(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034320
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
H10N 50/10 20230101AFI20240306BHJP
H10N 50/01 20230101ALI20240306BHJP
H10N 50/80 20230101ALI20240306BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L43/08 M
H01L43/08 Z
H01L43/12
H01L43/02 Z
H01F10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138492
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】タム キム コング
【テーマコード(参考)】
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
5E049AA04
5E049BA16
5E049CB01
5F092AA11
5F092AA15
5F092AB01
5F092AC08
5F092AC12
5F092BB12
5F092BB75
5F092BB77
5F092BC04
5F092BC16
5F092BC36
5F092BE14
5F092BE21
5F092CA02
5F092FA08
(57)【要約】
【課題】保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm
2以上を、磁性層の面内配向を促すための非磁性の下地層を用いず、かつ加熱成膜を行わずに達成する面内磁化膜を提供する。
【解決手段】Co、Pt及び非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、Coを44~82at%含有し、Ptを18~56at%含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0~31.0vol%含有し、厚さが1~32nmである初期磁性層12Aと、初期磁性層12Aの上に形成され、Co、Pt及び非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、Coを44~82at%含有し、Ptを18~56at%含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0~31.0vol%含有する磁性層本体部12Bと、を有し、初期磁性層12Aの前記非磁性粒界材は、Zn酸化物及びTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、
金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下である初期磁性層と、
前記初期磁性層の上に形成され、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有する磁性層本体部と、
を有してなり、
前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜。
【請求項2】
前記初期磁性層は、金属Feをさらに含有し、金属成分の合計に対して、金属Coおよび金属Feの合計を44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の面内磁化膜。
【請求項3】
前記磁性層本体部の前記非磁性酸化物は、ホウ素酸化物を含有することを特徴とする請求項1に記載の面内磁化膜。
【請求項4】
前記初期磁性層は、表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下の下地層の上に形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の面内磁化膜。
【請求項5】
前記下地層は、絶縁層であることを特徴とする請求項4に記載の面内磁化膜。
【請求項6】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下である初期磁性層と、
前記初期磁性層の上に形成された非磁性初期中間層と、
前記非磁性初期中間層の上に形成され、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有する磁性層本体部と、
を有してなり、
前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項7】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
初期磁性層と、
複数の磁性層本体部と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記初期磁性層は、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下であり、
前記複数の磁性層本体部は、それぞれ、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、
前記複数の磁性層本体部のうちの最下層の磁性層本体部は、前記初期磁性層の上に形成されており、
前記非磁性中間層は、前記磁性層本体部同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記磁性層本体部同士は強磁性結合をしており、
前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項8】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
初期磁性層と、
前記初期磁性層の上に形成された非磁性初期中間層と、
複数の磁性層本体部と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記初期磁性層は、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下であり、
前記複数の磁性層本体部は、それぞれ、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、
前記複数の磁性層本体部のうちの最下層の磁性層本体部は、前記非磁性初期中間層の上に形成されており、
前記非磁性中間層は、前記磁性層本体部同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記磁性層本体部同士は強磁性結合をしており、
前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項9】
前記非磁性初期中間層は、RuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項6または8に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項10】
前記非磁性初期中間層の厚さは、0.3nm以上2nm以下であることを特徴とする請求項6または8に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項11】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項7または8に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項12】
前記非磁性中間層の厚さは、0.3nm以上2nm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項13】
前記初期磁性層は、金属Feをさらに含有し、金属成分の合計に対して、金属Coおよび金属Feの合計を44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有することを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項14】
前記磁性層本体部の前記非磁性酸化物は、ホウ素酸化物を含有することを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項15】
前記初期磁性層は、表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下の下地層の上に形成されていることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項16】
前記下地層は、絶縁層であることを特徴とする請求項15に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項17】
請求項5に記載の面内磁化膜を有してなることを特徴とするハードバイアス層。
【請求項18】
請求項16に記載の面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層。
【請求項19】
請求項17に記載のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項20】
請求項18に記載のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項21】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、
金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有してなり、
当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを60at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上40at%以下含有し、
当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記非磁性粒界材を6vol%以上30vol%以下含有し、
前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットに関し、詳細には、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板を加熱して行う成膜(以下、加熱成膜と記すことがある。)を行わずに実現することができる面内磁化膜および面内磁化膜多層構造、ならびに前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層に関するとともに、それらに関連する磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットに関する。
【0002】
保磁力Hcが2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるハードバイアス層であれば、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層と比べて同等程度以上の保磁力および単位面積当たりの残留磁化を有していると考えられる。本願において、面内磁化膜の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜の厚さを乗じた値のことである。
【0003】
なお、本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(以下、フリー磁性層と記すことがある。)にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【0004】
また、本願では、金属Coを単にCoと記載し、金属Ptを単にPtと記載し、金属Ruを単にRuと記載することがある。また、他の金属元素についても同様に記載することがある。
【背景技術】
【0005】
現在多くの分野で磁気センサが用いられているが、汎用的に用いられている磁気センサの1つに磁気抵抗効果素子がある。
【0006】
磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(フリー磁性層)と、該磁性層(フリー磁性層)にバイアス磁界を加えるハードバイアス層と、を有してなり、ハードバイアス層には、所定以上の大きさの磁界を安定的にフリー磁性層に印加できることが求められている。
【0007】
したがって、ハードバイアス層には、高い保磁力および残留磁化が求められる。
【0008】
しかしながら、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力は、2kOe程度であり(例えば、特許文献1の
図7)、これ以上の保磁力の実現が望まれている。
【0009】
また、単位面積当たりの残留磁化は、2memu/cm2程度以上であることが望まれている(例えば、特許文献2の段落0007)。
【0010】
フリー磁性層を含む磁気抵抗素子部に所定以上の大きさの磁界を安定的に印加できるハードバイアス層を形成するために、従来、hcp構造のCoPt合金のc軸を面内に配向させてなる面内磁化膜が用いられており、そのような面内磁化膜を得る技術として、hcp構造のCoPt合金のc軸を面内に配向させることを促す非磁性の下地層(Cr、Ti、Cr合金、Ti合金等)を用いる技術がある(例えば、特許文献2の段落0028)。
【0011】
しかしながら、この技術では、hcp構造のCoPt合金のc軸を面内に配向させることを促す非磁性の下地層(Cr、Ti、Cr合金、Ti合金等)を用いる必要があり、その非磁性の下地層の厚さの分だけ、磁気抵抗素子部とハードバイアス層との距離が離れ、ハードバイアス層の磁気抵抗素子部への印加磁場が低下する。
【0012】
また、Coのc軸を面内に配向させてなる面内磁化膜を用いた技術として、面内磁気記録膜の技術がある(例えば、特許文献3の段落0010)が、この技術は基板温度を200℃以上に加熱して成膜を行う技術である。極めて薄い薄膜から構成される磁気抵抗素子部は加熱によって容易に破損してしまうため、基板加熱を伴う成膜は、ハードバイアス層の成膜方法としては不適切である。
【0013】
基板加熱を伴わない成膜方法としては、Co-Pt系の面内磁化膜形成用の下地層にRu下地層を用い、かつ、該Ru下地層を成膜する際のガス圧を高ガス圧にすることで、該Ru下地層の上に成膜するCo-Pt系の面内磁化膜の保磁力Hcを向上させる技術がある(例えば、特許文献3の段落0016、非特許文献1)。しかしながら、この技術では、保磁力Hcを向上させるために、Ru下地層の厚さを15nm程度以上に厚くする必要があり、その非磁性のRu下地層の厚さの分だけ、磁気抵抗素子部とハードバイアス層との距離が離れ、ハードバイアス層の磁気抵抗素子部への印加磁場が低下するため、特許文献2に記載の技術と同様の問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008-283016号公報
【特許文献2】特表2008-547150号公報
【特許文献3】特開2003-123240号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】大森広之、前坂明弘、「Ru下地を用いたCo-Pt膜の構造と磁気特性」、日本応用磁気学会誌、Vol.26, No.4, 2002, p.269-273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、磁性層の面内配向を促すための非磁性の下地層を用いず、かつ、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層を提供することを課題とし、併せて、前記面内磁化膜、前記面内磁化膜多層構造または前記ハードバイアス層に関連する、磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットを提供することも補足的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のような面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットである。
【0018】
即ち、本発明に係る面内磁化膜の第1の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下である初期磁性層と、前記初期磁性層の上に形成され、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有する磁性層本体部と、を有してなり、前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜である。
【0019】
本発明に係る面内磁化膜の第2の態様は、前記第1の態様の面内磁化膜において、前記初期磁性層は、金属Feをさらに含有し、金属成分の合計に対して、金属Coおよび金属Feの合計を44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有する、態様である。
【0020】
本発明に係る面内磁化膜の第3の態様は、前記第1または前記第2の態様の面内磁化膜において、前記磁性層本体部の前記非磁性酸化物がホウ素酸化物を含有する態様である。
【0021】
本発明に係る面内磁化膜の第4の態様は、前記第1~前記第3の態様のいずれかの態様の面内磁化膜において、前記初期磁性層が、表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下の下地層の上に形成されている態様である。
【0022】
ここで、本願において、表面粗さは算術平均粗さRaのことを意味する。
【0023】
本発明に係る面内磁化膜の第5の態様は、前記第4の態様の面内磁化膜において、前記下地層が絶縁層である態様である。
【0024】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第1の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下である初期磁性層と、前記初期磁性層の上に形成された非磁性初期中間層と、前記非磁性初期中間層の上に形成され、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有する磁性層本体部と、を有してなり、前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0025】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第2の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、初期磁性層と、複数の磁性層本体部と、非磁性中間層と、を有してなり、前記初期磁性層は、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下であり、前記複数の磁性層本体部は、それぞれ、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、前記複数の磁性層本体部のうちの最下層の磁性層本体部は、前記初期磁性層の上に形成されており、前記非磁性中間層は、前記磁性層本体部同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記磁性層本体部同士は強磁性結合をしており、前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0026】
ここで、前記複数の磁性層本体部のうちの最下層の磁性層本体部は、前記複数の磁性層本体部のうち、前記初期磁性層に最も近い位置に形成される磁性層本体部のことである。
【0027】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第3の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、初期磁性層と、前記初期磁性層の上に形成された非磁性初期中間層と、複数の磁性層本体部と、非磁性中間層と、を有してなり、前記初期磁性層は、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性粒界材を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、厚さが1nm以上32nm以下であり、前記複数の磁性層本体部は、それぞれ、金属Co、金属Ptおよび非磁性酸化物を含有し、金属成分の合計に対して、金属Coを44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有し、体積全体に対して前記非磁性酸化物を2.0vol%以上31.0vol%以下含有し、前記複数の磁性層本体部のうちの最下層の磁性層本体部は、前記非磁性初期中間層の上に形成されており、前記非磁性中間層は、前記磁性層本体部同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記磁性層本体部同士は強磁性結合をしており、前記初期磁性層の前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0028】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第4の態様は、前記第1または第3の態様の面内磁化膜多層構造において、前記非磁性初期中間層がRuまたはRu合金からなる態様である。
【0029】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第5の態様は、前記第1または前記第3の態様の面内磁化膜多層構造において、前記非磁性初期中間層の厚さが0.3nm以上2nm以下である態様である。
【0030】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第6の態様は、前記第2または前記第3の態様の面内磁化膜多層構造において、前記非磁性中間層がRuまたはRu合金からなる態様である。
【0031】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第7の態様は、前記第2または前記第3の態様の面内磁化膜多層構造において、前記非磁性中間層の厚さが0.3nm以上2nm以下である態様である。
【0032】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第8の態様は、前記第1~前記第7の態様のいずれかの態様の面内磁化膜多層構造において、前記初期磁性層は、金属Feをさらに含有し、金属成分の合計に対して、金属Coおよび金属Feの合計を44at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上56at%以下含有する、態様である。
【0033】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第9の態様は、前記第1~前記第8の態様のいずれかの態様の面内磁化膜多層構造において、前記磁性層本体部の前記非磁性酸化物がホウ素酸化物を含有する態様である。
【0034】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第10の態様は、前記第1~前記第9の態様のいずれかの態様の面内磁化膜多層構造において、前記初期磁性層が、表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下の下地層の上に形成されている態様である。
【0035】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第11の態様は、前記第10の態様の面内磁化膜多層構造において、前記下地層が絶縁層である態様である。
【0036】
本発明に係るハードバイアス層の第1の態様は、前記第5の態様の面内磁化膜を有してなることを特徴とするハードバイアス層である。
【0037】
本発明に係るハードバイアス層の第2の態様は、前記第11の態様の面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層である。
【0038】
本発明に係る磁気抵抗効果素子の第1の態様は、前記第1の態様のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子である。
【0039】
本発明に係る磁気抵抗効果素子の第2の態様は、前記第2の態様のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子である。
【0040】
本発明に係るスパッタリングターゲットの態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを60at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上40at%以下含有し、当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記非磁性粒界材を6vol%以上30vol%以下含有し、前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、磁性層の面内配向を促すための非磁性の下地層を用いず、かつ、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層を提供することができ、また、前記面内磁化膜、前記面内磁化膜多層構造または前記ハードバイアス層に関連する、磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10、面内磁化膜12およびハードバイアス層14を模式的に示す断面図であり、本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜12を、磁気抵抗効果素子10のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【
図2】従来例における磁気抵抗効果素子200を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る磁気抵抗効果素子20、面内磁化膜多層構造22およびハードバイアス層24を模式的に示す断面図であり、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22を、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層24に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子30、面内磁化膜多層構造32およびハードバイアス層34を模式的に示す断面図であり、本発明の第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32を、磁気抵抗効果素子30のハードバイアス層34に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係る磁気抵抗効果素子40、面内磁化膜多層構造42およびハードバイアス層44を模式的に示す断面図であり、本発明の第4実施形態に係る面内磁化膜多層構造42を、磁気抵抗効果素子40のハードバイアス層44に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】参考例1~8の実験結果について、非磁性粒界酸化物の種類を横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとった棒グラフである。
【
図7】参考例8のCoPt面内磁化膜(初期磁性層)の垂直断面(CoPt面内磁化膜の面内方向と直交する方向の断面)を走査透過電子顕微鏡で撮像して取得した観察像(断面TEM写真)である。
【
図8】実施例1~6および比較例1の実験結果について、面内磁化膜の初期磁性層の厚さを横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとったグラフである。
【
図9】実施例4、7~15、比較例2、3の実験結果について、面内磁化膜の初期磁性層中のZnO含有量を横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとったグラフである。
【
図10】初期磁性層の金属成分であるCo、Ptの合計に対するPtの含有量(at%)を横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。ここでは、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子としてトンネル型磁気抵抗効果素子を念頭に置いて説明を行うが、本発明に係る磁気抵抗効果素子がトンネル型磁気抵抗効果素子に限定されるわけではない。また、本発明に係る面内磁化膜およびハードバイアス層は、トンネル型磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用に限定されるわけではなく、例えば巨大磁気抵抗効果素子、異方性磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用も可能である。
【0044】
(1)第1実施形態
(1-1)第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の概略構成
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10、面内磁化膜12およびハードバイアス層14を模式的に示す断面図であり、本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜12を、磁気抵抗効果素子10のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図である。
図2は、従来例における磁気抵抗効果素子200を模式的に示す断面図である。
【0045】
本第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10(ここでは、トンネル型磁気抵抗効果素子)は、面内磁化膜12(ハードバイアス層14)と、磁気シールド層50と、シード層52と、反強磁性層54と、ピン層56と、バリア層58と、フリー磁性層60と、キャップ層62と、絶縁層70と、を有してなる。
【0046】
ピン層56とフリー磁性層60は、どちらも強磁性層であり、非常に薄い非磁性トンネル障壁層であるバリア層58によって分離されている。ピン層56は、隣接する反強磁性層54との交換結合により固定されることなどによって、その磁化方向が固定されている。フリー磁性層60は、外部磁界が存在する状態で、その磁化方向を、ピン層56の磁化方向に対して自由に回転させることができる。フリー磁性層60が外部磁界によってピン層56の磁化方向に対して回転すると、電気抵抗が変化するため、この電気抵抗の変化を検出することで、外部磁界を検出することができる。磁気シールド層50の上にシード層52が設けられていて、シード層52の上に反強磁性層54が設けられている。フリー磁性層60の上に、キャップ層62が設けられている。
【0047】
ハードバイアス層14は、フリー磁性層60にバイアス磁界を加えて、フリー磁性層60の磁化方向軸を安定させる役割を有する。本第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10においては、面内磁化膜12がハードバイアス層14を構成している。
【0048】
絶縁層70は電気的な絶縁材料で形成されており、センサ積層体(フリー磁性層60、バリア層58、ピン層56、反強磁性層54)を垂直方向に流れるセンサ電流が、センサ積層体(フリー磁性層60、バリア層58、ピン層56、反強磁性層54)の両側のハードバイアス層14に分流するのを抑制する役割を有する。絶縁層70としては、具体的には例えば、酸化シリコンや酸化アルミニウム等を用いることができる。
【0049】
(1-2)第1実施形態に係る面内磁化膜12およびハードバイアス層14の概略構成
図1に示すように、本第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10においては、面内磁化膜12をハードバイアス層14として用いており、面内磁化膜12が、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層60にバイアス磁界を加える。ハードバイアス層14は、本第1実施形態に係る面内磁化膜12のみで構成されている。
【0050】
本第1実施形態に係る面内磁化膜12は、初期磁性層12Aと、磁性層本体部12Bと、を有して構成されている。初期磁性層12Aおよび磁性層本体部12Bのどちらも、磁性金属粒子が非磁性粒界材で仕切られたグラニュラ構造を有する面内磁化膜である。
【0051】
初期磁性層12Aは、絶縁層70の上に直接積層される層であり、初期磁性層12Aの上に形成される磁性層本体部12Bの磁性金属粒子(hcp構造のCoPt系合金粒子)が自発的な磁化容易軸(c軸)を面内に配向させて成長することを促し、磁性層本体部12Bにおいてc軸を面内方向に持つhcp構造のCoPt系合金を有する柱状グラニュラ層を良好に形成させる役割を有するとともに、初期磁性層12A自身もハードバイアス層14の一部として、フリー磁性層60にバイアス磁界を加える役割を有する。これらの役割を初期磁性層12Aが果たす上で、初期磁性層12Aの非磁性粒界材が、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有していることが重要であることを、後に記載している[実施例]において実証している。
【0052】
磁性層本体部12Bは、初期磁性層12Aの上に形成される磁性層で、文字通り面内磁化膜12(ハードバイアス層14)の大部分を占める本体部であり、フリー磁性層60にバイアス磁界を加える役割を有する。
【0053】
本第1実施形態に係る面内磁化膜12は、前記したような初期磁性層12Aと磁性層本体部12Bとを有して構成されているため、本第1実施形態に係る面内磁化膜12を形成させる際には、絶縁層70の上に従来のように厚さ15nm程度以上の非磁性のRu下地層202(
図2参照)を形成してから当該面内磁化膜12を形成させなくても良好な磁気的特性を発現する。絶縁層70の上に直接、面内磁化膜12の一部である初期磁性層12Aを形成させ、その上に面内磁化膜12の残りの部位である磁性層本体部12Bを形成させることにより、当該面内磁化膜12は、良好な磁気特性(保磁力Hcが2.00kOe以上で、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上。)を発現する。
【0054】
初期磁性層12Aの厚さは、面内磁化膜12に良好な磁気特性(保磁力Hcが2.00kOe以上で、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上。)を発現させる観点から、標準的には1nm以上32nm以下であるが、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、初期磁性層12Aの厚さは、2nm以上30nm以下が好ましく、8nm以上20nm以下がより好ましい。初期磁性層12Aは磁性金属が非磁性粒界材で仕切られたグラニュラ構造を有しており、面内磁化膜12の一部であるため、初期磁性層12Aの厚さが例えば30nmと厚い場合であっても、フリー磁性層60と面内磁化膜12との間は、フリー磁性層60と面内磁化膜12との間に配置された絶縁層70の距離の分が隔てられているだけである。したがって、本第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10においては、ハードバイアス層14がフリー磁性層60に加えるバイアス磁界の減衰量は小さい。
【0055】
一方、従来例の磁気抵抗効果素子200は、
図2に示すように、絶縁層70の上に厚さ15nm程度以上の非磁性のRu下地層202を設けており、非磁性のRu下地層202の上に面内磁化膜204を設けている。このため、フリー磁性層60と面内磁化膜204との間には、絶縁層70に加えて厚さ15nm程度以上の非磁性のRu下地層202が存在しており、フリー磁性層60と面内磁化膜204との間は、絶縁層70の厚さによる距離の分に加えて非磁性のRu下地層202の厚さによる距離の分も隔てられており、従来例の磁気抵抗効果素子200は、非磁性のRu下地層202の厚さによる距離の分だけ、本第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10と比べて、フリー磁性層60と面内磁化膜204との間の距離が大きくなっている。このため、従来例の磁気抵抗効果素子200においては、本第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子10よりも、ハードバイアス層206がフリー磁性層60に加えるバイアス磁界の減衰量が大きくなる。
【0056】
(1-3)初期磁性層12Aの構成成分
本第1実施形態に係る面内磁化膜12は、前述したように、初期磁性層12Aと、磁性層本体部12Bと、を有して構成されており、初期磁性層12Aおよび磁性層本体部12Bのどちらも、磁性金属粒子が非磁性粒界材で仕切られたグラニュラ構造を有する面内磁化膜である。
【0057】
初期磁性層12Aは、前述した役割(磁性層本体部12Bの磁性金属粒子(hcp構造のCoPt系合金粒子)が自発的な磁化容易軸(c軸)を面内に配向させて成長することを促し、磁性層本体部12Bにおいてc軸を面内方向に持つhcp構造のCoPt系合金を有する柱状グラニュラ層を良好に形成させる役割、および初期磁性層12A自身もハードバイアス層14の一部として、フリー磁性層60にバイアス磁界を加える役割)を果たすべく、初期磁性層12Aは、非磁性粒界材として、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有しており、金属成分としてCoおよびPtを含有している。
【0058】
金属Coおよび金属Ptは、スパッタリングによって形成される面内磁化膜12の初期磁性層12Aにおいて、磁性金属粒子(微小な磁石)の構成成分となる。
【0059】
Coは強磁性金属元素であり、面内磁化膜12の初期磁性層12A中の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。
【0060】
CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点およびCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、初期磁性層12Aは、Coを、初期磁性層12Aの金属成分の合計に対して44at%以上82at%以下含有しているが、前記の観点から、初期磁性層12AにおけるCoの含有割合のより望ましい範囲について言えば、初期磁性層12Aの金属成分の合計に対して55at%以上80at%以下であることが好ましく、65at%以上75at%以下であることがより好ましい。
【0061】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。一方、スパッタリングによって得られる面内磁化膜12の初期磁性層12A中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくして、面内磁化膜12の初期磁性層12Aの保磁力を大きくするという機能も有する。
【0062】
初期磁性層12Aの保磁力を大きくするという観点および初期磁性層12A中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性の強さを調整するという観点から、初期磁性層12Aは、Ptを、初期磁性層12Aの金属成分の合計に対して18at%以上56at%以下含有しているが、前記の観点から、初期磁性層12AにおけるPtの含有割合より望ましい範囲について言えば、初期磁性層12Aの金属成分の合計に対して20at%以上45at%以下であることが好ましく、25at%以上35at%以下であることがより好ましい。
【0063】
また、本実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aの金属成分として、CoおよびPt以外に、Feを、初期磁性層12Aの金属成分の合計に対して0.5at%以上1.5at%以下含有させてもよい。
【0064】
本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aの非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなる。そして、初期磁性層12A中において、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなる非磁性粒界材によって、CoPt合金磁性結晶粒同士が仕切られており、グラニュラ構造が形成されている。即ち、初期磁性層12Aのグラニュラ構造は、CoPt合金結晶粒と、その周囲を取り囲む、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなる非磁性粒界材による結晶粒界と、からなる。
【0065】
初期磁性層12Aの前記非磁性粒界材の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので、この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12A中に含まれる前記非磁性粒界材の含有量を、初期磁性層12Aの体積全体に対して2.0vol%以上にすることが標準的であり、3.0vol%以上にすることが好ましく、4.0vol%以上にすることがより好ましい。
【0066】
ただし、初期磁性層12A中の前記非磁性粒界材の含有量が多くなりすぎると、前記非磁性粒界材がCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入してCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12A中に含まれる前記非磁性粒界材の含有量を、初期磁性層12Aの体積全体に対して31.0vol%以下にすることが標準的であり、15.0vol%以下にすることが好ましく、10.0vol%以下にすることがより好ましい。
【0067】
したがって、本第1実施形態において、初期磁性層12A中の前記非磁性粒界材の含有量は、初期磁性層12Aの体積全体に対して2.0vol%以上31.0vol%以下にすることが標準的であり、3.0vol%以上15.0vol%以下にすることが好ましく、4.0vol%以上10.0vol%以下にすることがより好ましい。
【0068】
本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aの非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなり、このことが、面内磁化膜12における磁気的特性(保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrt)を向上させる上で重要であることを、後述する[実施例]で実証している。
【0069】
(1-4)磁性層本体部12Bの構成成分
磁性層本体部12Bは、前述したように、初期磁性層12Aの上に形成される磁性層で、文字通り面内磁化膜12(ハードバイアス層14)の大部分を占める本体部であり、フリー磁性層60にバイアス磁界を加える役割を有する。この役割を果たすべく、磁性層本体部12Bは、金属成分としてCoおよびPtを含有し、非磁性粒界材として酸化物を含有している。
【0070】
金属Coおよび金属Ptは、スパッタリングによって形成される面内磁化膜12の磁性層本体部12Bにおいて、磁性金属粒子(微小な磁石)の構成成分となる。
【0071】
Coは前述したように強磁性金属元素であり、面内磁化膜12の磁性層本体部12B中の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。
【0072】
磁性層本体部12Bにおいても、初期磁性層12Aと同様に、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点およびCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、磁性層本体部12Bは、Coを、磁性層本体部12Bの金属成分の合計に対して44at%以上82at%以下含有しているが、前記の観点から、磁性層本体部12BにおけるCoの含有割合のより望ましい範囲について言えば、初期磁性層12Aの金属成分の合計に対して55at%以上80at%以下であることが好ましく、65at%以上75at%以下であることがより好ましい。
【0073】
Ptは、前述したように、所定の組成範囲でCoと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。一方、スパッタリングによって得られる面内磁化膜12の磁性層本体部12B中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくして、面内磁化膜12の磁性層本体部12Bの保磁力を大きくするという機能も有する。
【0074】
磁性層本体部12Bの保磁力を大きくするという観点および磁性層本体部12B中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性の強さを調整するという観点から、磁性層本体部12Bは、Ptを、磁性層本体部12Bの金属成分の合計に対して18at%以上56at%以下含有しているが、前記の観点から、磁性層本体部12BにおけるPtの含有割合のより望ましい範囲について言えば、磁性層本体部12Bの金属成分の合計に対して20at%以上45at%以下であることが好ましく、25at%以上35at%以下であることがより好ましい。
【0075】
本第1実施形態に係る面内磁化膜12の磁性層本体部12Bは、非磁性粒界材として酸化物を含有している。そして、磁性層本体部12B中において、非磁性粒界材である酸化物によって、CoPt合金磁性結晶粒同士が仕切られており、グラニュラ構造が形成されている。即ち、磁性層本体部12Bのグラニュラ構造は、CoPt合金結晶粒と、その周囲を取り囲む、非磁性粒界材である酸化物からなる結晶粒界と、からなる。
【0076】
磁性層本体部12Bの非磁性粒界材である酸化物の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので、この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の磁性層本体部12B中に含まれる非磁性粒界材である酸化物の含有量を、磁性層本体部12Bの体積全体に対して2.0vol%以上にすることが標準的であり、3.0vol%以上にすることが好ましく、4.0vol%以上にすることがより好ましい。
【0077】
ただし、磁性層本体部12B中の非磁性粒界材である酸化物の含有量が多くなりすぎると、非磁性粒界材である酸化物がCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入してCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の磁性層本体部12B中に含まれる非磁性粒界材である酸化物の含有量を、磁性層本体部12Bの体積全体に対して31.0vol%以下にすることが標準的であり、15.0vol%以下にすることが好ましく、10.0vol%以下にすることがより好ましい。
【0078】
したがって、本第1実施形態においては、磁性層本体部12B中の非磁性粒界材である酸化物の含有量を、磁性層本体部12Bの体積全体に対して2.0vol%以上31.0vol%以下にすることが標準的であり、また、磁性層本体部12B中に含まれる非磁性粒界材である酸化物の含有量は、3.0vol%以上15.0vol%以下にすることが好ましく、4.0vol%以上10.0vol%以下にすることがより好ましい。
【0079】
また、磁性層本体部12B中の非磁性粒界材である酸化物としてホウ素酸化物を含むと、磁性層本体部12Bの保磁力Hcが大きくなり、面内磁化膜12の保磁力Hcが大きくなるので、酸化物としてホウ素酸化物を含むことが好ましい。
【0080】
なお、現状の面内磁化膜においては、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)同士を仕切る粒界材料として、Cr、W、Ta、B等の単体元素が用いられているため、粒界材料が、ある程度、CoPt合金に固溶すると考えられる。このため、現状の面内磁化膜のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)は、結晶性に悪影響を受けて飽和磁化および残留磁化が低減していると考えられ、現状の面内磁化膜は、その保磁力Hcおよび残留磁化の値が悪影響を受けていると考えられる。
【0081】
一方、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の磁性層本体部12Bにおいては、粒界材料が酸化物であるので、粒界材料がCr、W、Ta、B等の単体元素の場合と比べて、粒界材料がCoPt合金に固溶しにくい。このため、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の磁性層本体部12Bの飽和磁化および残留磁化は大きくなり、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の保磁力Hcおよび残留磁化は大きくなる。
【0082】
(1-5)面内磁化膜12(初期磁性層12Aおよび磁性層本体部12B)の厚さ
前述したように、面内磁化膜の「単位面積あたりの残留磁化」は、当該面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜の厚さを乗じた値であるため、面内磁化膜の厚さを薄くすると、単位面積当たりの残留磁化Mrtが小さくなる傾向がある。また、面内磁化膜の厚さを厚くすると、形状磁気異方性効果により、面内磁化膜の保磁力Hcが小さくなる傾向がある。これらは、初期磁性層12Aおよび磁性層本体部12Bのどちらにも当てはまる。
【0083】
初期磁性層12Aの厚さについては、前述したように、標準的には1nm以上32nm以下であるが、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、初期磁性層12Aの厚さは、2nm以上30nm以下が好ましく、8nm以上20nm以下がより好ましい。
【0084】
磁性層本体部12Bの厚さについては、標準的には15nm以上80nm以下であるが、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、磁性層本体部12Bの厚さは、20nm以上60nm以下が好ましく、25nm以上50nm以下がより好ましい。
【0085】
(1-6)下地層
前述したように、従来技術では、Co-Pt系の面内磁化膜の下地層として、hcp構造のCoPt合金のc軸を面内に配向させることを促す非磁性の下地層(Cr、Ti、Cr合金、Ti合金等)が用いられている([先行技術文献]の欄に記載した特許文献2の段落0028)。また、前述したように、他の従来技術では、成膜する際のガス圧を高ガス圧にして非磁性のRu下地層を成膜するとともに、その厚さを15nm程度以上に厚く形成した非磁性のRu下地層の上にCo-Pt系の面内磁化膜を成膜して、Co-Pt系の面内磁化膜の保磁力Hcを向上させている([先行技術文献]の欄に記載した特許文献3の段落0016、非特許文献1)。しかしながら、これらの技術では、いずれも非磁性の下地層が用いられているため、これらの技術を用いて面内磁化膜をハードバイアス層として形成しても、非磁性の下地層の厚さによる距離の分だけ、磁気抵抗素子部とハードバイアス層との距離が離れ、ハードバイアス層の磁気抵抗素子部への印加磁場が低下してしまう。
【0086】
一方、本第1実施形態に係る面内磁化膜12および該面内磁化膜12からなるハードバイアス層14では、形成する面内磁化膜の磁気的特性を向上させるための非磁性の下地層は用いられておらず、絶縁層70の上に直接、面内磁化膜12(ハードバイアス層14)の一部である初期磁性層12Aが形成されている。つまり、絶縁層70が面内磁化膜12(ハードバイアス層14)の下地層となっている。このため、本第1実施形態に係る面内磁化膜12からなるハードバイアス層14は、磁気抵抗素子部のフリー磁性層60への距離が近く、フリー磁性層60への印加磁場の低下が抑制されている。また、絶縁層70の上に直接、本第1実施形態に係る面内磁化膜12を形成しても、所定の初期磁性層12Aを用いることにより、良好な保磁力Hcが得られることを後に記載する[実施例]で実証している。
【0087】
また、本第1実施形態に係る面内磁化膜12は、形成する際の下地となる絶縁層70の表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下と極めて小さくても、良好な保磁力Hcが得られることも後に記載する[実施例]で実証している。一般的には、形成する際の下地となる非磁性の下地層の表面粗さはある程度大きい方が、Co-Pt系合金結晶粒の磁気的孤立化を促し、保磁力Hcを大きくさせやすいとされている。
【0088】
また、本第1実施形態に係る面内磁化膜12は、形成する際の下地となる絶縁層70の表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下と極めて小さいので、形成される面内磁化膜12の表面の凹凸が小さくなるという効果を得ることもできる。形成される面内磁化膜12の表面の凹凸が小さくなると、磁気抵抗効果素子10として製品化する際の手間が少なくなり、後工程が楽になる。
【0089】
本第1実施形態に係る面内磁化膜12において、前記したような作用効果(表面粗さが0.1nm以上1.5nm以下と極めて小さい絶縁層70の上に直接、本第1実施形態に係る面内磁化膜12を形成しても、良好な保磁力Hcが得られること)が得られる理由は、面内磁化膜12を、初期磁性層12Aと磁性層本体部12Bとに分けて構成し、かつ、初期磁性層12Aの非磁性粒界材を、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなるように構成しているからであり、このことは後に記載する[実施例]で実証している。ただし、初期磁性層12Aの非磁性粒界材を、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなるように構成することにより、なぜ前記したような作用効果が得られるのかについての理論的な理由は、現時点では不明である。
【0090】
(1-7)スパッタリングターゲット
本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aを室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットは、金属Co、金属Ptおよび非磁性粒界材を含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを60at%以上82at%以下含有し、金属Ptを18at%以上40at%以下含有し、当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記非磁性粒界材を6vol%以上30vol%以下含有し、前記非磁性粒界材は、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなる。後述する[実施例]に記載しているように、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-酸化物系の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成とはずれが生じるので、前記したスパッタリングターゲットに含まれる各元素の組成範囲は、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aに含まれる各元素の組成範囲とは一致していない。
【0091】
(1-8)初期磁性層12Aの形成方法
本第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aは、前記「(1-7)スパッタリングターゲット」に記載したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、絶縁層70の上に成膜して形成する。この初期磁性層12Aの成膜過程で加熱することは不要であり、室温で成膜する。また、磁性層本体部12Bの形成の際のスパッタリングにおいても加熱することは不要であり、本第1実施形態に係る面内磁化膜12は、室温成膜で形成することが可能である。
【0092】
また、前記「(1-6)下地層」で記載したように、本第1実施形態に係る面内磁化膜12の形成においては、形成する面内磁化膜12の磁気的特性を向上させるための非磁性の下地層は用いておらず、絶縁層70の上に直接、初期磁性層12Aをスパッタリングで形成し、形成した初期磁性層12Aの上に磁性層本体部12Bをスパッタリングで形成して、面内磁化膜12を形成する。
【0093】
(2)第2実施形態
図3は、本発明の第2実施形態に係る磁気抵抗効果素子20、面内磁化膜多層構造22およびハードバイアス層24を模式的に示す断面図であり、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22を、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層24に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【0094】
以下、本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22について説明するが、第1実施形態と同一の構成要素については原則として同一の符号を付して、説明は省略する。
【0095】
図3に示すように、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22は、絶縁層70の上に初期磁性層22Aが形成され、その初期磁性層22Aの上に、非磁性初期中間層22Cが形成され、その非磁性初期中間層22Cの上に、磁性層本体部22Bが形成された構造になっている。ここで、初期磁性層22Aおよび磁性層本体部22Bの構成成分および厚さは、第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aおよび磁性層本体部12Bの構成成分および厚さとそれぞれ同様であるので、説明は原則として省略する。
【0096】
本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22は、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層24として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層60にバイアス磁界を加えることができる。
【0097】
非磁性初期中間層22Cは、初期磁性層22Aと磁性層本体部22Bとを厚さ方向に分離して多層化して、磁性層の合計の厚さは維持したまま磁性層の単層としての厚さを減じることで、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させる役割を有する層である。
【0098】
非磁性初期中間層22Cが介在することによって分離された初期磁性層22Aと磁性層本体部22Bは、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性初期中間層22Cが介在することによって分離された初期磁性層22Aと磁性層本体部22Bは強磁性結合を行うため、面内磁化膜多層構造22は、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcを向上させることができ、良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0099】
非磁性初期中間層22Cに用いる金属は、CoPt合金磁性結晶粒の結晶構造を損なわないようにする観点から、CoPt合金磁性結晶粒と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)の金属にする。具体的には、非磁性初期中間層22Cとしては、初期磁性層22Aおよび磁性層本体部22B中のCoPt合金磁性結晶粒の結晶構造と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金を好適に用いることができる。
【0100】
非磁性初期中間層22Cに用いる金属がRu合金の場合の添加元素としては、具体的には例えば、Cr、Pt、Coを用いることができ、それらの金属の添加量の範囲は、Ru合金が六方最密充填構造hcpとなる範囲とするのがよい。
【0101】
アーク溶解を行ってRu合金のバルクサンプルを作製し、X線回折装置(XRD:(株)リガク製 SmartLab)によってX線回折のピーク解析を行ったところ、RuCr合金においては、Crの添加量が50at%のときに、六方最密充填構造hcpとRuCr2の混相が確認されたので、非磁性初期中間層22CにRuCr合金を用いる場合、Crの添加量は50at%未満とするのが適当であり、40at%未満とすることが好ましく、30at%未満とすることがより好ましい。また、RuPt合金においては、Ptの添加量が15at%のときに、六方最密充填構造hcpとPt由来の面心立方構造fccの混相が確認されたので、非磁性初期中間層22CにRuPt合金を用いる場合、Ptの添加量は15at%未満とするのが適当であり、12.5at%未満とすることが好ましく、10at%未満とすることがより好ましい。また、RuCo合金においては、Coの添加量に関わらず六方最密充填構造hcpを形成するが、Coを40at%以上添加すると磁性体となるため、Coの添加量は40at%未満とするのが適当であり、30at%未満とすることが好ましく、20at%未満とすることがより好ましい。
【0102】
非磁性初期中間層22Cの厚さについては、非磁性初期中間層22Cの厚さが薄すぎると、前記した役割(初期磁性層22Aと磁性層本体部22Bとを厚さ方向に分離して多層化して、磁性層の合計の厚さは維持したまま磁性層の単層としての厚さを減じることで、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させる役割)を果たせなくなるおそれがあるため、非磁性初期中間層22Cの厚さは標準的には0.3nm以上であり、0.5nm以上であることが好ましく、0.7nm以上であることがより好ましい。
【0103】
一方、非磁性初期中間層22Cの厚さが薄いほど、磁性層本体部22Bとフリー磁性層60との距離が近くなり、面内磁化膜多層構造22からなるハードバイアス層24がフリー磁性層60へ印加する磁場の低下が抑制されるので、非磁性初期中間層22Cの厚さは、標準的には2nm以下であり、1.5nm以下であることが好ましく、1.2nm以下であることがより好ましい。
【0104】
したがって、非磁性初期中間層22Cの厚さは、標準的には0.3nm以上2nm以下であり、0.5nm以上1.5nm以下であることが好ましく、0.7nm以上1.2nm以下であることがより好ましい。
【0105】
(3)第3実施形態
図4は、本発明の第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子30、面内磁化膜多層構造32およびハードバイアス層34を模式的に示す断面図であり、本発明の第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32を、磁気抵抗効果素子30のハードバイアス層34に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【0106】
以下、本第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32について説明するが、第1実施形態と同一の構成要素については原則として同一の符号を付して、説明は省略する。
【0107】
図4に示すように、本発明の第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32は、絶縁層70の上に初期磁性層32Aが形成され、その初期磁性層32Aの上に第1磁性層本体部32Bが形成され、その第1磁性層本体部32Bの上に非磁性中間層32Dが形成され、その非磁性中間層32Dの上に第2磁性層本体部32Cが形成された構造になっており、磁性層本体部が非磁性中間層32Dによって、第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cとに分離された構造になっている。ここで、初期磁性層32Aの構成成分および厚さは、第1実施形態に係る面内磁化膜12の初期磁性層12Aの構成成分および厚さと同様であるので、説明は原則として省略する。また、第1磁性層本体部32Bおよび第2磁性層本体部32Cの構成成分は、第1実施形態に係る面内磁化膜12の磁性層本体部12Bの構成成分と同様であるので、説明は原則として省略する。
【0108】
本第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32は、磁気抵抗効果素子30のハードバイアス層34として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層60にバイアス磁界を加えることができる。
【0109】
非磁性中間層32Dは、磁性層本体部を厚さ方向に分離して、第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cとに分離して多層化して、磁性層の合計の厚さは維持したまま、磁性層の単層としての厚さを減じることで、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させる役割を有する層である。
【0110】
非磁性中間層32Dが介在することによって分離された、第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cは、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性中間層32Dが介在することによって分離された第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cは強磁性結合を行うため、面内磁化膜多層構造32は、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcを向上させることができ、良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0111】
第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cの厚さについては合計の厚さで考えればよく、第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cの合計の厚さは、標準的には15nm以上80nm以下であるが、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cの合計の厚さは、20nm以上60nm以下が好ましく、25nm以上50nm以下がより好ましい。
【0112】
非磁性中間層32Dに用いる金属は、CoPt合金磁性結晶粒の結晶構造を損なわないようにする観点から、CoPt合金磁性結晶粒と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)の金属にする。具体的には、非磁性中間層32Dとしては、面内磁化膜12中のCoPt合金磁性結晶粒の結晶構造と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金を好適に用いることができる。
【0113】
非磁性中間層32Dに用いる金属がRu合金の場合の添加元素としては、具体的には例えば、Cr、Pt、Coを用いることができ、それらの金属の添加量の範囲は、Ru合金が六方最密充填構造hcpとなる範囲とするのがよい。
【0114】
アーク溶解を行ってRu合金のバルクサンプルを作製し、X線回折装置(XRD:(株)リガク製 SmartLab)によってX線回折のピーク解析を行ったところ、RuCr合金においては、Crの添加量が50at%のときに、六方最密充填構造hcpとRuCr2の混相が確認されたので、非磁性中間層32DにRuCr合金を用いる場合、Crの添加量は50at%未満とするのが適当であり、40at%未満とすることが好ましく、30at%未満とすることがより好ましい。また、RuPt合金においては、Ptの添加量が15at%のときに、六方最密充填構造hcpとPt由来の面心立方構造fccの混相が確認されたので、非磁性中間層32DにRuPt合金を用いる場合、Ptの添加量は15at%未満とするのが適当であり、12.5at%未満とすることが好ましく、10at%未満とすることがより好ましい。また、RuCo合金においては、Coの添加量に関わらず六方最密充填構造hcpを形成するが、Coを40at%以上添加すると磁性体となるため、Coの添加量は40at%未満とするのが適当であり、30at%未満とすることが好ましく、20at%未満とすることがより好ましい。
【0115】
非磁性中間層32Dの厚さについては、非磁性中間層32Dの厚さが薄すぎると、前記した役割(磁性層本体部を厚さ方向に分離して、第1磁性層本体部32Bと第2磁性層本体部32Cとに分離して多層化して、磁性層の合計の厚さは維持したまま、磁性層の単層としての厚さを減じることで、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させる役割)を果たせなくなるおそれがあるため、非磁性中間層32Dの厚さは標準的には0.3nm以上であり、0.5nm以上であることが好ましく、0.7nm以上であることがより好ましい。
【0116】
一方、非磁性中間層32Dの厚さが薄いほど、面内磁化膜多層構造32における面内磁化膜(初期磁性層32Aおよび磁性層本体部32B、32C)の割合が大きくなり、面内磁化膜多層構造32からなるハードバイアス層34がフリー磁性層60へ印加する磁場が大きくなるので、非磁性中間層32Dの厚さは、標準的には2nm以下であり、1.5nm以下であることが好ましく、1.2nm以下であることがより好ましい。
【0117】
したがって、非磁性中間層32Dの厚さは、標準的には0.3nm以上2nm以下であり、0.5nm以上1.5nm以下であることが好ましく、0.7nm以上1.2nm以下であることがより好ましい。
【0118】
(4)第4実施形態
図5は、本発明の第4実施形態に係る磁気抵抗効果素子40、面内磁化膜多層構造42およびハードバイアス層44を模式的に示す断面図であり、本発明の第4実施形態に係る面内磁化膜多層構造42を、磁気抵抗効果素子40のハードバイアス層44に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【0119】
以下、本第4実施形態に係る面内磁化膜多層構造42について説明するが、第1実施形態と同一の構成要素については原則として同一の符号を付して、説明は省略する。
【0120】
図5に示すように、本発明の第4実施形態に係る面内磁化膜多層構造42は、絶縁層70の上に初期磁性層42Aが形成され、その初期磁性層42Aの上に非磁性初期中間層42Dが形成され、その非磁性初期中間層42Dの上に第1磁性層本体部42Bが形成され、その第1磁性層本体部42Bの上に非磁性中間層42Eが形成され、その非磁性中間層42Eの上に第2磁性層本体部42Cが形成された構造になっており、初期磁性層42Aが非磁性初期中間層42Dによって、磁性層本体部42B、42Cから分離されており、また、磁性層本体部が非磁性中間層42Eによって、第1磁性層本体部42Bと第2磁性層本体部42Cとに分離された構造になっている。ここで、初期磁性層42Aならびに第1磁性層本体部42Bおよび第2磁性層本体部42Cの構成成分および厚さは、第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32の初期磁性層32Aならびに第1磁性層本体部32Bおよび第2磁性層本体部32Cの構成成分および厚さとそれぞれ同様であるので、説明は原則として省略する。
【0121】
本第4実施形態に係る面内磁化膜多層構造42は、磁気抵抗効果素子40のハードバイアス層44として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層60にバイアス磁界を加えることができる。
【0122】
非磁性初期中間層42Dは、初期磁性層42Aと第1磁性層本体部42Bとを厚さ方向に分離して多層化して、磁性層の合計の厚さは維持したまま磁性層の単層としての厚さを減じることで、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させる役割を有する層である。
【0123】
非磁性初期中間層42Dが介在することによって分離された初期磁性層42Aと第1磁性層本体部42Bは、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性初期中間層42Dが介在することによって分離された初期磁性層42Aと第1磁性層本体部42Bは強磁性結合を行うため、面内磁化膜多層構造42は、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcを向上させることができ、良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0124】
非磁性初期中間層42Dに用いる金属は、第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22の非磁性初期中間層22Cに用いる金属と同様であり、また、非磁性初期中間層42Dの厚さは、第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造22の非磁性初期中間層22Cの厚さと同様である。
【0125】
非磁性中間層42Eは、磁性層本体部を厚さ方向に分離して、第1磁性層本体部42Bと第2磁性層本体部42Cとに分離して多層化して、磁性層の合計の厚さは維持したまま、磁性層の単層としての厚さを減じることで、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させる役割を有する層である。
【0126】
非磁性中間層42Eが介在することによって分離された、第1磁性層本体部42Bと第2磁性層本体部42Cは、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性中間層42Eが介在することによって分離された第1磁性層本体部42Bと第2磁性層本体部42Cは強磁性結合を行うため、面内磁化膜多層構造42は、単位面積あたりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcを向上させることができ、良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0127】
非磁性中間層42Eに用いる金属は、第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32の非磁性中間層32Dに用いる金属と同様であり、また、非磁性中間層42Eの厚さは、第3実施形態に係る面内磁化膜多層構造32の非磁性中間層32Dの厚さと同様である。
【実施例0128】
以下、本発明を裏付けるための実施例、比較例および参考例について記載する。
【0129】
以下の(A)では、CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜単層構造において、面内磁化膜の初期磁性層中の非磁性粒界酸化物の種類が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討しており、以下の(B)では、CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層の厚さが、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討しており、以下の(C)では、CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層中の酸化物(ZnO)含有量(体積分率)が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討しており、以下の(D)では、CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層中の金属成分であるCo、Ptの組成比が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討しており、以下の(E)では、CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層の非磁性粒界材をTa2O5にすることの保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討しており、以下の(F)では、CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層中の金属成分としてFeを追加添加することの保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響について検討している。
【0130】
作製したCoPt-非磁性酸化物系の面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-非磁性酸化物系の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成との間にはずれが生じるので、作製したCoPt-非磁性酸化物系の面内磁化膜のうちの数点について、実際の組成を組成分析によって取得し、その結果を踏まえて、以下に記載する全ての実施例、比較例および参考例において組成のずれを補正する計算を行って、補正後の組成を、全ての実施例、比較例および参考例のそれぞれの面内磁化膜の組成とした。
【0131】
面内磁化膜の組成分析においては、元素分析手法としてエネルギー分散型X線分析法(EDX)を採用し、元素分析装置として株式会社堀場製作所製EMAXEvolutionを用いた。ただし、ホウ素(B)は酸素(O)よりも原子番号の小さい軽元素であるため、EDXにおける分析では検出することができないため、面内磁化膜におけるB2O3の含有量の正確な値は現時点では不明である。このため、以下に記載する実施例、比較例および参考例の面内磁化膜の組成におけるB2O3の含有量の値には、ターゲット組成におけるB2O3の含有量の値を記載したが、実際の値からずれている可能性がある。
【0132】
以下の(A)~(F)で記載する実施例、比較例および参考例におけるCoPt-非磁性酸化物系の面内磁化膜の組成は、作製に用いたスパッタリングターゲットの組成に対して、組成のずれを補正する計算を施して、算出したものである。ただし、B2O3については、前述したように、ターゲット組成におけるB2O3の含有量の値を記載している。
【0133】
<(A)CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜単層構造において、面内磁化膜の初期磁性層中の非磁性酸化物の種類が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響(参考例1~8)>
参考例1~8において、シリコン基板上に形成するCoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜単層構造の非磁性粒界酸化物の種類を種々変更して実験データを取得した。参考例1~8において用いた非磁性粒界酸化物は、参考例1から参考例8の順に、Al2O3、B2O3、Ga2O3、MgO、MnO、Nb2O5、Ta2O5、ZnOである。形成するCoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜はいずれも単層であり、非磁性中間層は設けていない。
【0134】
使用したシリコン基板は、表面が100nm程度酸化処理されており、表面は絶縁層である酸化シリコンSiOxになっている。また、使用したシリコン基板の表面は鏡面仕上げがされており、当該シリコン基板の表面粗さRa (算術平均粗さ)は0.1nmである。つまり、面内磁化膜の下地層となる酸化シリコンSiOx(シリコン基板の表面の絶縁層である酸化シリコンSiOx)の表面粗さRa(算術平均粗さ)は0.1nmである。以下、使用したこのシリコン基板を、表面酸化処理シリコン基板と記載する。
【0135】
表面酸化処理シリコン基板上に、酸化物の種類がそれぞれ異なる参考例1~8のCoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜単層構造を、株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wを用いてスパッタリング法により、それぞれ厚さ15nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。なお、本願の実施例、比較例および参考例において、サンプル作製のスパッタリングの際に用いたスパッタリング装置は、いずれの成膜においても株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wであるが、以下、装置名の記載は省略する。
【0136】
具体的には以下のようにして、初期磁性層中の非磁性粒界酸化物の種類の検討用のサンプルの作製および実験データの取得を行った。
【0137】
参考例1では、 (Co-25Pt)-10vol%Al2O3スパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-5.11vol%Al2O3面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例2では、 (Co-25Pt)-10vol%B2O3スパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例3では、 (Co-25Pt)-10vol%Ga2O3スパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.89vol%Ga2O3面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例4では、 (Co-25Pt)-10vol%MgOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.28vol%MgO面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例5では、 (Co-25Pt)-10vol%MnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.72vol%MnO面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例6では、 (Co-25Pt)-10vol%Nb2O5スパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.57vol%Nb2O5面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例7では、 (Co-25Pt)-10vol%Ta2O5スパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.32vol%Ta2O5面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成し、参考例8では、 (Co-25Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnO面内磁化膜単層構造をスパッタリング法で形成した。
【0138】
前記のようにして形成した参考例1~8の面内磁化膜単層構造の上に、それぞれカーボンのキャップ層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製した。
【0139】
参考例1~8における前記の各成膜過程では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温で成膜を行った。
【0140】
作製した参考例1~8の面内磁化膜(初期磁性層)単層構造のヒステリシスループを振動型磁力計(VSM:(株)玉川製作所製 TM-VSM211483-HGC型)(以下、振動型磁力計と記す。)により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)ならびに飽和磁化Ms(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜(初期磁性層)の厚さを乗じて、作製した面内磁化膜(初期磁性層)単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出し、読み取った飽和磁化Ms(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜(初期磁性層)の厚さを乗じて、作製した面内磁化膜(初期磁性層)単層構造の単位面積当たりの飽和磁化Mst(memu/cm2)を算出した。
【0141】
参考例1~8の実験結果を、次の表1に示す。また、参考例1~8の実験結果について、非磁性粒界酸化物の種類を横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとった棒グラフを
図6に示す。
【0142】
また、組成が(Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnOである参考例8のCoPt面内磁化膜(初期磁性層)については、その垂直断面(CoPt面内磁化膜の面内方向と直交する方向の断面)を走査透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-9500)で観察し、観察像(断面TEM写真)を撮像して取得した。その観察像(断面TEM写真)を
図7に示す。
【0143】
【0144】
表1および
図6から明らかなように、面内磁化膜(初期磁性層)の非磁性粒界酸化物として、Ta
2O
5を用いた参考例7およびZnOを用いた参考例8の保磁力Hcが、それぞれ2.09kOe、3.13kOeであり2.00kOeを上回っており、他の非磁性粒界酸化物を用いた参考例1~6と比較して、格段に良好な保磁力Hcを得ることができた。
【0145】
参考例7および参考例8の良好な保磁力Hcは、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層(表面酸化処理シリコン基板の表面酸化処理層であって下地層となる絶縁層)の上に面内磁化膜(初期磁性層)を直接成膜して得られた実験結果である点が画期的である。
図7の断面TEM写真に示すように、参考例8の(Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnOの初期磁性層は、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層(表面酸化処理シリコン基板の表面酸化処理層であって下地層となる絶縁層)の上に直接形成されているにもかかわらず、Co-26.12Pt合金粒子が、明確に分離された柱状に形成されている。参考例7の(Co-26.12Pt)-4.32vol%Ta
2O
5の初期磁性層については、現時点ではその垂直断面を電子顕微鏡で観察することは行っていないが、参考例7の保磁力Hc(2.09kOe)は2.00kOeを上回っているものの参考例8の保磁力Hc(3.13kOe)よりも小さくなっているため、参考例7の初期磁性層は、参考例8の初期磁性層ほどにはCo-26.12Pt合金粒子が明確に分離された柱状に形成されていないと思われる。参考例1~6の初期磁性層についても、現時点ではその垂直断面を電子顕微鏡で観察することは行っていないが、参考例1~6の保磁力Hcは0.14kOe~1.21kOeであり、良好な保磁力Hcが得られなかったため、参考例1~6の初期磁性層においては、従来からの知見の通り、アモルファスである酸化シリコン層(表面酸化処理シリコン基板の表面酸化処理層であって下地層となる絶縁層)の上にCoPt合金粒子がほとんど柱状に形成されず、CoPt合金粒子同士の磁気的な分離が悪くなっているものと思われる。
【0146】
前述したように、従来技術では、Co-Pt系の面内磁化膜の下地層として、hcp構造のCoPt合金のc軸を面内に配向させることを促す非磁性の下地層(Cr、Ti、Cr合金、Ti合金等)が用いられている([先行技術文献]の欄に記載した特許文献2の段落0028)。また、前述したように、他の従来技術では、成膜する際のガス圧を高ガス圧にして非磁性のRu下地層を成膜するとともに、その厚さを15nm程度以上に厚く形成した非磁性のRu下地層の上にCo-Pt系の面内磁化膜を成膜して、Co-Pt系の面内磁化膜の保磁力Hcを向上させている([先行技術文献]の欄に記載した特許文献3の段落0016、非特許文献1)。従来技術では、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層(表面酸化処理シリコン基板の表面酸化処理層であって下地層となる絶縁層)の上に面内磁化膜を直接成膜して、良好な保磁力Hcを得ることなど不可能だったのである。
【0147】
参考例7および参考例8の保磁力Hcについての実験結果から、本発明では、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層(表面酸化処理シリコン基板の表面酸化処理層であって下地層となる絶縁層)の基板の上に直接形成する面内磁化膜(初期磁性層)の非磁性粒界酸化物として、Zn酸化物およびTa酸化物のうちの少なくとも1種を含有してなるものを採用するに至った。
【0148】
以下の(B)~(D)、(F)の検討では、最も良好な結果が得られた参考例8の面内磁化膜(非磁性粒界酸化物としてZnOを用いた面内磁化膜)を初期磁性層として採用して検討を行っている。
【0149】
なお、
図7の断面TEM写真に示すように、参考例8の(Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnOの初期磁性層は、Co-26.12Pt合金粒子が明確に分離された柱状に形成されたグラニュラ構造であるところ、以下の(B)~(F)の検討で用いた磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B
2O
3面内磁化膜も同様のグラニュラ構造であると考えられれるので、CoPt-ZnO面内磁化膜(初期磁性層)についての非磁性粒界材(酸化物)の含有量や金属成分(Co、Pt、Fe)の組成についての実験データの知見は、磁性層本体部における非磁性粒界材(酸化物)の含有量の数値範囲の検討や金属成分(Co、Pt、Fe)の組成の数値範囲の検討においても活用できるものと考えられる。
【0150】
<(B)CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部はCoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層の厚さが、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例1~6、比較例1)>
実施例1~6では、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、(Co-25Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、初期磁性層である(Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnO面内磁化膜を、厚さを2nm(実施例1)、5nm(実施例2)、10nm(実施例3)、15nm(実施例4)、20nm(実施例5)、30nm(実施例6)と変化させて、スパッタリング法で形成した。
【0151】
そして、形成した(Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnO面内磁化膜(初期磁性層)の上に、厚さ1nmのRu非磁性初期中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性初期中間層の上に、厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜の上に、厚さ1nmのRu非磁性中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmの第2磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成して、面内磁化膜多層構造を形成した。
【0152】
比較例1では、表面酸化処理シリコン基板上に初期磁性層である (Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnO面内磁化膜を形成させることなく、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜の上に、厚さ1nmのRu非磁性中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmの第2磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成して、面内磁化膜多層構造を形成した。
【0153】
前記のようにして形成した実施例1~6および比較例1の面内磁化膜多層構造の上に、それぞれカーボンのキャップ層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製した。
【0154】
実施例1~6および比較例1における前記の各成膜過程では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温で成膜を行った。
【0155】
作製した実施例1~6の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)ならびに飽和磁化Ms(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出し、読み取った飽和磁化Ms(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの飽和磁化Mst(memu/cm2)を算出した。
【0156】
実施例1~6および比較例1の実験結果を、次の表2に示す。また、実施例1~6および比較例1の実験結果について、面内磁化膜の初期磁性層の厚さを横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとったグラフを
図8に示す。
【0157】
【0158】
表2および
図8から明らかなように、非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた初期磁性層の厚さが15nm(実施例4)のとき、保磁力Hcが3.15kOeと最も大きくなる一方、非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた初期磁性層の厚さが15nmよりも厚くなると、厚さが20nm(実施例5)、30nm(実施例6)と厚くなるほど保磁力Hcの大きさが減少している。したがって、非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた初期磁性層は、表面酸化処理シリコン基板の表面から一定の範囲(例えば、表面酸化処理シリコン基板の表面から30nm程度以内)のみに限定的に用い、磁性層本体部としては、従来から面内磁化膜として用いられている、非磁性酸化物粒界材としてB
2O
3を用いた面内磁化膜(CoPt-B
2O
3)を用いた方が好ましいと考えられる。
【0159】
表2および
図8に示す結果から、初期磁性層の厚さは、面内磁化膜単層構造に良好な磁気特性(保磁力Hcが2.00kOe以上で、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上。)を発現させる観点から、標準的には1nm以上32nm以下とするのがよく、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、初期磁性層の厚さは、2nm以上30nm以下が好ましく、8nm以上20nm以下がより好ましい。
【0160】
比較例1は非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた初期磁性層を設けておらず、表面酸化処理シリコン基板の上に、直接、非磁性酸化物粒界材としてB2O3を用いた面内磁化膜(CoPt-B2O3)を形成させており、本発明の範囲に含まれない。比較例1は、保磁力Hcは2.48kOeと2.00kOeを上回ったものの、単位面積当たりの残留磁化Mrtは1.83memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満の結果となった。
【0161】
<(C)CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層中の酸化物(ZnO)含有量(体積分率)が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例4、7~15、比較例2、3)>
実施例4、7~15、比較例2、3では、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、CoPtを含む厚さ15nmの初期磁性層を、ZnOの含有量を0vol%から30.10vol%まで変化させて、スパッタリング法で形成した。
【0162】
具体的には、比較例2では、非磁性酸化物粒界材を含まないCo-25Ptスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmのCo-26.12Pt初期磁性層をスパッタリング法で形成し、比較例3では、 (Co-25Pt)-4vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-1.60vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例7では、 (Co-25Pt)-6vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-2.30vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例8では、 (Co-25Pt)-8vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-3.25vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例4では、 (Co-25Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例9では、 (Co-25Pt)-12vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-5.89vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例10では、 (Co-25Pt)-14vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-7.58vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例11では、 (Co-25Pt)-16vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-9.53vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例12では、 (Co-25Pt)-18vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-11.72vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例13では、 (Co-25Pt)-20vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-14.16vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例14では、 (Co-25Pt)-25vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-21.35vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例15では、 (Co-25Pt)-30vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-30.10vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成した。
【0163】
そして、形成した初期磁性層の上に、厚さ1nmのRu非磁性初期中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性初期中間層の上に、厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜の上に、厚さ1nmのRu非磁性中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmの第2磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成して、面内磁化膜多層構造を形成した。
【0164】
前記のようにして形成した実施例4、7~15、比較例2、3の面内磁化膜多層構造の上に、それぞれカーボンのキャップ層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製した。
【0165】
実施例4、7~15、比較例2、3における前記の各成膜過程では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温で成膜を行った。
【0166】
作製した実施例4、7~15、比較例2、3の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)ならびに飽和磁化Ms(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出し、読み取った飽和磁化Ms(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの飽和磁化Mst(memu/cm2)を算出した。
【0167】
実施例4、7~15、比較例2、3の実験結果を、次の表3に示す。また、実施例4、7~15、比較例2、3の実験結果について、面内磁化膜の初期磁性層中のZnO含有量を横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとったグラフを
図9に示す。
【0168】
【0169】
表3および
図9から明らかなように、非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた初期磁性層中のZnOの含有量が5.89vol%(実施例9)のとき、保磁力Hcが3.25kOeと最も大きくなり、非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた初期磁性層中のZnOの含有量が5.89vol%よりも大きくなると、初期磁性層中のZnOの含有量が大きくなるほど保磁力Hcの大きさが減少している。ただし、初期磁性層中のZnOの含有量が30.10vol%と大きくなっても、保磁力Hcは2.10kOeであり、保磁力Hcは2.00kOe以上を維持している。また、初期磁性層中のZnOの含有量が1.60vol%である比較例3の保磁力Hcは0.84kOeであるのに対し、初期磁性層中のZnOの含有量が2.30vol%である実施例7の保磁力Hcは2.97kOeと急激に大きくなっており、初期磁性層中のZnOの含有量が1.60vol%から2.30vol%へと変わると、面内磁化膜多層構造の保磁力Hcが急激に大きくなることが読み取れる。
【0170】
表3および
図9に示す結果から、初期磁性層中のZnOの含有量は、面内磁化膜多層構造に良好な磁気特性(保磁力Hcが2.00kOe以上で、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上。)を発現させる観点から、初期磁性層の体積全体に対して2.0vol%以上31.0vol%以下にするのがよく、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、3.0vol%以上15.0vol%以下にすることが好ましく、4.0vol%以上10.0vol%以下にすることがより好ましい。
【0171】
初期磁性層中のZnOの含有量がそれぞれ0vol%、1.60vol%であり、初期磁性層中のZnOの含有量が2.0vol%を下回っていて、本発明の範囲外である比較例2、3は、保磁力がそれぞれ0.41kOe、0.84kOeと小さく、2.00kOeを下回った。
【0172】
単位面積当たりの残留磁化Mrtについては、実施例4、7~15、比較例2、3のいずれにおいても3.00memu/cm2を上回っており、良好な結果であった。
【0173】
<(D)CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層中の金属成分であるCo、Ptの組成比が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例4、16~19、比較例4、5)>
実施例4、16~19、比較例4、5では、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、非磁性酸化物粒界材としてZnOを用いた厚さ15nmの初期磁性層(CoPt-ZnO)を、初期磁性層の金属成分であるCo、Ptの組成を変化させて、スパッタリング法で形成した。具体的には、初期磁性層の金属成分であるCo、Ptの合計に対して、Coを83.97at%から31.04at%まで変化させ、Ptを16.03at%から68.96at%まで変化させて実験データを取得した。
【0174】
比較例4では、 (Co-15Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-16.03Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例16では、 (Co-20Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-20.13Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例4では、 (Co-25Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例17では、 (Co-30Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-34.00Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例18では、 (Co-35Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-43.77Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、実施例19では、 (Co-40Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-55.42Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、比較例5では、 (Co-45Pt)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-68.96Pt)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成した。
【0175】
そして、形成した初期磁性層の上に、厚さ1nmのRu非磁性初期中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性初期中間層の上に、厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜の上に、厚さ1nmのRu非磁性中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmの第2磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成して、面内磁化膜多層構造を形成した。
【0176】
前記のようにして形成した実施例4、16~19、比較例4、5の面内磁化膜多層構造の上に、それぞれカーボンのキャップ層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製した。
【0177】
実施例4、16~19、比較例4、5における前記の各成膜過程では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温で成膜を行った。
【0178】
作製した実施例4、16~19、比較例4、5の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)ならびに飽和磁化Ms(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出し、読み取った飽和磁化Ms(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの飽和磁化Mst(memu/cm2)を算出した。
【0179】
実施例4、16~19、比較例4、5の実験結果を、次の表4に示す。また、初期磁性層の金属成分であるCo、Ptの合計に対するPtの含有量(at%)を横軸にとって、保磁力Hc(kOe)を縦軸にとったグラフを
図10に示す。
【0180】
【0181】
表4および
図10から明らかなように、CoPt-ZnO初期磁性層(面内磁化膜)の金属成分(Co、Pt)の合計に対するCoの含有量が44at%以上82at%以下、Ptの含有量が18at%以上56at%以下、CoPt-ZnOの面内磁化膜の全体に対するZnOの体積比が4.44vol%で、かつ、厚さが15nmであり、本発明の範囲に含まれる実施例4、16~19は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm
2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0182】
表4および
図10に示す結果から、初期磁性層中のPtの含有量は、面内磁化膜多層構造に良好な磁気特性(保磁力Hcが2.00kOe以上で、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上。)を発現させる観点から、初期磁性層の金属成分の合計に対して18at%以上56at%以下にするのがよく、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、初期磁性層の金属成分の合計に対して20at%以上45at%以下であることが好ましく、25at%以上35at%以下であることがより好ましい。初期磁性層中のCoの含有量で言えば、初期磁性層中のCoの含有量は、面内磁化膜多層構造に良好な磁気特性(保磁力Hcが2.00kOe以上で、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上。)を発現させる観点から、初期磁性層の金属成分の合計に対して44at%以上82at%以下にするのがよく、保磁力Hcと単位面積当たりの残留磁化Mrtの両者をともに大きく両立させる観点から、初期磁性層の金属成分の合計に対して55at%以上80at%以下であることが好ましく、65at%以上75at%以下であることがより好ましい。
【0183】
一方、CoPt-ZnO初期磁性層(面内磁化膜)の金属成分(Co、Pt)の合計に対するCoの含有量が83.97at%でPtの含有量が16.03at%であり、本発明の範囲に含まれない比較例4は、保磁力Hcが1.68kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。また、CoPt-ZnO初期磁性層(面内磁化膜)の金属成分(Co、Pt)の合計に対するCoの含有量が31.04at%でPtの含有量が68.96at%であり、本発明の範囲に含まれない比較例5は、保磁力Hcが1.55kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満であり、また、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.79memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。
【0184】
<(E)CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層の非磁性粒界材をTa2O5にすることの保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例4、20)>
実施例20では、非磁性粒界材をTa2O5にした初期磁性層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製して実験データを取得した。
【0185】
具体的には、 (Co-25Pt)-10vol%Ta2O5スパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.12Pt)-4.32vol%Ta2O5初期磁性層をスパッタリング法で形成した。
【0186】
そして、形成した初期磁性層の上に、厚さ1nmのRu非磁性初期中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性初期中間層の上に、厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜の上に、厚さ1nmのRu非磁性中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmの第2磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成して、面内磁化膜多層構造を形成した。
【0187】
前記のようにして形成した実施例20の面内磁化膜多層構造の上に、カーボンのキャップ層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製した。
【0188】
実施例20における前記の各成膜過程では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温で成膜を行った。
【0189】
作製した実施例20の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)ならびに飽和磁化Ms(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出し、読み取った飽和磁化Ms(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの飽和磁化Mst(memu/cm2)を算出した。
【0190】
実施例20の実験結果を、実施例4の実験結果とともに、次の表5に示す。
【0191】
【0192】
表5から明らかなように、初期磁性層の非磁性粒界材がTa2O5である実施例20においても、保磁力Hcが3.01kOe、単位面積当たりの残留磁化Mrtが3.16memu/cm2と良好な磁気特性が得られた。ただし、初期磁性層の非磁性粒界材がZnOである実施例4の方が、保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtのどちらも、初期磁性層の非磁性粒界材がTa2O5である実施例20よりも、わずかではあるがさらに良好である。
【0193】
<(F)CoPt-非磁性酸化物の面内磁化膜多層構造(初期磁性層:CoPt-ZnO面内磁化膜、磁性層本体部:CoPt-B2O3面内磁化膜)において、面内磁化膜の初期磁性層中の金属成分としてFeを追加添加することの保磁力Hcおよび単位面積当たりの残留磁化Mrtに及ぼす影響についての検討(実施例4、21)>
実施例21では、CoPtFe-ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製して実験データを取得した。
【0194】
具体的には、 (Co-25Pt-1Fe)-10vol%ZnOスパッタリングターゲットを用いて、表面酸化処理シリコン基板上に、つまり、表面粗さRa (算術平均粗さ)が0.1nmと極めて平滑な酸化シリコン層であって下地層となる絶縁層の上に、厚さ15nmの (Co-26.11Pt-0.78Fe)-4.44vol%ZnO初期磁性層をスパッタリング法で形成した。
【0195】
そして、形成した初期磁性層の上に、厚さ1nmのRu非磁性初期中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性初期中間層の上に、厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ15nmの第1磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜の上に、厚さ1nmのRu非磁性中間層をスパッタリング法で形成し、形成した厚さ1nmのRu非磁性中間層の上に、厚さ15nmの第2磁性層本体部である(Co-26.12Pt)-10vol%B2O3面内磁化膜をスパッタリング法で形成して、面内磁化膜多層構造を形成した。
【0196】
前記のようにして形成した実施例21の面内磁化膜多層構造の上に、カーボンのキャップ層をスパッタリング法で形成し、磁気特性測定用のサンプルを作製した。
【0197】
実施例21における前記の各成膜過程では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温で成膜を行った。
【0198】
作製した実施例21の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)ならびに飽和磁化Ms(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜単層構造の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出し、読み取った飽和磁化Ms(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、作製した面内磁化膜多層構造の単位面積当たりの飽和磁化Mst(memu/cm2)を算出した。
【0199】
実施例21の実験結果を、実施例4、20の実験結果とともに、次の表6に示す。
【0200】
【0201】
表6から明らかなように、面内磁化膜の初期磁性層の金属成分がCo、Pt、Feである実施例21の場合も、保磁力Hcが2.98kOeと2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが3.31memu/cm2と2.00memu/cm2以上であり、良好な磁気特性が得られた。