(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034123
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】内服用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/234 20060101AFI20240306BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240306BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240306BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240306BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20240306BHJP
A61K 36/236 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61K36/234
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/14
A61K36/9068
A61K36/236
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138168
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 美咲
(72)【発明者】
【氏名】橋本 統星
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 圭太
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB01
4C076DD37
4C076DD45
4C076FF11
4C076FF39
4C076FF63
4C076GG45
4C088AB40
4C088AB81
4C088MA16
4C088MA52
4C088NA03
4C088NA20
(57)【要約】
【課題】本発明は、プラスチック包装材中に収容されている、エキスを含有する液状の内服用組成物であって、組成物中のエキス成分の減量を抑制できる製剤処方を提供することを目的とする。
【解決手段】漢方エキス及び生薬エキスからなる群より選択されるエキス、エタノール並びにパラオキシ安息香酸エステルを含み、プラスチック包装材中に収容されている液状の内服用組成物は、組成物中のエキス成分の減量を抑制できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)漢方エキス及び生薬エキスからなる群より選択されるエキス、(B)エタノール並びに(C)パラオキシ安息香酸エステルを含み、プラスチック包装材中に収容されている、液状の内服用組成物。
【請求項2】
前記プラスチックがポリオレフィンである、請求項1に記載の内服用組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の抽出に用いられた原生薬が、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコを含む、請求項1に記載の内服用組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、四物湯、独活葛根湯、及び/又は抑肝散のエキスである、請求項1に記載の内服用組成物。
【請求項5】
前記(A)成分の含有量が10~20重量%である、請求項1に記載の内服用組成物。
【請求項6】
前記(A)成分の含有量が、前記内服用組成物100g当たり、前記(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちショウキョウ、センキュウ、及びサイコの総量が、0.5~20gとなる量である、請求項3に記載の内服用組成物。
【請求項7】
前記(B)成分の配合量が3~8重量%である、請求項1に記載の内服用組成物。
【請求項8】
前記(C)成分の配合量が0.1~0.25重量%である、請求項1に記載の内服用組成物。
【請求項9】
前記プラスチック包装材の形態が軟包装である、請求項1に記載の内服用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内服用組成物に関する。より具体的には、本発明は、プラスチック包装材中に収容されている、エキスを含有する液状の内服用組成物であって、組成物中のエキス成分の減量が抑制されたものに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、漢方薬エキス製剤のほとんどは、細粒剤や顆粒剤の形態で提供されている。一方で、漢方薬は元来煎じ薬として服用されるものであったため、漢方薬の効果を最大化するには、煎じ薬に近い、エキスを水中に溶いた状態で服用することが望ましい。このため、市販の漢方エキス製剤の中でも、いくつかは、そのまま飲用できる内服液の形態で提供されているものがある(非特許文献1、2)。
【0003】
漢方エキス製剤の内服液のように、天然の生薬を使用して調製されているドリンク剤として、生薬エキスを配合した滋養内服液も知られている(非特許文献3)。
【0004】
これらの内服液は、保存安定性の観点から、例外なく、ガラス瓶に収容されて提供されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“和漢箋 補中益気湯(ドリンクタイプ) 添付文書”,[online],ロート製薬株式会社,[令和4年8月19日検索],インターネット<URL:https://jp.rohto.com/-/media/com/wakansen/hochu-drink/4987241170203.pdf?la=ja-jp&rev=f49d4fe26fb84d55bf1ccea5a5b4910f>
【非特許文献2】“ツムラ漢方内服液麻黄湯”,[online],株式会社ツムラ,[令和4年8月19日検索],インターネット<URL:https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/drinkmaou/index.html>
【非特許文献3】“ルル滋養内服液30mL 添付文書”,[online],第一三共ヘルスケア株式会社,[令和4年8月19日検索],インターネット<URL:https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/package_insert/pdf/lulu_jnai_1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス瓶は、保存安定性に優れているため、エキスが配合された内服液の収容には欠かせない。一方で、重量がありかさ高である上に、廃棄時にコンパクト化することもできない等のデメリットがある。本発明者は、エキスを含有する液状の内服用組成物をプラスチック包装材に収容して保存したところ、組成物中のエキス成分が減量する課題に直面した。
【0007】
そこで、本発明は、プラスチック包装材中に収容されている、エキスを含有する液状の内服用組成物であって、組成物中のエキス成分の減量を抑制できる製剤処方を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、エキスを含有する液状の内服用組成物にエタノール及びパラオキシ安息香酸エステルを配合して、プラスチック包装材中に収容することで、組成物中のエキス成分の減量を抑制できることを新たに見出した。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)漢方エキス及び生薬エキスからなる群より選択されるエキス、(B)エタノール並びに(C)パラオキシ安息香酸エステルを含み、プラスチック包装材中に収容されている、液状の内服用組成物。
項2. 前記プラスチックがポリオレフィンである、項1に記載の内服用組成物。
項3. 前記(A)成分の抽出に用いられた原生薬が、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコを含む、項1又は2に記載の内服用組成物。
項4. 前記(A)成分が、四物湯、独活葛根湯、及び/又は抑肝散のエキスである、項1~3のいずれかに記載の内服用組成物。
項5. 前記(A)成分の含有量が10~20重量%である、項1~4のいずれかに記載の内服用組成物。
項6. 前記(A)成分の含有量が、前記内服用組成物100g当たり、前記(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちショウキョウ、センキュウ、及びサイコの総量が、0.5~20gとなる量である、項3~5のいずれかに記載の内服用組成物。
項7. 前記(B)成分の配合量が3~8重量%である、項1~6のいずれかに記載の内服用組成物。
項8. 前記(C)成分の配合量が0.1~0.25重量%である、項1~7のいずれかに記載の内服用組成物。
項9. 前記プラスチック包装材の形態が軟包装である、項1~8のいずれかに記載の内服用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラスチック包装材中に収容されている、エキスを含有する液状の内服用組成物であって、組成物中のエキス成分の減量を抑制できる製剤処方が供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による、パウチに収容された四物湯エキスを含有する液状の内服用組成物の、エキス成分(センキュウに由来するフェルラ酸)の減量抑制効果を示す。
【
図2】本発明による、パウチに収容された独活葛根湯エキスを含有する液状の内服用組成物の、エキス成分(ショウキョウに由来する6-ギンゲロール)の減量抑制効果を示す。
【
図3】本発明による、パウチに収容された抑肝散エキスを含有する液状の内服用組成物の、エキス成分(サイコに由来するサイコサポニンb2)の減量抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の内服用組成物は、(A)漢方エキス及び生薬エキスからなる群より選択されるエキス(以下において、「(A)成分」とも記載する)、(B)エタノール(以下において、「(B)成分」とも記載する)並びに(C)パラオキシ安息香酸エステル(以下において、「(C)成分」とも記載する)を含み、プラスチック包装材中に収容されており、液状であることを特徴とする。以下、本発明の内服用組成物について詳述する。
【0013】
(A)エキス
本発明の内服用組成物は、(A)成分として、漢方エキス及び生薬エキスからなる群より選択されるエキスを含む。
【0014】
本発明において、漢方エキスとは、複数の生薬を含む生薬混合物を抽出して得られるエキスであり、生薬エキスとは、1種類の生薬を得られるエキス(単味エキス)である。本発明において、これらエキスの抽出原料となる生薬混合物及び生薬を、まとめて原生薬とも記載する。
【0015】
(A)成分の抽出に用いられる原生薬については特に限定されないが、組成物中のエキス成分の減量の抑制効果を高める観点から、好ましくはショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコが挙げられ、より好ましくはセンキュウ、及び/又はサイコが挙げられ、さらに好ましくはショウキョウが挙げられる。
【0016】
また、本来的に、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコから得られるエキスを含む液は、プラスチック包装材中で当該エキスが減量しやすく、さらに、これらの中でも、特に、ショウキョウから得られるエキスを含む液は、プラスチック包装材中で当該エキスが減量しやすい。本発明の内服用組成物は、このように減量しやすい成分を含んでいても、効果的に減量を抑制することができる。このような観点から、(A)成分の抽出に用いられる原生薬は、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコを含むことが好ましく、ショウキョウを含むことが特に好ましい。同様の観点で、(A)成分は、四物湯、独活葛根湯、及び/又は抑肝散のエキスであることが好ましく、独活葛根湯であることが特に好ましい。
【0017】
独活葛根湯は、カッコン、ケイヒ、シャクヤク、マオウ、ドクカツ、ショウキョウ、ジオウ、タイソウ、及びカンゾウからなる混合生薬である。独活葛根湯エキスの製造に用いられる生薬調合物を構成する生薬の混合比としては特に制限されないが、例えば、カッコン2.5~5重量部、ケイヒ1.5~3重量部、シャクヤク1.5~3重量部、マオウ1~2重量部、ドクカツ1~2重量部、ショウキョウ0.1~2重量部、ジオウ2~4重量部、タイソウ0.5~2重量部、及びカンゾウ0.5~2重量部が挙げられる。四物湯は、シャクヤク、ジオウ、センキュウ、及びトウキからなる混合生薬である。四物湯エキスの製造に用いられる生薬調合物を構成する生薬の混合比としては特に制限されないが、例えば、シャクヤク1.5~5重量部、ジオウ1.5~5重量部、センキュウ1.5~5重量部、及びトウキ1.5~5重量部が挙げられる。抑肝散は、トウキ、チョウトウコウ、センキュウ、ビャクジュツ、ブクリョウ、サイコ、及びカンゾウからなる混合生薬である。抑肝散エキスの製造に用いられる生薬調合物を構成する生薬の混合比としては特に制限されないが、例えば、トウキ1.5~3重量部、チョウトウコウ1.5~3重量部、センキュウ1.5~3重量部、ビャクジュツ2~4重量部、ブクリョウ2~4重量部、サイコ1~5重量部、及びカンゾウ0.75~1.5重量部が挙げられる。
【0018】
本発明の内服用組成物において、漢方エキスは、漢方エキスの濃縮液の形態で含まれていてもよいし、漢方エキスの乾燥物の形態で含まれていてもよい。漢方エキスの濃縮液とは、漢方エキスと溶媒(例えば、漢方エキスの抽出に用いた抽出溶媒)とを含み、濃縮エキスに含まれる漢方エキス濃度(乾燥エキス換算量)が、その漢方の煎じ薬に含まれる漢方エキス濃度(乾燥エキス換算量)より高められている又は服用時に希釈することを要する程度に高められているものをいう。漢方エキスの乾燥物は、漢方エキスの濃縮液からさらに溶媒が除去されたものをいう。
【0019】
漢方エキスの濃縮液は、漢方処方に従った生薬調合物を抽出処理し、得られた抽出液を濃縮することにより得ることができる。抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。抽出処理方法としては、生薬調合物に対して、約10~20倍量の抽出溶媒を加え、40~100℃、50~100℃、60~100℃、80~100℃、又は90~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。濃縮方法としては特に限定されず、例えば、減圧下濃縮法、膜濃縮法、加熱濃縮法が挙げられる。また、漢方エキスの乾燥物は、漢方エキスの濃縮液を乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、フリーズドライ法、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法、スプレードライ法等が挙げられる。
【0020】
(A)成分の含有量は特に限定されず、内服用組成物をそのまま希釈せずに服用するもの(以下において、ストレートタイプとも記載する。)とするか、又は用時に希釈して服用するもの(以下において、濃縮タイプとも記載する。)とするか等に応じて定めることができる。具体的には、(A)成分の含有量として、乾燥重量換算量で、例えば1~20重量%が挙げられ、内服用組成物が濃縮タイプの場合は、好ましくは10~20重量%、より好ましくは11.5~17重量%が挙げられる。
【0021】
(A)成分が、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコを含む場合、(A)成分の含有量としては、内服用組成物100g当たり、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのショウキョウ、センキュウ、及びサイコの総量が、例えば0.5~20gとなる量が挙げられ、内服用組成物が濃縮タイプの場合、好ましくは0.7~20g、より好ましくは0.8~16gとなる量が挙げられる。また、(A)成分がショウキョウを含む場合、(A)成分の含有量としては、内服用組成物100g当たり、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのショウキョウの量が、例えば0.07~2gとなる量が挙げられ、内服用組成物が濃縮タイプの場合、好ましくは0.7~2g、より好ましくは0.75~1.5g、さらに好ましくは0.8~1gとなる量が挙げられ;(A)成分がセンキュウを含む場合、(A)成分の含有量としては、内服用組成物100g当たり、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのセンキュウの量が、例えば0.5~15gとなる量が挙げられ、内服用組成物が濃縮タイプの場合、好ましくは5~15g、より好ましくは6~12g、さらに好ましくは7~9gとなる量が挙げられ;(A)成分がサイコを含む場合、(A)成分の含有量としては、内服用組成物100g当たり、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのサイコの量が、例えば0.3~13gとなる量が挙げられ、内服用組成物が濃縮タイプの場合、好ましくは3~13g、より好ましくは4~10g、さらに好ましくは5~8gとなる量が挙げられる。
【0022】
(B)エタノール
本発明の内服用組成物は、(B)成分としてエタノールを含む。
【0023】
(B)成分の含有量は特に限定されず、得ようとする組成物中のエキス成分の減量抑制効果のレベルに応じて適宜設定すればよいが、例えば0.1~8重量%、好ましくは0.3~8重量%が挙げられる。内服用組成物が濃縮タイプである場合、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から(B)成分の配合量をさらに高めることができ、具体的な(B)成分の含有量としては、好ましくは3~8重量%、より好ましくは4~8重量%、さらに好ましくは4.5~8重量%、4.5~7重量%、又は4.5~6重量%が挙げられる。
【0024】
(A)成分と(B)成分との含有量の比率については、上記各含有量に応じて定まるが、(A)成分100重量部当たりの(B)成分の含有量として、例えば、20~55重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは25~50重量部、より好ましくは30~45重量部が挙げられる。
【0025】
(A)成分が、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのショウキョウ、センキュウ、及びサイコの総量を100重量部とした場合の(B)成分の含有量として、例えば20~700重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは25~650重量部、より好ましくは30~600重量部が挙げられる。また、(A)成分がショウキョウを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのショウキョウ量を100重量部とした場合の(B)成分の含有量として、例えば450~700重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは500~650重量部、より好ましくは550~600重量部が挙げられ;(A)成分がセンキュウを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのセンキュウ量を100重量部とした場合の(B)成分の含有量として、例えば47~80重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは52~75重量部、より好ましくは57~70重量部が挙げられ;(A)成分がサイコを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのサイコ量を100重量部とした場合の(B)成分の含有量として、例えば75~100重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは80~95重量部、より好ましくは85~90重量部が挙げられる。
【0026】
(C)パラオキシ安息香酸エステル
本発明の内服用組成物は、(C)成分としてパラオキシ安息香酸エステルを含む。パラオキシ安息香酸エステルは防腐剤として公知の成分であるが、本発明においては、防腐剤の本来の静菌作用とは異なり、プラスチック包装材へのエキス成分の吸着を抑制することで組成物中のエキス成分の減量を抑制する。
【0027】
パラオキシ安息香酸エステルは、パラオキシ安息香酸のアルキルエステル又はベンジルエステルである。パラオキシ安息香酸のアルキルエステルにおけるアルキル基としては、例えば、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。パラオキシ安息香酸エステルの具体例としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル等が挙げられる。
【0028】
これらのパラオキシ安息香酸エステルは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。組成物中のエキス成分の減量の抑制効果を高める観点から、好ましくは、好ましくはパラオキシ安息香酸のアルキルエステルが挙げられ、より好ましくはパラオキシ安息香酸のアルキル(炭素数1~5の直鎖状)エステルが挙げられ、さらに好ましくはパラオキシ安息香酸メチル及びパラオキシ安息香酸プロピルが挙げられる。
【0029】
(C)成分の含有量は特に限定されず、得ようとする組成物中のエキス成分の減量抑制効果のレベルに応じて適宜設定すればよいが、例えば0.003~0.25重量%、好ましくは0.01~0.25重量%が挙げられる。内服用組成物が濃縮タイプである場合、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から(C)成分の配合量をさらに高めることができ、具体的な(C)成分の含有量としては、好ましくは0.1~0.25重量%、より好ましくは0.12~0.25重量%、さらに好ましくは0.14~0.25重量%、0.14~0.2重量%、又は0.14~0.18重量%が挙げられる。
【0030】
(A)成分と(C)成分との含有量の比率については、上記各含有量に応じて定まるが、(A)成分100重量部当たりの(C)成分の含有量として、例えば、0.7~1.5重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは0.8~1.4重量部、より好ましくは0.9~1.3重量部が挙げられる。
【0031】
(A)成分が、ショウキョウ、センキュウ、及び/又はサイコを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのショウキョウ、センキュウ、及びサイコの総量を100重量部とした場合の(C)成分の含有量として、例えば0.6~21重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは0.75~20重量部、より好ましくは0.9~18重量部が挙げられる。また、(A)成分がショウキョウを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのショウキョウ量を100重量部とした場合の(C)成分の含有量として、例えば13~22重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは15~20重量部、より好ましくは16.5~18重量部が挙げられ;(A)成分がセンキュウを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのセンキュウ量を100重量部とした場合の(C)成分の含有量として、例えば1.4~2.4重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは1.5~2.3重量部、より好ましくは1.7~2.1重量部が挙げられ;(A)成分がサイコを含む場合、(A)成分の抽出に用いられた原生薬のうちのサイコ量を100重量部とした場合の(C)成分の含有量として、例えば2.2~3重量部が挙げられ、組成物中のエキス成分の減量抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは2.4~2.8重量部、より好ましくは2.5~2.7重量部が挙げられる。
【0032】
その他の成分
本発明の内服用組成物は、上記成分に加え、他の成分として、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類(上記(B)成分以外)、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤(上記(C)成分以外)、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、内服用組成物の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0033】
また、本発明の内服用組成物は、上記成分に加え、他の成分として、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0034】
製剤形態
本発明の内服用組成物の製剤形態は、液状であれば特に限定されず、液剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。また、本発明の内服用組成物は、用時にそのまま希釈せずに服用するストレートタイプであってもよいし、用時に希釈して服用する濃縮タイプであってもよいが、好ましくは濃縮タイプが挙げられる。本発明の内服用組成物を当該製剤形態に調製するには、有効成分である上記所定の漢方エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0035】
プラスチック包装材
本発明の内服用組成物が収容されるプラスチック包装材は、少なくとも、収容された内服用組成物が接触する内表面がプラスチックで構成されている。プラスチックは、液状の内服用組成物が収容される容器の材料として用いられるガラスとは異なり、本来的にはエキス成分を吸着しやすいため収容された組成物中のエキス成分の減量を引き起こすが、本発明の内服用組成物は、プラスチック包装材中でのエキス成分の減量を抑制することができる。
【0036】
本発明において、プラスチックとしては特に限定されないが、好ましくはポリオレフィンが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、中低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、特に好ましくはLLDPEが挙げられる。
【0037】
本発明の内服用組成物が収容されるプラスチック包装材は、収容された内服用組成物が接触する内表面がプラスチックで構成されていれば、単層構造であってもよいし複層構造であってもよい。複層構造である場合は、収容された内服用組成物が接触する最内層を構成する樹脂がプラスチックであればよい。その他の層は、最内層と異なるプラスチックで構成される層であってもよいし、プラスチック以外の材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成される層であってもよい。また、他の層の数及び積層順については任意である。
【0038】
プラスチック包装材の形態については特に限定されず、例えば、ボトル状等の硬包装であってもよいし、パウチ状(袋状)等の軟包装であってもよい。本発明においては、好ましい形態である濃縮タイプの内服用組成物の収容及び取り出しに適した軟包装が好ましく、パウチ状であることがより好ましい。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
試験例1
(1)内服用組成物の調製
(1-1)四物湯エキスの濃縮液
原料生薬として、シャクヤク1.5g、ジオウ1.5g、センキュウ1.5g、及びトウキ1.5gの割合で用い、これらを刻んだ後、水15倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、四物湯エキスの濃縮液の濃縮液を得た。全ての原生薬100重量部から得られた四物湯エキス(乾燥エキス換算量)の量は40重量部である。
【0041】
(1-2)独活葛根湯エキスの濃縮液
原料生薬として、カッコン2.5g、ケイヒ1.5g、シャクヤク1.5g、マオウ1.0g、ドクカツ1.0g、ショウキョウ0.167g、ジオウ2.0g、タイソウ0.5g、及びカンゾウ0.5gの割合で用い、これらを刻んだ後、水15倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、独活葛根湯エキスの濃縮液を得た。全ての原生薬100重量部から得られた独活葛根湯エキス(乾燥エキス換算量)の量は30重量部である。
【0042】
(1-3)内服用組成物
上記(1-1)及び(1-2)で調製した漢方エキスの濃縮液を用い、表1及び表2に示す内服用組成物を調製した。なお、表1及び表2中、パラオキシ安息香酸エステルとして、パラオキシ安息香酸メチル及びパラオキシ安息香酸プロピルの混合物を用いた。
【0043】
(1-4)収容
上記(1-3)で調製した内服用組成物を、表1及び表2に示す内表面材質の収容体に収容した。具体的には、比較例及び実施例では、最内層がLLDPE50である多層構造のフィルムで構成されるパウチに内服用組成物を収容し、参考例では、ガラス容器に内服用組成物を収容し、密閉した。なお、パウチとガラス容器の大きさは、内服用組成物と接触する面積が同じになるようにそろえた。
【0044】
【0045】
【0046】
(2)エキス成分の残存率の測定
内服用組成物を収容体に収容した状態で、40℃、75%RHの条件下で保存した。保存開始前、保存開始後1カ月及び3か月の時点で内服用組成物をサンプリングし、以下の方法で各エキス成分の残存率を求めた。結果を
図1及び
図2に示す。
【0047】
(2-1)四物湯エキス成分(センキュウに由来するフェルラ酸)の測定
四物湯エキスを含む内服用組成物約2.6gを精密に量り、薄めたメタノール(1→2)を加えて正確に50mLとした。15分間振り混ぜた後、ろ過し、ろ液を試料溶液とした。別途、定量用(E)-フェルラ酸をデシケーター(シリカゲル)で約24時間以上乾燥し、その約10mgを精密に量り、薄めたメタノール(1→2)に溶かし、正確に100mLとした。この液2mLを正確に量り、薄めたメタノール(1→2)を加えて正確に50mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0048】
(試験条件)
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長320nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:リン酸二水素ナトリウム7.8gを水1000mLに溶かし、リン酸2mLを加えた。この液850mLにアセトニトリル150mLを加えた。
流速:(E)-フェルラ酸の保持時間が約10分になるように調整した。
【0049】
下記式に従って試料溶液中の(E)-フェルラ酸量を算出し、四物湯エキスを含む内服用組成物(n=3)中の(E)-フェルラ酸含量を求めた。
【0050】
【0051】
(2-2)独活葛根湯エキス成分(ショウキョウに由来する6-ギンゲロール)の測定
独活葛根湯エキスを含む内服用組成物約5.6gを精密に量り、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比7:1)を加え、正確に30mLとした。20分間振り混ぜた後、遠心分離し、抽出液を分取した。残留物にメタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加えて、さらにこの操作を2回繰り返した。全抽出液を合わせ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)を加えて正確に100mLとし、試料溶液とした。別途、定量用6-ギンゲロール約5mgを精密に量り、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)に溶かし、正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0052】
(試験条件)
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長:205nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/リン酸混和液(水:アセトニトリル:リン酸の容量比380:2200:1)
流速:6-ギンゲロールの保持時間が約19分になるように調整した。
【0053】
下記式に従って試料溶液中の6-ギンゲロール量を算出し、独活葛根湯エキスを含む内服用組成物(n=3)中の6-ギンゲロール含量を求めた。
【0054】
【0055】
(2-3)エキス成分の残存率の導出
上記(2-1)及び(2-2)の方法で求めたエキス成分含有量に基づき、保存開始前のエキス成分含有量(初期値)を100%とした場合の、各々のサンプリング時点におけるエキス成分の残存率を下記の式に従い算出した。
【0056】
【0057】
参考例1,2については図示していないが、ガラス瓶に収容された内服用組成物については、いずれもエキス成分の減量は認められなかった。一方で、
図1及び
図2に示すように、パウチに収容された内服用組成物(比較例1,3)ではエキス成分の顕著な減量が認められた。つまり、エキス成分がパウチ内表面のプラスチックに吸着されることで、収容されている内服用組成物中のエキス成分(遊離しているエキス成分)が低減したと認められた。この減量はエタノールを配合することで抑制された(比較例2,4)が、予想外にも、パラオキシ安息香酸エステルを併用することでさらに抑制された(実施例1,2)。
【0058】
試験例2
【0059】
(1)内服用組成物の調製
漢方エキスの濃縮液を以下に示す抑肝散エキスの濃縮液に変更し、内服用組成物の組成を表3に示すものとしたことを除いて、試験例2と同様に、収容体に収容された内服用組成物を用意した。なお、表3中、パラオキシ安息香酸エステルとして、パラオキシ安息香酸メチル及びパラオキシ安息香酸プロピルの混合物を用いた。
【0060】
抑肝散エキスの濃縮液
原料生薬として、トウキ1.5g、チョウトウコウ1.5g、センキュウ1.5g、ビャクジュツ2.0g、ブクリョウ2.0g、サイコ1.0g、及びカンゾウ0.75gの割合で用い、これらを刻んだ後、水15倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、抑肝散エキスの濃縮液を得た。全ての原生薬100重量部から得られた抑肝散エキス(乾燥エキス換算量)の量は24重量部である。
【0061】
【0062】
(2)エキス成分の残存率の測定
抑肝散エキス成分を以下のように測定したことを除いて、試験例2と同様に、エキス成分の残存率を測定した。結果を
図3に示す。
【0063】
抑肝散エキス成分(サイコに由来するサイコサポニンb2)の測定
抑肝散エキスを含む内服用組成物約4.4gを精密に量り、薄めたメタノール(1→2)を加えて正確に10mLとした。遠心分離後、上澄み液を試料溶液とした。別途、
定量用サイコサポニンb2標準品をデシケーター(シリカゲル)で24時間以上乾燥し、その約10mgを精密に量り、メタノール50mLを加え、水を加えて正確に100mLとした。この液10mLを正確に量り、薄めたメタノール(1→2)を加えて正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0064】
(試験条件)
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:0.05mol/Lリン酸二水素ナトリウム試液/アセトニトリル混液(容量比5:3)
流速:サイコサポニンb2の保持時間が約23分になるように調整した。
【0065】
下記式に従って試料溶液中のサイコサポニンb2量を算出し、抑肝散エキスを含む内服用組成物(n=3)中のサイコサポニンb2含量を求めた。
【0066】
【0067】
参考例3については図示していないが、ガラス瓶に収容された内服用組成物については、エキス成分の減量は認められなかった。一方で、
図3に示すように、パウチに収容された内服用組成物(比較例5)ではエキス成分の顕著な減量が認められた。つまり、エキス成分がパウチ内表面のプラスチックに吸着されることで、収容されている内服用組成物中のエキス成分(遊離しているエキス成分)が低減したと認められた。この減量は、予想外にも、エタノール及びパラオキシ安息香酸エステルを併用することで抑制された(実施例3)。