に挿入する。そして、透過壁32により、容器本体31の開口を封止する。ここで、脱水状態(体積が最小となる状態。反応媒体と化学蓄熱材とが結合していない未結合状態)の蓄熱体2は、水和状態(体積が最大になる状態。反応媒体と化学蓄熱材とが結合している結合状態)の蓄熱体2よりも小さい。このため、簡単に蓄熱体2を収容部30に挿入することができる。
【0037】
水和状態において、収容部30の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接する。一旦、全面的に収容部30が蓄熱体2に当接すると、当該当接状態は、脱水状態においても継続される。このため、水和、脱水に伴う蓄熱体2の体積変化を抑制することができる。
【0038】
<作用効果>
次に、本実施形態の化学蓄熱器およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の化学蓄熱器1によると、収容部30を区画する反応容器3の内面の少なくとも一部は、脱水状態の蓄熱体2の外面に当接している。蓄熱体2は、水和反応により膨張することにより、反応容器3の内面に全面的に当接し、拘束される。このため、蓄熱体2の耐久性を高くすることができる。
【0039】
本実施形態の化学蓄熱器1によると、形状係数Yと真密度比Xとの間に、式2が成立している。このため、蓄熱体2の真密度比(=0.4)が0.45未満であるにもかかわらず、蓄熱体2の耐久性を高くすることができる。すなわち、蓄熱体2の空隙率が高いにもかかわらず、蓄熱体2の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱体2の真密度比(=0.4)が0.45未満であるため、つまり蓄熱体2の空隙率が高いため、水蒸気(反応媒体)に対する蓄熱体2の反応性を高くすることができる。
【0040】
蓄熱体2の真密度比(=0.4)は、0.35以上である。このため、真密度比Xが0.35未満の場合と比較して、蓄熱体2の空隙率が低いため、蓄熱体の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量、単位は例えば[MJ/l])を高くすることができる。
【0041】
化学蓄熱材(酸化カルシウム)と反応する反応媒体は水蒸気である。このため、水蒸気以外の反応媒体を用いる場合と比較して、環境に与える影響を小さくすることができる。化学蓄熱材の主原料は水酸化カルシウムである。このため、水酸化カルシウム以外の化学蓄熱材を用いる場合と比較して、資源リスクが小さく、蓄熱密度の高い化学蓄熱器1を提供することができる。
【0042】
蓄熱体2は、粘土鉱物を含有している。粘土鉱物は繊維構造を有している。このため、粘土鉱物からなる骨格中に、化学蓄熱材を分散状態で担持、または化学蓄熱材の粒子間に粘土鉱物を分散させることができる。この状態で焼成することで、化学蓄熱材と粘土鉱物とが焼結(化学結合)して、構造強度が確保される。また、化学蓄熱材の凝集を抑制することができる。
【0043】
粘土鉱物は、セピオライトである。セピオライトは、化学蓄熱材の粒子より細かい。このため、蓄熱体2の内部において、隣り合う化学蓄熱材の間に、粘土鉱物を介在させやすい。
【0044】
反応容器3は透過壁32を備えている。このため、透過壁32を介して、水蒸気を流動させることができる。反応容器3は伝熱壁310を備えている。このため、伝熱壁310を介して、化学蓄熱材と反応容器3の外部との間で、熱の受け渡しを行うことができる。
【0045】
本実施形態の化学蓄熱器1の製造方法によると、収容部30に、蓄熱体2を、蓄熱体2の外面が全体的に拘束された状態で、収容することができる。このため、蓄熱体2の耐久性を高くすることができる。
【0046】
本実施形態の化学蓄熱器の製造方法によると、形状係数Yと真密度比Xとの間に、式2が成立するように、横幅L1、縦幅L2、厚みA、真密度比Xが設定された反応容器3、蓄熱体2を製造することができる。このため、蓄熱体2の耐久性を高くすることができる。また、蓄熱体2の設計の自由度を高くすることができる。例えば、所望の蓄熱量、熱出力、耐久性を全て充足する蓄熱体2を、簡単に製造することができる。
【0047】
<その他>
以上、本開示の化学蓄熱器およびその製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0048】
(化学蓄熱材)
化学蓄熱材の種類は特に限定しない。例えば、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Baなど)の化合物(酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物、硫酸化物など)であってもよい。化合物は、アルカリ土類金属を一種以上含んでいればよい。具体的には、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))、マグネシウムとカルシウムの複合水酸化物、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、マグネシウムとカルシウムの複合酸化物などであってもよい。
【0049】
化学蓄熱材の平均一次粒子径(混合工程において懸濁液を調製する前の粒子径)は特に限定しない。例えば、0.1μm以上10μm以下であればよい。平均一次粒子径は、例えば、レーザー回折法などにより測定することができる。反応媒体の種類は特に限定しない。化学蓄熱材の種類に応じて、例えば、水蒸気(水)、アンモニアなどを用いることができる。
【0050】
(粘土鉱物)
粘土鉱物の種類は特に限定しない。例えば、セピオライト、アタパルジャイト、カオリナイト、ベントナイトなどであってもよい。これらの粘土鉱物は、単体で、あるいは二種以上混合して、用いることができる。粘土鉱物の繊維径は特に限定しない。
【0051】
(バインダー)
混合工程においては、バインダーを必要に応じて使用してもよい。使用する場合は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース系樹脂、ウレタン樹脂、デンプンなどの樹脂成分、ジエチレングリコール(DEG)、エタノールなどであってもよい。その他、蓄熱体2には、添加物や不可避不純物が含まれていてもよい。
【0052】
(反応容器)
反応容器3の材質は特に限定しない。金属(例えば、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、鉄など)などであってもよい。反応容器3のうち、伝熱壁310だけを熱伝導率の高い材料(例えば、銅、金など)製としてもよい。透過壁32の材質は特に限定しない。パンチングメタル、メッシュフィルタ、樹脂製の不織布などであってもよい。
【0053】
伝熱壁310の位置、大きさ、配置数は限定しない。図1に示す側壁(上壁、下壁、左壁、右壁から選ばれる一つ以上)が伝熱壁310であってもよい。透過壁32についても同様である。伝熱壁310は配置しなくてもよい。例えば、反応容器3を貫通すると共に、内部を熱媒体(シリコン合成油など)が流動する配管を設けてもよい。当該配管の管壁を介して、化学蓄熱材と熱媒体との間で伝熱を行えばよい。
【0054】
収容部30の寸法は特に限定しない。収容部30は、直方体状を呈していればよい。横幅L1=縦幅L2であっても、横幅L1<縦幅L2であってもよい。厚みAは、横幅L1未満であればよい。
【0055】
収容部30を区画する反応容器3の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接していても、部分的に当接していてもよい。また、使用時において、常時、反応容器3の内面が蓄熱体2の外面に、全面的に当接していなくてもよい。少なくとも水和状態において、反応容器3の内面が蓄熱体2の外面に、全面的にあるいは部分的に、当接していればよい。蓄熱体2の過度な体積変化を抑制できればよい。
【0056】
(化学蓄熱器の製造方法)
前述したように、本実施形態の化学蓄熱器1の製造方法は、反応容器作製工程と、混合工程と、成形工程と、焼成工程と、収容工程と、を有している。反応容器作製工程は、混合工程の前に実行しなくてもよい。遅くとも収容工程の前までに実行すればよい。
【0057】
混合工程における混合物の作製方法は特に限定しない。湿式混合でも乾式混合でもよい。湿式混合の場合、以下の手順で混合物を作製してもよい。まず、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)の懸濁液を調製する。並びに、粘土鉱物の懸濁液を調製する。次に、化学蓄熱材の懸濁液と粘土鉱物の懸濁液とを混合し、混合液を調製する。続いて、混合液を噴霧乾燥(スプレードライ)させることにより、混合物を作製してもよい。または、混合液を、乾燥(脱水乾燥、自然乾燥)させ、粉砕することにより、混合物を作製してもよい。なお、脱水には、フィルタプレスを用いてもよい。また、粉砕には、ボールミルを用いてもよい。
【0058】
乾式混合の場合、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)の粉体(粒子の集合体)と粘土鉱物の粉体とを、一軸混合や多軸混合により、混合することにより、混合物を作製してもよい。また、当該混合後に、ボールミルや臼挽きなどにより混合物を粉砕して、より粒子の細かい混合物を作製してもよい。あるいは、まず化学蓄熱材の粉体、粘土鉱物の粉体を各々粉砕し、その後、双方の粉砕物を混合することにより、混合物を作製してもよい。
【0059】
成形工程における成形方法は特に限定しない。蓄熱体2が所定の寸法、真密度比を得られればよい。焼成工程における焼成方法は特に限定しない。化学蓄熱材と粘土鉱物との化学結合により、所定の強度を確保できればよい。また、蓄熱体2が所定の寸法、真密度比を得られればよい。
【0060】
なお、焼成工程においては、成形体の寸法収縮と重量減少とが同時に発生する。このため、当該寸法収縮分、重量減少分を予め加味して、成形工程における成形条件や焼成工程における焼成条件を設定してもよい。つまり、成形条件および焼成条件のうち少なくとも一方を、フィードバック調整してもよい。収容工程における収容方法は特に限定しない。所定の寸法、真密度比を有する蓄熱体2を、反応容器3の収容部30に、配置できればよい。
【実施例0061】
以下、化学蓄熱器に対して行った、耐久性に関する評価試験について説明する。
【0062】
<試験装置>
まず、試験装置について説明する。図5に、試験装置の上下方向断面図を示す。図6に、図5のVI-VI方向断面図を示す。図7に、同試験装置の透過斜視図を示す。図8に、同試験装置の分解斜視図を示す。図9に、化学蓄熱器の分解斜視図を示す。これらの図において、図1図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0063】
図5図9に示すように、試験装置9は、装置本体90と、流路部材91と、拘束治具92と、フランジ93と、配管94と、水蒸気タンク95と、配管96と、真空ポンプ97と、ヒーター98と、熱電対99と、を備えている。なお、図7図8においては、ヒーター98を省略して示す。
【0064】
装置本体90は、上下方向(軸方向)に延在する有底筒状(シリンダ状)を呈している。装置本体90の内部には、サンプル収容部900が区画されている。装置本体90の下端部分の周囲(詳しくは、後述するサンプル1の周囲)には、ヒーター98が配置されている。装置本体90の下端部分の後壁の後面(詳しくは、前側にサンプル1の伝熱壁310が配置されている部分)には、熱電対99が配置されている。フランジ93は、サンプル収容部900を上側から封止している。フランジ93には、配管94、96が装着されている。配管94は、バルブ940を介して、水蒸気タンク95に接続されている。配管96は、バルブ960を介して、真空ポンプ97に接続されている。
【0065】
サンプル(実施例1~9、比較例1~6の化学蓄熱器)1は、サンプル収容部900に収容されている。サンプル1は、蓄熱体2と反応容器3とを備えている。蓄熱体2は、多孔性であって、直方体状を呈している。蓄熱体2は、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)と、粘土鉱物(セピオライト)と、を含んでいる。化学蓄熱材は、粒子状を呈している。
【0066】
反応容器3は、ステンレス製であって、直方体箱状を呈している。反応容器3は、収容部30と、容器本体31と、透過壁32と、を備えている。容器本体31は、前側に開口する有底角筒状(浅底トレイ状)を呈している。容器本体31の後壁は伝熱壁310である。
【0067】
透過壁32は、容器本体31の開口を封止している。透過壁32と伝熱壁310とは前後方向に対向している。透過壁32には、多数の透過孔320が全面的に開設されている。透過孔320は、透過壁32を前後方向に貫通している。
【0068】
収容部30は、反応容器3の内部空間である。収容部30は、直方体状を呈している。図9に示すように、収容部30の左右方向幅が横幅L1、収容部30の上下方向幅が縦幅L2、収容部30の前後方向幅が厚みAである。収容部30には、蓄熱体2が収容されている。収容部30を区画する反応容器3の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接している。すなわち、蓄熱体2は、収容部30に拘束されている。
【0069】
流路部材91は、サンプル1の前面に配置されている。流路部材91の後面には、複数のフィン910が配置されている。なお、図5に示す装置本体90の断面は、フィン910の前後方向中間を通過する仮想平面による切断である。流路部材91には、複数のフィン910により、複数の流路910aが区画されている。流路910aは、透過壁32を介して、収容部30つまり蓄熱体2に連通している。
【0070】
拘束治具92は、上下方向に延在するロッド状を呈している。拘束治具92は、装置本体90の上端開口から、サンプル収容部900に収容されている。拘束治具92は、サンプル1を、サンプル収容部900の下面(底面)に押し付けている。拘束治具92の下端(先端)には、左右一対の突起920が配置されている。左右一対の突起920の間には、通気窓920aが区画されている。通気窓920aは、流路910aに連通している。
【0071】
水蒸気タンク95と収容部30(蓄熱体2)との間には、水蒸気供給路P1が設定されている。水蒸気供給路P1は、上流側(水蒸気タンク95側)から下流側(収容部30側)に向かって、配管94(バルブ940)→サンプル収容部900→通気窓920a→流路910a→透過壁32(透過孔320)を経由している。
【0072】
真空ポンプ97と収容部30(蓄熱体2)との間には、水蒸気吸引路P2が設定されている。水蒸気吸引路P2は、上流側(収容部30側)から下流側(真空ポンプ97側)に向かって、透過壁32(透過孔320)→流路910a→通気窓920a→サンプル収容部900→配管96(バルブ960)を経由している。
【0073】
<サンプルの製造方法>
次に、サンプル(実施例1~9、比較例1~6の化学蓄熱器)1の製造方法について説明する。前述したように、サンプルの製造方法は、反応容器作製工程と、混合工程と、成形工程と、焼成工程と、収容工程と、を有している。
【0074】
反応容器作製工程においては、図8に示すように、ステンレス製の容器本体31、透過壁32を作製した。なお、透過壁32は、多数の透過孔320を有するメッシュフィルタである。
【0075】
混合工程においては、まず、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)の懸濁液を調製した。具体的には、平均一次粒子径が6~8μmの水酸化カルシウムとイオン交換水とを混合し、攪拌機により2分間攪拌することにより、懸濁液全体を100質量%として、化学蓄熱材を30質量%含有する懸濁液を調製した。並びに、粘土鉱物(セピオライト)の懸濁液を調製した。具体的には、セピオライトとイオン交換水とを混合し2日間、静置することにより、粘土鉱物の懸濁液を調製した。
【0076】
次に、化学蓄熱材の懸濁液と粘土鉱物の懸濁液とを混合し、混合液全体を100質量%として、粘土鉱物を1質量%程度含有する混合液を調製した。続いて、当該混合液を攪拌機により300秒間攪拌した。さらに、上述の混合液に、バインダー(PVA)を4質量%含む水溶液を、加えることにより、当該水溶液を加えた後の混合液全体を100質量%として、バインダー(PVA)を6質量%程度含有する混合液を調製した。続いて、当該混合液を攪拌機により600秒間攪拌した。この混合液をスプレードライにより噴霧・乾燥を行い、粉体状の混合物を作製した。
【0077】
成形工程においては、まず、当該混合物を金型に入れ、一軸成形機で5秒間、1000kgf/cmで加圧することにより、直方体状の成形体を作製した。この際、成形体の寸法を、収容部30の寸法と同一になるように調整した。また、成形圧などを調整することにより、成形体の真密度比Xを所定の真密度比になるように調整した。
【0078】
焼成工程においては、成形体を、酸化性ガス雰囲気の下、780℃で、180分間均熱することにより、化学蓄熱材を脱水反応させ、バインダーを除去し、成形体の強度を向上させた蓄熱体2を作製した。
【0079】
収容工程においては、容器本体31の開口を介して、脱水状態の蓄熱体2を収容部30に挿入した。そして、透過壁32により、容器本体31の開口を封止した。このようにして、サンプルを製造した。
【0080】
<試験方法>
次に、試験方法について説明する。試験においては、サンプルごとに、以下に説明する脱水期間と、温度調整期間と、水和期間と、からなるサイクルを、1000回繰り返し行った。そして、サイクルごとに、水和期間における蓄熱量、熱出力を調べた。
【0081】
(脱水期間)
脱水期間においては、まず、図5に示すバルブ960を開き、図5図6に示す水蒸気吸引路P2を開通させた。並びに、図5に示すバルブ940を閉じ、図5図6に示す水蒸気供給路P1を遮断した。次に、図5に示すヒーター98により、100℃から約490℃まで、サンプル1を加熱した。なお、サンプル1の温度は、図6に示す熱電対99により検出した。
【0082】
サンプル1を加熱すると、蓄熱体2の化学蓄熱材(水酸化カルシウム)は、以下の脱水反応により、ヒーター98からの熱を蓄積し、酸化カルシウムとなる。なお、Q1は蓄熱量である。また、脱水反応に伴う水蒸気(HO)は、水蒸気吸引路P2を介して、排気した。
Ca(OH)+Q1→CaO+H
【0083】
(温度調整期間)
温度調整期間においては、まず、図5に示すヒーター98を停止し、約450℃から約50℃まで、サンプル1を冷却(放冷)した。次に、ヒーター98を駆動し、温度100℃になるように、サンプル1を保温調整した。
【0084】
(水和期間)
図10に、単一のサイクルの水和期間におけるサンプルの温度変化をグラフで示す。水和期間においては、まず、図5に示すバルブ940を開き、図5図6に示す水蒸気供給路P1を開通させた。並びに、図5に示すバルブ960を閉じ、図5図6に示す水蒸気吸引路P2を遮断した。なお、サンプル1は、ヒーター98により、保温調整されたままである。
【0085】
水蒸気供給路P1を介してサンプル1に水蒸気を供給すると、蓄熱体2の化学蓄熱材(酸化カルシウム)は、以下の水和反応により、蓄積しておいた熱を放出し、水酸化カルシウムとなる。なお、Q2は放熱量である。
CaO+HO→Ca(OH)+Q2
【0086】
<試験結果>
次に、試験結果について説明する。表1に、実施例1~9、比較例1~6の蓄熱体2の真密度比X、収容部30の横幅L1、縦幅L2、厚みA、面積B、幅比C、形状係数Y、下記の式2の右辺(-5064.29・X+2924.43)を示す。また、試験結果として、蓄熱量、熱出力を示す。
Y≧-5064.29・X+2924.43 ・・・(式2)
【0087】
(蓄熱量の評価方法)
蓄熱量は、図10に示す水和期間におけるサンプル1の温度変化により、評価した。具体的には、水和期間開始からの最大温度変化ΔTを、蓄熱量とみなした。そして、1000回までのサイクルの最大温度変化ΔTの平均値が、50回までのサイクルの最大温度変化ΔTの最大値に対して、大きく下回ったら(具体的には、最大値を100%として、80%以下だったら)、「蓄熱量が低い」と評価した。また、それ以外の場合を、「蓄熱量が高い」と評価した。
【0088】
(熱出力の評価方法)
熱出力は、上述の蓄熱量と同様に、図10に示す水和期間におけるサンプル1の温度変化により、評価した。具体的には、水和期間開始から最大温度変化ΔTまでの到達時間Δtと、水和期間開始からの最大温度変化ΔTと、の比Δt/ΔTを、熱出力とみなした。そして、1000回までのサイクルの比Δt/ΔTの平均値が、50回までのサイクルの比Δt/ΔTの最大値に対して、大きく下回ったら(具体的には、最大値を100%として、70%以下だったら)、「熱出力が低い」と評価した。また、1000回までのサイクルの比Δt/ΔTの平均値が、50回までのサイクルの比Δt/ΔTの最大値に対して、少し下回ったら(具体的には、最大値を100%として、85%以上だったら)、「熱出力が非常に高い」と評価した。また、それ以外の70%超過85%未満の場合を、「熱出力が高い」と評価した。
【表1】
【0089】
表1に示すように、実施例1、3~9の場合、いずれも形状係数Yが(-5064.29・X+2924.43)よりも大きい。また、実施例2の場合、形状係数Yが(-5064.29・X+2924.43)と等しい。すなわち、実施例1~9は、式2の条件を充足している。これに対して、比較例1~6の場合、いずれも形状係数Yが(-5064.29・X+2924.43)よりも小さい。すなわち、比較例1~6は、式2の条件を充足していない。
【0090】
表1に示す蓄熱量は、各サンプルのサイクル1000回分の蓄熱量の評価である。蓄熱量が高い場合は「○」、低い場合は「×」と表記する。同様に、表1に示す熱出力は、各サンプルのサイクル1000回分の熱出力の評価である。熱出力が非常に高い場合は「◎」、高い場合は「○」、低い場合は「×」と表記する。
【0091】
実施例1~9の場合、いずれも蓄熱量および熱出力が高かった。特に、実施例1、3~6の場合、熱出力が非常に高かった。つまり、1000回、蓄熱、放熱を繰り返しても、安定的に、高い蓄熱量および高い熱出力を維持できることが判った。すなわち、実施例1~9は、耐久性が高いことが判った。
【0092】
これに対して、比較例1~6の場合、いずれも蓄熱量が低かった。特に、比較例3の場合、蓄熱量のみならず、熱出力も低かった。つまり、1000回、蓄熱、放熱を繰り返すと、高い蓄熱量および高い熱出力を維持できない(特に蓄熱量を維持できない)ことが判った。すなわち、比較例1~6は、耐久性が低いことが判った。
【0093】
図11に、真密度比と形状係数との関係をグラフで示す。図11に示すように、実施例1~9と、比較例1~6と、を分断するように直線を引くことにより、具体的には、座標(X,Y)と表記して、実施例2の座標(0.38,1000.00)と、比較例4に近い座標(0.45,645.50)と、を結ぶ直線を引くことにより、前述の式2の不等号を等号に変えた直線E(Y=-5064.29・X+2924.43)の傾き(=-5064.29)と、切片(=2924.43)と、を取得する。直線Eよりも上側(Y>-5064.29・X+2924.43)の実施例1、3~9は、式2を充足している。また、直線Eの線上(Y=-5064.29・X+2924.43)の実施例2は、式2を充足している。他方、直線Eよりも下側(Y<-5064.29・X+2924.43)(線上を含まない)の比較例1~6は、式2を充足していない。
【0094】
なお、上述の座標(0.45,645.50)に対応するサンプルの製造方法、試験方法は、上述の実施例1~9、比較例1~6と同様である。当該サンプルの横幅L1、縦幅L2、厚みA、面積B、幅比Cは、比較例4と同じである。また、当該サンプルの蓄熱量は表1の「◎」に、熱出力は「○」に相当する。
【0095】
このように、式2は、実験から得られた経験式である。上述したように、式2を充足する実施例1~9は、耐久性が高い。他方、式2を充足しない比較例1~6は、耐久性が低い。式2により、化学蓄熱器の耐久性を評価、判別することができる。すなわち、式2を充足するように化学蓄熱器を設計することにより、耐久性の高い化学蓄熱器を提供することができる。
【符号の説明】
【0096】
1:化学蓄熱器(サンプル)、2:蓄熱体、3:反応容器、30:収容部、31:容器本体、310:伝熱壁、32:透過壁、320:透過孔、9:試験装置、90:装置本体、900:サンプル収容部、91:流路部材、910:フィン、910a:流路、92:拘束治具、920:突起、920a:通気窓、93:フランジ、94:配管、940:バルブ、95:水蒸気タンク、96:配管、960:バルブ、97:真空ポンプ、98:ヒーター、99:熱電対
A:厚み、E:直線、L1:横幅、L2:縦幅、P1:水蒸気供給路、P2:水蒸気吸引路、ΔT:最大温度変化、Δt:到達時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11