(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034812
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240306BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240306BHJP
C09K 23/12 20220101ALI20240306BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D71/56
C09K23/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139315
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006KA03
4D006KD30
4D006KE12R
4D006KE14R
4D006MA01
4D006MA03
4D006MC18
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB08
(57)【要約】
【課題】タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制する水処理方法を提供する。
【解決手段】本開示のタンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理して、透過水と濃縮水とに分離する、選択性透過膜処理工程と、を含み、前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むスチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満であり、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L以下となるように処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理して、透過水と濃縮水とに分離する、選択性透過膜処理工程と、
を含み、
前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むスチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、
前記被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満であり、
前記濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L以下となるように処理する、水処理方法。
【請求項2】
タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理して、透過水と濃縮水とに分離する、選択性透過膜処理工程と、
を含み、
前記分散剤が、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含有し、
前記被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満であり、
前記濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L以下となるように処理する、水処理方法。
【請求項3】
前記スチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量が1000超である、請求項1記載の水処理方法。
【請求項4】
前記スチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量が8000未満である、請求項1記載の水処理方法。
【請求項5】
前記スチレンスルホン酸系ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩である、請求項1記載の水処理方法。
【請求項6】
前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物で
ある、請求項2記載の水処理方法。
【請求項7】
前記選択性透過膜が逆浸透膜である、請求項1または2記載の水処理方法。
【請求項8】
前記逆浸透膜がポリアミド膜である、請求項7に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に水の供給が不足している。この水供給の不足に対して、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、逆浸透(RO)膜などの選択性透過膜システムを用いた海水、かん水の淡水化や排水回収が行われている。
【0003】
水処理用選択性透過膜として、低圧運転が可能で、脱塩性能に優れる芳香族ポリアミド系逆浸透膜が広く使われている。しかし、芳香族ポリアミド系逆浸透膜は、塩素に対する耐性が低い。そのため、酢酸セルロース系逆浸透膜のように、運転条件下で塩素と接触させることができないので、芳香族ポリアミド系逆浸透膜は、タンパク質やペプチドによる有機物汚染が酢酸セルロース系逆浸透膜と比較して起こりやすい。膜が有機物で汚染されると透過流束、差圧、阻止率などの性能が低下するという問題がある。
【0004】
特許文献1には、有機物を含んだ水を逆浸透膜で処理する際の透過流束の低下を抑制する薬剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物及びリン化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示された芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物及びリン化合物を併用した場合、有機物の汚染を抑制できない場合があった。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされた発明であり、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制する水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度を所定の濃度以下にし、被処理水のリン化合物の含有量を所定の濃度より低くし、かつ、所定のポリマーを被処理水に添加することで、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染抑制に有効であることを見出した。
本発明は上記の知見に基づいて達成されたものであり、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の水処理方法は、
タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理して、透過水と濃縮水とに分離する、選択性透過膜処理工程と、
を含み、
前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むスチレンスルホン酸系ポリマーを含有し、
前記被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満であり、
前記濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L以下となるように処理する。
(2)本発明の態様2の水処理方法は、
タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理して、透過水と濃縮水とに分離する、選択性透過膜処理工程と、
を含み、
前記分散剤が、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含有し、
前記被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満であり、
前記濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L以下となるように処理する。
(3)本発明の態様3は、態様1の水処理方法において、
前記スチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量が1000超であってもよい。
(4)本発明の態様4は、態様1または3の水処理方法において、
前記スチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量が8000未満であってもよい。
(5)本発明の態様5は、態様1、3、および4のいずれか1つの水処理方法において
前記スチレンスルホン酸系ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩であってもよい。
(6)本発明の態様6は、態様2の水処理方法において、前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物が、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物であってもよい。
(7)本発明の態様7は、態様1~6のいずれか1つの水処理方法において、
前記選択性透過膜が逆浸透膜であってもよい。
(8)本発明の態様8は、態様1~7のいずれか1つの水処理方法において、前記逆浸透膜がポリアミド膜であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記態様によれば、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制する水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る水処理方法のフローチャートである。
【
図3】
図2の試験装置の密閉容器の構造を示す断面図である。
【
図4】実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-4、比較例1-1、および比較例1-2の透過流束の経時変化を示す図である。
【
図5】実施例1-1と比較例1-1、比較例1-3、および比較例1-4の透過流束の経時変化を示す図である。
【
図6】実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3、比較例1-1、比較例2-1、および比較例2-2の透過流束の経時変化を示す図である。
【
図7】実施例2-1、比較例1-1、比較例2-3、および比較例2-4の透過流束の経時変化を示す図である。
【
図8】実施例3-1、比較例1-1、および比較例3-1の透過流束の経時変化を示す図である。
【
図9】実施例4-1、実施例4-2、実施例4-3、比較例1-1、および比較例4-1の透過流束の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の分散剤および水処理方法について説明する。
図1は、本開示の水処理方法のフローチャートである。
本開示の水処理方法は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、本開示の分散剤を添加する分散剤添加工程S1と、分散剤添加工程S1後に、選択性透過膜で前記被処理水を処理して、透過水と濃縮水とに分離する、選択性透過膜処理工程S2と、を含む。以下、各要素について説明する。ここで、透過水は、選択性透過膜を透過した水をいう。濃縮水は、選択性透過膜を透過しないで、溶質などが濃縮された水をいう。
【0012】
<分散剤添加工程S1>
分散剤添加工程S1では、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に分散剤を添加する。
【0013】
(分散剤)
本開示の水処理方法に用いられる分散剤は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水を選択性透過膜で処理する前に、被処理水に添加される分散剤である。本開示の水処理方法に用いられる分散剤は、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むポリマー(以下、スチレンスルホン酸系ポリマーと称する場合がある)または、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含有する。
【0014】
(スチレンスルホン酸系ポリマー)
まず、スチレンスルホン酸系ポリマーについて説明する。スチレンスルホン酸系ポリマーは、例えば、下記式(1)を構成単位として含むポリマーである。
【化1】
(式(1)中、M
+はプロトン、アンモニウムイオン、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンを示す。)
【0015】
選択性透過膜の多くは負の荷電を有し、タンパク質やペプチドの正の荷電の部位が膜に吸着すると想定される。スチレンスルホン酸系ポリマーは負の荷電を有するポリマーであり、タンパク質やペプチドに吸着分散することで、選択性透過膜への吸着を抑制することができる。スチレンスルホン酸系ポリマーは、モノマーとして(ポリマーの構成単位として)、スチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むので、タンパク質やペプチドに対し高い分散効果を有する。
【0016】
スチレンスルホン酸系ポリマーは、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むポリマーであれば、特に限定されない。即ち、スチレンスルホン酸系ポリマーは、スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩に由来する繰り返し単位を有するポリマーである。スチレンスルホン酸系ポリマーは、スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩のホモポリマーであってもよく、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩とその他のモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0017】
スチレンスルホン酸塩としては、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スチレンスルホン酸カリウム塩等のスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩や、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0018】
スチレンスルホン酸系ポリマーが、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩と他のモノマーとのコポリマーである場合、他のモノマーとしては、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩と共重合が可能であり、タンパク質またはペプチドの分散効果を阻害しないものであれば、特に限定されない。他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、酢酸ビニル等が挙げられる。スチレンスルホン酸系ポリマーの重合に用いられる他のモノマーは1種又は2種以上であってもよい。
【0019】
タンパク質またはペプチドの分散には、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩に由来する繰り返し単位の含有量が多いことが好ましい。スチレンスルホン酸系ポリマーがスチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩と他のモノマーとのコポリマーである場合、スチレンスルホン酸系ポリマー中のスチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩に由来する繰り返し単位の含有量は50モル%以上が好ましい。さらに好ましくは、80モル%以上である。スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩のホモポリマーであることが好ましい。なお、ここで、スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩のホモポリマーには、ポリスチレンスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸塩だけでなく、スチレンスルホン酸とスチレンスルホン酸塩のコポリマーを含むものとする。
【0020】
スチレンスルホン酸系ポリマーがホモポリマーの場合、スチレンスルホン酸系ポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸カルシウム塩、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩などが挙げられる。特にスチレンスルホン酸系ポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。また、スチレンスルホン酸系ポリマーは、1種または2種以上併用してもよい。
【0021】
本開示の分散剤に含まれるスチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量は1000超である。より好ましいポリマーの重量平均分子量は、2000以上である。さらに好ましいポリマーの重量平均分子量は、3000以上である。特に好ましいポリマーの重量平均分子量は4000以上である。ポリマーがモノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含み、かつ、重量平均分子量が1000超であれば、荷電反発によって、タンパク質またはペプチドを被処理水中で分散させやすくなり、透過流束の低下を抑制することができる。
【0022】
本開示の分散剤に含まれるスチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量は8000未満であることが好ましい。より好ましいポリマーの重量平均分子量は、7000以下である。さらに好ましいポリマーの重量平均分子量は、6000以下である。ポリマーの重量平均分子量が8000未満であれば、タンパク質またはペプチドに対して、凝集する効果を低減できる。その結果、タンパク質またはペプチドをより被処理水中で分散させやすくなり、透過流束の低下を抑制することができる。なお、本開示において、スチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定することができる。
【0023】
(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物)
本開示の分散剤に含まれる芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、分子中に芳香環を有するスルホン化物をホルマリン縮合して得られる化合物である。
【0024】
上述の通り、選択性透過膜の多くは負の荷電を有し、タンパク質やペプチドの正の荷電の部位が膜に吸着すると想定される。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は負の荷電を有するポリマーであり、タンパク質やペプチドに吸着分散することで、選択性透過膜への吸着を抑制することができる。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、分子中にスルホン化物を含むので、タンパク質やペプチドに対し高い分散効果を有する。
【0025】
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の「芳香族スルホン酸」としては、特に限定されず、例えば、アリール骨格を有するスルホン酸等が挙げられる。アリール骨格としてはナフタレン骨格が好ましい。
また、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の塩は、特に限定されず、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アルカノールアミン塩(例えば、モノエタノールアミン塩(モノエタノールアンモニウム)、ジエタノールアミン塩(ジエタノールアンモニウム)、トリエタノールアミン塩(トリエタノールアンモニウム)等)、アンモニウム塩等が挙げられる。このうち、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の塩は、アルカリ金属塩が好ましい。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の塩は、より好ましくはナトリウム塩である。
【0026】
本開示の芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物として、例えば、フェニルスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、トリルフェニルスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフチルフェニルスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、特殊芳香族スルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、これらの1種又は2種以上であってもよい。
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、スチレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の少なくとも一方が好ましい。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、より好ましくは、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物である。
【0027】
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、好適には、常温水又は温水に十分な溶解性
を示す水溶性が好ましい。本開示の芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の形態は、特に限定されず、液状、固体状、半固体状の何れでもよい。取り扱い易さから、液状が好ましい。
【0028】
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましくは芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は100000以下が好ましい。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は、より好ましくは50000以下である。さらに好ましくは、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は、10000以下である。特に好ましくは、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は、5000以下である。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は1000以上が好ましい。より好ましくは芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は2000以上である。なお、本開示において、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定することができる。
【0029】
本開示の水処理方法に用いられる分散剤は、用途に応じて、スチレンスルホン酸系ポリマー、スルホン酸ホルマリン縮合物以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、キレート剤、pH調整剤などがある。
【0030】
(被処理水)
被処理水は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する。タンパク質およびペプチドは、選択性透過膜を汚染するものであれば、特に限定されない。例えば、ロイペプチン、リゾチーム、ポリリジン、ラクトアルブミンなどが挙げられる。被処理水は、タンパク質のみを含有していてもよいし、ペプチドのみを含有していてもよい。
【0031】
被処理水のpHは5~8の範囲に調整することが好ましい。pHがこの範囲であれば、スチレンスルホン酸系ポリマーおよび芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のタンパク質およびペプチドに対する分散効果がより向上する。pH調整剤を被処理水に添加することでpHを調整してもよい。
【0032】
被処理水のリン化合物の含有量は、5.0mg/L未満である。より好ましくは、リン化合物の含有量は1.0mg/L以下である。リン化合物は、少なくともP(=O)(-OH)を有するリンオキソ酸化合物である。リン化合物としては、ポリリン酸塩、ホスホン酸基、ホスフィン酸基を有する化合物これらの化合物以外の正リン酸塩等の他のリン化合物、及
びこれらの塩等が挙げられる。リン化合物が被処理水中に含有されるタンパク質などに吸着しても、タンパク質などを分散しにくい。被処理水中のリン化合物の含有量が5.0mg/L以上だと、分散効果が低いリン化合物がタンパク質などに吸着するため、スチレンスルホン酸系ポリマー、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のタンパク質に対する分散効果が低減する。リン化合物は含まなくてもよいので、被処理水のリン化合物の含有量の下限は、0mg/Lである。例えば、リン酸およびホスホン酸系スケール防止剤の添加量を抑制することで、被処理水のリン化合物の含有量を5.0mg/L未満にすることができる。
【0033】
(スチレンスルホン酸系ポリマーの添加量)
被処理水へのスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、被処理水に対して、0.01mg/L以上であることが好ましい。より好ましいスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、0.1mg/L以上である。さらに好ましいスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は1mg/L以上である。特に好ましいスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、5mg/L以上である。スチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、100mg/L以下が好ましい。より好ましいスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、50mg/L以下である。さらに好ましいスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、30mg/L以下である。特に好ましいスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は10mg/L以下である。
【0034】
(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量)
被処理水への芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は、被処理水に対して、0.01mg/L以上であることが好ましい。より好ましい芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は、0.1mg/L以上である。さらに好ましい芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は1mg/L以上である。特に好ましい芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は、5mg/L以上である。芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は、100mg/L以下が好ましい。より好ましい芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は、50mg/L以下である。さらに好ましい芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は、30mg/L以下である。特に好ましい芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の添加量は10mg/L以下である。
【0035】
スチレンスルホン酸系ポリマーまたは芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を被処理水に添加するタイミングは、タンパク質およびペプチドの分散効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。連続的に添加してもよいし、断続的に添加してもよい。ここで、被処理水の処理開始から処理終了までの処理中に行うことを「連続的」といい、又は処理期間中に2回以上の間隔を開けて行うことを「断続的」という。
【0036】
<選択性透過膜処理工程S2>
選択性透過膜処理工程S2において、分散剤添加工程S1後に、被処理水を選択性透過膜で処理する。
【0037】
(選択性透過膜)
選択性透過膜は、特に限定されない。選択性透過膜は、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜である。特に選択性透過膜としては逆浸透膜が好ましい。
【0038】
逆浸透膜は、特に限定されない。逆浸透膜は、例えば、スパイラル状、中空糸状、平膜状等の形状で、スキン層が酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリイミド等の樹脂製のものを用いるものが挙げられる。逆浸透膜は、特に芳香族ポリアミドを用いたポリアミド膜が好ましい。
【0039】
(スチレンスルホン酸系ポリマーの処理条件)
分散剤がスチレンスルホン酸系ポリマーを含有する場合、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L以下となるように選択性透過膜を用いて処理する。分散剤がスチレンスルホン酸系ポリマーを含有する場合、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L超の場合、2価のカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンがスチレンスルホン酸系ポリマーに吸着してしまい、タンパク質などへの分散効果が低減する。濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、10mg/L以下であることが好ましい。濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L以下であることがさらに好ましい。濃縮水中のカルシウム濃度が25mg/L以下であってもよい。濃縮水中のカルシウム濃度が10mg/L以下であってもよい。濃縮水中のカルシウム濃度が5mg/L以下であってもよい。カルシウムおよびマグネシウムは含まれていなくてもよいので、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の下限はそれぞれ0%である。濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の下限はそれぞれ0.01%であってもよい。
【0040】
分散剤がスチレンスルホン酸系ポリマーを含有する場合、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L以下とする方法は特に限定されない。例えば、被処理水を濃縮した後のカルシウムおよびマグネシウムの合計濃度が、25mg/L以下となるように被処理水の供給量を制御することで行ってもよい。
【0041】
(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の処理条件)
分散剤が芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含有する場合、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L以下となるように選択性透過膜を用いて処理する。分散剤が芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含有する場合、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L超の場合、2価のカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンが芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物に吸着してしまい、タンパク質などへの分散効果が低減する。濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、1mg/L以下であることが好ましい。濃縮水中のカルシウム濃度が5mg/L以下であってもよい。濃縮水中のカルシウム濃度が1mg/L以下であってもよい。カルシウムおよびマグネシウムは含まれていなくてもよいので、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の下限はそれぞれ0%である。濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の下限はそれぞれ0.01%であってもよい。
【0042】
分散剤が芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含有する場合、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L以下とする方法は特に限定されない。例えば、被処理水を濃縮した後のカルシウムおよびマグネシウムの合計濃度が、5mg/L以下となるように被処理水の供給量を制御することで行ってもよい。
【0043】
濃縮水中のカルシウム濃度は、JIS K 0102:2019 50.2のカルシウムのフレーム原子吸光法に準拠して測定することができる。濃縮水中のマグネシウム濃度は、JIS K 0102:2019 51.2 マグネシウムのフレーム原子吸光法に準拠して測定することができる。
【0044】
選択性透過膜処理工程S2において、被処理水を処理する他の条件は、処理系に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
以上、本開示の分散剤および水処理方法について詳説した。その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、本開示の水処理方法における要素を周知の要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記の要素を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0046】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0047】
図2および
図3に示す試験装置100を用いて、本開示の水処理方法によるタンパク質およびペプチドに対する分散効果を調べた。
図2は、試験装置100の構成を示す模式図である。
図3は、
図2の試験装置の密閉容器の構造を示す断面図である。
【0048】
試験装置100は、被処理水が通る配管11および配管13と、配管11および配管13と接続されるポンプ12と、配管13に設置される圧力計14と、配管13、配管16および配管17と接続される密閉容器1と、密閉容器1中の攪拌子5を回転させるスターラー15と、透過水が通る配管16と、濃縮水が通る配管17および19と、配管17および配管19と接続されるバルブ18とを備える。
【0049】
密閉容器1は、多孔質支持板2と、逆浸透膜3と、Oリング4と、攪拌子5と、上部ケース6と、下部ケース7と、を備える。また、密閉容器1は、多孔質支持板2および逆浸透膜3で分けられた上部ケース6側の空間である室8と、下部ケース7側の空間である室9とを備える。
【0050】
試験装置100において、被処理水は、配管11を通ってポンプ12に送られ、配管13よりポンプ12で、密閉容器1の室9に供給される。室9では、スターラー15によって、攪拌子5が回転し、被処理水が攪拌される。逆浸透膜2を透過した透過水は、室8を経て配管16より取り出される。濃縮水は、配管17から取り出される。密閉容器1内の圧力は、圧力計14とバルブ18により調整される。
【0051】
供試膜としては、日東電工社製 芳香族ポリアミド系逆浸透膜「ES20」を円形に切り取って用い、これを上記の試験装置100にセットした。透過流束1.0[m/d]、回収率80%で純水を通水して、運転圧力P0[MPa]を測定した。その後、後述する実施例、比較例の被処理水を通水した。2、5、24、48、72、96時間後の透過流束を測定し、1.0[m/d]を維持できるように圧力を調整した。調整後の圧力をP1[MPa]とすると、相対透過流束J1[m3/(m2・d)]は以下の式(A)で求めた。なお、通水実験は25℃、pH7で行った。なお、各実施例および比較例の各濃縮水中のカルシウム濃度は被処理水中のカルシウム濃度を調整することで行った。
相対透過流束J1[-]=P0/P1・・・(A)
【0052】
(実施例1-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0053】
(実施例1-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は0.5mg/Lであった。
【0054】
(実施例1-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は5mg/Lであった。
【0055】
(実施例1-4)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は25mg/Lであった。
【0056】
(実施例2-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0057】
(実施例2-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は0.5mg/Lであった。
【0058】
(実施例2-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は5mg/Lであった。
【0059】
(実施例3-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールN、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0060】
(実施例4-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(ラベリン LT-P、第1工業製薬)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0061】
(実施例4-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(ラベリン LT-P、第1工業製薬)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。また、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)(Belclene640、BWA Water Additives)を被処理水に1mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0062】
(実施例4-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(ラベリン LT-P、第1工業製薬)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。また、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体(AA/AMPS)(アキュゾール587、ダウ・ケミカル)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0063】
(比較例1-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤は添加しなかった。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0064】
(比較例1-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は50mg/Lであった。
【0065】
(比較例1-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量を5mg/Lとした。また、ヘキサメタリン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0066】
(比較例1-4)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量を5mg/Lとした。また、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)(Belclene640、BWA Water Additives)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0067】
(比較例2-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は25mg/Lであった。
【0068】
(比較例2-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。濃縮水のカルシウム濃度は50mg/Lであった。
【0069】
(比較例2-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。また、ヘキサメタリン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0070】
(比較例2-4)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールSS-L、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。また、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)(Belclene640、BWA Water Additives)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0071】
(比較例3-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールN、花王)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。また、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)(Belclene640、BWA Water Additives)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0072】
(実施例4-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(ラベリン LT-P、第1工業製薬)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。また、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)(Belclene640、BWA Water Additives)を被処理水に5mg/L添加した。濃縮水のカルシウム濃度は0mg/Lであった。
【0073】
図4は、実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-4、比較例1-1、および比較例1-2の透過流束の経時変化を示す図である。
図4の縦軸は相対透過流束を示し、
図4の横軸は、経過時間(h)を示す。
図4に示す通り、分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いた場合、濃縮水のカルシウム濃度が25mg/Lまでは、96時間経過しても相対透過流束を0.75以上に保っていた。一方、分散剤を添加しない比較例1-1および濃縮水のカルシウム濃度が25mg/L超の比較例1-2は、96時間経過した後、相対透過流束は0.70以下となっていた。以上より、分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用い、カルシウム濃度が25mg/L以下の場合、リゾチームに対して優れた分散効果があることが分かった。
【0074】
図5は、実施例1-1と比較例1-1、比較例1-3、および比較例1-4の透過流束の経時変化を示す図である。
図5の縦軸は相対透過流束を示し、
図5の横軸は、経過時間(h)を示す。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いた実施例1-1は、96時間経過しても相対透過流束を1.00以上に保っていた。一方、被処理水中のリン化合物の濃度が5mg/L以上である比較例1-3および比較例1-4は、実施例1-1よりも相対透過流束が低下した。以上より、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩の分散効果をリン化合物が低下させることが確認された。
【0075】
図6は、実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3、比較例1-1、比較例2-1、および比較例2-2の透過流束の経時変化を示す図である。
図6の縦軸は相対透過流束を示し、
図6の横軸は、経過時間(h)を示す。
図6に示す通り、分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を用いた場合、濃縮水のカルシウム濃度が5mg/Lまでは、96時間経過しても相対透過流束を0.80以上に保っていた。一方、分散剤を添加しない比較例1-1および濃縮水のカルシウム濃度が25mg/L以上の比較例2-1および2-2は、96時間経過した後、相対透過流束は0.70以下となっていた。特に濃縮水のカルシウム濃度が25mg/L以上の比較例2-1および2-2は相対透過流束が大きく低下した。以上より、分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を用い、カルシウム濃度が5mg/L以下の場合、リゾチームに対して優れた分散効果があることが分かった。
【0076】
図7は、実施例2-1、比較例1-1、比較例2-3、および比較例2-4の透過流束の経時変化を示す図である。
図7の縦軸は相対透過流束を示し、
図7の横軸は、経過時間(h)を示す。分散剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を用いた実施例2-1は、96時間経過しても相対透過流束を0.98以上に保っていた。一方、被処理水中のリン化合物の濃度が5mg/L以上である比較例2-3および比較例2-4は、実施例2-1の場合よりも相対透過流束が低下した。以上より、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩の分散効果をリン化合物が低下させることが確認された。
【0077】
図8は、実施例3-1、比較例1-1、および比較例3-1の透過流束の経時変化を示す図である。
図8の縦軸は相対透過流束を示し、
図8の横軸は、経過時間(h)を示す。分散剤として、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を用いた実施例3-1は、96時間経過しても相対透過流束を0.95以上に保っていた。一方、被処理水中のリン化合物の濃度が5mg/L以上である比較例3-1は、実施例3-1の場合よりも相対透過流束が低下した。以上より、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩の分散効果をリン化合物が低下させることが確認された。
【0078】
図9は、実施例4-1、実施例4-2、実施例4-3、比較例1-1、および比較例4-1の透過流束の経時変化を示す図である。
図9の縦軸は相対透過流束を示し、
図9の横軸は、経過時間(h)を示す。分散剤にナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物を用いた実施例4-1は、96時間経過しても相対透過流束を0.93以上に保っていた。分散剤にナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物を用い、リン化合物の濃度が1mg/L以下である実施例4-2は、96時間経過しても相対透過流束を0.93以上に保っていた。分散剤にナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物を用い、AA/AMPSを添加した実施例4-3は、96時間経過しても相対透過流束を0.93以上に保っていた。一方、被処理水中のリン化合物の濃度が5mg/L以上である比較例4-3は、実施例4-1の場合よりも相対透過流束が低下した。以上より、ナフタリンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物の分散効果をリン化合物が低下させることが確認された。
【0079】
以上の結果より、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に対し、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むスチレンスルホン酸系ポリマーを添加し、被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満とし、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、25mg/L以下となるように処理することで、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制できることが確認された。同様に、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に対し、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を添加し、被処理水のリン化合物の含有量が5.0mg/L未満とし、濃縮水中のカルシウム濃度およびマグネシウム濃度の合計が、5mg/L以下となるように処理することで、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制できることが確認された。
1 密閉容器、 2 多孔質支持板、3 逆浸透膜、4 Oリング、5 攪拌子、6 上部ケース、7 下部ケース、8、9 室、11、13、16、17、19 配管、12 ポンプ、14 圧力計、15 スターラー、18 バルブ、100 試験装置