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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034250
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240306BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240306BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240306BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240306BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138371
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔一
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ00
5H029HJ02
5H029HJ13
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050GA28
5H050HA02
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】酸化物系全固体電池の電池特性を効率良く評価する方法を提供する。
【解決手段】酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の評価方法であって、酸化物系固体電解質と、正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較することで、全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、全固体リチウムイオン電池の評価方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の評価方法であって、
前記酸化物系固体電解質と、前記正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、前記圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較することで、前記全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、全固体リチウムイオン電池の評価方法。
【請求項2】
前記酸化物系固体電解質と、前記正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、前記圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較して、互いのX線回折パターンが異なる場合、前記酸化物系固体電解質と前記正極活物質との反応物が生成したと判断し、互いのX線回折パターンが同一である場合、前記酸化物系固体電解質と前記正極活物質との反応物が生成しなかったと判断することで、前記全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池の評価方法。
【請求項3】
前記酸化物系固体電解質は、組成式1:Liαxy4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)
で表され、
前記正極活物質は、組成式2:LiaNibCocMnd2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.60≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)
で表される、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン電池の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウム二次電池についても、エネルギー密度や電池特性の向上が求められている。
【0003】
LISICON型酸化物系固体電解質は、Liイオンを伝導する固体材料として、次世代の全固体電池用固体電解質として期待されている。また、異なる価数のイオンと置換することでLi欠損や過剰Liの導入が可能であり、様々な元素と組み合わせた材料を作製することができる利点も有する。
【0004】
非特許文献1は、LISICON型固体電解質であるLi3.5Ge0.50.54と、Ni-Co-Mn三元系正極活物質であるNCM111(Ni、Co及びMnを1:1:1の組成比で含む正極活物質)を組み合わせて、スパークプラズマ焼結で共焼結したセルを作製した結果、安定した充放電挙動を示すセル用焼結体を作製することができたことを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Toyoki Okumura, Tomonari Takeuchi, and Hironori Kobayashi, All-Solid-State Batteries with LiCoO2-Type Electrodes: Realization of an Impurity-Free Interface by Utilizing a Cosinterable Li3.5Ge0.5V0.5O4 Electrolyte, ACS Appl. Energy Mater. (2021), 4, 1, 30-34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不燃性の酸化物系固体電解質を用いた酸化物系全固体リチウムイオン電池は、従来のリチウムイオン電池と比較して非常に安全性が高く、信頼性が向上した次世代の電池として注目されている。
【0007】
酸化物系全固体電池の電池特性については、従来、種々の観点から評価されている。しかしながら、酸化物系全固体電池の電池特性をより効率良く評価する方法について未だ開発の余地がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、酸化物系全固体電池の電池特性を効率良く評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記知見を基礎にして完成した本発明は以下の(1)~(3)で規定される。
(1)酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の評価方法であって、
前記酸化物系固体電解質と、前記正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、前記圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較することで、前記全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、全固体リチウムイオン電池の評価方法。
(2)前記酸化物系固体電解質と、前記正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、前記圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較して、互いのX線回折パターンが異なる場合、前記酸化物系固体電解質と前記正極活物質との反応物が生成したと判断し、互いのX線回折パターンが同一である場合、前記酸化物系固体電解質と前記正極活物質との反応物が生成しなかったと判断することで、前記全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、(1)に記載の全固体リチウムイオン電池の評価方法。
(3)前記酸化物系固体電解質は、組成式1:Liαxy4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)
で表され、
前記正極活物質は、組成式2:LiaNibCocMnd2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.60≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)
で表される、(1)または(2)に記載の全固体リチウムイオン電池の評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化物系全固体電池の電池特性を効率良く評価する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の模式図である。
図2】実施例1に係るX線回折パターンである。
図3】実施例2に係るX線回折パターンである。
図4】実施例3に係るX線回折パターンである。
図5】実施例4に係るX線回折パターンである。
図6】実施例5に係るX線回折パターンである。
図7】実施例6に係るX線回折パターンである。
図8】実施例7に係るX線回折パターンである。
図9】実施例8に係るX線回折パターンである。
図10】実施例9に係るX線回折パターンである。
図11】比較例1に係るX線回折パターンである。
図12】比較例2に係るX線回折パターンである。
図13】比較例3に係るX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<全固体リチウムイオン電池の評価方法>
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の評価方法は、酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の評価方法であって、酸化物系固体電解質と、正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較することで、全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する。
【0014】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の評価方法の具体例としては、まず、正極活物質と酸化物系固体電解質とを、所定の質量比となるように秤量し、乳棒乳鉢で優しく手混合して正極材/固体電解質混合粉を得る。次に、得られた混合粉を例えば300~400MPaでプレスして成型し、混合粉圧粉体を作製する。次に、得られた圧粉体を、金箔を敷いたアルミナボートに載せ、例えば700~900℃で1~3時間焼成した後、得られた焼成体を乳棒乳鉢で解砕する。こうして得られた混合焼成粉について以下に示す反応性評価(XRD評価)を行う。
【0015】
すなわち、全固体リチウムイオン電池の正極活物質と固体電解質との反応性について、以下の条件により、粉末X線回折法:XRD(θ/2θ法)によって解析する。正極材/固体電解質混合粉の得られたX線回折パターンが、焼成前と焼成後で異なる場合、焼成後に新たなピークが生成してしまうことや焼成前に存在したピークの消失を意味するため、正極活物質と酸化物系固体電解質(NCM)との反応物は「有り」と評価することができる。一方、得られたX線回折パターンが同一である場合、正極活物質と酸化物系固体電解質(NCM)との反応物は「無し」と評価することができる。
・X線回折装置:株式会社リガク製SmartLab
・光源:CuKα線
・電圧:40kV
・電流:30mA
このようにして、正極活物質と酸化物系固体電解質(NCM)との反応性を評価することができ、上記反応物が「無し」と評価されるものは、全固体リチウムイオン電池の電池特性が良好であると評価することができる。このため、全固体リチウムイオン電池の電池特性を効率良く評価することができる。
【0016】
<全固体リチウムイオン電池>
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の評価方法における評価対象となる全固体リチウムイオン電池は、酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む。当該全固体リチウムイオン電池は図1に示すような構成とすることができる。
【0017】
(固体電解質層)
本実施形態の固体電解質層の組成は特に限定されないが、例えば、組成式1:Liαxy4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される酸化物系固体電解質を含む。本実施形態の酸化物系固体電解質は、LISICON型固体電解質であるLiαGexy4の母材料、または当該母材料に、Si、Ti、PまたはAsを置換してなる組成を有している。このような構成によれば、酸化物系固体電解質を構成する元素の種類が多くなり、活性化エネルギーが低減するため、良好なイオン伝導度を有する酸化物系固体電解質が得られる。この結果、全固体リチウムイオン電池の容量がより大きくなる。
なお、本発明において、酸化物系固体電解質とは、リチウムイオンの対アニオンとして、中心元素に酸素原子が配位結合したオキソ酸イオンを骨格に有する固体電解質を指す。
【0018】
本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、αが3.25未満であると、キャリア濃度が低いためイオン伝導度が低下するという問題が生じるおそれがある。また、αが3.75超であると、単一相合成が困難となる問題が生じるおそれがある。本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、3.4≦α≦3.7であるのが好ましい。
【0019】
本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、xが0.30未満であると、イオン伝導性の低いLi4GeO4相が生じるおそれがある。また、xが0.75超であると、結晶格子が大きくなるためLiサイト間距離が長くなり、イオン伝導度が低下するおそれがある。本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式において、0.4≦x≦0.6であるのが好ましい。
【0020】
本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、yが0.25未満であると、元素置換による活性化エネルギー低減の効果が弱いため、イオン伝導度の向上効果が小さいおそれがある。また、yが0.70超であると、Li4VO4などの不純物相が生成し、イオン伝導度が低下するおそれがある。本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式において、0.3≦y≦0.6であるのが好ましい。
【0021】
本実施形態の酸化物系固体電解質の平均粒径は特に限定されないが、0.01~100μmであってもよく、0.1~100μmであってもよく、0.1~50μmであってもよい。
【0022】
本実施形態の酸化物系固体電解質は以下のようにして作製することができる。
まず、アルゴンガスまたは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で所定の組成となるように原料を秤量する。ここで用いる各原料は、例えば、LiOH・H2O、GeO2、V25、SiO2、TiO2、H3PO4、H3AsO3等が挙げられる。
【0023】
次に、乳鉢などにより、5~30分混合して混合粉を作製する。このとき、混合粉の平均粒径が5~40μmとなるような時間だけ混合することが好ましい。
【0024】
次に、当該混合粉をアルミナ製匣鉢にのせ、600~1000℃で1~20時間焼成することで、組成式1:Liαxy4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される、本実施形態の酸化物系固体電解質を作製することができる。
【0025】
本実施形態の酸化物系固体電解質によって形成されたリチウムイオン電池の固体電解質層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。本実施形態の固体電解質層の平均厚みは、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0026】
本実施形態の固体電解質層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。本実施形態の固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質のターゲット材料を用いたスパッタリング、または、固体電解質を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0027】
(正極層)
本実施形態の正極層に含まれる正極活物質の組成は特に限定されないが、例えば、組成式2:LiaNibCocMnd2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.60≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)で表される。より具体的には、本実施形態の正極層は、上記組成式2で表される正極活物質と、本実施形態の酸化物系固体電解質とを混合してなる正極合材を層状に形成したものを用いることができる。正極層における正極活物質の含有量は、例えば、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態の正極活物質は、上記組成式2で示すように、Ni比率が0.60~0.90と高いハイニッケルNCM正極活物質であり、このようなハイニッケルの正極活物質を用いた場合、一般的に全固体リチウムイオン電池の容量が高くなる。また、このような観点から、上記組成式2において、0.80≦b≦0.90であるのがより好ましい。本実施形態の正極活物質は、上記組成式2を満たすものであれば特に限定されず、公知の正極活物質を用いることができる。
【0029】
Ni比率が0.60~0.90と高いハイニッケルNCM正極活物質は、従来、固体電解質と反応してLiイオンが伝導しない反応物を生成してしまい、電池として働かなくなる問題があったが、このようなハイニッケルNCM正極活物質と上記組成式1で表される酸化物系固体電解質とが反応物を生成しない。このため、上記組成式1で表される酸化物系固体電解質を固体電解質層に、上記組成式2で表されるハイニッケルNCM正極活物質を正極層にそれぞれ備えた全固体リチウムイオン電池によれば、高容量を実現した酸化物系全固体電池が得られる。
【0030】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤としては、炭素材料、金属材料、または、これらの混合物を用いることができる。導電助剤は、例えば、炭素、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。導電助剤は、好ましくは、導電性が高い炭素単体、炭素、ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等を用いることができる。
【0031】
全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0032】
全固体リチウムイオン電池の正極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の正極層の形成方法としては、例えば、全固体リチウムイオン電池用正極活物質を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0033】
(負極層)
全固体リチウムイオン電池の負極層は、特に限定されず、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質を層状に形成したものであってもよい。また、当該負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質と、固体電解質とを混合してなる負極合材を層状に形成したものであってもよい。負極層における負極活物質の含有量は、例えば、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
負極層は、正極層と同様に、導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤は、正極層において説明した材料と同じ材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等、または、その混合物を用いることができる。また、負極材としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を用いることができる。
【0035】
全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0036】
全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法としては、例えば、負極活物質粒子を圧縮成形する方法、負極活物質を蒸着する方法などが挙げられる。
【0037】
リチウムイオン電池を構成するその他の部材については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体、負極集電体、及び、電池ケースなどが挙げられる。
【0038】
正極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、銅、金、ニッケルなどが挙げられる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
正極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0039】
負極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、金、インジウム、ニッケル、銅、ステンレス鋼などが挙げられる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
負極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0040】
電池ケースについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来の全固体電池で使用可能な公知のラミネートフィルムなどが挙げられる。ラミネートフィルムとしては、例えば、樹脂製のラミネートフィルム、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルムなどが挙げられる。
電池の形状については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、扁平型などが挙げられる。
【実施例0041】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0042】
<1.酸化物系固体電解質の作製>
(実施例1~4)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、乳鉢を用いて15分間混合して混合粉を作製した。次に、当該混合粉の2g程度をアルミナボートにのせ、600℃で12時間仮焼し、乳鉢で手解砕して仮焼粉を得た。その後、仮焼紛1g程度を再びアルミナボートにのせ、700℃で12時間本焼成することで、Li3.5Ge0.50.54の組成を有する酸化物系固体電解質を得た。
【0043】
(実施例5)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、実施例1と同様の製造方法を実施することで、Li3.6Ge0.60.44の組成を有する酸化物系固体電解質を得た。
【0044】
(実施例6)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、実施例1と同様の製造方法を実施することで、Li3.7Ge0.70.34の組成を有する酸化物系固体電解質を得た。
【0045】
(実施例7)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、実施例1と同様の製造方法を実施することで、Li3.3Ge0.30.74の組成を有する酸化物系固体電解質を得た。
【0046】
(実施例8)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、実施例1と同様の製造方法を実施することで、Li3.75Ge0.750.254の組成を有する酸化物系固体電解質を得た。
【0047】
(実施例9)
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で原料仕込み組成が目的化合物の化学量論組成となるように原料を秤量し、実施例1と同様の製造方法を実施することで、Li3.5Ti0.50.54の組成を有する酸化物系固体電解質を得た。
【0048】
(比較例1)
Li6.25Al0.25La3Zr212の組成を有する酸化物系固体電解質を準備した。
【0049】
(比較例2)
Li0.33La0.56TiO3の組成を有する酸化物系固体電解質を準備した。
【0050】
(比較例3)
Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43の組成を有する酸化物系固体電解質を準備した。
【0051】
<2.正極活物質の準備>
(実施例1)
LiNi0.6Co0.2Mn0.22の組成を有する正極活物質を準備した。
【0052】
(実施例2、3、5~9、比較例1~3)
LiNi0.82Co0.15Mn0.032の組成を有する正極活物質を準備した。
【0053】
(実施例4)
LiNi0.9Co0.07Mn0.032の組成を有する正極活物質を準備した。
【0054】
実施例1~9及び比較例1~3で準備した正極活物質の組成評価は以下のようにして行った。すなわち、各正極活物質のサンプル(粉末)を5gはかり取り、アルカリ溶融法で分解後、株式会社日立ハイテク製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)「PS7800」を用いて、組成分析を行った。酸素含有量は、Li及び金属成分の分析値に加え、不純物濃度、残留アルカリ量を、分析試料全量から差し引くことにより求め、当該酸素含有量から酸素の組成(Oz)のz値を算出した。
【0055】
<3.正極活物質と固体電解質との反応性評価(XRD評価)>
(実施例1~9、比較例1~3)
得られた正極活物質と酸化物系固体電解質とを、質量比が1:1となるように秤量し、乳棒乳鉢で優しく手混合して正極材/固体電解質混合粉を得た。得られた混合粉を333MPaでプレスして成型し、混合粉圧粉体を作製した。次に、得られた圧粉体を、金箔を敷いたアルミナボートに載せ、800℃で2時間焼成した後、得られた焼成体を乳棒乳鉢で解砕した。こうして得られた混合焼成粉について以下に示す反応性評価(XRD評価)を行った。
【0056】
すなわち、実施例1~9及び比較例1~3の正極活物質と固体電解質との反応性について、以下の条件により、粉末X線回折法:XRD(θ/2θ法)によって解析した。正極材/固体電解質混合粉の得られたX線回折パターンが、焼成前と焼成後で異なる場合、焼成後に新たなピークが生成してしまうことや焼成前に存在したピークの消失を意味するため、正極活物質と酸化物系固体電解質(NCM)との反応物は「有り」と評価した。一方、得られたX線回折パターンが同一である場合、正極活物質と酸化物系固体電解質(NCM)との反応物は「無し」と評価した。
・X線回折装置:株式会社リガク製SmartLab
・光源:CuKα線
・電圧:40kV
・電流:30mA
【0057】
ここで得られた実施例1~9及び比較例1~3に係るX線回折パターンを図2~13にそれぞれ示す。図2~13ではいずれもX線回折パターンが上下に揃えて記載されており、このうち下方のX線回折パターンが焼成前のものを示し、上方のX線回折パターンが焼成後のものを示している。図2~10(実施例1~9)では、上下のX線回折パターン(焼成前後のX線回折パターン)が同一であることがわかる。一方、図11~13(比較例1~3)では、上下のX線回折パターン(焼成前後のX線回折パターン)が異なり、焼成後に新たなピークが生成し、または、焼成前に存在したピークが消失していることがわかる。
【0058】
<4.全固体リチウムイオン電池の作製>
(実施例1~9、比較例1~3)
得られた正極活物質と酸化物系固体電解質とバインダーとをこの順で50:50:5の質量比で混合し、スラリーの固形分が約55質量%となるようにアニソールを溶媒として加え、マゼルスターで400秒混合して正極合材スラリーとし、得られたスラリーの溶媒を室温で乾燥後、乳棒乳鉢で解砕して正極合材粉末を得た。
なお、実施例3については、正極合材スラリーの構成原料において、導電助剤として金粉を正極材質量に対して2倍となるように添加した。
次に、仮プレスした酸化物系固体電解質の上に上述の正極合材粉末を約10mg載せ、333MPaでプレスして、固体電解質層/正極合材層の積層体を作製した。
次に、上記積層体をMgOまたはZrO2セッターの上に載せ、800℃で2時間焼結することで固体電解質層/正極合材層の焼結体を作製した。
次に、固体電解質層の負極側に、ポリマー固体電解質と金属Liとを圧着して負極層とした。このように作製した積層体を、大気を遮断するため密閉式SUS304製の電池試験セルに入れて、0.4N・mの拘束圧をかけて全固体二次電池とした。このようにして、全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0059】
<5.酸化物系固体電解質の組成評価>
実施例1~9及び比較例1~3で得られた各酸化物系固体電解質のサンプル(粉末)を0.5gはかり取り、種々の酸を用いて溶液化した後、株式会社日立ハイテク製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)「PS7800」を用いて、組成分析を行った。
【0060】
<6.充放電試験>
実施例1~9及び比較例1~3の各全固体リチウムイオン電池について、それぞれ60℃において0.05Cで初回充放電することで、初回充放電容量を評価した。なお、比較例1~3では容量が得られなかったためN/Dとした。
上記製造条件及び試験結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
(評価結果)
実施例1~9は、いずれも酸化物系固体電解質と、正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較したところ、互いのX線回折パターンが同一であったため、酸化物系固体電解質と正極活物質との反応物が生成しなかったと判断した。そして、当該反応物が生成しない場合には全固体電池の電池特性が良好となると評価でき、実際に全固体電池の充放電容量を測定したところ、良好な結果となっていた。
比較例1~3は、いずれも酸化物系固体電解質と、正極活物質とを混合してプレスすることで得た圧粉体のX線回折パターンと、圧粉体を焼成することで得た焼成体のX線回折パターンとを比較したところ、互いのX線回折パターンが異なっていたため、酸化物系固体電解質と正極活物質との反応物が生成したと判断した。そして、当該反応物が生成する場合には全固体電池の電池特性が不良であると評価でき、実際に全固体電池の充放電容量を測定したところ、容量が得られていない結果となっていた。
以上により、本発明に係る全固体リチウムイオン電池の評価方法によれば、酸化物系全固体電池の電池特性を効率良く評価できていることがわかった。
図1
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図13