(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034429
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】Pt/WOx-ZrO2系触媒によるエステルの加水素分解反応
(51)【国際特許分類】
B01J 23/652 20060101AFI20240306BHJP
B01J 38/52 20060101ALI20240306BHJP
B01J 38/12 20060101ALI20240306BHJP
B01J 23/96 20060101ALI20240306BHJP
C07C 9/15 20060101ALI20240306BHJP
C07C 1/22 20060101ALI20240306BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
B01J23/652 Z
B01J38/52
B01J38/12 B
B01J23/96 Z
C07C9/15
C07C1/22
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138658
(22)【出願日】2022-08-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 「ERATO野崎樹脂分解触媒プロジェクト」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】金 雄杰
(72)【発明者】
【氏名】袁 康
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA10
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB02
4G169CB35
4G169CB62
4G169DA05
4G169EC22X
4G169GA06
4G169GA10
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC11
4H006BA26
4H006BA55
4H006BB11
4H006BE20
4H039CA19
4H039CB20
(57)【要約】
【解決課題】
常圧で、低温でエステル等の加水素分解反応を行うことができ、カーボンロスが起こらない硫黄フリーな触媒系を提供すること。
【解決手段】
(i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び
(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒であって、
カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元してアルカンを調製する反応に用いられる、該触媒。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び
(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒であって、
カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元してアルカンを調製する反応に用いられる、該触媒。
【請求項2】
前記金属2が、白金、パラジウム又はルテニウムから選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
金属2の含有量が、触媒の全重量に対して、0.1~10重量%である、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記金属1の酸化物が、ZrO2、γ-Al2O3、Nb2O5及びCeO2からなる群から選択される金属酸化物である、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記金属1の酸化物の含有量が、触媒の全重量に対して、50~95重量%である、請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
(i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び
(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒を用いて、
カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元して、アルカンを調製する方法。
【請求項7】
前記金属2が、白金、パラジウム又はルテニウムから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
金属2の含有量が、触媒の全重量に対して、0.1~10重量%である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記金属1の酸化物が、ZrO2、γ-Al2O3、Nb2O5及びCeO2からなる群から選択される金属酸化物である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記金属1の酸化物の含有量が、触媒の全重量に対して、50~95重量%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応基質である前記化合物1mmolに対して、金属2の濃度が、0.1~10mol%である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂類等からアルカンへの加水素分解に使用する触媒、及び当該触媒を使用してアルカンを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能資源である油脂類を加水素分解すると硫黄および窒素フリーな高セタン価軽油相当バイオマス燃料が得られる(非特許文献1)。油脂類は脂肪酸とグリセリンがエステル結合した脂肪酸グリセリド構造を有するため、エステルの加水素分解触媒の開発が油脂類からバイオマス燃料を合成するうえで鍵となる。
【0003】
不均一系触媒を中心にこれまでに様々な加水素分解触媒が開発されている(Scheme 1)(非特許文献2~8)。例えば、石油の水素化脱硫触媒として用いられてきたNiMoS/Al2O3、CoMoS/Al2O3、NiWS/Al2O3などの触媒はエステルの加水素分解反応に活性を示すが、硫黄のリーチングによる触媒安定性の低下および生成物の汚染が問題となる(非特許文献2及び3)。
【0004】
近年、硫黄フリー触媒の開発が盛んにおこなわれ、様々な担持金属触媒が開発されているが、いずれも高温(>250℃)あるいは高圧(>1MPa)条件を必要とし、エステルの脱炭酸あるいは脱カルボニル化による減炭反応が進行し、カーボンロスが起こる(非特許文献4~11)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Li, X. et al. Heterogeneous sulfur-free hydrodeoxygenation catalysts for selectively upgrading the renewable bio-oils to second generation biofuels. Renewable and Sustainable Energy Reviews 82, 3762-3797, doi:https://doi.org/10.1016/j.rser.2017.10.091 (2018).
【非特許文献2】Kumar, R. et al. Hydroprocessing of jatropha oil and its mixtures with gas oil. Green Chemistry 12, 2232-2239, doi:10.1039/C0GC00204F (2010).
【非特許文献3】Coumans, A. E. & Hensen, E. J. M. A model compound (methyl oleate, oleic acid, triolein) study of triglycerides hydrodeoxygenation over alumina-supported NiMo sulfide. Applied Catalysis B: Environmental 201, 290-301, doi:https://doi.org/10.1016/j.apcatb.2016.08.036 (2017).
【非特許文献4】Peng, B., Yao, Y., Zhao, C. & Lercher, J. A. Towards Quantitative Conversion of Microalgae Oil to Diesel-Range Alkanes with Bifunctional Catalysts. Angew. Chem. Int. Ed. 51, 2072-2075, doi:https://doi.org/10.1002/anie.201106243 (2012).
【非特許文献5】Zhou, Y., Liu, X., Yu, P. & Hu, C. Temperature-tuned selectivity to alkanes or alcohol from ethyl palmitate deoxygenation over zirconia-supported cobalt catalyst. Fuel 278, 118295, doi:https://doi.org/10.1016/j.fuel.2020.118295 (2020).
【非特許文献6】Imai, H. et al. Hydroconversion of fatty acid derivative over supported Ni-Mo catalysts under low hydrogen pressure. Catal. Today 303, 185-190, doi:https://doi.org/10.1016/j.cattod.2017.08.023 (2018).
【非特許文献7】Gosselink, R. W., Stellwagen, D. R. & Bitter, J. H. Tungsten-Based Catalysts for Selective Deoxygenation. Angew. Chem., Int. Ed. 52, 5089 (2013).
【非特許文献8】Soni, V. K., Sharma, P. R., Choudhary, G., Pandey, S. & Sharma, R. K. Ni/Co-Natural Clay as Green Catalysts for Microalgae Oil to Diesel-Grade Hydrocarbons Conversion. ACS Sustainable Chem. Eng. 5, 5351-5359, doi:10.1021/acssuschemeng.7b00659 (2017).
【非特許文献9】Han, J. X., Duan, J. Z., Chen, P., Lou, H. & Zheng, X. M. Molybdenum Carbide-Catalyzed Conversion of Renewable Oils into Diesel-like Hydrocarbons. Adv. Synth. Catal. 353, 2577 (2011).
【非特許文献10】Murata, K., Liu, Y., Inaba, M. & Takahara, I. Production of Synthetic Diesel by Hydrotreatment of Jatropha Oils Using Pt-Re/H-ZSM-5 Catalyst. Energy Fuels 24, 2404-2409, doi:10.1021/ef901607t (2010).
【非特許文献11】Kon, K., Toyao, T., Onodera, W., Siddiki, S. M. A. H. & Shimizu, K.-i. Hydrodeoxygenation of Fatty Acids, Triglycerides, and Ketones to Liquid Alkanes by a Pt-MoOx/TiO2 Catalyst. ChemCatChem 9, 2822-2827, doi:https://doi.org/10.1002/cctc.201700219 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、常圧で、150℃未満程度の低温でカルボン酸エステル等の加水素分解反応を行うことができ、カーボンロスが起こらない硫黄フリーな触媒系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、硫酸よりも強い酸性を示す固体超強酸であるWOx-ZrO2担体に着目し、当該担体等の複合金属酸化物と特定の貴金属を用いることにより、常圧で、低温でカルボン酸エステル等の加水素分解反応を行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、
[1](i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び
(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒であって、
カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元してアルカンを調製する反応に用いられる、該触媒。
[2]前記金属2が、白金、パラジウム又はルテニウムから選択される、[1]に記載の触媒。
[3]金属2の含有量が、触媒の全重量に対して、0.1~10重量%である、[2]に記載の触媒。
[4]前記金属1の酸化物が、ZrO2、γ-Al2O3、Nb2O5及びCeO2からなる群から選択される金属酸化物である、[1]に記載の触媒。
[5]前記金属1の酸化物の含有量が、触媒の全重量に対して、50~95重量%である、[4]に記載の触媒。
[6](i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び
(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒を用いて、
カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元して、アルカンを調製する方法。
[7]前記金属2が、白金、パラジウム又はルテニウムから選択される、[6]に記載の方法。
[8]金属2の含有量が、触媒の全重量に対して、0.1~10重量%である、[6]に記載の方法。
[9]前記金属1の酸化物が、ZrO2、γ-Al2O3、Nb2O5及びCeO2からなる群から選択される金属酸化物である、[6]に記載の方法。
[10]前記金属1の酸化物の含有量が、触媒の全重量に対して、50~95重量%である、[9]に記載の方法。
[11]反応基質である前記化合物1mmolに対して、金属2の濃度が、0.1~10mol%である、[6]に記載の方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、常圧で、150℃未満程度の低温で、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコールの加水素分解反応を行うことができ、カーボンロスが起こらない硫黄フリーな触媒系を提供することができる。
また、本発明の触媒を用いることで、常圧、低温の条件下で、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコール等の加水素分解することにより、炭素数が同じアルカンを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来技術と本発明のカルボン酸エステルの加水素分解反応の概略を示すスキーム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明の触媒
本発明の1つの態様は、(i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び、(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒であって、カルボン酸エステル、カルボン酸及び脂肪族エーテルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元してアルカンを調製する反応に用いられる、該触媒である(以下「本発明の触媒」とも言う)。
【0012】
本発明の触媒は、タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び、複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2を含んでなることが重要である。
WO
x-ZrO
2担体は1980年代にHino、Arataらにより開発され、硫酸よりも強い酸性を示す固体超強酸であるが、これまでに、Pt/WO
x-ZrO
2触媒によるアルカンのクラッキング・異性化反応、ポリエチレンのクラッキング反応、NO
x還元反応の加水素分解反応などが報告されているが、カルボン酸エステル類の加水素分解反応に応用した例はない。本発明者らは、Pt/WO
x-ZrO
2触媒を含む本発明の触媒系により、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコール等の炭素-酸素結合を有する化合物に対して、炭素-酸素結合を還元することができ、カーボンロスを生じずにアルカンを生成することができることを見出した。
即ち、従来技術においては、高温(>250℃)あるいは高圧(>1MPa)条件を必要とし、エステルの脱炭酸あるいは脱カルボニル化による減炭反応が進行し、カーボンロスが起こっていたが、本発明においては、常圧、低温の条件下で、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコール等を加水素分解することにより、炭素数が同じアルカンを生成することができる(
図1のスキームを参照)。
【0013】
タングステン酸化物は、WOxで表され、xは、通常、2.5~3.0であり、好ましくは、2.9~3.0であり、より好ましくは、3である。
【0014】
タングステン酸化物の含有量は、触媒の全重量に対して、好ましくは、5~30重量%、より好ましくは、12~24重量%である。タングステン酸化物の含有量がこの範囲にあると、タングステン酸化物をZrO2表面に高担持量で分散担持することができ、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコール等の炭素-酸素結合の低温・常圧還元を有効に行うことが可能となる。
【0015】
金属1の酸化物は、ZrO2、γ-Al2O3、Nb2O5及びCeO2からなる群から選択される金属酸化物である。これら金属酸化物を担体に含有させると、タングステン酸化物を高分散担持でき、また強い酸性を発現するため、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル等の炭素-酸素結合を還元することができると考えられる。
上記金属酸化物の中でも。特に金属1の酸化物は、ZrO2が好ましい。
【0016】
金属1の酸化物の含有量は、触媒の全重量に対して、好ましくは、50~95重量%、より好ましくは、75~87重量%、更に好ましくは、75~81重量%である。金属1の酸化物の含有量がこの範囲にあると、効率的にカルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル等の炭素-酸素結合が活性化され、触媒活性が高い。
【0017】
複合金属酸化物は、金属1の酸化物にメタタングステン酸アンモニウムを含浸担持することにより調製することができる。
【0018】
本発明の触媒は、加水素分解反応の成分として、白金族元素の金属を含んでおり、当該金属は複合金属酸化物に担持されている。
白金族元素のとしては、白金、パラジウム又はルテニウムが好ましく、白金が特に好ましい。これら白金族元素は低温、常圧条件下でも分子状水素を活性化でき、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル等の炭素-酸素結合の還元に必要な活性水素種を提供できる。
【0019】
金属2の含有量が、触媒の全重量に対して、好ましくは、0.1~10重量%、より好ましくは0.25~1重量%、更に好ましくは0.25~0.5重量%である。金属2の含有量がこの範囲にあると、複合酸化物表面にサブナノクラスター或いは単原子状態で担持され、金属2の利用率が高くなり、触媒活性が上がるためである。このように、Pt等の金属2を超微粒子或いは単原子状態で複合金属酸化物の担体に担持することで、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコール等の炭素-酸素結合の低温・常圧還元を有効に行うことができる。
【0020】
複合金属酸化物に金属2を担持するには、通常、金属2の前駆体を複合酸化物に含浸担持することにより行うことができる。
【0021】
本発明の触媒は、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル又は脂肪族アルコールから選択される少なくとも1種以上の化合物の炭素-酸素結合を還元してアルカンを調製する反応に用いることができる。
【0022】
カルボン酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等が挙げられる。
飽和脂肪酸としては、CH3-(CH2)n-COOHで表され、nは、0~50の整数である。
飽和脂肪酸としては、好ましくは、カブリル酸、カブリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸が挙げられる。
不飽和脂肪としては、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸が挙げられ、好ましくはオレイン酸が挙げられる。
これら飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸は、置換基(例えば、アルキル基、アリール基等)を有していてもよい。
【0023】
カルボン酸エステルとしては、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル等が挙げられる。
飽和脂肪酸のエステルとしては、CH3-(CH2)n-COORで表され、nは、0~50の整数であり、Rは、アルキル基(例えば、炭素数1~50のアルキル基)である。
飽和脂肪酸のエステルとしては、好ましくは、脂肪酸メチルエステル、トリグリセリドが挙げられる。
不飽和脂肪酸エステルとしては、例えば、オレイン酸メチル、オレイン酸トリグリセリドが挙げられる。
これら飽和脂肪酸のエステル、不飽和脂肪酸のエステルは、置換基(例えば、アルキル基、アリール基等)を有していてもよい。
【0024】
また、カルボン酸エステルには、グリセリン脂肪酸エステルも含まれる。グリセリン脂肪酸エステルとして、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの何れであってもよい。
グリセリン脂肪酸エステルは以下の式で表すことができる。
[CH3-(CH2)n-COO-]m-X-(OH)3-m
ここで、Xは、グリセリン骨格(CH2-CH-CH2)であり、当該骨格の各炭素に[CH3-(CH2)n-COO-]又は-OHのいずれかが結合する。mは1~3の整数である。nは、0~50の整数である。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、好ましくは、トリステアリン、オレイン酸グリセリドが挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルは、その脂肪酸エステルの部分の任意の炭素に置換基(例えば、アルキル基、アリール基等)を有していてもよい。
【0025】
脂肪族エーテルは、R1-O-R2で表すことができ、R1、R2は、それぞれ独立に、同一又は異なるアルキル基(例えば、炭素数1~50のアルキル基)である。
脂肪族エーテルとしては、好ましくは、直鎖或いは環状ジアルキルエーテルが挙げられる。
【0026】
脂肪族アルコールは、CH3-(CH2)s-OHで表すことができ、sは、通常、1~30である。脂肪族アルコールとしては、好ましくは、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールが挙げられる。
【0027】
本発明の触媒をカルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル又は脂肪族アルコールから選択される化合物の加水素分解反応に用いることができるが、その場合、好適には、原料であるカルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、又は脂肪族アルコールの炭素数と同じアルカンを生成(即ち、カーボンロスがなくアルカンを生成)することができる。
【0028】
本発明の触媒をカルボン酸エステル、カルボン酸又は脂肪族エーテルから選択される化合物の加水素分解反応に用いる場合は、常圧水素を用いて、150℃未満程度(好ましくは、70~130℃)の低温で反応を行うことができる。
【0029】
2.加水素分解反応
本発明のもう1つの態様は、(i)タングステン酸化物と、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ又はセリウムから選択される金属1の酸化物を含む複合金属酸化物、及び、(ii)前記複合金属酸化物に担持された白金族元素から選択される金属2
を含む触媒を用いて、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元して、アルカンを調製する方法である(以下「本発明の調製方法」とも言う)。
【0030】
本発明の調製方法で用いる触媒は、本発明の触媒において詳述した通りである。
【0031】
本発明の調製方法では、タングステン酸化物の含有量は、触媒の全重量に対して、好ましくは、5~30重量%、より好ましくは、12~24重量%である。
【0032】
本発明の調製方法では、好ましくは、金属2が、白金、パラジウム又はルテニウムから選択される。
【0033】
本発明の調製方法では、金属2の含有量が、触媒の全重量に対して、好ましくは、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.25~1重量%、更に好ましくは0.25~0.5重量%である。
【0034】
本発明の調製方法では、好ましくは、金属1の酸化物が、ZrO2、γ-Al2O3、Nb2O5及びCeO2からなる群から選択される金属酸化物であり、より好ましくは、ZrO2である。
【0035】
本発明の調製方法では、金属1の酸化物の含有量は、触媒の全重量に対して、好ましくは、50~95重量%、より好ましくは、75~87重量%、更に好ましくは、75~81重量%である。金属1の酸化物の含有量がこの範囲にあると、効率的にカルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル等の炭素-酸素結合が活性化され、触媒活性が高い。
【0036】
本発明の調製方法では、反応基質である前記化合物1mmolに対して、金属2の濃度は、好ましくは0.1~10mol%、より好ましくは1~5mol%である。
金属2の濃度をこの範囲で反応を行うと、低温、常圧条件下で反応が効率的に進行する。
【0037】
本発明の調製方法では、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の炭素-酸素結合を還元して、アルカンが調製される。炭素-酸素結合には、炭素-酸素の二重結合、及び、炭素-酸素の単結合が含まれる。
本発明の調製方法で使用されるカルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、脂肪族アルコールは、本発明の触媒において詳述した通りである。
本発明の調製方法では、カルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールからなる群から選択される1種類の化合物について還元反応に供することもでき、2種類又はそれ以上の化合物について還元反応に供することもできる。1種類の化合物、2種類以上の化合物を還元反応に供する場合の何れにおいても、原料(反応基質)であるカルボン酸エステル、カルボン酸、脂肪族エーテル、又は脂肪族アルコールの炭素数と同じアルカンを生成(即ち、カーボンロスがなくアルカンを生成)することができる。
【0038】
本発明の調製方法においては、常圧水素を用いて、150℃未満程度(好ましくは、70~130℃)の低温で反応を行うことができる。
【0039】
本発明の調製方法は、通常、溶媒に、本発明の触媒、カルボン酸エステル、カルボン酸又は脂肪族エーテルから選択される化合物を添加して行う。
溶媒としては、例えば、ドデカン、デカンなどのアルカン系溶媒が用いられる。
【実施例0040】
以下本発明を実施例を用いて説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0041】
1.原料及び測定機器
デカン酸メチル、トリステアリン、白金(II)アセチルアセトナートは東京化成工業株式会社から入手した。メタタングステン酸アンモニウム水和物はCombi-Blocks社から入手した。WO3、Pt/Cはフジフイルム和光純薬株式会社から入手した。ZrO2(JRC-ZRO-6)、Nb2O5(JRC-NBO-1)、CeO2(JRC-CEO-2)、Al2O3(JRC-ALO-8)は一般社団法人触媒学会の参照触媒部会から入手した。ガスクロマトグラフ(GC)は水素炎イオン化検出器(FID)を装着したShimadzu GC-2014を用いた。ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)はShimadzu GCMS-QP2010を用いた。
【0042】
2.触媒の調製(1)
[調製例1]
(1)WO
x
-ZrO
2
担体の調製
メタタングステン酸アンモニウム水和物の水溶液((NH4)6H2W12O40・H2O、39.3mM、20ml)にZrO2(10.6g)を添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、ロータリーエバポレーターによって水をゆっくりと除去した。さらに、得られた固体を800℃で6時間焼成して、WOx-ZrO2(11.6g)を得た。
ここで、xは、2.5~3である。調製例2以降についても同様である。
【0043】
(2)Pt/WO
x
-ZrO
2
触媒の調製(Pt:0.25wt%、WO
3
:18wt%)
WOx-ZrO2(10g)を白金(II)アセチルアセトナート(13.0mM、10mL)のアセトン溶液に添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、アセトンをゆっくりと蒸発させた。さらに、得られた固体を300℃で3時間焼成してPt/WOx-ZrO2_0.25を得た(9.5g、Pt含有量:0.012mmolg-1、0.24重量%)。
【0044】
[調製例2~3]
表1に示すように、白金(II)アセチルアセトナートの比率を変えて、調製例1と同様にして、Pt/WOx-ZrO2触媒を調製した。
【0045】
[調製例4~9]
Pt/WO
3
の調製(Pt:1.0wt%)
WO3(1.0g)を白金(II)アセチルアセトナート(17.1mM、3mL)のアセトン溶液に添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、アセトンをゆっくりと蒸発させた。さらに、得られた固体を300℃で3時間焼成してPt/WO3_1を得た(0.9g、Pt含有量:0.048mmolg-1、0.95重量%)。担体をWO3からZrO2、Nb2O5、Al2O3、CeO2に変えることにより、同様の方法を用いてPt/ZrO2_1、Pt/Nb2O5_1、Pt/Al2O3_1、Pt/CeO2_1をそれぞれ調製した。
【0046】
[反応実験1]
調製例1~9で得た触媒等を用いて、以下のスキーム2で示すデカン酸メチル(1)の加水素分解反応を以下の手順で行った。
【0047】
【0048】
Pt/WOx-ZrO2_0.25(620mg、Pt:1.5mol%)、ドデカン(2.0mL)、デカン酸メチル(1)(0.5mmol)及びテフロン被覆磁気撹拌棒を、シュレンクチューブ(体積:約20mL)に順次添加した。反応混合物を凍結脱気法により2回脱気し、シュレンクチューブをH2(1気圧)で満たした風船に接続した。反応混合物を130℃で24時間激しく攪拌した。反応終了後、内部標準物質(ヘキサデカン)を反応混合物に添加し、基質の転化率と生成物の収率を反応混合物のガスクロマトグラフィー分析により測定した。
結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
a:反応条件:1(0.50mmol)、触媒(Pt:1.5mol%)、ドデカン(2.0mL)、130℃、H
2=1atm、24時間、添加率及び収率はGC分析で測定した。n.d.=検出されなかった
b:Pt/担体_y、yは触媒中のPtの重量%である。
c:Pt/C(Pt:1.5mol%)、WO
x-ZrO
2(620mg)
d:WO
x-ZrO
2(620mg)
e:WO
x-ZrO
2(620mg)N
2=1atm、WO
3の重量%は18%.
【0050】
表1から、調製例1~3で得たPt/WOx-ZrO2触媒を用いて、デカン酸メチルの加水素分解反応を130℃、水素1気圧で行うと、デカンのみが高い収率で得られ、ノナンは生成しなかった。したがって、本触媒系は従来系に比べ、極めて温和な条件下でエステルの加水素分解反応を触媒し、減炭反応によるカーボンロスがなく、高い選択性を実現した。
【0051】
3.触媒の調製(2)
[調製例10~14]
表2に示すように、メタタングステン酸アンモニウム水和物、白金(II)アセチルアセトナートの比率を変えて、調製例1と同様にして、Pt/WOx-ZrO2触媒を調製した。
【0052】
[調製例15~17]
調製例1に従って、担体をZrO2からAl2O3、Nb2O5、CeO2に変えることで、 Pt/WO3(18wt%)/γ-Al2O3_1、Pt/WO3(18wt%)/Nb2O5_1、Pt/WO3(18wt%)/CeO2_1をそれぞれ調製した。
【0053】
[調製例18]
Pt/MoO3(11wt%)/ZrO2_0.25の調製
(1)MoO
3
/ZrO
2
担体の調製
モリブデン酸アンモニウム四水和物の水溶液((NH4)6Mo7O24・4H2O、31.5mM、20ml)にZrO2(5.4g)を添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、ロータリーエバポレーターによって水をゆっくりと除去した。さらに、得られた固体を800℃で6時間焼成して、MoO3/ZrO2(4.8g)を得た。
【0054】
(2)Pt/MoO
3
/ZrO
2
触媒の調製(Pt:0.25wt%、MoO
3
:11wt%)
MoO3/ZrO2(3.0g)を白金(II)アセチルアセトナート(3.9mM、10mL)のアセトン溶液に添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、アセトンをゆっくりと蒸発させた。さらに、得られた固体を300℃で3時間焼成してPt/MoO3/ZrO2_0.25を得た(2.9g、Pt含有量:0.012mmolg-1、0.24重量%)。
【0055】
[調製例19]
Pt/V2O5(7wt%)/ZrO2_0.25の調製
(1)V
2
O
5
/ZrO
2
担体の調製
バナジルアセチルアセトナート(VO(acac)2、22.0mM、200ml)にZrO2(5.6g)を添加した。次に、混合物を室温で4時間激しく攪拌し、ロータリーエバポレーターによって水をゆっくりと除去した。さらに、得られた固体を800℃で6時間焼成して、V2O5/ZrO2(5.1g)を得た。
【0056】
(2)Pt/V
2
O
5
/ZrO
2
触媒の調製(Pt:0.25wt%、V
2
O
5
:7wt%)
V2O5/ZrO2(3.0g)を白金(II)アセチルアセトナート(3.9mM、10mL)のアセトン溶液に添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、アセトンをゆっくりと蒸発させた。さらに、得られた固体を300℃で3時間焼成してPt/V2O5/ZrO2_0.25を得た(3.0g、Pt含有量:0.012mmolg-1、0.24重量%)。
【0057】
[調製例20~23]
M/WOx(18wt%)-ZrO2の調製(M=Pd、Ru、Ir、Rh)
WOx-ZrO2(2.0g)を金属アセチルアセトナート(2.6mM、10mL)のアセトン溶液に添加した。次に、混合物を室温で3時間激しく攪拌し、アセトンをゆっくりと蒸発させた。さらに、得られた固体を300℃で3時間焼成してM/WOx(18wt%)-ZrO2を得た(M含有量:0.012mmolg-1)。金属アセチルアセトナートはそれぞれPd(acac)2、Ru(acac)3、Ir(acac)3、Rh(acac)3を用いた。
【0058】
[反応実験2]
調製例10~23で得た触媒等を用いて、以下のスキーム3で示すデカン酸メチル(1)の加水素分解反応を反応実験1と同様の手順で行った。
結果を表2に示す。表2中の試験番号13~20は、実施例4~11となる。また、試験番号23~24は、実施例12~13となる。
【0059】
【0060】
【表2】
a:反応条件:1(0.50mmol)、触媒(Pt、Pd、Ru、Ir又はRh:1.5mol%)、ドデカン(2.0mL)、130℃、H
2=1atm、24時間、添加率及び収率はGC分析で測定した。n.d.=検出されなかった
b:M/担体_y、yは触媒中の金属の重量%である。
c:Mo/Pt=57
d:V/Pt=57
【0061】
表2から担体の金属酸化物成分として、二酸化ジルコニウムに代えてアルミナ(γ-Al2O3)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化セシウム(CeO2)を用いることによっても、デカン酸メチルを加水素分解してデカンを生成できることが示される。また、白金族元素として、パラジウム、ルテニウムを用いることによってもデカン酸メチルを加水素分解してデカンを生成できることが示される。
【0062】
[反応実験3(実施例14)]
調製例1で得た触媒を用いて、以下の式で示す加水素分解反応を以下の手順で行った。
【0063】
(スキーム4)
Pt/WO
x-ZrO
2触媒によるステアリン酸トリグリセリドの加水素分解反応
【0064】
Pt/WOx-ZrO2_0.25(620mg、Pt:2.5mol%)、デカン(2.0mL)、ステアリン酸トリグリセリド(0.30mmol)及びテフロン被覆磁気撹拌棒を、シュレンクチューブ(体積:約20mL)に順次添加した。反応混合物を凍結脱気法により2回脱気し、シュレンクチューブをH2(1気圧)で満たした風船に接続した。反応混合物を130℃で48時間激しく攪拌した。反応終了後、内部標準物質(ヘキサデカン)を反応混合物に添加し、生成物の収率を反応混合物のガスクロマトグラフィー分析により測定した。
【0065】
Pt/WOx-ZrO2を用いると、ステアリン酸トリグリセリドの加水素分解反応も効率よく進行し、オクタデカンが収率96%で得られた(スキーム4)。なお、この場合は減炭反応によるヘプタデカンがわずかであるが副生する(スキーム4)。
【0066】
[反応実験4(実施例15)]
調製例1で得た触媒を用いて、以下の式で示す加水素分解反応を以下の手順で行った。
【0067】
【0068】
Pt/WOx-ZrO2_0.25(620mg、Pt:1.5mol%)、ドデカン(2.0mL)、デシルメチルエーテル(0.50mmol)及びテフロン被覆磁気撹拌棒を、シュレンクチューブ(体積:約20mL)に順次添加した。反応混合物を凍結脱気法により2回脱気し、シュレンクチューブをH2(1気圧)で満たした風船に接続した。反応混合物を130℃で16時間激しく攪拌した。反応終了後、内部標準物質(ヘキサデカン)を反応混合物に添加し、生成物の収率を反応混合物のガスクロマトグラフィー分析により測定した。
【0069】
Pt/WOx-ZrO2_0.25を用いると、デシルメチルエーテルの加水素分解反応が効率よく進行し、収率100%で加水素分解生成物であるデカンが得られた。
【0070】
[反応実験5(実施例16)]
調製例1で得た触媒を用いて、以下の式で示す加水素分解反応を以下の手順で行った。
【0071】
【0072】
Pt/WOx-ZrO2_0.25(620mg、Pt:1.5mol%)、ドデカン(2.0mL)、デカノール(0.50mmol)及びテフロン被覆磁気撹拌棒を、シュレンクチューブ(体積:約20mL)に順次添加した。反応混合物を凍結脱気法により2回脱気し、シュレンクチューブをH2(1気圧)で満たした風船に接続した。反応混合物を130℃で16時間激しく攪拌した。反応終了後、内部標準物質(ヘキサデカン)を反応混合物に添加し、生成物の収率を反応混合物のガスクロマトグラフィー分析により測定した。
【0073】
Pt/WOx-ZrO2_0.25を用いると、デカノールの加水素分解反応が効率よく進行し、収率100%で加水素分解生成物であるデカンが得られた。
【0074】
[反応実験6(実施例17)]
調製例1で得た触媒を用いて、以下の式で示す加水素分解反応を以下の手順で行った。
【0075】
【0076】
Pt/WOx-ZrO2_0.25(620mg、Pt:1.5mol%)、ドデカン(2.0mL)、ウンデカン酸(0.50mmol)及びテフロン被覆磁気撹拌棒を、シュレンクチューブ(体積:約20mL)に順次添加した。反応混合物を凍結脱気法により2回脱気し、シュレンクチューブをH2(1気圧)で満たした風船に接続した。反応混合物を130℃で16時間激しく攪拌した。反応終了後、内部標準物質(ヘキサデカン)を反応混合物に添加し、生成物の収率を反応混合物のガスクロマトグラフィー分析により測定した。
【0077】
Pt/WOx-ZrO2_0.25を用いると、ウンデカン酸の加水素分解反応が効率よく進行し、収率98%で加水素分解生成物であるウンデカンが得られた。
【0078】
[実施例18]
触媒の再使用の試験
エステルの加水素分解反応で使用した触媒は下記の手順により再生を行った。[反応実験1]の手順に従って、デカン酸メチルの加水素分解反応を行った後、触媒をろ過により回収し、アセトン(30mL)及びエタノール(30mL)で3回洗浄した。最後にヘキサン(30mL)を用いて1回洗浄を行い、室温で乾燥した。乾燥した触媒を更に空気中、300℃で3時間焼成した。再生した触媒を用いて、[反応実験1]の手順に従って、デカン酸メチルの加水素分解反応を行った。これを5回繰り返した。
試験結果を
図2に示す。
図2において、転化率(Conv)と、生成物1a、1b、1c(スキーム2参照)の収率を示す。
【0079】
実施例18の方法で触媒の再生を行うと、5回目の再使用実験において、加水素分解生成物であるデカンの収率は91%であった。よって、Pt/WOx-ZrO2_0.25は活性の著しい低下なく、少なくとも5回の再使用が可能であった。