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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034169
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電極用組成物、電極および電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/60 20060101AFI20240306BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M4/137
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138238
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤内 謙光
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA00
5H050BA08
5H050CA19
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB19
5H050CB22
5H050CB25
5H050CB26
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】有機電池材料として使用可能な環境適合性に優れた電極用組成物を実現する。
【解決手段】本開示の一実施形態に係る電極用組成物は、有機レドックス分子を含み、前記有機レドックス分子は、Ag/AgCl参照電極を用いて測定された酸化還元電位が-1.3~0.9Vであり、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差が0.8V以内である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機レドックス分子を含み、
前記有機レドックス分子は、Ag/AgCl参照電極を基準として測定された酸化還元電位が-1.3~0.9Vであり、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差が0.8V以内である、電極用組成物。
【請求項2】
導電助剤をさらに含む、請求項1に記載の電極用組成物。
【請求項3】
前記有機レドックス分子が、炭素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される少なくとも1種の原子を含んでいる化合物である、請求項1または2に記載の電極用組成物。
【請求項4】
前記有機レドックス分子が、芳香環を有する化合物である、請求項1または2に記載の電極用組成物。
【請求項5】
前記有機レドックス分子が、ビオロゲン化合物、フェナジン化合物、キノン化合物、イミド化合物、ニトロキシド化合物からなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の電極用組成物。
【請求項6】
前記有機レドックス分子の酸化還元電位が-0.3~0.9Vであり、正極用である、請求項1または2に記載の電極用組成物。
【請求項7】
前記有機レドックス分子の酸化還元電位が-1.3~-0.2Vであり、負極用である、請求項1または2に記載の電極用組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の電極用組成物を含む、電極。
【請求項9】
請求項6に記載の電極用組成物を含む、正極。
【請求項10】
請求項7に記載の電極用組成物を含む、負極。
【請求項11】
請求項8に記載の電極を備える、電池。
【請求項12】
請求項9に記載の正極と、負極とを備える、電池。
【請求項13】
正極と、請求項10に記載の負極とを備える、電池。
【請求項14】
請求項9に記載の正極と、請求項10に記載の負極とを備える、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用組成物、電極および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーの導入および超スマート社会に向けた小型電子デバイスの普及には、電気エネルギーの貯蔵を担う二次電池が必要である。二次電池の需要はますます増加しており、2030年には現在の約10倍の需要(世界で>3500GWh)が見込まれている(非特許文献1)。
【0003】
一方、二次電池には、高い環境負荷(非特許文献2)および資源枯渇の問題(非特許文献3)、さらに電池材料の煩雑かつ低効率なリサイクル性(非特許文献4および5)が指摘されている。例えばリチウムイオン電池については、コバルトなど枯渇資源を利用している点、リサイクルには金属電極ならではの複雑な分解・分離工程、高温熱処理(>500℃)などが必要である点が指摘されている。これらの点を解決するため長らく研究および開発が進められているが、リチウムイオン電池のリサイクル率は現在数%にも満たず(非特許文献4および5)、エネルギーロスおよびCO排出量も大きい(非特許文献1)。
【0004】
リチウムイオン電池に比べて環境負荷の低い電池として、有機電池が検討されている。例えば特許文献1には、レドックスポリマーを含む負極を備えた空気電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-48012号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】World Economic Forum and The Global Battery Alliance. A Vision for a Sustainable Battery Value Chain in 2030: Unlocking the Full Potential to Power Sustainable Development and Climate Change Mitigation; WeForum: Cologny, Switzerland, 2019.
【非特許文献2】S. Schismenos et al., Safety Science 140, 105290, 2021.
【非特許文献3】R. A. Meyers (Ed), Encyclopedia of Sustainability Science and Technology, Springer, New York, 2012.
【非特許文献4】G. Harper et al., Nature, 575, 75-86, 2019.
【非特許文献5】Y. Kim et al., Mater. Adv., 2, 3234-3250, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、環境適合性に優れた電池材料を提供するという点でさらなる改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、有機電池材料として使用可能な環境適合性に優れた電極用組成物を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の有機レドックス分子を用いることにより、有機電池材料として使用可能な環境適合性に優れた電極用組成物を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の一態様は、以下の構成を含む。
<1>有機レドックス分子を含み、前記有機レドックス分子は、Ag/AgCl参照電極を基準として測定された酸化還元電位が-1.3~0.9Vであり、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差が0.8V以内である、電極用組成物。
<2>導電助剤をさらに含む、<1>に記載の電極用組成物。
<3>前記有機レドックス分子が、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される少なくとも1種の原子を含んでいる化合物である、<1>または<2>に記載の電極用組成物。
<4>前記有機レドックス分子が、芳香環を有する化合物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<5>前記有機レドックス分子が、ビオロゲン化合物、フェナジン化合物、キノン化合物、イミド化合物、ニトロキシド化合物からなる群より選択される1種以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<6>前記有機レドックス分子の酸化還元電位が-0.3~0.9Vであり、正極用である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<7>前記有機レドックス分子の酸化還元電位が-1.3~-0.2Vであり、負極用である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の電極用組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の電極用組成物を含む、電極。
<9><6>に記載の電極用組成物を含む、正極。
<10><7>に記載の電極用組成物を含む、負極。
<11><8>に記載の電極を備える、電池。
<12><9>に記載の正極と、負極とを備える、電池。
<13>正極と、<10>に記載の負極とを備える、電池。
<14><9>に記載の正極と、<10>に記載の負極とを備える、電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、有機電池材料として使用可能な環境適合性に優れた電極用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例のビオロゲン電極およびフェナジン電極の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
図2】実施例のビオロゲン電極およびフェナジン電極の15Cでの充放電曲線および15Cでのサイクル試験結果を示す図である。
図3】実施例のビオロゲン電極およびフェナジン電極の放電プロセスにおける1C、5C、10C、15C、30C、60Cでのレート特性を示す図である。
図4】実施例の有機電池の15Cでの充放電曲線および15Cでのサイクル試験結果を示す図である。
図5】実施例の有機電池の放電プロセスにおける5C、10C、15C、30Cでのレート特性を示す図である。
図6】実施例における1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドおよび1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドの熱重量分析の結果を示す図である。
図7】実施例における(a)1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミド、(b)分解および精製後の1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミド、(c)4,4’-ビピリジルのH NMRスペクトル(DMSO-d)を示す図である。
図8】実施例における(a)1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリド、(b)分解および精製後の1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリド、(c)4,4’-ビピリジルのH NMRスペクトル(DMSO-d)を示す図である。
図9】実施例におけるピロメリット酸ジイミドおよびナフタレンジイミドのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図10】実施例におけるデュロキノンのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図11】参考例としてのペリレンジイミドのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0013】
〔1.電極用組成物〕
本発明の一実施形態に係る電極用組成物は、有機レドックス分子を含み、前記有機レドックス分子は、Ag/AgCl参照電極を基準として測定された酸化還元電位が-1.3~0.9Vであり、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差が0.8V以内である。これにより、有機電池材料として使用可能な環境適合性に優れた電極用組成物を提供することができる。
【0014】
本明細書において、「有機レドックス分子」とは、電解液中で可逆に酸化還元可能である化合物を意味する。当該有機レドックス分子は有機電池の電極活物質として使用可能である。特に前記酸化還元電位を示す有機レドックス分子は、水系電解液中で可逆に酸化還元可能である。また、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差が前記範囲であれば、電極活物質として使用しやすい。
【0015】
本明細書において、正極および負極の少なくともいずれか一方が有機分子を活物質とする電極である電池を「有機電池」と称する。特に、正極および負極の両方が有機分子を活物質とする電極である電池を全有機電池(オール有機電池)とも称する。
【0016】
本明細書において、「環境適合性に優れる」とは、原料の入手、化合物の合成および分解、電極および電池の作製および分解の少なくともいずれかにおいて環境への負荷が小さいことを意味する。また、「環境への負荷が小さいこと」には、持続可能な資源の活用、簡易な合成方法、温和な条件での分解、高効率なリサイクル性も包含される。
【0017】
有機レドックス分子は、従来のリチウムイオン電池材料に比べて地球上に豊富な資源から簡易な方法によって合成可能である。また、有機レドックス分子は、金属材料に比べて容易に分解できる。さらに有機レドックス分子は重合せずとも電極材料として使用可能であるため、従来のレドックスポリマーと比べても容易に合成および分解できる。
【0018】
このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、目標12「つくる責任 つかう責任」(持続可能な生産消費形態を確保する)等の達成にも貢献し得る。
【0019】
本明細書において「有機レドックス分子を含む電極用組成物」とは、有機レドックス分子が重合されずに含まれている電極用組成物を意味する。換言すれば、前記有機レドックス分子は、組成物中でポリマーを構成する単量体単位として含まれている化合物ではない。すなわち、本明細書において「有機レドックス分子」は、ポリマーを除く化合物を意味する。好ましくは、電極用組成物は有機レドックスポリマーを含まない。
【0020】
前記有機レドックス分子の分子量は、例えば1000以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。有機レドックス分子の分子量が上記範囲であれば分解性により優れる。有機レドックス分子の分子量の下限値は特に限定されないが、例えば100以上であってもよい。
【0021】
本明細書において「酸化ピーク電位」および「還元ピーク電位」は、有機レドックス分子を含む作用電極と、対極としてのコイル状白金線と、Ag/AgCl参照電極と、電解液としての3M KCl水溶液とを用いたポテンショスタットにより測定されたサイクリックボルタモグラムから求めた電位を意味する。また、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との平均値を「酸化還元電位」とする。
【0022】
なお、有機レドックス分子1分子あたり2つ以上の電子が移動する場合、段階的に酸化還元反応が生じ得る。二段階以上の酸化還元反応が生じる場合、酸化ピーク電位および還元ピーク電位がそれぞれ複数存在し得る。この場合、一段階目の酸化還元反応に相当する酸化ピーク電位および還元ピーク電位を採用する。
【0023】
前記有機レドックス分子は、炭素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される少なくとも1種の原子を含んでいる化合物であってもよく、窒素原子および酸素原子の少なくともいずれか一方の原子を含んでいる化合物であってもよい。前記有機レドックス分子は、炭素原子と、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される少なくとも1種の原子とを含んでいる化合物であってもよく、炭素原子と、窒素原子および酸素原子の少なくともいずれか一方の原子とを含んでいる化合物であってもよい。有機レドックス分子は、複素環を有していてもよい。例えば有機レドックス分子は含窒素複素環式化合物であってもよい。有機レドックス分子は、金属原子を含まないことが好ましい。
【0024】
前記有機レドックス分子は、芳香環を有する化合物であってもよく、例えば1~3個の芳香環を有する化合物であってもよい。前記芳香環は縮合していてもよい。有機レドックス分子は、複素芳香族化合物であってもよい。
【0025】
前記有機レドックス分子は、ビオロゲン化合物、フェナジン化合物、キノン化合物、イミド化合物、ニトロキシド化合物からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。本明細書において、「ビオロゲン化合物」とは、少なくともビピリジニウム構造を有する化合物を意味する。「フェナジン化合物」とは、フェナジンおよびその誘導体を意味する。「キノン化合物」とは、少なくとも2つのケトン構造を有する芳香族化合物を意味する。「イミド化合物」とは、少なくともイミド結合を有する化合物を意味する。「ニトロキシド化合物」とは、少なくともN-オキシルラジカル構造を有する化合物を意味する。
【0026】
前記有機レドックス分子は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばアルキル基、アリール基、カルボキシル基、ハロゲン基、アミノ基が挙げられる。置換基は、好ましくは炭素数1~12のアルキル基、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。
【0027】
炭素数1~12のアルキル基を有する有機レドックス分子は、例えば、ハロゲン化炭化水素を用いた反応により容易に合成可能である。当該反応における溶媒としては、γ-バレロラクトン等の環境適合性の溶媒を用いることができる。また、このような置換基を有する有機レドックス分子は、例えば300℃未満の熱処理等の温和な条件によって分解することができる。当該熱処理は、リチウムイオン電池廃棄物の500℃を超える熱処理に比べて低温で実施可能である。さらに、炭素数5~10のアルキル基を有する有機レドックス分子は、水系電解液への溶解性が低い、または不溶である観点から好ましい。
【0028】
ビオロゲン化合物としては、1,1’-ジメチル-4,4’-ビピリジニウム、1,1’-ジヘプチル-4,4’-ビピリジニウム、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウム、1,1’-ジドデシル-4,4’-ビピリジニウム、1,1’-ジフェニル-4,4’-ビピリジニウム等が挙げられる。ビオロゲン化合物は、対アニオンとして臭化物イオン、塩化物イオン、ヘキサフルオロホスファートイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン等を含んでいてもよい。フェナジン化合物としては、フェナジン、5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジン、フェナジン-2,3-ジアミン、1-ヒドロキシフェナジン等が挙げられる。キノン化合物としては、例えば1~5個の芳香環を有するキノン化合物が挙げられ、具体的にはベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、フェナントレンキノン、ペンタセンキノン、およびそれらの誘導体が挙げられ、さらに具体的にはp-ベンゾキノン、o-ベンゾキノン、1,4-ナフトキノン、ビタミンK1、アントラキノン、1,8-ジヒロドキシアントラキノン、フェナントレンキノン、6,13-ペンタセンキノン、デュロキノン、コエンザイムQ10等が挙げられる。イミド化合物としては、ピロメリット酸ジイミド、ナフタレンジイミド、N,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、2,6-ジブロモ-N,N’-ビス(2-エチルヘキシル)-1,8:4,5-ナフタレンテトラカルボキシジイミド等が挙げられる。ニトロキシド化合物としては、2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン-1-オキシル フリーラジカル、2,2,5,5-テトラメチル-3-ピロリン-1-オキシル フリーラジカル、4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-3-オキシド-1-オキシル フリーラジカル等が挙げられる。その他の有機レドックス分子としては、キノキサリン、フェノチアジン、ベンゾチアジアゾール、スルフィド化合物等が挙げられる。
【0029】
例えば、ビオロゲン化合物およびフェナジン化合物は生体分子等の地球上に豊富な資源から合成可能であるため、持続可能な資源の活用の観点から好ましい。ビオロゲン化合物は生体分子であるピリジンから合成可能である。また、フェナジンも生体分子として知られており、その誘導体は容易に合成可能である。
【0030】
代表的な有機レドックス分子のAg/AgCl参照電極を基準とした酸化還元電位を示すと、1,1’-ジメチル-4,4’-ビピリジニウム:-0.3V、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウム:-0.3V、5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジン:0.3V、ナフタレンジイミド:-0.4V、ベンゾキノン:-0.0Vである。
【0031】
代表的な有機レドックス分子のAg/AgCl参照電極を基準とした酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差を示すと、1,1’-ジメチル-4,4’-ビピリジニウム:0.2V、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウム:0.2V、5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジン:0.1V、ナフタレンジイミド:0.8V、ベンゾキノン:0.2Vである。
【0032】
前記電極用組成物は、正極用であってもよく、負極用であってもよい。電極用組成物が正極用である場合、前記有機レドックス分子の酸化還元電位が-0.3~0.9Vであることが好ましい。電極用組成物が負極用である場合、前記有機レドックス分子の酸化還元電位が-1.3~-0.2Vであることが好ましい。
【0033】
前記電極用組成物は、有機レドックス分子以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては例えば、導電助剤、結着剤、架橋剤、プロトン伝導体等が挙げられる。
【0034】
前記電極用組成物は、導電助剤を含むことが好ましい。これにより電極の導電性を向上させることができる。また、中でも炭素系導電助剤は合成および分解が容易である。炭素系導電助剤としては、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン等が挙げられる。中でもカーボンナノチューブは廃プラスチックから合成可能であり、且つ結着剤としての機能も有するため好ましい。カーボンナノチューブは単層、二層、多層のいずれであってもよい。
【0035】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル塩酸塩、ポリアミック酸等が挙げられる。上述のカーボンナノチューブを用いる場合、電極用組成物はこれらの結着剤を含まなくてもよい。
【0036】
前記電極用組成物は、有機レドックス分子および必要に応じて添加剤等を混合することにより得ることができる。電極用組成物100重量%中の有機レドックス分子の含有量は、50~100重量%であることが好ましく、60~100重量%であることがより好ましく、70~100重量%であることがさらに好ましい。電極用組成物が導電助剤を含む場合、電極用組成物中の有機レドックス分子と導電助剤との重量比は、1:1~1:100であってもよく、2:1~100:1であってもよい。
【0037】
〔2.電極〕
本発明の一実施形態に係る電極は、上述の電極用組成物を含む。当該電極は、使用後に容易に分離することができるとともに、温和な条件で原料へと分解することができる。電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。例えば電極は、酸化還元電位が-0.3~0.9Vである有機レドックス分子を含む電極用組成物を含む正極であってもよい。また、電極は、酸化還元電位が-1.3~-0.2Vである有機レドックス分子を含む電極用組成物を含む負極であってもよい。
【0038】
前記電極は、基板を含んでいてもよい。基板としては、グラッシーカーボン、グラフェンコーティング基板、透明導電性(ITO)基板、アルミ基板等が挙げられる。
【0039】
電極の製造方法は特に限定されず、例えば電極用組成物を基板に塗布する方法が挙げられる。より具体的には、電極用組成物と溶媒とを含むスラリーを基板に塗布し、次いで乾燥させることにより、電極を得てもよい。
【0040】
前記溶媒としては、ジヒドロレボグルコセノン(CyreneTM)、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、エタノール等が挙げられる。特にジヒドロレボグルコセノンは、セルロース由来の環境適合溶媒である。
【0041】
〔3.電池〕
本発明の一実施形態に係る電池は、上述の電極を備える。すなわち、当該電池は、上述の電極用組成物を含む電極を正極および負極のいずれか一方として備える。当該電池は上述の電極用組成物を含む正極と、上述の電極用組成物を含まない負極とを備えていてもよい。当該電池は上述の電極用組成物を含まない正極と、上述の電極用組成物を含む負極とを備えていてもよい。好ましくは、正極および負極の両方が上述の電極用組成物を含む電極である。すなわち、当該電池は、酸化還元電位が-0.3~0.9Vである有機レドックス分子を含む電極用組成物を含む正極と、酸化還元電位が-1.3~-0.2Vである有機レドックス分子を含む電極用組成物を含む負極とを備えることが好ましい。前記電池は、実施例のように100サイクル後に95%を超える放電容量を維持する高いサイクル特性および15Cでの高いレート特性を示し得る。また、前記電池は空気中でも動作可能である。
【0042】
前記電池は、電解液を備えていてもよい。電解液は、水系電解液であってもよく、非水系電解液であってもよい。環境適合性の観点からは水系電解液であることが好ましい。水系電解液としては、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化鉄水溶液、塩化アルミニウム水溶液、塩化亜鉛水溶液、塩化ニッケル水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、硫酸カルシウム水溶液、硫酸鉄水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硫酸ニッケル水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化亜鉛水溶液、硫酸水溶液等が挙げられる。水系電解液は、中性、酸性、アルカリ性のいずれであってもよいが、環境適合性の観点からは中性の水系電解液であることが好ましい。
【0043】
前記電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしてはガラスフィルター、セルロースセパレータ、ポリオレフィン系多孔質フィルム等が挙げられる。
【0044】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0045】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0046】
〔材料〕
4,4’-ビピリジル、1-ブロモヘプタン、1-ブロモデカン、1-ブロモドデカン、テトラブチルアンモニウムクロリドは東京化成工業社から購入した。ヘキサフルオロリン酸アンモニウムは富士フイルム和光純薬社から購入した。アセトニトリルおよびその他の化学物質は関東化学社から購入した。CyreneTM、2-メチルテトラヒドロフラン(阻害剤フリー)、γ-バレロラクトンはシグマアルドリッチ社から購入した。
【0047】
〔分析〕
以下におけるH NMRスペクトルは、測定装置として日本電子社製ECZ400YH分光計を用いて、内部標準としてのテトラメチルシランからの低磁場側の化学シフトに基づき測定した。熱重量分析は、測定装置としてリガク社製Thermo Plus EVO2 TG8121を用いて、窒素雰囲気下、5℃/分の昇温速度で行った。
【0048】
〔合成例1〕
【0049】
【化1】
【0050】
Lu, H.-C. et al., ACS Applied Materials & Interfaces 8, 30351-30361 (2016)に基づき、1,1’-ジヘプチル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを合成した。具体的には、4,4’-ビピリジル(0.156g、1.0mmol)および1-ブロモヘプタン(0.63mL、4.0mmol)をアセトニトリル(5mL)中に24時間還流した。反応後、得られた黄色の混合物を濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥することにより、黄色の固体として1,1’-ジヘプチル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを得た(0.252g、0.49mmol、収率49%)。1,1’-ジヘプチル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドは、CyreneTM、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、γ-バレロラクトンおよび水に可溶であった。H NMR(400MHz、DO、δ):8.99(d,J=7.33Hz,4H),8.42(d,J=6.41Hz,4H),4.61(t,J=6.87,J=7.79Hz,4H),1.97(m,4H),1.26(m,8H),1.12(m,8H),0.74(t,J=6.87,J=7.73Hz,6H)。
【0051】
〔合成例2〕
【0052】
【化2】
【0053】
Grenier, M. C. et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 22, 4055-4058 (2012)に基づき、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを合成した。具体的には、4,4’-ビピリジル(0.156g、1.0mmol)および1-ブロモデカン(0.82mL、4.0mmol)をアセトニトリル(5mL)中に24時間還流した。反応後、得られた黄色の混合物を濾過し、アセトニトリルおよびジエチルエーテルで洗浄し、乾燥することにより、黄色の固体として1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを得た(0.320g、0.53mmol、収率53%)。1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドは、CyreneTM、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノールおよびγ-バレロラクトンに可溶であったが水に不溶であった。H NMR(400MHz、DMSO-d、δ):9.35(d,J=6.87Hz,4H),8.75(d,J=6.41Hz,4H),4.64(t,J=7.33Hz,J=7.33Hz,4H),1.94(m,4H),1.24(m,28H),0.81(t,J=6.87Hz,J=6.87Hz,6H)。
【0054】
〔合成例3〕
【0055】
【化3】
【0056】
Grenier, M. C. et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 22, 4055-4058 (2012)に基づき、1,1’-ジドデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを合成した。具体的には、4,4’-ビピリジル(0.155g、1.0mmol)および1-ブロモドデカン(0.95mL、4.0mmol)をアセトニトリル(5mL)中に24時間還流した。反応後、得られた黄色の混合物を濾過し、アセトニトリルおよびジエチルエーテルで洗浄し、乾燥することにより、黄色の固体として1,1’-ジドデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを得た(0.554g、0.85mmol、収率85%)。1,1’-ジドデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドは、CyreneTM、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノールおよびγ-バレロラクトンに可溶であったが水に不溶であった。H NMR(400MHz、DMSO-d、δ):9.36(d,J=6.87Hz,4H),8.76(d,J=6.87Hz,4H),4.65(t,J=7.33Hz,J=7.33Hz,4H),1.93(m,4H),1.23(m,36H),0.81(t,J=6.41Hz,J=6.87Hz,6H)。
【0057】
〔合成例4〕
【0058】
【化4】
【0059】
4,4’-ビピリジル(0.156g、1.0mmol)および1-ブロモデカン(0.83mL、4.0mmol)をγ-バレロラクトン(5mL)中で120℃まで加熱した。反応後、得られた黄色の混合物を濾過し、水で洗浄した。真空乾燥した後、黄色の固体として1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを得た(0.528g、0.88mmol、収率88%)。1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドは、CyreneTM、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノールおよびγ-バレロラクトンに可溶であったが水に不溶であった。H NMR(400MHz、DMSO-d、δ):9.36(d,J=5.95Hz,4H),8.76(d,J=6.41Hz,4H),4.65(t,J=7.33,J=7.73Hz,4H),1.94(m,4H),1.24(m,28H),0.82(t,J=5.50,J=6.87Hz,4H)。
【0060】
〔合成例5〕
【0061】
【化5】
【0062】
1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドをDMSO(20mL)に溶解させた。得られた溶液をヘキサフルオロリン酸アンモニウム水溶液(0.61M、10mL)に加えた。得られた混合溶液を5分間撹拌した。得られた混合物を濾過し、水で洗浄し、乾燥させることにより、白色の粉末を得た。次いで白色の粉末をアセトン(10mL)に溶解させた。得られた溶液をテトラブチルアンモニウムクロリドのアセトン溶液(0.60M、10mL)に加え、5分間撹拌した。得られた混合物を濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させることにより、白色の粉末として1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドを得た(0.184g、0.36mmol、収率68%)。H NMR(400MHz、DMSO-d、δ):9.35(d,J=6.87Hz,4H),8.75(d,J=6.41Hz,4H),4.64(t,J=7.33Hz,J=7.33Hz,4H),1.94(m,4H),1.24(m,28H),0.81(t,J=6.87Hz,J=6.87Hz,6H)。C3050Clに対する計算値:C70.7,H9.9;測定値:C70.5,H10.0。1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドは、CyreneTM、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノールおよびγ-バレロラクトンに可溶であった。
【0063】
〔電極の作製〕
有機レドックス分子と単層カーボンナノチューブ(SWNT)とCyreneTMとを混合し、スラリーを得た。有機レドックス分子とSWNTとの重量比は7:3であった。当該スラリーをグラッシーカーボン基板上に塗布し、乾燥させて電極を得た。電極に担持された有機レドックス分子の質量は約1.0mgであった。以下では有機レドックス分子として1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを用いた電極をビオロゲン電極、5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジンを用いた電極をフェナジン電極と称する。
【0064】
図1は、ビオロゲン電極およびフェナジン電極のSEM画像を示す図である。図1から、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドおよび5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジンがそれぞれカーボンナノチューブを被覆していることが分かる。
【0065】
〔電極の電気化学測定〕
電気化学測定は、空気中で電解質として3M KCl水溶液を用いて行った。全ての電気化学測定にはポテンショスタットシステム(HZ-7000、北斗電工社製)を用いた。作用電極としてビオロゲン電極またはフェナジン電極、対極としてコイル状白金線を用いた。作用電位は、Ag/AgCl参照電極を用いて測定した。同じ電気化学測定を少なくとも5回行った。
【0066】
図2は、ビオロゲン電極およびフェナジン電極の15Cでの充放電曲線および15Cでのサイクル試験結果を示す図である。ビオロゲン電極のプラトー電圧は-0.3V、クーロン効率(放電容量/充電容量)は約99%であった。フェナジン電極のプラトー電圧は+0.2V、クーロン効率は約98%であった。
【0067】
これらの酸化還元反応は、以下に示す1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドの一電子還元および5,10-ジヒドロ-5,10-ジメチルフェナジンの一電子酸化によるものである。なお、3M KCl水溶液を用いた電気化学試験の後の対アニオンは塩化物イオンである。
【0068】
【化6】
【0069】
また、ビオロゲン電極の容量は60.1mAh/g分子(理論容量61.1mAh/g分子の98%)、フェナジン電極の容量は121mAh/g分子(理論容量127mAh/g分子の95%)であった。このことは全ての有機レドックス分子が電荷蓄積に寄与していることを示唆している。
【0070】
図2のサイクル試験結果より、ビオロゲン電極は100サイクル後に初期容量の96%を維持し、フェナジン電極は100サイクル後に初期容量の94%を維持していた。従って、これらの有機レドックス分子を用いた電極は、従来のレドックスポリマーを用いた電極と同様の丈夫さを有していることが実証された。
【0071】
図3は、ビオロゲン電極およびフェナジン電極の放電プロセスにおける1C、5C、10C、15C、30C、60Cでのレート特性を示す図である。いずれの電極も、240秒での完全放電に相当する15Cの高速放電でも、放電容量をほぼ完全に維持した。
【0072】
以上のことから、これらの有機レドックス分子は、中性の水系電解液を用いる場合の電極活物質として好適であることが実証された。
【0073】
〔電池の評価〕
ビオロゲン電極を負極、フェナジン電極を正極、3M KCl水溶液を電解液として用いたビーカーセル(20cm電解質)を電気化学セルとして作製した。当該セルは全有機電池に該当する。区画の分離はファインガラスフィルターによって行い、測定の間、電解液のみが区画を超えられるようにした。負極および正極の区画は3M KCl水溶液で満たし、空気中に開放した。同様の電池を用いた電池評価試験を少なくとも5回行った。
【0074】
充放電の間、塩化物イオンのみが正極と負極とを移動し、これらの電極の電荷の中立性を補償する。すなわち、これらの電極を備える有機電池はロッキングチェア型電池である。図4は、有機電池の15Cでの充放電曲線および15Cでのサイクル試験結果を示す図である。当該有機電池は、空気開放条件でも0.5Vの電圧および97%以上の高いクーロン効率を示した。これらの結果から当該有機電池は可逆的な電荷蓄積能を有することが実証された。負極の容量は60.3mAh/g分子であり、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドがほぼ完全に電荷を蓄えていることが示唆された。
【0075】
図5は、有機電池の放電プロセスにおける5C、10C、15C、30Cでのレート特性を示す図である。図5より、有機電池は15Cの高速放電でも、放電容量をほぼ完全に維持した。さらに上述のように、当該有機電池は、100サイクル後に95%を超える高いサイクル特性を示した。これは中性の水系電解液および有機レドックスポリマーを用いた公知の全有機電池と同等またはそれ以上の特性である。
【0076】
〔化合物の分解1〕
【0077】
【化7】
【0078】
1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドの熱重量分析の結果を図6に示す。
【0079】
1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミドを230℃で24時間加熱し、溶出液としてメチルテトラヒドロフランを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、4,4’-ビピリジルを78%の高収率で得た。図7は、(a)1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミド、(b)分解および精製後の1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジブロミド、(c)4,4’-ビピリジルのH NMRスペクトル(DMSO-d)を示す図である。さらなる精製が必要な場合は昇華精製を行った。
【0080】
〔化合物の分解2〕
【0081】
【化8】
【0082】
1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドの熱重量分析の結果を図6に示す。
【0083】
1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドを230℃で24時間加熱し、溶出液としてメチルテトラヒドロフランを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、4,4’-ビピリジルを81%の高収率で得た。図8は、実施例における(a)1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリド、(b)分解および精製後の1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリド、(c)4,4’-ビピリジルのH NMRスペクトル(DMSO-d)を示す図である。さらなる精製が必要な場合は昇華精製を行った。
【0084】
〔電極の分解〕
電解質として3M KCl水溶液を用いた電気化学試験の後の1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムの対アニオンは塩化物イオンである。1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリド(81.6mg)およびカーボンナノチューブ(電極の総重量の30重量%)からなる電極を容器中のエタノール(20mL)に浸漬し、5分間振とうした。得られた溶液を濾過し、真空乾燥することにより、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドを97%の高収率で得た。電極は1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドおよびカーボンナノチューブから構成された単純な構成であったため、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドを高純度で分離することができた。
【0085】
〔電極から原料への分解〕
1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリド(81.6mg)およびカーボンナノチューブからなる使用済の電極を容器中のエタノール(20mL)に浸漬し、5分間振とうした。得られた溶液を濾過し、真空乾燥することにより、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドを得た。次いで、1,1’-ジデシル-4,4’-ビピリジニウムジクロリドを230℃で24時間加熱し、溶出液としてメチルテトラヒドロフランを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、原料である4,4’-ビピリジルを79%の高収率で得た。さらなる精製が必要な場合は昇華精製を行った。
【0086】
〔その他の有機レドックス分子〕
その他の有機レドックス分子についても上述の電気化学測定を行った。その他の有機レドックス分子としては、ピロメリット酸ジイミド、ナフタレンジイミド、デュロキノン、ペリレンジイミド(参考例)を用いた。作用電極として、有機レドックス分子とカーボンナノチューブとポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを重量比5:5:1で含む電極を用いた。対極としてコイル状白金線を用いた。作用電位は、Ag/AgCl参照電極を用いて測定した。電解液としては3M KCl水溶液を用いた。
【0087】
図9は、ピロメリット酸ジイミドおよびナフタレンジイミドのサイクリックボルタモグラムを示す図である。図9よりピロメリット酸ジイミドについて酸化還元電位は-0.6V、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差は0.4Vであった。図9よりナフタレンジイミドについて酸化還元電位は-0.4V、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差は0.8Vであった。いずれの図でも、複数回測定したところ有機レドックス分子の溶け出しによる減衰が見られた。
【0088】
図10は、デュロキノンのサイクリックボルタモグラムを示す図である。図10より酸化還元電位は-0.2V、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差は0.7Vであった。デュロキノンの酸化還元スキームを以下に示す。
【0089】
【化9】
【0090】
図11は、ペリレンジイミドのサイクリックボルタモグラムを示す図である。図11より酸化還元電位は-0.2V、酸化ピーク電位と還元ピーク電位との差は0.9Vであった。すなわちペリレンジイミドは、「Ag/AgCl参照電極を基準として測定された酸化還元電位が-1.3~0.9Vであり、酸化電位と還元電位との差が0.8V以内である有機レドックス分子」に該当しない。ペリレンジイミドの酸化還元スキームを以下に示す。Aは電解液由来のカチオンを示す。
【0091】
【化10】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、有機電池に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11